● ペリカンの像が据えられたその城はヴィスワ川の下流の畔に位置していた。 見下ろせば赤い屋根と、その向こうに川が流れているのが見える。緑の美しい、良い街だ。 地面を踏みしめた青年が息を切らして走って居る。手にした白い刃は何処か薄汚れて見えた。 跳ね橋を通り過ぎ、ペリカンの像が存在する中庭の井戸の傍を走り抜け、城門を目指し、走る、走る。 「スワヴォミル!? 何処に行くの! それを何処にやるというの!」 声を荒げ、女が呼んだ名前に青年が肩を揺らす。 彼の瞳に浮かんだのは恐怖の色、只、其れだけだ。 手にした白い剣を何処かに隠さないと、と。そんな思いだけが胸の中を渦巻いた。 「スワヴォミル! 待ちなさい。それは私たちの――白い鎧盾の……!」 その声にスワヴォミルは首を振る。ここで脚を止めてしまっては折角の計画が台無しだ。 フォーチュナである彼女に見つかってしまったのは偶然では無く必然なのかもしれないが、先を見通す能力と言うのは味方であればいいが、敵だとやはり、面倒な代物だ。 マウゴジャータと追いかけてくる彼女を振り返れば、唇を噛み締め、彼女は「止しなさい」と囁いていた。 「マウゴジャータ、違うよ。これは呪われた剣なんだ。俺達は、これを、何処かに葬らなきゃいけない」 「違う、それは」 「違わないよ。だからね、許して、マウゴジャータ」 目を見開く彼女の目の前で、落とし格子が下りて行く。 彼女が纏う鎧の色もまた、白色だった。 ● 「アーティファクトの保護をお願いしたいの。名前は、現地の人達は『白い聖刃』と呼んでいる模様よ。 これはとある事件で戦ったリベリスタの所有していた剣なの。その想いからか不思議な力を持ったと言われている――まあ、簡単にいえば神秘の力を宿した剣なわけね」 『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は写真を幾つか机に並べながらリベリスタを見回す。 現地の人、と言った通り、机にもう一つ置かれたのはポーランド行きの航空券だった。 「ポーランド、場所はマルボルク。そこに存在する城が目的地よ。ドイツ語ならマリーエンブルク城。ヴィスワ川の下流の畔に位置するとても素敵なお城なの。観光で行けないのが残念だわ」 肩を竦め、世恋はマルボルク城の写真を幾つか提示する。ペリカンの据えられた井戸が印象的な中世の城だ。何処か、崩れた聖堂も修復した城とのアンバランスを感じさせる。 「とある事件について先に言っておくわね。 ポーランドは私達も出会った事が在るケイオス・カントーリオによる『混沌事件』の現場よ。その時、大損害を受けたのが白い鎧盾というリベリスタ集団。私たちは『混沌組曲』を打ち破った英雄としてポーランドに讃えられている――からこその、聖刃の保護の依頼なの」 どれ程大事な物なのか、と世恋は写真を見詰めながら溜め息をつく。 ユリアンと名乗る男が混沌事件を辛うじて最後まで生き抜いた時に手にしていた剣こそがこの『白い聖刃』。生き残った白い鎧盾のメンバー達は彼等を英雄だと讃えた事だろう。復興のためのシンボルだ、と呼ぶかのように。 「でも、その剣を呪われた剣だと言う青年が居た。それがスワヴォミルという人ね。 彼はこのアーティファクトを持ちだして、城の中を走り回っているわ。どうやら彼は別のアーティファクトを所有してるみたいね?」 「別の……?」 「白い鎧盾のフォーチュナ、マウゴジャータさん曰く『呪われた剣だと思いこんでるから剣を持ちだした』だとか『エリューションを何処からか呼び出してるけど、他のアーティファクトの効果かしら』とのことだから……」 詰まる所、想いを増幅させ、キャパシティを越えた所でそれがエリューションになると言う事だろう。 何にせよ、彼が恐怖心にかられれば城の外に飛び出し、危害を加えて可能性だってある。 外に出ない様にと現地でリベリスタ達が城を包囲し、何とか聖堂近くまで押し込めたそうなのだが―― 「人手が、足りないの。白い鎧盾は復興の途中だから……だから、ここからが皆へのお願い。 スワヴォミルをぶん殴って、アーティファクトを壊して、『白い聖刃』を保護してきて欲しいの。あ、生み出されたエリューションは倒してね。彼が不安に想っているのはそのアーティファクトが何かの危害を加えないか、なのだけど、そこは大丈夫よ。妖しいものじゃない事は私が保証するから……今の彼じゃ話しを聞かないだろうし、取り敢えず殴ってお話ししてきてね。 本当に、其れだけよ。あとはええと――観光しましょうか! なんてね。お仕事がんばってね?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年10月13日(月)22:09 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● かつてドイツ騎士団が居たと言う城の中は改修工事が施されたのか、美しさを保っていた。 こちらですと促される様に歩きながらこの地に存在するリベリスタの名を冠する白い鎧と盾を装備した『桐鳳凰』ツァイン・ウォーレス(BNE001520)は何処か喜びを隠せないと言った表情で周囲を見回して居る。 「鎧姿も似合ってるねジャータさん、本格的に再建できそうでなにより!」 ぱちくりと瞬きを幾度か繰り返した『白い鎧盾』のフォーチュナが嬉しそうに笑みを浮かべる。再建に向けて徐々に歩み続けるポーランド組織に対し、好感を覚えて居る『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)も憂いを帯びた紅色の瞳に幸福そうな色を灯している。 「復興のシンボルが禍々しいものだって、言うんだよね?」 確かめる様に告げるアンジェリカは首を振る。彼女がであった事のある白い鎧盾のリベリスタ、かの混沌事件を生き延びたリベリスタの想いを感じとった事のある彼女だからこそ、「そんなことないよ」と告げる事が出来たのかもしれない。 「効果のわからないアーティファクトを呪いの剣と称するとは……馬鹿馬鹿しい」 サングラス越しに怜悧な眸を細めた『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)は唇に指を当て思案するかのような姿勢を取る。神秘探究同盟の戦車の座に位置する結唯にとってアーティファクトの探究は命題と言ったところだろうか。 効果は解らずとも、神秘の力を帯びた武器をアーティファクトと呼ぶならば、この白い鎧盾が復興のシンボルとして掲げた刃にはどの様な効果が在るのか。結唯には非常に興味深いことなのだろう。しかし、それよりも―― 「スワヴォミルが付けて居ると言うアクセサリーが問題……なのだろう。今回はたまたま買い付けた者の所為だと言うならば、助けてやることも出来るだろうが……」 「この場所の支柱たるシンボルを喪う事で崩壊は無いにしても士気には大きく影響するでしょうし、取り戻しましょう」 淡々と告げた『剛刃断魔』蜂須賀 臣(BNE005030)の金の竜眼がぎょろり、と聖堂の入り口を捉えた。 彼にとっては姉が出会った事のある『混沌事件』の死霊遣いの足跡が残るポーランドも興味深い対象であるかもしれない。ちらり、と視線をポーランドのホーチュナ、マウゴジャータに移した臣は「思いの外、」と小さく呟いて見せた。 「壊滅したと聞いていたリベリスタ組織『白い鎧盾』……活気がありますね。 コンダクターが倒れた事、奪われたと言う『白い聖刃』という心の支えのお陰でしょうか……」 確かめる様に呟く臣の言葉に耳を傾けながら、自身の腕に備え付けた『錆び付いた白』の重みを確かめて『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は黄昏色の眸で聖堂を睨みつけた。 この中にターゲットはいるのだという。アーティファクトに心を苛まれ、復興のシンボルを悪しきものだと判断した男が立てこもり今も怯えているのだと言う。杏樹は「勇気ある行動だと思う」とため息交じりに漏らし、魔銃バーニーの冷たい感触を確かめた。 ● 聖堂の扉にほっそりとした指を当て、武器の類全てを装備せずにこの場所に望んだ『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)は浅いため息をつく。 普段ならば両親へとお祈りをする彼女だが、今日は憚られる気がして「お父様、お母様」と呼ぶ事もなく唇をきゅ、と閉じる。 重たい扉の奥、寂れた空間に「ひ、」と息を飲む声が響く。 「スワヴォミルさん……?」 一言、アンジェリカが優しく、それでいて確かめる様に問い掛けた。 この聖堂をぐるりと囲んだ白い鎧盾の面々。スワヴォミルと呼ばれた青年を逃がさない様にと配置したのはアークのリベリスタへの僅かながらの支援なのかもしれない。 「だ、誰だよ……! 日本人!? く、来るなよッ!?」 「落ちつけ! お前を攻撃する訳じゃない! まずは落ち着いて話しを聞いてくれ!」 周囲を跋扈するエリューションの存在へと杏樹が反応する。魔銃バーニーの銃口に怯えた様に声を荒げたスワヴォミルに気付き、武器を幻想纏いの中に仕舞いこんだツァインが焦りを浮かべて話しかける。 周辺に存在したエリューションへと視線を向けて童子切の切っ先を煌めかせた臣が地面を蹴る。荒れ果てた聖堂の床を踏みしめてバネの様に跳ねあがった少年の小さな身体は敵の存在をその両眼に収めて居た。 「『剛刃断魔』、参る」 ハッキリと、己の存在を誇示するかのように名乗り上げた臣をじいとスワヴォミルの不安げな眸が見つめている。彼の眸に映ったのは臣の力一杯の攻撃だけでは無い、驚くほどに――術者の瞳の色を映し出したかのような赤く美しい月の色。 弾丸が飛び交い、結唯がスワヴォミルを一瞥するが、説得を行わんとしゆっくりと歩み寄るツァインや淑子の様に言葉を掛ける気は無いのだと彼女は肩を竦めてみせた。 (まったく……難儀な奴もいる物だ。余計な手間をかけさせないでほしいものだな……) 溜め息に混ざった意味を淑子が感じとり、瞬いて『難儀』な男を見詰めて息を吐く。 「何で、こっちに来るんだよ……」 「武器も防具も、持って居やしないわよ」 両手を広げ、鎧に包まれた小さな身体がスワヴォミルにはどうにも恐怖の対象に見えてしまう。 幻想纏いに武器を仕舞ったツァインは白い鎧と盾を手に青年が落ち着く様にと宥めすかす仕草をしてみせる。杏樹の観察眼に加えて淑子の知識を精一杯に活用し、スワヴォミルの持つアーティファクトの存在を探り続けている。 降り注ぐ焔の雨に怯えた様なスワヴォミルの様子に結唯が感じて居たのは一種の苛立ちだろうか。ポーランドでの観光を楽しみにしてきた結唯にとっては直ぐ様にでも解決したい事件の一つなのだろう。 視線を揺れ動かせる。『代償も効果も分からないアーティファクト』があるのだというならば、結唯の持ち得る知識では、寿命を欲する者もあるのだなと彼女は熟考する。その傍ら襲い来るエリューションへと弾丸を放ち、武器を足元へ所がした。 「私たちはエリューションの排除を第一目的にしている。どこが発生源か解らないけど、片付けないと落ち着いて話しもできないだろ?」 「な、何の話が必要なんだよ……ッ」 「呪いのアイテムを自分で処理しようなんて、貴方は勇気ある人だね。だけど、ボクにはそれがそんなに怖いものには思えないんだ」 『それ』と呼ばれた刃にスワヴォミルの視線が落とされる。白い聖刃と呼ばれた小ぶりの剣は混沌事件の時に彼らの先輩に当たるリベリスタが使用して居たものなのだという。その彼が命を喪ったのはこの剣が寿命を吸ったからではないか――そんな不信感が青年の心を支配していたのだろう。 「これの何処が聖なる刃なんだよ! こんな、訳分からない奴の何がシンボルだって!?」 吼える様に告げるスワヴォミルに近付く為にツァインと淑子が一歩一歩歩み寄る。来るなと吼える声に臣が眼を伏せ、目の前のエリューションへと刃を振り翳した。 エリューションの数はそれほど多くもない、強くもないこの状況でいつエリューションが現れるか分からない。それでも、説得には必要なのだと臣は刃を床へ突き刺してその手を離した。 ● 武器を持たないとその両手を広げた淑子に怯えた表情を向け続けるスワヴォミル。武器を手にせず、戦う気もないと彼女はその身全てで露わしている。 「……ああもう、アクセスファンタズムごと放り投げたって構わないわ。貴方に殺される事は無いでしょうしね」 それは、淑子の強さだったのかもしれない。臆病な青年を信頼しての行為は武器や防具と言う自分の身を護るものすべてを放り出して初めて為せるものだ。淑子と共に前へ進むツァインは剣を床へと滑らせスワヴォミルへと手渡した。 「少しの間、お話しをしましょう? これで死んだりしたら笑い話にもならないって解ってるわ」 「……ボクには、悪い人には見えないんだよ」 手放したLa regina infernale。胸元で揺れたロザリオへ視線を落としながらアンジェリカはアマーティレプリカモデルを引きならす。彼が、スワヴォミルが少しでも落ち着けるように、と。 武装を解除したマウゴジャータが扉の影からリベリスタを伺っている事に杏樹が気付き、視線をスワヴォミルへと移す。いつエリューションが現れるか分からないと警戒する彼女の気配を感じとってか後ずさった青年にツァインは頬を掻いた。 「俺は、その剣の事をよく知らない。混沌事件を生き延びた人が振るってた剣だそうだな。 楽団とは俺達も戦った、仲間の死体が襲ってくる恐怖……それを俺だってこの目で見たよ」 一つ一つ、確かめる様に語るツァインの言葉に耳を傾けて、マイナスイオンを纏ったアンジェリカが唇を噛み締めた。きっと、彼は怖いだけなのだ、と彼女は解って居たのだから。 「……周りのエリューションを生み出したのはその剣だと思ってるの?」 確かめる様に、アンジェリカはスワヴォミルへと問い掛ける。生まれたエリューションに咄嗟に反応した様に杏樹が引き金を引き、臣が刃を振るう。 頬に掠めた攻撃に小さな舌打ちを漏らし結唯が銃口をエリューションへと向けた。焔の雨と弾丸の雨を買いぐるり臣は一気呵成に攻め続ける。 近接での攻撃を行うエリューションへと地面を踏みしめて身体を捻りながらも放った一撃が臣の小さな身体へと衝撃を与える。少年に与えた反動は己の剣士としての技術が足りないからかと鬼を纏ったかのように彼は唇を噛み締めた。 回復として与えられたツァインの加護を受け、走り寄って大鎌を手にしたアンジェリカが赤い月を燻らせてエリューションへとその魔的な光を浴びせ続ける。妖光を浴びながらも杏樹が攻撃を錆び付いた白――この地に生きた男の想いの詰まった盾――で受け流し、銃の引き金を引いた。 その傍らで、スワヴォミルに近寄る淑子は攻撃を受けながらも頬を伝った血を拭い真っ直ぐに青年を見詰めた。 「眼を覚ましなさい。あなたのしている事は何? 仲間と傷つけて、危険に晒して……そんなことがしたいというの?」 「ち、違う……だって、俺は……」 「エリューションを生み出したのはね、貴方が身につけてる別のアーティファクトの仕業なんだ。 貴方がその白い聖刃を信じられないなら、それでボクを傷つけて呪いを施すか試したらいい。ボクは白い聖刃を、白い鎧盾を信じてるから」 フォーチュナが『危ないものじゃない』と告げた言葉をアンジェリカは信じて居るのだと胸を張ってスワヴォミルを見据える。 指先が震え、怯えを孕む青年の眸から何かを感じとれればと杏樹が観察して居た傍ら、彼女の視線に止まったのは青年の付ける腕時計の異様さ。視線に気付き、ツァインが頷いた。 「その剣が本当に呪われていたとしてもだ。多分皆もそれでいいって言うと思うぞ? 象徴ってのはそういうもんだ、バカな話し化もしれねぇけどな。思い出してみろよ、その剣を見る時の皆の顔を」 笑っていただろ、と頬を掻いた青年の言葉にスワヴォミルが俯いた。周囲にエリューションが生み出されない事は彼が落ち着いたからに他ならないのだろう。 武器から手を離し、それでいて腕時計へと視線を向けた臣と杏樹は互いに頷きあい機会を伺っている。説得をメインに行動するツァインと淑子が作りだす『アーティファクトを壊す絶好の機会』を伺うかのように。 「他者を護りたいから、貴方は己が傷ついてでも戦う道を選んだのではないの?」 その言葉に、青年は唇を噛み締めた。 臆病者の自分は彼女の様に、アークのリベリスタの様に武器を持たずに説得を行えるほど『強く』ない。どうしようもなく辛い気持が胸の奥を締めつける。 「護りたくて、やったんだ……そしたらこのザマだよ……」 「私は、お前のその行動が勇気から来てるものだと思う。呪われた剣だから仲間から遠ざけたのなら、凄い」 それは杏樹の心からの言葉だったのかもしれない。アンジェリカも同じ気持ちだよと小さく笑みを浮かべる。 呪われた剣だからと走り出したその行動は勇気に他ならず、彼が弧の状況に陥ったのはその心を悪意を以って増幅させるアーティファクトがあったからだ。 「貴方の所為じゃないんだよ。貴方の気持ちを他のアーティファクトが大きくしてるんだ」 一つ一つ、宥める様に告げるアンジェリカにスワヴォミルは俯いて「アーティファクト」と囁いた。 「この状況は他のアーティファクト――その腕時計が問題なのだと判断している……違ったなら謝る」 その時は、自分がその『聖刃』を葬ると杏樹はスワヴォミルの表情を伺う様に告げた。 彼女達の目的はエリューションを討伐し、その刃を保護する所にある。それゆえ、術者として存在する青年が出来得る限り生きて居て欲しいと彼らはしっかりと考えて居たのだろう。 俯いた青年へと真っ直ぐに歩み寄り、淑子がその掌で頬を打った。 「眼を覚ましなさい」 ぴしゃり、と。それは真っ直ぐな言葉に他ならない。俯いた青年に「今です」と頷いて臣が刃を振り翳す。集中を重ね、傷つけぬ様にと素早く抜き去った刃がスワヴォミルの腕時計を傷つける。続く様に放った杏樹の弾丸が、腕時計を壊し、床へと転がせた。 「こちらのフォーチュナの診断では、その剣の能力は『邪悪なモノ』ではありません」 「信じろ、ってか……そんな、良く解らない診断を、信じろってか?」 「なら、信じさせてやるって。こいよ、スワヴォミル」 臣の言葉に項垂れた青年へとツァインが人好きする笑みを浮かべて手招きする。落ちたアーティファクトを拾い上げたアンジェリカが見上げた先、唇をわななかせる青年の手を引いて、聖堂の外へと歩き出す淑子とツァインに続く様にリベリスタ達は武器を手に外へと歩き出す。 周囲を取り囲む白い鎧盾の面々は喜びを孕んだ声で「アーク!」と呼んだ。スワヴォミルの手から奪った聖剣を掲げたツァインは声を張り上げ、笑みを浮かべた。 彼が与えた十字の加護が戦いに赴くその意志を極限にまで高めていく。士気の高さに圧倒された様に臣は小さく唇を歪めた。 「皆を見ろよ、これがこの剣の力だ! 呪いなんて余裕で吹っ飛ばせるだろ? お前もこの剣に恥じぬ様に強くなれ、スワヴォミル!」 ● 「人々には道を示す導が必要なのだ。それを貴様が持ち去ろうと言うならば容赦はしない」 睨みつけた竜眼に竦んだ様に青年が剣を落とす。臣が正義を掲げるならば、それは白い鎧盾も同じだと彼は感じとっていた。導たる希望にして正義の象徴があるからこその『今がある』と少年は幼いながらも感じとって居たのだろう。 困難な道が待ちうけて居るのだと臣は理解している。ポーランドさえも屍で築かれた王国なのだから、血の川を渡ろうとも、人々が光と希望を信じる事が出来るなら英雄が生まれる可能性もあるのだと、少年らしい英雄譚を信じるかのように彼は淡々と告げて見せる。 「ねえ、スワヴォミルさん、その寝ぼけた眼を開いて、よくよく周りを見て御覧なさい。……大丈夫だから。ね?」 武装すらせずに相対するリベリスタへとスワヴォミルは俯いて唇を噛み締めた。怖くないと囁くように笑った淑子の声に、愚かな自分の存在に気付いた気がして、遣る瀬なくて首を振る。 立ち尽くすスワヴォミルへと近づいて、杏樹は首から下げた弾丸のペンダントへと指で触れる。 背後でその様子を見詰めている淑子も杏樹の行動の意味に気付いたのか、静かに眼を伏せた。 シスター然とした杏樹は真っ直ぐなまでのお人好し。苛立ちを胸に宿したかのように、青年の胸倉を掴み上げ拳を一気に振り翳す。 「理由はどうあれ、痛み分けだ。仲間に怪我をさせたのだから」 「ッ――」 衝撃にふわり、と足取りを頼りなさげにした彼の身体を片手でさりげなく支えた臣が溜め息を混ぜて顔を上げれば周囲を取り囲む鎧盾の面々はほっと安堵した様に息を吐く。 「……俺がこれを着るのも最後にしたいと思う。これからは本物の活躍を俺に見せて欲しい。 あ、手助けはいつでも呼んでくれよ! そんじゃ色々案内頼もうかな、施設内と……観光も!」 唇を釣り上げて笑ったツァインに瞬いて大きく頷いたマウゴジャータへと結唯は魔術書は無いだろうかと問い始める。 誰が彼にアーティファクトを与えたのか。何処にだって蔓延る悪を感じながら臣は悩ましげに唇へと指を当てた。 柔らかな陽が、少しの肌寒さを運んでくるポーランドのマルボルク。その城跡を眺めながら幼い少年は色違いの眸を細めて、溜め息を吐いた。 しゃがみ込んだスワヴォミルが呆然と頬の痛みを感じて居る中、手を差し伸べた淑子は立ってと囁いた。 「観光案内くらいはしてくださるのでしょう?」 目配せした淑子に頷いてスワヴォミルがアークのリベリスタを振り仰ぐ。 マルボルクの空は、何時もより澄んで見えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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