●青鵺淀助 おうよ。俺の話でよけりゃいつでも聞いてくんな。 俺ぁ元々千葉の片隅で金貸ししてた青鵺ってえモンだ。銀行? 消費者金融? バッカお前、ンな看板掲げた奴が俺みてぇにマリンブルーのアロハシャツ着て尋ねてくるかってんだよ。 おうともヤミ金よ。自己破産ぶっかましや奴や夜逃げかました奴なんかが、どこにも金を借りれねえからってんで頼ってくる最後の金貸しよ。 まあそういう奴らは基本的にクズ。酒に煙草にギャンブルまみれで借金重ねたクスばっかだ。クズがクズにクズ金貸してタカりにいくのが商売よ。 え、なんだよ。 そんな俺がなんで? なんで中国なんかに住んで、カジノのオーナーやってんのかって? ンなもん俺が知りてえよバカヤロウ! ●フェイとスーシュの殺刃舞踏 嵐。 そう嵐が起こったのだと思った。 最初はほんの出来心だったのだ。兄弟分のやつが『新しくできたカジノを襲って大金がっぽり頂こうぜ』なんて言うもんだから、自分もそいつに乗っかった。 なんでもカジノに恨みを持ってるコレもんのコレがいるからと、金ぴかの銃をプレゼントされたんだそうだ。それも丁寧に二丁。兄弟そろって襲いに行けということだ。しかも銃は返さなくていいそうだ。 こりゃあ渡りに船の鴨葱だってんで、兄弟は意気揚々とカジノに飛び込んだ。 チップの交換カウンターに飛び乗って、銃を天井に二発。 さあ金を出せと言ったとたんにコレが来た。 嵐、である。 男はわけもわからず胴を打たれ、身体をくの字に曲げたまま吹き飛び、大きなガラス窓を突き破って野外に転がり出た。 自分がうけたものが嵐ではないと気づいたのは、追って自らも窓から出てきたソイツを見てからである。 ボブカットに真っ赤なルージュ。細身のパンツルックに白いワイシャツという、妙にきりりとした女だった。 もっと妙なのは、彼女の両腕にがっしりとした薙刀が握られていたことである。 正確には青龍偃月刀といい、槍と青竜刀をくっつけたような長柄武器だ。 女は男の胸元に刃先をつきつけると、中国語を一回よそで翻訳し尚したようなへんてこな口調で言った。 「身の程知らずも程があるアル。ここがどこのシマだから分かって強盗したネ?」 「ど、どこってオマエ……どこ……ですか?」 「あらやだホントに知らなかったのかしら。白華会よ」 声がした。 男の声だ。しかし口調は女めいている。 割れた窓から、長髪にタキシード姿の男がぬらりと現われた。声は彼のものだろう。 だが驚くには値しない。というより、彼が髪をつかんで引きずっているのが自分の兄弟だったことに驚いたので、それどころではなかった。 兄弟は完全に白目をむいている。 鼻からは血を流し、ひくひくとけいれんしていた。 そして男のもういっぽうの手には、四本の青竜刀が握られている。一つの手に四本。並の握力ではありえない構えだ。それだけで既に、彼がだたならぬ男であることは分かる。 が、しかし。 男は頭を必死にめぐらせて考えた。 「は、白華会……白華会!? なんで!?」 「最近は大きくなったのよ、ウチも」 瀕死の兄弟分を放り投げる。男はそれを受け取って、慌てふためいて走り去っていった。 二人並んでその背中を見送る。 青竜刀のほうが飛(フェイ)。 薙刀のほうが俗虚(スーシュ)。 ともに白華会の荒事担当である。 「あらまあ、慌ててにげちゃって」 「でもいいアルか? うちで強盗働いたヤツなんて、生かしておいても特ないネ」 「そうでもねえさ」 と、二人の後ろから新たな人物が現われた。 脳天気なブルーのアロハシャツにパンチパーマという、かなり昔のヤクザみたいな男である。 「あら、オーナー。出てきちゃって大丈夫なの?」 「こんなの出たうちに入らねえさ」 名を青鵺淀助。現在、白華会が仕切るカジノのオーナーをしている男である。 短くなった煙草をしつこく咥えたまま、青鵺は割れたガラスを拾い上げた。 「殺さなけりゃあ、そいつの口からウワサが広まる。広まった噂が牽制になる。拳も使わず城が守れるってな寸法よ」 「もっと恨みを買って、後でまとめて襲ってくるかもしれないアル」 「そンときゃまとめて殴り飛ばすまでだよ。永久にやってやろうじゃねえか、オイ」 「やだ、ある意味殺すより凶暴じゃないの。ス・テ・キ!」 フェイが身体をくねくねさせて笑った。 数歩距離をとる青鵺。 「ま、今のは屁理屈だ。なんとでもならあ。大事なのは……俺がシキる店では誰も殺させねえってことさ。特に金の取り立てに関しちゃあ、暴力もナシ」 「またデンちゃん節? 前から気になってたけど、それって誰かの受け売りなの?」 「受け売りっつーか買い付けっつーか」 青鵺は苦々しく笑った。 「俺の兄貴分に善三さんって人がいてな、その人がアークと約束したんだよ。金の取り立てで暴力はつかわねえ。絶対につかわねえ」 「そんなの知らないアル。仮にあったとしても見てないところで破ればいいネ。ここ中国よ?」 「バッカ野郎!」 青鵺は、おそらく自分の何倍もの強さをもつであろうスーシュに対し、ギラリとにらみを利かせて言った。 「『それじゃあ義理が通らねえ』。俺の人生の合い言葉だ、覚えとけ!」 とまあ、中国は上海の貧民たちが集まってできた白華会という弱小マフィアは、ここ最近になって急激に勢力を拡大していた。 周辺のマフィアを武力や政治力によって制圧して市場を拡大。中国でも有名な暗殺組織ロン家とも絶賛抗争中の身である。 その裏にあるのは日本主流七派の三尋木連合。武力よりも政治力、強行よりも穏健をとる巨大フィクサード組織である。日本の市場がアークによって先細りしていることからアジア方向への拡大を狙っていたのだ。その足がかり、または協力組織として白華会は機能している。 このカジノもその一環である。上海の金持ち連中を大量に誘い込み、汚い弱みを握っては取り込んでいくというおきまりの手法がなされていた。 そんなものだから恨みも買いやすい。 多数の組織から命を狙われるのは日常茶飯事だが……。 「どーも最近、この店が襲われる頻度が多い気がするネ」 スーシュは薙刀の手入れをしながら言った。 「本当なら持ってないような武器を揃えて、何度も何度も。そのくせみんな新顔ヨ? おかしいアル!」 「誰かが裏から糸引いてるって言いたいの?」 青竜刀の手入れをしながら応えるフェイ。 「そうアル! なんか……なんかか糸を引いてるネ!」 「アナタ、勘は鋭いのに頭は回らないのよねェ。でもわかるわ。きっとロン家のしわざでしょ」 「ロン家! ロン家はまじ許さないアル! 全員ボッコボコに殺し……じゃなくって、半殺し! んーや十分の九殺しにするアル!」 青鵺ちゃんに感化されちゃってこのコは、という顔でフェイは顎肘をついた。 まあむりはない。ロン家は貧民街を民ごと焼き払ったあげく、白華会のメンバーをさらし首にして見せびらかした連中なのだ。考えただけでも憎悪が沸く。 が、憎悪に呑まれるわけにはいかない。それでは相手の思うつぼだ。 そうフェイは思う。 だって、自分が消したい連中がいたら……きっと同じようにするだろうから。 「やーね。でもロン家も必死よね。その辺のチンピラに武器渡してけしかけるんだから」 「そうアルそうアル! でも無駄ネ、どーせ雇うならフェイやスーみたいなイケイケなのを雇うべきネ! あんなバカなチンピラ雇うなんて金の無駄アル!」 脳天気にからからと笑うスーシュ。 しかしフェイは一転、その表情を暗くした。 「わかんないわよ。世の中、バカなチンピラほど恐いものはないのよ」 ● フェイの予想は、遠からずも当たっていた。 「オイ。本当に大丈夫なんだろうな」 「当然だぜ。俺の鼻をへし折ったナギナタ女をこいつでヒーヒー言わせてやる!」 鼻をガーゼで覆った男が、大きな鞄からミニガンを取り出した。 ミニガン。名前の響きに反して凶悪なガトリング砲である。要するに機関銃。人どころか車やら装甲車やらをやっつける武器である。 「そんなもん突っ込まれたらヒーヒーどころじゃすまねえな! ヒャッヒヒ!」 他の連中も負けず劣らずの装備だ。ライフル、ショットガン、火炎放射器。 ……いや、それより恐ろしいのは、『他の連中』の数である。 二人や三人ではない。五人や十人でもない。 ざっと数えて三十人。 高度な神秘装備を揃えたピンピラフィクサード三十人が、ぎっしりと集まっていた。 「イーシュ・ロンの旦那にはマジ感謝だぜ! こんな武器をタダでくれるなんてよ! しかも襲ったカジノは『好き放題』だそうだ! それも、一度ならず二度も!」 そう。 彼らはロン家の暗殺者イーシュにけしかけられたチンピラたちなのだ。 しかも全員殺さずに返り討ちにされたやつばかり。 そいつらに強力な武器を与えて、一斉にけしかけているのだ。 ショットガンをがしゃんとやって、男の一人が雄叫びをあげた。 「さあパーティーだあ! 酒池肉林といこうぜい!」 ●アーク・ブリーフィングルーム 三尋木の青鵺。 白華会のスー・アンド・フェイ ロン家にけしかけられたチンピラたち。 上海のカジノを舞台にしたドンパチが彼らによって繰り広げられる……とみせかけて。 ここで新たな勢力の乱入である。 「三尋木から『お手紙』が来ました」 アーク、ブリーフィングルーム。 フォーチュナはあなたに向けて一通の封筒を見せた。 差出人はまさかの『三尋木凛子』。 そして書状は『招待状』。 飛行機のチケットと、そこそこ分厚い資料。 そしてため息が出るほど美しい字体の手紙が入っていた。 「内容はこうです。『うちの子飼いとロン家の野良犬が喧嘩をするようだから、好きに混ざっていいよ』……と」 ためされている。 話を聞いていた者のひとりはそう呟いた。 アークが、三尋木や白華会、そしてロン家に対してどのような立場をとろうとしているのかを試されているのだ。 その証拠に、舞台となるカジノの位置や間取り、警備につけている兵隊とオーナーの詳細、襲ってくるであろうチンピラたちの平均的な実力と武器の種類と精度について事細かに書いた資料がついていた。 手紙の最後には丁寧な文体で『どうぞよろしくお願い申し上げます』と書かれている。 「現地員に確認させたところ、この情報はじゅうぶん信憑性があるそうです」 このうえで『好きに』ということはつまり、言葉の通りである。 フィクサード皆殺しだろうがチンピラに混ざって火事場泥棒を働こうが、なんでもアリだ。 とはいえこの一件に関してだけなので、カジノを乗っ取るだの悪者を捕まえて日本に連れ帰るだのといった大それた行動はとれないだろう。というか無理だ。 「アークとしては、まず『巻き込まれる可能性のある一般人保護』を念頭に、その他一切の行動をあなたに任せることにしました」 あなたに。 あなたの判断に任されているのだ。 アークの立場が、あなたに。 「健闘を、お祈りします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年10月06日(月)22:29 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●『それじゃあ義理が通らねえ』 粉々に砕け、内側へと飛び散るガラス。 豪奢なシャンデリアが落ち、人々は慌てふためいて悲鳴を上げる。 「ヒャッヒャ、派手にやったな兄弟!」 機関銃を担いだフィクサードの男がサングラスをかけ直した。 ちょうど窓際にいたドレスの婦人を足蹴にしている。 一般客へ向けられないようにか、斜線上に躍り出るスーシュとフェイ。 「あーもーやっぱりこの前の奴アル!」 「深刻化かつ凶暴化したわねえ」 「おうおうこの前の借りは返させて貰うぜ!」 ショットガンを空に放ち、リロードしてみせる男。 彼に続くように合計三十二人の男たちがずらりと横に並ぶ。 お互いの目がカッと開き、殺し合いの火ぶたが切って落とされる。 ――と思われた所へ。 カシャリとデジタルなシャッター音がした。 全員の首が一斉にその方向を見やる。 『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレイン(BNE003170)がスマートフォンに何かをフリック入力していた。 「『上海なう』……っと」 スマートフォンを翳しツイートボタンを押すと同時に、一帯に特殊な魔術空間が作成された。 「な……んだこりゃあ!?」 「女っ、お前がやったのか? 何もんだテメェ!」 「お嬢ちゃんここは危ないから下がってなさいな」 チンピラとフェイがそれぞれ話しかけてくるので、セレアはスマホをふるふるした。 「ハァイ、リベリスタですよ」 「な――っ!」 目を見開く一部のチンピラ。その直後、背後のまだ割れてない窓をわざわざ突き破ってモニカ・ムーアクロフト(BNE005085)が現われた。 着地前に腰からフリントロックの銃をそれぞれ抜く。 指に引っかけて三回転させると、発砲とリロードを高速で行ないそれぞれ五連射。たまたま近くに居た男たちを銃撃で撥ね飛ばすと、ガラス片だらけの地面をごろんと転がり膝立ちになった。 照準を別のチンピラにうつし、くいくいっと『そこをどけ』のジェスチャーをした。 「そこのご婦人足蹴にしてる人。今からアナタの頭をぶち抜きます。嫌なら開放しましょうね。アタシは殺しに興味ないですから」 覚えの無い第三者の乱入に、場の連中は固まった。 だがそんな中で唯一、ルーレット台の裏に隠れていた青鵺淀助だけは状況を理解していた。 「この術とこのノリ。間違いねえ、アークだこいつら」 「ご名答、警察だ。……じゃなくて、アークだ」 同じくルーレット台の裏に滑り込んでくる『ウワサの刑事』柴崎 遥平(BNE005033)。 目を剥く青鵺をよそに、遥平は立ち上がり、台に身を乗り出す形で銃を突きだした。 「よおしお前ら暫くうごくな。せめて三十秒はぶっ放さないでいてもらうぜ」 一方こちらはカジノの壁際。 陣地作成を発動させたからと言って誰も彼もが謎の瞬間移動でどこかにはじき飛ばされるわけではない。 なので一般人保護を主目的としているアークリベリスタは、彼らの対応を第一に考えなくてはならないのだった。 『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が両手をぱたぱたやって言った。 「はーいこっち、こっち注目してねー」 なんだか知らないが注目してしまう一同。魅零は右手をご覧くださいの姿勢で非常口のシグナルを指さした。 「出口はあちら。落ち着いて逃げてね、大丈夫だから」 「大丈夫なわけがあるか! もう少しで大設けできたんだぞ!」 大体の人間は彼女の指示で裏口へ移動しはじめたが、意図に反して噛みついてくる者も居る。 金持ちが集まる場所だけあって、無駄にプライドが高い人間もいるものだ。 そんな彼の視界に、『Matka Boska』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)がスッと割り入った。 「落ち着いて」 「落ち着いていられるか!」 「私の目を見てください」 「お前の目なんて見てなん……に……」 「今宵の出来事は悪い夢と思って、さあ」 「あ、はい……あの……」 「退避を、さあ」 「あの、ラインやってます……?」 目的が大幅にすり替わった男をカジノのスタッフに引き渡すと、ふうとため息をついた。 じろじろと観察する魅零。 「なんだろう。扱いの差を感じるにゃあ。おっぱいの違いかな」 「何を言ってるんです。さ――」 銃を引き抜くリリ。 目の奥で強い強い自我を呼び起こしながら安全装置を解除した。 「お祈りを、始めましょう」 チンピラは我慢ができない。 子供の頃学校の先生が『立ったまま百秒を数えろ』と命令してくるのが嫌になった辺りからずっとだ。 だから爆発した。 「全員丸焼きにしてやるぜェ!」 強烈な神秘性ガスの噴射と共に高熱の炎が浴びせられる。 フェイとスーシュがそれぞれ飛び退き、代わりに『桐鳳凰』ツァイン・ウォーレス(BNE001520)が前へと飛び出した。 鎧で固めた身体に盾を構え、ラグナロクを展開。炎をまるごと受け止めると、ニヤリと笑って顔を覗かせた。 「アークだ。今回は手を貸すぜ、青鵺」 振り向くと、ルーレット台から青鵺がちらりと顔を覗かせる。 「手伝ってくれんのは助かるがよ、俺の店じゃ」 「殺しは御法度だろ、分かってるよ。刑事のおっさんも俺も、不殺の準備をしてきてる」 「そうかい、重ねて助かるぜ」 「誰が助けると言いましたか」 安堵しかけた途端、彼の頭部にリリが銃をごりっと押し当てた。顔を青くして両手を挙げる青鵺。 「彼らは徹底的に殲滅します。悪さをしたらどうなるか、遠くで見ているイーシュ・ロンに見せつけるためです。そしてあなたも看過できない悪。それなりに、叩かせていただきます」 銃を押しつける力が強くなり、青鵺はずりずりと身体を押し込まれた。 そんな光景をきょろきょろしながら見やるスーシュ。 「なんネ! お前ら敵アル!? 味方アル!?」 「敵です」 「味方だぜ!」 リリはもう一丁の銃を突きつけ、ツァインは笑って剣を翳した。 「どっちアル!?」 「アークにゃよくあることだ、気にすんな。それよりお客にお帰り願っとけ!」 気持ち程度の拳銃(中国製トカレフである)を抜く青鵺。 リリは反撃がくるかと思って引き金に力を込めたが、青鵺の銃口がさしたのは自らのこめかみだった。 ロシアンルーレットでもするように押し当てる。勿論これで引き金を引いたら十割アウトである。 「この通りだ。『やめてくれ』」 「…………」 リリは黙って銃を引くと、チンピラの撃破へと動き始める。 その様子を見て、ツァインは重々しいため息をついた。 「組織だ利権だって、面倒くせぇなあ。漢のバカには手ぇ貸したいトコなんだけどなあ」 ● 一応のところ、三つどもえである。 強い武器と大勢の味方を手に入れて気が大きくなっているチンピラたち。 メンツとあと少しの何かのために、自分の店を守って戦うスーシュとフェイ。 一般人保護の用を満たし、後はお好きにと解き放たれたアークリベリスタたち。 第一と第二の勢力だけなら単純だった現場は、第三勢力の自由さによって複雑に混乱しはじめたのだった。 「フィクサードには味方したくないけど、今回ばかりは仕方ないにゃあ。にゃんにゃん」 今日のマイブームなのかネコみたいな手招きをしつつ、魅零は刀を剛毅兄振り込んだ。 その一発だけでチンピラの腕が見事に吹っ飛んでいく。 「や、やりやがったなァァァァァアアア!」 残った片手でショットガンを突きつけ、ぶっ放す。 「ひゃあ! なにすんの、みれーちゃんの可愛いお顔がなくなっちゃったじゃないの。アンパンさんじゃないんだから、取り替えられないんだよ」 などと言いつつふるふる首をふり、フェイトを犠牲に胸から上を再構築する魅零。 「なんか知らんけども、危ないと思ったら素直に負けを認めなさいよね。でないとこの陣地から出れないよ」 「そんなメチャクチャな術があるか!」 「わかんない人だなー」 追撃のショットガン射撃を、相手の頭上に飛び乗るという形で回避する魅零。 そこへ、ツァインの剣がおもむろに繰り出された。 輝く剣がチンピラを豪快に切りつけ、相手はその場に崩れ落ちる。 「安心しろ、峰打ちだ」 両刃の剣でどうやっているのかよくわからないが、ツァインの言うとおりチンピラは白目を剥いて気絶しているだけだった。左手が無くなって今後困るかも知れないが、死んではいない。 ツァインは翳した剣を構え直し、他の連中へと威嚇する。 「オラオラ、まだやろうってのかぁ? こっちはまだまだ余裕だぜ?」 「何人かツブしたくらいで粋がってんじゃねえ!」 ミンガンを抱えた男が三人並び、それぞれ発射レバーを握りこむ。 「お店の中で銃撃つのやめろっていつも言ってるネ!」 「悪いけどオイタする手は削っちゃうわよ」 フェイが青竜刀を振り込むと、恐ろしい精度で男の身体を走り。血のX字が大量に刻まれる。 そこへトドメの薙刀大回転を繰り出そうとした――その瞬間。ツァインたち頭上を飛び越える形でリリが躍り出た。 空中で身体を上下反転させると、突きだした二丁拳銃でもって全力射撃。ぐるりと回転しながらチンピラもシーシュもフェイもみんなまとめて撃ちまくった。 「おいこっちに流れ弾来てんぞ!」 ルーレット台の裏から叫ぶ青鵺。 「我慢我慢。えーっとあたしはどうしよっかなー」 銃に弾込めをしなおすモニカ。 ルーレットの上に両足を開いて乗っかり、周囲の様子をうかがった。 今のところ少数派はキルゼムオールのリリだけだ。 「じゃ、バランスとる感じで。リリさん、ジャンプジャンプ!」 銃を二丁ともリリに向け、めちゃくちゃに盲目打ちを仕掛けた。 タイミング良く飛び退いたリリをのぞき、その場にいる全員に銃弾が浴びせられる。 と、そんな混乱きわまる戦場にて。 「ジャッキー? いないいない。CMじゃないんだから」 セレアはバカラの台に腰掛け、優雅に電話などしていた。 バカラ台の裏までじりじり避難してくる青鵺。 「おい、あんたはどうするんだい」 「あたし? あたしの仕事は一般人の避難と隔絶だし。このバトル自体は他人事、みたいな?」 「そうかい。そりゃ朗報だ」 脂汗だらけの顔でじっとりとセレアの顔を見やる。 「あんた魔術師だろ。それも高度な。ってことは……持ってるんだろ、マレウス」 「軽くこの辺吹き飛ばせるほどには」 セレアは笑って手を翳した。ちょっとした爆弾である。 「アークってやつぁ……バケモンだらけのくせになんでこう個人個人が自由なんかね」 ぼやいた途端、台の向こう側から声が聞こえた。 「んんんもうガマンならないアル!」 スーシュは我慢ができない。 昔餓死寸前の時に与えられたカップラーメンに『三分待て』と書かれていたのがトラウマだからだ。 ちなみにその時はお湯も注がず直接かじりついた。 リリやモニカから好き放題撃たれまくり、でも立場上無視しなきゃならないと言う状況に、スーシュの単純な思考回路はぶっつり焼き切れたのである。 「大・切断!」 「スーシュちゃんダメ!」 咄嗟に飛び退くフェイ。 スーシュは薙刀を手に、辺り一帯をぶった切った。 ぶった切った、という表現以外に適切なものはない。 チンピラたちも、着地直後のリリも、その場に飛び込んでいた魅零やツァインも、全部全部巻き込んで高火力の戦鬼烈風陣をぶっ放したのである。 盾で受けるがそれでも酷いダメージをうけるツァイン。 「ば、馬鹿! 今ンなことしたら!」 「警告はしたはずですよ」 リリが銃を突きつけた。 「罪には罰を。一切合切全ての罪を、弾丸の聖域が逃がしはしません」 全力射撃。 加えて後方からも打ち込まれたモニカの銃撃で、スーシュは全身を蜂の巣にされた。 これをチャンスだと思ったのはチンピラたちである。 狙いをスーシュにうつし、トドメをさしにかかる。 元々これが目的だ。余計な邪魔がいくらか入ったが最後にはうまくいった。そう思った。 だが。 「『逃がしはしません』と言ったはず、ですよ」 リリの銃撃が彼らを襲った。 腹や肩、足や腕に弾を受け、チンピラは吹き飛んだ。 「あ、あが……」 血まみれで仰向けに倒れ、ずりずりと腕だけで逃げようとする。 そこへ、リリの銃口が向いた。 冷たい目だ。目的のために人を殺すことだけを考えているような、銃口のような目だ。 リリは迷わずトリガーを引いた。 殺しは御法度と聞いたが、そんなのは知ったことでは無い。 リリの頭にそんな配慮は無かった。純粋に敵を撃っただけである。 が、誤算が生じた。 チンピラとリリの間に、青鵺が割り込んだのだ。 「ぐ……うぐ……」 青鵺の指が無くなり、その部分を押さえている。 割り込む際にリリの銃口に指を突っ込んだからだ。 邪魔をされた。 そう考えたリリは青鵺の額に再び銃を突きつけた。 最初に言ったはずだ、もう一度言わせるな。そういう台詞を述べようとした所で、青鵺が。 「俺の身の上話をする!」 と、叫んだ。 顔中嫌な汗だらけで、血走った目で叫んだ。 若干気圧されるリリ。 「俺には命より大事な兄貴分がいた! 兄貴は俺の命のかわりに指を詰めてくれたからだ! その兄貴はどっかの誰かの意志を継ぎ、誰も殺さない世界を作ろうとしていた! だから俺は、俺が管理する場だけは、絶対に人を殺させねえ! 『義理が通らねえ』からだ!」 「この状況でもですか」 銃をもう一丁。 計二丁押し当てる。 後ろでは、チンピラが銃器に手をかけている。 青鵺は歯を食いしばり、そして言った。 「やってみろよ」 「――」 リリは撃った。 ● リリの銃撃は青鵺の頭を吹き飛ばし……はしなかった。 代わりにこめかみの左右両方にそり込みのかすり傷を入れたのみである。恐らく彼は一生そり込みハゲだろう。 見ると、チンピラは慌てふためいて逃げ去っていった。 気絶した仲間は置き去りである。まあ今回のためだけに手を組んだ寄せ集めなら、こんなもんだろう。 「……」 リリは銃を下ろし、背を向け、裏口へと歩いて行き、そして出て行った。 入れ違いに駆け寄るツァインと魅零。 「おっさん大丈夫か!? 大丈夫だな……!」 「うん大丈夫大丈夫、きっと似合うよそり込みハゲ」 「そういう心配をしてるんじゃねえ!」 青鵺はありがとよと言って立ち上がると、チップ交換カウンターに入ってなにやらいじっているモニカに目をとめた。 「おいアンタ、何してるんだ」 「えっ? 怒られない程度にお小遣いをこう……ね、持ち逃げ的な」 「やめとけ。少なくとも俺が見てる」 モニカの肩を叩く遥平。 遥平は青鵺に煙草を吸うジェスチャーをすると、『付き合え』と言って外に出た。 「おいアンタよ」 青鵺は彼について外に出ようとしたが、その前にモニカのところへやってきて段ボールの小箱を差し出した。 「うん?」 「『うちの庭になってた桃』だ。やるよ。沢山あるから、欲しくなったらまた来な」 まあ貰えるもんならと受け取るモニカ。 青鵺は頷いて、そして出て行った。 「桃なんて貰ってもなあ」 「開けてみなさいよ」 横からのぞき見るセレア。 箱を開けてみる。 日本銀行さんが作った諭吉さんが二百ほど入っていた。 「……わお」 カジノは割と堂々と運営されていて、大通りに面した豪華な店構えをしている。 誰かのシマを荒らしそうなものなのにどうやってと思ったが。 「ここはロン家のシマなんだよ。厳密にはロン家の子飼い組織の、だけどな」 「へえ……」 煙草をくわえて煙をふかす遥平と青鵺。 その横で同じように煙草をくわえた魅零が、げほげほとむせた。 「けっほけほ……ねえ、『三尋木凛子からの招待状』について聞いてない? きざくらちゃんたちはぶっちゃけソレでここに来たんだけど」 「で、今日のコレだ。実際、話し合いと決戦のどっちに転がると思う?」 彼らは現在の状況について軽く情報交換を交わした。 「三尋木サンがねえ。俺にはデカすぎる話だぜ。まるでわかんねえ。ただ三尋木的に考えるなら『どっちもやる』んじゃねえか?」 「どっちも、だって?」 「三尋木には『戦ったら負け』みたいなところがあるからな。だいたい利益が出ねえ」 「なら、ロン家がよこしたチンピラたちは俺らが貰っていっていいかい。梁山泊にコネがあるんだよ。そこに流してロン家を叩く依頼を出させる」 と言いつつ、遥平は前にした電話の内容を思い出していた。 ――『ロン家は危険だ。証拠があれば依頼は出せるが、まず所在が分からない。探ろうとすれば消される。つい先日も俺の飼っていた犬がローストになって家のダイニングに置かれていたんだ。警告だってな』 だが最後は『巨悪を倒すためだ、手を貸すぜ』と言ってくれた。 一方こちらはカジノ内。 セレアの陣地作成のおかげで窓が割れた以外何も壊れていないということで、『桃』の箱がもう一個渡された。 「ケガはない? お嬢ちゃんたち」 「無傷無傷」 「俺は軽くやられたが。それより」 ツァインが装備を解いて椅子に座った。 「白田剣山っつー日本の老剣士知らない?」 「知らないわよそんな人。ねえスーシュ」 「知ってるアル」 「そうよねえ……え?」 二度見するフェイ。 「ロン家が飼ってる人型アーティファクトの名前アル。スーシュ、物知り!」 腰に手を当てて無い胸を反らすスーシュ。 ツァインは顔に手を当て。 「……ロン家、だと?」 大きな戦いの気配が、また近づいている。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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