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妖刀・乱 ~無貌の技盗剣士~

●無貌の技盗剣士、『魍魎』
 千葉県香取市某所。
 内海を北に、犬吠岬を東にもつこの土地は武芸の神として知ろしめすところの香取神宮が存在している。
 故に武芸十八般とは言わずとも一般的には良く知られる剣術柔術弓術薙刀術といった道場がちらほらとながら現代にまで残されている……が、それはあくまで表向きであって、裏向き潜り闇道場を含めれば数え切れぬほどの道場がある。中には無慙一心流、富船無双流、白田無動流、天道ファイトクラブ、路六書道教室、高木部屋などなど、名のある武闘派リベリスタやフィクサードが拠点としていた場所も多く、極々一部の者にとっては聖地に近い土地でもあった。
 そんな中にある、旧蘭下邸廃墟。道場でもジムでも相撲部屋でもないこの邸が今……血で血を洗う、血で血を流す、流血鮮血かけ流しの戦場と化していた。

 風より早く走り抜刀。人間まとめて三人分は撫で斬れるという自慢の剣術が閃いた。
「『不動剣山』」
 が、攻撃したと思ったときには既に刀に遮られ、男は体勢を固定される。
 そこへ。
「『地球割り』」
 足をどんと踏み下ろす。あらゆる防御を突破し、男の身体だけをべきんとへし折った。
 仲間が彼の名を叫び、恨みと憎しみをもって襲いかかる。
 呪いに満ちた剣が悲鳴のごとき叫びと共に繰り出される、が。
「『無双櫓投げ』」
 気づいたときには接近され、掴まれ、サッカーボールのようにぽんと上空に蹴り上げられていた。
「『虎々遊戯』」
 彼が地面に落ちたときには、致命傷を三つ連続で叩き込まれ、既に息は無かった。
 立て続けに二人死んだ。
 彼らは決して十把一絡げの雑魚ではない。香取に道場を構え武道を修める腕利きも腕利き。『道場主だけ』を集めた精鋭集団である。
「ば、ばかな……何者だ……何者だ、あいつは……!」
 あいつ。
 そうとしか言いようが無い。
 なぜならやつには顔が無く、肌に色はなく、特徴はなく、服装すらわからぬ、いわば闇の塊だった。それがかろうじて人間だと思えたのは、大量の人間を無理矢理かけあわせたような幻影がゆらゆらと中央にあるからである。
 それだけならまだいい。
 まだバケモノですむ。
 彼ら腕利き、バケモノの一体や二体でうろたえはせぬ。
 だがそれが、香取の各道場主が師より直伝された秘技をまるで自分のものであるかのように使いこなしていたのだ。
 盗もうとして盗める技ではない。
 ラーニングとも思えない。
 完全再現かつ完全活用である。
 一人が言った。
「魍魎……」
 その後、全ての道場主は殺害され、全ての技は盗まれた。
 たったひとりの、誰とも分からぬ剣士によって。

●誰にでもなれて、誰にもなれない刀――妖刀『乱』。
「皆さん、事件です。アーティファクトで凶行をはたらく人間を討伐してください」
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)がアークリベリスタを集めたのはある緊急コールからである。
 アークはこれまで綾樫案山子がうったとされる十本の妖刀を追い、それらを封印保管していた四人の技師を保護していた。その内、封印状態の監視を行なっていた染師・前原がアークへ緊急のコールをかけてきたのだ。
 いわく、妖刀『乱』の封印が解かれた、と。
 詳しく語るとこうだ。
「妖刀『乱』とは、誰にでもなれて誰にもなれぬ刀ですじゃ。ひとたび抜けば、戦ったあらゆる者の技を完全な形で盗むことができる。しかし反動として、抜いた本人の存在は混乱してしまう。誰でも無いものになって、二度と元の自分には戻れなくなるというものですじゃ。ひとの技を盗めば格が落ちると言いますが、ここで落としているのは人格そのものということですな」
 仮にこれを『魍魎』と呼ぼう。
 なんでもあってなんでもない、そういうバケモノをさす言葉だ。
 魍魎は現在香取市の道場を次々に破っているという。現われ方も去り方も神出鬼没。どこからともなく、という状態である。
 今回アークは協力組織である無慙一心流道場に頼み、待ち伏せ作戦をとることにした。
 この道場を狙うタイミングで待機し、魍魎と戦闘状態に突入。撃破するというのが趣旨である。
「いちど『乱』に呑まれればもとにもどることはありませぬ。しかし倒され、力尽きたならば、刀が力を失いまする。封印し、回収できましょうや」
 そう言って、染・塗・細工・蒔絵の技師合作による仮封印箱を差し出した。
 相手を倒した段階で自動発動し、刀を封印してくれるというすぐれものである。
「それでは後は、頼みます」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年09月27日(土)23:21
 八重紅友禅でございます。

●『魍魎』について
 人間ベースだってこと以外なにもわからない敵です。
 あらゆる技を使いこなせる性能があり、多くの人間の力を盗んでいるぶん非常に強いです。
 六人で力を合わせてガチでいかないとヤバいことになります。
 対応の仕方としては、どんな効果がつくか分からない全距離全対応スキルでも持ってるんだなあくらいに思って置いてください。そう考えると、そこまで恐い相手ではないでしょう。
 ちなみに、八重紅シナリオに出てくるあらゆる技を使える設定になっています。物語の終盤っぽさを感じさせますね。

●妖刀『乱』について
 魍魎が持っている刀がソレです。
 プレイング空振り対策に述べますが、破壊や強奪、押さえ込みはできません。戦闘システムにそういうルールがないからです。逆に言えばこちらも武器破壊や強奪をされる心配はないので、普通に戦ってもらって大丈夫です。これに関しては腕等への部位攻撃も同様です。
 魍魎が倒された段階で仮封印箱が発動し、勝手に封印してくれます。まさか無いとは思いますが、『乱』をパクっていくのはやめといてください。キャラロスト不可避なんで。

参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
アウトサイドソードミラージュ
リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)
ハイジーニアスデュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
ギガントフレームクロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
ハイジーニアスダークナイト
山田・珍粘(BNE002078)
ジーニアス覇界闘士
四辻 迷子(BNE003063)
ナイトバロンソードミラージュ
蜂須賀 朔(BNE004313)

●特別が羨ましくて、憎かった。汚してしまいたかった。
 『歩く廃刀令』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)の刀、複雑可変型機構刀と魍魎の妖刀・乱が交差した。
 一度や二度の話ではない。リュミエールは箱の中に放たれたスーパーボールのように上下左右関係なしに跳ね回り、あらゆる角度から魍魎へと斬りかかっていく。
「アァ、ガッカリだ」
 頬をかすめ。
「ソノ刀、持ち帰りデキネエジャネエカ」
 腹をかすめ。
「デモ、妖刀ダロ? ソレ妖刀ナンダロ?」
 膝をかすめ。
「オイテケヨ」
 7秒の間に九百九十九箇所をなで切りにして、ようやくリュミエールは着地した。
 ほぼ水平方向からの着地である。フォームもスライディングのそれに近い。
 それだけのダメージを受けていながら。
「『醍味生相』」
 魍魎は仁王立ちのまま、血の一滴すら流していなかった。体表が刃を弾き、僅かな傷もまた瞬時に回復しているのだ。
 闇を人型に固めたようなモノであっても、中身は人間である。痛みがないわけではなかろうが。
「『桃弦郷』『超戦術』」
 ぐっと膝を曲げたかと思うと、その時には既にリュミエールの背後にいた。彼女の首根っこを掴み取り、強く固定する。
「――ッ!?」
 高速機動が売りのリュミエールが急所を掴まれたというだけでも異常なのに、その上で動きを封じられたのだ。技が多彩であるだけではない。ベースの人間も相当なものだ。
「『無双俵投げ』」
 空中に放られる。天井にぶつかるでも地上に落ちるでも無いふんわりとした空中に、リュミエールは投げ出されたまま止まった。あまりに無防備だ。
「『地球割り』」
「させるか!」
 そこへ、『不滅の剣』楠神 風斗(BNE001434)の剣が走った。間を、もしくは世界を分かつように斬撃が繰り出され、魍魎の身体が切りつけられる。
 切断されないのは強度がゆえだ。魍魎は激しく回転しながら地面をバウンドし、掛け軸のあった壁にぶつかった。
 木目板の壁を粉砕。
 すかさず『桐鳳凰』ツァイン・ウォーレス(BNE001520)が飛び込み、追撃。
 体重をまるっと乗せた剣が腹にめり込み、内壁を破壊する。
「まだ寝ておれ」
 更に『土俵合わせ』四辻 迷子(BNE003063)が突撃。身体を壁から引きはがそうとする魍魎の首根っこを掴んで壁へと叩き付ける。
 壁へ放射状に亀裂が走る。
「先輩!」
「まかせろ!」
 風斗とツァインは左右非対称に構え、炎のように目を輝かせた。
 しかし踏み込み、振り込み、叩き込みまでが全く同時。いち早く離脱した迷子を残し、二人は道場の壁を突き破ってアスファルト道路へと転げ出た。
 地面を転がりながら、風斗はまだ屋内にいる仲間に呼びかけた。
「いけます! 相手は一人だ、複数人によるコンビネーションまでは学習できないはず!」
「だといいな」
 壁の穴を通って屋外に出る『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)。
 一方の魍魎は、走ってきた自動車を片手で止め、そのまま片手で持ち上げた。
 振りかぶり、叩き付けてくる。
「『勧善勧悪』」
「他人を巻き込むとは、無粋だな」
 朔は刀を抜くと、自動車のフレームに反って振り込んだ。
 それだけで自動車は真っ二つに割れて後方へ飛んでいく。
 中に乗っていた婦人は片手で受け止め、明後日の方向へ転がした。
 その横を『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)が拘束で駆け抜ける。
 手槍を構え、呪力をチャージ。
 凄まじいエネルギーを噴射しながら魍魎へと突撃した。
 刀一本で防ぎきる魍魎。
 しかし勢いまでは殺せない。ついには地面から足が離れ、魍魎と那由他はもつれあいながら道路を挟んだ向かい側まで飛び、土と草を盛大にえぐりとりながら滑った。
 至近距離で額を押しつける那由他。
「『読んで』いますからね、あなたのスキルは全部――って」
「『豪快絶頂拳』、『ナイトフィーバー』」
 気づけば空に打ち上げられ、次の瞬間には強烈な踵落としが入っていた。
 土と石を盛大にまきあげ、那由他は地面に突っ込んだ。
「ふむ、これは派手にやられたのう……」
 煙管片手に空き地へと入ってくる迷子。
 と、そこへ。
 九人に増えた魍魎が天から降ってきた。
「『九十九神』」
 駆けつけてきたリュミエール、ツァイン、風斗たちも思わず足をとめる。
 那由他は身体を起こし、肩についた土を落としていた。
「風斗さん」
「はい」
「コンビネーションがなんですって?」
「本当にごめんなさい山田先ぱ」
「ン?」
「那由他先輩。この技は解析できましたか」
「できましたよ。いいニュースと悪いニュースどちらから聞きます?」
「……わ、悪い方からいっぺんに」
 那由他は肩をすくめ、苦笑いをした。
「九人の分身全部、めっぽう強いです。効果時間が100秒なんで、死ぬ気で粘ってください」

●きっと何者かになれるはず。みなそうやって闇の中に呑まれていく。
「この状況は、むしろ……」
 煙管を刀のように構え、迷子は笑った。
 相手は魍魎ひとり。こちらは自分ひとり。
 協力しようと思えばできるはずなのに、ふたりはじわじわと歩きながら他集団から距離をとっていた。
「望むところよ、の」
 構えは全く同じだった。
 間合いも同じ。
 同じ土俵。
 土俵合わせ。
「色々思ったが、結局わしにはこれしかない。目を開いたその時から、ずっとこれ(戦い)しか――」
 同時に踏み込む。魍魎が刀を繰り出し、迷子がそれを煙管で受ける。迷子が回し蹴りを繰り出し、魍魎がそれを腕で受ける。魍魎が叩き込んだ頭突きを迷子が額で受け、ギラリと目が光った。
 時が急速に引き延ばされる。
 斬撃を斬撃で打撃を打撃で蹴撃を蹴撃で投げを投げで打ち返し、幾度も幾度もぶつかり合った。
 それでようやく見えてくる。
 技の先。力の先。心の形が見えてくる。
「なるほど、この景色が……『無敵』か」
 力量では相手が上だ。押し負けるだろう。
 技量も相手が上だ。競り負けるだろう。
 だがいい。それでいい。
 迷子はその時、相手の心をがしりと掴んだのだ。
「最強にも最弱にもなれず誰でもあって誰でもない。己自身に迷った迷子、そんなわしが土俵合わせに触れたのは、道理だった。おまえはなぜその刀に触れた。なぜ抜いた。『誰でもあり誰でもない特別な誰か』に、なりたかったのじゃろ」
 打ち合いに負け、煙管が回転しながら飛んでいく。
 血を吐き、身体が折れた。骨などとうに何本も折れている。
「お前は誰よりわしから遠く、誰より私に似ている」
 意識が遠のき、そして暗転した。
 負けたのだろう。
 負けたのだろうが。
 それでいい。
 リュミエールが弾丸のように飛んできて、魍魎の首をはねた。
 紙人形になって消え、はらはらと落ちていく。
「……」
 リュミエールはそれを一瞥してから、すぐに地面を蹴った。
 両サイドから魍魎の斬撃が来たからだ。
 ギリギリでかわす。だが避けきれていない。腕を深く切りつけられた。ナイフを口にくわえ、空中で身を転じる。
「六八」
 別名妖刀難泰……の片割れ。今は力なき刀。リュミエールはふと、この刀にまつわる話を思い出した。
 これまで保護した妖刀技術者たちの話である。
 妖刀難泰。全ての不幸を寄せ付ける刀。他人の不幸を吸い取る刀。持っているだけで不幸になり、斬った相手の不幸を奪い取るという。それを完全な形で最後に持っていたのは、路六剣八だった。彼は一体何を思って……いや。
 なんでもいい。
 今は、今だけはなんでもいい。
 力をみせろ。
 時を加速しろ。
「私ハ誰ヨリモ速イノダカラ」
「『虎々遊戯』」
 追いついてきた魍魎が連撃を叩き込んでくる。
 六八をトンファーのようにして打撃をさけにかかる。
 すべては避けきれない。それだけの精度で打ち込んでくるからだ。
 しかし、リュミエールは少しも負ける気がしなかった。
「刀を十二分に発揮出来ない木偶人形カ。滑稽ダナ」
 魍魎が離脱。魍魎の分身が大量に飛びつき、彼女を押さえつけにかかる。
 腕や足を掴まれ、リュミエールは地面に墜落した。
 そこへ突っ込んでいく風斗。
「矜持も無くただ奪うためだけの武技は、毒でしかない。だから倒す、俺の剣が、お前を倒す!」
 斜めに振り込まれた剣が分身を真っ二つに切断。紙人形に変える。
「護るための、俺の剣が!」
 分身が偽物の刀を振り込んでくる。
 間合いが近く、狙いも正確だ。動きの大きな風斗にはあまりに避けづらかった。
 一瞬で腕が飛んでいく。これが首じゃなかっただけマシだ。
 次の瞬間には腕の自由になったリュミエールが分身の両足を切断。強制的に転倒させる。
 風斗は飛んでいきそうになった自分の腕をくわえ、全身をつかって分身にトドメをさした。
 左右からさらなる分身が襲いかかってくる。
 身体を起こしたリュミエールと片腕の風斗。二人は背中をあわせた。
「いちにのさんで行くぞ。い――」
「サン」
 リュミエールはぴょんと飛び上がり、風斗の背中を壁にして水平ジャンプ。
 無理矢理押し出された風斗はもつれた身体で無理矢理分身を切りつけた。
 紙になってはらはら落ちる分身。
 瞬間。風斗の耳にこんな呟きが聞こえた。
「『浪人形』」
「まずい、避け――!」
 咄嗟に防御姿勢をとる。
 致命傷は逃れるだろう。が、彼の身体は宙に浮き上がり、全身から血を吹くはめになった。
 リュミエールや那由他は素早く空中に逃げて斬撃を回避。
 朔はいっそ斬られるままにして、代わりにすれ違いざまの魍魎を斬りつけた。
 血を吹いて転がる魍魎。が、彼のおった傷は朔のものだけではなかった。
「その技は知ってるぜ。反撃に弱いってことも、な」
 ツァインである。
 ツァインはこの連撃のなか、どっしりと地面に両足をつけ、あらゆる角度から繰り出された攻撃に対して的確に防御、反撃していたのだ。
 武術を追った彼だから、武人を追いかけてきた彼だから、頭の中で何度も達人とのバトルを空想した彼だからできたことかもしれない。
 いや、こんな大それたことを言うのはよくない。
 まだ、よくない。
「そろそろ分身が解けるころだろ? 俺が相手になってやる。さあ来い。いつか叶わなかった決着をつけよう」
 剣と盾。古典にして王道のスタイルで、彼は笑った。
 魍魎はまっすぐ彼へと突撃する。
 強烈な打撃が来る。盾で反らして回転斬りを返す。
 更に剣へエネルギーを送り込み、魍魎にかかっていたあらゆる付与状態を根こそぎはぎ取った。
 ぐっと肩を掴まれ、空中に跳ね上げられる。それでも体勢は崩さない。多角的な連打を叩き込まれるが、それら全てを盾と剣で防御。最後の一撃は逆に掴み取り、地面についた頃には魍魎の頭が土に叩き込まれていた。
「すごい。全ての技に渡り合っている……いや、打ち返しているのか」
 今こそ言おう。
 彼だからできたこと、である。
 よせばいいのに自分の知っている技を全部列挙し、よせばいいのに対処法をいちいち考え、よせばいいのにそれを全部抱えて挑んできた。
 愚直である。陳腐でもあった。だがそれが、彼の味であり、個性であり、そして強さだったのだ。
 今初めて証明されたことではない。
 ずっと前から知っていた。
 『ツァイン・ウォーレスが強い』ということは。
「『不動剣山』」
「甘い――!」
 反撃覚悟で剣を叩き込む。
 ツァインの頬に大きな刀傷が走ったが、座り込もうとした魍魎を力業で撥ね飛ばし、構えを解かせてしまった。
 これに関しては那由他も見たことがある。白田剣山の不動剣山は自己付与スキル。ブレイクで解くことが出来るのだ。
「模倣は悪くない。マネができる腕があるってことだからだ。でも技はそこから、習得したところからだ。一生をかけて鍛えて、磨いて、改良していくんだ。それは、どんな技でも同じことだぜ」「……」
 地面に転がった魍魎は、そのままスッと正座をした。
「『真・不動剣山』」
「何度やっても――」
 斬りかか――ろうと思った時にはツァインの腕と足が切り裂かれていた。
 がくりと体勢を崩し、転倒する。
「これは」
 那由他にはしっかり見えていた。
 勿論物理的に動けなくなったから転倒したのではない。大幅に攻撃がズレたのだ。いわば不吉不運凶運の複合状態である。それが凄まじい速度で放たれたのである。
 それを伝えると、朔は片眉だけを上げて言った。
「返し技の究極形態か。15年前……いや、一ヶ月前に受けたばかりだな」
 朔は刀を水平に構え。
「私とは逆だ。不動剣山が返し技なら、私の技は送り技。斬ったという結果を相手に押しつける技だ。例えば」
 180度返し。
「こういう風にな」
 自らの両目を切断した。
「な――!」
 仲間の驚きなど、もはや過去のことである。
 朔は両目から滝のような血を流し、ゆらりと構えた。
「ある男が言っていた。『そいつが人生をかけて編み出した技は、そいつが人生をかけて成し遂げたかったことの手段なんだ。それを受け取ったからには、成し遂げる義理がある』……と。その男も、それを聞いた女も死んだがな」
 踏み込む。
 走る。
「『閃刃斬魔』、推して参る」
 刀の間合いに入り、刀を振り込む。
 魍魎もまた、光のような速さで刀をふるった。
 はためには何をやっているか全く分からなかった。
 駆ける途中の姿勢で朔が固まり、正座の姿勢で魍魎が固まっていた。
 だがこれを見る者がみれば分かっただろう。
 肉眼で確認できない速度で刀と刀がぶつかり合い、弾かれあっていることに。その証拠に二人の間にばちばちと火花が散り、最後には閃光となって爆発した。
 光が過ぎ去り。
 朔は立っていた。
 片腕と両腕を失い、口だけで刀をくわえて立っていた。
 刀を落とす。
「わかりきっていたことだ。私が人生をかけて成し遂げることなど」
 彼女の後ろで。
 魍魎が袈裟斬りにされている。
「永劫に戦い続け、永劫に勝つ」
「……ど、どひょう……ぐ、ふ」
 ゆらゆらと魍魎が起き上がる。
 血を吐き出し、地面に腕をついた。
 血液の中に、透明な液体が混じっていたようにも見える。
「まだ起きるか。ならば」
「待ってください」
 振り向いた朔との間に、那由他が立ちはだかった。
 那由他・エカテリーナが。
 いや、山田珍粘という愉快な名前の女が。
 両腕を広げて立った。
 魍魎という、誰でも無い誰かに向けてである。
 剣を手に風斗がじわじわと距離をとる。
「やま――那由他先輩、離れてください。囲んで距離をとって、集中を重ねて、一気に責め立てれば勝てます。ですよねツァイン先輩」
「そう、なるな。だからやま那由他さんも」
 ツァインやリュミエールも、円を組むように魍魎を囲んだ。
「やまなゆたって誰ですノしますよ」
 山田珍粘はそう言って、ゆっくりと魍魎へと近づいた。
「一度目。足場を無くして取り囲んでしまえば手が出せないと思ったら、見事に斬り返されてしまいました。あれは恥ずかしい想いをしましたよ、本当に」
「お、おい……」
 更に近づいていく。
「二度目。小細工抜きで斬り合って、届きはしたものの負けてしまいました。あの場にはリュミエールさんやツァインさん、朔さんの妹さんも居ましたね。あれは悔しかった。なんだか色々と、色々とね」
 剣の間合い、一歩手前。
 山田珍粘は手槍をしまい、アームガード一本である。こちらの間合いが届くより早く、相手の斬撃が来るだろう。
「三度目。今日は……その技を、超えに来ました」
 山田珍粘は踏み出した。
 一歩を。
 山田珍粘という歴史の籠もった一歩を踏み出した。
 視覚認識よりも早い斬撃が来る。朔はこれを本能だけで打ち返していたが、山田珍粘は違う。
「後の先の先――の、先」

 倒れていた迷子が、薄めを開けた。
「そう、それでよい」
 格闘に限らず。
 ボードゲーム。日常会話。サラリーマンの日常的な業務内容にさえ存在するものがある。それが『やりとり』だ。
 自分がいて他人がいる。
 自分の行動を他人が受ける。
 他人の行動を自分が受ける。
 自分の思い通りに他人を動かしたいとき、他人の行動をどうにかして捻らなければならない。利用しなければならない。
 そんな発想から生まれた技術が『カウンター』である。
 格闘だけでなく、あらゆる分野でその技術は用いられている。
 が、そんなカウンターを先読みしたうえでさらなるカウンターを仕掛けるのが真・不動剣山。
 相手を理解し、自分を理解し、全て読み切って放たれる技である。
 それを。
 封じるでもなく。
 押し切るでもなく。
 まして逃げるでもなく。
 超えようとしていたのだ。
「今、名付けました」
 相手を理解する自分を理解する相手を理解した上で放つ、超次元的『封殺殺し(ふうさつごろし)』。
 山田珍粘は。
 那由他・エカテリーナは。
 力尽きた『魍魎だった』骸を前に、手を合わせた。
「超・不動剣山」

 後に残った骸に顔は無かった。
 あらゆるものが混ざりすぎ、誰とも分からなくなっていたのだ。
 だがなぜか、ツァインや迷子たちは彼が誰だか知っている気がした。
 そしてもうひとつ。
 封印箱に入った刀を眺めるリュミエール。
「乱。結局オ前ハ、何ノタメニアルンダロウ?」
 妖刀の意味を、彼女は考え始めていた。
 ひとつの真実に続く道が、開こうとしている。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 それぞれの想いがそれぞれの形となり、プレイングという限られたスペースにぎっしりと埋まっていました。
 キャラクターの歴史を読んでいるようで、もうこれ大成功でよくねえかと思いましたがあんまりやり過ぎてもいけないので成功……大成功に近い成功! と判定させていただきます。

===================
ラーニング成功!
EXスキル:「超・不動剣山(EX)」
取得者:山田・珍粘(BNE002078)