● 来たるは9月。 東京と言えども緑の多い此の場所。 カジュアルな服装で歩くのは、誰しもが振り向く程の美青年であった。 ちょっと歩けば女の子に囲まれたり、ちょっと止まっていればじろじろと見られる事はもう慣れたのだが……。 「あ……」 ふと、己に見惚れたのか、無意識に幼い少女の手から風船が離れて、上へ、上へと飛んでいく。 「あ」 少女も気づいたのか、今にも泣きそうな顔で上を見つめて。あーあ、もうあんな高くまで行ってしまった。 美青年は可哀想だと思えたのか、立ち止まっていた足を少女の方へと向けた。 「私が、取ってあげましょう」 「え……」 少女がきょとん……とし、美青年が周囲を見回して視線が無い事を確かめられた、刹那。 美青年は地面から足が離れて、僅か一秒にも満たない時間の間で跳躍、天高く舞った風船を捕まえて降りて来たのだ。 「ありがとう、おねえちゃん。すごいね」 「どうしたしまして……あ、私はお兄ちゃんですよ。最近此処らへんは危ないので、早くお帰りなさい」 「はぁい」 素直な少女は何度も青年を振り返りながら、奥へと消えて行く。矢張り、此の世界はなんと穏やかなものなのかと痛感したのだが……其れも泡沫の様なもの。 また、周囲には人が闊歩し始める。 此れ以上、人とは関われないと踏んだ青年は、ちょっとした力を周囲に撒いたのであった。己が此処にいようとも、認識されない力という意味で。 そして、己を見つめる気配に気づく。 「……キメイエス」 「ク、はははは!!」 突如目の前、空間が割れた先から出て来た人ならざるモノが急接近。 本能的に其れの後ろへと廻り込んでみるのだが。 『弾けろ、セイル!!』 「……っ!!?」 突如炎の発生しない爆発が起きた。青年の身体は吹き飛ばされて電柱に背を打ち付ける。 そうだった……と思いだすのも今更だが、目の前の『奴』の力は理不尽極まりないものがある。おかしい、召喚されたのなら奴の力が制限されていても可笑しくないのだが、そうか、召喚者の力が強まったという事の現れであろう。 「……何時も此の挨拶の仕方、そろそろ止めませんか?」 『ハハハハ! イイだろ、闘争神たる俺らしいやり方だ。だがお前の事だ、セイル。痛くも痒くも無いだろう?』 「そうですけれど……」 ピクリと反応した2柱。 空を見上げ、聞こえないはずの声に耳を傾ければ、嗚呼、そう我等が主。 「召喚者殿……分って、います」 『キース、名案だ! 俺はセイルの力を使う、セイルは俺を利用しろ』 「それに、私には力が無い。お互いにお互いをフォローし合えば……」 長い爪を持つ手が、ソロモンが72柱、第70位『セーレ』の頭を掴んだ。 キマリスの力――そう、どんな弱者であろうとも屈強な戦士へと変える、此の力を使って。 『ハハハハハハ!! さぁ、どうしたい、どうなりたい? 望め、キースの願いを叶える為に此の俺を、望めよ!!』 「う、あ、あああっ、アアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」 飲み込まれるような勢いでキマリスの力に侵食されていくのが判る。 破壊衝動、戦闘衝動、死線の中で踊り狂う為に。嗚呼、嫌だ……出来れば穏便に事を済ませたかったのだが、そうもいかなくなってしまった。 嗚呼、此れも全て召喚者の為。 ● 「皆様こんにちは、本日も依頼を宜しくお願い致します」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達にそう伝えた。 今回の相手はあの、キース率いる魔神だそうだ。 そういえば昨年の此の時期がそうだったか。キースがアークに喧嘩を売って来たのは……。 「そのキースが再び、アークに挑戦状を叩きつけて来た、という事です。今はグレゴリー・ラスプーチンの件もあるというのに……全く、もうっ。 此れを無視すれば、彼が何をしでかすのかわかりませんので、アークは彼の相手をする事に決定致しました。防ぎきれない事故だと思って、事にあたってください……」 其のキースだが、昨年の戦いを敗北だと思っているというのだ。 あれから彼は修業を積んでいたというのであるから、去年の彼と思って舐めてかかると痛い目にあうだろう。さて、どうなる事やら。彼が勝ってしまった暁には何が起こるというのかは未だ知りたくも無い事ではあるのだが……。 喧嘩したい、剣林をこじらせたような彼は留まる事を知らない。 「さて、私達ですが、第70位の魔神、セーレに当たってもらいます」 伝承にもあるように、魔神セーレは比較的温厚な悪魔である。心の優しさが其の儘鏡に映したかのような外見を持った男神。 しかし、今回の彼は何時もとは違っている。 「というのも、第66位のキマリスが関係しているのです。此の班と、もうひとつ、キマリスに当たる班は近くて遠い場所で戦って頂く事になるかと思います」 聞くに、セーレはキマリスを護り、キマリスはセーレに力を与えているという。 お互いがお互いの弱い部分をカバーし合って、厄介な事になっているのは間違いが無い。此れも主であるキースに勝利を与える為であろう……召喚者の願いを叶えたいセーレは、真逆の性質を持ったキマリスと組んだという事は。 「時間です。 時間によって、セーレの元から存在するタフさが、攻撃の力に変わっていきます。 単純に、最初は防御が高く攻撃力は無いですが、最終的には防御が比較的低い人ならば一発で戦闘不能に追い込める程に攻撃力がアップします。其の辺り、気をつけて……此れは、あちらの班が キマリスを倒してしまえば終わる現象なのですが……」 だが、此れだけでは無い。 「セーレは元々、物を移動させる事に長けている魔神です。彼は攻撃、特に、単体攻撃を仕掛けてくるときには、目標の人物を目の前に移動させて絶対命中を仕掛けてきます。それにも、お気をつけて」 場所は明治神宮。建物もそれなりにある為、セーレは上手く利用して来るであろう。 「キースの望みは、アークとガチンコのバトルをする事です。なので、戦いを望まないのであれば魔神は一般人を殺すかもしれない……それだけは避けなければならないのです。 魔神が作った結界の中は陣地作成のようなもので人はおりませんが、魔神の気分次第で結界を解かれるかもしれないので、お気をつけて。 それでは、厄介なものは沢山ございますが……宜しくお願い致します」 杏理は深々と頭を下げた。 ● 「申し訳ございません。戦ってくれないと、結界の外の人達を殺さないといけないんです……」 呪いの様な術を施されたセーレは虚ろな瞳で、此方を見た。 ……此方? (そんな、まさか) 杏理の、万華鏡の、干渉に更に干渉しているというのか。 「早くいらっしゃってください。じゃないと、私、私―――っ!!!」 敷き詰められたような一般人の死体の群の上に立っているセーレが、真っ赤な手を伸ばしてきた――所で、ぷつん、と途切れたのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年09月28日(日)23:13 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 厄介な台風とは正に、此の事である。 キースが約束した9月10日は、待っていても待っていなくてもやってきてしまった、2回目……では、あるものの。 駆り出されたリベリスタも多い、そしてまた、此の戦場――明治神宮もそうだ。此の戦場に立つのは、心優しき、……其の、心の美しさが正に外面にも見える。 『桃源郷』シィン・アーパーウィル(BNE004479)が言う。 「セーレ……さん」 第70位のソロモンが魔神。 「来て……しまいましたか」 セーレ自身、浮かない貌をしていた。 「お久しぶりの方、初めましての方、私は常に私を呼び覚まし喚び寄せたモノに対して誠実であろうとしている。だから――」 何が何でも、勝たせて頂くと言うのだろう。 武器を片手に持った彼から発せられるオーラは柔らかいが、不安定な殺意が色めている様だ。 「それなら、戦うしかないね」 『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)が苦笑交じりの複雑な表情で顔を傾けた。そも、味方とも思わなかったであろうが……話し合いで、いや、もっと穏健なゲームとかで解決できれば良かったものを。 そうも、いかない。 そうも、いってくれないだろう。 ならば旭は敵として認識する。幾ら彼が心優しくとも、此方に牙を向く存在に奉仕するのであらば容赦は出来ないのだから狂おしい。 「さて、久しぶりですねぇ。セーレさんと最初から呼ばせて頂きました」 「えぇ、私の事は好きに呼んでくれて構いません。友人は、セイルと呼んでくれます」 シィンは続けた、何時か、一年前か、始めた商談の続きをしようと。シィンの瞳の中に映ったセーレの、何時までも変わらず美しい金髪は今日も此の周辺を隔離領域で覆っている。 其の力、契約の暁には差し出すと――。 会話の間に入ったのは、『剛刃断魔』蜂須賀 臣(BNE005030)だ。 「語るよりは、決着を早めに着けた方がいいかもしれない」 考えればセーレとキマリス、どちらを先に倒さねばならないかと言えばセーレの方である事は明確だ。だからこそ、会話なんぞで時間をかける事はできないのだ。 「魔神セーレ。貴様がボトムのノーマル(一般人)に危害を加えるのは本意ではないと見るが、如何に」 「本意……私の本意が許されるのであれば、今、此処には立ってはいないのでしょうが」 許されない。 だが其の返答は臣にとっては敵として見なせない理由となるのであった。 「では貴方を救助対象と認定し、撃滅を以って救助とします」 「是非、見事私を倒して欲しいものだね。でも手加減はできないのです」 「ふーん? キョウセイテキに戦わされてるの? 可哀想だね」 『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)が小さな身体で大きな斧を振り回して準備運動しつつ言う。 ――そろそろ、時間も来た頃か。 最後に1つ、と『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)が片手を挙げた。 「万華鏡で見た結果、「一般人を殺す未来が見えた」でいいのかな?」 「戦ってくれないと、来て頂けないと、『一般人を殺せ』との仰せだからね」 「まだ、殺していないのならいいんですよ」 殺していたのなら、死ねって感じではあったからね。 「では。語り合っていては戦っていないと見なされて、召喚者様が怒りますので……」 腰低く礼をした、刹那。 セーレがリベリスタの眼前から、消えたのであった。 ● 消えた、というより移動したという方がまだ説明しやすいであろう。セーレの速さに着いていくことが可能であったのは、 「あまーい!」 『大魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)のみであった。 「木漏れ日浴びて育つ清らかな新緑――大魔法少女マジカル☆ふたば参上!」 アイドルオーラにて愛らしさを振りまきながら、双葉は後方を振り向けばセーレが接近していた。速度に着いて来られた事に驚いたのか、セーレ自身の表情に少しばかり驚愕のそれが見える。 「紅き血の織り成す黒鎖の響き。其が奏でし葬送曲。我が血よ、黒き流れとなり疾く走れ……いけっ、戒めの鎖!」 詠唱を独自に縮めて最速の発動。 双葉の構えた得物から魔法陣が展開されれば、全身が切り裂かれたように血が漏れ出し、鎖と成る。 それはもちろん、セーレを狙ったのだが鎖を見事かわしてしまった。が、それでもいいのだ、だって、狙いは其の後方に居る蛇や金魚であるのだから――! 鎖はそれらを捕えて離さない、だが同時に双葉は思い代償を背負うか。目の前、振りかぶられた武器を放たれた刹那、地面が揺れるような衝撃派と共に剣風に斬られていく双葉を始め、リベリスタ達。 切り裂かれた事によって、セーレがダブルアクションから移動して攻撃してきたをの始めてそこで双葉以外のリベリスタ達は気づいた。 特に、真咲と臣は反応が早い。 「そっちかー! あはは!」 「『剛刃断魔』、参る」 童子切を両手に、セーレの隣を走っては臣は其の奥の蛇を狙う。彼についていく様にして、真咲の斧が投げられて孤を描くようにして敵を切り裂いていく。 「嗚呼、護る術は……」 手伝ってくれる従者(金魚や蛇)がそう簡単に倒れられては心苦しいと、セーレは翼のある白馬を向かわせ臣と真咲を踏み倒して走っていく。 だがまだリベリスタの猛攻は終わらないという事もまた、セーレにとっては悪夢のようなものであった。 「マリア。無事終わったら、スイーツでも食べに行くか」 「わあ、ほんと!? じゃあ、マリアね2ホールくらい食べたいわ!」 「ホールで本当に食いきれるのか……?」 「頑張りたいと思うわ!」 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)と、金切声のように高い音で喋る『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000608)だ。 構え、トリガーに指が触れた。 「行くぞバーニー。全力でぶつかってやろうじゃないか」 杏樹としては、シィンがセーレと話がある、其のお手伝いをしてやりたいと此処に立っている。だがそれはやはり、戦いが終らない事にはどうしようも無いのもまた杏樹は分かりきっていたのだ。 引き金を引き、轟音が一瞬。 飛ばされていく弾丸、だが起動がミスをしてしまったかセーレが弾丸に追いつき武器で弾いて攻撃を止めてしまった。 「……セーレ、勝って、まずはお前の召喚者の願いを満たさないとな。おちおち話もできないだろう」 苦笑いのような、セーレの表情が答えてくれていた。 「マリアも遊ぶわ!」 「うんうん、マリアさん。相手は魔神やから気ぃつけてな。誰一人欠けないよぉに」 「分かったわよ……じゃなかった、わかってるわよ! マリアに任せなさいよ!」 何故だろうか、頼もしいのだが無い胸を張って威張るマリアを見て、『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)は心中、微妙な不安を感じた。 けれども彼女が頑張るというのなら、頑張るのであろう。 「マリアさんは今回もよろしくお願いしますな」 「いいわよ!! 九十九援護!!」 「はいはい」 『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が拳銃を構えれば、後方よりマリアの血色の鎖が一直線に飛び出していく所であった。 更に其処に乗せるのは、九十九のアッパーユアハートにて回復封じ。未だ、セーレに攻撃は与えられないものの、回復の原因を残しておいても良くないのは明確である。 兎も角、複数攻撃が可能な子たちが多いことにセーレは唇を噛みしめた。其の隣、金髪の髪が靡いてセーレを通り過ぎていく。 まずいとセーレが振り向いたその時には、もう遅かったか。蛇一体の目の前、立っているのはイーリス・イシュター(BNE002051)。 「お招きいただき光栄なのです、セーレ!」 ヒンメルン・アレスが、唸る! 全力闘争で楽しみたいキースに反して、人々を傷つけたくないセーレ。だが召喚者の意思は汲みたいセーレ。そして反して勝ちたいリベリスタ達。 もし、解決する道があるとすれば思い切り戦ってリベリスタが結果的に勝つことだと高らかに宣言したイーリス。 「全力闘争! 行くですよ!」 振り上げた得物が降ろされる。蛇の首が胴体から離れ、煙様に消えて行った先―――セーレが、苦笑しながら苦しそうに。まるで、キマリスの笑い声が聞こえるようでもあった。 ● セーレの能力――、臣がもう一体の蛇に攻撃しようとした時であった。 臣が目の前の景色が変わったかと思えば、セーレが目の前に。気が付けば武器が身体に突き刺さっている、遥かに、先程の剣風の鎌鼬とは違う――いや、威力が格段に上がっているのだ。 続いて臣の隣には、双葉が移動された。無防備たる彼女の、丁度心臓部分に武器で突かれてしまえば双葉の体力がごっそりと削られていく。 同時にセーレの顔色も悪かった、何か良く無いものでも食べてしまったかのような。よくない、呪いが蝕んでいるというのか。 「セーレさん、無茶はいけないと思う……」 旭が蛇へと飛び込んだ、其の身体、軌跡に炎を纏わせて。破壊神たる威力を持ち合わせる旭だ、弾丸のように突っ込んでいく彼女の跡には蛇であった灰が残るだけであった。 「これで……!!」 足に急ブレーキかけて、振り向いた旭。あとは、馬と金魚とセーレ!! 「はいよ、さっさと蛇片付いたから長丁場はナシだ」 あばたのピストルとチェーンガンが両手に。焦点を敵に合わせて、一斉射撃。右が撃たれれば、左が唸り、また右がと乱れ撃ち。 複数の弾丸がセーレに飛び、セーレは器用に弾丸を弾いていく。だがひとつだけ弾けずに、腹部を貫通した弾丸。其処からじわりと血が服に滲むのだ。 「セーレ」 「なん……ですか」 「お前の自由意思すらもキースの手で反故にされるなら、口約束など便所紙以下のクソだ」 「……」 「理性があるなら反論してみろ」 「……ぐ」 此の世界の愛が欲しいと、望んでみたのは儚い願いであっただろうか。 そうしてまた、10秒が終わる。 格段に変わっていくセーレの攻撃の威力、だが同時に避ける彼の勢いも減っていくのは明確であった。 「ぐ、グッ、うぐ、ぐうううううう!!!!」 獣の様な瞳、逆毛立った髪、格段に変わっていく彼にリベリスタは―――特にシィンは心中このままでは良くない事は察していた事だろう。 回復をしながら、仲間たちに加護を与えながら。シィンは出来る事なら此の加護が彼にも届いて呪いを打ち消せればいいものを、とは思うのだが……。 「さっさと倒すしかないわね」 マリアが断言したとき、椿は動いていた。 「事情ありきのようやけれどね、来たからいには追い払わんとね!!」 駆ける椿の先、だが白馬が彼女の行く手を阻むのだ。だからと言って無視する事も出来ない白馬の存在。肩口を噛まれて血が噴き出した椿ではったものの、こんな痛み慣れたと言わんばかりに武器を取る。 その武器も、血でべっとり濡れていくのだが――。 「邪魔せんといて!!」 弾丸のように跳躍した椿の、大蛇に見舞うような動きから繰り出された攻撃に白馬の見た目にも赤く傷が残るのである。 「イタダキマス」 其の馬の背を足場にし、飛んだ真咲はセーレへと。突っ込んだはいいものの、攻撃は真咲へと向いてしまったか。 「あらら、モッタイナイ。後衛を引き寄せれば美味しいかもしれなかったのにボクを引き寄せちゃった?」 セーレの仰け反った刃の剣と、真咲の斧が、上から、下から――お互いにお互いを傷つけあって、セーレは首元を、真咲は胸に大きな赤い花を咲かせた。 だからといって止まる真咲でも無かった。一回が駄目なら 「モーイッカイ!!」 とか恐ろしい事を言いだしたが、振った回転にあわせてもう一周斧を振り回し、そしてセーレの胸を切る。返り血か自分の血は最早分からない所までクロスカウンターした所で、入れ替わりに臣が白馬へと引く。 「杏樹っ」 「はいはい」 マリアの葬奏曲の嵐の中、駆け抜けていくセーレ。其処に杏樹の弾丸が向かう。 簡単な事だと杏樹は言う。セーレが駆ける先を見越して弾丸を放てばいいのだと言う、正にその通りに杏樹の読み勝ちに弾丸がセーレを貫通した。 「多少でも影響を出せればこっちは御の字だ。私にお前の装甲は関係ない」 そう、装甲さえ貫く杏樹の攻撃、だからこそセーレは杏樹を狙いに来るのだが前衛がそれを阻むのであった。 ● セーレか、白馬か、先に倒すべきかはリベリスタの対応通りに白馬であっただろう。 未だ攻撃が当たりにくいセーレに対して、白馬になら攻撃は通ずる。後々追っていけばセーレも白馬と同じように、いや、それ以上に攻撃力が高い存在として君臨するであろうが。 椿の両腕に撒かれた鎖。其れを白馬に雁字搦めに巻き付けて、けれど白馬の抵抗する力もまた強い。少しでも油断してしまえば、椿を引きずってでも動いてしまえる程のそれであった。 だが椿とて、白馬がマリアの方へ行かれてしまうのだけは阻止しなければならなかった。 可愛い娘であるマリアが、どうしてこんな危険な戦場へ来てしまったのか。聞いてみれば、興味本位だわ、なんて言葉が帰って来そうではあるのだが簡単に命を落とされても困るし、心配だし……。 「何も無い日常が一番やな……」 そうポツリと呟いてみる、だが現実は待ってはくれない。 「ままっ」 すぐにマリアの攻撃が来た、葬送の音色、葬奏曲だ。血鎖に身体を痛めるマリアを見るのも、椿としてはちょっと……という感じではあったのだろうが、絶対絞首とはまた違う色の鎖が馬を捕えて離さない。 「そのままですな」 九十九が狙いを定める、駆けながらも奈落剣を決めるその好機であると判断して。 其の先には暴れて、暴れて、暴れ回る白馬の存在。上手く脳天を射抜ければ御の字な様にも思えるのだが、勢いの止まらない白馬もなかなかうまく殺せてはくれないと見える。 「それでも、当てますがな。馬刺し……もとい彫像にしてくれます」 此処だと思った一点、白馬の動きを読み切って繰り出した呪いを集めし歪んだ剣。見事一点、脳天をかち割る勢いで斬りつけ、そして石化の呪いが浸食していく。それさえしてしまえば、暴れ馬も動くに動けまい。 「馬なのです!! ばさし」 石を割るのは得意だと、イーリスがヒンメルン・アレス に回転の力を加えて接近してきた。 「あとでこの馬、乗せて貰うですよ! セーレ!!」 切ってしまうのは勿体無いようだが、この馬どうやら生きている訳では無いようなので恐らく平気。 食べないよ、なんて付け加えてイーリスの回転した刃は馬の丁度首の部分を斬り、断頭という形で終える。あっけない形で馬が退場してしまったが、というのも少しばかり編成とバッドステータスが上手く噛みあい過ぎていた結果なのであろう。 状況的には、セーレが1柱と金魚が居る形に成った。とはいえ、セーレは既に自我を失くし始めているときだ。キマリスの願いに対しての与えた物の大きさには悪意があるように思えるが、されど、与えられてしまった分仕方ない。 「セーレさん!!」 シィンの呼びかけにも応じる気配が無いように思える。 どうしてそこまでして召喚者の願いを叶えたいのか、あばたには疑問にも思えたがそれがセーレという魔神なのであろう、召喚者の願いは必ず聞くという一種の呪いの様な性格が。 それでも。 「あなたは敵だけど。でもね。そんなに、きらいじゃないよ。わたしも大切なあのこと世界を天秤にかけたら、たぶん、えらぶのは――」 其処で旭は切った。 恐らくセーレも、召喚者を大事にしているのだろう。其れが真偽か此処で判る事は無いのかもしれないが……。 「だから、倒すね」 旭は飛び込んだ、セーレの胸元に。拳を作って、運命を引き寄せる一撃を込めて。 直撃したそれ、だがセーレは未だに立つ。 セーレは引き寄せ、攻撃をするのだと瞬時にリベリスタたちは理解した、そして引き寄せられたのがマリアであり―――。 「「マリア!!」」 椿が駆け、だが其の前に九十九がマリアを背に隠す―――されど、遅い、絶対の攻撃は絶対か、攻撃をしてしまった九十九に守ることは許されないか。マリアの白いワンピースは真っ赤に染まったのであった。 「マリア!!」 杏樹が銃口を向ける、が、銃口を向けた手前には既にセーレ。移動を喰らったか、マリアが貰ったものと同じものを杏樹も食ってしまうのだが、其のあまりの威力に意識が一瞬だけ飛んで消えた。 すぐに持ち直した杏樹はマリアを拾って後ろへと下がる、それでも引き寄せられれば次にはフェイトが光ってしまうのだろうが。 「其の前に、倒す!!」 双葉の詠唱。 「我願うは星辰の一欠片。その煌めきを以て戦鎚と成す、指し示す導きのままに敵を打ち、討ち、滅ぼせ!」 マレウス・マレフィカム。此の詠唱を最速で行ってしまうのもある意味化け物であるのだが、天より降り注ぐ数多の砲弾がセーレの身体を蝕んでいく。 「sぢうひうvばfkyhs!!!」 「セーレさん……!」 最早言葉さえ忘れてしまったか、先程まで健在していたセーレの姿は何処にもない。けれど、それで全てが終わったわけでも無い。 其の時あばたが何かに気づいた。遠くの景色、何故だかスッキリして見えるのは恐らく気のせいなんかでは無いのだろう。 「なんか無くなってやがるな」 リベリスタ達の影が突如巨大な影に消えて行った。 というのも、彼等の頭上には明治神宮の建築物が落ちてきていたからだ。物を移動させる力といえど、上から落としてくるのは堪らない。 「キャハハハハハハ!」 唯一喜んでいたマリアが杏樹に抱えられたまま。 「仕方ねえなあ、伏せてろよぉ」 そしてあばたは魔銃にて建物を大きく解体―――かつ、細かい瓦礫を避けるように走っていく。細切れに、細切れに、細切れに、何度も撃ちこんで被害を減らす様にとあばたの射撃は止まらない。 他のリベリスタ達もそうだ、己が武器を使って落石ならぬ、落建築物を破壊している最中だ。 だがシィンだけはセーレの下へと辿り着いた。 貴方と契約を結ぶまでは、シィンは諦める事はしないのだろう。未だその色の違う両目はセーレを見据えて離さないのだから。 「しっかりして! あなたはどうしたいの?」 双葉も呼びかけてみる、目の前にいるセーレでは無くて、心の奥底。眠ってしまったであろう彼へと。答えは無くてもいいのだ、その呼びかけで一瞬でも帰ってきてくれればと、元に戻ってくれればと。 キマリスと同じ願いを聞いてみる。見誤らなければきっとキマリスの力さえ望みの為に力になるであろうから。 更に臣が続く、彼1人は集中に集中を重ねて今、此の時を待っていた。 「まだ意識はありますか、セーレ。今から貴方を助けます」 セーレの動きを見切り、更には速度に追いついて。常人では判別できない速度で動く魔神の、一瞬、双葉の呼びかけに留まったその時が狙い時であった。 幼く、更には小さい身体を限界突破させ。地を蹴り、血液の軌跡を描きながら孤を描いてセーレへと飛び込んだ。右腕が一本、吹き飛んで。更に隣からは―― 「動き止まった、イッタダッキマース!!」 笑顔で飛び込んでくるのは、真咲であった。回転したハルバートに物言わせ、叫び声さえあげられないセーレの左腕を取っていく。 再び九十九の奈落剣が発動した時であった、 ほぼ同時か、少しばかり椿の方が早かったか、漆黒に染められた椿の鎖がセーレの首を捕まえんとし、其の時九十九の武器がセーレに石化を与えたのだ。 直撃で当たってしまえば、今のセーレではダメージも高いであろう、だが大きいのは石化と呪いが同時に彼を縛った事だ。 好機と、見抜きイーリスとあばたが同時に動き出す。 イーリスはセーレの背面から、あばたはイーリスとは逆側からの射撃。 「真! イーリススマッシャー!!」 「動くなよ、其のままでいろよ」 回転の力を軸にイーリスの斧は唸る、風を切り裂き、撓り、音を立ててセーレの背を突くのだ。ほぼ同時に、轟音がひとつ、其れを武器で避けようとしたセーレではあったものの、防ぐ為に動いた時間が少し遅れたか、心臓の部位に穴が開く。 血が噴き出し、されどもセーレは止まろうとはしなかった。最速で呪いを跳ね返し、動ける彼だが双葉がそれを許さない。速攻の詠唱に呪縛を乗せて撃ちだす鎖が地を駆けた――。 「ぐ……」 「セーレさん、分かるかな? もう少しで、終ろう……?」 「シ、ィン……さん」 一瞬だけ取り戻したセーレ自身、其の時には双葉の攻撃が彼を捕えて離さないところまできていたのだが。 「終ろう、これで……」 「此処で試合終了ってやつだ」 旭が、あばたが、炎を連れて、弾丸を持って。 嗚呼、これで召喚者様の願いは果たせなかったものの、何故だか悪い気分はしない――。 ● 瀕死の金魚がセーレの廻りをうろつく。 「かわいい」 旭が金魚をつん、と触れば恥ずかしそうに空中を漂うそれ。 「もう、敵じゃないよ。やる事終ったもんね、だから敵じゃない」 まるで諭すように目の前の―――既にボロボロとなっているセーレは、両腕が無いのではあるが(分身なので特に問題は無い)ベンチに座り込んでいた。 「キメイエスの力は僕には毒だったなあ……、召喚者には怒られるかもしれないけれどありがとうリベリスタ」 複雑な状況に苦笑いを浮かべながら、されどセーレはお礼を言った、言うべきだろうと思った。 「また、負けてしまった。どう弁解するか考えなくては……」 「もうボトムには来ないで下さい。貴方が自分の意思で来たならば。その時はボトムに崩界を招く悪として貴方を斬ります」 臣の言葉は、ボトムの愛が欲しいセーレに対しては辛い事であったかもしれない。けれど、ボトムを思うならば来ないという事もまた一理であろう。 「召喚者様が現れない限り、その願いは聞いておこう……」 そして、突如消えゆくセーレの身体…‥キースとの今回のアークと遊ぶ契約が切れていく証であろう。 「セーレさん!」 「なかなか……時間とは足りないものだね、戻れば嫌という程あるというものなのに、商談は――――」 何かを言いかけて、美しい金髪は影も形も無く消えて行った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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