●越南にて ベトナム社会主義共和国。 とある建物の中にリベリスタは居た。カーテン越しの窓からは川を望める場所である。周囲には雑多に座った仲間と、そしてフィクサードの姿が。 「サテ」 最中の声に、皆が同じ方を向いた。 「三尋木、アーク、フィクサードとリベリスタだけど、今日は仲良くするのダワー」 声の主は電球頭のメタルフレーム。三尋木の、フィクサード。 ――国内フィクサード主流七派『三尋木』が、アークへ一時的に協力を申し出てきたのは先日の事。 それは日本からの完全撤退を始めた三尋木の、分かり易く言えば「協力するし今後はそっちに手出しも何もしないから、自分達の引越しに文句を言うな邪魔するな」という提案である。 相手はフィクサードではあるが、この体制に反発する組織の切り捨てや吸収を三尋木が自力で進めているので一応信用は出来るらしい。 同時に利点もある。三尋木は高い神秘諜報能力と世界中に巡らされた情報網を持っており、海外で行動する場合でもカレイド・システムと近しい情報を得る事が出来るという。 という訳で、アークリベリスタは三尋木フィクサードと共にベトナムの郊外にいた。 「今回の作戦はズバリ、フィクサード組織の壊滅なのダワー」 説明を取り仕切るこの電球頭が、三尋木側の小隊長ポジションの様だ。 「目標組織名は『針華蚊』。組織自体はでっかくないし、メンバーはそこそこいるけど実力者揃いって訳でもない。一般人相手に無双してる系なのダワー。 それがなんで今回の話に持ち上がったかというと……なんの偶然か、そいつらが妙な兵器ってのを手に入れたらしいのダワー。さっき、『一般人相手に無双してる系』って言ったのダワー? であるから、そいつら神秘界隈でもブイブイ言わせたくなったらしいのダワー。で、まぁ、そういう裏のゴチャゴチャしたルートで兵器をゲットして、これでやったるぜ~って今息巻いてるらしいのダワー」 件の兵器がこれ、と電球頭が写真を提示する。そこに写っていたのは厳つい男だった。だが見るからに異様な雰囲気である。「ノーフェイスなのダワー」と、尋ねる前にフィクサードが応えた。 「なんでも元裏野部の奴で……ホラ、こないだ、おたくらアークが一二三とドンパチしたのダワー? その時にもいたんだけど、その後行方不明になってて……フェイトも尽き果ててノーフェイスに落ちぶれて理性もすっとんだ畜生以下になって、スッタモンダの波乱万丈神秘的裏ルートで兵器として売買されちゃった奴なんですって」 だがそれは『明らかに致命的欠陥兵器』と電球頭は鼻で笑った。 「情報によると、畜生らしくエサさえやってりゃ大人しいし『主人(かみさま)』に従うらしいんだけど、奴の頭は相当不安定なのダワー。生前……生前? フェイトが尽きる前は相当キレやすいアホって情報があるのダワー。要は不安定って事。ちゅーか、そもそも世界平和的にノーフェイスはやっつけなくっちゃいけないのダワー! レッツブッキル! なので作戦はこうダワー。……まず、うちの優秀なスパイが『針華蚊』の拠点に潜入、『兵器』を檻から出すなりして暴れさせる。『針華蚊』が大混乱になったらうちらが突入、テンヤワンヤになってる奴らを纏めて綺麗にすっ飛ばす! で肝心のすっ飛ばすシーンだけれど、うちらは『針華蚊』をヤるのだワー。だってうちらの方が数いるからワラワラいる奴らを効率よく倒せるし、それに……おたくらメッチャ強いのダワー? バロックナイツだってばっさばっさと討ち取ってるハイパー戦力なのダワー? うちらが件の兵器を相手にするよりおたくらがヤッた方が合理的で確実で即パチで瞬コロってモンなのダワー」 どうもキツイ仕事を押し付けられた様な気がするが、電球頭の言う事も間違いではないのだろう。 まぁなんにしてもここまで来たのだ。今更「NO」だと帰れない。 それに――これはアークだけが知っている事だが。 此度、リベリスタには『選択権』がある。即ち三尋木に対して友好的に接するか敵対的に接するか。敵対する場合は、事件解決後もしくは解決途中に三尋木フィクサードを撃破しても構わない。 選択は三尋木との決着にあたって重要な選択肢になるであろう。 ……さて。 「それじゃ、今回はドウゾヨロシク」 電球頭がニコヤカに笑んだ様な気がした。その表情は、誰にも見えない。 ●決行は夜 作戦通りに事は進んだ。 郊外にヒッソリとあった集落、フィクサード組織『針華蚊』の拠点が、大パニックになっている。 「馬鹿な! アレが暴れ出すなんて――」 焦った表情で逃げるフィクサードが、次の瞬間表情ごと綺麗に頭部を吹っ飛ばされる。 「あああああああああ うるへえー うるせえうるせえかみさまのこえあきこえれえ かみさま どこらー」 呂律の回らない声。ボタボタと返り血を垂らしながら、理性のない目のノーフェイスが周囲を見渡した。 周囲――そこには、右往左往する『針華蚊』へ襲いかかる三尋木フィクサード。「ソイツは任せたのダワー!」と光る電球が叫んだ。 その声に促され、リベリスタは件の兵器に目を据えた。 ノーフェイスと視線が合う。 直後、ノーフェイス――元裏野部フィクサードは、凄まじい怒気を剥き出しに目玉を見開いた。 「おあえらぁあ、アークのりえりすたかァアアアアアアアアアアアッッ!!!」 拒否権などなく、戦闘が始まる。 血腥い夜になりそうだ。戦場を吹き抜けた一陣の風は、既に鉄の臭さを孕んでいた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年10月21日(火)00:17 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 6人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●握った拳は殴る為 喧騒という言葉が相応しい。 「そちらの提示した方針で異論はない。『針華蚊』は任せる。陀木は、俺たちが引き受けよう」 二つの剣を抜き放ちながら、『はみ出るぞ!』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は視界の端にて作戦を開始した三尋木勢力に言った。が、「ただし」と付け加えて曰く、 「ただし、基本的には、だ。相互に連携した方がもっとも合理的というもの。三尋木凛子の提示した『協力』。どれほどのものか、見させてもらうぞ」 竜一の言う通り、この場のアークリベリスタが示したのは『敵対しない』という選択だった。 だが『心の底から何もかもを信頼します』という断言は、部分的には出来ない。『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレイン(BNE003170)も涼しい顔をしているが、内心では…… (少なくとも個人的には遺恨とか特にないし、あっちが日本でのフィクサード稼業やめる、仲良くしようって言うならまあ……) 信用しすぎて後ろから撃たれる可能性も零とは言えぬ故に、手放しにとまではいかないが。 (割と仲良くしても全然問題ないわよね) リベリスタのスタンスをより明確に表すならこうだ。 『敵対しない、協力するし、信頼もする、ただし裏切れば話は別だ』 その証拠に、リベリスタの作戦も予め三尋木勢力に伝えてある。三尋木勢力も、簡単な行動予定をアークに伝えている。 「うちも似たようなもんなのダワー。別に親の仇ってワケじゃあないしね」 パーフェクトプランで近くの『針華蚊』組織員をバットで殴りながら、同が言う。こちらこそ、裏切らなければ仲間でいてやる、と。 そんな同に、三尋木達に、『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は「ありがとう、針華蚊の相手はお願いします」と素直に頭を下げた。 「数が多いけど頑張って。成はボク達がきっと倒すから」 ひょっとしたら誰かが何かをするかもしれない、お互いにそんな緊迫感がなかったといえば嘘になる、が、故に、このアンジェリカの純朴な言動に三尋木達は些か毒気を抜かれたようだ。 「えぇ、此度はよろしくお願いしますわね」 更に『聖闇の堕天使』七海 紫月(BNE004712)がニコリと微笑み挨拶を。「お、おう」「お嬢ちゃん達も頑張ってな」と三尋木達が軽く手を振ってきた。 一方で、『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)は鼠耳をへちょりと垂れさせ「寂しくなるッスね」と呟いた。 「リルは友好ッスよ。縁があるッスしね」 『発光脳髄』阮高同、彼(彼女?)とは何だかんだで縁があった――思い返せば閃光の如く。それは同にとっても同じらしい。一瞬、視線がリルへ向いた様な気がした。 「ま、別れの挨拶はキッチリ仕事をしてからユックリするのダワー。……この挨拶が今生の別れになるのはお断りダワー?」 「勿論ッスよ! お互いに頑張るッス。……あと、余裕あったら全体回復とか射程内なら巻き込んでもらえると助かるッス。代わりにアイツはそっちに行かないように全力で殴りますし、コッチも範囲とかで巻き込めるなら手伝うッスよ」 「了解なのダワー。サクッと終わらせちゃうのダワー」 そんなやりとりを横目に、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)はいつもの不敵な笑みを浮かべる。 「相変わらず愉快な頭だが、見た目より頭はまとものようだな。共闘するなら楽で良い」 「納得のイケメンフェイスなのダワー?」 ぴかっ、と光量が増した気がした。 ――さて。 「面倒なことだな」 身の丈にあった生き方が出来ないのは、と。ユーヌは言葉を続けながら、過ぎた力を欲した故に滅びの矢が立った『針華蚊』を、そしてノーフェイスに落ちぶれた『ブラッディジョー』陀木 成を黒い眼差しで見据える。その傍らには既に、高度な符術で作り出された式神『影人』が控えていた。 「まぁ、出来る知性があれば手を出さないか。馬鹿が大事に至る前に纏めて揃えて駆除するか」 「お? おおお? うゥおアアアアアーーー!!!」 ユーヌの言葉は成には些か難しかったらしい。が、馬鹿にされた事は雰囲気で理解したようだ。牙を剥いて拳を振り上げユーヌへ殴りかかろうとする――が、その直前に。 「変な改造なんか受け入れちゃうから。明日がないジョーになっちゃうのよ」 真っ白に燃え尽きれないジョーに価値などない。シンプルな魔法杖を掲げるセレアは、本来ならば長尺になる詠唱を超魔術技巧で瞬く間に完了させていた。 「早口言葉名人も吃驚……なんてね」 3、2、1、はい、ドーン。セレアが杖を振り下ろせば、彼女を中心とした半径20mに鉄槌の星が降り注ぐ。最強魔法、マレウス・ステルラ。全ての敵に死と不運を齎す凶星は正に『災厄』と表しても良いだろう。総ゆる神秘を服従させる大いなる魔術の女王から逃れ得る者は、居ない。 土煙。様式美として「やったか!?」と無駄に腕を顔の前でクロスさせて口走るセレア。煙が晴れたそこにはぺしゃんこになった数名のフィクサード、額からだらだらと血を流す成。 「三尋木の皆さんは無理しないでねー、場合によっちゃマレウスの圏内に逃げてきてくれれば、追いかけてきた相手は一緒に潰すわよ。但し近づきすぎないでね? 乱戦怖いから」 あっけらかんとセレアは言う。三尋木は彼女の凄まじい制圧力にポカンとしていた。針華蚊は何が起こったのか理解できないままでいた。だが直に理解する。前者は「味方で良かった」と。後者は「コイツはヤバイ」と。 「んがぁ! くそあ!!」 成はユーヌにコケにされた事をスッカリ忘れてセレアへ殴りかかろうとする。 が、それを阻むのは前衛の面々。竜一、アンジェリカ、リル、紫月。 「じゃまらおらぁ!」 成の拳が手近な者へ振り抜かれる。暴風を纏い、周囲を薙ぎ倒しながらリルを殴り付けた。鈍い衝撃、肌も切り裂く。けれどリルは踏み止まった。キッと異形の男を睨めつける。 「同さんとの楽しみに取っておきたかったッスけど、出し惜しみしてここで負けちゃ意味ないッスからね」 Line of Dance.時計の逆廻り。タンバリンに仕込まれた爪刃が夜に光った。シャン、と楽器が鳴った刹那、リルの姿が二つになる。 「お……おぉ!?」 「血みどろは望むところッスよ。アンタの拳がアギトなら、リルは牙ッスね」 本気でいくッスよ。二人のリルが成の左右。手には牙一つ。それで十分。 「さぁ、死線で踊るッスよ」 ハイ・バー・チュン。それは越南の英雄姉妹の名を冠した必殺拳。死角零の完全攻撃が、異形の体を切り刻む。 怒声。そこへ、ユーヌの影人が放つ黒い弾丸が成の頬を切り裂いた。また怒声、文字通り『跳びかかる』血みどろアギトが影人を粉砕する。 「暴れ回って大した脳筋だな、見世物小屋の猿と大して変わりない」 影と遊んでいるのがお似合いだ。全てはユーヌの掌の上。 血みどろジョー、『最後に自分を攻撃した者への攻撃力が上がる』なんて性質を持っているなら、幾ら殴られても痛くも痒くもない者が攻撃を受ければ良い――即ち、影人。 そして成には理性などほとんど残ってはいない、意味不明な言葉を吐き散らすケダモノは単純に自分へ最後に攻撃した者へ拳を振り上げる。作戦などありやしない。 だから、影人を補充するユーヌが幾ら皮肉を吐こうとも、ノーフェイスは次の瞬間に落ちるセレアの魔法鉄槌にもう気を取られて忘れてしまうのだ。ユーヌにはある種つまらない。 「これでは壁に向かって物を言うのと変わりないな? ……いや、壁に失礼か」 一方、漆黒の闇を白きドレスに纏った紫月は細身の剣『Sword of Twilight』を構えて成へと踏み込む。何だかむさ苦しい相手だ。理性を失えば人とはいえ獣と同じ、とは正に。 「血の気が大きすぎるみたいですから抜いて差し上げましょうか、命も抜けると思いますけれど――おほほ、黒き堕天使が冥府への道案内をして差し上げますわよ」 さぁ、我が闇よ。言葉と共に彼女の闇が刃に集う。それは紫月の血を代価にこの世全ての呪いとなり、禍々しく揺らめいた。渦巻く闇の中、紫月は妖艶な笑みを浮かべる。 「ふふ、貴方の怒りの赤を暗闇に変えて差し上げましょう」 一突、溶け消える闇の軌跡を描いて、刻み付けるは十重の苦痛。 「休む暇なんてあげないよ」 紫月の技が終わると同時に、アンジェリカは手近な民家の屋根を足場に成目掛けて降下する――影の従者を従えるその姿は五つ。 (成、四国の戦いの後どうなったのかと思ったらノーフェイスになってたんだね) こうなったらもう倒すしかない。ノーフェイスとは、世界の毒。少女に躊躇いや慈悲は一切なかった。『地獄の女王』の名を冠した巨鎌、『La regina infernale』を振り上げる。 「ここで引導を渡してあげるよ」 迸る光。三日月の弧を描く致命的な黒一閃。刃である蝙蝠の羽根が、獲物の血を吸って夜に羽撃く。刃と同じ色のドレスが、長い髪が、月に光った。 「真打登場ォオオ!」 夜の黒を掻き消す様に。限界突破した肉体から蒸気を上げながら、双剣を構えた竜一が成に迫る。 可愛い女の子達の前だ――最大限にカッコつけねば。でもよく考えたらリルは男の子だった。『少女にしかみえない』からまぁいいかと思考はほどほどに、やられる前にぶち殺そう。 「おるぁ!」 本気120%。破壊神の如き戦気を纏い、正に何者にも阻めぬ勢いで振り下ろす剣。異形の体に深々とめり込む。 「いっ……れぇな!!」 張り上げられた成の声は、三尋木達の弾幕と魔法に掻き消される。針華蚊掃討ついでに巻き込んでくれたのだ。 「そこの大魔王でおっぱいなねーちゃん」 同が声をかけてくる。どうやらセレアの事らしい。 「アンタのおかげでこっちの仕事はもうすぐ終わりなのダワー。加勢に向かう余力もあるしもうちょい待ってろなのダワー」 「はいありがとー。それじゃ引き続き、徹底的にギッタギタに叩き潰しましょ」 あと、とセレアは苦笑を浮かべる。 「あたしこれでも、アークのか弱いリベリスタなんだけど」 「アーク式ジョークなのダワー? HAHAHA」 「防御面はか弱いわよ、本当に。いやーユーヌさんの影人様様だわー」 でも、「ごく普通」と自称する癖に「魔術って楽するために面倒なことを研究する変人のやることだし」なんていう天邪鬼さんなのである。 とにもかくにも、セレアの魔法制圧力は凄まじい事に変わりはない。影人を召喚し続けるユーヌへ魔力供給も行い、作戦に綻びを生じさせない。 相変わらず成は、リベリスタの作戦通り一番最後に攻撃してくる影人に夢中の様だ。だがその破壊力は影人に向けられているのにも関わらず周囲に大きな被害を齎す。一度拳が振るわれれば、追随する衝撃波や暴風が周りにいる者を無差別に薙ぎ倒すのだ。 が、誰かが傷を負っても、だ。それはユーヌが紡ぐ癒しの式符が優しく柔らかく痛みを拭い去る。 そのまま返す動きでユーヌは新たな術符を魔力によって紡ぎ出した。ぴ、と放つそれは無数に分裂し――無数の鳥に変化する。 「腐りかけた生ゴミのようだな、鳥の餌が相応だ」 少女の微笑。黒い渦。鳥葬の濁流が成の顔に群がる。血混じりの悲鳴、振り払おうとしたけれど、凶烏の嘴に目玉をほじられ血の涙。 「さて、視界を奪われた貴方の拳はわたくしに届くのかしら、ふふ……極上の痛みを差し上げましょう、貴方のくれる痛みはどんな味かしら?」 成の赤く黒い視界の中、紫月の声が凛と響く。 彼女は既に剣を構えていた。そしてその剣には、奈落の底より尚昏い、終わりの闇が蠢いていた。 「怒ってばかりでは疲れますからね、私が解き放って差し上げましょう。何、怖くはありませんよ、気持ちのいい痛みを差し上げますから」 化物を斃すのはいつだって、心臓に突き刺す杭一つ。成の胸を、紫月の恐るべき闇が貫く。異形が状態異常から立ち直る寸前の刹那に滑り込む呪殺の鋒が、その命を大きく削る。 激しい威力だ。だが反動もある――しかし紫月の痛みは直後に消え去った。 「は~いお待たせなのダワー」 針華蚊掃討を終えた三尋木一派が加勢に来たのだ。ホーリーメイガスの聖神の息吹が、周囲の者の傷を尽く癒す。 「心強うございますわ。さ、一緒に頑張りましょう」 紫月は三尋木へ笑みを向けた。相互協力のおかげが互いに大きな被害はない、このまま火力重視で押し切れそうだ。 「同さん!」 成へ攻撃を繰り返していたリルが駆けつけた電球頭に呼びかける。 「一緒に決めるッスよ!」 「ナイスアイデアなのダワー」 アイコンタクトは一瞬。躍りかかる。或いは、踊りかかる。繰り出すのは同じ技、ハイ・バー・チュン。革命を起こす鮮やかなる四重攻撃。成の両の腕を、強かに壊す。 ノーフェイスはまだ息をしている。血を吐き出しながら呻き声の様なものを漏らしている――超越した五感を持つアンジェリカには理解できた。かみさま。かみさま。この男はそう、呟いている。祈っているのか? 「君のカミサマはもういない。今ボク達が一二三の元へ送ってあげるよ!」 ケダモノの様な奴だ。理性を失った今では尚更何をするか分からない。油断はない。アンジェリカが再度の最高火力を叩き込む。返り血に、刃のプロセルビナはただ静かに微笑んでいた。死は誰にでも平等である。そして平等とは、残酷なる優しさである。 ――その時、竜一のセンスフラグが反応した。 彼が双力なる血眼必死で見つけ出したのは死亡フラグ。そう、紛れもなく、このノーフェイスの。 「人は、誰しも心に神を持つ。だが、心を失したお前では、それは神を失したと同義。お前に神はいない!」 「あ? あ? かみさまはァ、いるんらよぉおおおおおおおおッッ!!!」 最後の咆哮。竜一に叩きつけられるボロボロの拳。だがそれは、彼が構える無骨な西洋剣『Je te protegerai tjrs』が阻んだ。力の拮抗、地を強く強く踏みしめながら、竜一は声を張り上げる。目の前の男に負けないほど、大きな声で。 「いいや! いない! いないったらいない! 俺が言うんだからいない!! だから、俺がお前に救いを与えてやろう。俺は神にはなれないが、お前の救い主。救世主さ。ありがたく、救いを受けろ!」 ぎしりぎしり、竜一の筋肉が膨れ上がる。120%に倍増する力。成を、徐々に押し返してゆく。 「――お前はもう、十分に戦った!」 爆裂する力。迸る圧倒的なまでの破壊力がノーフェイスへ襲いかかる。 竜一の剣が文字通り成を『圧砕』しゆく刹那。異形の男の見えぬ目に、光が見えた様な気がした。湧き上がる無限の怒りが一瞬だけ、止んだような……そんな気がした――。 ●解いた拳は握る為 一切の驚異は去り。先ほどの喧騒が嘘の様だった。 海外での事件故に念の為、とセレアは予期せぬ戦いに備えて周囲を見渡したが、杞憂で済んだらしい。三尋木も仕掛けてくる様子はなく、「お疲れー」だのフランクに話しかけてくるほどだ。 一方で、アンジェリカはプロセルビナの鎌を手にこの場で死した全ての魂へレクイエムを歌い上げる。 陀木成。彼の行いは許せるものではないが、裏野部一二三を思う姿は、或いは――アンジェリカが『あの人』を想う気持ちに通じる気がした。 たとえ、逝き先が地獄だとしても。『大切な人』と同じ場所へいけますように。 「さて、任務完了ダワー。ちゃちゃっと帰るのダワー」 撤収ー。同の呼びかけに一同の帰還が始まる。歩き出す。 だが、リルは動かなかった。 同の目の前で、動かなかった。 「ラストダンス、誘ってもいいッスかね?」 それは私闘の申し込みだった。三尋木もアークも関係ない、リル・リトル・リトルと阮高同の戦い。 「リルはまだ、アンタと拳を合わせてないッス」 「そういえば……そうだったのダワー」 思えば奇妙な縁。不思議な関係。おそらく、今日を逃せば、こんな機会、もう訪れない様な気がして。 「OK、来やがれなのダワー」 電球頭が笑った気がした。バットを構える。 「感謝するッス」 リルも笑って応えた。LoDを構える。 ――そして、 観た者は語る。それはほんの一瞬だった、と。 二人の二重の影が交差する。得物を振り上げ、踊り狂う。死の舞踏。使うのは『英雄の技』ただ一つ。 同のバットがリルの即頭部を打ちのめす。リルのLoDの刃が同の腹を深く切り裂く。『ように見えた』と、誰もが語る。あまりにも鮮烈、刹那の出来事。その時にはもう、二人は倒れていた。 死んではいない。けれど指先一つ動かせない。 仰向け。回っている視界。折れた奥歯を血唾と一緒に吐き出して、全ての記憶を刻み、刻み付けたリルは掠れた声で口を開く。 「リルは必ず、オリジナルを、アンタを越えるッスから。それまで死んだらダメッスよ」 「ナニ言ってんのダワー。その技はもう十分、アンタの技なのダワー。『ハイ・バー・チュン』もきっと喜んでるのダワー。……だからもっと、アンタは強くなりなさいよ」 ひび割れた電球頭がくつくつ笑う。アンタこそ寿命以外で死なないでね、と。 「またいつか」 「ハイ、またいつか」 偶然逢えたら、また派手に踊ろうじゃないか。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|