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わかもと・秋

●秋の味覚
 東京都立川市――
 この日の爽やかな秋晴れは、既に夕焼けへと変わった時間である。もうじきすっかり暗くなってしまう事だろう。
 都心を離れ、遠く山梨に程近いその街は都会過ぎず田舎過ぎない。程よい利便性と特徴的な町並みは、フィクションの世界でもいくらか作品の舞台にもなっていた。
 そんな立川駅の北口を降りて一向は歩く。東へ向けて数分。飲食店や飲み屋の連なる一角にその店はある。緑色の看板が目印だ。
 どこか雑居ビルめいた小さな建物の前に立てば、不思議と『来たぞ』という気分にさせられる。
「秋っていうと、どんななん?」
 一同を振り返る霧島 俊介(BNE000082)は、前回の誕生日記念に続いて二度目の来店だ。今回もほっとけない奴がもう一人居たりするのだろうか。
「椎茸も舞茸もちゃんとあるぞ」
 実りの秋たるもの、その味覚は数多い。
 道中の作戦会議。どうしても外せない好きな食材と、旬の食材とを幅広く食べる為には品数少なめのコースを注文し、足りない分を『おこのみ』で補う手があることを新田・快(BNE000439)が伝える。
 そして幹事たる酒護神は初めての面子への案内も忘れない。
 もちろんとりあえず『おまかせ』を選べば、吟選されたものがしっかり出てくるのだからそれも最良手と言える。
 一品一品の量はそれほど多くなく、素材を生かす為に衣の少ないさっぱりとしたスタイルだから、無理をしなければ食べきれない程の量になるといった心配はない。
 なるほど。来店経験のある面子はいつもの通りという訳だ。
 天ぷらの一品目は海老の頭揚げから海老の身。そこから季節の魚介類や野菜が、徐々に香りと味わいの濃い物へと移ろって往く。
 それからご飯物が提供されるが、おこのみを注文したい場合は先に延ばしてくれる。だから『おこのみ』はこのタイミングで頼んでもいいし、あらかじめコースに含まれているか店員に尋ねて、先に頼んでもいいのだ。
 例えばサツマイモの様に時間のかかるものは、先に頼むほうが時間の都合上よいという事になる。

 さておき。メニューや名刺の置いてあるエントランスの近く、狭いエレベータでまずは三階へ。
「着ちゃいましたか」
「着ちゃいました」
 はにかむ様なスタッフに挨拶された快は、すっかりここの常連になっている。
「新田様ですね。九名様、そちらのエレベーターで四階のお座敷の方へお席をお取りしております」
 上にもあるのか――
 人が人を、噂が噂を呼ぶのか。最近ともなると予約なしには入れない事も多い。
 席数も多くなり、揚げを任せられる板前も出てきた様だ。彼等は主に常連客へ提供し、店の味を知った舌でも納得させねばならないという使命がある。

 四階は一列に並ぶカウンターのみの布陣で、掘りごたつの様に足を下ろす事が出来る。
 店内は貸切ではなく数名の客が居る様だが、特に問題はないだろう。
 リベリスタ達が座敷に足を踏み入れれば、フライヤーの食材を見つめる店主が微笑んだ。
 落ち着いたジャズの音色と、微かなゴマの香りが期待を誘う。
「いっちーとサミーも、こっちだよ」
「ここが、あの『わかもと』」
 噂には聞いていた羽柴 壱也(BNE002639)だが、楽しみだ。
 色々なお魚に、なんといってもさつまいもは甘くて小さなものが一本丸ごと提供されるらしいから、見た目にも楽しい。
「僕も初めてだ」
 サマエル・サーペンタリウス(BNE002537)が座れば、そっとメニューが渡される。
 ここに書かれているのはコースか。単品の『おこのみ』メニューは目の前にそっと置かれている。裏表、定番から季節のメニューまで万事抜かりない。

 そもそも遠く静岡県の三高平市を根城とするリベリスタ達がこの店に集まったのは、少々込み入った事情があるのだが、今はひとまず置いておいて。
「久しぶりだなあ」
 感慨く呟いた設楽 悠里(BNE001610)がお座敷カウンター席に腰掛ける。
「お酒のメニューも、お持ちしたほうがいいですよね」
 リベリスタ達を見てにっと微笑んだ眼鏡のスタッフは分かっていらっしゃる。
「お願いします」
「かしこまりました」
 新城・拓真(BNE000644)に手渡されたメニューはお食事とお酒の二つ。
「これがメニューか――」
 誠の双剣、その二刀はここで日本食の道さえ切り拓くのか。
 こちらは大人達の楽しみだ。

「エスターテちゃん、ここだよ!」
「はい」
 ルア・ホワイト(BNE001372)がぽんぽんと示すざぶとんに、エスターテ・ダ・レオンフォルテ(nBNE000218)が座る。
「糾華さんも、こちらへ」
「ありがと」
 エスターテに呼ばれた斬風 糾華(BNE000390)は、じつに二年半ぶりの来店だろうか。
 この糾華。さりげなくディナー経験者である。
 本格的な天ぷら屋としては、やろうと思えば驚くほどリーズナブルに抑える事の出来る昼と違って、夜は一味違う事を知っている。

 こうして全員の着席が完了した。
 無事にメニューも行き渡った所で。
「お飲み物の方は、もうお伺いいたしましょうか?」
 尋ねられたからには、いよいよ作戦開始である。

●あらまし
 事の起こりは数日前に遡る。
「また、なんです」
「また、か」
 エスターテの言葉に、快が資料を手に取った。

 この店では幾度か『食材が革醒する』という事件が、万華鏡の観測によって予知されていた。
 未来の悲劇に対してアーク本部が考えた結論は『革醒する前に食ってしまう』というものであり、その試みは全て成功している。
 過去の例ではリベリスタ達は戦わずして勝利を勝ち得、ついでにアークの予算でわずかばかりの役得――つまりタダ飯を頂いていたのである。
 アーク本部の解析によれば今回も同様の作戦で構わないということだ。
 命の危険を冒さずに事件が確実に解決出来るのであれば、それが最良である事は誰の目にも間違いない。

 それにしても同じような事件が同じ店で度重なるもんである。
「神秘的特異点か何かなのかもしれないな」
 事実の程は分からないが、そうとしか思えない程に似たような事件が発生している。
「今度は、茄子だそうです」
 リベリスタ達のどよめきが漏れる。
 秋だからなあ、おいしそうだ。
「やったあ! エスターテちゃんも来るよね!!!」
 ぐにゅう、と音がなる。
「え、えと。はい……」
 お腹を減らしたエスターテは、静謐を湛えたエメラルドの瞳を伏せて頬を染めた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:pipi  
■難易度:EASY ■ リクエストシナリオ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年09月27日(土)23:08
 リクエストありがとうございます。
 太刀魚、あまだい、むかご食べたいpipiです。
 まさか四季の味覚がコンプリートされる日が来ようとは。

 下に色々記述されていますが、ほとんどがどうでもいい情報です。
 難しい事は何もありません。
 気楽にお楽しみ頂ければ幸いです。

●目的
 なすの撃破。
 注文しないとか、全員が嫌がる等して一人も食べられなかった場合、依頼は『失敗』です。

 竹、松、おまかせのコースに含まれて居ますので、注文すれば自然に頂けます。
 おこのみで『小なす』を注文しても大丈夫です。
 誰か一人でも『なすくう』とか下さい。

 苦手な人が挑戦しようが、得意な人が食べようが、全員で食べようが自由です。
 撃破したっぽい人がいれば、その人が撃破します。
 複数いれば当たりは流れかランダムで適当に決めます。
 余り触れられていなければ、食った事にしてスルーされます。
 てか、こんなもん適当です。

●ロケーション
 夜。天ぷら屋の中です。
 着席した状態から戦闘開始。

○てんぷら わかもと
 シックなてんぷら屋さんです。苗字が若本さん。
 笑顔が素敵な若い店主です。
 残念ながら、巻き舌で吼えたりしません。
 ちょっと、お高いお店です。
 おすすめはお塩(土佐)ですが、お出汁も美味しいです。

○舞台
 四階お座敷席。
 カウンター前に一列の布陣です。
 並び順とか一部なんか書いてある感じですが、なんでも構いません。

○お客
 近くに数名の常連客が居ます。
 三十路のメタボなおっさんと、その友人達が目を引きます。注文量が多いからです。
 おっさんは便宜上『ピ』とでも呼称しておきます。スマホでピっと酒や料理の写真をとったりしているからです。
「シベリア? な、なな、なんのことだい?」
 話しかけても構いませんが、放っておけばとりあえず空気です。

●注意
 アークからの予算は全員合わせて12万円です。
 食べ過ぎると予算オーバーです。
 上手く割り振って下さい。溢れた分は『フェイト(自腹)』を使用する必要があります。
 また、財布が死んだら『重傷』です。
 脂肪判定はありません。

 いやほんとは別にフェイトとかぶっちゃけ減らんけど、なにもしかしてGPとか減ったりする?

 未成年の飲酒喫煙は出来ません。
 また店内は禁煙です。外に喫煙所有り。

●以前の交戦記録より
 リベリスタの交戦記録から以下が判明しています。
・サラダはドレッシングに『トマト』か『マスタード』が選べる。
・衣控えめに素材を生かす棒揚げスタイル。
・一品一品は一口サイズ。
・一品の値段は物により、一品数百円から千円前後、高いものはもっと上と思われる。
・油はあっさり綿実油と白黒胡麻油を混ぜ、香りと旨みが素材の味を引き立てます。
・お飲み物は特に日本酒が豊富。
・ジュースはストレートで、氷はジュースを凍らせたもの。

●おしながき
 消費税増税分にご注意下さい。

○コース
・梅:5200円、てんぷら6品
・竹:7300円、てんぷら8品
・松:9400円、てんぷら11品
・おまかせ:12500円
・ふぐ:15600円

○おこのみ
 恐ろしいことに値段が書いてありません。
・才巻き海老
・めごち
・あおりいか
・河豚白子
・あきはも
・あまだい
・たちうお
・大あさり
・あなご
・秋さけ
・牡蛎
・ほたて
・うに磯辺巻
・あわび
・牛フィレ
・かぼちゃ
・ごぼう
・小なす
・れんこん
・むかご
・ぎんなん
・さつまいも
・さといも
・長芋
・やまといも磯辺巻
・しめじ
・しいたけ
・まいたけ
・まつたけ
・海老しいたけ
・芝海老かきあげ
・ミックスかきあげ
・小柱かきあげ
・干し柿
・小天茶
・小天丼
・天ばら
・天まぜ
・他、季節のおすすめ等

○お飲み物
 各種地酒、各種本格焼酎芋麦米、ビール、ワイン、スパークリングワイン、ウィスキー、各種梅酒、果肉桃酒、果肉蜜柑酒。
 他、ソフトドリンク等。

 ソフトドリンクはお安く、お酒の値段はグラス一杯七百円~千五百円程度です。
 より高いお酒もありますが、ドリンク類には全て値段が書いてあり、安心です。

●その他
○関連依頼
 当店は以下の依頼やSSに登場しておりますが、ご存知なくとも、お忘れでも全く問題ありません。
・春:わかもと(2012.03.09)、大人扱いしようキャンペーン(2013オフSS景品)
・夏:おゆはん。(2012オフSS景品)
・秋:わかもと・秋(本作)
・冬:わかもと・冬(2014.01.05)

○コメント
 ちょっとイベシナみたいな感じですが、プレイングがいっぱい書けて、リプレイがいっぱい書かれる感じです。
 しなければならないことは非常に少ないです。
 あんまり能動的に動かなかった場合は、全力で空気になるか、勝手に食べまくって口から金色のビームとか出しますのでご注意下さい。

○NPC
・エスターテ・ダ・レオンフォルテ (nBNE000218)

 PCに絡まれない限りは空気として処理します。
 ちなみに、小食です。
 PCのプレイングに特筆ない場合、梅コースとソフトドリンクを注文します。
参加NPC
エスターテ・ダ・レオンフォルテ (nBNE000218)
 


■メイン参加者 8人■
★MVP
ノワールオルールホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
ハイジーニアスナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
ハイジーニアスデュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ハイジーニアスソードミラージュ
ルア・ホワイト(BNE001372)
ナイトバロン覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
ビーストハーフソードミラージュ
サマエル・サーペンタリウス(BNE002537)
ジーニアスデュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)


「此処が噂のわかもとか……」
 着席した『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)は、皆に習ってひざ掛けを手に取る。
「やっと来れた……」
 隣に座る『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)も感じ入る。
 悠里はもう来た事があるらしいが、拓真はこういう店に入る機会が少ない。
『味わって帰るとしよう』
 まずは飲み物だ。『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は仲間達に目配せする。
 初めての人をフォローしつつ、最適なお酒を成人組に選ぶ。この人数なら二合徳利を二つもらって、お猪口で差しつ差されつというのも良い。

「お飲み物はいかが致しましょう?」
「お酒もちょっと飲もうかな~!」
『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)は元気一杯。
「新田さん何かオススメある? なんでもいいよ! 天ぷらがさらに美味しくなるなら!」
 飲みやすいものだとありがたい。
「いっちーとか、普段あんまり日本酒飲まないだろ? この会津の地酒は、綺麗で飲みやすいお酒だよ」
 とりあえずまずは乾杯か。それならここの定番とも言える静岡のロッキーショア・プライドで行こう。薫り高い大吟醸ならワイングラスで行きたい。
 なら露の一滴さえ喜ぶアイツは二杯目か。
「酒は果肉桃酒を貰おうかな」
 拓真は、桃そのものかの様な甘みが美味しい一杯を注文する。

 わくわくと胸を高鳴らせて、『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)の身体は楽しげに揺れている。
「エスターテちゃん飲み物は何にする? 私は桃ジュース!」
「え、と。私はリンゴを」
 答える『翠玉公主』エスターテ・ダ・レオンフォルテ(nBNE000218)との楽しい時間が始まろうとしている。
『予算オーバー上等よ――』
 フェイト(お財布)使用は『舞蝶』斬風 糾華(BNE000390)の心意気。
「ここに来るのは何時か振りね……あの時はお誘いありがとうね、エスターテさん」
「いえ」
 答えた友人に微笑むと、糾華は言葉を続ける。
「そして新田さんもお誘いありがとう、とてもとても楽しみだわ」
 さて飲み物はどうしよう。同じ年頃の友人達はジュースを頂く様だが。
 と。メニューを眺める糾華の横では。
「なんで僕が、こんな依頼を振られたんだろう」
 ちょこんと座ってメニューを眺める『アカシック・セクレタリー』サマエル・サーペンタリウス(BNE002537)ことサミーは、そんなことをふと思う。
『どうしよう。僕、日本語あんまり得意じゃない』
 ひらがなは解る。漢字はちょっと苦手だ。話をしてなんとかしなきゃと思うが。或いはだからこそ、か。
 そんな様子を見て不慣れな所はフォローしようと思う糾華である。

 お次はコースの選定だ。
「俺はおまかせで、ドレッシングはトマトかな」
「サラダはトマトとマスタードだって……エスターテちゃんどっちがいい?」
「トマトにします、ルアさんは?」
 それならマスタードとルアは伝える。違うものを頼んでシェアすれば二倍美味しいのだ。
 さてルアとエスターテの二人は梅コースを注文だ。
「中身は前と一緒なのかな?」
 それとも季節によって違うのか。
『あぁ、また至福の時が味わえる――』
 ふぐコースを頼むか迷った悠里だが、旬を意識して今回は『おまかせ』である。
「……んー、で、何を頼もうかしら」
 しばし迷う糾華も拓真もやはり『おまかせ』だ。
 予算ぎりぎりの値段だがオーバーした分は実弾で勝負。勝ち目は十分だ。
「今日くらいはちょっと食べ過ぎても良かったりする……よね?」
 リベリスタだって肉体労働だ。

「みんなはどうする?」
「おまかせで!!!」
 壱也が元気良く答える。
 出てきたら食べる、言われたら食べる、好きなものも食べちゃう。
「食べつくしちゃっていいのね?」
 一同、頷く。
「あ、あとさつまいもだよね!? 二本お願いしまーす!!」

「お客様は?」
 一瞬ぴくりとしたサミーは、ちょっと緊張気味だ。
「……その。じゅ、ジュース、くださぃ。あと、お、おま、か、せ」

 さて――

 どれだけ多くの美味と出会えるか、己の胃の限界を突破したとしても。
 俺は、やり遂げて見せる、この依頼を!!

 拳を握る『真夜中の太陽』霧島 俊介(BNE000082)は竹である。
 あえて竹によって金額を抑え、後は好きなものを頼み、酒も少量を大事に飲むというスタイルだ。これで被害は最小限となる。
 お好みは、才巻海老と海老しいたけが欠かせない。後は秋ならではの物だろうか。
 それから外せぬ酒はあの『無濾過生原酒』と記された逸品だ。元々は有名すぎる程有名な、飲めば一万年程生きられそうな酒だが、このボトルは年間出荷量数百本という珍しいものである。後は店長のおすすめにしようか。

 美味いものに金は惜しみたくないが――
 与えられた12万という中で他人とのシェア率は考えなければならない。

「て事で、デュエルスタンバイ!」

「最悪、ポケットマネーが火を噴く事になっても構わん、来い!!」
 準備万端。

「「「かんぱーい」」」
 激しい戦いが始まった。


 まずはお造りと
 快がつまむのはお造りの車海老だ。ぷりぷりの甘みがたまらない。
「それでは、いただきます」
 糾華がつまむのはカンパチと、後はカツオか。

 まあ何時もの面子だわな、と俊介。悠里の隣に座る彼の元にも、ガラスの徳利が届く。
「お、悪いね」
 快からの差し入れだ。飲み比べてもいいだろう。
「悠里、酌してやろうか?」
「ええっ!?」
「女じゃなくて悪いが女みたいに顔綺麗じゃん! 俺!」
 いやまあ、そうなんだろうけどっ。
「前はついで貰ったから今度は僕がね」
 悠里もお酌を返す。注文はセーブしていた様だがどんどんついでやる。

「霧島くんはまだお酒飲めないんだっけ?」
「飲めるって、ほら」
「あ、飲めるなら一緒にさつまいもどう? 1本かわごといけるんだよ!」
 一本追加。
「設楽くんもね!! あ、食べたことあるの? やだもー早く言ってよーさつまいもお願いします!!」
 二本目追加。壱也のお芋攻勢はまだまだ始まったばかりである。

 それからサラダ。
「こっちのサラダも美味しいね!」
「はい」
「あ、エスターテちゃん、この前の南の島で寝ちゃってごめんね。午前中にいっぱい遊んだら疲れちゃって」
 双子の弟と一緒に、何を話していたのだろうか。
「え、と。紅茶の話を」
 何事も包み隠さぬ親友であった。

 いよいよ天ぷらもあがってきた。
「ねね、エスターテちゃんこれって小さいエビさんなのかな? 変な形なの」
 まずは才巻海老の足揚げだ。
 じっと見つめるルアがくすくすと笑う。
「はい。小さい海老みたいです」
 軽くお塩をつけて。ぱりっと口に運べば、香ばしい海老の風味が次なる期待を誘う。

「くっ――海老は嫌いだったのに、足から既に美味い」
 続く一品目はいよいよ才巻海老の身である。
「この小さな海老の中にぎっしりと詰め込まれたうま味はまさに宇宙そのものか」

 俺の中のデウスがマキナしてやがるぜ……!

 中までしっかり熱々だが、あくまで焼けどしない程度のレア。
 俊介の好みさえ変えてしまったのが、このぷりぷりに甘い海老である。

「兎に角楽しみなのは、秋の味覚なのよね」
 旬のものには結構弱かったりする糾華。
 ぎんなんの香りと、ほくほくしたくわいは出初めの小さなものだ。
 そしてあおりいか。一品一品を土佐のお塩で。
 しゃくりと、柔らかな歯ごたえと共にイカの旨みが糾華の口に広がる。
 歯ごたえ、香り、そして味――
「はふ……美味しい……」
 ついぞこぼれるため息と共に、次なる銀杏へ移る前に一口のお茶を。
「はぁ、日本に生まれてよかったわ……うん」
 口をリセットして、一品ずつゆっくりと味わうのだ。

「うん、美味しい……食材に感謝したくなるってこういう事ね」

「……成程、これが一流という物か」
 時村財閥のパーティ等で美味しい料理を食べる機会はあれど、落ち着いて食べた事はなかった。
「美味い――」
 他に何も言う事など出来はしない。
「拓真、ここさつまいもがおいしいって! 1本揚げてくれるって!!」
 壱也の次なる布教活動。まだ食べてはいないが絶対美味しいに違いない。
「すごくない!? 絶対おいしいし贅沢! なので頼もう! 二本お願いしまーす!」

「そういえば拓真とご飯食べるのって珍しいよね。お酒は割りと一緒するけど」
 悠里の付き合いは三年にもなるが。
「そういえばそうだったな、大体が酒絡みだったか」
 拓真と言えば不思議と縁側のお茶が良く似合う。伴侶ともあまり外食しない質であるから、そんなものなのかもしれないが。
「今度釣りでも行って、そのまま焼いて食べたりしてみる?」
「キャンプか……そうだな。それも悪くは無い、釣りならば多少はやった事もある」

「ふおおおおお!」
 そして壱也が待ちに待った『お芋』の登場である。
 一本まるごと、じっくりと揚げたさつまいもを二つに切って食べやすく。
 湯気を立てる芋を口に運べば、とても甘くておいしい。

「ほたて、また会ったな……」
 俊介の呟き。
 外はしっかりと火が通り、中はレア。香ばしさと甘さの二重奏。
 あえてレモン汁はつけずに塩だけで頂く。
「確かな歯ごたえと甘み――貴様が魔王か……」
 細い箸の先、捕えた獲物は絶対に逃さない。

「店長、日本酒なんですけど……」
 目ざとい快のクレバーな戦い方。
「メニューに無いやつ、あったりします?」
「ありますよ」
 あの油川の酒造。山田錦の父母を使ったお酒の飲み比べ。

 梅組のルアとエスターテは一足先にお好みを繰り出す頃合か。
「新田さんむかごって何? 虫?」
「まあ、山芋の実、みたいなものかな。厳密には違うけど。ご飯と一緒に炊きこんだりすると、ホクホクして美味しいんだ」
「じゃあ、それお願いします! あと、牛フィレと小なすとまいたけと牡蠣を食べたいです!」
「ルアとエスターテちゃんのオススメはなんだろ?」
 すかさず壱也も聞いてみる。
「私は、甘鯛と、太刀魚をお願いしようかと。壱也さんは?」
「わたしはさつまいもかな!」
「さつまいもおいしいよ! 一本丸まるほくほくもぐもぐだよ!! 二本お願いしまーす!」
 お芋攻勢は終わらない。
 少女達にはちょっと多いだろうか、でも分けっ子すればきっと大丈夫だ。

「……あ」
 サミーの目の前に、とうとう来てしまった。アナゴの骨揚げと共に――

 \突然の茄子!/

「僕、eggplant嫌い」
 これを食べれば依頼は成功になるのだが――
「無理にとは言わないけど、食べてみればきっと世界が変わるよ」
「……食べるの? ……やだ」
 ぷいっとサミー。
「ここの天ぷらは塩で食べるのが基本だけど、この茄子は是非、大根おろしと天つゆでね。じゅわっと、味が染みて美味しい」
 快の言葉に、一同は
 塩で食べると決めた俊介であったが、オススメとあらば仕方ない。半分に割ってあるから、塩と天つゆで食べ比べもいいだろう。
 皆が箸を進める中、サミーは無言だ。目の前にはちんまりと茄子。
 これが革醒して悲劇が起きるというのだから、依頼が失敗しては元も子もない。まあ、他の人が食ってるからいいんだけど、それはそれとして。
「むー……。が、がんばる」
 仕事なら、仕方がないのだ。
 この店の食材は小ぶりで味がギュっとつまったものが多い。大根おろしを載せて、天つゆをじゅわっと染込ませた茄子は、サミーにとってどんな味わいだったのだろうか。

 ともあれ。ここで振り絞られた少女の勇気はリベリスタ達に勝利をもたらしたのであった。


 かぼちゃ、しいたけ、れんこん、舞茸といった秋の味に合わせて快が頼んだのは佐賀のEast No.1。
「ん? 出した天ぷらを、揚げ箸で二つに割った……」
 そして秋鮭。中までしっかりと火が通りながら、中はレアだ。
 口の中でほろほろと崩れる様に、濃厚な鮭の旨みがたまらない。
 それから外はぱりっと皮ごと揚げた里芋。
 ねっとりとした上質な芋と香ばしい皮のハーモニーが絶品だ。邪道だが、こいつには一滴醤油をつけるのも捨てがたい。

 そしてきす、あなごと来れば、そろそろ『おこのみ』の時間。
「えびを、えびをください!! えび全種類食べたいの!えび関連!!よろしくお願いしますえび!」
 壱也が求めるのは海老。何匹でも食べつくすのだ。あとお芋。
「お好みには是非、栗を」
 快のおすすめは栗である。
「僕、shinkuri? が食べたい。甘いんでしょ?」
 表情はいつもの様にむっとしたまま、あれこれと注文を呟くサミー。
 栗は甘い渋皮煮の天ぷらだが、赤白のワインでそれぞれ二つ。
「……! んー。美味しい!」
 暖かなマロングラッセか。ほっくりとした甘みに、ついつい両手をぱたぱたしてしまう。

「そうね――」
 糾華が選んだお好みは、牛フィレ、牡蠣、新栗、無花果か。
「糾華(あざっ)ちゃん食べてる? 何がおいしかったー?」
「牛フィレ! 美味しかったの!」
「shinkuri美味しかった」
「そうね、牡蠣と無花果も」
「はい」
 レアな厚切り和牛を、わさび醤油と、仏海草塩で頂く。
 牡蠣は言わずもがな。無花果は熱々にとろりと甘いデザート感覚の一品だ。ぷちぷちとした種の歯ごたえも楽しい。
「そうだな」
 僕もルアちゃんおすすめの牛フィレを食べようかなと悠里。
「わたしも同じやつ食べたいな! なんでも食べられるよー」
「糾華ちゃんもよかったらさつまいも食べよ! あ、サミーちゃんも食べる? さつまいも」
「ん……美味しいなら……食べる」
「日本の文化だよ~ちょうおいしいの~!」
 さらに攻勢。
「さつまいも二本お願いしまーす!!」

「俺も他におすすめの日本酒があれば」
 俊介が尋ねれば、一杯目と同じ酒造の一本があるらしい。同じ蔵の心洗われる酒と並んで磨きぬかれた上品な酒だ。
 近水樓台先得月――
 古い中国の詩を冠した酒は、米を28%まで磨き上げた逸品。月の様に綺麗な味わいが魅力の純米大吟醸である。

 さて、皆はどんな感じに食べているのだろうか。
 ふと気になった拓真だが、一同満足そうな顔だ。伴侶もいつか連れて来ようと決意する。
「しかし、あちら盛り上がっているな」
 近くの常連も、こちらの席と同じ様に、酒と季節の味覚を味わっている。
「……ところで、これは本部に報告が必要だよね? 依頼だし」
「俺もファンタズムで写真でも取っておくか」
 常連もやっているし。思い出の一ページを刻む。

「……ねえ。そこのおじさん。さっきから美味しそうに食べてる」
 それは何? 僕も食べたいとサミー。
 子持ち鮎、太刀魚、むかご、甘鯛か。
「たくさんある。ねえ、どれが一番美味しい? 美味しいの、僕も頼む」
 初見の方には甘鯛だろうか。
 皮ごとあげられた鱗のぱりぱり香ばしい歯ごたえと、ぎゅっと詰まった旨み。

「こんばんは、また会いましたね。」
「ど、どうも。あ――」
 おっさんが飲んでいるお酒は、なぜそんなに磨くのかオッターフェスタ。それからこの店のもう一つの看板ブラックドラゴンと、安定したコスパが魅力のシャドータイガー。
 今注文したのはなんだろうと、快がアイコンタクトを試みる。

 山形のサクラ・フェザーズアウト――か。

 ルアもおっさんに手をふる。前にも会ったが覚えていてくれているだろうか。
 そういえば心なしか『らると』とかいう依頼で捕まえた白いもふもふした猫と似ているような――
 気のせいかな。
「……って、ピさんじゃん! 次のシベリアは何時行く?」
 えっと。俊介のメタな質問にたじろぐおっさん。

 そして悠里が注文した品々が姿を見せる。
 肉厚の太刀魚、まろやかな牡蠣。
「なんか……食べたいものを只管頼んでるだけだな……」
 秋の鱧は脂の乗りがぐっと増している。
 海栗の磯辺揚げは海苔に包まれた新鮮な海栗の香りが、お酒とよく合う。
 もういっそ全部頼んだらいいという気もしてくるが、それはだめだと悠里。
 お金の問題ではない。お腹が膨れた状態で食べると本来より美味しさが減少するからだ。
 腹八分目が望ましいのである。

 サミーが指差すのは『磯辺巻』という文字。やっぱり漢字はまだちょっと苦手なのだ。
「ねぇ、これ、なんて読むの? うにとやまといもって別物だよね? なかま?」
「これはこっちで、やまといもは摩り下ろしたお芋かな。おいしいよ」
「美味しい? なら食べる。」
 海苔につつまれたやまといものふわふわな舌触りが美味しい。

「お食事をご用意いたしましょうか?」
 そろそろ、そんな時間だ。
「気になるな」
 コースを頼んだ皆に、〆のごはんものが運ばれてくる。拓真と快が頼んだのは天まぜだ。
 拓真は興味本位で、快は今回敢えてそうしてみた。
 半熟の黄身を天ぷらにして中央に。周りには芝海老をちらかして。とろりと割った黄身にたれをかけてご飯と頂く。これが絶品だ。

 サミーの元には天丼。タレと小柱の香ばしい味わいにご飯がすすむ。
「そこに、これ」
 おっと、牛フィレだ!
 ちょっとこれは予想外だが、反則級に美味いかもしれない。

 定番の天茶、熱いお茶とデザートを楽しんだら――
「ふう、美味しくいただきました。ごちそうさま」
「ご馳走様でした、良い時間を過ごさせて貰ったよ」
「エスターテさんも楽しかった?」
「はい」
「そう、良かったわ」
 あがりだ。

 エンジェルと来る事を誓う悠里。
 天カスを嫁に持ち帰る俊介。

「たまには、実家寄ってくかな」
 お土産を片手に。実家の方の新田酒店はここから数駅だ。

 支払いはカードで。
 商社マン快のカードが唸り、戦いは終わりを告げた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 字数やばい……削るの苦しい……

 以下、恒例のくっそどうでもいい判定です。

 大人がシェアした四合分のお酒は快さんの奢り。
 おすすめのお芋は壱也さんの奢りとして、それぞれ計算しています。

 MVPは予算配分が神懸かっていた方へ。
 びっくりしました。

●合計152700。予算合計120000(以下お名前敬称略)
・俊介12500
・糾華15800★
・快29500(奢り酒含)★!
・拓真14700★
・ルア9400
・悠里20200★
・サマエル16800★
・壱也24800(奢り芋含)★!
・エスターテ9000

 それではまた皆さんとお会いできる日を願って。pipiでした。

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称号いただきます。ました。
『お芋クイーン』羽柴 壱也(BNE002639)