●魔神はただ好敵手を待つのみ 千葉県にある国際空港。 日本の玄関口の一つとして機能しているこの空港の第2ビルにとある男の姿があった。 男は着衣を身に着けてこそいたが、どう見てもその姿は人間のそれではない。しかしながら、幻視の力で、何事もないよう大勢の人の前でも気にする様子もなく、ロビーに並ぶ椅子へ座り、ふんぞり返っている。……いや、あからさまに通行人は男を避けていた。男やその取り巻きが張る結界のせいだろう。 「ったく、俺は忙しいってのに……」 なんでキースの喧嘩に付き合わねばならんのだと、男は愚痴をこぼす。 そいつは大きな羽を生やしていた。ソロモンの72柱、序列33位ガープ。地獄の西方を統べる偉大なる魔王の片割れともいわれる魔神だ。 ガープを知る者であれば、この時期に彼は姿を現すことを訝しんだことだろう。彼は太陽が南の星を通る時期にしか現れないとされている。南の星とは蟹座のこと。その時期はもう過ぎているからだ。 それでも、彼はここにいる。嫌々ながらもキースの呼びかけに応えた為だ。 状況を慮る取り巻きの配下が、キースの機嫌を窺う。 「……よろしいので?」 「ああ、キースは掛け値なしで戦えっつってんだろ」 今回は面倒なことをする必要はない。面白味もないが、その時はそのまま帰ればいいだけだ。……憂さ晴らしくらいはするかもしれないが。 「ま、待つだけの価値がありゃいいがな。アークの連中に。来なければ、それだけの奴らだったってことだ。……だが」 爛々と目を光らせるガープに、取り巻きは背筋に寒気を覚える。 「のこのこやってきたなら、憂さ晴らしに返り討ちにしてやるからよぉ……!」 リベリスタに来てほしいのか、そうではないのか。取り巻きは主の考えを汲み取ることができず、返事を返すことなく頭を垂れることしかできないのだった。 ●バカンス明けの任務 過去の事件……ナイトメア・ダウンを乗り越え、バカンスを終えたリベリスタ達。 「ゆっくり骨埋めでした? ……でも、すぐに気持ちを切り替えて任務に当たってほしい」 ブリーディング・ルームにて、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がリベリスタ達へと喝を入れる。これからの依頼はまた過酷なものとなるのだ。 イヴの説明によると、丁度1年の時間を置いて、バロックナイツ第五位『魔神王』キース・ソロモンが再びアークへと挑戦状を叩き付けてきたという。 九月十日に仕掛けるとキース・ソロモンから一方的な通告が届けられたのだ。彼の性格や、情勢、諸情報を総合的に判断するに、アークはこれが確実な事実と認識している。 キースは前回のアークとの戦いでの敗戦――実際は引き分けなのだが、彼はそう呼んでいる――を糧に、この1年日本を除く世界各地での修行を繰り返していたらしい。世界各国の組織からキースに纏わる面倒事を聞いてはいたが、彼らしく大きな被害は出ていないらしいから、アークへの助力要請は無かったようだ。 そのキースは悪逆非道の男という訳ではないが、それ相応にフィクサードである。彼も、彼の使役するソロモンの魔神達も、圧倒的な異能の持ち主だ。己の望みが叶わないとなれば何をしてくるかは分からない。 「キースは純粋に、アークと真剣勝負をしたいみたい」 キースはアークとの再戦を望んでいる。紳士的にアークを待つと宣言した彼は、アークが彼の要請に応える限りは一般人への被害を出さない事を約束した。前回の事件では一部魔神の判断で被害が出た局面も多かったが、今回はさせないと明言した。 かくて、アークは再度現れたキースとの対決を余儀なくされる。 魔神達は人の多い施設などに陣取り、結界を張ってリベリスタを待ち構えている。結界の外にはたくさんの一般人がいるのだ。魔神によっては、リベリスタが来ないと分かれば、何をするか分からない者もいる。 「この場は、勝ってキースを退けるしか打つ手がないのが実状」 望む、望まないに関わらず……そうする以外に道が無いのは明白なのだ。 一時置いて、イヴは話を続ける。 「皆は、成田国際空港へ向かってほしい」 千葉にある、日本の玄関口、成田国際空港。その第2ビルのロビーに、ソロモンの72柱、序列33位ガープが現れたのだという。自らの望まむ時期に呼び出されて少々苛立っているようだが、キースの意に背く気も基本的にはないらしい。彼はロビーに結界を張り、リベリスタの来訪をじっと待っている。 ガープには4人の配下がいる。王を名乗る彼らは、その力を遺憾なく発揮することだろう。さらに配下達には部下を20人ほど従える。いずれも剣と杖を手にし、デュランダル、マグメイガスのアビリティを使うことが確認されている。 「ガープは皆が来るのをじっと待っている。リベリスタが来れば、本気で戦うからいいけれど。来なければ、空港の破壊も辞さないと思う」 ガープは予知の中でも忙しいと口にする。その中で呼びかけにわざわざ応じたのだから、実入りがあって当たり前だと考えているようだ。憂さ晴らしの相手がリベリスタとなるか、一般人となるかの違いでしか、ガープは考えていない。 「穏便に済ませる為にも、皆にはガープに勝ってほしい。……検討を祈っているわ」 強大な敵であることには違いない。リベリスタ達は勝利をイヴに約束し、一路、成田空港へと向かうのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:なちゅい | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年09月28日(日)23:03 |
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■メイン参加者 5人■ | |||||
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●そいつはただじっと待っていた 空港のロビーに響くアナウンス。それを受けて、荷物を抱えた人々が忙しなく搭乗口へと駆けていく。大きな荷物を持って運ぶ人々はどこの国へ、どれだけの間滞在するのだろうか。 ここ、成田空港では、何気ない日常の光景であるはずだ。 しかしながら、人々は気づかないその日常である光景の中に、異質な者が紛れていることに。結界内にいる男には、一般人は注意すらも払おうとはしない。 「……遅いな」 多少苛立ちを見せてロビーの椅子にどっかりと座る男。そいつこそ、ソロモンの72柱、序列33位ガープだ。その配下である4人の取り巻きは、王と呼ばれる者達ではあるが、主である魔神が癇癪を起こさないかと冷や冷やしていた。彼らは主の怒りが爆発する前に、前にリベリスタ達の出現を願わずにはいられない。 一方のリベリスタ達も、急いで成田空港へと駆けつける。早く到着しなければ、待ち構える魔神が暴れ出して人や空港内の施設に被害を及ぼすかもしれないのだ。 「成田空港がもし占拠されたら……。旅行好きな人たちがすっごく困るよねっ」 踊りこむように成田空港へ真っ先に入っていったのは、『ノットサポーター』テテロ ミスト(BNE004973)だ。彼は結界内にも一番乗りで入って見せる。 「平穏な日常を乱す悪いやつを許すわけにはいかないっ」 「やっと来たか。待ちくたびれたぜ……って、おい」 リベリスタの声を聞いて、ゆっくりと立ち上がるガープ。敵の姿を認めた彼は、やってきたその人数に驚きを隠せない。ガープの前に現れたリベリスタは4人。ガープは拍子抜けとばかりに呆れて見せた。 「俺相手にその人数とは、バカなのか、それとも……」 いやと思い直し、にやりと微笑むガープ。四人の王を侍らせた地獄の長官は不敵に微笑んだ。余興だったとはいえ、依然自身の用意した舞台を、アークはあっさりとぶち壊してみせたではないか。もしかしたら、お前などこれで十分だとアークの力を見せつけるつもりなのか、とガープは思い直す。 そんな余裕のガープに反し、リベリスタ達には余裕など、微塵も感じられない。 (こりゃぁピンチだねっ。この人数で魔神様を相手にしなきゃいけないとはねぇ……) 『遺志を継ぐ双子の姉』丸田 富江(BNE004309)も、物量の差、なによりも魔神が相手という状況に絶望感すらも覚えてしまう。 (たとえ人数揃わなくても、たとえ相手が圧倒的であったとしても) 『ウワサの刑事』柴崎 遥平(BNE005033)は近場の柱を背にして、煙草を取り出す。ヘビースモーカーである彼だが、刑事という良識ある職につく彼は、喫煙したい衝動を律して見せ、煙草を指で挟んだままでガープへと告げた。 「市民を護るために、絶対に退けない一線がある。それがリベリスタの責務で……刑事の、意地と執念さ」 そこへ走ってくる人影。着物を着た若い男が1人、空港のロビーを走ってくる。 「苦戦してるようじゃのう。ワシもこの戦、一口かませてもらおうか」 現れたのは、『黄泉還り』武田 震源(BNE005074)だ。助けに舟とはこのことか。誰であろうと、この苦境の中で駆けつける存在は実に頼もしい。 「この信玄公の生まれ変わりとももっぱらの噂のワシが来たのじゃ。この戦、大船に乗った気でいるが良いわっ」 ワッハッハッハッハッハと高笑いする震源。ただ、その震源を含めてもリベリスタは5人。他のメンバー達は目の前の脅威に戦慄を覚える。 だが、『』四条・理央(BNE000319)は敢えて気丈にガープへと言葉を投げかけた。 「魔神王キース……剣林にも通ずる思考みたいだし、それなりに好感は持てる」 キース・ソロモン。バロックナイツにおける『厳かなる歪夜十三使徒』第5位。バトルマニアである彼は、純粋に力を求める男だ。彼の決起に応えて魔神はボトムへと現れ、ガープもまた、こうして成田空港へと姿を現している。 「けど、こういう唐突な来襲は勘弁して欲しいよ。巻き込まれたボク等もガーブも災難だしさ」 「それについてだけは、同感だな」 理央の言葉に、ガープが同意する。 「さて、折角くそ忙しい時期にこうしてやってきたんだ。……失望させんなよ、アーク」 ガープの言葉を受け、王達が部下へと指示を出す。間もなく、ロビーにいる部下達が結界内に入ってくることだろう。 (まぁ、でも考え方を変えてみりゃ、これほど燃える展開もないじゃないか) 富江は思う。どのみち、誰かがやるしかないのであれば、腹を括るしかないと。 「さぁいっちょやったろうかね!!」 「おう、来やがれ!」 人の多いはずの空港ロビー。そこで、人と魔神の戦いが、人知れず始まろうとしていた。 ●劣勢を覆す為に 富江は拳を合わせて前に進み、ボキボキと関節を鳴らす。 「アタシャ来月念願のハワイ旅行に行こうかと思ってんのに……。あんたらみたいなのがいたら迷惑じゃないかっ! 即刻退去願うとしようかね」 敵を威嚇しようと考えての行為だったが、魔神達は意にも介してはいない。富江はならばと実力行使を行うことにする。 そこに、結界内に多数の侵入者がやってきた。配下である王の部下達が騒々しく駆けつけ、結界からリベリスタを出さないようにと取り囲むように布陣する。その数は20。5人のリベリスタは部下達と結界中央の魔神達によって、完全に囲まれてしまう。 「何事も先手必勝! 先に流れをつかんだ方が勝機をつかむのじゃっ」 現れた敵を含め、震源が全ての敵を見回して叫ぶ。 「我が知略、とくと味わうがよいわっ」 彼の飛ばす巫術がこの場を包むものとは別の結界を展開する。敵を鈍化させ、反応を鈍らせる術を張り巡らせる震源。とはいえ、効果は微妙なところだ。 ミストも続く。彼は自身の誇りを胸に、魂を燃やして闘気を燃やす。 「まずは敵の数減らさないとねっ! いくよっ!!」 彼は周囲に現れた敵目がけて跳ぶ。そして、素早い動きで敵の群れ目がけて魔力剣を振るう。部下達も応戦すべく、抜いた剣でミストに斬りかかる。 ただ、数が多すぎた。ミストは1人で4、5人もの敵を相手にしなければならない。劣勢を感じながらも、全力でミストは目の前の敵を纏めて斬り伏せる。 柱を背にする遥平。敵に包囲されないようにと考えての立ち位置だった。その遥平の前に立つのは4人の王。そして、その奥にはガープがいる。 「前回は西部劇だったらしいじゃねえか。場所が空港とは、マカロニ・ウェスタンからハリウッド・アクションに鞍替えか?」 「たまたまだ。別に趣味でやってるわけじゃねえよ」 忙しい自分にとっては、束の間の遊びでしかないとガープは主張する。もっとも、それを遥平が信じることはなかったが。 4人の男達はその間も遥平を狙い、三方を囲まれる形となってしまう。そして、彼らは号令を出して自分達の強化を行い、さらに、王の風格で突風を巻き起こして見せた。 しかし、遥平はまったく動じる気配がない。彼は中央を見据えたまま、魔力のシールドを張っていたのだ。物理防御を完全にシャットダウンする盾。これならば、かなりは耐えられるはずと彼は目論む。他のメンバーが部下達の排除に向かうこともあり、彼は単身、魔神達の攻撃を一挙に受け止めながら攻撃を繰り出す。 理央は符術の力で玄武を作り出す。本物ではないものの、玄武の吐き出す水圧は本物にも劣らないほどの威力を生み出して部下達を襲う。 水圧にのけぞる部下達は応戦すべく、魔炎や魔力弾を彼女へと浴びせかけてきた。 (やはり、数が……) 立ち位置の都合もあり、彼女は最も多い数の部下を相手をする羽目となる。王達やガープと戦う遥平の援護もしたいところだが……。 理央は当初の予定通り、回復に回ろうと考える。仲間が部下の数を減らしさえすれば、状況が好転するやもしれないのだ。彼女は癒しの力を持つ小型の式を顕現すべく、新たな符術を組み上げる。 クロスイージスである富江は、敵の壁となるべく立ち塞がり続けていた。 「お前達かい、アタシに歯向かおうってのは……後悔してもしらないよっ」 普段はほんわかしている富江だが、戦いともなれば数々の修羅場を潜り抜けた本性が現れる。場数を踏む部下達でさえ、富江は大きな壁として立ち塞がる。彼女は背に生やした翼を大きく羽ばたかせ、部下達をなぎ倒すほどの風の渦を巻き起こし、さらなるプレッシャーを部下へと与えるのである。 「ほう……」 敵ながら、その戦いぶりに驚くガープ。ただ、彼は未だその力を全て解放してはおらず、余裕すら感じられた。 ●押されながらも 王の部下個人の力は並のリベリスタに劣るようだ。なればこそと、リベリスタ達は一気呵成に敵を攻めたてる。 「いいかいアンタ達っ! 少ない人数は個々の気合いと根性でカバーだっ!! 分かったねっ!!!」 富江が数人の部下を抑えつつ、仲間達へと呼びかける。元より死力を尽くす覚悟で集まったリベリスタ達。彼らの決死の攻撃によって、部下はぱたり、ぱたりと地面を這っていく。 とはいえ、それは王達には面白い展開なわけがない。ふがいない部下達が倒れていく様を、魔神にまざまざと見せつける結果となるのだから。 だからこそ、部下達も必死になって剣を振るい、魔力を放つ。震源はそれらを受けるも倒れない。 「ワシの手にかかれば敵は弱まり、味方は滾る!」 震源の張った守護結界で、その威力が弱まる。彼の力がこの場においてこの上なくリベリスタ達の力になっていたのだ。 「さぁ、現出せよ玄武よっ! あのモノ達に圧倒的な水の力を見せ付けるのだっ!」 笑う震源は敵の群れへと玄武を呼び出す。玄武による強烈な水流を受けた部下は次々と倒れていった。 ミストも敵へと突撃し、武威をもって敵の威圧を行う。子供ながらに連続して繰り出す攻撃は部下達を圧倒し、戦意を奪い取っていく。中には耐えきれずに崩れ落ちる敵の姿もあった。 倒れる部下は半数を超え、一見してリベリスタ達が優勢に戦いを繰り広げているようにも見える……が、現実は甘くない。リベリスタ達はかなりの傷を負い、気力を振り絞って戦う状況だ。 とりわけ、中央部で雷を放つ遥平はボロボロになっていた。物理攻撃はシャットダウンしているものの、王の手から放たれる威圧するオーラで彼の力は失われ、さらに王の口から紡がれる呪いの言葉は、ゆっくりと彼の体を蝕んでいく。 「く……」 マグメイガスである遥平がいくら物理攻撃を完全に止め、神秘に対する抵抗力が高いとはいえ、王達の度重なる神秘攻撃で体力を削られて大きく肩で息をするほどに疲労してしまっている。 理央が部下の攻撃を潜り抜け、遥平の体力を回復させるべく符術で2体の小型の式を呼び出す。癒しの力が遥平の体力を持ち直させることはできたのだが、それによって、彼女は王達に目をつけられ、王達から放たれるオーラと突風が理央を苛んだ。 ただ、王は全員が理央に注意を向けたわけではない。また、ガープも遥平に狙いを定めたままだ。 「リベリスタの責務とやら、オレに見せてみろよ」 にやりと口元を釣り上げるガープは、呼び込んだ黒いオーラで周囲を暗くしていく。そして、どす黒いオーラを己に腕に纏わせてそれを振るう。オーラは、相手を瞬時に相手の気力や運、持てるその全てを奪おうとした。 それでも、遥平は倒れない。奪いつくそうとするオーラを、運命すら味方につけて強引に跳ね除けて見せたのである。 理央もまた、王から撃ち出されるオーラの衝撃を受けていた。高い防御力で少しの攻撃で体を揺らがせることはないが、それもいつまで続くか。仲間が魔神達を倒すことを信じ、彼女は仲間を癒し続ける。 富江もまた、その高い防御力で部下の刃をはじき、魔力を受け止める。倒れかけた仲間の姿に目をやる富江だが、まだまだ戦えると思ったようだ。 「ほらほらっ、いくよっ」 羽ばたかせる大きな翼が渦を巻き起こす。ある敵は風に裂かれて傷から血を飛び散らせ、またある敵は体を凍り付かせる。リベリスタ達は傷つき、あるいは動けぬ敵へと狙いを定めて敵を屠っていく。 剣を落として倒れる部下。その姿を見た王達は魔神の機嫌を恐る恐る窺う。予想に反して、思いのほかガープは上機嫌だった。 とはいえ、これ以上たった5人の相手に手間取ってはいられない。そう考える王達は、号令を1人がかけ、さらに続く戦いに備える。 「やれやれ、それじゃ、マジでいくかね」 にやにやと笑って、腕を鳴らすガープに、王達は胸を撫で下ろす。ここからが本番。リベリスタ達はその現実を突きつけられ、眩暈すら覚えてしまうのである。 ●圧倒的な力の差を覆せ 部下とは違い、4人の王はその力を遺憾なく発揮し、リベリスタ達を攻めたてる。 ミストは王の攻撃に耐え、その隙を図って敵を斬撃で刻む。目の前の王も必死になってそれを受け、威風を放つ。風で肌蹴そうになる憲法着を直すミストは、口元ににじむ血を腕で拭き取る。 敵が減ったことで、1体の敵の相手に集中できるようになったとはいえ。部下を相手にする間に負った傷で、ミストも、仲間達も動きが鈍ってしまう。 「この状況ではボクは出来るだけ攻撃に集中したいから回復は最終手段……っ! ぎりぎりまで耐えてねっ」 仲間達へと呼びかけたミストは、さらに王へと魔力剣を振り上げる。 そのミストを含め回復に全力で当たるのは理央だ。敵の呪いの言葉によって、理央自身もかなり追いつめられていた。 前回、アメリカで彼らの相手を行った理央も強くなった王達に思わず舌を巻く。銃なんかよりも、その身による攻撃の方が強い、と。 その間に、ミストが声を荒げた。回復が間に合わず、膝を突きかけた彼は運命の力で体勢を立て直したのである。 「倒れてなんか、いられないよっ!」 さらにミストは魔力剣を敵に突き立てる。王の一角がついに、血を吐き、崩れ落ちた。 攻撃を一身に受け止めていた富江。彼女はできる限り敵を引き付け、その攻撃を受け止めていたのだ。 その敵の中には、ガープの姿もある。 「倒れない壁、いいじゃねぇか。だが、中からならどうだ?」 ガープの得意とするところは感情操作。にやりと笑う彼の瞳から見えない力が飛ぶ。敵を倒さんとしていた富江の顔から表情が消えた。脳内にガープの言葉が響く。 (どうした、お前の狙うべき敵は、リベリスタじゃねえのか?) 「敵……」 完全にガープによって魅了された富江は、後ろを振り向いて仲間を襲い始める。そのターゲットは震源だった。 敵の数が減り、式符・鴉で敵を狙っていた震源は、まさかの方向から飛んでくる攻撃に目を点にしてしまう。 「どうしたというのじゃ!」 震源の呼びかけにも、富江は全く応じない。要塞のごとき盾が立ち塞がり、そこからぶんぶんと冷凍マグロが振り回される。 「早くなんとかしないと」 そこで、理央が式を呼び出す。2体の式が富江の精神を落ち着かせた。正気に戻った富江は、ガープを睨み付ける。 「ただじゃおかないよ、覚悟をしっ!」 富江は鬼のような形相で羽を広げ、烈風を巻き起こす。毒に侵される敵へ、震源が迫る。彼の符術で生み出された烏が王の体を貫く。そのままうつぶせに倒れる敵の姿に、震源は高笑いして見せた。 遥平は王達を抑え続けていた。数が減ったことで各々の負担は減ってきてはいたものの。彼がそれまで負ったダメージはあまりにも大きすぎた。 戦いも長引き、メンバー達のEPも底を尽きかけていた。力強い攻撃を繰り出すことができなくなる。リベリスタ達は最善手で攻めているのは間違いないが、悲しいかな攻撃の手は緩み始めていた。 ガープはその攻撃を受け止め、溜息をついて首を振る。 「こんなもんか」 ハァと溜息をつくガープ。王達は魔神の気が済んだとかとホッとする。突然の行動に、ボロボロのリベリスタ達は何事かとガープを見やる。 「止めだ。俺の買い被りだったようだな」 これで撤退してくれるのか。リベリスタ達は空港を守り切ったのかと淡い希望を持つ。 ガープはそんな部下やリベリスタの期待を裏切る。彼はくるりとリベリスタに背を向け、こう言い放った。 「このままじゃ気が晴れねぇな。いっそ外の連中をぶっ倒すか」 「待て」 結界の外へと歩き出すガープを遥平がすぐに呼び止めるが、ガープはリベリスタに興味を失ったのだろう。結界の端まで悠然と歩いていく。まるで、彼の言葉など届いてやしない。 その時、遥平の中で何かが壊れる音がした。 「手前ェらの相手は、ここにいるって言ってんだろうがよ……!」 歪曲運命黙示録。 遥平のフェイトは異様なまでに燃え上がる。空港の利用客を護る為にはこの力を使うしかないと遥平は決意したのだ。 想像もしえない程の力が彼の体を駆け巡る。刹那、その力は魔神をも超えた。 「ふ、ふふ、ふははは!」 背後から威圧する力。ガープは思わず体を震わせた。 「いい、いいぞ、来い。てめぇの力、見せてみやがれ!」 遥平は周囲に魔法陣を展開する。全てを飲み込みかねない程の力が、彼の手から放出された。全ての力を使い果たし、力なく倒れる遥平。それでも、溢れ出る魔力の奔流は結界内を飛び、ガープの体を貫く! ガープは全く動くことができずにその攻撃をまともに受けてしまった。傷口から血を流れ出し、音を立てて崩れ落ちる。キースによる力の枷がなかったなら、あるいは受け止められただろうか。それが実に悔やまれて止まなかった。 「引くしかねぇ……か。お前ら……後始末しとけよ」 ガープはその場から掻き消えるように姿を消す。残された王達は直立して返事をし、立っていた4人のリベリスタ達を倒すべく威圧の風を飛ばす。 しかし、残っていたリベリスタ達は、いまさらその程度で倒れはしない。 「そんなの、全然痛くないよっ」 「ふん、その程度でアタシらが止められると思っているのかい?」 ミスト、富江が王達を威嚇する。王達にとって、残ったリベリスタ達からは溢れ出るような力に包まれるようにも見えた。 「一般人を襲おうとした罪、軽くはないよ」 「回復などいらぬな。ワシらの渾身の一撃、とくと見よっ!」 理央と震源も見下すような視線を2人の王へと向ける。リベリスタ達が睨むだけで。王達は委縮するほどの力の差を覚えるのだった。 ●空港を護った勇者達に 魔神一行が去り、王とその部下達は全てが倒れた後。 リベリスタ達はしばし放心していた。まさか戦いを潜り抜けて生き残ることができるとは、と。これも、歪曲運命黙示録まで使った遥平の活躍があったからこそだろう。 「さすがは噂に聞いた魔神……このワシも全力を尽くしきったわっ!」 しかし、あのお方の力の前では……といったところかのうと言葉を続けた震源は高笑いをして見せる。その彼もそのまま気を失ってしまう。リベリスタ全員がロビーの床に倒れ伏してしまった。誰もが深く傷ついていたが、遥平以外では理央の傷もかなりひどい状態だったようだ。 やがて、結界が解け、倒れるリベリスタ達や魔神の配下達の姿に空港は騒然としてしまう。アークが駆け付けるまでの僅かな間、空港関係者が右往左往する程の事態となってしまう。 それでも。魔神が空港を占拠するよりは。空港へとやってきたアークスタッフは身を張って空港を護ったリベリスタ達に敬意を払い、彼らを搬送していくのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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