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<六道>天使は何処に行ったというの?


「事件です。それから、ちょっとした情報があったのだけど……聞いてくれるかしら?」
 ブリーフィングルームで困った顔をした『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は資料を机に並べながら溜め息を吐き出した。彼女の予知以前に、フィクサードが齎したという情報なのだと言うから信頼して良いものかどうかも気になる所だ。
「情報の提供者は六道の逢川・夏生。割とアークには好意を抱いてくれてる子みたいなんだけど、困った友人との友情に罅が入りそうで、此方へSOS」
 それはどうなのか、と世恋は肩を竦めた。只の喧嘩ならば放置する所なのだが、一般人を巻き込むので面倒なのだと言う。
「夏生ちゃんから齎された情報は単純に二つ。それに私の予見を加えてお話しするわね。
 一つ、『このエリューションは噂を媒介に広まっていくものだ』。
 二つ、『このエリューションを生み出したアーティファクトの持ち主は解ってる』」
 二つ目に関しては夏生が仲違いした『困った友人』であることは間違いないだろう。アーティファクトの代償が重すぎると言う事で友人を喪うと夏生が憤っただけに過ぎないだろうが、アーティファクト関連と言うならば中々に面倒だ。
「困った友人の名前は絢澤・由岐。六道のフィクサードでアーティファクトクリエイター。よく居るタイプね。
 由岐の目的は噂からエリューションを作成し、その効果はどれ程かを『探究』すること。
 曰く――『×××は天使になった。天使は呼び声に反応する。天使は誰の許にも訪れる。天使は、君の味方になる』」
 世恋の告げた言葉は、おまじないのようにも聞こえる。
 小さな範囲の中で『天使様』という噂を耳にし、口にし、噂は増殖していく。噂を元に成長するエリューションを作りだすアーティファクトと言うのだから無関係の一般人が『無意識』に成長させている事だけで性質が悪い。
「ああ、この天使様の噂は限定的な範囲よ。面倒な場所が含まれるだけで」
「面倒な場所?」
「『学校』……かしら」
 限定的な場所はある街だ。大きくもなく、小さめなその区域には中学校が存在していた。
 アーティファクトが作動している限り、エリューションは呼び掛けに応じ、願いを叶えるのだそうだ。
「噂によっては、天使を呼び出して、相手を殺してと願い、意識なく人を殺す可能性が在るって言う事ね。
 だからこそ、今、止めて欲しいのよ。噂が確立して育ちきるまでの間に。
 噂に色々な尾びれが付いている。それはある意味……ちょっとしたホラーみたいな感じね?」
 そう言って身震いした世恋は身体を震わせて肩を竦めた。
「天使は何処に現れるか分からない。フェーズ3のエリューションの強さの源は噂から派生する戦闘能力だと思われるわ。ならば、こちらの対処は一つよね……?」
 どれ程までに効果が在るかは分からない。だが、対処を何一つしないとするとでは大違いだろう。
 噂を流すのに時間をかけ過ぎると噂は更に増え続け広がってしまう。噂への対処をどれ位するのかもポイントだろうか。呼び出す方法は『噂』に則ればいいと世恋は付け加える。曰く、噂は『呼び声に応える』と言っているのだからその通りにすればよいのだろう。
「皆にはうわさを排除して欲しいの。アーティファクトを壊す事が目的ね。
 アーティファクトは六道のフィクサードが持っているから……そうね、天使に傷がついたら彼らも現れると思うわ」
 ややこしいかもしれない、けれど、と世恋はリベリスタにお願いねと頭を下げた。

●『噂話』
 天使は呼び声に応えるのだそうだ。
 天使様、天使様、お答え下さいと呼びかければ彼女はやってくる。
 天使は空からやってくる。誰かの声に応えて、笑いながら下りてくるのだそうだ。
 天使に目は見えないから、とても良い耳で呼び声を見つけてくる。
 だから、天使は噂話をよく聞いてる。その通りになるのだと言う。

 天使は翼をもっている。天使は無機質な糸を吐き出して相手の動きを抑えてくる。
 天使は癒す力を持っている。天使は何時だって優しさを持っているから。
 天使は剣を持っている。それは呼びだした誰かを断罪する為のものなのだそうだ。
 天使は嘘を愛さない。天使に嘘は通じない。天使は嘘と本当を見分けられない。
 天使は何処にもいて何処にも居ない。呼ばなければならない――『天使様、天使様、お答え下さい』


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年10月19日(日)22:23
こんにちは、椿です。
由岐と夏生は拙作『<大晩餐会>ウェルテクスの食卓』に登場しております。

●成功条件
 ・エリューションの排除
 ・アーティファクト『天使のうわさ』の破壊又は確保

●場所情報
 正午スタート。タイムリミットは噂が育ち切るまで。針がぐるっと一周して夜中の12時頃です。
 それ程広くは無い市街地。一般人が普通に生活しています。区画の一角に繁華街や学校があり、噂をさらに大きくしている一因のようです。
 六道フィクサードは現場の街を『箱庭』と呼んでいます。真四角の妙に閉塞感を感じる街です。街の中には噂好きの学生たちが多数存在し、潜入時点で『天使様の噂話』を口々に語り合っています。

●エリューション『天使のうわさ』
 エリューション。同名のアーティファクトから呼びだされるエリューションであり、ある区画で噂される『天使様の噂話』に基づき形作られて行きます。
 噂である以上、噂には噂で対抗するのが有効であるかと思われますが、その効果の程は不明。あまり弱体化の噂を流したからと過信しない方がよいかと思われます。
 呼び出す方法や現在の状況等は流れている『噂話』を参照してください。

 基礎のエリューション自体のフェーズ3。戦闘能力は全て『噂』に基づいています。
 ・噂話(P) 周囲に広まる噂話を元にその外見や攻撃方法を変化させます(変化に2~3Tを有する)

●アーティファクト『天使のうわさ』
『non』絢澤・由岐が所有するアーティファクト。噂オルガン(拙作『<六道>噂好きコンチェルト』登場)を改良した代物。
 所有者の何らかを代償に街の中にある噂を吸収したエリューションを作成します。代償は非常に重く、何らかの影響を由岐に与えている様ですが不明。

●『non』絢澤・由岐
 アーティファクトの所有者でエリューションを生み出したアーティファクトクリエイター。
 ジーニアス×スターサジタリー。六道の研究者。瓶底眼鏡で白衣の青年(オネエ)。
 アーティファクトがどのような効果を生み出すのかを研究したいアーティファクト狂。
『天使のうわさ』へと傷を負わされた次点で現場へと急行し、戦闘を行います。

●『嘘つき少女』逢川・夏生
 ビーストハーフ(鮫)×ソードミラージュ。DA高めのふわふわ少女。
 幼い頃からアーティファクトに熱中していた高校生。趣味は一人おままごと。
 アークに多少の信頼を寄せており、幾度もの闘いの中で微量なりと友情を見出して居ます。アプローチ次第では戦闘や今後に関しての身の振りを考える様です。
 >アーティファクト『海喰い水晶』
 小さな水色の石を繋げたブレスレット。全ての攻撃に凍結を付与。

●六道の研究員×4
 由岐に付き従い彼と共に急行するフィクサードです。種族ジョブ雑多。

 どうぞ、よろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ノワールオルールホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
ハイジーニアスレイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)
ナイトバロンアークリベリオン
喜多川・旭(BNE004015)
ハイジーニアスホーリーメイガス
海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)
フライダークマグメイガス
ティオ・アンス(BNE004725)
メタルイヴデュランダル
メリッサ・グランツェ(BNE004834)
アウトサイドソードミラージュ
紅涙・真珠郎(BNE004921)
アウトサイドデュランダル
蜂須賀 臣(BNE005030)


 天使は嘘を愛さない。だから、嘘を吐かない――

 素面で告げた所でロマンチストの様に思えてしまうのだが、陳腐な台詞を『具現化』するこの街の様子は傍目から見ても異様なのだと『蜜蜂卿』メリッサ・グランツェ(BNE004834)は感じとる。
 新しい噂を知って居ると言う中学生を装ったメリッサの話しに興味を持ったこの街の少女はスマートフォンで彼女の告げる言葉を打ち込み続けている。それは何か、とメリッサが問い掛ければ少女は『噂を共有する掲示板』等と何処か拍子抜けする様な言葉を吐きだした。
「天使様の噂!」
 眸を輝かせる少年に曖昧な笑みを浮かべた『大樹の枝葉』ティオ・アンス(BNE004725)は恥ずかしそうに身を捩っている。
「ええ……。でも、私の聞いた物とは少し違うかもしれないわ」
 少年と同じ中学校のものだろうか、制服を身に纏ったティオが「年甲斐もないけれど……」と何処となく照れ臭そうな雰囲気を醸し出してから早くも1時間が経過している。随分と彼女が告げる噂も浸透してきた様で、少年は「もしかして、これ?」とスマートフォンの画面をティオの眼前へと持っていく。
「そう。天使は願いを叶えてくれるけれど、罪深い願いや他人の不幸を望む願いをすると、天使の持つ剣で断罪される……と言うわ」
 何かを打ち消さんとするティオの思惑に少年たちは気付かない。彼女に礼を言って笑いながら去っていく少年の見せたウェブサイト、そこに見覚えのある文字列が並んでいた気がするとティオは小さく頷いた。
「ホラ、天使様伝説の新しい書き込み。あたしが見たのは狂乱姫って人だったけど……同じ内容なの」
 見てよ、と押しつける様にスマートフォンを見せ合う少女達の輪で『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は肩を竦めて立っている。マイナスイオンを纏った彼女は街中で出会った女子中学生たちとすっかり打ち解けて居た様だった。
「天使は全ての願いを聞き届けるまでその場を飛び立たない……というのは知っていますか?」
 神秘的でしょうと静謐溢るる眸を細めて見せるミリィに女子中学生たちが「シンピテキ!」と意味も良く解らないままに連呼しあっている。また書き込みが増えたとはしゃぐ少女のスマートフォンを覗きこみ、ミリィは『真夜中の太陽』霧島 俊介(BNE000082)の言葉を想いだす。
『天使も神もいない』とそうぶっきらぼうに告げた俊介は嫌った神と世界、そして神秘の為に書き続けているのだろうと一人、何を言う訳でもなく息を吐いた。


「天使は月の光が苦手なんだって。だから、呼び出すなら月のない夜が良いらしいの」
 街の中、どんな夜だろうねと笑い合う少女達の輪に『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)は混ざって居た。
 ある書き込みの話をしているのだと言う少女達のスマートフォンに映し出された名前は『狂乱姫』紅涙・真珠郎(BNE004921)の通り名であると旭は安心した様に胸を撫で下ろす。
「天使様は本当は強いとかそういう噂もあるんだよ。『non』って人の書き込みなんだけど……」
 聞き覚えが在る様な、そう首を捻る旭はその噂を打ち消すかのように手を打ち合わせ意識を自分へ向ける様に大げさに「そういえばね」と笑って見せた。
「天使さまの目が見えないのは知ってる? 天使さまは1000の純粋な願いを叶えるまで、目と一緒に翼も封じられてるんだって。だから、自由に空を飛ぶ事はできないの」
 楽しげに告げる旭に少女達は「それってヤバいヤツじゃん!」とお決まりの様な台詞を吐きだした。伝わって居るのかどうかは彼女達の『噂好き』具合を見れば十分に分かる。
 金の竜眼と角を幻視で隠した『剛刃断魔』蜂須賀 臣(BNE005030)が楽しげに話しまわる女子高生の輪にちょこん、と混ざり出してから早10分。メールを通して旭の話した『1000の純粋な願い』という情報がじわじわとネットワークを介して伝わって居る事をその場所で知った。
「天使は悪い願いは叶えない。高くも飛ばないそうです、みんなの顔が見えなくなるから」
 そうなんだぁ、と笑った少女は瞬く間に返信メールに臣が話した内容を書き込んだ。噂の伝わり方が早いのは学生が多いと言う土地柄とインターネットが普及しているながらも閉鎖的な空間を思わせる『箱庭』特有のものなのかもしれない。
「中央公園の方でね、女の子が噂話ステージしてるらしいよ? あたし、見てくるね!」
 一緒に行く? と誘われて臣が曖昧な表情を浮かべる。周囲の少女に噂をバラまくとその場で別れたが、どうにも不思議な『噂話ステージ』とは何であろうか。中央公園へと共に話して居た少女と足を踏み入れたメリッサが目にしたのは共に話して居た少女と同じ高校の制服を着用した『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)の姿。
 中学生制服であるブレザー姿のメリッサの前でセーラー服姿の海依音がアイドルオーラを振り撒きながら優しげに笑っている。チャームポイントのほくろが何とも魅力的な彼女の様子はネット掲示板上でも書き込まれている事だろう。今頃、ネットでの噂を担当する真珠郎と俊介の目にも止まっている頃だろう。
「天使様は呼び出すと必ず夜九時、場所は学校の貯水タンク上に降りてくるの。天使様は願いを叶えないと飛び立てない」
 堂々と語る様子にメリッサは視線を送りながら他の少女達と噂話を共有する。妙に引っ掛かりを感じたのはネット上にある『non』という名前の書き込みだった。「天使は剣を持っている」と言った内容の書き込みが連続で投稿されるのは異様だ。しかも『non』というのはブリーフィングで目にした文字では無かったか。
「ふふ、でもね、願いをかなえた朝、飛び立った天使の印があるの。それを触ると、恋が叶うんですって。素敵よね?」
 少女の好む『恋のおまじない』の話をした海依音に周囲に集まって居た少女達がきゃあと喜びの声を発している。一種の宗教染みた空間で海依音は柔らかく微笑んで噂話を周囲の少女に告げ続ける。


「non……絢澤の通り名ですよね」
 仲間達と確かめる様に告げるミリィにメリッサが深く頷いた。周囲に強結界を張り巡らせた真珠郎は海依音が与えた翼を背負い屋上へと一気に飛びあがる。貯水タンクの死角になる位置に潜伏した彼女へと視線を送りながら臣は童子切りを手に、ゆっくりと口にした。
「天使様、天使様、お答え下さい」
 俊介へと旭が与えた正義と誇りは回復手として立ち回る彼を力付けるかのように、その体力を増加させる。一種のお守りなのだろうが、フェーズの高いエリューションである天使と敵対するのだから容易は念入りなのだろう。
 月の光が煌々と降り注ぐ中、降り立った白いエリューションの姿は天使その物だ。柔らかさを感じさせる羽を背負った天使の噂は学生たちが次々に詰め込んだ設定を反映したかのように美しい少女を象って居る。
「機械仕掛けの天使なんて、本当にぞっとしないわ」
 思わず吐きだした海依音の言葉に曖昧に頷く事しかできないミリィは肩を竦めた。
「他者と噂話を語り合う……何て、あまり機会が無かったので不思議な気分でしたが、話した内容が現実にない、脅威となるのは何とも頂けませんね」
 果てなき理想をきゅ、と握りしめたミリィは仲間達へと視線を向けた。一般人が学校に潜入しない様にと見張りを続けて居た俊介は神様の使いたる『天使』の姿に些か不快感を感じている様にも思えた。
「願いって自分の手で叶えてなんぼじゃん? そうじゃなきゃ、世界って甘すぎて面白味も生きてるって感じもないと思うんよね」
「だからこそ、私たちは理想(ゆめ)を追いかけるのかも、しれませんね」
 終焉世界を指に嵌めた俊介はその言葉に曖昧に頷く。世界を憎んだ青年はパラサイト・ライト越しに茫と浮かび上がる天使へと視線を向けた。揺らめいた彼女が動き出さんとした、その横面をふわりと浮かびあがった真珠郎が切り裂いた。音速を越えた不可視の斬撃に揺らめく天使の眼前へ地面を踏みしめたメリッサが飛び込んでいく。
 月明かりによく映える髪が揺れ、新緑を思わせる眸に宿された強き意思はTempero au Eternecoへと乗せられる。
「天使は月の光に弱い。素敵な夜だとは思いませんか?」
 唇にだけ乗せられた余裕。その余裕を確かなモノに帰るかのように戦奏者は仲間達へと加護を与える。
 天使がふわりと浮かびあがり羽を器用に盾の様に使ったのを見逃さぬ様に臣は地面を踏みしめた。己の技量を、才を試すが如く、少年は自身の身を削りながら渾身の一撃を振り下ろす。
「――『剛刃断魔』、参る!」
 天使は「フフ」と柔らかな笑みを浮かべ、跳びあがった少年の腹へと無機質な糸を突き刺した。掠めた其れに薄らと赤が滴り落ちる。身体を逸らし羽を揺らしたティオが天使を値踏みするように細部まで調べ上げていく。
(前回は、代償として目と耳を奪った。天使は目が見えず、耳がよかった……。エリューションの変化に所有者も影響されるなら、天使を傷つけるのは絢澤由岐を傷つけることになり得る、かしら?)
 その疑問は確かなものなのだろう。エリューションは討伐するがこの場に来ると予測されるフィクサードの事は生かすつもりなのだとリベリスタ達は決めて居た。生かしたがりの俊介が不殺を選べるのだとしたらこの上ない最良だろう。
 ティオが情報を纏めて居る間、一体の対象に海依音は周囲を焼け野原にするかのように閃光を放つ。白い光りは天使の姿を更に輝かせるが、より一層の痛みを与えたようだ。
 周囲の魔力を遮断するように五茫星の盾を描き出した俊介と天使の丸い眸が克ち合った。その間に割り込む様に魔力鉄甲に包まれた拳を固めた旭が前進していく。柔らかな髪を揺らし、「こっちだよ」と囁く彼女の動きは正しく戦場を己が物にするかのような動きだ。
 攻撃を重ねれば分かる天使の硬さは元からのスペックによるものなのだろう。噂を流す間に対抗する様に噂を流して居た六道のフィクサードの存在は誤算であり、そして予測出来得るものだったのだろう。
 戦闘の合間、傷を負った臣がその傷など諸共せずに刃を振るう。跳ね上がった真珠郎目掛けて飛んだ弾丸に彼女が視線を向ければ、瓶底眼鏡をかけた研究者然とした青年と高校の制服に身を包んだ少女が、リベリスタ達を眺めていた。


『夏生可愛い舐め舐めしたい。ではなく、なるべく友人殺さんようにするから、あまり邪魔するでない』
 頭の中に直接響く真珠郎の声に丸い眸をした逢川夏生へと海依音は続く様に心の中で語りかける。それは、夏生だけが知って居ればいいという情報の様に。
『逢川君、貴方アークを選んだのは正解ね。私が経ちが貴女のお友達を助けてあげる。
 でも、貴女も立場があるでしょう?
 天使を落としたら降伏勧告しますので応じてくださいな。悪いようにはしませんから』
 その言葉に眉だけ動かした夏生はぎこちなく後ろへと下がっていく。何処となくコミュニケーションを得意としない彼女の様子に真珠郎が感じたのは見てきた少女の成長だったのかもしれない。
 人に頼る事は珍しい事だ。自分で止める気概があれば尚良いのだろうが、酷というものかもしれない。共に歩む事は相手のペースを知ることでもあるのだとそう伝われば――母親の様に考えながら真珠郎は小さく頷く。
「こんにちは、アーク。由岐ちゃんですよン」
 笑みを漏らす絢澤の周囲から六道のフィクサードが飛び出した。回復を分け与えながら俊介が視線を揺らがせ、その先に立っていたメリッサが六道フィクサードの攻撃を避け天使へと一撃を加えていく。
 視線をフィクサードへと向けた臣が「フィクサードを救う」という行為を取る仲間達の言葉の意味へと首を捻る。正義感が強い蜂須賀の血からか、妥協したその落とし所は『フィクサードがリベリスタとなって世界をのために救う』という選択肢をまだ彼らが受け入れる可能性が在ると言う所だった。正義を貫く為ならば兵は多いに越した事は無いのだから。
 天使による攻撃は他方に渡る。旭が海依音と俊介へと気を配りながらも運命に干渉する力を得た拳を真っ直ぐに天使へと突き立てる。攻撃を受けながらも彼女は戦場で気丈に振る舞った。
「あ、六道の! やばいと思ったら死ぬ前にギブアップしろよ! アーティファクトは置いてくこと!」
 びしっ、と指し示した俊介の声に由岐がへらへらと笑って見せる。周囲にばらまかれる射手の攻撃を避けながらミリィは白き光を周囲へと放った。
「ご機嫌よう。絢澤さんですね? 申し訳ありませんが、これ以上この街を貴方の実験に付き合わせるつもりはありません。それに、貴方の友人に、頼まれましたから」
 その言葉に由岐が唇を噤む。ゆるゆると歩きだす夏生はリベリスタの後方へと陣取る様に立った。
「ねえ、舐め舐めしていいよ」
 振り仰ぎ、刃を手にした夏生が囁いた。ナイフを握りしめる指先が震えて居る様にも思え、真珠郎は淡い笑みを浮かべる。
 彼女を護る様に立ち回る真珠郎の願いはただ一つ。夏生を護る事だけだ。それは十分に伝わって居るとぎこちなく口元で笑って見せた夏生は息を吐く。
「夏生。喪う事を恐れるだけでは、少しずつ失ってくだけじゃ」
「喪ったようなもの。由岐ちゃんに、生きて欲しいから、アークに頼った」
 唇で薄く笑う夏生がこの場で真珠郎へと刃を突きたてれば『裏切り』は帳消しだろう。だが、それはできないのだと夏生はナイフを取り落とす
「どっちつかず、だね」
 首を振り、真珠郎が刃を天使へと突き立てる。協力し合える関係になれればとミリィは夏生の様子へと視線を送りながら由岐らの動きを止める様に閃光を投げ込んだ。
 天使を叩き切る様に剣を振り下ろす臣の背後から伸びる四色の光はティオが放ったものだ。エネミースキャンを使用した彼女は『天使のうわさ』がある程度浸透していたと仲間へ伝えながら補助役も担っている。
 回復に手を取られる仲間達を思って行為だろう。現に攻撃力の高い天使からのダメージを回復すべく俊介が満身創痍の勢いで天を仰いでいるのが目に見える。
 ティオの視線を受け、メリッサがレイピアを構えたまま、じっと天使を見据えた。
「貴方を作ったアーティファクトはどこ? それから、……貴方は、絢澤由岐本人ですか?」
 一つ目は天使へ、もう一つは由岐への言葉。噂自体が本人へ影響を与えるものだとティオもメリッサも予測していた。頬から溢れる血を拭いながら由岐へと視線を向けた臣へと青年は「さァ?」と茶化す様に笑って見せる。
「戦闘を止め、アーティファクトを手放してくれませんか?」
「その必要は?」
「貴方に、生きて欲しいから。夏生さんの前で殺したくないの」
 臣の言葉を、続けるように旭は本心から語りかけた。消耗する天使の前で、消耗しながらも額に浮かんだ汗を拭った旭は背後に立つ夏生の想いをくみ取るかのように語りかける。
 刃を振り翳す天使に旭が膝を折るが俊介のサポートを得て前線へと飛び込んだ。柔らかな少女の肌を切り裂くその糸にも彼女は怯まない。
「大切なひとを目の前で喪うのは、こころも人生も歪ませる。わたしは、それをよく知っているの。だから、」
 旭の身体が屋上へと叩きつけられる。翼を揺らしたティオが「怖くないわ」と柔らかに微笑んで四色の光りを以って天使の動きを阻害する。
「友達が、命がけで止めに来たんだ。お前の研究結果は、もう出てるんちゃう? 研究と友情、どっちが吐かないものか判断できるって思いたいんだけどな」
「研究、と答えるのが六道らしさでしょ」
 つんけんどんな返事をする由岐に俊介が歯噛みする。彼をサポートしたティオも何処か困った様に首を振った。
 天使の刃が深く突き立てられる感覚に海依音が杖を振る。肉体を切り裂く其れを放つ様になった徹底的攻勢の天使が満身創痍なのだと気付くのは直ぐ。身を削りそれでも剣の道を極めんとした臣が刃を振り下ろす。
 膝を付きながらも震える脚で立ったメリッサは由岐へと視線を向け、その眸を揺らがせた。
「貴方が都市伝説になってしまうでしょうに」
「それで構わない。夏生ちゃんの傍にいるのも無理でしょうね。
 ……殺さない、か。アークって本当に、甘い子達ね?」
 弾丸が飛び交った。目を見開く俊介の腕を貫通する其れに、ミリィが気付き、由岐の動きを止める様に閃光弾を投げ込んで見せる。
 天使が苦しげに蠢き、その腹へと刺さった刃を抜いた真珠郎がステップを踏む。翼を武器に宙へと浮かんだティオが「優しいでしょう」と小さく囁いた。
 光の粒子と化した天使に由岐が肩を竦め、アーティファクトをミリィの足元へと投げ捨てる。至近距離で武器を構えたままの旭の眸を覗きこみ、青年は「弱ったなぁ」と笑った。
「代償はボクにも分からないの。だから、死ぬつもりだった、と言えば?」
「生きて、とお願いするだけ」
 囁き声に、海依音は俊介へと回復しましょうと要請をかけた。生かしたがりの彼はその言葉に了承し、回復を施した。武器を取り落とした青年は背を向ける。アーティファクトを拾い上げたミリィはその背を見詰める事しかできない。
 貯水タンクに描かれたハートマークを見詰めながら少女は息を付く。
「……恋の願いが、叶います様に。ねぇ、素敵だと思いませんか?」
 振り仰いだその場所で、只、一人、ぎこちなく笑った寂しげな少女が立っていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまでした。

 天使の噂に対して、どの様に対抗するかというのがとてもうまく出来て居たと思います。
 噂が浸透し辛いのは何らかの対抗策が生じる可能性があったからですが、その辺りもカヴァー出来て居たかと思います。
 逢川夏生ですが、何処となく行き場が曖昧な少女ですが、身の振り方も考えついたようです。皆さんのお声掛けの結果だと、思います。
 天使は呼び声にちゃんと答えますし、良いお願いは叶えてくれるのです。

 お疲れさまでした。また、別のお話しでもお会いできます事をお祈りして。