● クライシスホテル 小さな森の、狭い道を抜けた先、そのホテルはたっていた。赤煉瓦の色そのままの壁は、森の雰囲気と完璧にマッチしているように思う。 昔の洋館を改築したような外観と内装が、そのホテルの売りであった。交通の便が悪いという事もあって、決して客数が多いというわけではなかったが、それでも常時、5〜10人は長期滞在している、隠れた人気店だ。 しかし、その日に限っては些か様子が異なっていた。 普段は、のどかな、それこそ俗世から切り離されたような超然とした雰囲気が漂っているのだが、どういうわけか、今現在ホテルから感じる印象は、まるで廃墟のそれである。 人が住んでいない。或いは、生気の失せた、そんな印象。 正面玄関の大きな木製ドアを開けて館内に入ると、真っ先に視界に飛び込んできたのは、シャンデリアにぶら下がった巨大な繭であった。大きさは3メートルほど。時折、どくん、と胎動しているので中に潜んだ何者か生き物のようだ。 繭は分厚く、攻撃は通りそうもない。普通の繭なら、火をつけてしまえばすぐに燃え盛るのだろうが、この奇妙な繭の表面はまるで鋼のような光沢がある。炎や刃、銃弾など、全て弾いてしまいそうだ。 それに、繭の存在も気にかかるが、館内にいる筈の人間の気配がしないのも不安要素の1つ。生きていれば良いが、果たしてどういった状況にあるのか、現状でははっきりしない。 目下の所、危険視すべきは館内の至る所を這い回る、体調50〜1メートルほどの、紫色をした毛虫達の存在だろう。 その数は、およそ20と言った所だろうか。好き勝手に動き回っているようにも、何かの意思に従ってどこかへ向かっているようにも見える。 なにはともあれ。 このホテルで起きた異変を解決することが、リベリスタ達に課せられた今回の任務の内容だ。 ● 毒蟲警報発令中 「Eビースト(毒蟲)と(不気味な繭)の討伐。それと、行方不明のホテルスタッフ&宿泊客の捜索。それが今回の任務の概要ね」 人気の耐えた森の中のホテルなど、まるで古典ミステリのようだ。 そんなことを思いながら、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まった仲間達に事件の概要を説明する。 「館内にいた人間の数は8名。全員、現在は居場所が不明。外出中の者もいるかもしれないけど、全員揃ってホテルを留守にしていたとは考え難いから、恐らく既に死亡したか、どこかに捉えられているか」 どちらにせよ、ろくな目にはあっていないだろう。 それを思うと、幾ばくかの焦りを感じる。 「館内は3階建て。部屋数もそう多くはない。階段は、東と西の端にそれぞれあるわ。入口を入ってすぐに開けた空間が広がっていて、天井には巨大な繭が下がっているけど、これに攻撃しても今の所無意味」 どういった素材で出来ているのか知らないが、繭に対してはあらゆる攻撃が無効化されるようだ。 「気になるようなら、見張りでもつけておけばいいと思うけど。優先すべきは毒蟲と行方不明者の捜索ね。毒蟲はあまり素早い動きはできないけど、気配を遮断する能力と、死ぬ直前に毒を持つ体液をバラまく性質を持っているわ」 毒だけでなく、麻痺や石化、混乱などの効果をランダムに与えて来る体液だ。できることなら避けたいが、そう簡単にはいかないだろう。 「1体1体はそう強くないから。注意していれば、大きなダメージは負わないはず。気を抜かないようにね」 それじゃあ、行ってらっしゃい。 そう言ってイヴは、仲間達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年10月07日(火)23:28 |
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■メイン参加者 7人■ | |||||
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●サイレントホテル 静寂の中、僅かに聞こえるズズズズという不気味な音。人気の絶えた小さなホテルを何者かが這いまわる音だ。元々は、十名近くの人間が館内にいた筈なのだが、今はその誰の姿も見受けられない。 代わりに、館内を這いまわるのは1メートル近い巨大な身体をもつ紫色の毛虫であった。 行方をくらました者たちがどこにいってしまったのか。それを見つけ出すために、アーク所属のリベリスタ達はホテルへと足を踏み入れた。 重厚な木製のドアをあけると、そこは広い天井のエントランスだった。エントランスの中央につり下がるシャンデリアには、中身の知れない巨大な繭がぶら下がっていた。 ドクンドクンと胎動する繭を見上げ『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は忌々しげに舌打ちを零した。 「巣を張って面倒なものだな。鬼が出るか蛇が出るか。繭もどうせなら栄養不足で育たず死んでいれば楽なのだが」 まさか人が入ってはいないだろうな、と最悪の状況を想像して彼女は眉間のしわを深くする。 ●毒蟲毛虫 「あうう、蟲がたくさん……。食べられたりするのは勘弁して欲しいです、やーん」 糸や毒液の散乱した絨毯の上を、低空飛行で飛びながら『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は瞳に涙を浮かべて、今にも泣きそうな声をあげる。婦人警官のコスチュームを身に纏い、自身の身分を誤魔化す用意も完璧だ。 「どっかの誰かが言ってました。人間には2種類居て『脚がないウニョウニョしたやつ(蛇とか)が苦手派』と『脚が長かったり多いやつ(蜘蛛とか百足とか)が苦手派』に別れる、と。まあ個人的には後者が苦手なんですがそういう意味で毛虫って最悪ですよね割と。動きが蛇とかそっち系のくせに細かい脚あるし、もさもさしてるし、しかも毒とかふざけんなですよ」 ぶつぶつと不満を口にしながら、イスタルテに続くのは『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレイン(BNE003170)だった。彼女の陣地作成によってすでにこのホテルは外部から遮断されている。これ以上、犠牲者が増える心配はないだろう。 「入口にあった繭は気になるが。まぁ、攻撃が通じぬならば仕方あるまい。暫く放っておこう」 黒のコートを翻し、巨大鉄扇を肩に担いで『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)も2人の後についていく。チームを2つに分けての館内捜索だ。 「……お出ましか」 階段にさしかかった所で、3人の眼前に6体の紫毛虫が姿を現した。 銃声が1発。毛虫の頭部を撃ち抜いた。さほど固くもない毛虫の頭部に穴が開き、さらに衝撃でその頭部から順に全身が爆ぜた。紫色の体液が飛び散る。薄い煙を撒きながら降り注ぐ毒液が『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)の身体に降り注いだ。 「……っぐ。毒蟲どもの目的はなんだ?」 階段の上から、数体の蟲が大挙して這い降りて来る。その数、10体にのぼる。階段一杯に毛虫が蠢いている状態だ。人によっては背筋が凍り付くような光景だろう。 事実、それを見ていた『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)も剣を片手に苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。 「まさかいままでに行方不明になった人のなれの果てじゃないでしょうね?」 剣を一閃。真空の刃が、最前列を進む毛虫を切り裂いた。毛虫自体は、さほど強くはない。ただ、命尽きるその瞬間に、大量の毒液を飛び散らせることだけが厄介だった。 「毒液対策! だらだら戦わずにぶっ飛ばしながらしとめーる!」 毒液を浴びながらも、麗香は階段を駆け上がる。結唯の援護射撃が、麗香に飛びかかる毛虫を撃ち抜いた。毒液を浴び、ダメージや状態異常を受けながらも麗香は前へ。渾身の力で振り抜いた一撃が、さらに1体の毛虫を斬り飛ばす。 「う、ぐ」 毛虫を1体斬り伏せた所で、麗香はその場に膝をついた。身体を蝕む毒液が、彼女の身を麻痺させたのだ。火傷に似た症状も窺える。どうやら毛虫の毒液は、強力な酸にも似た性質をもっているようだ。 麗香の元に、周囲の毛虫が殺到する。悲鳴をあげる暇もなく、麗香の姿は毛虫の中に埋もれて消えた。 「あまり想像したくないですが、既に亡くなってる人が居る可能性も否めません」 飛び散る燐光が、毛虫に襲われる麗香の身体を包み込む。カトレア・ブルーリー(BNE004990)の回復術が麗香の傷と異常を癒す。 結唯とユーヌの放った弾丸が、麗香に纏わり付いていた毛虫を撃ち抜き、押しのけた。その一瞬の隙を突いて、麗香の剣が一閃。毒液を浴びながらも、麗香は毛虫の包囲網から抜け出すことに成功した。 「まぁ、単なる害虫駆除だ。さっさと潰して始末して綺麗さっぱり消し去るか」 拳銃片手に、ユーヌはゆっくり前に出る。 進路を塞ぐ毛虫を退けねば、行方不明者の捜索にとりかかれない。 「発見した一般人は安全な場所まで連れ出すとして、どうやら毛虫達は一階へと向かっているみたいですね」 6体の毛虫を退け、治療を終えてからイスタルテの千里眼で館内を捜索。その結果判明したのは、毛虫達の目的地だ。別動隊として行動している他の仲間達も、階段部分で毛虫に遭遇したらしい。毛虫たちは一様に、一階へと降りて来ているようだった。 毛虫の数は全部で20と聞いている。 となれば、残る毛虫は4体。 「……いました! それに、繭の中に人がいます」 イスタルテの千里眼が捉えたのは、3階の大広間で蠢く4体の毛虫と、それから巨大な繭だった。 「虫も殺さないような人、って居るけど」 大広間のドアを開け放ち、セレアは杖を振り上げた。展開される魔方陣が、広間全体を覆う。 「あたしは割と容赦なくぶっ殺す方なので覚悟してね?」 杖の先端の宝石が光る。閃光に引かれるようにして、屋根や窓を打ち砕きながら、広間に凶星が降り注いだ。室内に居た毛虫達を次々に撃ち抜き、叩き潰していく。その度に飛び散る毒液を、イスタルテとシビリズの2人がかりで薙ぎ払う。 「私が壁となろう。耐久にはそれなりの自信があるのでな」 鉄扇で毒液を薙ぎ払い、或いはその身を挺して毒液から繭を庇う。繭の中身は行方不明の一般人であることは、既に判明している。 頬が、首が、腕が、毒液を浴びた身体が焼けるように痛む。いくらBS無効の能力を持っていようとも、ダメージまでは消せはしない。 しかし、シビリズが身を挺してまで庇った甲斐もあり、繭は無傷だ。中にいる一般人の無事を祈りながら、彼は繭の端へと鉄扇を差し込んだ。 繭から出てきた5人の男女は、皆一様に気を失い、命の危機に瀕していた。特にその中でも、年老いた老婆は状態が酷く、一刻を争うほどの重体だ。どうやら、繭の中で彼らはその生命力を吸い取られ続けていたらしい。 唯一意識を取り戻したのは、ホテルのフロントマンを担っていた若い男性のみだ。 「無事だったか。8人の宿泊客が居ると聞いたが、残る3人は?」 シビリズの問いに、呻きながら彼は答える。 「分からない。けど、数時間、前に、3人とも……外出、していった」 それ以降、帰って来ていなければ残る3名はホテルの外。セレアの陣地作成が解けるまでは、ここへ帰ってくることもないだろう。 それを聞いて、3人はほっと胸を撫で下ろす。 そうと分かれば、後は5人を外に連れ出し、病院へ搬送するだけだ。 それには手が足りない。ユーヌの影人に手伝って貰おうと決め、AFに手を伸ばした、その時だ。 ドン、とホテルが大きく揺れた。 10体の毛虫を討伐し、取り零しがないかと周囲を確認していたユーヌの耳が異常を捉える。一階から、小さく聞こえていた繭の胎動の音が、ここに来て急に大きく、そして激しくなったのだ。 音に反応し、顔を上げるユーヌ。他の仲間も、ユーヌにつられて一階へと視線を下げた。 と、その時だ。 ドン、とホテルが大きく揺れたのは。 埃と、木端が降り注ぐ。その中を、ユーヌ、結唯、麗香、カトレアの4人は階段を駆けおりた。毛虫達は一階へと辿り着けなかったが、代わりにリベリスタ達がエントランスへと足を踏み入れた。 「これか……」 そう呟いたのは、結唯だった。両手の銃口をエントランスの中央へと向ける。 そこで蠢いていたのは、紫色の翼と、赤黒い胴体を持つ巨大な蛾に似た生き物だった。翅に、胴に、無数の人間の顔が張り付いたような異形の造形。本来なら目のある部分にも、数十を超える顔が張り付いていた。 だらだらと、体から流れる紫の液体は毛虫のものと同じ毒液だろう。 バサリ、と大きな音をたて毒蛾はその翅を広げ、宙へと飛び上がったのだ。毒液の飛沫が飛び散り、周囲の壁や、リベリスタの身体を焼いた。 「なんだ、デカくて狙いやすい。外に居れば鳥のいい餌だな。ああ、だからそんなに毒を含むのか」 真っ先に動きだしたのはユーヌであった。懐から取り出した式符を投げる。魔法陣が展開され、式符は一瞬で不吉なオーラを放つ流星へと変化した。空気を切り裂き、毒蛾を射抜く。溢れた毒液が、繭の残骸を溶かす。飛び散った飛沫に侵されながら、ユーヌは更に式符を取り出す。 「神秘は秘匿されるべし。即座にアークへ連絡して増援を求めるべきだ」 ゆっくりと狙いを定め、結唯は1発の弾丸を放つ。彼女の放った弾丸は、まっすぐに毒蛾の右目を撃ち抜いた。無数の顔の1つが潰れ、断末魔の悲鳴をあげながらぼとりと床に落下した。床に落ちた毒蛾の顔は、溶け崩れて毒液に代わる。 紫の毒煙がエントランスに充満。下がって、と仲間に告げてカトレアが前に出た。 「あまり耐えられる身ではありませんが、毒や麻痺のような効果は受けないので、一時的であれば庇えますから」 ユーヌと結唯をその背に庇い、カトレアは杖を高く掲げた。 カトレアの全身から飛び散る燐光は、激しく渦を巻いて仲間達を包み込む。カトレアの術は、仲間の状態異常を癒し、その体力を回復させた。 「ミステリーは興味深いですがあいにくと脳筋バトルなでしこなんでっ!」 大上段に剣を振り上げ、麗香は叫ぶ。剣に蓄えたオーラを、その一撃に込め、振り下ろす。放たれたオーラの斬撃は、毒蛾の身体を深く切り裂く。 飛び散る毒液は、まるで意思を持っているかのようにリベリスタ達へと降り注いだ。 攻撃を放った体勢で硬直していた麗香は、頭から毒液を浴びその場に膝をつく。その体は、少しずつ石化していく。空中に飛散した毒液を更に拡散させるように、毒蛾は羽ばたく。風圧に押され、身動きの取れないカトレア達を尻目に、毒蛾は低空飛行を開始。突進の対象は麗香だ。 麗香の表情が凍り付く。受け身も取れない状態で、あの巨体から放たれる体当たりを受けては無事では済まないだろう。 だが、予想していた衝撃は麗香を襲いはしなかった。 「さぁ存分に死合おうかっ!!」 毒蛾の頭部を打ちのめしたのは、大上段から放たれたシビリズによる鉄扇の一撃だった。その口元には笑みが浮いている。毒蛾に張り付いた無数の顔が悲鳴をあげる。 さらに、シビリズに次いでエントランスに飛び降りてきたセレアが杖を振り上げ、呪文を唱える。杖の先端から迸った閃光が、エントランスに魔法陣を展開させた。 「手早く行きましょ。今のうちに治療を!」 シビリズとセレアが時間を稼いでいる間に、体勢を立て直したカトレアは回復術を唱える。燐光が、石化しかけていた麗香の身体から、異常を取り除いた。 毒蛾はゆっくりと、翅を広げて宙へと浮かぶ。その背に飛び乗り、シビリズは手近な顔へと鉄扇を突き刺した。 ●毒蛾の最後 式符を取り出し、攻撃に参加しようとしていたユーヌのAFがザーザーとノイズ混じりの通信を受信する。相手はイスタルテだ。 『ユーヌさん! すぐに3階に来てください。一般人の避難を優先させます。影人による助力を』 3階に残ったイスタルテは、瀕死状態の一般人の治療にあたっているらしい。 数度、毒蛾と階段を見比べ「仕方ない」と呟いて。 踵を返し、ユーヌは階段を駆けあがっていった。 シビリズの鉄扇が、毒蛾の接近を妨げる。翅を打ち、胴を薙ぎ、身体中に付いた顔を潰す。 セレアの放った凶星が、エントランスをめちゃくちゃに破壊した。壁に空いた穴から、毒煙が外へ漏れだしていく。 結唯の放った弾丸が毒蛾の翅に無数の穴を撃ち空けた。 彼らの役割は、エントランスで毒蛾の足止めをすること。あわよくば、迅速に討伐してしまうことだ。その間に、イスタルテとユーヌが見つけ出した一般人の治療と搬出をしてくれるはずだ。 カトレアは、傷ついた麗香に治療を終え、その背をそっと押した。 任せて、と麗香は呟き走りだす。 「エレガントな救出劇は期待しないでいただきたくっ」 床を蹴って、麗香が跳んだ。その足裏をシビリズの鉄扇が打ち払い、加速を加える。高速で空中へと飛び上がる麗香。大上段に掲げた麗香の剣に、膨大な量のオーラが集中。 雄叫びと共に剣を振り降ろし、オーラによる斬撃を放った。 ざくり、と毒蛾の顔面に深い傷が入る。 ゆっくりと、翅の動きが止まりそのまま床に、落下。それと同時に、充満していた毒が消える。どうやら毒蛾は、命尽きたらしい。 安堵の溜め息を零す一同。 そこへ、一般人を抱えた影人を従え、イスタルテとユーヌが降りてきた。後は彼らを、ホテルの外へと連れ出し病院へと搬送するだけだ。 毒毛虫に支配されたホテルでの異変は、これにて無事に解決だ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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