●剣林五人と元剣林 「ソロモン七十二柱の魔神?」 「そうだぜぃ。そしてそれを召喚した『魔神王』キース・ソロモン。バロックナイトでも有数の実力者が来日している……いや、していたのかねぃ」 ここは街中にある小さな公園。そこに一組の男女が立ち話をしていた。内容はというと、台風の如くアークを揺るがした魔神騒動の件である。 「要約すると、キースに喧嘩を売られたアークがそれに対抗した形かね。去年も同じことがあったらしく、魔神はアークをその気にさせるための楔だったようだぜぃ」 「ふむ、興味深いな」 男性のほうが地図にバツ印をつけて魔神がいたと思われる場所を示し、女性はそれを見て頷く。男性のほうは露骨に嫌な顔をした。彼女は剣林フィクサード。それ以前に付き合いの長い女性だ。次に何を言い出すか大体理解できる。 「一応言って置くけど、魔神はもう残ってねーから。魔神に喧嘩を売りに行くとか無理だからな」 「良、そっちは興味ない。メインディッシュが残っている」 「……まさか、キース・ソロモンのほう?」 「無論だ。さぞかし倒しがいのある相手なのだろう。聞けば魔術師にして近接もこなすとか。そして知名度の高さもある。倒せば一気に知名度が上がり、様々な挑戦者が私たちの首を狙ってやってくるだろう」 うんうん、と首を縦に振る女性を前に良と呼ばれた男性はげんなりとした顔をした。ええい、この真性バトルマニアが。 とはいえ、彼女の思考はこの剣林ではそれほど珍しいものではない。求道なら六道だが、戦闘そのものを楽しむのが剣林だ。ましてやこの女性には一つの目的がある。 「おまえを剣林に戻す手土産としては過不足ない」 「寧ろお釣りが来ますけどねぃ。つーか、色々お待ちになりやがれ菫」 よし出発だ、と背を向ける女性にストップをかける男性。この女性――十文字菫は剣林を抜けた自分を戻し、そして剣林最強まで押し上げようとしているのだ。戻るつもりはもうないのに。 「色々無理だから。人数とか、それ以前に相手の場所とか」 魔神王に挑むには、相当に準備が要る。まずは戦力。そして相手の居場所。 「うむ。問題ない」 武闘派……悪意をもっていえば脳筋と呼ばれる剣林だが、けして戦いに関して無能ではない。相手の戦力も分からず突貫する無謀な蛮族ではないのだ。力量の差を理解して、それを如何に埋めるか。策とは情報の理解から始まる。その上での『問題ない』だ。 「人数に関しては既に用意済みだ。良を入れて六人。精鋭ぞろいだ」 「何……だと……!? あ、楠木さんお久しぶりです。そっちは三上ちゃんだっけ。そこの二人は……新人?」 呼び出されて出てきた四人の剣林フィクサードに挨拶したり確認したりする良。自分が剣林を抜けた後に入ってきたメンバーもいる為、挨拶に少し手間取った。その隙を縫うように菫は言葉を続ける。 「そしてキースの居場所だが当てがある。 キース・ソロモンはアークと喧嘩をしたと聞く。なら殴りあって友情が芽生えたはずだ。なので三高平にいると見た」 「いやねーから」 菫の推理を即座に否定する良。しかし真実は小説よりも奇なりなのである。戦闘狂なりに通じるものがあるのだろうか。 「……じゃあ、三高平市にキースがいないって分かれば帰るってことにしましょうか。調査期間は一週間ぐらい」 「ふむ……妥当だな」 長年の経験で菫の説得は無理と判断した良は、適当な条件を出して妥協させることにした。剣林フィクサードが動けば、『万華鏡』抜きにしてもアークリベリスタも察知してアクションがあるだろう……という算段だ。 (ま、いない者を探しても何もでませんから楽な話ですぜぃ) この判断が間違っていたと知るのは、かなり後の話である。 ●アーク 「混ぜるなデンジャー。わかるよなお前たち」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、説明を開始する。 モニターに写る剣林フィクサード六人。それが三高平を調べている。三高平に入る流通業者から話を聞いたり、セールスを装って三高平市内に電話をかけて話を聞こうとしたり。三高平に入ろうとしないのは、面倒ごとを避けるためか。 彼らの目的は『キース・ソロモンの捜索』……アーク自体への戦闘行為ではない。だが、 「バトルマニアとバトルマニアが出会えば戦うことは必至。そしてその情報が漏れれば他の剣林もやってくるだろう。仇か、戦闘目的か、名声か。 理由はどうでもいい。連中が潰しあう分には知ったことじゃない。――だがキースがまた魔神を呼ぶとかいう事態だけは真っ平ゴメンだ」 剣林フィクサードがアークに魔神王がいると知れば、万難を廃してでも魔神王に挑むだろう。そうなればキースも全力で挑むに違いない。例え魔神を召喚してでも。去年の悲劇が再来しかねない。 何せ剣林は『一般人がどうなろうと』戦えればいいのだから。ある意味キースと最も水の合う組織だ。 「……OK。オレ達は何をすればいい?」 「『三高平を調べられるのは迷惑だ』っていう理由で殴りかかれ。調査が割に合わないとわかれば彼らも手を引っ込めるだろう。 うってつけの場所にスタッフが誘い込むから、そこで迎撃してくれ」 ことの重要性を理解したリベリスタは、神妙な顔で頷いた。 「向こうもキースが本当にいると思っている人間は少数だ。命のやり取りというレベルにはならないだろう」 良かったなおまえ達、と肩をすくめる伸暁。それでも相手は剣林である。手を抜けば怪我ぐらいはする。戦闘無しで彼らを満足させ、かつ納得させることは出来ないのだ。 全く面倒な時に……。そう愚痴りながらリベリスタたちはブリーフィングルームを出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年10月11日(土)22:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「良く来たな。俺様が歓迎するぜ」 金髪のカツラとキースの顔を模したお面。それっぽい衣装まで着込んだ『足らずの』晦 烏(BNE002858)が、わざわざキースの声真似までして剣林の前に立ち出迎えた。勿論すぐに作り物と分かる程度の出来なのだが、 「見ろ、良。キースだ」 「落ち着け。あれは偽者だ」 十文字がそれを見て指差し、水原がツッコみを入れる。予想通りだと烏が頷いた。 「相変わらずの面白姫様だな」 その様子を見て緋塚・陽子(BNE003359)は呆れたように頷いた。だがその勘は侮れない。ほぼノーヒントで三高平の爆弾を当てたのだから。情報が規制されてなければ、酒場でその話に盛り上がりたいぐらいだ。 「うん、大変だね……ツンドラさん……」 言い合う剣林の二人を見て『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)はなんともいえない笑みを浮かべた。個人的には邪魔したくないのだが、事が事なだけに止めなくてはいけない。同情はするが、任務は別だ。 「氷原狼さんはセリエバの時はどうも。お久し振り。そちらが十文字のお嬢さん?」 『黒き風車と断頭台の天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)は水原に挨拶し、その隣で腕を組んでいる女性を見る。利害の一致で水原と同じアザーバイドを追ったことがあるのだ。そんな縁がフランシスカにはある。 「年長者として言うが、将来の事は話し合ったほうが良いぞ」 十文字に振り回されている様子を見て『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)はため息と共に忠告を贈る。それは年長者としての責務か。あるいは自分のようになって欲しくはないという老婆心か。 「細かいことはいーじゃねェか! 派手に楽しもうゼ!」 牙をむき出しにして『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)が拳を手のひらに当てる。相手は武闘派剣林。戦いを誉れとするフィクサードたち。殴りあいが楽しいのは、コヨーテも同じだ。一陣の風が、赤いマフラーをたなびかせる。 「まぁ、貴方達みたいな人嫌いじゃありませんけど」 無表情で破界器を構える『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)。人を貶める悪意ではなく、力を振るうことによる悪人。その我が道を進む様はうさぎは嫌いではない。だが彼らを放置した結果の未来は、流石に頂けない。 「世の中はそう簡単にいかない。それを教えよう」 碧眼に敵意を乗せて『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)がコンバットナイフを構える。剣林のフィクサードからすれば、キースは確かにいい対象だろう。だがそれをさせないのが今回の任務だ。そのための盾となろう。 「ふむ、アークのリベリスタか。予想通り罠だったな」 「してどうするかな? ここで引くのも手だが」 「だがここでアークを倒しておくと、箔があがるな」 「どちらでもいいよ。逃げるなら殿になるだけさ」 十文字、楠木、エドウズ、石川の順に口を開く。言うまでもない、とばかりに現状リーダーの十文字が腕を組み答えた。 「罠は踏み潰す。連中を倒して情報を得るぞ」 水原と三上はその言葉にこっそりため息をつき、楠木、エドウズ、石川は待ってましたとばかりに破界器を構えた。 アークと剣林。革醒者たちはそれぞれの思惑の元にぶつかり合う。 ● 「君の相手は僕だよ!」 「まぁ、そう来ますよねぃ」 真っ先に動いたのは悠里だった。独特の足運びで水原に近づき、拳に冷気をまとわせる。身体を僅かに沈め、全身の筋肉を引き絞る。自分の間合を保ちながら冷気を拳に集中させる。 水原の足を止めながら、拳を放つ。牽制用のジャブの後に本命のストレート。拳の軌跡に合わせて氷霧が舞う。ここで水原を足止めするのが自分の役目。仲間を生かすために最大限の行動を。それが自分の役割だ。 「彼に仕事をさせない為に、僕は動きを止める事に集中する! 皆、頼むよ!」 「うへぇ、先手取られたのは地味にキツいねぃ」 「真っ先に敵陣に入って自分に気を引かせたかった、というところか」 水原のボヤキを受けて、ウラジミールが水原の考えを看破する。それをやられれば出鼻を挫かれていただろう。そのままウラジミールは楠木のほうに迫る。右手にはコンバットナイフ。左手には異世界のナイフを構えて。 逆手のナイフを構えなおし、防御の構えを取る。そのままコンバットナイフを振るい楠木に切りかかった。楠木の扇がそれを塞ぎ、互いの力が拮抗する。互いの視線が交差し、拮抗が崩れたと同時に互いの武器が交差する。二のナイフと二の扇。休む間もなく響きあう金属音。 「矜持にてこれより先には行かせん」 「いいですよ。お相手しましょう」 「じゃあ私の相手は貴方ね。同じダークナイト同士、楽しく遊びましょ?」 黒の剣をエドウズに向けるフランシスカ。それに応じるようにエドウズも剣を向けた。黒のオーラを刃に乗せるフランシスカと、オーラを体内で循環させるエドウズ。同じダークナイトとはいえ、その方向性はまるで異なる。 フランシスカがその体にしては大きすぎる剣を振るう。刀身にオーラを乗せて、一気にエドウズに叩きつけた。鍛えられたフランシスカのパワーと呪いを篭めた黒の刃。数多の経験を刻んだ戦士の剣がエドウズに襲い掛かる。 「再生封じの一撃……レディ、ダークナイト相手の闘い方に慣れてるな」 「アンタと似たような相手を知ってるのよ。――結局勝てないまま逝かれたんだけど!」 「そういう縁もあるわな。さてこちらの縁も奇妙なものだが」 フランシスカの言葉を聞いて烏が軽くため息をつく。その『相手』とは知らぬ中ではない。頭を切り替え、戦場を見やる。既に乱戦になった前線に閃光弾を放つことを諦めて『二五式・真改』に指をかけた。 戦場の様子を目に写し、脳内で強くイメージする。そのイメージを意識したまま、烏は空に銃口を向けて引き金を引いた。弾丸は神秘の力を受けて空から降り注ぎ、的確に敵陣に降り注ぐ。烏の脳内でイメージした通りに。 「緩い交流に賊軍相手の共闘、その次は相対か。世の中面白いものだな」 「全くだ。三度邂逅して一度も素顔を見たことがない相手というのもな」 「そういえば変相二度目か。それ以前に頭巾とってないものな」 十文字が返した言葉に陽子がうんうんと頷いた。一度目は熊マスクで二度目はキース、その下は三角頭巾だからなぁ。そんなことを思いながら陽子は鎌を振りかぶる。翼を広げて、後ろにいる三上の方に向かう。妨害されると思ったが、そんな様子はなかった。 地面を蹴り、宙を滑るようにして三上の元にたどり着く陽子。そのまま三上に向かい鎌を振り下ろす。厄を力に変える三上と、賭けを信条とする陽子。共に運気に依存する革醒者の攻防。三上の肩が鎌で裂かれ、今回は陽子の勝ちとなる。 「伸るか反るか、運試しといこーじゃねーか!」 「……私に近づくと、その運が落ちますよ」 「運が落ちても勝つのはこっちだッ!」 同じく三上に向かうのはコヨーテだ。獣のように前のめりに駆け出し、一気に三上の元にたどり着く。そのまま拳に炎を宿らせて、三上に殴りかかった。防御を無視した完全前のめりスタイル。戦闘狂ならではの攻撃特化。 火力に全てを捧げながら、卓越した格闘センスで三上を追い詰めるコヨーテ。機械となった両腕が振るわれるたびに、周りの空気が大きく揺れる。コヨーテの拳が一撃決まればそれだけで戦局は揺れ動く。 「やられる前にやる! の心意気で、攻撃に集中すンぜッ!」 「いいねぇ。そういう精神は大好きだよ」 「相変わらずのようだな、とめさん」 コヨーテの勢いに太鼓判を押す石川。その石川に相対する為に伊吹が歩を進めた。白の腕輪を手首に填め、石川の間合ギリギリの位置に立つ。互いに一歩踏み出せば間合の中。殺意と戦意の圧力が、言葉なく互いに圧し掛かる。 先に動いたのは石川だった。両手のカタールを握り締め、相手の虚を突くように一歩踏み出す。その一撃を腕輪で受け止めた伊吹は、石川に目をくれずにもう片方の腕輪を楠木に向かって投擲した。庇おうとする楠木の足をとめる鋭い一手。 「やはり剣林の水が合うのか。生き生きしているな」 「坊やは変わったねぇ。昔はもっとギラギラしていたのに。アークに入って『守る』ようになって牙を抜かれたかい?」 「『守る』方が厳しい戦いになります。戦闘狂なら守る側につくべきじゃないですか?」 石川の言葉にうさぎが一言付け加える。厳しい戦闘を求めるなら、勝利条件は厳しくすべし。聞いてくれるとはうさぎも思っていない。むしろこんな言葉で止まるような相手なら、剣林にはいないだろう。 『11人の鬼』を構えて、三上のほうに走るうさぎ。最初に入れた傷口をえぐるように、角度の違う十一の刃のついた破界器。幾たびの戦いを越えてきたうさぎの相棒。それを手に相手の懐に飛び込んだ。うさぎを中心に剣林フィクサードたちの血煙が舞う。 「私たちに勝てないようでしたら、魔神王に挑む権利すらありませんよ。何せ私たち、彼に負けているんですから」 「一理あるな。よし勝とう」 うさぎの挑発に首肯する十文字。あっさり言い放つのは性格か、あるいは余裕か。 戦いは熱く加速していく。 ● リベリスタたちは先ず三上を狙った。全体攻撃を仕掛ける厄介な後衛であると同時に、数を減らしたいという意味も含めて集中砲火を敢行する。ある程度回避能力のある三上だが、一流リベリスタ三人の攻撃は捌ききれない。 数に劣る剣林フィクサードは、如何に相手の攻撃を捌いて短期決戦で押し切るかがキモとなる。つまり、集中砲火で攻撃の要である三上が落とされるのは痛手なのだ。そのためのカードは用意してある。 「か弱い乙女を苛めるなんて紳士じゃねーと思わないかい、ダンディ?」 「悪いねロシヤーネ。あんたとの戦いは感性を刺激されるが、仕事優先でね」 それは水原の神秘の言葉交じりの挑発と、防御力に長けた楠木のカバーリング。これによりダメージを分散させる。――ここまではリベリスタも予想はできた。 「わらわら集まったねぇ。いい的だよ!」 三上を狙う為に後衛に突撃したうさぎ、陽子、コヨーテ。そして庇い手の楠木。そこを中心に光が爆ぜる。石川の閃光弾だ。これにより三上に集まっていたリベリスタは、僅かに攻撃の手が止まることになる。 「後衛にフラバン!?」 「成程、遂行者に庇わせての範囲麻痺攻撃か」 「そういうことで。因みに俺の挑発は三角頭巾とグラサンの旦那にですぜぃ。本当はそこの軍人さんもと思ったんですがねぃ。お堅いことで」 烏と伊吹からの敵意を受けながら、水原が口を開く。苦笑しながらウラジミールに視線を向けた。 「その程度の挑発に乗るわけにはいかないのだよ」 任務に徹するウラジミールは事も無げに告げて、皆を叱咤激励する。挑発と閃光に気勢を削られていたものが、我に返る。 「そろそろ体力が尽きる頃か」 烏は戦場全体に弾丸をばら撒きながら、機を見て銃口を楠木に向けた。放たれる告死の弾丸は扇と扇の間をすり抜けてそのプロテクターを貫く。堅い防御力にある一点の隙間。そこを縫って弾丸は楠木の胸に穿たれた。その衝撃に膝を突く楠木。 だが、フィクサードも無抵抗ではない。楠木が庇った時間に放たれた弾幕と炎。それによりリベリスタの体力を大きく奪っていた。 「死んでも負けたくねェ!」 「まだまだチップは尽きてないよ!」 「こんなところで止まるわけにはいかないのよ!」 コヨーテ、陽子、フランシスカの三人が三上の弾幕で運命を削る。そして、 「十文字君はおじさん狙いか」 「その射撃は面倒なのでな」 十文字の炎が烏を襲う。戦場全体を襲う炎と小さく絞った小さな炎。その熱気に負けぬと烏は運命を燃やす。 「エネルギー尽きた……後は任せた、よ」 「そうはいくか」 初手から大技を繰り返し、技を放つ気力が尽きた三上が十文字を庇う。それを阻止するように伊吹が白の腕輪を投擲する。混乱させて判断を狂わせる一撃。 「それはこちらも同じさね。おねんねしときな」 「うひー。流石に楽じゃねですねぃ」 石川と水原の攻撃で伊吹と悠里が崩れ落ちる。負けてなるかと運命を燃やし、拳を握った。 「そりゃそうですよ。こちらも魔神王再戦のために鍛えてるんですから」 うさぎが水原の言葉に答えながら三上に破界器を振るう。相手の虚を突く攻撃が三上の意識の外から襲い掛かり、気力を保つ隙すら与えずに地に伏した。 これで八対四。だがリベリスタの半数以上は運命を燃やしており、剣林には体力に幾分かの余裕がある。 (作戦のミスはない。概ね予想通りの展開だ) リベリスタたちは焦燥に駆られながら、しかし油断ならない状況であることを肌で感じていた。 ● 楠木、三上をたおし、リベリスタの次の目標は十文字だった。もとより後衛型である十文字は体力が高くない。一気呵成に攻めればすぐに倒れてしま―― 「まだまだ!」 「フェイト復活!?」 深い傷に運命を燃やし立ち上がる十文字。炎を放つその様は、不死鳥を想起させる。 「覚悟の差を侮ったか……!?」 リベリスタは当初『三人を戦闘不能にしたら降伏勧告』する予定だった。互いに殺意なく、落とし所としては妥当な条件だろう――相手が戦闘を終えたければ、だ。 「流石に簡単には倒れてくれませんね」 「負けるわけにはいかない」 「ここまでか。後は任せたぜッ!」 十文字を攻めている間に、彼女から放たれる炎が荒れ狂う。うさぎとウラジミールの運命を削り、攻めに特化するコヨーテの意識を奪い取る。 「横槍がなければ……ちくしょう!」 「まぁ、仕方ないか」 自らの体力を削りながらエドウズを攻めていたフランシスカと、後方から射撃を行っていた烏が力尽きる。ほぼ同時のタイミングで十文字が力尽きた。 「大体、テメーが剣林に戻れば姫さんもテメーの手柄立てに………悪ぃ、戻っても姫さんは同じ事しそうだな」 陽子が水原に鎌を振りかぶる。よくお分かりで、と渋い顔で水原は頷いた。十文字を攻めていたうさぎとウラジミール、そして元々水原を相手していた悠里の四人。元々体力を削りながら闘うスタイルの水原は、長くは持たな―― 「流石に辛いですねぃ。あらよっと!」 「おまえもフェイト復活かよ!?」 一度力尽きるが、運命を燃やして立ち上がる水原。 だが戦いの趨勢は、この時点で決していた。火力と防御の軸を崩された状態で、剣林に逆転の目はない。 「ここまで殴りあったんだから友情とか芽生えないかな?」 「芽生えるには夕日の河原がなかったってことで……がく」 何とか悠里を戦闘不能に追い込むも、そのまま水原は倒れ伏した。 「若いのにだらしないねぇ」 それでも戦意を失わない剣林達。カタールを構えて石川が笑い、エドウズが傷を癒しながら剣を構える。 「全く。水を得た魚だな、とめさん」 伊吹がそんな石川達の様子を見ながら破界器を構えなおす。リベリスタ時は旧知の仲だったが、今はそれを言っている余裕はない。 「オレはこっちだ!」 「そうですね。再生能力を封じている間に攻めましょう」 陽子がエドウズに切りかかり、再生応力を一時止める。その隙を縫うようにうさぎが切りかかった。 「ナイフにはこういう使い方があるのだよ」 ウラジミールが両手にナイフを構えて石川に迫る。石川のカタールとぶつかり合い、激しい音が響く。 「ツキが落ちたか……!」 陽子がエドウズの剣に力尽きるも、そのエドウズ自身もうさぎの一撃に耐え切れずに地に伏した。 残った石川はそれでも戦意を収めるつもりはない。戦闘に狂う石川のカタールが翻り、伊吹の意識を奪う。まだ動けるウラジミールとうさぎは疲弊する石川に向かって破界器を振るった。二対一。ダメージ具合を考慮すればリベリスタに負けはない―― 「まだまだ終わらないよ!」 「ええ、貴女はフェイト復活するでしょうね」 運命を燃やし立ち上がる石川に、うさぎが迫る。外せば石川に攻撃されて次はないだろう。そんな状況でも心を乱さなかったのは、握り締めた破界器の感触かあるいは戦闘の高揚か。 「かるく捻るとはいきませんでしたが……これで終りです」 横なぎに払われるうさぎの破界器。石川はにやりと笑みを浮かべ、そのままゆっくりと倒れていった。 ● 小細工を弄すれば、隙をつかれて負けていたかもしれない。真正面から挑む覚悟が、この結果を生んだのだ。 とはいえリベリスタの六人が戦闘不能で、残った二人もその一歩手前だ。うさぎとウラジミールはその場に座り込み、回復に努める。剣林フィクサードを拘束する余裕は二人にはなかった。 半刻ほどで互いに意識を取り戻し、何とか身を起こす。剣林たちは敗北を知り、キース捜索を諦めることを告げた。割に合わないこともあるが、自分たちの実力不足を痛感したところもある。 「打倒アーク! 次は負けんぞ」 「……まぁ、また会いましょう」 「今度はキースじゃなくオレに会いに来いよなッ」 負けてなお意気込む十文字に、うさぎとコヨーテが再会を臨む一言を告げる。 (キースへの矛先がアークに変わった形か) ウラジミールは冷静に状況を判断し、とりあえず厄介な未来は回避されたことを確認する。 剣林達が去り、リベリスタたちも背を向ける。しばらく七派とは関わりあいたくないと言いながら帰路に着いた。 そんな彼らを待ち受けていたのは、三尋木からの合同作戦―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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