●トゥルパを生かしてはならぬ 中国西蔵、日本表記におけるチベット自治区。 豪奢な建築で有名な白居寺から更に南へ下った、ある山中の寺にて。 本来ならアジアの色彩豊かで落ち着きある彫刻が並ぶ筈の部屋が、病的な色に塗りつぶされていた。 部屋の内装がビビットピンクに統一されていたのだ。 「るんるん、るんたった」 黒とビビットピンクしかない以上きわまる部屋の窓に、少女が一人腰掛けている。外を眺めては厚底ブーツを振っていた。服装はまたもビビットピンクのフリルドレス。気の狂ったデザイナーが徹夜明けに仕上げたようなヒステリックな小物を大量に身につけた、それはそれはサイケデリックな少女であった。 「るんたら、るんたら、るんたった」 鼻歌を歌いながら外を見ている。 外には一人の高僧が縄で吊るされている。 「やめるのだニマ・チョクシー。おまえは生命の和を乱そうとしている」 「あぁらぁ……さぁすがセンセイ。今から死んじゃうって時にも私にお説教しちゃうだなんて、トキメクぅー」 足をぶらぶらさせるニマ・チョクシー。 高僧は真剣なまなざしで言った。 「トゥルパに自己認識可能なまでの生命力をあたえてはならぬ。勝手に振る舞い、人民を惑わすぞ。チベットだけではない、いずれは世界のバランスすら危ぶまれる。崩界の危機なるぞ……!」 「ヤダぁ、センセイったら難しいことばつかってぇ。ニマはね? 偶像一個生み出すのに高僧一人が必要って構図が非生産的だって言ってるの。センセイだって、うんうんおまじないしてるだけじゃつまらないでしょう? だからホォラ、こんな仕掛けを用意したんじゃない」 手を翳す。 高僧が示すとおりに眼下を見やると、ぐつぐつと煮えた極彩色の釜があった。 ゆっくりとロープが下ろされる。 「やめろ、やめるんだニマ・チョクシー! おまえは、おまえとてただの……あっ、ぐああああああああああああ!」 全身が釜へつかってすぐに、ぷかりと頭蓋骨が浮き上がった。一つだけでは無い。周囲には無数の、大量の、沢山の頭蓋骨が浮き上がっていた。 釜の周囲から大量の蒸気が沸きだし、それらは人型のぐねぐねした物体へと収縮していく。 一つや二つではない。 何十という数で、それは形を成し、個々の意志をもち、ケタケタと笑いながら歩き出した。 「アァン、もう……」 ニマ・チョクシーは身体をくねりとねじり、恍惚に微笑んだ。 「世界が壊れる、カ・イ・カ・ン!」 ●量産型タルパロイド チベットに広がる広大な山々はその美しさを喪っていた。 ありていに言って、地獄である。 「康馬県、江孜県、どちらも連絡が途絶えておる。なんとしてもここ白朗県であのバケモノどもを止めねばならぬ……」 老人が壁にかけられた槍をとり、庭に繋いだ馬へと飛び乗った。 先祖伝来の力がこもった槍と鎧である。これを用いて彼らは様々な侵略者を追い払ってきたのだ。今回もそのひとつになると思っていたが……。 『長老、たすっ……たすけ……たすけてくれええええええ!』 トランシーバーでの通信が入った。 千里眼を使うと、遠くで血まみれになった男が這いずっているのが見えた。 既に足はなく、全身に銃で撃たれたような傷がある。それでも死なないのは、彼が一族最強のリベリスタだからだ。 千発の銃弾をはじき返し、千人の敵を薙ぎ払うという彼の武勲は一族でも有名だ。それがこの有様である。 「おまえっ……おまえほどのやつが、なぜ……!」 顔を上げる。 遠くに見える軍勢が、腕利きのリベリスタたちを次々に屠っていく光景が見えた。 敵は無貌、無色、無形の人型。手にサーベルと軽機関銃を持っている……いや違う、腕がそのまま銃や剣に変わっているのだ。身体はぐねぐねとねじ曲がり、槍でついてもついた部分だけに穴が開き、まるで水や粘土をついたようにしか通じない。 それどころか。 『あっああ、うああああああああああああ!』 兵隊は倒した敵を食らうのだ。腹を大顎に変え、噛み砕いて飲み込むという形でだ。 飲み込まれた後はころんと卵を産み落とし、それがまた新たな兵隊へと変わる。 「敵を食らい、増えているのか……!? なんだ、あのバケモノは……」 老人は恐怖にかられ、味方に撤退の合図を出し、一目散にその場から逃げ出した。 「日本だ! 日本に連絡をとれ! アークという組織を頼るのだ! 我らが生き残る道は……他に無い!」 ●SOS チベット自治区のリベリスタ組織から救援要請があった。 チベット江孜県を中心に大量のエリューションフォースが発生。無差別殺人を行ないつつ拡大しているという。 調査に特化した現地リベリスタの情報によれば、主犯はニマ・チョクシー。新しく建造した『鮮血寺』という要塞めいた建物を拠点とし、『量産型タルパロイド』を製造、派兵している。 アークはこれをうけて、危機にあるチベットリベリスタ勢力を支援すると共に、鮮血寺へ少数精鋭による突撃作戦を決行することとなった。 フォーチュナはこう語る。 「このためメンバーは支援部隊と突撃部隊の二班に分かれることになります。人数配分等については資料を参照してください。まずは、『タルパロイド』について説明しましょう」 アークはかつてタルパロイドの研究者である八幡縊吊博士とその補助研究員たちを吸収及び接収している。八幡博士はアークがタルパロイドを兵器転用するつもりだと考えて積極協力をしてくれなかったが、アーク独自の研究によっていくつかの実態は把握できていた。 「タルパロイドとは、脳内に特定の自律思考領域を確保した人間が副次的に整形することのできるエリューションフォースだとされています。具体的にはタルパシードというアーティファクトを媒介に疑似人格を持った強力な影人を作成する能力と言っていいでしょう。こうして作成されるものを簡略化してタルパロイド、または『人工生霊』と呼びます」 自律思考領域については研究が完了しており、ブレイン・イン・ラヴァーで代用が可能とされている。というより、八幡博士がこれを用いて高僧のトゥルパ秘術を代用していたのだそうだ。 実体化に関しても白幡神社の崩界阻止計画の一旦として再現済みであり、安定運用が可能とみられている。 「ニマ・チョクシーが作成した量産型タルパロイドとは、高僧の思念だけを大量に並列運用し、タルパシード無しで最低限の人格を持ったエリューションフォースを大量生産するというものです。これらは『殺意』という感情だけで突き動かされており、人間を殺すという習性だけで動いています。そのうえ他人の殺意を吸収して増える性質も持ち、大変危険なエリューションだとみていいでしょう。我々が動く価値は充分にあります」 さて、今回の作戦はチベット軍支援部隊と鮮血寺突撃部隊の二班に分かれて行動する。 それぞれについて説明しよう。 『チベット軍支援部隊』の役割は文字通りチベットのリベリスタチームを支援するのが役割だ。 ナイトメアダウン改変によって優秀なリベリスタが残存したとはいえ、もともと争いの少ない土地である。兵の練度は残念ながら少ない。そして即席の混合軍であるだけに統率もとりずらく、ここはリベリスタのメッカであるアークに全権を託そうという内容で合意したそうだ。 アークは現チームから2~4名を派遣。白朗県に整えられた広大なフィールドを舞台に集団戦を指揮することになる。 敵兵100。味方70。この戦力差をアークリベリスタの力でひっくり返すのだ。 『鮮血寺突撃部隊』はうってかわって少数精鋭だ。 ここは防御が硬く、半端な兵隊を増やすほど不利になる。なので『殺しても死なない』でおなじみのアークが少数精鋭で突っ込むのが得策なのだ。 段取りとしては上空から高速輸送機で突入。量産型タルパロイドは当然のこと、アークリベリスタ約一人分の戦闘力を有する純正タルパロイドが守護するアジトを攻略する。建物内は入り組んでおり、そこかしこにタルパロイドがあふれている。突入も派手になるので、倒すことよりも突っ切ることを念頭においた方がいいだろう。 そして塔最上階に君臨するニマ・チョクシーを倒すことが最終目的となる。 「厳しい任務ですが、これまで数々の困難に打ち勝ってきた皆さんなら、きっと乗り越えられるでしょう。ご武運を!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:VERY HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年10月05日(日)23:06 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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