●魔神王かく語れリ 『魔神王』キース・ソロモン。 かつて彼はアークに敗北した――実質上引き分けだったのだが、彼からすれば負けなのだ。 その後、彼は自らを鍛え上げる。アークとの再戦に向けて。 彼は基本的にフィクサードである。この意味は『我欲の為に手段を選ばないう革醒者』という意味である。自らの欲求が通らなければ、相応の手段を持って自らの欲望を果たそうとする。そういう意味で彼はフィクサードであった。 『ゲーティア』を開く。集いしはソロモン七十二柱。魔力を篭めて、彼は命ずる。 「俺はアークとやりあいてえ。おまえ達、行け」 ●ソロモン七十二柱六十九位のお茶会 「此度、ソロモン様が行動に至った理由は以上でございます。政治的な駆け引きやそれ以上の思惑など全くありません」 そう答えたのは一体の魔神。星の頭を持ち、紳士服を着た奇妙な存在。 デカラビア。 アークの交戦記録にも名を連ねている存在だ。ソロモン七十二柱の序列六十九番目。三十軍団を率いる地獄の大公爵である。もちろんその全てが顕現しているわけではない。キース・ソロモンの『ゲーティア』により、その端末がこの世界に召喚されているのだ。 「おや? 色々お聞きしたいことがあるようですね。いいでしょう、お答えします。お茶もありますのでゆっくりと――」 「いや、色々聞きたいことはあるが……何故京都駅に陣取った!? しかもその上で紅茶セットとか何!? あと周りの人たちはまったく気付いていないようなんですけど!?」 矢次のリベリスタの質問も、已む無しといえよう。 デカラビアがテーブルを広げて紅茶を呑んでいる場所は、京都駅。そこにある大階段と呼ばれる百七十一段の階段を登りきった屋上である。京都の景観を一望できる場所で、高層ビルのない京都はここから町並みが一望できる。 そしてリベリスタの周りにはそういった観光客が普通に歩いていた。だが、リベリスタやデカラビアに気付いている様子はない。ぶつかりそうになると、何故か遠のいていくのだ。まるで虫の知らせを受けたかのように、ふと思い立って移動する。 『万華鏡』からデカラビアが京都の大階段をあがった屋上にいる、という予知があり必死に駆け上ってきたらこの光景である。 「ンンン~♪ 街中で戦いのは神秘秘匿という貴方達の流儀に反するみたいなので、配慮させていただきました。ワタシ達と世界の位相と認識をずらしてあります。同一時間軸にいながら別の存在。パラドクス修正機構を利用した物理保護……まぁ、簡単に言うとどれだけ派手に暴れても周りの人たちや建物に影響を与えません。 ああ、結界から脱出したければそう願ってください。死亡、もしくは意識を失っても自動で脱出するようにしてあります」 カップを片手にこともなげに告げる魔神。気軽に言うが、概念すら理解できないほど高度な術である。それをリベリスタ自身にも気付かれずに仕掛けている。魔術を知るものなら、舌を撒くことだ。 「さて我が主からリベリスタと戦え、と命じられています。断るか不甲斐ない戦いだった場合、この周辺の人間を巻き込めとも。ワタシ、正直この世界の人たちを傷つけるのは心苦しいのですが命令なら仕方ないですよね」 デカラビアからすればこの世界の生命は『映画の登場人物』程度である。確かに虐殺されれば心は痛むが、それ以上ではない。『ゲーティア』による命令がある以上、例え心が痛んでも命令を優先して動かなければならない。 「ああ、紅茶はアールグレイです。お茶請けにシフォンケーキを。いやはやこの世界の人たちはこういった研鑽に余念がありませんね。グレェェェト!」 いや、そんなことはどうでもいい。心の中で突っ込みを入れてリベリスタたちは破界器を手にする。ふざけている様に見えて、魔神と呼ばれる存在は強敵だ。けして楽には勝てないだろう。 『万華鏡』からの情報を思い出す。植物と鉱石を扱い、鳥のような使い魔を与える。それを象徴したかのような今回の配置。 「いつでも撤退してもいいってことか」 「イエス。ですが一度退場したものは復帰できません。退場して安全圏から支援をかけることもできないと思ってくださいね」 いつ退却しても構わない。それは魔神なりの配慮なのだろうか。 眼下に広がる京都の町。その平和をかけて、リベリスタは破界器を手にする。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年09月28日(日)23:18 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 「初めまして、デカラビア様。まおです。京都駅を壊さないでもらって、ありがとうございます」 開口一番『もそもそそ』荒苦那・まお(BNE003202)はデカラビアに一礼した。ここに登るまでにまおの顔の下半分を隠した姿を見た人の中には、奇異な表情を浮かべるものもいた。だが、結界内に入るとその表情も消える。『外』からも認識できなくなったのだろう。 「これはマスターソロモンの配慮。礼は戦いでお願いします」 「はい。まおは、精一杯デカラビア様を倒します」 「結界の配慮には感謝する。我らの弱みをよく知っているようだな」 怒りを篭めた口調で『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)が口を開く。配慮とはいいようだが、神秘秘匿を利用された形だ。それ自体は気持ちのいいものではない。キース・ソロモンはどこまでいってもフィクサードということか。 「お怒りはごもっともです。その怒り、存分に振るっていただければ」 「慇懃無礼だな。どうあれやるしかないわけだが」 「全くだ。馬鹿馬鹿しい」 ため息混じりに『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)が肩をすくめる。崩界にも一般社会にも影響を及ぼすことはない事例だ。命を賭ける必要がどこにある……と唾棄するには状況は良くない。その気になればこの悪魔は惨劇を生み出すのだ。 「ここで禍根を断つのが一番か」 「縁は異なものといいます。そううまく行くかはそれこそ行動次第」 「さすが英国紳士、言葉回しが……あれ、悪魔なのに英国生まれなのか?」 朱い槍を構えて『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)がデカラビアの態度に頷く。そもそもボトムチャンネル生まれではない。それなのにこのジョンブルな態度。アザーバイドとはよくわからないものだ。 「ま、細かいことはいいか。大階段でのBoZライブと行こうか!」 「音楽ですか。そういえばあまり触れていない文化ですね」 「聞けば帰るというのなら、聞かせてやってもいいが」 腕をたらし、拳の内側を身体に当てるような立ち様で『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が提案する。それで帰ってくれるなら御の字だ。勿論それで帰ってくれるような相手ではないことは承知している。 「残念ですが、ワタクシお仕事中ですので。いやはや、時間があればお願いしたいのですがね」 「了解した。手早く仕事を終わらせるとしよう」 「そうですね。今は為すべきことをなしましょう」 紅茶ポットとカップのお茶から視線を外して『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)が言葉を告ぐ。お茶会は確かに魅力的だ。色々聞きたいこともあるが、他の地域で戦っている仲間のことを思うと、ゆっくりもしてられない。 「お茶のお誘いは魅力的ですけど」 「ふむ。仕方ありませんな。またの機会があれば、その時に」 「三度目はできれば無しにしたいもんだ」 『(自称)愛と自由の探求者』佐倉 吹雪(BNE003319)は一年前の戦いを思い出しながら言葉を吐く。前回の戦いでは苦汁を舐めることになった。魔神は一年前から力を増しているようだが、それはリベリスタも同じだ。 「借りは返させてもらうぜ」 「雪辱戦ということですか。いいでしょう」 「ええ、負けるつもりはありませんよ」 紺の瞳でデカラビアを射抜くように見る『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)も、一年前にデカラビアと戦ったことがある。準備は十分とはいえないが、それでも今できることを最大限にこなす。弦に指を伸ばし、心を落ち着かせる。 「こちらの修行の成果、見せて差し上げましょう」 「期待していますよ。こちらも手を抜きませんので」 「あの脳筋王は手を抜け、と命令はしないだろうな」 分かりやすい性格だぜ、と肩をすくめる『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)。キース・ソロモンの行動には本当に裏がないのだろう。してみると悪かったのはタイミングか。まさかロシアの怪僧が来るタイミングと重なるとは。 「なんにしても叩き潰す。それだけだ」 「マスターに対する悪口は、戦意の裏返しと受け取っておきましょう。その命名は否定も肯定もしませんが」 「キース・ソロモン……あの堂々とした戦いぶりは敵ながら一目置くべき存在ですね」 一年前の戦いとそして今回の宣戦布告を思い出しながら、離宮院 三郎太(BNE003381)は言葉を紡ぐ。アークに対し宣戦布告を行い、あえて力を裂いて一般人に犠牲を出さないように魔神に命令する。なかなか堂々としたバトルマニアだ。 「……いいえ、今はそれをいうべきではありませんか」 「そうですね。マスターソロモンはあくまで自己の欲望のために、力無き者への攻撃を禁じたにすぎません。それは貴方達のものとは異なるはずです」 軽く頭を下げてデカラビアが応える。堂々としていようが、キースはフィクサードだ。それは忘れてはいけない。そしてそれに使役されている自分もまた、魔神と呼ばれる価値観の異なる存在なのだ。 「では始めましょうか。皆様方、準備はよろしいでしょうか?」 竹の人形が動き出し、デカラビアの近くに鳥が飛ぶ。リベリスタも準備を整え、陣形を敷いた。 「それでははじめますよ! スリィィィ! トゥゥゥ! ワァァァン、ゼロォォォ!」 声高らかにデカラビアがゼロカウントを刻む。その叫びが開始合図となって、リベリスタたち動き始めた。 ● 「それじゃあ、行きますか」 『打撃系散弾銃「SUICIDAL/echo」』を肩に担ぎ、喜平が前に出る。身に闇のオーラをまとって、ゆっくりと歩を進める。けして遅いわけではなく、さりとて走るでもなく。悠然と歩くその姿は一種の威圧感すら感じさせる。 行く手を阻むのは竹槍を持つ竹人形。半身をずらしそれと相対する喜平。互いの闘気が交錯し、間合を計りあう。時間にすれば半秒の半分ほどのにらみ合い。獲物が動いたのはどちらが先か。気がつけば、散弾銃と竹槍が交差していた。 「竹のくせに重い。なるほど、神秘強化されてるってわけですか」 「YES。簡単には倒せないものと思ってください」 「憑依と言ったな。意志に逆らい戦わせているのか?」 伊吹がデカラビアに問いかけながら竹人形の一体を押さえ込む。両腕に白の腕輪を填め、かかとの先端を竹人形に向けるようにして構える。戦場全体を注視しながら、しかし目の前の相手からは意識を離さない。そんな視界の取り方。 竹人形が正眼に構える。伊吹に剣道の知識はないが、そこに隙がないことは理解できる。踏み込み打ち出される竹刀の一打を腕輪で受け止めて流しながら、デカラビアの隣で飛ぶ鳥の使い魔に腕輪を飛ばす。 「NO。憑依させた当人の意志に任せています。しかしよく当てましたね」 「ギリギリだがな。面倒な使い魔だな」 「Seraphの攻撃で当たるってわかれば攻めるだけだ!」 フツが朱色の槍を杖のように片手で立てて、もう片方の手を突き出す。人差し指と中指を立て、残りの指を刀を持つように握り締める。臨む兵、闘う者、皆陣を裂きて前に在れ。デカラビアの陣を突破し勝利をわが手にと祈り、印をきる。 因と果を律する法則に干渉し、わが前の敵を縛る陣を敷く。交差する槍で相手を貫き、足止めするイメージ。強い意思と鍛練により鍛えられた精度、何よりも闘い続けたフツの戦闘経験。研ぎ澄まされた一撃が、鳥の使い魔と魔神を捕らえる。 「よっしゃ! ……まさかデカラビアのほうが避けるとはな」 「いえいえ。危ないところでした。皆さん強くなりましたね」 「当然だ。崩界を塞ぐ為に必要だからな」 雷慈慟は自らの術で鷹を使役し、近くにあるフェンスの上に止まらせる。戦場を俯瞰視できる場所に留まらせ、鋭い視線で戦場を観察させる。その情報は雷慈慟にも伝わり、それを元に全体を指揮していた。 『黒の書』を開き、意識を集中する。鷹から伝わった情報を元に、戦場を分析する。情報全てを数字化し、計算を開始する。風向き、風量、敵味方の位置、それによる風の影響、重力、性格と作戦を分析して次にどう動くかの解析……。計算は刹那の間に行われ、雷慈慟はその計算の元に攻撃を飛ばす。 「……まさか自分の愛鳥を使役できまいな」 「ワタシ、契約を無理やり破棄したりさせたりするのは趣味じゃありませんので」 「できるともできないとも言わないのが悪魔というべきなのでしょうね」 デカラビアの答えに三郎太がため息をつきながら呼吸を整える。大丈夫、問題ない。心を落ち着かせ、戦場を見る。眼鏡の位置を直しながら思考を展開させ、自分がやるべきことを選択する。 小夜香の側に足を運び、ゆっくりと気を練り上げるまだ回復は必要ない。そう判断して攻勢に出る三郎太。鋭い糸を鳥の使い魔に放ち、その胸を貫いた。糸は鳥に絡みつき、その動きを封じていく。 「来栖さんはボクの少し後ろへ……っ。ボク達が回復を切らさなければ負ける道理はありませんっ」 「ふむ。ある程度の構成は読めました。なかなかバランスの取れたチームのようですね」 「お褒めに預かり感謝します。その御期待に応えられる様、頑張らせてもらいます」 小夜香が六枚の白い羽根を広げ、宙に浮く。体内のマナを循環させ、体中に満ちさせる。指先、つま先、髪の先。体中に満ちていくマナを感じながら小夜香は口を開く。新鮮な空気を肺に取り入れ、背筋を伸ばす。 呼気と共に歌う小夜香。歌に乗せた魔力が響き渡り、戦場に満ちていく。空気の振動と共にマナが運ばれ、マナは歌手の意志に従いリベリスタを包み込む。白き光となった小夜香の魔力がリベリスタを癒していく。 「癒し、護り、支える……私の力はその為にあります」 「たいした心がけです。その心が折れぬことを、祈りましょう」 「デカラビア様は本当にお優しいのですね」 顔した半分を覆う布越しにまおが語りかける。自分が足場にできそうな場所を確認しながら、心を静める。精神を集中させてイメージを強めていく。空に浮かぶ大きな月。それをイメージして手を掲げる。 不吉を告げる赤い月。夜の都市伝説の一つ。イメージと魔力が重なり合い、まおの掲げた手の先に月が浮かぶ。そこから放たれる光はけして強くはない。だが、それゆえに不気味さを感じさせる赤い光だった。 「まおは、どしっと構えて受けて立ちます」 「ありがとうございます。ではそのどっしりを超えていきましょう」 「そう易々と突破できると思わないことだな」 ナイフを手にウラジミールが戦場を駆ける。軍靴を鳴らし、アスファルトを蹴って竹槍のバンブーゴーレムに迫る。竹刀の間合を瞬時に見切り、それが届く範囲を頭にイメージする。その一歩手前で足を止める。 両者が止まっていたのは僅かな時間。だが当人達の中では相手の隙をうかがい、動きをイメージし、そしてどう動くかを思考していた。僅かに竹人形の手首が動く。それを見たウラジミールが踏み込み、竹刀の小手攻撃を弾いてナイフを突き立てる。 「この一年鍛えてきたのはキースだけではない」 「ええ、そのようですね。わが主もお喜びになるでしょう」 「では私たちの強さも見てもらいますよ、デカラビア様」 七海がデカラビアの方を見る。一年前の戦いでは倒すことができなかったが、今回は負けるつもりはない。否、勝つ。その意志を篭めて矢を指で挟む。自分自身の羽を使った矢。その矢を番え、弦を引く。 呼吸を止めて集中力を増す。何万も繰り返してきた射型。弓形の破界器『雷』を握り締め、目標を見据えた。この一射に相手を倒す気力を篭めて、矢を放つ。矢は七海の力を受けて分裂し、雨となって敵陣に降り注ぐ。 「無様な姿は見せられません」 「ワタシも前回よりも力を増しているのですが……感服ですな」 「まだ終わってないぜ」 吹雪がナイフと盾を手にしてデカラビアの方に走る。仲間が長け人形を押さえてくれるまであえて待っていたのだ。前線を通り抜けて一気にデカラビアの方に迫る。一度負けた相手に思うところはあるが、今狙うべきは魔神ではない。 吹雪のナイフがハミングバードを襲う。一閃して回避させた鳥の使い魔を追う様にナイフが翻る。大きくZの字を描くような刃の軌跡。それが鳥の使い魔を切り裂き、意識を奪う。地面に落ちる前に塵となって消え去った。 「使い魔の方はあまり頑丈ではないようだな」 「むしろ驚きなのはあの的に当てる貴方達の強さですよ」 リベリスタの猛攻にデカラビアが賞賛の声を上げる。元々強く魔力を篭めていなかったとはいえ、並の戦士では当てられない速さにはしていたのに。 「不遜ながら、ワタシも心躍ってきました。レッツパリィィィ!」 ステッキを回転させながらデカラビアが両手を広げる。この世界ではない魔力が迸り、傷を癒していく。戦闘において回復をたたくのは基本だ。だがその回復役が大ボスなのだ。そして回復役だからといってデカラビアは脆弱ではないだろう。 ここまでは予想通りの展開だ。リベリスタは視線で確認しあう。 だがそれは、勝利を約束するものではない。天秤は常に揺れている。 ● デカラビアという魔神は概ね温厚である。 まぁそれも『魔神の中では』である。ボトムチャンネルと『ゲーティア』の命令をとれば、あっさりと命令をとる。キース・ソロモンが残虐な命令を下せば、容赦なく血に染まるだろう。 逆に言えば『ゲーティア』の命令外なら、温厚に対応する。 「デカラビア様! 鉱物の知識を御教授願う。弓の材料が欲しいのです」 七海がデカラビアに知識教授を願う。デカラビアは思案するように腕を組み、 「弓の材料ならむしろ張りのある木材のほうでしょう。木目を見極めることが重要です。木目を確認しながら削らないといけないので根気が必要となります。ああ、鏃につける鉱物は重量よりも加工しやすさでしょう。重すぎてバランスを崩せば精度が下がりますから」 「ふむ。では此方も薬草と鉱物の知識講義、是非願いたいな」 七海への講義が終わったのを確認し、雷慈慟が口を開く。 「鉱物や薬草などの自然には必ず『歴史』があります。それらがそこにある理由、意味、周りの自然に与える影響……。それを知り、そしてイメージし、感じ取ることが重要です。自然の中、すべては繋がっているのです。努々お忘れなきよう」 自然の一部を知るには自然を知るべし。異世界の存在が言う言葉ではないような気がするが。 「デカラビアさん。空間操作を使って三ッ池公園の『閉じない穴』をどうにかできないかしら?」 小夜香が昨今迫ってきたフィクサードのことを思い出しながら、魔神に問いかける。これだけの結界術を気付かれずに仕掛けるのだ。そういうの実力があることには違いない。頭を下げれば何とかしてくれそうな雰囲気はある。 「申し訳ありませんが、どこにあるかも分からない現象に関して確約はできません。ワタシ、一身上の都合によりアクティブにこちらの世界に干渉できません。それゆえ移動することも困難ですので」 肩をすくめながらデカラビアが答えた。魔神の能力ではなく、状況的に難しいと拒否された。『ゲーティア』をもつキースが命じれば、あるいは。 「ところで貴様、茶だの菓子だのどこから摂取してるのだ?」 まっ平らな星の顔面を見ながら伊吹が問いかける。食べ物を摂取する器官があるようには見えない。 「見えないのは貴方達の技で言う『幻視』のようなものですよ。食べる姿を見せるのは、紳士的ではないでしょう?」 指を振って答える魔神。確かに発声器官もあるようには見えないが言葉は返ってくる。 「デカラビア様の姿は本当のものじゃないんですか?」 まおがぐもった声で質問する。顎が蜘蛛化しそれゆえ普通の人とは異なる人生を歩んだまおにとって『幻覚で隠す』ことに関して他の革醒者とは違った感情がある。 「そうですね。ワタシの『本体』とは異なります。どんな姿かは恥ずかしいのでお教えできませんが」 伝承によればデカラビアが人の姿を取るのは召喚者が命じた時。そうでなけば五芒星のままであるという。ここいるのはその端末。いわば力の断片でしかないのだ。 「『本体』じゃなくてもシフォンケーキを選ぶ程度に味覚はあるのか」 テーブルの上に残っているシフォンケーキを横目で見ながら喜平が口を開く。ソロモン七十二柱といわれた悪魔の王。様々な種類がいるがまさかボトムチャンネルの文化を好もうとは。 「文化を疎かにはできません。様々な理由で発展し成長するそれらこそ、この世界のかけがえのない歴史の足跡なのではないでしょうか」 まぁ私この世界の住人じゃありませんけどね、と締めくくる星の紳士。この態度は果たして演技か本物か。 「その言葉は肯定するが、だからといって友好的に接するつもりはない」 ナイフを振るいながらウラジミールが堅く告げる。例えデカラビアが善人であれ、例え崩界に影響せずとも。キースの駒である以上は排除の対象なのだ。 「ええ、それで構いません。ワタシは異邦者。この世界からすれば異物です」 頷き答えるデカラビア。その態度と行動こそが魔神王の望む闘争なのだから。 「ああ! その星をもぎ取ってやる!」 フツが気合を篭めてデカラビアを指差す。大階段の上で星をもぎ取る。縁起がいいじゃないか、と笑みを浮かべる。 「五芒星なんですけどね」 まぁさして変わりませんか、とデカラビアは説明を打ち切った。魔的な意味合いを持つのでもぎ取るのはどうかな、と思いながら。 「デビルスター。やはり貴方はこの世界にとって害ある存在なのですか?」 五芒星の別名を口にする三郎太。『バロックナイトにしては』悪くは見えないなキース・ソロモン。魔神王は彼なりのルールを持って戦いを挑んでいる。その存在が、害あるとは思いたくはない。 「害がない、とは言いません。ですが戦争の象徴である刃とて、害しかもたらさない物ではありません。すべては使い手次第なのです」 三郎太の方に顔を向けてデカラビアが答える。全ては使い手次第。それは真実か、それとも明言を避ける悪魔の論法か。 「なら、オレ達は刃を持って悪魔を退ける。それがリベリスタの使命だからな」 吹雪がナイフを構えデカラビアに告げる。デカラビアの――そしてそれを召喚したキースの思惑はどうあれ、人に害為す可能性があるならこれを排除する。それがリベリスタの使命だ。 「はい。受けて立ちましょう」 胸に手を当てて一礼するデカラビア。それが自分の使命だと。 戦いは止まらない。魔神は主に命じられ、リベリスタは人を守るために。 ● バンブーゴーレム、ハミングバード。 デカラビアを倒せばこれら全ての使役物は消える。だからといって全く無視していい存在ではない。前衛を留める壁にしてダメージ源のバンブーゴーレムの放置はダメージの蓄積に繋がり、ハミングバードはデカラビアの動きをコピーする為回復量を増幅させる。 全てを倒せば勿論脅威はなくなるが、それを行う余裕はないとリベリスタはふんだ。デカラビアが回復依りの能力とはいえ、油断ができる相手ではないのは確かなのだ。 故にリベリスタは、第一にハミングバードを落すことにした。幸いにして、手が届かない相手ではないのだ。 「俺が狙おう」 伊吹が残ったハミングバードの一匹に標準を定める。投擲するのは白い腕輪。投げれば頭を砕き戻ってくる宝貝を模して作った破界器。投擲された白い腕輪はその伝承に違わず、鳥の使い魔を打ち砕き、伊吹の手元に戻ってきた。 あとはバンブーゴーレムを押さえながらデカラビアを集中して叩く。これがリベリスタの作戦だ。フツ、まお、伊吹、ウラジミールの四人がバンブーゴーレムを押さえ、喜平、吹雪が近づいて直接デカラビアを攻撃する。何かあったときのために雷慈慟が後衛の前に立ち、後衛に小夜香、七海、三郎太が立つ。 「ワタシの集中砲火ですか。回復をしている場合ではありませんね」 リベリスタの作戦を察したデカラビアが攻勢に回る。セレスタイトの光が輝き、竹人形がそれぞれの武器を振るう。繰り返される攻撃に伊吹と吹雪と三郎太が膝を折る。運命を削って何とか耐えるが、そこに竹槍の一突きが飛んでくる。 「……きついな、これは……!」 吹雪が痛みに耐えながら、口を無理やり笑みの形に変えて耐える。そのままデカラビアにナイフを振るった。拘束で繰り出されるナイフがデカラビアを切り刻む。確かな手ごたえがナイフから伝わるが、倒れる気配はまだ見えない。 「祝福よ、あれ」 祈るように小夜香が回復を行う。休む暇もないほどの回復の繰り返し。それでも押されているのだ。敵側の火力が高いから仕方ないのだが、このままではエネルギーが尽きかねない。回復が途切れれば、そのまま瓦解してしまう。 「大丈夫です。回復します」 三郎太が回復のために小夜香の庇いを外れて、エネルギー回復を行う。この間は小夜香は敵の攻撃に晒されるが、僅か十秒で倒れるほど彼女も弱くはない。三郎太も安堵して回復を行う。 「命令がない場合、貴君はこのチャンネルをどう扱うんだ」 全体の被害を見て三郎太が一番被害を受けていると判断し、雷慈慟が三郎太を庇いに入る。これが最良手だ、と三郎太に告げる雷慈慟。これで回復を護る層が厚くなるのは事実だ。そのままの状態でデカラビアに問いかけた。 「いえ特に。強いて行うなら旅行ぐらいですか? 不用意に干渉はしません」 軽く告げられる言葉に他意はない。魔神からすれば数ある異世界の一つでしかない。興味はあるがその程度だ。 回復に対する防御層が厚くなる。だがそれは攻撃への手が減ったことを意味していた。 「くらいな! 奈落剣祭りだ!」 喜平が巨大な散弾銃を鈍器のように扱い、デカラビアに殴りかかる。一撃、また一撃。相手はこちらより格上だ。それに臆して手を緩めるつもりはない。積み上げた技術と自分の武装。それを信じて破界器を振るう。 「おまえ等動くなよ!」 フツが印を切り、竹人形とデカラビアの動きを封じようとする。特殊な技術を用いて時間を短縮し、呪符を展開する。竹人形の弓はかなりの確率で足止めできるが、竹槍と竹刀と魔神は半々の確率だ。面倒だな、と槍を手に歯をかみ締める。 「強引にでも貴方を愉しませる。リタイヤなんてしてられない!」 七海がデカラビアの放つ光に膝を屈する。こんなところで倒れてられない。運命を燃やして弓を握り締める。肺一杯に空気を吸い込んで、矢を番えた。降り注ぐ矢が広がり、弾幕を生む。 「この程度ではまおはまけないのです」 竹槍の竹人形を押さえていたまおが、槍の一撃で意識を失いそうになる。運命を燃やして意識を保ったところにさらなる竹槍の一撃。まさに鬼の所業だが、それでも屈さぬとまおは空に月を召喚する。 「厄介なことだ」 ウラジミールは竹刀の攻撃をコンバットナイフで受け流しながら、光を放ち皆を勇気付ける。弓矢が与える猛毒や、竹槍の生み出す鬼火により皆が疲弊せぬように。竹刀の攻撃に少しずつ体力を削られながら、攻撃を捌き機会を待つ。 小夜香と三郎太に支えられ、デカラビアの集中砲火を敢行するリベリスタ。そして竹人形の竹槍と竹刀、そしてデカラビアは変わらずリベリスタを攻める。 (回復が追いつかない……!) 一歩離れたところに立つ小夜香は力を振り絞り仲間を癒しながら、どこか冷静にそれを感じていた。バンブーゴーレムを残したことで、敵火力がこちらの回復を凌駕しているのだ。三郎太や雷慈慟が防御に回り、火力が減衰していることもあり、十分に攻めきれない。 「貴方を味方にできると楽なんですけどね」 「お生憎だな。この胸に宿る思いは形容し難く、しかしただ強い。これがあれば戦える、これがあるから戦える」 デカラビアが喜平を魅了してリベリスタにぶつけようとするが、心に刻んだ絆の固さもあってその魔術を跳ね除ける。金剛石にすら負けぬ強い心と思い。それが悪魔の魅了を撥ね退けていた。 「ここまでか……!」 「すまん。後は任せた」 吹雪と伊吹が弓矢の攻撃で意識を失う。地面に倒れる寸前でその姿が消えうせた。結界の効果なのだろう。 「この程度で寝てはいられないのでな」 「ああ、倒れた奴等の分までがんばらないとな!」 ウラジミールとフツがバンブーゴーレムの攻撃を受けて、運命を燃やすほどの怪我を負う。立ち上がろうとしたところに飛んでくる竹槍でさらに傷が増える。倒れるほどではないが、楽観はできない一撃だ。 「竹槍を残したのは失策だったか……!」 三郎太を庇っている雷慈慟も、デカラビアの一撃で運命を燃やす。攻撃の優先度をデカラビアより低く設定した為に、立ち上がった者に即座に攻撃を仕掛ける槍の竹人形を倒しきれなかった。それにより被害が増大している。 「回復を捨てて攻撃に出るか否か……ここは――」 エネルギー回復に努めていた三郎太は思考をまわしていた。このままではジリ貧だ。さりとてここで回復を断てば一分も経たずに押し切られるだろう。ここで短期決戦か。あるいは役割を崩さないか―― 『ボク達が回復を切らさなければ負ける道理はありませんっ』 思い出すのは三郎太自らの言葉。焦るな。皆で決めた作戦だ。ここで自らの役割を放棄するのは間違っている。 「救いよ、あれ」 繋いだ回復が小夜香の気力を増し、小夜香の回復が戦線を維持する。彼女の母がそうしたように、自分も大切な仲間を癒す。傷つき倒れた仲間に死の香りは感じない。大丈夫。だから、私は最後の最後まで癒そう。 攻防のバランス。集中攻撃の陣形。何よりもリベリスタ自身の努力が築いた個々の実力。 「なんと……磐石を引いたつもりですが、攻めきれないとは」 それが、デカラビアに感嘆の声を上げさせる。 「ちっ、もう少しいけると思ったがな」 「まおはこれで倒れますので、みなさんがんばってください」 喜平とまおが崩れ落ちる。これにより竹人形の一体が後衛に向かうが、それを雷慈慟が足止めする。 「安心しな。これで決めてやるよ」 フツが朱い槍を使い印を切る。符によって生まれた朱色の幻影。フツの印により生まれた封縛術。それが悪魔を封じる為に展開された。どこか少女の姿を模した朱色の幻影。それがデカラビアを薙ぐように腕を振るった。 「確かにこれまでのようですね。御見事です」 「求世――完了!」 フツの声とともに幻影はデカラビアをなぎ払う。現世との係わりを断たれ、魔神の姿が薄れ、そして消えていった。 ● 「……終った……」 誰ともなしに呟いて、広場の床に座り込む。デカラビアが消えて、バンブーゴーレムも原材料と憑依していた魂ごと消え去った。 と同時に結界も解除されたのだろう。周りを歩いていた人たちがこちらに視線を向ける。慌てて幻想纏いに武装を戻し、事なきを得た。 戦闘不能になっていたリベリスタは近くのベンチに腰掛けている。怪我の具合はひどいが、動けないほどではない。手を上げて勝利を伝える。 「お茶会を楽しみたかったのですが」 「シフォンケーキも結界の向こうか」 「まおは抹茶パフェが食べたかったです」 小夜香と喜平とまおがデカラビアが座っていたテーブルの場所を見て言う。もとよりそこにはなにもない。すべては魔神の結界内のものなのだろう。 「リベンジ完了だな」 「無様な姿を見せずにすみました」 「ああ、だがこの場での勝利を得ただけだ。他の場所はどうなっているか」 かつて名古屋城でデカラビアに敗退した吹雪と七海と雷慈慟は勝利の味をかみ締めていた。一歩間違えば瓦解もありえただろう。危うい戦いであったことは事実だ。 「召喚した術者が違うだけで、ここまで変わるとはな」 「キースの実力が増したということもあるのだろう」 かつてイタリアでデカラビアと相対したことのあるフツとウラジミールが傷口を押さえながら口を開く。そもそもあの時は前衛系だったのに、今回は回復型だった。どういうことなのか。 「アークに連絡を入れておきますね」 「ああ、よろしく頼む。首を狩り損ねたとも言ってくれ」 三郎太が幻想纏いを立ち上げてアークに連絡を開始する。その隣で伊吹が缶コーヒーを口にしながら一言付け加えた。次の機会があるならあのふざけた首を刎ねてやる。 程なくしてアーク職員が満身創痍のリベリスタたちの元にやってくる。さぁ、三高平に帰ろう。 京都観光の時間はなさそうだ、と思いながらリベリスタたちは京都の町並みを見る。魔神が暴れればどうなっていたことか。平和な町並みを見下ろしながら、安堵の息を吐く。 京都は変わらずに、時を刻んでいた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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