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旬の味覚。ワラバ茸、死方竹

●きのこたけのこ
 秋の日の入りは、つるべ落としと言われる様に。
 喉元を過ぎた夏の日が立ち去って、秋分を過ぎる頃には年末の匂いが漂い来る。
 或いは、秋自らが、どこから秋でどこからが冬か区別すべきか苦しむ辺りで、どうも煮え切らず、気がつけば江戸っ子の様なせっかちさで、さっさと立ち去っていく様な景色を見せてくる。この節句が『寒露』である。
 しとしとと降りしきる秋雨が中を、紅葉がまばらに散らばる秋の山道を、人間が二人、雨具をすっぽり被ってのそのそ歩いていく。
「そのうち、晴れそうですね」
 雨具を被った人間の一人のしわがれた老人が、目を細めて遠くへ杖の先を向けると。
 もう一人の雨具は、「ははあ」と、何とも要領を得ない返事をした。
 このははあは、三高平に住む『文筆家』キンジロウ・N・枕流というリベリスタである。生業は陰陽師で力量は十と余である。
 枕流は今日、初夏に知り合った蕎麦屋の老人と秋の味覚を楽しむ為に来ていた。他でもない、山の持ち主は蕎麦屋の老人である。最早、山菜に茸に秋の味覚の時期である。
「ほとほと、くたびれました。中々骨が折れる」
「一体、だいじょうぶかい?」
「蒸し暑くて敵いません」
 秋雨と雨具の間に、熱気が篭って蒸し暑い。滴る雨粒の冷たさが顔にあついのだか寒いのだかと、とにかくに気持ちが悪い。
 枕流は、冬の函館で蟹漁に行った事もある。初夏の涼しい時分に山登りをした事もある。秋の山は、しかし中々と堪えたのであった。
「お、あったあったあった」
 突然、蕎麦屋の老人は、道を逸れて、茂みに入っていく。枕流は後を追う。老人が何事か地面をひっくり返して、茶色いものを引き抜く。細身の円錐で、土がついたそれを見せてくる。
「タケノコだよ」
「秋にタケノコ何ですか?」
「四方竹ってぇ特産品さ」
「ははあ」
 また要領の無い返事をする。
「松茸も、どこかじゃないかね」
「それはたのしみですね」
 松茸と聞いて、枕流は骨の折り甲斐があると気魄が戻ってくる。また山道を登って行く。
 とぼとぼ山を歩いて行くと、ここで、何やら茂みの向こうから争うような声を聞いた。
『引け! 死方竹! ここからは我々の領土だキノコ!!』
『ワラバ茸。奪わねば生きていけぬのだ! 戦わねば奪われるのだ! 問答など最早無い! パワーこそ力、力こそタケノコなのだ!』
 枕流と蕎麦屋の老人は、顔を見合わせる。
「私は生まれてこのかた、語尾にキノコだのタケノコだのをつける人間をトント知りません」
「蕎麦屋もだよ」
 お互い、頓狂な表情を浮かべて、視線を声の方向へ戻し、やがてはそろりそろりと茂みをかき分けて行く。
『ならば、愛する臣民を守る為に、お前を殺すキノコ!』
『それでいいタケノコ! この世界は決して優しくないタケノコ!』
 何やら、茸の着ぐるみと、筍の着ぐるみがぽかぽかと叩き合っている。
 双方、黒タイツに覆われた手足が生えていて、人間でいう顔の部分におっさんの顔が現れている。獣道の続く開けた所でポカポカと仲良く喧嘩している。
 青タンが浮いてたりスキッパだったり。他、古傷も残っている。
「ちょっと、何だいあんた達は、およしなさい。ああ、およしなさい」
 蕎麦屋の老人が声をかけんと前に出る。枕流は一寸待てと、老人に言いかけて、言う間も無く。
 余談ではあるが、サバンナなどで二頭の獣が命を賭けて生存競争を繰り広げる中に、他の第三者が介入すると、獣達は協力して第三者を排除せんと動くという。
『何者だァァ!』『タケノコバンカーッ!』
 タケノコのきぐるみのおっさんから、回転したタケノコが弾丸の様に撃ちだされる。
 6歳児童の握り拳程度の立派なキノコが足元から生えてきて二人を取り囲み、ボクサーらぬラッシュを繰り出す。
「ぬわー!」
「ほげぇぇぇ!」
 枕流と蕎麦屋は、これを受けて全身が爆発するように飛散した。


●秋の味覚
「E・フォース、識別名『ワラバ茸』『死方竹』を撃破する」
 アークのブリーフィングルーム。『参考人』粋狂堂 デス子(nBNE000240)が端末を操作しながら言った。
「争うことが宿命付けられた、茸と筍の思念というべきか、そういうエリューションだな。場所は某山中。リベリスタの一人がいるが、山の幸の収穫を手伝っていた中で、事件に遭遇するという経緯だ」
 プラズマスクリーンに映るのは、茸筍のおっさんの顔である。どちらも小太りですきっ歯で呑んだくれのステレオタイプを持ってきた様な顔である。それから、きぐるみである。
「茸の方は立派なハナイグチ、シモフリシメジ等の茸の類を召喚する。この召喚は20m前後の何処にでも出せるらしい。茸自体は近接攻撃を仕掛けてくる」
 時々、松茸や神秘の茸が出る。デス子が付け足す。何やら仏頂面の口角は少し釣り上がる。
「続いて筍だ。こいつも召喚系だ。茸とは逆に、自分の周囲にしか召喚出来んが、四方竹の筍をドリルのように発射してくる」
 ここで、映像が変わる。何やら二つのザル。ザルのそれぞれに茸と筍が並んでいる写真が映った。
「ハナイグチはややぬめりがあり、淡白でクセがなく、親しみ深い旨味がある」
「シモフリシメジは、旨味が中々強く、焼けば酒の肴になるか。ああ、尖った味ではない」
「四方竹は、名前の通りに断面が四角型。小さいので筍の皮を剥くとアスパラガスにも見えなくはない。味は最高級。微かな苦さが上品に感じる。10月から11月の短い間しか旬がない珍味だ」
 ここまで詳しく力説するから、何気なくリベリスタがふと部屋を見渡すと、隅に一升瓶やら背負籠と見られるものがある。布に隠されるようにして、しかしはみ出ている。
「山中なので足場は悪いが、リベリスタと一般人の危機だ。捨て置く訳にはいくまい」
 今まで開くことすら忘れていたが、リベリスタの手元には資料がある。
「枕流は、アークのリベリスタ。話は通じる。蕎麦屋の老人も無難に行けるだろう」
 夏に蕎麦屋の老人の蕎麦を食べた感想――もとい報告書が入っている。それをざっと斜め読みする限りでは、中々の業前を持っている様だ。
「――あと蕎麦は秋が旬。頼めば蕎麦も出てくる。また、厨房の機材も快く貸してくれるだろう」
 何が言いたいか分かるな? と、デス子の眠そうな目が、光ったような気がした。
 かく、本音と建前という言葉が、脳裏を掠める。掠めた所で内線が鳴った。
 デス子が顔を引き攣らせて、受話器を取る。
「……え、ダメ? 出てない書類がある? ――は……はい」
 きっと相手は沙織か和泉だ。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:Celloskii  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年10月19日(日)22:18
 Celloskiiです。
 以下詳細。

●勝利条件
 ・『ワラバ茸』と『死方竹』の撃破
 ・枕流と蕎麦屋の老人の生存。


●状況
 ・蕎麦屋の老人がエリューションに話し掛ける直前に、接触可能です。
 ・地形は山の中。敵がぽかぽか殴りあっている場所は、視界は開けていますが、足場はよくありません。地面にやや斜角があります。


●エネミーデータ
E・フォース『ワラバ茸』
 茸の怪人。エリューションです。フェーズ1.5ほど。
 A:
  ・ジコボウの術           神遠単 業炎 ダメージ小
  ・コノハガクレの術         自付。回避と速度を高めます。
  ・緑色で丸い白斑の茸(EX)   溜1T。「1UP!」という掛け声と共に、HPを全快します。
 P:
  ・茸召喚              自分の手番の最初、遠距離に後述『きのこ類』を2体召喚します。

E・フォース『死方竹』
 筍の怪人。エリューションです。フェーズ1.5ほど。
 A:
  ・儀式              近範囲に、『四方竹』を2体召喚します。         
  ・タケノコバンカー(EX)     場にいる『四方竹』の次の攻撃を『遠貫』射程、ダメージ中にします。
 P:
  ・筍召喚             自分の手番の最初、近距離に後述『四方竹』を1体召喚します。


E・ビースト『きのこ類』
 ハナイグチ、シモフリシメジ、種類は様々です。HPかなり低め。
 本体であるワラバ茸のHPが低くなってくると、『ワラバダケ』という未知の茸のみの召喚になります。
・きのこラッシュ     物近単  連 反動付攻撃 ダメージ中


E・ビースト『四方竹』
 種類は一種類のみです。HPかなり低め。
・タケノコドリル     物遠単   致命  ダメージ小


●フレンドデータ
 『文筆家』キンジロウ・ナツメ・枕流
 ジーニアスのインヤンマスターです。旧千円札の肖像画の人に似てます。
 RANK1のインヤンマスターのスキルを使えます。

参加NPC
 


■メイン参加者 4人■
ジーニアスナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
アウトサイドスターサジタリー
マリル・フロート(BNE001309)
ハイジーニアスクリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)

●永遠に憎しみ合い、戦い続ける存在
「そこのおじいちゃま、あぶないですぅ。そいつらにかかわっちゃだめなのですぅ」
 『ぴゅあで可憐』マリル・フロート(BNE001309)が、静止を呼びかけると、枕流達は振り向いて驚いた顔を浮かべた。
「なんと! 諸君ではないですか!」
 蕎麦屋の老人も、出ていこうとした足を止めている。
「なんだなんだ? 藪から茂みから」
「静かに」
 『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が、人差し指を唇に当てる。
 秋雨がしとしとと降る、山中。濡れた茂みの中でリベリスタ達はここに合流する。
「はじめまして、枕流先生。新田と申します。お噂はかねがね」
 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が、枕流に会釈をする。
 驚いて言葉に詰まっている様子に、『足らずの』晦 烏(BNE002858)も、腕組みの格好から、ひらりと片手の掌を泳がせて挨拶をする。
「散策には悪い季節じゃないですな枕流先生、そして毎度のあれです」
「毎度のあれですか」
「はい。毎度のあれです。この先でキノコ・タケノコ大暴れだそうで、製菓会社のCMみたいじゃありますがね」
 枕流も一応はリベリスタ。話が早く、店主の老人の安全を確保すべく「さあさあこちらへ」と行動する。
「っと、泥濘には気をつけて」
「心得てます」
 烏の声に応じた後、蕎麦屋の老人と共に引っ込んでいく。
 天乃は、枕流と蕎麦屋の老人が場から離れ始めた事を確認して得物を握る。
「秋の味覚、とは楽しみ、だね」
 『新田が一緒、というのは、少し複雑だけれど』と、胸中で付け加える。
 快を見る。視線が合う。咄嗟に敵に戻す。これを快は、アイコンタクトと受け取って作戦通りに動きだす。
「それじゃ、お仕事片付けて、秋の味覚と洒落込みますか」
 開けた所へと駆け出す。まあいいか、と天乃も続く。
「にゅう……きのこたけのこ戦争……昔から各地で行われてる恐ろしい戦争だと聞いた事があるですぅ」
 マリルが親指と人差し指を立てた形の手を顎につけて、茂みの向こう側を伺う。
 向こう側では、キノコの気ぐるみおっさんと、タケノコのきぐるみおっさんがポカポカ殴りあっている。
「今回初めて目の当たりにしたですけれど、まさかエリューションだったとは! たしかに恐ろしいのですぅ!」
 神妙な顔つきを浮かべて、決意を胸に、幻想纏いから緑色の柑橘類を取り出して、皮を剥くのであった。いつもの事だと他の面々は思うのである。
「筍はいいんだがキノコはちょっとなぁ」
 烏が弾丸を込めて、スタンディングポジションのままキノコを狙い澄ます。粛々と銃声をぶちまける。
 ズドンと形容できる音によって、空で鳥類が飛び立っていく。
「新手かぁ!?」
「何者――わらばっ!?」
 これが開戦の合図か。瞬時にエリューション二体――死方竹、ワラバ茸がリベリスタ達の方向を向く。
 振り向いたワラバ茸の頭部に弾が刺さる。
「しかし、キノコとタケノコ、はやっぱり仲が悪い、のか……」
 続いて天乃が、気糸を指先から垂らしながら影のように飛び出す。死方竹、ワラバ茸の二体を瞬時に縛り上げる。敵が行動する間も隙も与えない。
「来た!」
 快は、天乃の足元に生えてきたキノコを見て、警戒を促す。
「うん」
 縛ったとしても油断はできない。
 このエリューション二体は、縛られていても、キノコを生やす。タケノコを生やす。
「集めよう」
 いやさ油断に非ず。
 可能な限り時間をかけて、きのこ類と四方竹を十分に集める方針なのである!
「にょきにょきはえてきたですぅ」
 マリルが魔銃をくるりと回して握り、キノコを撃つ、タケノコを撃つ。
 撃った瞬間、マリルの顔面にべちゃっと何かが張り付いた。
「にゅうう!? つめたいのですぅ」
 平手打ちの様に飛来した舞茸である。
 ワラバ茸は、きのこ類をほぼ好きな位置に繰り出せる。何たる脅威か。
 ここに、山中の涼しき風と冷たき雨の中で、戦いは熾烈化していく。


●熾烈化していく――かに見えたが
「大丈夫だって、ちゃんとこっちで片付けるから。嫌いな人に食べさせるなんて勿体無いことしないし、視界に入れるのもヤだっていうならちゃんと布で覆っておくから!」
 快は敵を抑えながらも、朗らかに云う。対象は烏である。
「食べるものが戦闘の結果駄目になるとかは悲しい物だからな。慎重に頼むよ」
「わかってるさ」
 朗らかなムードが維持される。
 それもその筈。天乃がしっかり捕縛しているのである。
 高い素早さが故に、非常に高い頻度で、敵本体の二匹を一瞬に絡め取る事を可能としているのだ。
「にゅ! そうなのです。あとでたべるものですぅ」
 マリルも、舞茸を防御剣で叩いて切り身に留めておく。あまり威力が高すぎる技を使うと、飛散してしまう。
「ぬぐううううおおおお! ジコボウのじつううううう!」
 ワラバ茸が気糸を振りきって、忍者の如き印を結ばんとする。
「させない」
 天乃が気糸で縛り上げる。
 ぎゅううううと締め付けられて、死方竹とワラバ茸は砂時計の様に括れている。
 捕食者と捕食対象の関係が生じている。
 天乃がエリューションを縛り上げる。快が攻撃を絶対に通さず。生えてきた茸と筍は、マリルと烏が丹念に処理していく。
 国内における、フィクサード組織の一角が海外離脱を企て始めた原因たる組織、アーク。
 そのアークの中でも、エースに属する者が、割と本気で拘束し、割と本気で収穫しようとするのだから――敵が、茸と筍生産機になったのは言うまでもない。
 生かさず殺さずの時間が続いていく。
「喰らえ! タケノコバンカー!」
 生かさず殺さずの時間が続けば、一回二回くらいは死方竹も動く。ワラバ茸も動く。
「っ!? 貫通か」
 快の脇腹を掠って、後方にいた烏へと迫る。
 烏は、実は重傷を引きずって退治に来ている。この手前、これを喰らう事は避けねばならなかった。
「……っ!」
 上体を大きく仰け反らせる。それは常人なら確実に後方にすっ転ぶであろう位置まで。何もない空間をタケノコバンカーが通過していく。
「面接着が無ければ危なかった」
 仰け反った姿勢のまま、胸ポケットから煙草を出し、火をつける。
 ふう、と一息ついて、そのままズドン、とSchach und matt――チェックメイトを意味する弾丸をワラバ茸に放つ。
「竹やぶなどを荒らさぬよう」
「おえーーーーっ!!」
 これを受けたワラバ茸は、いよいよ変な粘菌を吐き出した。
 粘菌の中から、緑色のキノコが生えてくる。
「ちょっと、食欲、なくなる」
 天乃は、無表情のまま引き始めた事を告げて、即縛る。
「よし、……1UPキノコ阻止」
 快は、これも食えるのかな? と思いかけて思いかけたものを振り払う。気がつけば足元に松茸が生えている。思わず胸中でガッツポーズをとる。
「あとはワラバタケか。あれも食えるのかな?」
「はやく、出さないかな?」
 再動。天乃がその場でジャックザリッパーを振るう。
「うぎょおおおおお!!!?」
「痛た!?」
 これは、快を巻き込んでいる。
「大丈夫だって、信用してるから、ね」
 時々、天乃が敵(と快)を斬りつけて、出て来るキノコを確認し、流血しながらもほっこりしている空気が破られる事は無かった。
「にゅ?」
 やがて、マリルの足元に見たこともないキノコが発生した。
 赤い傘で、大きめの白斑のある茸である。
 ベニテングダケのような毒キノコの類に見られなくもないが、形状はどこやらちがう。
 見た目がややコミカルである。成人男性の握りこぶし2つ分の大きさで、傘は肉厚。管孔も男性の腕ほどに太い。
「なんだか、からだがおおきくなりそうなきのこなのですぅ」
 グリップの底の部分でゴチンと叩いて処理してゲットする。見れば、管孔の部位には縦長のコミカルな目の様な模様がある。
 叩かれた事で、☓マークが二つ並んでいる。
「ううむ。食感がダメなんだよな」
 同様のキノコが烏の足元にも生えてくる。烏にとっては、見ただけで死にそうである。なりつつも、ごちんと叩いておく。
「新田君。ワラバタケ、かなりデカいんだが」
「そうか……じゃあ、もう良いかな?」
 快の声に応じる様に、天乃がジャックザリッパーで(快を巻き込みながら)ワラバ茸にトドメを刺す。
「一回、このまま、生でたべてみたい」
「い、良いんじゃないかな?」
 快もボロボロになりながら、得物の刃を振り上げる。続いてワラバ茸へと下すラストクルセイド。
「――うわらばっ!!」
 たちまち、ワラバ茸は断末魔を上げて空気に溶けて消えていく。
「タケノコの刺し身が何とも楽しみだわな」
 撃墜した四方竹の筍は、回収したものの他、場に散らばったものを含めると、4人で平らげるには多過ぎるくらいだ。
 敵の片割れが消えて、死方竹に攻撃が集中する以上、終わりは見えていた。
「くらえ! 『破滅のオランジュミスト(カボス風味)』なのですぅ!」
 すかさずマリルがさっき剥いたカボスを叩きつけて、これによって死方竹も消え去った。

 尚その後、生でワラバタケを齧ってみた天乃だったが、非常に肉厚な松茸と形容できる味わいであり、それ以上でもそれ以下でもなく、身体が大きくなることもなかった。


●閑話休題。ここから本編
 蕎麦屋の老人の店に訪れる。
 タオルで雨粒などを拭き、靴を脱いで廊下をつーっと入って行くと、座卓やテーブルが並ぶ部屋に出る。
 店というよりも、民家をそのまま使ったかの様な構えであった。
 しとしとと降る雨の山に、来る客はいないのか、貸し切りである。
「茸がダメでしてな」
 烏は席につくと、支度を始めた老人に一言断りを入れる。
「お客さん茸がダメかい」
「ええ、私の分の茸は彼にでも。最初は筍の刺し身が良いですね」
「お安いご用さ」
 烏が快へ露骨に押し付ける。
「ま、晦のとっつぁんに一升瓶を押し付けて取引するつもりだったしな――で、俺の注文は」
 烏がオーダーをすると、他の皆も注文に入る。
 枕流も「私にも同じものを」と軽く挙手をして、次にマリルは大きく手を挙げた。キリリとした顔をする。
「いちごオレが良いのですぅ」
「無いね!」
 ガーン!
 と、マリルが、擬音語が聴こえてきそうな表情をすると、老人は笑って続ける。
「蜜柑のジュースならあるがね。おじょうちゃん、それでいいかい?」
「いいのですぅ! あたし、きのこたけのこ天ぷらそばがたべたいですぅ」
 天麩羅に対して、酸味があってスッキリ飲める蜜柑ジュースは中々と歓迎であった。
 マリルが飲み物のやり取りをした所で、快が持ち物を出す。
「秋の酒とくれば、冷やおろし。お勧めを持ってきた」
 快が出したのは日本酒の一升瓶である。
「お客さん、わかってるね!」
「何せ日本酒は蕎麦前っていうくらいだしね。新そばに秋の旬」
「少々辛口めで、蕎麦によく合うヤツだぁな」
「家が酒屋をやっていまして」
 老人が感心した様に頷いて一升瓶を受け取った。徳利に入って出てくるものだ。
 天乃は何を頼もうか、少し首を傾げていたが、首を正して店主に一任とする。
「料理や蕎麦は、任せた」
「あいよ。任せときな」 
 慣れた人間に任せた方がいいという結論である。尚、タケノコ派ではる。
 程なく、老人が冷えたお猪口を並べる。蜜柑ジュースもやってくる。
「じゃ、乾杯といきますか――乾杯!」
「乾杯!」
 快の音頭で、乾杯が唱和される。成人組はクイッとお猪口を空にする。
 この一杯が、染みる程の美味い。
 今まで秋の山に居たから、やや辛口の日本酒が存分に身体を暖めていく。喉の奥から上ってきた熱い息を、はああと吐く。
 老人が、筍の刺し身と板わさ、醤油皿を持ってくる。
「筍の刺し身さ。あと板わさもな」
 待ってましたと、烏が筍の一切れを食す。
 ほろ苦く、コリコリと歯ごたえがあり、またアク抜きされた筍には無い、香りが酒と相まって口中にふわふわとする。
 すかさず、烏のお猪口に枕流が徳利を傾ける。烏は注がれた日本酒を再び呷る。
「――いやいや、美味いのなんの」
 お猪口をタンッと置いて熱い息を吐く。
「新酒に秋の味。贅沢ですね」
 枕流も舌鼓を打つ。
 筍はエグみを有する為、刺し身には向かないが、採れたての新鮮な筍はエグみが少なく、刺し身として食べることができる。
 つまりは、アク抜きで損なわれる香りが存分に楽しめるのである。
 ここに、ワハハハと歓談を交え始めたおっさん二人である。
 対面の天乃は、快の隣に座っている形である。よそよそしくも。葛藤を交えつつも。誤魔化す様に板わさを食べた。
「私、は焼いたりするぐらい、であんまり凝ったもの、は作れないし……これで、良かった、かな?」
 うんうんと頷く。
 板わさに使われているカマボコは、ただのカマボコではない。強化された味覚から、鱧のすり身が入っていることが分かった。
 次に、玉子焼き、焼き味噌といった、蕎麦前が並んでいく。どれもこれも絶品とも言える味わいである。
 玉子焼きは京風味。どうも老人は京都で修行したと怪しまれ、京都には玉子焼き専門店がある程に玉子焼きの文化が深く、甘く、塩辛く、出汁に秀でてひと味違う。
 焼き味噌は、檜のシャモジに味噌が塗られて、シャモジごと香ばしく焼き上げられている。味噌には蕎麦の実が混じっている。箸で小さく摘んで口に含むと、何とも酒がよく進む味だ。
 舞茸、シモフリシメジなどのかき揚げ。
 ツユにつけたものを噛むと、じゅっとツユと旨味とキノコの旨味が口中に広がる。
 抹茶塩、ワサビ塩がつければさっぱりと楽しめる。
 そして出てくる器も凝っている。黒い京楽焼の皿は、玉子焼きや天麩羅の黄金色とワサビ塩抹茶塩の緑と合わせて、一種の芸術作品の様である。目の保養に頗るよい。
「きのこもたけのこもどっちもおいしいのですぅ」
 マリルがサクサクと軽快な音を出しながら、舞茸の天ぷら頬張る。さっき顔面に張り付いたヤツである。
 縁の薄い部分はサクサクとスナックの様で、根本はしっかりと茸の味わいだ。
「くぅ~。おいしいのですぅ」
 口中の油っぽさを、蜜柑ジュースで改める。タンッと卓にコップを置いて成人組の真似をする。次に筍の天麩羅を齧る。
 幸せそうな顔を浮かべていると、老人も嬉しくなったのか。
「アク抜きをな、糠でなくて大根おろしの汁につけてやってっから、普通のと違う筈さ」
 真打である蕎麦が並べながら、老人が筍について一言加える。
 マリルが「にゅ?」と狼狽する中で、烏が「ほほう」と箸を伸ばす。
 天麩羅になった筍であったが、老人の言う通り、筍の刺し身と比べて香りが損なわれていない。
「うむ。これは中々!」
「なるほど~。だいこんの汁だったですかぁ。あたしはみかんの汁がとくいなのですぅ」
 えっへんとするマリルに対して、老人は?マークを浮かべる。
 快は、並んだ蕎麦を啜り、味と香りを楽しむ。
「これは良いな」
 蕎麦の実を丸ご挽いた田舎そばは、黒く太く、ざらざらとした舌触りで野趣があり、ツユとよく絡む。
 中枢だけを用いた更科は白く、つるつるとした食感と香りによって上品さが際立っている。
 セイロはそば粉8割が冷水で締められていて、手打ち麺の如きコシに通じるものがある。
 十割蕎麦も蒸籠で出てきているが、前者と異なって白い蕎麦麺に黒い粒が混じっている形だ。ザラザラとした食感と更科の香りが共存しているのである。
 快の嘆息に各々も蕎麦にとりかかった。

 出てきた料理を平らげた後は、七輪でシンプルに焼かれたワラバタケの切り身や、筍の切り身をツマミにしての酒である。
「おいしかったのですぅ。争うなんてバカらしいのですぅ」
 マリルも満腹の塩梅になって、食後の甘味に蕎麦掻きゼンザイで締めとする。
 白玉と違ってもちもち感は薄いが、蕎麦の香りとゼンザイの甘みは中々イケてると心得て頬張っている。
 烏は、ワラバ茸を避けて筍をつまみに、辛口を飲む。
「齢は経てもまだまだ旬なものの味が判らぬ未熟者なんでしょうなぁ」
 烏の言葉に枕流も、和服の着物で腕を組む。
「私も実に甘党で、大辛の酒が苦手でして。酒は甘いのを良く飲みますね」
「ほほう――だそうだ。新田君」
 烏が話を振ると、快は抜かりなく甘口の一升瓶を出す。
「新田酒店、良かったら利用してください」
「これは有り難いものです。あいや。承知しました」
 今はインターネットを用いて副業でやっている事を伝えておく。
「新田……お酒」
 天乃はくてーっとしながらも、少し余所余所しいと思いながらも、酌を要求する。
 酔いつぶれた訳ではなく、胸中の複雑な想いが故からきている。
「天乃、あんまり飲み過ぎるなよ」
 快は快く徳利を傾ける。
「うん、分かった……少し暑い、かな」
 天乃は席を立って窓を開ける。
 秋雨は止んで青空が覗いている。ほろよいの中、少し開けられた窓から来る秋の風は、程よく涼しい。
「ああああ、代金は持ちますよ。キースとやらの一件で骨休めになれば幸いです」
 枕流の鼻下の髭を、オシボリで拭きながら云う。
「うん。今は、ゆっくり休む。私も、新田も、晦、も……疲弊してるし、ね」
 かく、次の戦いに向けて英気を養うことが、此度の目的とも言えた。
 天乃は、快を少し見て、次に窓の外の空を見上げる。
「(彼女の事、は聞いてみたいけど、聞けない)」
 頬を撫でていく秋の風。
 心地良くも、どこかもの寂しい。切なさを覚える様な風でもあった。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 Celloskiiです。
 美味しい依頼になれば幸いです。
 お疲れ様でした。