● 来たるは9月。 東京と言えども緑の多い此の場所。だが、異変が発生した。 空間にヒビが入り、綻びが生じたのだ。其の穴は少しずつ、少しずつ広がっていく。 ちょっとした穴が空いたかと思えば、今度は2本の腕が出て来た。其の腕はまた、穴を広げんと言わんばかりにヒビを広げていったのだ。 ぬ、と顔を出したのはソロモンが72柱が1柱。第66位『キマリス』であった。 地に足が着き、周囲を確かめる様に首を廻す。 確かに此処には通行人が多いのだが……不思議な事に、彼の存在には気づいていないのか、誰1人として其の異常事態に気づいていない。 たった、1人。カジュアルな服装でキマリスをじーっと見つめる美青年が居たのだが。 「ク、はははは!!」 「……キメイエス」 突如、突風が巻き起こる。一般人誰しもが倒れかける程の、風だ。 勢いよく地面を蹴り飛ばしたキマリスは、其の美青年の首を掴まんとしたのだが、寸前で美青年は影さえ残さず消えた。 直後、別の姿……否、本来の姿と成りてキマリスの背後に廻ったのだ。 だが、キマリスの方が一枚上手であったか、『もう一柱』に背後を取られる事を彼は許さない。 『弾けろ、セイル!!』 「……っ!!?」 炎が発生しない爆発が起きたのか、美青年ならぬ美神は後方へ後方へと飛ばされて、電柱にぶつかり止まった。 刹那、美神の前方に立ったキマリスの指が、咳き込む彼の顎を持ち上げた。 「ゲホッ、ゲホッ!! ……何時も此の挨拶の仕方、そろそろ止めませんか?」 『ハハハハ! イイだろ、闘争神たる俺らしいやり方だ。だがお前の事だ、セイル。痛くも痒くも無いだろう?』 「そうですけれど……」 ピクリと反応した2柱。空を見上げ、聞こえないはずの声に耳を傾ければ、嗚呼、そう我等が主。 「召喚者殿……分って、います」 『キース、名案だ! 俺はセイルの力を使う、セイルは俺を利用しろ』 「それに、私には力が無い。お互いにお互いをフォローし合えば……」 長い爪を持つキマリスの手が、ソロモンが72柱、第70位『セーレ』の頭を掴んだ。 キマリスの力――そう、どんな弱者であろうとも屈強な戦士へと変える、此の力を使って。 『ハハハハハハ!! さぁ、どうしたい、どうなりたい? 望め、キースの願いを叶える為に此の俺を、望めよ!!』 「う、あ、あああっ、アアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」 飲み込まれるような勢いでキマリスの力がセーレを侵食していく。 破壊衝動、戦闘衝動、死線の中で踊り狂う為に。力をやるから、力を寄越せ、キマリスのギブアンドテイクは安くは無い。 嗚呼、此れも全て召喚者の為―――否、キマリスがキマリスとして華やかに遊ぶ為の消耗品だ。 ● 「皆様こんにちは、本日も依頼を宜しくお願い致します」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達にそう伝えた。 今回の相手はあの、キース率いる魔神だそうだ。 そういえば昨年の此の時期がそうだったか。キースがアークに喧嘩を売って来たのは……。 「そのキースが再び、アークに挑戦状を叩きつけて来た、という事です。今はグレゴリー・ラスプーチンの件もあるというのに……全く、もうっ。 此れを無視すれば、彼が何をしでかすのかわかりませんので、アークは彼の相手をする事に決定致しました。防ぎきれない事故だと思って、事にあたってください……」 其のキースだが、昨年の戦いを敗北だと思っているというのだ。 あれから彼は修業を積んでいたというのであるから、去年の彼と思って舐めてかかると痛い目にあうだろう。さて、どうなる事やら。彼が勝ってしまった暁には何が起こるというのかは未だ知りたくも無い事ではあるのだが……。 喧嘩したい、剣林をこじらせたような彼は留まる事を知らない。 「さて、私達ですが、第66位の魔神、キマリスに当たってもらいます」 伝承にもあるように、魔神キマリスは闘争心の塊のような悪魔である。其の意味では、キースと似た傾向を持っている為、彼とは仲が良いと言えよう。 しかし、今回の彼は何時もとは違っている。 「というのも、第70位のセーレが関係しているのです。此の班と、もうひとつ、セーレに当たる班は近くて遠い場所で戦って頂く事になるかと思います」 聞くに、セーレはキマリスを護り、キマリスはセーレに力を与えているという。 お互いがお互いの弱い部分をカバーし合って、厄介な事になっているのは間違いが無い。此れも主であるキースに勝利を与える為であろう……多少なりとも、キマリス(1人で戦いたい)としては、それなりにプライドを折っているものとも思える。此れまで幾度となく追い返されてきたのだ、方法を変えなくては勝つことは出来ない、只、其の為に。 「其のキマリスですが、セーレの能力によって、彼に攻撃しようとすると移送されてしまうのです。距離では、18mきっかり。なので、例えばキマリスに遠距離攻撃を当てたいのであれば2m以下の位置から攻撃しないと当たりません」 其れは、どの範囲からでもキマリスに攻撃を仕掛ければ発動してしまう絶対の防御術。此れはセーレがボトムで撃破されれば解除されるものなのだが……。 「そう言った面で、もうひとつの班との連携が必要かもしれないですね。彼方はお構いなしに攻撃してくるのに、此方は考えを捻らないと攻撃できないなんて……。 それと、キマリスの能力。 死霊を従え、戦う力を与える能力。また、キマリスの『言霊』に気を付けてください。 キマリスの本体が来ている訳でもないので、言霊の力はキマリス本体より遥かに弱いものです。が、修行したキースによって、以前の能力よりは強力になっているかと思います。 特に、体力が低下したときには気をつけてください。 『言霊』により指揮を上げ、力を与える能力があるのならば――その逆もあるのでしょう。 どうか、惑わされないで、自分の意思をしっかりもって下さい。それがきっと、力になるはずです」 強力な魔神が統べる戦場へ。 「キースの望みは、アークとガチンコのバトルをする事です。なので、戦いを望まないのであれば魔神は一般人を殺すかもしれない……それだけは避けなければならないのです。 魔神が作った結界の中は陣地作成のようなもので人はおりませんが、魔神の気分次第で結界を解かれるかもしれないので、お気をつけて。 それでは、厄介なものは沢山ございますが……宜しくお願い致します」 杏理は深々と頭を下げた。 ● 戦え、戦え、戦え。 生まれたのは何時かは分からないし、死ぬ先も見えない。 己は概念であると思った方が、始まりも終わりも無くて相応しいだろう。 地獄も楽しいが、ボトムという玩具を見つけたのだ。 さあ、戦え、戦士は戦え。 血を巻き、死体を積み、勝利を飲み下し。舞え、狂え、男も女も皆武器を持ったのならば容赦はしない―――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年09月28日(日)23:11 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 厄介な台風とは正に、此の事である。 キースが約束した9月10日は、待っていても待っていなくてもやってきてしまった、2回目……では、あるものの。 駆り出されたリベリスタも多い、そしてまた、此の戦場――代々木公園でもそうだ。近頃、嫌にも蚊によるウィルス被害が多発しているという此処ではあるが、リベリスタにはもっと厄介なものがあるようだ。 「来ると、思っていた――――っつーか、見たことある貌ばかりだな」 ソロモンが72柱の魔神。 「……キマリス」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が零した名前の主は、リベリスタ達とは少し離れた場所にはいるもののニヤりと笑った顔が確認できる。 「御機嫌よう、異界の闘争神よ。――貴方を倒します」 「そりゃあ、良い心構えなことだ」 そうでなくては困るのだ。ミリィこそ、以前の彼とはオーラが違う事は見るだけで明白であった。キースが修行をしていたというのも、嘘でも伊達でも無かったと言う事の証明であろう。キマリスとしては、100%の力が出せなくて未だ不満な表情ではあるのだが。 して、リベリスタ11人はキマリスが施した結界の中へと突入していた、辺りは未だ昼だというのに何故だか暗い感じがする。空も、少しばかり、紅い。まるで此の先、何が起こるのか予兆をしているようであった。 一歩踏みしめ、『元・剣林』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)は止まる。思い返してみれば、キマリスと相対するのも久しぶりという言葉が相応しいであろうか。 まるで友人に話しかけるが如く、気楽で、気軽なように虎鐵は言う。 「よぉよぉキマリス。戦いを楽しもうぜ? ……と、言いてぇ所だが、すまんがその厄介な能力がある内はお預けらしいぜ? 全く……餓えちまうよなぁ?」 「あぁ、『セイル』か」 純粋に、キマリスとは戦いたい。鍛えられた肉体をフルに使ってぶつかりあう――それだけで満たされるというのに、其処には神秘が大きな壁を作っていた。キマリスとしても我慢しているのだろう、勝つ為だ、正攻法では勝れないのなら別の手を使うしかない、と。 そう、もう一体の魔神の存在である。 「どうやら俺等は、意地でも勝ちたいらしい」 キマリスは心の底から笑えない虎鐵に対して、同じように皮肉った笑顔を作った。 「だが、考えろ。俺等は2柱がかりで貴様等を倒しに来た……ってー事だ。そっちは22人で俺等を倒しに来た。強力するって事はそういう事だろう?」 「『彼方』の仲間を信じろと? ふっ、キマリス君はなかなか臭い事を言う」 つい噴き出す笑み。『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)が研ぎ澄まされたナイフの様な瞳をキマリスへと向けた。 「面倒な能力を持ってきたものだな。そういうのは好みではないのだが……君がそれでやりたいというなら相手になってやろう」 「なぁに、俺とがちんこしてえならセイル(セーレ)がさっさと退場した暁だ」 「そうだね! わたしたちだけじゃないもんね!」 耐えない笑顔に花を咲かせて、『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)は羽柴ギガントをAFから抜きだした。其の輝く様な剣先に、彼、キマリスも得物を闇から引き抜く形で出した。 「俺等の言語は言葉じゃない、こっち(肉体言語)だ。そうだろ? ――俺の、楽しい楽しい友人共」 キマリスの指が上を向き、クイ、と曲がったそれ。挑発と、戦闘開始の合図だろう……本当なら少しでもお喋りをして彼方の班がセーレを倒す時間を稼ぎたかったものだが。 「やっぱりさッ! 待てないよなッ!!」 一際だって、嬉しそうな笑みで地面を蹴った『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)であった。 ● 「駄目なら、駄目で構わない。楽しんでくれ、今日は無礼講だろ?」 「楽しむも、なにも無茶苦茶でも強引でも勝つ!」 飛びつく様な猛攻――『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)が一番始めにキマリスに狙われた、が、其の前には『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)がキマリスの眼前に辿り着いていた。 キマリスであっても見えなかった程。レイチェルの起動能力に、ゾクりと震えたキマリス。 楽しそうに歪んだ魔神の笑顔を特等席で見据えながら彼女は言った。 「やれやれ、一難さってまた一難、ですね」 己の能力を限界まで引き出しつつであったが、眼前に来た餌を逃す程キマリスが飢えていなかったというのは嘘であろう。勿論、攻撃の対象はレイチェルである。 『そんじゃあ、何時ものやっておくか? 跪いてみるか? それとも命乞いするか?』 No66が吼える、だがミリィは重力のかかる足さえ無視して指揮棒を振るった。 なんども、なんども経験した此の力だ。そう何度も通じない事と、倒れてなるものかとミリィは冷や汗をかきながらも耐え続けていく。 他の仲間にしてみてもそうだ、突然かかった言葉の重力。彼が従えというのなら、従ってしまう言葉の力。けれどそれもリベリスタには通用しない、誰一人、戦いたくないなどと思ってはいないのだから! キマリスの剣に纏いしは、黒光のする電撃。若干、振動しているようにも見える其れが容赦なくレイチェルの右肩から左腹部までを叩き斬ったのであった。すれば、斬られた彼女の背後や地面にも大きな爪痕が刻まれていく。 舞った鮮血、されど其の頃、朔が黒馬の眼前に移動していた。 其の奥では両足を高らかに上げて吼えた黒色の馬が猛威を振るう。 「やれやれ、動物園だな」 長い黒髪を左右に振って、光の若干薄い瞳を開けた『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)。 吐きたい毒は山ほどあるのだが、彼女がやるべき仕事は前も今も似たようなものか。 「いい加減、その面見飽きたな……」 地面から這い上がる様にして出て来た、鎧を纏った骸骨――死霊。人の肉が切り裂きやすいように反った剣を振り上げ、向かうのユーヌの方へであった。 「相も変わらず陰気な面だ」 己が傷つく覚悟は出来ていた、という事であろう。死霊を引き受け、そしてだからこそ死霊が実体化する。 「だ、だいじょうぶですっ、ミミミルノのかいふくはちょうすーぱーききますですっ」 「ああ、期待している」 『さぽーたーみならい』テテロ ミミミルノ(BNE004222)が己の存在をアピールするように、両手を上げてユーヌに答えた。 まずはテテロは神秘を防ぐ魔法陣を生み出すのだが、少し離れた場所では既に血が舞っている。テテロが手を止める事は、どうにもこうにも許されないようだ。 「まずはまもりをかためて……ミミミルノはぜったいにたおれちゃいけないのですっ」 数字を数えていく様に、段階を追ってテテロは最高治癒魔術の陣を組み上げていく。 「んーいいねぇテテロちゃん、可愛くてつい僕、埋めて上げたくなっちゃうねえ」 「ひっ、いまはだめなのですっ」 『規格外』架枢深鴇(nBNE000280)が不穏な笑みを浮かべながらも、片手で回復魔法を発動させた。 「まあ、頑張ろうね」 「はい!」 「危なくなったら、僕テテロちゃん盾にするから……宜しくネ!」 「はい!?」 刹那、轟く炎が戦場の温度を急激に上げた。『影人マイスター』赤禰 諭(BNE004571)の朱雀が、紅い空を駆けたのであった。 と、同時に諭の位置がキマリスの近くから遠くに話された。まさに瞬きをするような時間の中で行われた、早業……というよりは空間移転の能力か。 正直此れが一番めんどくさい所だろうと、諭の眉間にシワが寄った。ええい、忌々しいと言ってしまえば終わりだが、ユーヌ並みのヘイトと語彙を蓄えている彼はたった一言。 「やれやれ、戦馬鹿はダメですね」 と吐き出した。 其の頃、馬を中心に囲む仲間の影。 勿論だが馬はキマリスの命令に忠実に、回復手から狙い始めた。此の班の回復といえば、テテロと深鴇の事であるのだが。 猪突猛進だと突貫してくる馬の姿を前に、コヨーテは両手で馬を掴んで止める。引きずられた靴が擦り減っていくはものの、回復手からあと3歩の位置で馬の勢いが止まったのだ。だからと言って攻撃が終わった訳でも無し、コヨーテの右肩に噛みついた顎は頑丈で頑固で強固だ。喰われている感覚というものは慣れる事が無いだろう、痛みに少しばかり冷や汗をかく彼だが其の桃色の瞳には仲間を映していた。 「『閃刃斬魔』、推して参る」 馬の片足に小型のナイフを突き刺していた朔。跳躍し、速度を威力に変換、唸る葬刀魔喰が抜刀されて黒馬の背が大きく斬り裂かれては、血の代わりであろう黒色の闇が噴き出した。 口に着いた黒色の血を舌で拭い、吐き出す朔の隣。大きく振り上げられていた壱也の太刀が上から下へとギロチンの様に落とされた。 片足一本、黒馬のそれが宙を回転しながら舞っていく。 「キマリス! ちゃんと躾けといてくれた? 躾けは飼い主の基本でしょ!」 にこ、と笑った壱也の顔に、キマリスは一度だけ「それなりには」と答えた。 ● セーレ側からの連絡は未だに無い、それもそうであろう。そんなに簡単に彼等も魔神を倒せていたら苦労は無いであろうし……。 揺れ動く指揮棒、頭の中は計算でめいいっぱい。小さな身体で軍師を誇るミリィだからこそ、揺れ動く瞳は一点を見た。 ユーヌが引き受けた死霊である、確かにユーヌは集める力は確実性あるものなのだろう。だが4体から一気に襲われてしまえばそれこそたまったものでは無い。 「ユーヌさん! 今、なんとかしますから!」 して、現実問題。4体が彼女に集まっているからこそ、其処に叩きこんだのはレイザープレッシャー。重く、行動を許さない其れを見事4体ともにハメてみせたミリィ。 振り向き際、ユーヌの瞳が少しばかりの感謝の色に染められていた所で傷が逆再生して治っていく。 「がんばって!」 テテロの愛らしい応援に背中を押され、虎鐵の兼久が横一文字に黒馬の胴体を削っていく。 「今回も邪魔なテメェを……潰す」 カウンターとして、黒馬の足が虎鐵の顔面を蹴り飛ばしていったがそれがなんだというのだ。 虎鐵の口端からタラリと流れた己自身の血。最早口内は鉄のそれが充満しているのだが、戦いになると何時もこうであろう。吐き出した血の塊、そして虎鐵はもう一度剣を―――。 「よお、来てやったぜ」 振り上げ、がら空きになったミリーの胴に刺さる雷剣。刺さってかつ、捻られれば抉られる痛みにグラっと意識が飛びそうになる。 「キマリ、ス……!!」 確かにレイチェルが抑えに入っていたものの、攻撃をしてしまえばブロックは外れてしまう位置へと飛ばされる。 そういう意味でのフリーに成ったキマリスはミリーを攻撃していたのだ! ミリーは突き出した剣を掴み、キマリスを動けないように固定してみる。それで仲間が、そう。リベリスタの攻撃はキマリスでは無く、黒馬へと向かうのだから! 「このまま動かさないのもありなのだわ!」 「つれねえなあ、まだこの身体。褐色のお嬢ちゃんと、札を使う男にしか傷つけられていない訳だが」 「安心してよ、わたしデザートはあとにとっておくタイプだから」 「俺にとっては、全員がメインディッシュだ」 再び壱也の攻撃が黒馬を刻む頃、入れ替わりの様に飛び込んで来た、傷ついたばかりのミリー。実験であるとキマリスの攻撃に割り込んで来た。 だが攻撃はやはりミリーの身体を傷つけてしまった、キマリスの……いや、セーレの能力を逆手に取ろうとした結果ではあるものの、そう上手くは使えないものだ。本気で攻撃しようとしない限り空間転移は行われないらしい。 「ちぇ、慣れは知らないけどやりにくいんじゃない?」 「何時もと同じ、じゃあつまらないだろ?」 答えになっていない答えを突き返されて、だがミリーは足下に自分の血で出来た水たまりの上に立つ。 そこにレイチェルが再び駆ける。抑えると言ったら抑えるのだろう、其の紅い瞳が更に真っ赤に成る程の意思を込めて。 「貴方の動きくらい、読めます……いや、読んでみせます!!」 掴み、動かすまいとするレイチェル。だがまだキマリスの、いや、セーレの力が果てしなくうざったいのも事実だ。 ミリィが計算内にも息を吐いて、 「本当に、厄介な力を手に入れてくれましたね……」 と賞賛かそれとも皮肉か、ミリィ自身どちらとも言えない笑みで返した。 再び、テテロと深鴇の治癒が施される戦場。キマリスを追うレイチェルが忙しいものの、矢張りほぼ全員で黒馬を狙ってしまえばいくらなんでも黒馬が蒸発するのは早いものだ。 「そろそろ、終わらせましょうかぁ?」 口が悪いと称した諭が断言したように言ってしまえば、現実にも成ろう。 「さっさと燃え尽きてください」 苛立ち混じりに放つのは、先程と同じではあるものの壱枚の札。キマリスを攻撃に含めてしまえば、己が其処から更に後ろへ移動してしまう事は勿論ではあるものの、それでもいいのだ黒馬を黙らせられるのであらば。 「――――朱雀」 諭が命じたのは、敵を灰へと変える事だ。同調したように、札から舞い上がった巨大な炎の影は死霊やキマリスを巻き込んで飛びだっていく。 全身を炎に撒かれた黒馬だが、まさに暴れ馬のようにとち狂って動き出し―――暫く、放置した後に動かなくなって元の闇となって消えて行った。 「やるなあ、流石はリベリスタ―――という所か」 キマリスが黒馬が消えて行ったのを横目に、切り出した。 「なら、此処からが本番だ」 「まだ本番では無かったのか」 「まあそういうなよ」 キマリスの言葉にユーヌが噛みついたが、さて置いて。 ―――No.66 『荒れ狂え、遠慮はいらん、もっとだ、もっと!! 楽しませろ!! 此の、俺、キマリスの滾る血を誰が止めてくれよう――!!』 傷ついた仲間の手前で、キマリスの咆哮がテテロの耳をびりびりと傷めつけた。 だが負けじとテテロは言うのだ。 「ミミミルノがずーーーっとかいふくしつづけるですっ。みんなのやるきはぜったいになくならせないですっ!!」 テテロの愛らしい姿は既に傷つき服もぼろぼろである。だが彼女が仲間を護る中では、まだ、倒れるものも少ないのは確かであった。 其の時、AFの通信に1つの連絡が入った。 「機は熟しました。反撃の時間です。――準備は良いですね?」 ● 如何やら彼方のセーレが還ったらしい、ならばと自然とキマリスに施されていた術も消えたと言う事だ。 「キマリスッ! 此処からだぜッ!」 「みんながんばって!!」 テテロが再び回復の陣を組む、その直後にマナトレーディングを発動させればコヨーテの精神力も持ち直すというものだ。 後ろ向きでお礼を言われたテテロは少し顔を赤らめながら、にっこり笑った。 天候が荒れ狂う、紅い空は黒い雲を引き連れて来た、雨が降り、地が荒れていく。 だが今此の時を待っていた者達にとっては好機である。 「闘り合いたくてウズウズしてたンだ……お前ェもだろッ?」 『コヨーテ、俺の数少ない友人か……来い!! 心行くまで語り合おうぜ!!』 飛び込んだコヨーテの拳がキマリスを穿つ、だがお返しには既にコヨーテの胴に剣が刺さる。鮮血、鮮血、キマリスは口から、コヨーテは腹部から、されど譲らない、譲れない、1人と1柱はこうして遊ぶのだから。 「やっとか」 虎鐵が待ってましたとばかりに、足下の影から力を引き出す。 彼の暗黒は、暗黒と言えども彼の力が強すぎてまた別の何かに見えるかのようだ。そう、まるで砲台か。打ち上げた暗黒の闇は死霊を射抜き、其の装甲を吹き飛ばしていくのだ。 だがそれだけで、虎鐵は止まらなかった。 「よぉ、いよいよお楽しみタイムだぜ? 互いに楽しもうじゃねぇか」 『虎の。貴様の攻撃……何時でも此の俺を困らせてくれるが、それも良い!!』 全力。 まさに此の弐文字が相応しいであろう、虎鐵が右から、そして壱也が左からキマリスを挟む。丁度、まるで鋏が閉じられていく様な雰囲気で弐本の大太刀がキマリスを噛まんとする。 だが跳躍して抜け出したキマリス、2人の刃は空を裂いてしまうのだが、止まらない。壱也も虎鐵も息を合わせて得物を投擲、へと。 しかしキースの力が強まり、本来の力に近づいたキマリスの神経は鋭い。壱也の刃は跳ね返し、虎鐵の太刀はキマリスを捕えた。 『返すぜ』 兼久を抜いたキマリスは空中から兼久を壱也へと投げた、顔面すれすれを落ちて地面に突き刺さった虎鐵のそれ。恐らく壱也を狙ったのだろうが。 「ちょっと! 危ないじゃん!」 『殺そうとすれば危ないのは当たり前だ、魂を寄越す覚悟はできたか?』 「またそれ! こないだのあれってナンパ? わたしも好かれたもんだねー」 『望めよ、力が欲しいだろ? 俺等魔神はそれさえ叶える、一種の道具と思ってくれれば良いもんだろ?』 力……。 壱也の視点からしてみれば、誰かを護れる力は欲しいものだ。 力なんていくらあっても、悲しみが全て消し去れる程強いものでは無いのだから――されど、無いよりはあった方がいくらか助けられる人も増えるというポジティブにも考える事は可能だ。 「欲しいよ」 『なら』 「でも!! ……手に余る力で誰かを守れるほど、器用じゃない」 しゅん、と。少し目線が下を向いた壱也に対し、着地したキマリスの肩が揺れた。 『ふ……、く、フフ、はは、ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』 「キマリス、よく笑うよね」 『お前等が面白いからだ! 此れだから、人間は、いや革醒者は良い。そうか、手に余る力か、そうか、そうか!!』 「キマリスに、わたしが必要になったら! わたしが契約させてあげてもいいよっ!」 『壱也が俺にか? ハハ、其の内な』 背後のミリィが指示を出す、彼女の計算に身を任せつつ、レイチェルは動く。 己が武器には魅了のシードが詰まっていた。そしてかつ、レイチェルの命中であるのならば、大抵のもののバッドステータスは通用してもおかしくは無いだろう。 動き、逃れようとするキマリスに対し、レイチェルは言う。ミリィは計算をする。 「既に貴方の動きは把握しました」 「計算に狂いはありません、今なら、彼を射とめられる―――!!」 2人の力が合わさってこそ、キマリスは逃れられなかった。 逃げる方向にミリィの指揮棒が動きレイチェルが合わせて来るのだ。 少しばかりの苛立ちと厄介さがキマリスの脳を刺激したものの、だが其の時にはレイチェルの魅了がキマリスに貫通する。 「速やかに排除させていただきます」 今こそ、反撃の時である。 「今です!!」 ミリィの声と共に、全員が、全員で一斉に攻撃を始めればキマリスとして最悪の10秒であったことには変わりはない。特に。 「こおおおんにゃろー!!!!」 ミリーの足が炎を引き連れてキマリスを穿つ、その威力こそ、クリティカルヒットした時にこそ恐ろしい。 我慢に我慢を重ねて、ご褒美の時が来たのだと。 朔がキマリスに飛び込み首を狩らんとするも、右手を掴まれ投げられ傷ひとつ与えただけ。だがそれだけで朔が満足する事も無い。一回の攻撃外れれば二回やればいいのだと再び飛び込む、朔。 『いいなあ、その折れない心。力が欲しいかよ、蜂須賀の』 「力か。確かに力は欲しい。だが与えられるものに興味はない」 『ハハ、此処の奴等は全員そうだな、皆口を揃えて同じ事を言いやがる』 再び飛び込んだ朔の、だが同じ手は何度やっても無駄だとあしらうキマリスだ。されども朔とて分っているのだろう、腕を掴まれて投げられるのなら掴まれた腕くらいは犠牲にしよう。己の腕ごとキマリスの腕を刺して一撃を与えればそれで御の字だ。 「ミリーとも遊んでよ!」 続くミリー、彼女は彼女の愛らしさもそうだが、やんちゃな程にタチが悪い。純粋さに身を任せてキマリスを折って来ては、炎を得意としたスキルで追い詰めていくのだから。 ミリーが右拳を出せば避けるキマリス、だが跳躍した直後、ミリーは燃え上がる域範囲の炎を吐き出し、周辺一帯を焼け野原へと変えていく。だがそんな事でミリーは止まらない、それに結界の中であるからこそ好きにしても良いのだし。 が、紅い空に赤い周囲、まるで此処は地獄のようだとキマリスはミリーに誉めてやっていた。 「もっとミリーの攻撃受けていいのだわ!!」 「聞けない願いだなあ」 死霊は未だ跋扈する、倒したとしても這い上がってくる分にはタチが悪い。死霊の持つ鋭利な武器を身体に刺さったままに、ユーヌは再び言葉の魔力に敵を翻弄する。そこに諭の攻撃が加われば、うまい具合に連携が取れたかのように死霊が2体葬られた。とはいってもまだすぐに立ち上がってくるであろうが、その間に戦闘が終われば良いものだ。面倒なものは全て消えさせる。諭は言う、 「版の方が劣化し砕け消えるだけマシですね。残り続けるゴミ所か、勝手に出てくるゴミなんて害悪以外の何物でもないです」 しかしそれだけでユーヌは終わっていない。見据えたキマリス、彼をどうにかしなくてはならない。現に、本当に強化されている彼である、ユーヌの見た感じからも以前の彼より攻撃の威力そのものが上がっているのが分るのだ。 「娯楽気分か、精々呆けて眺めてろ」 だからこそだ、ミリーを攻撃しかけたキマリスの動きが止まった。身体の四肢という四肢を、札から発せられる結界にて動かぬように閉じ込めて、捕えられたキマリス自身も驚いた表情と共に笑った。 面白いなぁ‥‥と。 『貴様等が戦いたくないです、と言う事は想定もしなかったからな、やる気になってくれて、此の俺を楽しませてくれて嬉しいぜ』 そう、その戦闘意欲というものが今回の依頼には左右される。キースの願いはがちんこ勝負なだけに、やる気がない奴が1人でも居るのならキマリスは容赦無く此の疑似空間を破って一般人処刑にかかっただろう。 「掃除と駆除に意欲が必要なのか? ああ、濁声でやる気が削がれるのは確かだが、目の前の雑草を抜くのに大した思いなど必要なものか」 『ふん、言ってくれる。いいぜ、それくらいじゃないと楽しくねえ』 ● だが時間はかなり経っている。 キマリスの体力もそうであるが、リベリスタの回復能力も長期戦向きだ。精神力も少なくなってきている、スキルを廻していくのも難しくなっている状態なのだ。 だが此処までキマリスは奥の手を出してはいない。これまでも、今までも、一回も見せていない技があるのだ。 虎鐵は挑発した、お互いに疲労し合っている中であるからこそ出し惜しみなく終わりたいのだと。朔は追撃に言葉を加えて。 「隠し球があるんだろう? それを出せ。出し惜しみなどしていては楽しめるものも楽しめない。死力を尽くせ」 「その攻撃耐えてやるよ」 『……良いだろう、知らんぞ、簡単に死んでくれるな』 キマリスの能力か――片手の剣を構え、狙いは――恐らく此の場に居る全員であろう。 キマリスとはエンチャント系の能力に優れている魔神だ、確かに闘争の神ではあれども力を与える神であり、己が基礎能力以外のスキルはほぼそれでしめている。 だがしかし、自分にエンチャントをし、其れにより攻撃が可能とすれば――。 『耐えろよ、リベリスタァァア!!!』 「なんかまずいかも!!?」 ミリーが言うとき、ミリィは (誰も失わせない。死なせない。私のこの手は零れ落ちる者を掴む為にあるのだから) どうすればどうすればどうすれば―――!! 「伏せて―――!!」 ミリィがあまりの殺意に反応して言ってみたものの、其の時にはもう遅かった。いや、其の声が終わるころには攻撃が終わっていたのだ。 長い牙、長い爪、長い角、身体能力を極限にまで上げた彼――いわゆる120%の魔神Verであるのだろう。地面を蹴ったキマリス――すれば既にリベリスタの背後に移動し終っており、一秒置いて爆風と砂煙と、リベリスタ全員に切り裂かれている爪の跡。 一瞬の内に全員を切り裂き移動したというのか、その傷も内臓を抉る勢いで身体の一部が持っていかれている。 特に回復手、深鴇やテテロの重傷度は大きい。キマリスの腕には誰のかも最早分からない肉塊や内臓がこびり付いている。 だが倒れなかった、まだ、持ちこたえていた。だが、テテロの膝が地面につく。深鴇はテテロを抱えて少し後ろまで飛んで運んだ。 「お疲れちゃん、テテロちゃん。あとはもう、大丈夫だろうから任せてね」 「う……」 お姫様抱っこで、深鴇の背に隠されたテテロ。だが、薄暗く開くテテロの瞳は、リベリスタの勝利を信じてやまない願いがあった。 だからこそ、ミリィは即座に反応した。此の状況、誰が一番に動けるか寸前で判断を下し――。 「レイチェルさん!!」 そして屈しなかったレイチェルの、武器がキマリスの背中を突いた。続いたユーヌの呪縛が、札が、キマリスを捉えて離さない。魅了に加えて呪縛、最早動ける事は無いであろう。 「油断したでしょう?」 『してないつもりだったんだがな……』 そういうキマリスだが、再び魅了のどん底へと堕ちていく、全く、此の女は本当にどうしてくれよう……己がまだ弱い事を証明されているかのようだ。 「ぴーちくぱーちく」 囀りが煩い。 フェイト復活に身を任せて、立ち上がった諭が死霊へとエナジースティールを噛ませば、泥水の味がすると顔を歪ませた、そして最後の札だ。 おい朱雀、此の魔神を焼き尽くさなかったら焼き鳥にしてやるぞという勢いか、命令を下した諭のそれ、再び朱雀は舞い上がる。 「ちょっとさっきの痛かったんだからねー!!」 人間砲台で飛び込んで来たミリーの、頭突きがキマリスを穿ちつつ、 ――どォせならド派手にいきてェじゃんッ? 限界を迎えそうな足を立たせて、コヨーテが動く。 振り払った腕に巻き付いていたのは、何をも溶かし尽くしそうな勢いで燃える劫火である。其れは、彼が目の前一面を大きく燃やし尽くしていく。 其の、炎を突っ切って再びコヨーテはキマリスへと動いた。 「なァ、キマリス」 言葉を紡ぐのは、友人の為。 「このまま一緒に、地獄……永遠に戦い続ける世界に行くッてのも悪かねェけど。そいつはもォちょっと後でイイ」 『そうか? コヨーテ。残念だ』 苦笑の笑みを浮かべたキマリス、だが続きはある。 「だって……どォせなら、「本体」のお前ェと戦って勝ちてェもン。負けンのもヤだし……本当のお前ェと戦うより前に死ぬのも嫌だッ! だから今こン時は……お前ェを倒して、みんなで生き残るッ!」 『ハハハハハハハ! コヨーテ、そうだな、じゃあ此れから貴様は戦い続け、死んだら其の英霊たる魂を俺が招こう、地獄で待っているぜ』 それはまるで、恋人に愛を囁くような甘い時間であった。 けれど一時だ。ほんの、少し。キマリスにしてみれば、瞬きする間の時間くらいに短いもの。 「大好きだぜ。キマリスが、お前ェとのこの時間が」 『ああ、コヨーテ。俺もお前が―――』 前方、コヨーテの右拳がキマリスを捕える中。 後方、虎鐵の。 「テメェを倒して……俺は更に高みを目指さなきゃいけねぇんだよ」 虎鐵の、其の斬魔・獅子護兼久が雨水と血を含んだ雫を幾度も流しながら――、既に、振りかぶられていた。 120%とは恐ろしいもの、何時もの彼の両腕は限界を超えて力増していて。 ……残念だ、振り落してしまえば此の楽しいひと時が終わってしまうのだから。 そして、上から下に力は振り落され何もかもが消えて行くのである。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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