●ルゴ・アムレスの黒塔 ボトム・チャンネル。 それは階層上になっている世界において、一番下であるという世界のこと。 故にボトムチャンネルは上位世界からの脅威に晒されてきた。時折Dホールを渡ってくるアザーバイドにより、大きな被害を受けることもある。それに対抗するためにリベリスタは徒党を組み、組織だって警戒に当たっているのだ。 さて、上位世界にもいろいろな世界がある。ボトムチャンネルよりも広大な世界も在れば、ただ樹木が一本生えているだけの世界も。時間が止まった世界もあれば、今まさに消え去ろうとする世界も在る。 そんな世界の一つ、ルゴ・アムレス。 半径五キロ程度の大地に、天を衝くほどの黒い塔が存在する世界。そこは多種多様の戦士達が集う修羅の世界。 その塔の上にこの世界のミラーミスがいるといわれ、今なお塔は天に向かって伸びていた。何を目指しているのか、誰にも分からない。狭い世界ゆえに、塔はどこからでも見ることができる。 そして塔の中は、階層ごとに異なっていた。町が丸ごと入っている階もあれば、迷路のような階もある。そしてこの階は……。 ●鷹月城 広大な田畑の中心にある街。そこにある木造の大きな建物。城と呼ぶには小さく、館と呼ぶには物々しい。そんな建築物の中にこの階の守護者がいた。この黒塔の上階を目指すために闘って勝たなければならぬ相手。 「其方が異世界『ボトムチャンネル』から来た挑戦者か。わらわの名は鷹月巴という。其方が探しておるこの階の守護者じゃ」 それは例えるなら和風の姫であった。薄紅の和服に袖を通し、扇を手にして微笑む。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。そんなことわざをふと思い出す。すらりとした立ち姿。座る作法と左右対称の座り方。風に揺れるような優雅な歩き方。 ……だがその美しさは、この修羅の世界では意味を成さない。美で拳を止めることはできないのだから。勝敗が全てを決するこの世界において、美的である事の価値はそれほど高くない。――それ自体は。 「客人か、姫」 そこに入ってきたのは白髭……ではなく全身白毛の犬であった。二足歩行する白犬が和服を着て日本刀を持っている。ざっくり言えばそんなアザーバイドだった。 「成程、そなた等がボトムチャンネルの。挨拶が遅れました。それがし、巴に仕えるもので名を曽根と申す。その任務ゆえ、汝らの邪魔をせねばならぬことを詫びさせて貰います」 膝を突き、頭を下げる曽根。その姿に思わずリベリスタも畏まってしまう。 「曽根殿、彼らは巴の敵。頭を下げるのは姫への忠義に反しますぞ」 そんな曽根に言葉をかけるのは、曽根とは真逆といっていい黒犬だった。二足歩行する黒犬が和服を着て日本刀を持っている。ざっくり言えばそんなアザーバイドだった。 「岡殿、彼らは客人ですぞ」 「異世界の者もまた戦士。礼節はこちらで語るべきではござらぬか」 岡、といわれた黒犬は日本刀に手をかける。抜く、という雰囲気を隠そうとしない。 客人をもてなす礼の武士と、主を立てる忠の武士。その二人を諌めたのは、 「双方、怒りを納めよ。客人の前ぞ」 巴の凛とした声だった。その声に二体のアザーバイドは頭を垂れる。諍いはあれど目的は一つ。巴を護ること。美しさは拳を止めないが、それは有能なものを魅了し、忠義を抱かせる。 「さて異世界の客人よ。わらわの首……ああ、この場合はわらわの敗北と思え。そもあれそれが欲しければ実力で示せ。わらわには誇れる二本の刀がある」 巴の言葉に立ち上がる白と黒のアザーバイド。片方は一撃必殺を信条とするデュランダルの構え、片方は虚を突くナイトクリークの構え。ボトムチャンネルで例えるなら、そんなところか。 勿論巴も守られるだけの存在ではない。淡い光が彼女の周りを包む。修羅の国の住人である以上、美しいだけでは何も勝ち取れない。 リベリスタたちはそれに呼応するように破界器を構えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年10月22日(水)22:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「随分と和風な場所だな」 ここまで来る道程と町並みを見て、『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)はそんな感想を抱いた。細部は異なるが、ベースとなっているのはボトムチャンネルの時代劇だ。戦国時代の頃だろうか。 (また、こちらとの繋がりを連想、させる和風の敵、が出てきた、か) 幾度となく黒塔内部を歩いている『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)は、特に驚くことなく自分達の世界との類似部分を見ていた。こういったことが二度や三度ではないのだ。 「武士道か」 腕を組みながら相手を見るベオウルフ・ハイウインド(BNE004938)。相手が礼をするのにあわせて、ベオウルフも返礼をした。瞳を閉じて、頭を下げる。心の中で三秒数え、頭を上げて目を開ける。研ぎ澄まされた気分で構えを取る。 「武士道……。あまり馴染みのない言葉ですが、通ずるものは感じます」 『蜜蜂卿』メリッサ・グランツェ(BNE004834)は曽根と岡の二体のアザーバイドをみて、自身の剣柄をにぎった。護るべき存在のために戦う。その忠義は共感を覚える。柄を握り締め、戦いの前に意識を研ぎ澄ます。 「姫を守る衛士たちか」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は相手の布陣を見てそう呟いた。事前情報もあるが、相手の立ち様を見れば闘い方は見て取れる。そして後ろの姫もまた、守られるだけの存在ではないだろう。油断はできない。 「こちらの方が数が多いとはいえ、修羅の国の武士たちだ。油断せず、慢心せず、全力を持って叩くぞ」 ウラジミールの言葉に頷きながら『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は破界器を手にする。油断すれば隙が生まれ、そこから一気に攻められる。仲間を守るために最大限の気力を持って義弘は挑む。 「岡、とやら。貴方は姫が戦闘不能になりし時、最後の奉公をすると聞いたが……それで命を落とすことは?」 「姫がそれを望むならば」 戦う前に、と一泊置いて雪白 花梨(BNE005090)が岡に尋ねる。帰ってきたのは澱みない一言だった。当の姫がそれを望んでいないため、命を落とすことはなさそうだ。 「姫とそれに忠義を尽くす二人の武士か。その忠義と技量、存分に見せてもらうわ!」 暗黒のオーラを身に纏い、『黒き風車と断頭台の天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)が黒の大剣を構えた。忠義と技量を見せてもらい、その上で勝つ。その意気込みを乗せて笑みを浮かべる。 「それでは――」 巴の一言に場が静まり返る。鈴のような小さく、それでいてよく響く声。 「――いざ!」 「――尋常に!」 曽根と岡が交互に叫び、刀を構える。一撃必殺の両手持ちと、鯉口を隠す構え。一泊置いて、二人同時に叫んだ。 「「――勝負!」」 ● 「さあ、踊って……くれる?」 最初に動いたのは天乃だ。手甲を手に巴に足を運ぼうとするところ、曽根に阻まれた。多角的に突破しようと思考をめぐらし、全てを封鎖されることを察して天乃は目標を曽根に変える。相手の闘気を受けて、修羅の血が騒ぐ。 手甲を盾のように構え、曽根の刀を受け止める。衝撃で腕が痺れるが、それを意に介さず歩を進めた。揺れるような歩法で相手を惑わし懐に迫り、手甲を曽根の胸部に叩きつける。虚を突き、一撃を見回せる。それがナイトクリークの技法。 「では参ろう」 抜刀と共に駆け出したのは花梨。大業物の柄に手をかけると一気呵成に敵陣に繰り出していく。けして走るでもなく、さりとて歩くでもなく。滑るように曽根に近づき、居合いの構えを取る。 静かな湖畔を思わせるその構え。曽根はその構えに足を止める。それはその美しさかそれとも脅威を悟ったか。だがその時間は刹那、抜刀した花梨の刃が曽根を遅い、そして納刀される。その時間こそまた刹那。研ぎ澄まされた抜刀と納刀。それが花梨の最大の武器。 「私はメリッサ・グランツェ。全力を持って臨むことで、戦士の礼儀とさせて頂きます」 名乗り、礼をする。細剣を手にメリッサは前に出る。半身をずらして剣を突き出す。古来より伝わり、そして現在も脈々と伝えられている剣の技法。そして今なお研ぎ澄まされる剣の技法。メリッサもまた、戦いの中でその技法を昇華させていく。 巴に向かうその先に岡の刀が阻む。已む無くメリッサは細剣を迫る刀にあわせた。細く軽い剣は、裏を返せば速く捉えづらい剣。先の先を取り、相手の動きを止める。冷静に相手の隙をうかがい、だけど剣を止めることなく。メリッサの白銀が乱舞する。 「ボトムチャンネルの戦士、黒き風車フランシスカ! いざ参る!」 黒の羽根を広げ、フランシスカが戦場を舞う。手にした黒の剣は異世界の戦士の者。そこにあるのは剣としての破壊力だけではない。闘った戦士の心と魂。それら全てを含めてフランシスカは黒き風車を名乗り、そして戦場に参る。 フランシスカは巴に迫り、暗黒のオーラを解放する。自らを蝕む呪いの力。それを剣に乗せて大上段に構える。複数の蝶が視界を遮るが、蓄積された戦士の勘が敵の場所を示す。迷うことなく振り下ろされた大剣は姫を捉え、石化の呪いを与える。 「アークリベリオンが一人、祭雅・疾風押して参る! 変身!」 幻想纏いのアークフォン3Rを使い、『強化外骨格肆式[天破]』を身にまとう疾風。両刃の破界器を手に戦場を駆ける。上の階に向かうには彼らを倒さなければならない。それがこの世界のルール。何よりも、戦いが彼らの望みなのだ。 外骨格のセンサーから送られるデータから、戦場全体のデータを得る。敵と味方全ての位置を把握し、全身に力を篭める。両刃の破界器を回転させ、戦場全てを揺るがす衝撃波を放つ。その衝撃に押されるように曽根と岡が吹き飛ばされた。 「道が開いた。いくぞ」 曽根と岡が吹き飛び、巴への道が開ける。その道を義弘がメイスを構えて走っていく。肩に乗せていたメイスを正眼に構え、共に戦い抜いてきた盾を構える。構えるさまは揺るがぬ壁の如く。 石化して動きが鈍ろうとも、巴の瞳は修羅の姫といってもいいもの。それを侮ることなく義弘は隙をうかがう。盾で相手の攻撃と動きを制限し、踏み込むと同時にメイスを振り下ろす。盾と共に相手を攻める攻防一体の技法。 「任務を開始する」 呟き、岡に迫るウラジミール。右手にはボトムチャンネルのコンバットナイフ。左手にはこのルゴ・アムレスで手に入れたパリィナイフ。二本のナイフを手にしてアザーバイドに迫る。岡が迫るウラジミールを前に刀を構えた。 岡の攻撃は、相手の不意をつくもの。ウラジミールはその構えと心理を思考し、次の相手の動きを読む。鯉口を隠して軌跡を読みにくくする構え――の逆手から投擲される投刃。それを防御用ナイフで弾き、コンバットナイフで岡を攻める。 「攻撃を仕掛ける余裕はなさそうだな」 激しい攻防を前にベオウルフは白鞘造の日本刀を鞘に収める。回復に集中しなければ、誰か倒れてしまいそうだと判断したからだ。着物を直して意識を沈める。大きく息を吸って、息吹きと呼ばれる方法で息を吐き出す。 体内で循環する気を全身に満たし、破界器に集中させる。そのまま腰を下ろして居合いの構えを取り、、刀の柄に手をかけて抜刀する。鞘走りの音に回復の気を乗せて広げ、納刀の音を合図に仲間の傷が癒えていく。 「油断ならぬ相手じゃな。予想以上に」 石化の呪いを意志の力で跳ね除けながら巴は扇で口元を隠す。その裏はおそらく、笑っているのだろう。彼女もまた、修羅の世界の住人。 木造の道場で、戦いは加速していく。 ● リベリスタは巴を集中放火で攻める。それは彼女が強力な支援を行うと同時に、蝶で人を惑わす術を持つからだ。巴を速めに倒さないと、被害が増えるのは間違いない。 花梨が曽根を塞ぎ、ウラジミールが岡を足止めする。そしてメリッサ、天乃、フランシスカ、疾風、義弘の五人が巴を攻めていた。 「おのれ……!?」 「よい。わらわに遠慮するでない」 姫を攻められて焦りの声を出す岡に対し、巴が声を返す。勝利の為に、最善手を尽くせ。それが修羅の異世界なのだと。その言葉に二人の武士は動き出す。 「悪いが仲間の元には向かわせない」 花梨が居合いの構えで曽根と相対し、その足を止める。対し曽根は高火力の一撃を放ち彼女に応戦した。剣戟怒号の刀舞、そして血しぶき。 「……まずいか」 義弘は曽根と花梨の攻防を見ながら花梨が追い詰められているのを察して移動する。相棒ともいえる『侠気の鋼』を構え、曽根の攻撃を受け止めた。 「あくまで自分の役割に殉じるか」 ウラジミールは岡が自分の攻撃を受け流しながら、巴を狙うリベリスタを狙っていることに気付く。袖口から投刃を放ち、毒煙を投擲する。ウラジミールの二刀は確実に岡を追い詰めているのに、それを気にする気配もない。 「この世界の姫というだけのことはありますね」 メリッサは細剣を繰り出しながら、巴の身体能力に感心していた。御輿に掲げられる姫ではない。だが捕らえきれない動きではない。冷静に心を沈めながら剣を突き出した。 「……厄介、だね」 岡からの攻撃を受けながら天乃は巴を攻める。五感を研ぎ澄ませ、攻撃の気配を察しながら眼前の巴を逃さない。天乃の手甲が巴の肩に叩きこまれる。 「問題ないわ! 最大威力で一気にいけばいいのよ!」 フランシスカが『アヴァラブレイカー』を強く握り締める。一撃の強さなら負けはしない。蝶の幻覚に惑わされることなく、巴を打ち据えた。 「これでどうだ!」 疾風が『破衝双刃剣』を振るい、巴を攻める。両端についている刃を回転させながら迫り、一歩ずつ巴を追い詰めていく。 「悪いがその煙は晴らさせてもらおう」 岡の繰り出す煙玉の毒により一時リベリスタの攻撃が止まるが、ベオウルフの一閃が毒霧を晴らす。まるで切り裂くように毒霧を裂き、無に帰した。 巴の支援は舞そのもの。舞は時間と共に様々な支援効果を増す。その支援が最大に届く前に倒さなければ。焦るリベリスタ。 「第三の舞まで届いたか……!」 「大丈夫、ここで決める!」 フランシスカが回転するように黒の大剣を一閃する。横なぎに振るわれた刃が巴を捉え、巴を地に伏す。 「姫!」 岡がボロボロの体を駆使し、身体に負担をかけながら無理やり刃を投擲する。決死の覚悟で放った刃は、 「……くっ!」 メリッサの脇腹に突き刺さった。運命を燃やして膝を折ることを耐えるメリッサ。岡は無念とつぶやいて、床に倒れる。 「全く。楽じゃないね」 曽根の攻撃で義弘が運命を削るほどの傷を受ける。真に盾たるは義弘の折れぬ心。傷の痛みに負けることなく、相手の前に立つ心。 残るは曽根一人のみ。リベリスタの攻撃が曽根に集中する。複数人に囲まれての丁々発止。剣戟が鳴り、打撃が響く。 「私、の手札は少ないけど……これが最高の手札」 天乃が曽根に向かい疾駆し、目の前でしゃがみこんで死角に回る。天乃の戦い方は体力を削りながら身体能力を増して攻めるやり方だ。攻撃手段こそ少ないが、その一撃は彼女の技術の粋。 「強い一撃だが、屈するつもりはない!」 曽根の攻撃を受けながらなお前に進む疾風。相手は強い。技量も上だろう。だが、それは心を折る理由にはなりはしない。痛みに耐えて一歩踏み出し、意地を示すように刃を振るう。 「道に殉じるその覚悟、剣を持って受けて立ちます」 メリッサは曽根と剣をかわしながら、相手のことを想像していた。主の為に使える武士道。それは民草の為に生きようとするメリッサと共感できる部分があった。剣を通じて、その覚悟を学ぼうと一打一打を強く突く。 「ならば受けてみるがいい」 曽根の突きが乱れ飛ぶ。一突きで三つの傷口を生む剣技。それがリベリスタたちを襲う。 「いや見事なものだね」 その攻撃に花梨が運命を削られる。それでも崩さぬ居合いの構え。抜き、斬り、納める。型を崩さぬ鍛錬は花梨の培った武の歴史。 「油断するな。一手ずつ確実に攻めるんだ」 防御用ナイフで曽根の刀をいなしながら、コンバットナイフで攻めるウラジミール。防御と攻撃を同時に行う。二本のナイフを繰り出しながら、ウラジミールは仲間に活を入れる。 「ああ、後一歩だ。相手も大分足に来ている」 一歩離れた場所で回復に徹しているベオウルフは、曽根の呼吸の乱れを察していた。相手のタフネスは高いが回復役はいない。時間をかければこちらが押し切るのは自明の理だ。 「姫に仕える忠義の武人。我が刃の冴え、とくと見よ!」 大剣と刃が交差し、激しい金属音が響く。その音に笑みを浮かべながらフランシスカは曽根と切り結んでいた。強い相手は大好きだ、とばかりに剣を振るう。 「侠気の盾を名乗るだけの気概を見せつけてやるぜ」 盾を構えて義弘が曽根に迫る。体ごと盾を押しながら、メイスを構える。繰り出される曽根の突きを首をひねって回避し、メイスを相手に叩きつけた。 「こいつで御終いだ!」 義弘の一撃で崩れ落ちる曽根。そのまま地に―― 「武士道とは、死ぬことと見つけたり!」 散り際にあってもなお武士らしく。否、散り際にこそ武士道の真価がある。曽根は刀を強く握り締め、地面から跳ね上げるような軌跡で義弘に切りかかった。 交差する刃と、盾。 「っ! ……また傷が増えちまったな」 刃は盾に阻まれ、命脈絶つには至らない。義弘は盾についた新たな傷と曽根を見た。最後まで油断なく構えた残心が、この結果を生んだのだ。 曽根はにやり、と笑みを浮かべるとそのまま崩れ落ちた。 ● 「安心せい。ああは言ったが二人とも生きておる」 一足先に起き上がった巴が、曽根と岡を見て言う。倒れ伏してはいるが呼吸はしっかりしている。時期に蘇るだろう。 (もふもふしたい) (モフりたい……) そんな白黒犬のアザーバイドを見ながら、メリッサとベオウルフは苦悩していた。寝てる犬の毛並みをなぞると気持ちいいよなぁ、と思いながら。 「ふむ、なら良し」 花梨は安堵するように肩をすくめる。できることなら命は奪いたくない、というのが彼女の意見だ。無論、任務でやむなく命を奪うことはことはあるだろうが、信念として命を奪いたくないのだ。 「恒例の……交流タイム、かな」 ボトムチャンネルのお酒を出しながら天乃が巴に語りかける。 「散々拳で語りおうたじゃろうに」 「それとは別口、で。 最上階、にいるミラーミス……に会った事は、ある?」 血気盛んなルゴ・アムレスの姫の言葉はさておき、天乃は気になっていたことを問いかける。黒塔にいるといわれるミラーミス。その存在を。 「ある。正確に言えば、最上階二十四階のその上。黒塔屋上にいるミラーミスじゃ」 「……? 最上階の、さらに上……?」 天乃は首をかしげた。確か最上階にこの世界最強の存在がいると聞いていたのだが……? どうやらそれはミラーミスのことではないらしい。 「この世界のミラーミス『アム』はそこに鎮座しておる。御主等、ボトムチャンネルの来訪を待っておるようじゃ」 「そのアムというミラーミスのことを教えてくれないか?」 疾風の問いかけに巴は唸るように眉を寄せた。どこから話していいかを迷っているようだ。 「ミラーミスとはこの世界そのもの。修羅世界が血気盛んなのも、様々な戦士が集まるのも、様々な世界にDホールが繋がるのも、全て彼女の能力じゃ」 「こちらの世界に、似た文化が多い……のも?」 然り、と巴が頷く。 「そも、この世界ができてから三百四十九セグマ……おぬしらの時間軸に直すと百年も経っておらん。異世界との交流で栄えた部分はあるが、基盤となる文化は『アム』が異世界から模倣した部分が多いじゃろうな」 「察するに、貴女達はその基盤となる文化を受け継いでいるということか」 ウラジミールの質問に首肯する巴。今まで戦ってきた者たちとボトムチャンネルの文化に類似点が多いのは分かった。……でも、何故? ただ戦うのに、異世界の文化が何故必要なのか? 「少なくとも、曽根と岡の精神性はその賜物じゃ」 「そうね。その忠義は確かに本物だったわ。幸せ者ね、お姫様」 フランシスカの言葉に満足げに頷く巴。たとえそれがコピーであっても、彼らの精神は嘘ではないのだから。 メリッサは上の階につながる階段を見る。 (ゴエモンさんの到達点がおそらく次の階層。ようやく、あの人に追いつけますね) 一階で相対し戦ったアザーバイド。黒塔の情報を教えてくれるこの世界の仲間。 「機会があれば再度手合わせをお願いしたいですが」 ――その機会が訪れようとは、フォーチュナならざるメリッサにはまだ分からぬ未来であった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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