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amor gratuitus

●『無償の愛』
 人は、常に愛情を胸に抱いている物だ。嫌悪感も憎悪も同じ、何かを愛おしいと思うからこそマイナスの感情を抱くのだろう。その愛情の向かう先が自己愛であるか、それとも他者への愛情であるかは分からない。しかして、それが何も代償を払わない愛情だからと『無償の愛』と呼ぶ事が出来るのかは些か疑問だ。何ら代償を支払わない愛情など存在しない。己を愛してくれるからこそ愛おしいと言うならば専ら其れは自己愛を満たすために相手を使用すると言う打算的な感情が働いている。自分を愛させると言う相手を犠牲に成り立っているものではなかろうか。思想がマイナス方向だと言われれば何も言えない。人間と言う者は常にマイナスの感情とプラスの感情を抱いている。そんなこと。そんなこと――?
「ない、とは言い切れないだろ。ラッヘン」
「モチのロンだわ。ユータ君は相変わらず訳のわからない事だけをペチャクチャ話すんだもの……あたしは、楽しく人を殺せればいいだけだし、そんなにロマンチストじゃないもの。ユータ君のお話しって……こう、何て言えばいいのかしら、飽き飽きしちゃうわよね?」
 長い髪を揺らし、路地に座りこんでいた少女は傍らに立つ学生服の青年へと声をかけた。
 路地に倒れた人間の肢体を見下ろす青年は幸福そうに口角を釣り上げている。爪先が、倒れた男の腹を蹴る。柔らかい感触に満足したのか、強く踏みつければ弾力のある腹部は靴裏を跳ね返す様にゆらゆらと揺らいだ。
「殺しを行うことだって僕らの欲望を満たすための一つの手段だよ。ラッヘン。
 僕らは人を殺したいからこそ、人を殺すと言う人ならざる常識外れの事をしてるんだ。でもね、人を殺すと言う事は一つの芸術なんだよ。血が撒き散らされる様子も、ナイフが切り裂いた肉の硬さも、全てが――そう、一つの芸術作品の様だと僕は考えている」
 同意するかのように小さく頷いたラッヘン・フラウは首を傾げてへらへらと笑った。
 彼女にとっての殺人とは、華々しい舞台だった。人殺しは芸術。其れは同意できる。
 殺人と言う舞台はラッヘン・フラウという女へとスポットライトを当ててくれる素晴らしい舞台だった。殺人技法と言う芸術を見せ、それに観客は興奮し、拍手を捧げてくれるだろう――
「あたしは、人殺しが好きよ。誰かを代償にあたしという存在は芸術になれる」
「つまり?」
「つまり、あたしは自分の為に人を殺してる。それは悪だと断罪されるのでしょうね。
 でも、よぉく考えて? セイギノミカタになれば悪を殺すことだってできる。
 あたしたちは、死にたがっている人を殺せばいい。ユータ君、そう思わない?

 ……ね、『生きたい人』を殺すから、それは悪だと言われるのよね。
 なら、『死にたい人』を殺せばそれは利害の一致――あたしは殺しの舞台に立てるし、その人は望みどおりに死ねる。『なんちゃってセイギノミカタ』になれるじゃない。悪い事だとは思わないわ」
 ゆっくりと立ち上がった少女は恍惚の笑みを浮かべて、立ち上がる。
 青年のベルトにぶら下がっていた携帯電話がコール音を幾度か立てる。
「さて、殺して欲しい人が来たようだよ、ラッヘン」
「――ええ、『尽くしてあげる』のよ。殺して欲しいって人に。なんちゃって無償の愛情よね。
 それじゃあ、彼女を殺した後は街で楽しく殺しましょうね。楽しい夜になりそうね?」

●アーク
「死にたい人を殺す事は罪だと思う? 死にたがってるんだものね、相手は。
 無差別に人を殺すのなら悪だと断罪出来るけど、死にたがってる一般人を殺す事は……ううん、私は殺人は罪、だと思うのだけど……皆はどう思う?」
 小さく首を傾げ『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)はリベリスタへと告げる。
「『殺人クラブ』。その名前の通り人殺しが大好きなフィクサードの集団よ。
 最近はどうやら自殺志願者の依頼を受けて殺害を行っているそうなのだけど……」
 一般人を殺すと言うのだから止めない訳にはいかないと世恋は一言付け加えた。エリューションを扱う以上、崩界への影響も考えられる。倒さねばならない対象である事には違いないだろう。
「フィクサードによる凶行を止め、出来得るならばこれ以上の被害が出ない様にお願いしたいの。
 今回は『死にたがりを殺す』という行動を起こしているけれど普段は快楽殺人を行うフィクサードだわ。この『死にたがりの一般人さん』を殺害した後は繁華街での一般人の殺害を働く心算だというわ。

 私のお願いは単純明快よ。
 存在するエリューションを撃破し、今日、この後に起こるであろう『殺人』を行えない様にして欲しいの。
 ……死にたがりの一般人さんの生死は皆にお任せするわ。どうぞ、よろしくね?」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年09月20日(土)22:24
こんにちは、椿です。

●成功条件
フィクサードの撃退及び敵性エリューションの撃破

●場所情報
 暗がりの路地裏。じんわりと照らすライトが印象的な路地。
 広さはあまりありません。幅は横に三人並べる程度。
 通り抜けが可能な場所であり、通りを抜けると繁華街が存在しています。
 到着時、ユータやラッヘンの傍に死にたがりの一般人が立っています。自身の殺害を阻止される物だと判断した場合はリベリスタの邪魔を行います(彼女の生死は成功条件に含まれません)

●『amor gratuitus』館林ユータ
 ビーストハーフ(ワニ)×覇界闘士。多数の携帯電話をベルトからぶら下げた青年。
 学ランと学生帽といった風貌であり一見して年若い様にも思えますが、実年齢は中年程度。『殺人クラブ』という『魅せる様に殺人をする』ことをモットーとした組織を束ねるリーダーであり、殺人を行う事はある種の芸術であると語っています。
・アーティファクト『人生抹殺ナイフ』:ユータ専用に作られたナイフ。その名と裏腹に通常攻撃を行う事で不殺を付与します。

●『殺人業者』ラッヘン・フラウ
 ヴァンパイア×インヤンマスター。長い髪をした少女。『殺人クラブ』の一員です。
 魅せる様な殺人を行う事を目的としており、彼女自身は『自分が死ぬスリルを味わいながらも人を死に貶める』事を幸福だと感じているようです。人を殺す用のナイフは『殺害用ナイフ』と名付けられたもので魔的な能力は持っておらず、戦闘にも使用しません。
・アーティファクト『嗤哭』:ラッヘン・フラウの所有するクロス。先端部分は赤黒く染まっています。
・EX:殺人作法A(神遠範囲 麻痺)

●エリューション・フォース『殺害対象』×5
ラッヘン・フラウがどこかに身につけている『殺人クラブ』の一員の証がエリューションを操る能力を与えています。
フェーズ2が1体とフェーズ1が4体の構成で前衛を務めます。
フェーズ1の個体は防御に優れませんが攻撃に長けております(フェーズ進行に寄り防御が其れなりに整えられます)
ユーリカを援護するほか、何れかの1体が増殖性革醒現象を所有しています。
3T経過するごとに周囲存在の生命反応(ユーリカ及びリベリスタ等)に反応し、エリューション・フォースが生み出されます(この増加は増殖性革醒現象を所有するエリューションを撃破することでなくなります)

●死にたがりの一般人
 殺人クラブに殺害を依頼してきた一般人の少女です。その思想は解りませんが死を望み、殺して下さいと懇願しているようです。

●『殺人クラブ』
(拙作『brillante』『Erinnerung』にも登場しておりますがご存じなくとも支障は御座いません)
館林ユータが主催する小規模なフィクサードグループ。目的は単純明快『殺す』こと。死にたがっている人からの依頼を集め、殺害を働く他、無差別に快楽殺人を行うなど人を殺す事が好きなフィクサードが集まった集団です。

 どうぞ、よろしくお願いいたします。
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
アウトサイドナイトクリーク
リル・リトル・リトル(BNE001146)
ノワールオルールクリミナルスタア
遠野 結唯(BNE003604)
ナイトバロンアークリベリオン
喜多川・旭(BNE004015)
ジーニアスプロアデプト
一条 佐里(BNE004113)


 日向の様にじんわりと周囲を照らしだすライトがやけに印象的だった。神からの洗礼を受けるが如く、両手を組み合わせた一般人の隣で青年が携帯電話を弄っている其れだけの空間に妙な違和感を感じるのは何故だろうか。
 正義の味方は斯く或るべき。そんな例え話を『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)は是とはしない。虫の羽音さえも聞こえてしまいそうな沈黙の中に踏み込んだ爪先が、小石をこつん、と蹴飛ばした。
「殺人クラブか……久しいな、ラッヘン」
「揮発性の脳でね、セイギノミカタの皆さんの事は憶えてないの」
 からかう様に告げた少女の指先で殺害用ナイフが煌々として見せる。陽だまりの様に光るそのライトの色さえも気持ちが悪いかの様に眉を寄せた『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は勲章を象った幻想纏いを指先でとん、とんと叩く。
「ご機嫌麗しゅうラッヘンちゃん、ゴメンネ。君のセイギノミカタの邪魔をしに来たよ」
「正義というのは沢山の定義があるわ。例えば、ユータ君が考える正義が――貴方と違うということかしら」
 冗句染みた言葉に反感を抱く事無く、淡々とその意味を理解した『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)は持ち前の観察眼を生かすかのように少女と、その傍らの青年を見詰める。
「殺人クラブとは反りが合わなそうッスけど、アンタの殺人作法。刃を合わせるまで楽しみッスよ」
「それは、思想は理解できないということ?」
「そう、だね。罪だとか、罪じゃないとか。そんなのはとってもかんたんだよ。
 自分の心に聞けばいいだけ。ラッヘンさんが言った様に定義が違うし、主義も思想も、信念も違う」
 掌に力を込めて、リルの淡い笑みに気分を良くしたラッヘンへと『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)は淡々と語りかける。淡い光の下、柔らかな色を持つ旭の瞳のいろを覗きこむかのように、女は姿勢を屈め、笑った。
 地面を踏みしめたユータが前線のリル目掛けて飛翔する武技を放つ。じっ、と周囲に沸き上がったエリューションを見詰めていたリルがその攻撃をその身その物と受けとめると同時、夏栖斗が唇を歪めてみせた。
「人殺しが芸術? 馬鹿馬鹿しい」
 吐き捨てる様に告げる彼へと一斉に向く視線。挑発的な言葉とともに精神に与えられた打撃にラッヘン・フラウがむっと唇を釣り上げる。
 隙が生まれたのだ、と瞬時に理解したリルがふわふわ漂うエリューションを解析する傍ら、旭が夏栖斗へと集うエリューション達を火焔を纏い、噴火の如く敵陣へと突出して行く。
 視線が、路地の上向きに向いた事を館林ユータは咄嗟に気付き、視線を上げる。柔らかに降りかかる髪の毛は旭の物よりも淡い色合いをしている。
 壁を這う様に下りた『銀の腕』一条 佐里(BNE004113)が傍らの少女の腕を掴み、引き上げる。
「な――ッ!?」
「悪いね、どういう理由で死にたがってるのかはわからない。が、目が覚めたら君の悩みを聞いてあげられる安全な男を紹介してやるよ」
 気障ったらしい言葉とともに佐里が掴んだ少女の腕ごと攫う様に。『縞パンマイスター竜』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)が死にたがりの少女を抱き上げる。抵抗するように身を捩った少女を一瞥し、黒真珠を思わす瞳が眼鏡越しに鋭く煌めいた。
「そんなに死にたいなら、私の腕を振り解いて飛び降りたらいいじゃないですか」
 面接着を利用した彼女達は革醒者だ。随分と高い位置からでも恐怖心を煽られる事はあまりにない。
 しかし、佐里と竜一の腕にその身を任せる状態となっている少女は違う。宙ぶらりんの足に恐怖して咄嗟に佐里の腕を強く握りしめた彼女に佐里は「馬鹿げてます」と囁いた。


「死にたがっていたのに……連れてって次は皆さんが殺すとでも?」
「ううん、殺さない。でも、殺さない事が罪だって、ユータさんは言うの?」
 魔力鉄甲に包まれた指先に力が籠められる。彼女の好み――そして嫌った色の赤を纏った旭の言葉にユータは只、首を傾げて笑って見せた。
 影人を量産することとエリューションを使用することで出来得る限りの自己への被害軽減を狙うラッヘンの戦法が変わりない事を理解し、リルが地面を踏みしめる。彼の目標は決まって居た。
「それッスね? 殺しの流儀ってのはあるんスか? リルはあるっスよ。これでも『殺し屋』だったッス」
「それで、アークなんかで燻ぶってて、良く満足できるのね」
 唇を尖らせるラッヘンの前でエリューションがゆらゆらと揺れている。その攻撃を受け続ける夏栖斗の表情が、些か歪んだ様な気がした。
 エリューション同士の庇い合いがあるのはラッヘンの持つナイフの所為だろう。しかし、だからと言って何なのか。LoDがシャンッと軽い音を立てる。まるで舞い踊る様に近接域へと滑り込んだリルがエリューションに与えた一打。
 後衛から討ち出す結唯の弾丸を受けてもエリューションは目が眩んだ様に夏栖斗を狙い続ける。超直観を使用し、リルの情報をもとに『増殖性革醒現象』を引き起こす個体を探す夏栖斗が大きく振り仰ぐ。
「待たせたな! やり合おうじゃないか。セイギノミカタたち。お前たちのセイギを魅せてみなよ」
 上空から、壁を蹴り、頭の上で回転させた宝刀露草。その衝撃にユータげ細めた視線の先で気糸が伸びあがる。
 佐里の視線が上空へ――ビルの屋上へと逸らされた。経過した時間は長いものではない。しかし、それでも、彼女の悲痛な表情は頭から離れない物だ。

「飛びおりますか? ここから落ちれば死ねますよ」
 死にたいなら自殺でいい。コンクリートが敷かれた地面が高い位置から覗くだけで伺えた。
 震える脚に力が入らずに座り込んだ少女の肩に触れた竜一は少女の瞳を覗きこむ。
「殺すの……? あの『殺し屋』の代わりに、私の事、殺してくれるんでしょ!?」
「死にたいなら、自分で死ねる場所がここにあるじゃないですか」
 淡々と――しかし、佐里はあくまで今はこの言葉を掛けるべきではないと口を噤む。年若い少女のちょっとした感傷へと踏み入れるには時間が惜しい。今はこの下、細い路地で戦い続ける仲間が居るのだから。
 涙を浮かべた少女の掌が伸ばされる。前にしゃがみ込んだ竜一は彼女の額へとトン、と触れ、抱きしめる様に腕を回し、ばちん、と鈍い音が響いた。
 俄かに見えた光りの飛沫は彼らが用意したスタンガン。眼鏡に反射したその光りを受けとめて、立ち上がった佐里の足元で気絶した少女が昏々と眠りへ入る。
「目が覚めたら――だから、今は眠れ」

 誰かにとって『殺し』が罪なのだとしたら、誰かにとってそれは正義なのだとろう。
 只、静かに考える結唯はFaust Rohrを構えたまま『死にたがりの駆除』に乗り出した殺人クラブの面々を眺めている。
「本人が死にたがっているのだから、殺しても良かったのじゃないか?
 私は構わんぞ。……別に私が手を下す必要が無いならやるつもりもない。快楽殺人なんて趣味じゃないからな」
「あら、じゃあお仲間に『止まれ』と注意してよ?」
 茶化すラッヘンの前で結唯は淡々と彼女なりの気づかいを見せた。それはラッヘンも感じた事のあるアークの秘術だ。
 高速詠唱の傍ら、リルがぎょっとした様に結唯に視線を送り、夏栖斗が「結唯ちゃん!」と焦りを浮かべた様に告げる。彼女の使う魔女の秘術は箱を作りだす様なものだ。
 ちらり、と視線を向けて、しかし脚を止めることなく悩ましげに眉を顰めた旭がスカートの裾を大きく揺らす。
「止まれない、よ。『殺人クラブ』に依頼したのが間違いなく彼女自身の意思なら第三者であるわたしたちが救出する事も、罪……なんだよね?」
「勿論。死が救いだと考える人間も居れば死は罰だと考える人間も居る。
 死は誰にも等しく訪れる救いなのだと彼女が判断した、其れだけの事でしょうに! 何故、邪魔をするのか!」
「罪で、いいんだよ。身体を救って、心を殺す行為が罪でも、わたしは背負っていくんだから」
 冷たいコンクリートを踏みしめる。癒す様に、己を削る旭の隣に降り立って佐里が気糸を周囲へと振り撒いた。
 数の有利不利等はリル達には関係ないのだろう。踊り子と呼ばれる彼はフィクサード時代のボスの受け売りを思い出し仲間と、目の前の敵の語らう『罪』について思考する。幼さと、愛らしさを武器に人を殺して居たその時、自分は確かに輝いていたのかもしれない――しかし。
「標的以外は殺さない。邪魔者を全部消してたら、ただの殺人鬼と一緒ッス。
 矜持のない殺しは、ただの殺人行為。殺し屋が矜持を亡くしたら只の殺人鬼でしかない」
 唇を歪め、死の刻印を刻みこんだエリューションにラッヘンが背後から符で癒しを送る。彼が対峙するこのエリューションこそが『現象』を起こす存在なのだとリルは解って居た。
 ぐるん、と頭上で回った刃を振り翳し、前線で戦うエリューションを薙ぎ倒した竜一が唇を歪める。中二病を拗らせた様には見えず、今はまっとうな青年の様に見え夏栖斗がへらりと笑う。
「竜ちゃん、エリューションにモテてるじゃん?」
「モテる男は困ったもんだぜ」
 攻撃の集中を避ける様に夏栖斗がアッパーユアハートで呼び寄せる。その隙を縫う様に結唯の弾丸が飛び交うが、逃走経路を断つ様に陣地を形成する結唯に些か不服があったのか、貫く様に飛翔する一撃が彼女の身体を貫いていく。
「果たして、君の技は興味深いが観客のいない舞台の何が楽しいのやら?」
「舞台で見せるのが人殺し。それが芸術なんて馬鹿馬鹿しい。人を殺すのは悪だよ」
「君だって、殺したんでしょう」
「そうだ、人を殺した事はある。僕だって、同じ悪だ。御免ね、ラッヘンちゃん。セイギノミカタは居ないみたいだよ」
 トンファーを握りしめる指先に俄かに力が籠められる。夏栖斗の月色の瞳が夜闇に煌々と煌めいた。その、想いを宿すかのように――何処か、気味の悪い色を宿して。
 弾丸をバラまかせエリューションと共にラッヘンの影人を倒す事に特化した結唯に対し、ラッヘン・フラウは攻勢に転じる事無く影人の作成と回復を交互に繰り返して居る。数を増やす事を止めてしまったエリューションに心もとないとラッヘンの背後から遠距離攻撃を繰り出すユータによりちまちまと増加するダメージを旭が己を削りながらも癒し続けて居た。
「わたしはフィクサードさんたちを殺したくないよ。ラッヘンさんも、ユータさんも。
 でも、誰かを殺すなら、わたし――……ううん、だいじょぶ、わたしはがんばれるから」
 一人ごちる。旭の言葉に耳を傾け佐里は小さく首を振った。二人の少女の思想は死にたがりの一般人を救いたいと一致している事だろう。
 しかし、復讐のために生きる佐里と小を殺す事すら厭う旭ではその深層心理に違いはあったに違いない。だが、目の前の敵と自分たちの思想が違うのは一目瞭然だったのだろう。
「優しい事だな。生きる事が大切だと、説く事が優しいとは限らないだろうに……本当に優しい事だ」
 誰に向けるでは無く、告げられた結唯の言葉にラッヘンがへらへらと笑いだす。減り続けるエリューションも、ユータも夏栖斗への怒りを解消された以上は箱の中に閉じ込める切欠となった彼女を真っ先に攻撃する対象と判断した事だろう。
「それでも――」
 守りたい、と。人の命が尊いのだと、知っているのだと夏栖斗はトンファーを指先が痛くなるほどに握りしめた。


 数を減らし、攻勢に徹するラッヘンが焔の鳥で周囲を苛んでいく。その熱さに身を焼かれようとリルは踊る様に彼女の目の前へと滑り込む。
「芸術に派疎いッスけど、折角ッス。お互いの技を楽しもうッスよ」
 死を刻みつける様に。魅せる戦いにリルは誰よりも貪欲だった。死線で踊る事こそがリルの一番だった。
 ステップを踏み、傷を付け、赤い血が滴り落ちるそれも含めて芸術そのもの。死を感じた時こそ、人間はより一層に綺麗に輝くのだから――
「刻みたい。目を奪い、命を奪い、死線はココッス。さぁ、踊ろうッス」
 ラストダンスを――!
 より激しくなるリルの攻撃へ、ナイフを持ち直し、刻みこむ様に放たれる殺人の作法。刃を逆手に持ち、体の内部を奪う様に単純化した殺人作法に四肢の自由が利かなくなる感覚がし、足を止める。
 しかして、動きを止めたとて、リベリスタは一人では無い。刃を持ち変え、ラッヘンへと叩きつけた刃の感触に竜一が地面を踏みしめる。
 そろそろと背後へ下がるユータへ気付き、夏栖斗は彼の手を狙い飛翔する攻撃を放つ。衝撃に、携帯電話が転がりながら落ちて行く。一手、繰り出した攻撃が打撃の的になっている結唯の身体を貫いた。
「セイギノミカタはここでおしまいにしな!」
「残念だね、ラッヘン。君とはここでお別れの様だ」
 落ちた携帯電話を惜しむ事無く、着信音を遮ったのは拾い上げた夏栖斗の電源ボタンのプッシュ。
 背を向ける男の身体を切り裂くその一撃に彼はへらりと笑って、通りの向こうへ姿を消した。だが、輪の中心のラッヘン・フラウは未だに戦闘の手を止めぬ。「ユータ君の意地悪」と嘯いて、刃を逆手に持って、放つ園攻撃を邪魔する様に竜一がラッヘンの身体を貫いた。
 カラン、と落ちたナイフを拾い上げる。殺害用ナイフの汚れ一つないその煌めきに視線を落とし、リルは地面を蹴った。
「退会手続きは済ませたッスか? 殺すのに悪も正義もないッスよ。死人に口無し――何も言えないんスから」
 ラストダンスは只、死神を宿して居た。その技量は確かに死神を思わせる。
 リルへ視線を向けて、柔らかに眸を細めたラッヘン・フラウ――笑顔の女は何も言わずに手をひらひらと振った。
「あたしは、人殺しが好きだから、何時か誰かに殺されると思ってたの。
 何かを罪だ罰だと言うなら、これがあたしの罰だったのね?」
「さぁ、どうッスかね。もしかしたら、これが与えられた救いだったのかも知れないッス」
 シャン、と軽やかな音がする。見上げた女の睫毛が風に揺れた。目を閉じる訳でもなく、殺人の作法を深く観察したリルがそれを真似る様にラッヘンの持っていた刃を振り上げるが、ラッヘンは小さく笑う。
「殺し、似合わない顔してるわね。可愛い。ああ、私は芸術になれる。殺されて、死体と言う芸術に」
「ラッヘンさん、それはね、芸術っていわないんだよ?」
『殺し屋』だった少年は無邪気さを残した顔から表情を失くしていく。持ち替えたLoD。手に馴染む武器で放ったのはやはり、死を告げた死神の甘い刻印。
 ひしゃげる音がする。肉を断つ感触だとリルは気付き、飛び散った血を拭った。倒れ込んだ彼女を見下ろす旭の瞳は只、悲しげな色を秘めて居た。

 風の音がする屋上に登り、コンクリートを見下ろして少女は尻込みする。それを知っていたと言う様に夏栖斗は彼女の手を取って、屋上の中央へと優しく手を引いた。
「優しい男を紹介するって言ったろ?」
「君は、何で死にたいの?」
 竜一の言葉に少女が顔を上げる――が、夏栖斗の問いに身を固くしてふるふると首を振った。
 死にたい理由は特別なのか、それとも下らないことなのか。年派も行かぬ少女は頑なに口を閉じ、声を発さない。
「あのね、君は殺される事が特別だと思ってるのかもしれないけど、でも、それは特別なことなんじゃない。
 君は自分で死ぬ勇気はないんだね。死を望んでいても、自分で死ねないなら、それは死にたくないって言ってるんだよ」
 とん、と額を付いた指先。少女の瞳が大きく見開かれる。
 話しを聞いてくれる優しい男を融通した竜一が喉を鳴らし「ひでぇ男だ」と夏栖斗へと冗句を飛ばした。
 只、何処までも真っ直ぐな言葉でも、きっと彼女は受けとめてくれない。
 ぱしん、と。鈍い音一つ、目を見開いた少女の目の前で佐里がゆっくりと唇を開く。
「な、に……」
「……仕返し、してください」
 ぱしん、と。もう一度、重ねて、重ねて、繰り返して。
 もう一度、ぱしん、と酷く音が鳴る。
 それは何度だって――彼女が泣きだして、その手を止めるまで。
「痛いですか? 痛いでしょう。私は、痛かった。生きるって、痛いんですよ?
 体も心も、どっちも。誰かに弱みを吐き出す事ができないならば、聞いてくれればいいんです」
 傲慢なことは言いません、と佐里は重ねる。落ちた白い指先が赤色に染まって居る事に気づき、きゅ、とその指を握りしめた。
「周りの辛いことに触れて下さい、痛みに慣れれば、傷が増えたって笑って行けます。
 今度、遊びに行きましょう。楽しい事をして、それから私の痛い事を聞いて下さい」
 ぽた、と落ちた雫と共に、少女は震える声で「叩いて、今の私が死んで、行きたがりの私が生きるの」と囁いた。

 ぱしん、と鈍い音。頬を撫でた指先に静かに雫が落ちた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまでした。
 殺人に対しての罪や罰、それから救いと言った側面からの心情のぶつかり合いだったなぁと。
 少しばかり作戦に齟齬があったかのように見受けられましたが難なく、と言った所だと思います。
 救われた彼女は楽しく過ごせる日々を取り戻せたことでしょう。

 ご参加有難うございました。別のお話しでお会いできます事をお祈りして。