● 文学の悪魔 立て襟の洋シャツに袷と袴。腕には分厚い本を抱え、舞い散る枯葉を眺めつつ、それはぼんやりと銀杏並木を散歩する。丸いメガネのむこうの瞳には白目がなく、肌の色も青白い。 不健康な印象を与える紫色の唇から除くのは、鮫のように尖った歯列。 あぁ、人間じゃあないんだな、と近くで彼を見れば、一目瞭然であろう。 もっとも、偶然か、それとも彼の能力か。並木道に人の気配は存在しなかった。 しかし、彼は何かから身を隠すように、きょろきょろと視線を彷徨わせていた。どことなく、歩調も速く、警戒心が強いようにも見える。 だと、いうのに……。 その口元には、わずかばかりの笑みが浮かんでいた。 くすり、とそいつは笑った。ほんの少し、緊張に頬を引き攣らせてもいる。 白目もなく、瞳全体が墨みたいに真っ黒い彼の眼が、どこを見ているのか定かではないが、恐らく何かを探しているのだろう。 そして。 彼の探す何かは、比較的すぐにそこへと姿を現した。 体から、ぼたぼたと真っ黒い墨を零しながら、そいつは銀杏の木をなぎ倒しながら、彼の前に現れた。人間くらい丸ごと飲み込めそうな巨大な口と、赤い単眼。墨で出来た触手のようなぬらぬらとした髪を波打たせ、異臭のする吐息を吐き出す。 体にあたる部分は存在せず、墨の触手を蠢かせるようにして移動していた。 ざわざわと、触手が地面を這う度に、路面が溶けて異臭を漂わせる。みれば、墨の怪物が触れた銀杏の木も、いつの間にか枯れ果てているではないか。 怪物には、舌も歯も存在しない。声にならない声をあげ、怪物は真黒い目をした男に対峙する。 一方で、真黒い目の彼は、頬に冷や汗を伝わせながら、にたりと笑う。 『ぼくの落書きが、随分と大きくなったものだね。いいさ。迎えに来たよ。返ってこい』 メガネをクイと指で押上げ、黒目の彼は腕に抱えた本を開いた。 ● 落書きの怪物 頭だけの化け物。モニターに映った怪物を、一言で現すのならそれだろう。怪物の正体は、書生風の格好をしたアザーバイドが生み出した怪物であるらしい。それが、どういう経緯を経たものか、この世界に迷い込んだらしい。 その上、書生風の男。悪魔(レーモン・ラティア)の予想を遥かに超える、強大な力を身に付けてしまっているようだった。 「本来は、力をつけた怪物を取り込み、自分の力の強化にあてるつもりだったみたいだけど……」 力を付けて悪魔が何を企んでいたのかは知る由もない。考えたくもない。きっと恐らく、碌な事ではないだろうから。と、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は思う。 「取り込めるかどうかも怪しいレベルで、怪物は力を付けてしまったみたい。レーモンの目的も気になるし、とりあえず現地へ急行して、まずは怪物とレーモンを討伐、或いは無力化してきて」 幸い、レーモンの能力で現状周囲に人はいない。レーモンの意識がある間は、近くに一般人が立ち入ることはないだろう。怪物が逃げ出した場合は、また別に結界を張り直す必要があるだろうが、逃がさなければいいだけの話だ。 「レーモンは、自身の想像で生み出した怪物を操る能力を持っているわ。怪物1体1体はあまり強くないけど、時間の経過に伴って強化されるみたい」 そうして生み出した1体が、今回レーモンの追っている頭だけの怪物なのだろう。逃がしたのは、偶然か故意か。 「頭だけの怪物。(デーモンヘッド)と呼ぶ事にするけど、そいつは呪縛やノックB、圧倒などこちらの行動を邪魔するタイプのスキルを多様するみたい」 どちらも無視できる存在ではない。迅速な対応が必要になるだろう。 そして何より避けなければならないのは、デーモンヘッドをレーモンに吸収されてしまう、という事態だ。 「逃がしちゃダメよ。今を逃せば、被害者が出る可能性が格段に上がるから」 そういってイヴは、仲間達を戦地へと送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年10月13日(月)22:06 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●銀杏並木の悪魔 肌寒いある昼下がり。人の気配の絶えた銀杏並木に佇む男が1人。書生風の格好をし、白目のない真っ黒な瞳で正面を見つめるその男は、人間ではなかった。アザ―バイドと呼ばれる存在で、名を(レーモン・ラティア)という。 レーモンの正面に佇むのは、長い触手のような頭髪を蓄えた巨大な怪物の頭であった。 レーモンの生み出した(文書の悪魔)にして、彼の支配下から逃れた怪物。(デーモンヘッド)である。デーモンヘッドの潜在能力はすでにレーモンと同等かそれ以上になっている。それを取り込み、自身の力の糧にしようと企んで、レーモンはわざわざこの世界まで来たのである。 レーモンや、デーモンヘッドにとって誤算があったとすればただ1つ。 Dホールを潜って来たこの世界には、リベリスタと呼ばれる者たちが居て、世界の崩壊に対処しているということくらいだっただろうか。 ●レーモンとデーモンヘッド 『やっと見つけたよ。そろそろ戻ってくれないか? 戻って、私の一部になれ』 小脇に抱えた一冊の本を持ちあげ、レーモンは告げる。顔だけの怪物に、彼の声は届いていないが、それでも構わずレーモンは笑う。 彼にとって、目の前の怪物は自身の力を底上げするための餌でしかないのだ。 怪物、デーモンヘッドはぐるると奇妙な唸り声をあげた。 レーモンは、手にした本をゆっくり開き、何事か文章を読み上げる。彼が読み上げたのは、書に記されていた悪魔の名前と、その説明文である。 悪魔の書の作者はレーモン自身だ。彼は、自身の想像力から生み出した悪魔を自由に召喚できるらしい。 果たして、レーモンの前の前に現れたのは3つの頭部と、巨大な身体、6本の腕を持った巨人だった。銀杏並木を塞ぐほどに巨大な身体を持つデーモンヘッドよりもなお巨大な身体をしている。 『もっと出さないと、お前は止められないのだろうね』 くひひ、と奇妙な笑い声。 レーモンはさらなる悪魔を呼び出すために書を読み上げる。 その間に、巨人はデーモンヘッドと殴り合いを始めていた。激しい攻防だが、デーモンヘッドの方が優勢だろうか。 殺戮の騒音が、リベリスタ達の足音を消してくれたのは僥倖と言えよう。 レーモンが彼らの存在に気が付いた時にはすでに、リベリスタ達は、戦場のすぐ目の前にまで辿り着いていた。 地面を滑るように『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)が、銀杏並木を駆け抜ける。追い越しざまに、レーモンを一瞥し、言葉を投げた。 「召喚した悪魔がある程度強くなったところで吸収、自身が強くなる、か。楽に強くなれて羨ましい事だよ」 レーモンの答えを待たず、義衛郎はデーモンヘッドのもとへと向かう。待て! と叫ぶレーモンだが、それに対しての返答はない。あくまで義衛郎の役割はデーモンヘッドの足止めだ。 「まずはデーモンヘッドが、レーモンに近づいたり結界の外に出たりしないよう封殺します」 義衛郎に続き『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)が前に出る。義衛郎の接近をサポートするように弾丸をばら撒きながら、もう片方の手からは気糸を放出。義衛郎がデーモンヘッドの眼前に辿り着くと同時に、周囲の空中に漂わせていた気糸を指先のみの最小動作で引き絞る。 ぱし、と小気味のいい音。デーモンヘッドの体中に気糸が巻きつき、その動きを阻害した。しかし、デーモンヘッドの巨体を止めるには、強度が足りない。 気糸が切れる。動きを止めれて、せいぜい数秒が限度だろうか。 数秒あれば十分だ。剣を引き抜いた義衛郎が、デーモンヘッドへ斬りかかる。 だが……。 『やらせるものかよっ』 レーモンが叫ぶ。レーモンの召喚した巨人の悪魔が、その岩のような拳を背後から義衛郎に叩きつける。拳は義衛郎の背を掠め、地面を砕いた。飛び散った木端がデーモンヘッドごと、義衛郎の身体を打ちのめす。 「癒しの息吹よ……」 地面に叩きつけられた義衛郎の身体を包む淡い燐光。『雨上がりの紫苑』シエル・ハルモ二ア・若月(BNE000650)の回復術だ。翼を広げ宙を舞い、傷ついた仲間を癒す。 『……今日は体の具合……良さそうです』 ここ暫く続いた体調の不具合を案じていたが、とりあえず今のところは戦闘を続行できそうだ。安堵の溜め息を零し、しかしそれを敵に悟られぬように凛とした表情でレーモン達を見降ろした。 レーモンの視線がシエルに向いたその一瞬を突いて、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が式符を放つ。 「すまない。遅れた。しかし、邪魔なものはさっさと潰すに限る」 式符は空中に、巨大な陣を刻んだ。陣から伸びる、禍々しい呪力がデーモンヘッドと巨人の悪魔を纏めて締めあげる。ノイズのような雄叫びをあげる悪魔を一瞥し、ユーヌは小さく舌打ちを零した。 「煩い騒ぐな……」 ユーヌに並び『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)が空を舞う。イスタルテの掌に眩い閃光が宿った。 「秋の銀杏並木なら、散策がてらに楽しみたかったんですけど……アザーバイドが強くなる前に倒せますように」 『だから、やらせるかよ、と言っているだろう!』 閃光を解き放つその寸前、イスタルテの眼前に下半身のないピエロのような怪人が現れる。レーモンが新たに生み出した悪魔だ。両手の指に、鋭い刃がついている。ケタケタと不気味な笑い声をあげながら、ピエロがイスタルテの周囲を飛びまわった。イスタルテの全身に、次々と赤い線が走る。飛び散る鮮血を浴びながら、ピエロは狂ったように笑い続けた。 『ちっ……。なんでこんなに邪魔が入るんだ』 巨人、ピエロに続きレーモンは3体目の悪魔を召喚した。今度の悪魔は、黒い炎の身体を持つ美しい女性である。炎の女性は、レーモンの眼前に立ち、両腕を広げた。レーモンを包むように炎の壁が召喚される。 「悪魔なら、地獄に帰りな」 炎の壁が『ならず』曵馬野・涼子(BNE003471)の放った無数の弾丸を飲み込み、阻む。 冷たい目でレーモンと、炎の女性を見つめながら涼子はひたすらに引き金を引き続ける。炎の壁が、少しずつだが削れて、小さくなっていく。壁の向こうから放たれる炎の矢によって涼子の身体に火傷を伴う矢傷が穿たれるが、彼女はその場を引こうとはしない。 「初めましてかな、悪魔君。君と、君の生み出した子も見過ごす事は出来ないの」 杖を掲げ『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)は告げる。展開された魔方陣から、魔力が溢れだした。 「だから、此処で貴方達は倒させて貰うよ?」 レーモンを中心に、重力の渦が吹き荒れた。 重力に押しつぶされ、レーモンが地面に膝を突いた。炎の女性は流石にレーモンよりも力が強いのか、その場にとどまったまま、一度は重力によって潰されかけた炎の壁を再展開。 炎の壁に穴が開いたのは一瞬だった。 その一瞬で十分だ。『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)が炎の中に飛び込んだ。大上段に振り上げた剣に、渾身の力を込めて振り下ろす。 炎の壁が揺らぐほどの斬撃。 「私たちは悪党(アーク)!我がボトムでなにをしておるかぁ~~!人目をはばからず合体とは破廉恥なぁ!!」 レーモンの身体に走る深い切傷。溢れる鮮血。麗香の身体を、黒炎が包む。 血を吐くレーモンと、炎に焼かれる麗香の視線が交差する。 レーモンが本を、麗香が剣を振り抜いた。 本と剣とで打ち合いながら、2人はその時、笑っていた。 弾丸に額を撃ち抜かれ、不気味なピエロは霧散した。 その瞬間、巨人の悪魔はイスタルテへと視線を向ける。 巨人の悪魔の攻撃対象は、デーモンヘッドからリベリスタへと移ったようだ。恐らく、さほど頭の良い悪魔ではないのだろう。目の前で、自身に敵対する相手を最優先で襲う傾向にあるらしい。振りあげた拳の向く先は、空中を疾駆するイスタルテであった。 巨人の拳が突き出される。その瞬間、巨人の拳は漆黒の渦の中に飲み込まれた。 「ああ、なんだ。弱い悪魔ばかりか。想像力が足りてないのか? 文学とは名ばかりに、文も学も有りはしないか」 漆黒の渦は、数えきれないほどの鳥の群れだ。全て、ユーヌの放った式符から呼び出されたものだ。拳、腕、肩と順番に巨人の身体は鳥に飲み込まれていった。 「無力化でも構わないようですが……」 倒してしまった方が、後々レーモンに吸収される心配もなく安全だろう。そう判断し、イスタルテは暴れまわる巨人の眼前へ接近。掌から周囲を真白く染め上げるほどの閃光を放つ。閃光に目を焼かれ、巨人の悪魔はその場でたたらを踏んだ。 悪魔が怯んだその瞬間、ユーヌとイスタルテによる同時攻撃が開始される。 無数の弾丸が悪魔の頭部を襲った。大きくバランスを崩した巨人が、地面に倒れる。しかし、倒れる寸前闇雲に放たれた悪魔の拳が、接近していたイスタルテを捉える。 ギシ、と骨の軋む音。口の端から血を流し、悪魔共々イスタルテは地面に落ちた。 デーモンヘッドの敵は、あくまでレーモン・ラティアなのだろう。自身の創造主にして、最大の障害ということか。目の前で囀るリベリスタ達など、眼中になく、ただの障害の1つという扱いらしい。時折チラと一瞥し、触手のような髪でもって薙ぎ払うだけ。少しずつだが、デーモンヘッドはレーモンの元へと近づいていく。 だが、リベリスタとしてもデーモンヘッドを自由にさせるわけにはいかない。 髪の触手が義衛郎の腹部を切り裂く。絶対者をもつ義衛郎に状態異常は効かないが、かといってダメージがないわけではない。 「動きを止めないのだけが、オレの取り柄でね。此処を通す心算は無いよ」 血を吐きながら、義衛郎は駆ける。血の滴が飛び散って、地面に赤い軌跡を描いた。義衛郎の剣が閃くたびに、きらきらとした粒子が飛び散る。顔中を切り裂かれながら、しかしデーモンヘッドは止まらない。 義衛郎がデーモンヘッドを攻撃しているその隙に、あばたは素早く指先を動かす。複雑かつ、短い動作で、周囲に展開していた気糸を繰った。デーモンヘッドの頭部を複雑に気糸が縛り上げる。 髪ごと、デーモンヘッドの動きが鈍る。 「静かなる死と人は呼びますが、わたしの銃でそんな器用な真似はできません。死ぬまで撃って、静かになるからサイレントデスなのです」 まるで固定砲台だ。あばたの突きだした銃口から、明確な殺意の込められた弾丸が撃ち出される。1発、2発、3発と、続けざまに放たれたあばたの弾丸はデーモンヘッドの頭部に穴を開ける。片目が潰れ、牙が折れ、触手の髪が千切れて落ちた。 デーモンヘッドを縛りあげていた気糸が切れて、髪の一部が自由を取り戻す。地面を削りながら、デーモンへッドの髪はあばたと義衛郎を捉え、その身を地面に叩きつけた。 「大いなる……癒しを……此処に」 翼を広げ、シエルはそっと目を閉じる。吹き荒れる魔風は、癒しを与える淡い燐光を仲間達の元へと届けた。受けたダメージを、状態異常を、傷を癒す。 デーモンヘッド、レーモン、巨人の悪魔に、炎の女性。残る敵は4体ほど。仲間が倒されぬことを最優先に行動するシエルは、回復役に徹する為に最後列へと移動した。 常に戦場全体に視線を巡らせ、彼女は仲間の無事を祈り続ける。 麗香の剣が、レーモンの右腕を切り落とした。悲鳴を飲み込み、レーモンは腕の断面を炎の女性へと向ける。炎の女性は、レーモンの右腕に吸い込まれるようにして消えた。彼女の展開していた炎の壁も消失する。 だが、次の瞬間。 レーモンの身体は、漆黒の炎に包まれた。剣を伝って、麗香の身体が炎に飲まれた。火炎放射のような業火に薙ぎ払われ、麗香の身体は大きく背後へ弾き飛ばされる。 『もう1体! 戻ってこい!』 さらにレーモンは、巨人の悪魔へ視線を向けた。イスタルテを巻き込み、地面に倒れていた巨人の悪魔は、次の瞬間、漆黒の粒子に変じ、レーモンの身体に吸い込まれた。 それに合わせ、レーモンの身体は巨大化。炎の巨人の如き姿へと変わる。 自身の呼び出した悪魔を吸収し、その力を得る。それがレーモンの能力だ。デーモンヘッドを吸収するために、わざわざこの世界まで来たのだから、恐らくそれは彼にとって最も重要な事柄の1つなのだろう。 「この拳と弾が当たるなら、その感触も、きっと変わらない」 倒せる、と確信はある。いくら巨大になって、炎の身体を手に入れたとしてもレーモンとて無傷ではない。ここまでの戦闘で受けたダメージは、少なくない筈だ。 涼子の放つ無数の弾丸は、炎を掻き消し、巨体に次々と穴を穿つ。銃を撃ちながら、一歩一歩、レーモンへと近づき、その意識をこちらへと向けさせる。チラとデーモンヘッドを一瞥すれば、向こうも直に片がつきそうだった。義衛郎とあばたは満身創痍だが、デーモンヘッドもボロボロだ。 『邪魔を……するなって言ってるだろう! アークだか何だか知らないが、どうして傷ついてまで俺の前に立ちはだかるんだ!』 激昂し、炎の拳を涼子へと叩きつけるレーモン。衝撃波が吹き荒れ、涼子とシエルの身体を弾き飛ばす。邪魔者は消えた。レーモンは背後を振り返る。 地面に倒れたデーモンヘッドをあばた、イスタルテ、ユーヌの弾丸が撃ち抜いた。その頭頂部に駆けあがった義衛郎が、腹から血を流しながら剣を振りあげる。 デーモンヘッドは白目を剥いて痙攣してた。恐らく、次の一撃がトドメになる。 『返せっ! 俺の悪魔をっ!』 地面を砕きながら、レーモンは駆け出した。炎に包まれた腕を、デーモンヘッドに向ける。 だが、その瞬間、彼の身体を襲ったのは立っていることさえできない重力の嵐だ。 「見過ごす……何て、出来る訳無いんだけどね、うん」 少しだけ寂しげな、ルナの声。掲げた杖と、展開された魔方陣。圧倒的な重力が、レーモンの内臓お押しつぶす。口の端から、血が零れた。腕を伸ばしても、デーモンヘッドには届かない。 デーモンヘッドを吸収できれば、レーモンはこの場を切り抜けることができたかもしれない。 だが……。 「鬼神も裸足で逃げ出す悪党(アーク)のこれが挨拶代わりだ!」 地面に膝をついたレーモンの背に、麗香が跳び乗る。 ●悪魔レーモン 強くなりたかった。 元来、レーモンは強い悪魔ではなかったのだ。 自身の創造した怪物を生み出す能力を持つだけの、弱い悪魔。 だがある時、彼は気付いた。生み出した悪魔を吸収すれば、レーモン自身の能力は強化されるということに。 その時から彼は、力を得ることに魅入られてしまった。 自身の生み出した悪魔を暴れさせ、ほどほどに強くなったところでそれを吸収し、自身の力の糧とする。そんなことをどれほど繰り返しただろうか。 ただ、強くなりたい一心で。 動かない身体で、しかしレーモンは腕を伸ばす。 自身の生み出した悪魔の中でも最強だと思っていたデーモンヘッドは、しかし義衛郎の剣に切り裂かれ粒子となって消え去った。 「このボトムにふらふらとやってきてしまったことが最大の敗因のようだな、レーモン君」 麗香の声が耳に届く。 背後を振り返る暇もなく、レーモンの首筋に衝撃が走る。 直後……。 彼の視界は闇に包まれ、意識が途切れた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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