下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






鈍色の境界線

●灰色のケモノ
 夜のしじまに灯る街燈の明かりが点り、辺りを淡い橙色で照らし出す。
 灯の下にぼんやりと浮かぶ鈍色の鉄柵。その内部には大理石の墓碑が立ち並び、夏だと云うのに何故だかひんやりとした空気が漂っていた。
「やだ、決行嫌な雰囲気じゃない?」
 怖がる様子の女の肩を抱き、大丈夫だと告げた青年は手にした懐中電灯で鉄柵の向こう側を照らす。流れる汗が不思議と冷や汗のように感じるのは、其処が墓地だからだろうか。
「ただの墓場だって。いざとなったら俺が守ってやるからさ」
 そして、カップル達は僅かに怖気付きながらも、肝試しをするべく鉄柵を乗り越えた。
 ――然し、その遊び半分の行為は彼らを死へと導くものとなる。
 怖々と墓地を進む二人を鋭い視線が刺す。気配を消して暗がりに潜むソレらは、爛々と輝く赤い眸を光らせて獲物を狙っていた。牙を剥き出し、爪を尖らせ、唸りを上げたケモノは狼犬にも似ているが、否――ソレは異形と成り果てたモノ達だ。
 二人が悲鳴を上げる間も与えず、飛び掛かった獣達は彼らの喉を食い破り、爪を立てて肉を引き裂く。塵灰色の毛並みは散る血によって赤く染め上げられ、淡い灯の下で鈍い光を反射していた。
 死臭を纏うケモノは、やがて獲物を喰い尽してその場から走り去る。
 残ったのは、かつて人間だったモノの残骸。そして――赤黒く残った血の跡だけ。

●眠る死者の檻
 夏と云えば――その先に続く言葉や物は人それぞれ。
 だが、殊更怪談系統に答えを偏らせるならば、多くの人がこう答えるだろう。それは『肝試し』だ、と。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、その最中に異形と出会ってしまった恋人の未来を語り終え、小さな溜息を吐いた。
「深夜0時過ぎ、カップル達は鉄柵を越えて墓地の内部に入り込んでしまうの」
 それを許してしまえば、彼らは視えた未来のように喰い殺される運命を辿るだろう。
 だが、幸いにも此方は時計の針が真夜中を指す前に、現場に辿り着く事が出来る。あとは彼らが来る前に戦いを終わらせれば、事件が起こってしまうことはない。そう告げたイヴは、次に倒すべき敵の詳細を語りはじめる。
「敵はE・ビースト。灰色の狼に似た姿で、その牙と爪は異様に大きい」
 その数は三体と少ないが、其々の力は相当なものだ。
 また、戦場となる墓地は等間隔に墓碑が立ち並んでいる。無論、墓碑を壊すような戦い方はしてはならないので、何かしら立ち回り方を考える必要があるだろう。若干の戦い難さはあるが、意識して動く事が出来れば問題はない。
 そして全ての情報を語り終えたイヴは、戦いを終えた後は好きにしていいと告げる。
「夏と云えば肝試し――だけど、程々に」
 ね、と見上げるように差し向けられた双眸は、何かを言いたげに静かな色を湛えていた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年09月02日(金)21:16
はじめまして、犬塚ひなこと申します。
初めてのシナリオは純戦闘と決めていました。
格好良い描写を目指して頑張ります、どうぞ宜しくお願い致します。

●任務達成条件
E・ビーストすべての撃破

●エリューションビースト
 現れるのは三体。
 元は狼犬。灰色の毛並みを持ち、禍々しい雰囲気を漂わせています。
 爪と牙を使って視界に入ったものに襲い掛かります。
 特に変わった能力はありませんが、動きが素早く一撃ずつがとても強力です。

●戦場など
 時刻は夜、人気のない墓地が戦場となります。
 戦闘で甚大な被害が出ず、無事に戦闘を終えられた場合は事後に若干の自由行動が出来ます。(ただし、リプレイ内の比率は少なめです)ある意味、夏らしい雰囲気をお楽しみ頂けると幸いです。

 それでは、どうぞ宜しくお願い致します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
日下禰・真名(BNE000050)
マグメイガス
雪白 音羽(BNE000194)
デュランダル
東雲 未明(BNE000340)
プロアデプト
オーウェン・ロザイク(BNE000638)
デュランダル
日野宮 ななせ(BNE001084)
ナイトクリーク
鷹司・魁斗(BNE001460)
★MVP
プロアデプト
山科・圭介(BNE002774)
クリミナルスタア
幸村・真歩路(BNE002821)

●闇夜の獣
 人々の多くが闇を恐れるのは、其処に何が潜んでいるか判らぬ故。
 錆び付いた鉄柵を越えた先――死した魂を祀る墓所にも、ある種の闇が潜んでいると云えようか。

 時刻は、真夜中を巡るより少し前。
 街燈の薄明かりに照らされていても空には月は視えず、一寸先は暗闇。ふと息を吐き、『現役受験生』幸村・真歩路(BNE002821)は此方と其方を隔てる鈍色の柵に手を掛けた。
「それにしても、カップルで肝試し? 青春ね、青春なのね?」
 羨ましくなんかないわよ! と、ほとんど負け惜しみにも近い言葉を呟きながら、真歩路は行動を共にする仲間達に視線を遣る。結界の他、念の為にと立ち入り禁止の紙を柵に張っている『1年3組26番』山科・圭介(BNE002774)も被害者の事を思って、リア充め! と奥歯を噛み締めている。だが、準備を終えた彼らが鉄柵を乗り越えた瞬間、その表情はリベリスタとしてのものに変わっていた。
「ま、放置は出来ないしな。俺って良い人! ってことで、頑張って倒す!」
 圭介の意気込みを聞き、『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)は、くすりと淡い笑みを浮かべる。たとえ言葉は軽くても、彼女は識っていた。
 今此処に集った仲間は皆、悲惨な未来を起こさぬ為に集まっているのだと――。
 降り立った墓所は静謐な空気に満ちている。
 雪白 音羽(BNE000194)は双眸を細め、僅かに羽をはばたかせると暗視で周囲を見渡した。近寄る者も殆ど居ない筈の其処には、確かに何かの気配が感じられる。ソレが倒すべき敵のものなのだと分かると、音羽自身の胸の裡も徐々に昂ぶってゆく。
「……獣臭い」
 不意に、静寂の中で落とされた呟きは『夢幻の住人』日下禰・真名(BNE000050)のもの。一歩踏み出した事で、さらりと肩を滑った彼女の髪は夜に融けるかのような漆黒を映し出していた。
 此方が気配を感じ取れたと云うことは、あちらもリベリスタ達を気取っていると云うこと。
 次の瞬間。前方に現れた三対の光る双眸は、傍から見れば酷く恐ろしいものにも思えただろう。だが、『薄明』東雲 未明(BNE000340)は恐怖など欠片も感じていない。
「……アークの仕事を続けていると、素直にこういう雰囲気を楽しめなくなってきちゃうわね」
「まったくだ。ではミメイ、行くとしようか」
 彼女の発した言葉に頷き、『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は、自らの得物である機械刃を構えた。
 墓標の合間から姿を露わにした獣たちは、低い唸り声をあげて此方を睨み付ける。相手は此方が戦い易い場所を探す暇や、準備を行う間すら与えずに現れてしまったが、それも致し方ない。隣り合う未明とオーウェンは一瞬だけ視線を交差させると、狙うべき敵の姿を見据え返した。
「さて、躾の時間だぜ?」
 口許を緩め、薄い笑みを浮かべた『深闇を歩む者』鷹司・魁斗(BNE001460)の真白な尻尾がゆらりと揺れ、それと同時に纏っているアクセサリが小さな金属音を鳴らす。
 そして、彼らが標的目掛けて地面を蹴った刹那――。
 戦いの始まりを告げるかのように、獰猛なケモノの咆哮が辺りに響き渡った。

●駆ける狗
 じとりと絡み付く獣の視線は、温い空気と相俟って肌に纏わり付く。
 灰色の狼犬は、向かって右側に一匹、左側に二匹。リベリスタ達は予め抑え役を決めており、先陣を切って二匹が固まっている左側へと駆けた魁斗に続いて真歩路がその傍に付く。そしてオーウェンと未明がもう片方を引き受ける形を取り、ななせたち四人が残った一体へと集中攻撃を仕掛ける手筈だ。
「まずは一体、早々に落とせるように頑張りますっ!」
 鉄槌を掲げ、ななせは最初に倒すべき獣に向けて一撃を打ち据えた。輝く光の軌跡が弧を描き、その衝撃に短い鳴き声が漏れる。
 だが、灰色の獣とて牙を剥き出して標的を定めた。振り上げられた鋭い爪は、ななせと同じくして前に出た真名の肌を容赦なく切り裂き、赤い血を滴らせる。しかし、彼女は痛みすら感じていないかのように虚ろな瞳で虚空を視ていた。ふふ、と零れた笑みに乗せ、真名は今のお返しとばかりに獣へと獲物を薙いだ。
「さて、次は俺の番か。覚悟しろよ、お前等」
 墓碑越しに見える敵を睨み付け、詠唱を紡いだ音羽は己の魔力を増幅させる。身体中を駆け廻り、漲る力は次への布石。
 次に続いて駆けた圭介も仲間の補助をするべく、生命の力を世界から借り受けると、先ずは真歩路へと癒しの力を宿した。己の役割は主に回復の手を持たぬ仲間を後方から支えること。凛と敵に向けた瞳は真剣そのものであり、圭介は掌を強く握り締めて口許を引き締めた。
 施された癒しの力に短く礼を告げ、真歩路は魁斗の戦う様を横目で確認する。
「楽しませてくれよ、お前等。――行くぜ」
 掌で器用に気を操り、魁斗が絡ませた魔糸は狼犬の動きを縛り、確かな麻痺の効果をもたらしてゆく。獣特有のしなやかな身のこなしで戦う青年の動きは、挑発的だが的確な行動を示している。
「あたしだって、やれば出来るはず!」
 墓碑の合間を擦り抜け、 真歩路は拳を握り締めると灰獣へと力いっぱいの一撃を打ち放つ。
 その実、彼女はつい最近に覚醒したばかりのリベリスタだ。喧嘩すらまともにしたことのない少女は、今も己のスタイルを確立しようと必死に敵に立ち向かっていた。想いは強く、自分自身も強く在れるように――抱いた気持ちは駆け出しであろうと、皆と同じ。
 一方、オーウェン達も果敢に敵を抑えていた。
 それでも、牙を向く魔犬の力は相当なもの。戦気を高めた未明が繰り出す一撃と同等、もしくはそれ以上の爪撃が常に二人に浴びせ掛けられている。
「なかなかやるじゃない」
「俺達で倒してしまっても、などとも言ってはいられないな」
 全力の防御と吸血で堪える未明を庇うように、オーウェンは灰獣と彼女の間に身体を滑り込ませる。奇しくも彼の放った呪印封縛はうまく作用せず、飛び掛かった敵の牙が腕に食い込んで鮮血が辺りに散った。
 息の合った連携を見せる彼らが、このまま相手を抑え続けることは不可能ではないだろう。だが、たった二人で早期に敵を倒すことまでは難しいように感じられる。
 未明とオーウェン、二人は互いを支え合うことを胸中で誓い、其々の武器を敵へと向けた。

 敵はたった三体。されど――未だ三体。
 一撃の重さを感じ取り、圭介は攻撃を行うことよりも癒しの力を施す事を優先していた。全体から見れば僅かな効果しか及ぼす事が出来ない癒しだが、懸命な力は仲間の確かな補助となっている。
「まだまだ、この程度じゃ負けねぇっての!」
 纏わり付くぬるい風を振り払うように頭を振り、圭介達は果敢に牙を向く標的に立ち向かい続ける。往く手を阻む墓石を砕かぬよう、細心の注意を払いながら戦いを続けることは神経を削ったが、そんなことで根を上げてはいられない。
 幾度かの攻防を経た後、音羽の組み上げた四重奏が夜のしじまを翔け抜ける。
 様々な色を宿した光が解き放たれる様は、まるで夏の空に上がる花火のように暗闇を彩った。その上、活性化された力は強い魔力を宿しており、標的の身を激しく打ち貫いてゆく。
 身を捩った獣は衝撃に喘ぐが、代わりに真正面に位置する真名へと飛び掛かった。
 しかし此方とて、唯やられてばかりではない。身を貫く痛みに堪え、真名は灰色の獣の血を啜るべく反撃に移る。
「……獣の血、美味しくないわ」
 力を奪い取り、指先についた赤い血を舐め取った彼女は至極つまらなさそうに呟いた。
 見れば、灰獣は既に大幅に力を失っている様子。しかと標的を捉えたななせは、相手の身体が揺らいだ隙を突き、全身の力を武器へと注ぎ込む。
 幸いにして、敵の背後には壊してしまいそうな墓石はない。
「今がチャンスですよね。一気に行きます、覚悟して下さい!」
 気合いと共に短く息を吸ったななせは鉄槌に込めた力をひといきに解き放ち、敵の灰色の毛並みを薙ぎ払う。衝撃に吹き飛ばされて地に転がった灰獣は力を失い、二度と起き上がることはなかった。

●血の花降りて
 慣れぬ銃を扱い、早撃ちを仕掛けていた真歩路の息は僅かに上がっていた。
 しかし一匹が伏した事で、拮抗していた形勢はリベリスタ達の有利な方へ傾き始めている。
 このままの流れに乗れば、きっと勝利は掴める。そう、真歩路自身が事前に切った仁義も、自ら引き寄せた運命も伊達ではないのだから――負けるわけにはいかない。
「あたしは未だ大丈夫。寧ろ、此処からが本番ね!」
 一匹目を倒した仲間達が傍に付いたことで、少女の表情に明るい笑顔が宿る。その調子だ、とからかうような笑みを見せた魁斗だが、真歩路を狙う狼犬の様子に逸早く気付く。
「チッ、元気なのはイイが、手間かけさせんじゃねーよっ!」
 素早く敵との間に割り込んだ魁斗は悪態を吐きながらも、襲い来る牙から仲間を護りきった。
 すかさず音羽が彼を補助するように、四重の魔力を奏でる。光に彩られた敵を打ち、続いたななせが剣撃で一気に集中攻撃を仕掛けてゆく。
 終わらぬ戦いの最中、掌で気糸を操ったオーウェンは灰獣の足元へと狙いを定めた。爪を立てる敵の怒りを誘い、彼は攻撃を己へと導くことに成功する。それは自然と相方である未明を護る事にも繋がり、オーウェンは碧眼を僅かに細めた。
「今のうちだ、ミメイ。斬り倒せ!」
 しかし、たとえ風向きが此方の追い風となったとしても、未だフェイントを仕掛ける暇はないと彼は判断した。呼び掛けられた声に頷き、未明は大剣を掲げて高く跳躍する。
「言われずとも……地面じゃなくて、頭上注意よっ!」
 宙から繰り出される斬撃は狼犬の毛先を斬り裂き、大きな衝撃を与えた。一匹目を倒した仲間達は未だ片方の応援へと回っている故に、彼女達は後少しばかり今のまま堪えなければならない。
 ――けれど、二人でならば出来る。
 確信を抱いた未明は再び剣を振り上げた。一度は倒れかけた身だが、運命の力は彼女に戦い続ける力を与えている。そして未明は傍に添うオーウェンと共に、しかと前を見据えた。

「よしきた、やっと俺の出番――なんて、な」
 癒しを仲間に施し尽くした圭介は、漸く自分が攻撃に回れる機会が訪れた事に小さな笑みを浮かべる。回復手の少ない中、戦いは苦戦と呼ぶに相応しかった。だが、動き辛い墓所で見事に状況を察して行動した彼の力が、今までの戦線を辛うじて維持させていたのだ。
 圭介は走り回る間に散々注視していた敵の動きを予測し、その隙を突いた一撃を放った。
 響く痛みに短い鳴き声をあげた狼の力は弱まり始めている。虚ろな瞳を向け、標的を見つめる真名は己の刃に力を宿す。狼犬からは倒れてしまいそうなほどの一撃が打ち込まれたが、彼女はフェイトを使って持ち堪えた。そして、そのまま打ち放たれた斬撃は獣の身を抉らんばかりに迸り、その体力を一気に奪い取る。
「さて、そろそろ終わりにしようぜ?」
 よろめいた敵を真紅の片眸に映し、魁斗は破滅の黒を己の周囲に纏わせる。彼の湛えていた笑みが一瞬だけ消えた瞬間、その力は猛威となって敵に襲い掛かった。しかし、その一撃は相手を屠るには僅かに足りなかったようだ。舌打ちをした魁斗は横目で真歩路を見遣ると、ただ一言「行け!」と呼び掛ける。
 彼の言葉に頷く代わり、少女は瞬時に超速で戦場を駆けて敵の背後を取った。
「最後の最期は、痛みを感じる前に終わらせてあげる!」
 灰色の毛並みはその首根ごと一瞬で掻き切られ、獣は断末魔を上げる暇もなくその場に倒れる。
 これで、残るは一匹のみ。
「好い加減、全部に決着を付けねーとな」
 長く続いた戦い、その逆境を乗り越えてこその今が在る。口許に浮かびそうになる笑みを抑え、音羽は最期に向かいゆく標的へと魔力を解き放った。同時に吹き抜けた風は彼の翼と赤茶の髪を撫ぜ、揺らぐ血の香りは辺りに融け消えてゆく。
 荒く息を吐く獣は尚もオーウェンを狙い、その身を貪り喰わんと牙を突き立てる。だが、光刃を揮い返した彼の一撃も容赦なく敵の力を削り取っていた。
 此方の消費は激しいが、あと僅かだと感じたななせは武器を構え直し、其処に有り丈の力を宿らせる。光を宿した鉄槌はそのまま真っ直ぐに振り下ろされ、トドメの一歩手前まで灰獣を追い詰めるまでに猛威を振るった。
 ふらついた犬の命はもう幾許も残っていない。意を決した未明はふたたび大地を蹴り上げ、闇が広がる空へと跳躍した。
「行くわ、これで決めて見せる――!」
 例えるならば、それは空から降り注ぐ刃の雨の如く。血の花を散らせた強襲の一撃は狂犬の命を摘み取り、生を失ったソレは力無くその場に伏す。
 そして、戦いが終幕を告げた刹那――雲間から降り注いだ月光がリベリスタ達を淡く照らし出した。

●夏夜の怪談
 吹き抜ける夏の風は僅かにぬるく、戦いの熱とはまた違う暑さが肌を包む。
 街燈の光の下、見渡した墓所には特に目立った傷や跡などは見えない。ほっと胸を撫で下ろしたななせだが、戦いで傷付いた自分達の身は相当な血に塗れていた。それでも、任務を果たしきったことは誇るべきことだ。
「で、今から肝試しをやんのか?」
 興味無さげに煙草に火を付けた魁斗が問うが、時計を見れば既に針は深夜0時を示している。
 反射的にリベリスタが鉄柵の方向へと視線を向けた時、例の男女らしき声が墓場前から聞こえて来た。ヤバいな、と圭介が身を隠そうとするが、既に彼らは此方の姿を目視できる距離まで近付いている。そんな時、周囲の事など御構いなしだった真名が何も無い所を見つめ、不意に笑みを湛えた。
「う、ふふふふ……」
 笑い声と共に鈴の音がちりんと鳴り、血塗れの女は空ろな瞳で虚空を見上げる。更に風に揺れた黒髪は宙に波打ち、その光景は知らぬ人が見れば不気味に思えただろう。
「――――ッ!」
 瞬間、男女達が恐怖に慄いたらしき悲鳴が響き渡る。
 一瞬遅れて其処から駆け出していく足音が聞こえ、オーウェンや未明をはじめとしたリベリスタ達は思わず顔を見合わせた。彼らには直接の被害は無かったから良いものの、真赤な血に塗れたリベリスタ達の姿は実に恐ろしく映ったはず。
「まぁ何だ、意図せず新たな怪談でも作っちまったかね」
「こんな血だらけじゃ、あたしだってお化けと見間違えちゃうかも」
 悪びれた様子も無く、音羽は逃げ去った男女の居た方向を見遣ってぽつりと呟く。驚きを通り越して何故だか可笑しくなってしまった真歩路も、くすりと小さな笑みを浮かべて頷いた。
 いつか、この墓所に血濡れの霊が出るのだという話が広まるかもしれないが、それはまた別の話。

 鈍色を映し出す境界の中、ひとつの闇が葬られ、ひとつの噂が生まれ落ちた。
 今宵に起こったのは、唯それだけのこと。見上げた夜空は、何処までも遠く――近付く夏の終わりを映し出しているようにも感じられた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 初シナリオとして、緊張しながらも全力を込めて執筆させて頂きました。
 事後の肝試しのお話は此方でも色々と考えを巡らせていたのですが、戦闘の流れと皆様の状態を見て、こういった締めとなりました。怪談話はよく見たり聞いたりするのですが、本当に怖いのは色んな意味で生きている人間、という考えを持っている犬塚です。

 皆様に少しでもお楽しみ頂けたならば、何よりの幸いです。ご参加ありがとうございました。