●調理法への異議提唱 「芋と栗の季節です」 それが、『直情型好奇心』伊柄木・リオ・五月女(nBNE000273)の第一声だった。 配られた資料も普段に比べて酷く薄っぺらい。おまけに写真やらが色とりどりで、実に鮮やかだ。もっともその内の大多数が、サツマイモやら栗なのだが。 「という訳で、エリューション化した芋と栗を適当に蹴散らして、アーティファクトを回収してきてほしい」 これが敵の資料な、等とフォーチュナはリベリスタ達に告げる訳だが、相変わらず資料には芋と栗とが躍っている。 詳細といったって、大学芋と炊き込みご飯になるのを嫌がる芋と栗が結託した模様としか書かれていない。 「いやあ……芋と栗にもプライドがあるんだろうな。芋側は焼き芋かスイートポテト、栗の方は焼き栗かモンブランにされるなら抵抗はしないと言って……言ってるのか、これ。誰が聞いたんだ?」 資料を読み上げながら首を捻り、五月女が軽く頭を掻く。 少しの間難しい顔をして資料を読み進めていたものの、思うような回答が得られなかったのか、一つ咳払いをしてリベリスタ達へと向き直る。 「と、取り敢えずアーティファクトを回収して、エリューション化した芋と栗を倒せば後は何とでもなる筈だから!」 まだ全部がエリューション化した訳ではないらしいし、と、そう告げながら場所の説明をする。 大体を伝え終えて資料をぱたんと閉ざした所で、五月女が思い出したように改めて顔を上げた。 「ああそうだ、すぐ近くにイノシシが住み着いているから、そっちも注意しておいてくれ」 多分エリューション化してるから。 あっさりとそんな言葉を告げて、白衣のフォーチュナはいつものように、よろしく頼むと告げたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:猫弥七 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年09月30日(火)23:13 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 薄暗い倉庫の扉は少し硬く、『永遠の旅人』イシュフェーン・ハーウィン(BNE004392)が手を掛けてもすぐには開かなかった。一度、二度と突っ掛かる事を繰り返し、最後にガタン、と一際大きな音を立てて開く。 開かれた戸口に日差しが差し込み、少し埃っぽい倉庫の内が露わになった。 然程広くない空間の片側には段ボールやネットの袋、別の隅にはストックなのか、空っぽのまま畳まれた段ボールや麻袋が積み重なっていた。 そしてそれら以上に露わなのが、まるで虫かネズミのように群れている――。 「わー、サツマイモと栗さんが沢山ですっ」 しゃがみ込んだシーヴ・ビルト(BNE004713)が、指先でちょんと栗を一粒突っついた。ころんと引っ繰り返った焦げ茶色が、手足もないのにぴょんと跳び上がり、そのままぴょこぴょこと倉庫の奥に駆けていく。 赤紫色の皮に乾いた土を付けたのや、尖がり頭も痛そうな小粒が、暗がりも日差しの下もお構いなしに転がったり跳ね回っていた。仮にネズミであったとしても、此処まで堂々とはしていないものだろう。 「ふふふ、抵抗は無意味なのですっ!」 万物に通ずというその意思を堂々とした宣言に変え、シーヴがエリューション達に向ける。しかしほんの数個が不思議そうに動きを止めただけで、他のエリューションは相変わらず跳ね回っていた。 その様子に少し眉を寄せたシーヴが、しかし次の瞬間にはぐっとその拳を握る。 「大人しくすればお望みの調理法で料理するのですっ」 途端にエリューション達が、ぴたりと一斉に動きを止める辺り、実に現金なものである。 「元気の良いエリューションですね」 口元に指を宛がった『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)が、足元でころころと転がり回る栗達を見ながら目元を和ませた。身を屈めて手のひらに一つ乗せると、焦ったように飛び跳ねて床に飛び降りてしまう。敵意が無いというよりも、単体で戦う事に慣れていないのだろう。 「まあ、栗と芋は秋らしいといえば秋らしいね」 密やかに呟いたのはイシュフェーンだ。身体の周りに纏わせたフェアキィへと話し掛ける。 「女の子たちが料理してくれるってさ。楽しみだねぇ、エンジェルちゃん」 その言葉に答えるように、小さなフェアキィは羽を震わせてパートナーの肩に止まった。牽制を必要とした時の為に呼び出した小さなパートナーだったが、今の所は一定の警戒心の他に必要な物も無いらしい。 「わーい、栗大好きなんだよね! 特にモンブラン! お芋もおいしい季節だし楽しみだなぁ……」 倉庫の屋根の下、足元に群れる芋や栗を避けて奥へと向かいながら、『ミスティックランチャー』鯨塚 ナユタ(BNE004485)は声を弾ませた。 じゃれたつもりなのか襲ったつもりなのか、イシュフェーンが足に体当たりを喰らわせてきたサツマイモを容赦なく引っ掴んで放り出す。 「邪魔するようならエルバーストブレイクが飛ぶよ」 「駄目だよ、潰しちゃったらもったいないもん」 慌てて口を挟んだナユタに顔を向け、イシュフェーンはにこやかに微笑んだ。 「大丈夫、大人しくしてくれたら危害を加えないよ」 実際エリューション達も、大して襲いかかる意思は特には持ち合わせていないらしい。靴に飛び乗ったりポケットに飛び込んだ所で、追い遣られると大人しく群れに戻っていく。……植物に群れというのも、中々に奇妙な言い回しではあるが。 そして一見散策めいた態度でいて、女性リベリスタ達は入口の辺りから動こうとはしない。それも如何様、エリューション達を引き付ける事こそが彼女達の役割だからだ。 群れの意識がそちらに向いている隙に、倉庫の奥へと立ち入った二人が積み重なった箱を見る。 「……跳ねてるね」 「うん……そうだね」 ボン、ボンと箱の内側から響く音を聞いてナユタが呟き、イシュフェーンも頷いた。重なるその天辺に乗っけられた木彫りの像が、危うく滑り落ちそうになっていた。 「開けて良いかな?」 「討伐が仕事だし、エリューション化しているなら放っておく訳には……いかないからね」 尋ねたナユタが仲間の返答を受け、そっと重なる段ボールを下ろし始めた。 上の箱が重しになっていたらしく、鈍い音を立てるしか無かった紙の箱の蓋を開く。 「わっ」 途端に飛び出してきたサツマイモが、ぶるっと身震いしてから入口の辺りに集う仲間達の元へと跳ねて行った。その姿をぽかんとして見詰めたナユタの手元で、更にボンと箱の内側からぶつかる音がする。 どうやら箱の中でエリューション化したサツマイモは、一本ではなかったらしい。慌てて箱を下ろし、次の箱を開くなり、また数本の芋が飛び出してくる。 「……これは、全部確かめないと駄目かもしれないね。手伝うよ」 イシュフェーンが苦笑する傍で、ナユタが溜息を零した。何しろ芋がふんだんに詰まった箱は、それほど大きくはないにしても驚くほど重い。 助力を得、男二人で一箱ずつ段ボールの中を確かめて、覚醒した芋を次々と放り出していく。 同じ頃、戸口を入ってすぐの辺りでしゃがみ込んだ『The Place』リリィ・ローズ(BNE004343)が、料理本片手にエリューション達を見下ろしていた。 「みんなはどんな料理になりたいのかな」 色とりどりな写真で埋め尽くされたページには、洋菓子から和菓子から、様々な菓子の品々が並んでいる。 「ボクは、パイやタルトもいいと思うの」 そういって開いたのはサツマイモを潰したり、栗をクリームにして作られた焼き菓子のページだ。 これとかこれとか、と指差す動きに沿って、エリューション達もぐるっと身体を捻っていく。何処が目なのかは分からなかったが。 ともかく最初の一体が写真の真ん前に跳ねると、他の芋やら栗やらも、我先にと詰めかけようとする。 「あ、こら……! 一度に集まったら分からないよ。ちゃんと並んでもらえないかな」 慌てて料理本を頭上に掲げて興奮気味のエリューションから引き剥がすと、二種類のエリューション達にそう指示を出した。 「こっちはモンブラン組、こっちは焼き芋組って希望通りに分けるのですっ」 「シーヴお姉さんはモンブラン組をお願い。ボクは焼き芋組から先に相談するね」 芋と栗とを分けて綺麗に並ぶ列を壊さないように、その脇を抜けてイシュフェーンとナユタが倉庫の外に出る。 「ハーウィンさん。アーティファクトは此方へ」 確保した破界器を手にする仲間へと、シンプルな箱を手にした凛子が声を掛けた。事前にアークから借り出してきたそれは、一応は収納する物が破界器ということもあり、柔らかな布と綿が敷かれている。 「自己主張するものは特にありませんからね」 穏やかな表情の木像を箱に収め、蓋をしながら凛子はそれにと付け足した。 「主張は無闇にするよりは、態度で示すものだと思いますので……」 独り言のように呟いて、密やかにそっと目を細める。 「それじゃ、後はイノシシ探しだね! ……あれ? そういえば」 倉庫の影から抜け出して、ナユタがその色の違う二色の瞳を周囲へと滑らせる。 けれど畑の奥の方へと向けるなり不意にその動きを止めると、きょとんと瞬いて二人に尋ねた。 『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)は何処に行ったっけ。 ● 待ち侘びる。 まさに、真咲はそんな態度だった。だからこそ畑の傍にある草藪がカサカサと音を立てた時、迷いなく斧を構えて見せたのだ。 最初に見えたのは潰れたような鼻面。それが草の間を掻き分けてぐっと伸び、ついで牙やちんまりとした耳が現れる。 藪に頭を突っ込んだイノシシが首を捻っているのは、恐らく真咲の振り撒いた香水が嗅ぎ慣れない匂いだからだろう。芋を食べに来るのだから良い匂いに寄って来るのかもしれないと、そんな思考で振り撒かれた花の香りではあったが、顔を出した以上は結果オーライである。 「わお、なかなか強そう!」 声を弾ませた真咲の前には、一体のイノシシだ。纏う模様も猛々しく土を掘り返すようにして足踏みをする。 華奢な真咲の体躯に比べれば巨大とも言えそうなイノシシを正面に捉え、少女は手にする斧をしっかりと握り直した。禍々しい程に優美な漆黒は、月の名を持つその身に陽光を浴びて妖しく光る。その輝きに釣られたように黒い瞳を向けた。 互いの呼吸が合わさる一瞬。 真咲の足が凄まじい勢いで地を蹴り出し、舞い上がる砂埃に映るのは幻影か残像か。電光に覆われた身体は即座にイノシシへと肉薄し、振り上げたスキュラを過たずに振り下ろした。ただの獣であればいとも容易く二分したに違いない一撃を受け、しかしイノシシはそれで終わらなかった。 勢いに押し負けて胴を伏せ、それでも尚足らずに後方へとずり下がりながらにも、四足を踏ん張って踏み止まりぶるる、と身体を震わせた。踏み止まったのはエリューションと化したが故か、爛々とした獣型エリューションの顔を見返して真咲は唇の端を持ち上げる。 「そうでなきゃ楽しくないよね。――負けないからね!」 少女はその言葉通りに声を弾ませ、それに呼応するように、エリューションはただのイノシシよりも遥かに伸びた牙を高らかに掲げるようにして、その鳴き声を響かせたのだった。 結論から言えば、勝った。歴戦のリベリスタが数揃い、エリューションとはいえ、たかがイノシシ一匹である。負けようのない話でもあった。 何かしら予定と異なる事があったとすれば、結局の所、少女の計画は最後まで完遂されはしなかったということだ。 「あまり無茶をしないで下さい。女の子なんですからね」 「でも、楽しかったよ」 吐息を交えて告げる凛子に対し、真咲は年頃に良く似合う無邪気な顔で笑う。 悩ましく溜息を零した凛子が神秘なる存在へと詠唱による繋がりを断つ頃には、真咲の怪我も癒えていた。ぴょんと身軽に立ち上がり、血に濡れた斧を洗う為に屋外水道へと向かう少女を見送って、凛子は視線を巡らせる。 「猪は、排除対象だね」 「あら、しし肉料理の用意はしていますよ」 「え? これも食べるの? マジで?」 絶命したエリューションから顔を上げたイシュフェーンに、凛子は勿論ですと頷いて、倉庫組に合流する為踵を返す。その背後でまたイノシシを見下ろして、男は密やかに呟いた。 「……たくましいなぁ」 ● 「さあっ、張りきってお料理しましょうっ! フュリエ三分クッキングっみたいな感じでっ」 エリューション諸共に移動した、アーク手配の広い厨房の一角で、シーヴが元気良く声を張り上げた。 「こんな事もあろうかとっ! みたいに、三分でお料理できるスキル欲しいのです」 「あれは三分で全部作れてる訳じゃないんだよ」 「ふにゃ、何か違うの?」 腰の後ろで綺麗なリボンに結び付け、オレンジ色の髪を三角巾で押さえたリリィが微笑む。 きょとんとしたシーヴは少し考えた末に、首を傾げて思考を打ち切る事にしたらしい。 「んー兎も角、がんばりましょー、えいえいおーっ」 『えいえいおー!』 シーヴの掛け声にやはり元気良く答えたのは真咲とナユタだ。用意の間にしっかりと役割分担を与えられて、ピーラーやボウルを手にしている。 「ついでに、リリィさんとフュリエ的連携を見せるのですっ」 緑の髪を揺らしたフュリエはまた一つ、そんな決意をして。それぞれの役割を開始したのだった。 「ふむふむ、こっちの子は甘いモンブラン希望? 甘さ控えめさんと分けて料理料理~、真咲さんにお願いするのですっ」 「うん! これ、どれくらい潰したら良いのかな?」 渋皮まで剥いてあく抜きを済ませたのに、何故かまだピンピンとしているらしい栗をボウルに受けた真咲が、木べらで湯気の立つ実を潰し始める。 「そうだね、大体で良いよ。その後で裏ごしして、もっと滑らかにするんだよ」 「潰して潰して、また潰して。これだけたくさんあると大変だね!」 横からボウルを覗いたリリィが告げると、真咲は木べらを握り直して感想を漏らす。 「でも美味しいお菓子を食べるため、がんばらないと!」 「折角の機会だし、色んなお菓子を作ろうね」 そう微笑むリリィの傍で、シーヴが包丁を手にサツマイモと向き合っていた。 「本当にピーラーより包丁の方が好みなの?」 手の中で何時でも来いと言わんばかりにぴんと伸びたサツマイモを握り直し、包丁の刃をサツマイモに押し当てる。 「むっきむき~、綺麗に剥いてクッキングっ! 痛くないですかー?」 中々器用な手付きでもあり、すぐに赤紫の皮が綺麗に削れ始めた。 しかし不満があるのはサツマイモ仲間の方だったらしく、現れて色濃くなったのが一つ、調理台の上で飛び跳ねる。 「ふにゃ? もうちょっと身を残して、こうかなぁ?」 薄く剥く皮の厚みを調整するシーヴの横で、此方はピーラーを手に芋を剥きながら、ナユタが並ぶサツマイモを見回した。 「調理法にはこだわるのに、食べられること自体は嫌じゃないのかなぁ……」 「完成しても動いたり喋ったりして!」 「……完成しても?」 潰し終えた栗を絞り袋に入れながら笑う真咲に、リリィがぽつりと呟いた。 じっと手元を見下ろせば、彼女の手の中では皮を剥き掛けの栗がぷるぷる震えている。 「わっ、うにゅーって出てくる、おもしろーい。なんだか粘土遊びみたい!」 楽しげな真咲の隣、リリィの若干の困惑に気付かないのは、別の調理台に掛かり切りの凛子だけだ。 たっぷりとした秋野菜中心の具材を切り揃え、鍋に並べて出汁と共に似る。醤油と味噌の香ばしさが混ざり合う。 研いだ米にも味付けを施して釜をセットした炊飯器からは、ふつふつと甘い香りが漂ってきた。米の間に放り込まれた栗の黄色が鮮やかな栗ご飯だ。ちなみにあれだけ嫌がっていた栗ご飯に参戦する栗が現れたのは、リリィの「似たような味ばっかりだと飽きちゃうよ」という至極真っ当な意見が理由である。 「鍋だけと味気ないですからね」 そうして取り出したのは、最初に手を付けておいたイノシシ肉のブロックだ。牛や鶏と変らない手順でローストされた肉の火の通り具合を確かめる。しっかりとした食事から芋や栗をたっぷりと使ったスイーツまで、様々な顔ぶれとなりそうだ。 そんな調理組には知る由もないが、ただ料理が出来上がれば、そのまますぐに食べられるというものでもない。 何時料理が運ばれて来ても良いように、テーブルのセッティングをしながらイシュフェーンは少し首を傾げた。 「成人もいることだし、お酒も準備しようかな」 敷いたクロスに皺が寄らないように整える。 「フュリエの子達もいるし、果実酒にしようか。子供達にはジュースでも……」 ――食事会の支度は、そうして着々となされていった。 ● 皆揃って席に付き、頂きますと手を合わせたのは少し前だ。 テーブルの上にはぼたん鍋やローストボア、栗ご飯といった一端の食事の顔触れから焼き芋や焼き栗、スイートポテトやモンブラン。更には栗の実を包んだパイにサツマイモのタルトまで、たっぷりと甘味も用意されている。 綺麗な盛り付けは、料理になってよかったとエリューション達が思えるようにと、そんなリリィの心配りだ。 「うん、美味しいね、実に良く出来ているよ」 グラスを手に舌鼓を打ったイシュフェーンが、そう称賛の言葉を向ける。 「みんなで作って食べると美味しいのですっ」 頬に手を当ててうっとりとするシーヴの隣では、スイートポテトを一口食べたリリィも満足を滲ませて表情を綻ばせた。続いてモンブランにも手を伸ばしてクリームを掬い、口に運ぶ。 「うん、モンブランもすごく美味しい」 「良かった、がんばって潰したからね!」 胸を張った真咲も早速モンブランに手を伸ばし、出来栄えを確かめて相好を崩す。 それ以上に表情を蕩けさせているのが、モンブランを好物とするナユタだ。今日も、それが大本命だったのだ。 「ん~、ふわふわでマロンクリームたっぷりでしあわせ~……これはもっと沢山食べたいな」 ぺろりと一つ食べ終えて、他の菓子や食事に目移りしながらも思わずそんな呟きを零している。 「凛子おねーさんのつくったのも美味しそうっ! 食べていいかなぁ?」 「ええ、どうぞ」 「わーい、沢山食べるーっ! えへへ、作ってる時から美味しそうでお腹ぺこぺこなのですっ」 声を弾ませたシーヴが早速鍋から取り皿に具材を移した。ポン酢をベースに土生姜や柚子胡椒を効かせたたれも凛子のお手製である。 「イノシシ料理も美味しいっ。旬の味覚が沢山、わーいっ」 人参や白菜、キノコや里芋もごろごろと入った鍋をつつきながら、シーヴが歓声を上げる。 「イノシシ肉だけでは何かと寂しいですから、秋野菜もたくさん煎れておきました」 そう説明しながらも、凛子は白衣を探ってハンカチを取り出した。 夢中になって食べるシーヴの口元へ、折り畳んだ縁を押し当てて散った汚れを優しく拭う。 「シーヴさん、綺麗に食べないといけませんよ」 食事とスイーツと、それをのんびりと食す一刻。そんな光景の中、イシュフェーンはグラスを傾けた。 「こんな良い思いできるなんて君達のおかげだよ。いつもこんな仕事なら良いんだけれどねぇ……」 称賛と感謝を口にしながらそっと付け足された男の呟きは、賑やかな歓談に呑まれ、誰に気付かれる事もなく消えていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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