●真夜中のサーカス 深夜の高原。虫の鳴き声だけが響く、そんな場所。大きな月が照らすのは、高原に並ぶ無数のテント。すっかり寝静まった後なのだろう。キャンプ客達の話声などは聞こえてこない。 けれど、時計の針が深夜12時を差した、その瞬間。 一斉に、テントが開いてその中で寝ていた者たちがふらふらと外に歩き出てきた。 視線は虚ろ。靴も履かず、ある一点を目指して進む。 テントの並ぶ区画から、数十メートルほど離れた場所に、それはあった。 いつの間に、と言われれば、時計の針が12を差したその瞬間から。 それは、テントだった。直径40メートルはあるだろうか。高さも相当なもので、少なくとも20メートルは超えている。太い鉄骨に支えられた、カラフルな布で出来た巨大なテント。 その入口へ向かって、人々は集結していく。 テントの中、中央には円形のステージがあり、そのステージを囲むように半円形の客席が並ぶ。 人々が、テントの中に集まったのを確認して、ステージ中央に歩み出た者が居た。 『ようこそおいで下さいました。真夜中サーカス団今夜の演目は、どれも目が離せないものばかり。ぜひその目を見開いて、驚愕の芸の数々を十二分にお楽しみください』 肌の色が青白い、背の低い男だ。タキシードにシルクハットという出で立ちに、赤い目をした不気味な男。おおよそ人間離れしたその外見に、しかし観客は、誰1人として悲鳴すらあげない。 それどころか、リアクションを返すものさえいなかった。 満足そうに、タキシードの男は大きく頷く。 『なにせ……それが皆さんの見る、最後の芸になるのですから』 そう言って男は、犬歯を剥きだし、にたりと笑ってみせたのだった。 ●深夜の興行 「サーカスの幕は開いた。異形の軍勢によるサーカスは、人々を問答無用で魅了してその命を奪う」 そうして彼らは、いくつもの世界を興行して回っているのだ。アザ―バイド(真夜中サーカス団)は、人を楽しませ、そしてその命を奪う。危険な存在。そう語るのは、モニターを背にした小柄な少女『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)だった。 「今し方、サーカスの開演を宣言した(座長)は、主に仲間のパラメーターUPの術とこちらの妨害を専門にしたスキルを使う。もちろん、敵は彼だけじゃない」 座長はあくまで、サーカス全体の管理人。 始まりから終わりまでの演目を整え、そしてきちんと幕を降ろすのが彼の役割。 芸を演じるのは、あくまで他のメンバーだ。 「座長の他に3名。この世界に来たサーカス団は全部で4人ね。(ビーストテイマー)、(ピエロ)、(曲芸師)。そして(座長)」 ビーストテイマーは猛獣や人を操り、魅了するスキルを。 ピエロは、不可視の壁を作る能力や、ナイフなどを使った危険なジャグリングを。 曲芸師は、空中を泳ぐかのような素早くアクロバティックな攻撃を。 そしてそれらに指示を出し、ステージを整えるのが座長の役目となる。 「1度テントに入ってしまえば、座長の許可なしには外には出られない。またテントを外から破壊することは出来ない。一応、テントの傍にDホールがあるからそれの対処もお願いね」 敵は4体。戦場は狭い。とはいえ、一般人が多いので範囲攻撃を多様するのは危険が伴う。 一度テントに入れば、後は説得なり力づくなりでサーカス団を止めるしかない。 無関係な命を散らすわけにもいかないので、時間の猶予もあまりない。 「危険なサーカスに乱入することになるかしら」 行ってらっしゃい。 と、そう言ってイヴは仲間達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年09月23日(火)22:15 |
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■メイン参加者 4人■ | |||||
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●サーカス、開演 不気味なサーカスのテントがあった。サーカスのテントだ。吸い込まれるように、虚ろな目をした男女がテントの中に入って行く。テントの中から聞こえて来る音は、静寂のみ。数十人の人間が押しこまれているにしては、異常なくらいに静かだった。 テントの外から、中の様子は窺えないが、どうやらすでにサーカスは始まっているらしい。 時折、なにかしら曲芸を披露する音が聞こえる。本来なら、観客による拍手の1つも聞こえて来るだろうが、今現在、テント内にいる者たちの中に、そんなことをしている精神的余裕のある者はいない。 否、既に全員、自我を奪われてしまっている。 命を対価として要求する危険なサーカスに参列し、あとはただ、団員たちの気紛れで命を奪われるのを待つばかり。 「行こう」 と、そう言ったのは誰だっただろうか。 4人のリベリスタは、真正面から、危険なサーカスへと乗り込んで行った。 ●真夜中のサーカス団 半円状に並んだ客席。正面には、円形のステージ。ステージの上には、赤い肌の美しい女性が立っていた。片手に持った鞭を振り回し、妖艶に笑う。くすり、と客席の一角を見て微笑んで、地面に鞭で円を描いた。 猛獣使い。ビーストテイマーだ。彼女の描いた円がぼんやりと発光し、その中から、巨大な熊が飛び出してきた。普通の熊に比べ、格段に身体が大きく、爪が長い。恐らく、彼女達の元居た世界の生き物なのだろう。 ビーストテイマーの振り回す鞭に指揮されるように、熊はのそりとステージの縁へと移動を始める。 凶暴な獣が間近に迫ってくるというのに、客席の人間達は表情を変えないどころか、身じろぎすらしない。ぐるる、と低い唸り声は熊の喉から発せられる。 『さ、喰ってしまいなさい。サーカスの第一幕は、血の雨を降らせるところから始めましょう』 パシリ、と鞭が地面を叩く。 熊は、観客席の最前にいた男に向かって、飛びかかって行った。 「何の為に一般人を誘い込んで殺そうとするのかねっ」 熊の爪をメイスで受け止め『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は、ビーストテイマーを一瞥。突然の乱入者と対峙したビーストテイマーは『誰?』と口元に笑みを浮かべて呟いた。 メイスを大きく振り抜くと、熊の爪が数本まとめてへし折れ飛んだ。雄叫び染みた熊の悲鳴が、テントを震わせる。だが、ビーストテイマーの命令は絶対なのだろう。痛みを堪えながら、熊が義弘の肩に喰らい付いた。 「っぐ……」 メイスで熊の顎を押しあげながら、義弘はなんとか熊の身体をその場に押し留める。 その隙に、ステージの上にいたビーストテイマーの周囲を残る仲間達が囲む。 「こういう怖いのはサーカスじゃないと思うんですよう、やーん」 瞳に涙を溜めながら『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)はフィンガーバレットの銃口をビーストテイマーに突きつけた。ビーストテイマーは、鞭を構えて、臨戦体勢を整える。ビーストテイマーが鞭を振りあげたその瞬間、駆け出す影が1つ。 「命はボトムの宝。それを無造作に奪おうとする輩はぶった切るのみです」 一気に駆け寄り、剣を一閃。『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)は、情け容赦なくビーストテイマーに斬りかかる。 「飛び入り客で悪いけど……」 麗香より一拍遅れて『ゲーマー』ソニア・ライルズ(BNE005079)が客席の椅子やテントの壁面を蹴ってビーストテイマーの背後へと移動。拳を振り上げ、ビーストテイマーへと襲いかかる。 ビーストテイマーの身体が大きく傾ぐ。肩から胴にかけてを、麗香に切り裂かれたらしく鮮血が飛び散った。傷を負いながら、ビーストテイマーは頭上で鞭を旋回。描かれた円から、赤い体毛を蓄えた虎が飛び出した。 「やらせませんよぉ!」 イスタルテが腕を振る。放たれた閃光が虎の眼前で弾けた。怯んだ虎の背に飛び乗り、魔力の弾丸をその首へと撃ちこんで行く。 その隙に、麗香とソニアは前後からビーストテイマーへと攻撃を再開した。 『このっ!』 ビーストテイマーの鞭が閃く。鞭はソニアの頬から首を捉え、その白い皮膚を爆ぜさせた。頬を鮮血に染めながら、ソニアは手甲に包まれたその手で、ビーストテイマーの鞭を握りしめる。 しまった、とビーストテイマーが口にするよりも速く、麗香の居合いが放たれる。 タン。と軽い足音。麗香が大きく踏み込んだ音だ。 一瞬の静寂の後、ビーストテイマーは白目を剥いて、その場にばたりと倒れ伏した。 血だまりに沈むビーストテイマーは、ぴくりとも動かない。運が良ければ、生き伸びることもあるだろう。麗香の斬撃を浴びたビーストテイマーは、少なくとも暫くの間は戦闘に参加できはしない。 『おやおや……。困りますな。邪魔をされては』 コツコツと足音を響かせながら、テントの奥から座長が姿を現した。タキシードにシルクハット、青白い肌に赤い目、口元には牙が覗く人間離れした外見をしている。 座長だけではない。 白い肌に緑の髪、長身痩躯の奇妙なピエロが続く。仲間がやられたというのに、その口元には笑みが浮いていた。 更に、天井から階段を降りるように空中を歩いて下って来たのは、黄色い嘴と翼を持った鴉のような男だった。サーカスの曲芸師だ。なにもない空間に足場があるような、不気味な歩き方で空中を闊歩する。 サーカス団員3名の登場に、しかし観客はなんのリアクションもかえなさい。虚ろな目でステージを見つめ、サーカス団とリベリスタが対峙するのを、なんともなしに見つめていた。 『ケケケ。悲しいな。オレの仲間を、傷つけたな? あっははははははは!!』 笑いながら、悲しいとピエロはいう。口では笑いながらも、真白く塗ったその頬を、ぽろぽろと涙が伝う。 「楽しくサーカスやってるだけならまだよかったんだがなっ!」 ナイフとボールとでジャグリングを繰り返すピエロの正面に、義弘が飛び出す。メイスを大きく振り抜いて、ボールとナイフとを叩き退けた。 弾かれた瞬間、ボールとナイフから火炎と冷気が噴き出す。咄嗟に腕をクロスさせガードの姿勢をとった義弘の脇腹に、ナイフが突き刺さった。ぐらり、とよろけた義弘の眼前に不気味な笑みを浮かべたピエロが迫る。 ピエロと義弘の戦いに加勢したいのだが、そう簡単にはいかないようだ。 「さぁて、刺激的な初体験、させてもらいましょ」 ソニアの拳を、鴉に似た顔をした曲芸師はするりと回避する。空中を滑るように歩く奇妙な飛行能力だ。だが、飛べるのは曲芸師だけではない。 「なるべく一般人からは離れた位置で戦闘しましょう」 翼を広げたイスタルテが空中を駆ける。階段を登るように上空へと移動する曲芸師の眼前に、閃光弾を投げつけた。閃光が弾け、曲芸師の視界を白く塗りつぶす。曲芸師の身体が傾ぎ、そのまままっさかさまに地面へと落下を始めた。 落下地点で待ち構えているソニアが拳を振りかぶる。落下する曲芸師を追って、イスタルテが急降下を始める。 だが、曲芸師の身体は空中で突如制止。何かに引っかかったような、不自然な止まり方だった。 それだけではない。 いつの間にそこにあったのか。ソニアの身体を、突如現れた大砲が飲み込む。 状況を把握できないでいる2人を他所に、パチン、と曲芸師が指を鳴らした。 火薬の爆ぜる轟音。ソニアの身体が上空へと撃ち出される。回避も停止も、受け止めることもできず、人間大砲の弾丸として放たれたソニアの身体はイスタルテに直撃。もつれるように落下していく2人を、曲芸師は表情を変えずにじっと眺め続けていた。 『さて。団員の芸の邪魔はさせませんよ』 そう言って笑う座長と対峙するのは、麗香である。手にしたステッキで麗香の剣をいなしながら、座長は時折、仲間達に指示を下す。座長自体の戦闘能力はさほど高くないようで、麗香はほとんどダメージを負ってはいないが、しかし致命傷も与えられないでいた。 さらに、麗香の攻撃の隙をついて仲間や自身に、身体能力を強化する技をかけているようで、少しずつだが強くなってきているのが分かる。 それだけに、麗香は焦りを感じていた。 『さぁ、分かったら早々に立ち去ってください。今なら、団員を傷つけたことも不問にしてあげますよ』 「冗談じゃありません。わたし達は重要ゲストですよ。わたくしどもは悪(アーク)。このボトムを取り仕切っていますので」 オーラを込めた渾身の一撃を、麗香が座長に叩きこむ。素早くステッキを回し、座長は麗香の剣を受け止めた。しかし、完全には防ぎきれない。ビキ、とステッキの軋む音。剣に弾かれ、座長の身体が大きく背後に弾け飛ぶ。 その瞬間、僅かにサーカスのテントが揺らいだのを、麗香の直感は見逃さなかった。 額から血を流すイスタルテとソニア。ステージの端に膝をつき、上空の曲芸師を睨む。 「サーカスって……昔、家族と一緒に見に行った時、凄く楽しかったっていう事だけは覚えています」 淡い燐光が、イスタルテを中心に舞い散った。光は、2人の身体を包み込み傷を癒し、体力を回復させる。 「べ、別に皆の無事とか祈ってるわけじゃないし!」 更に、ソニアの能力で防御力が強化される。 臨戦体勢と整え直し、2人は視線を上空へ。翼を広げ、イスタルテが宙へと舞い上がる。それに合わせ、曲芸師は空中歩行を開始。滑るようにして、空中を左右へ移動する。目に見えないロープを足場に移動しているのだ。 黒い翼は飾りだろうか。今まで、まともにその翼を使っていたようには見えない。 両腕をまっすぐ前に突き出し、イスタルテは魔力弾を乱射する。それを避けるために、数メートルほど曲芸師は高度を低くする。 ブツン、と奇妙な音。曲芸師が足場にしていた見えないロープが、ソニアによって切断されたのだ。 落下する曲芸師は、素早く自身の真下に大砲を召喚。今度は自分を弾として撃ち出し、戦線を離脱するつもりなのだろう。だが、そう上手く事は運ばない。 「逃がしませんよ」 「ぶち抜いてやる」 イスタルテの放った閃光が、曲芸師の視界を奪う。その隙に、壁を足場に曲芸師の真横に回っていたソニアが、鋭い拳を曲芸師の胴へと叩きこんだ。 突き抜ける衝撃は、曲芸師の内臓にダメージを与える。嘴の端から血を流し、曲芸師は地面に落ちて、そのまま意識を失った。 『タフだねあんた。あっはははは。やりがいがあるね。すぐに寝ちゃう観客が多いんだ』 「寝る? 死なすの間違いだろ。いったい何の為に一般人を誘い込んで殺そうとしてるのかね」 全身を鮮血で真っ赤に染め、義弘は問う。それに対するピエロの返答はいたってシンプルなものだった。 『意味なんてないのさ。俺たちはそういう存在で、たまたまそういう同士と出会った。それだけだ』 危険なジャグリングを繰り返すピエロと、メイスを振り回す義弘は至近距離で打ち合いを続ける。時折背後へと逸れるピエロの攻撃を、義弘はその身を挺して防ぐ。その度に不必要なダメージを負うが、かといって一般人を傷つけさせるわけにはいかない。 どうやら、座長による指示でピエロは観客を狙っているらしい。既に結構な量の武器を投げているので、手元にあるボールとナイフの残りはさほど多くない。 「盾を名乗るだけの働きはさせてもらおう」 大きく1歩、義弘は前へと踏み出した。義弘の目の前でボールが爆ぜる。義弘の上半身が爆炎に包まれるが、義弘はそのまま雄叫びをあげて前へと飛びだす。 炎が掻き消え、上半身に火傷を負った義弘が爆煙の中から現れる。大上段に構えた義弘のメイスは、眩い閃光を放っていた。 『あ……。な、まて! まてまてまて!』 ナイフもボールも、既に出していた分は全て投げてしまっていた。武器がないのだ。焦りの表情を浮かべたピエロの脳天に、義弘のメイスが叩きつけられる。 ステージ上で数回跳ねて、ピエロは倒れる。割れた額から溢れる血は、白く塗った彼の顔を、真っ赤に染め上げていた。 ●サーカス終幕 ステージの端で、ビーストテイマーは血だまりに沈む。 ステージの脇に倒れて、曲芸師は動かない。 顔を真っ赤に染めたピエロは、ステージの中央に倒れている。 ステージの奥、幕の手前で座長は唸る。手にはへし折れたステッキ。口元からは血が滴る。麗香の斬撃を防ぎきれずに、内臓へとダメージを負ったのだ。 既に仲間は、全員倒された。 座長自身の戦闘能力は、さほど高くない。本来ならば、仲間に指示を下し、仲間のパフォーマンスを最大に発揮させるのが彼の役割。前線で披露するような芸などもない。 「ボトム公演はお開きになさいませ。それとも最後まで殺りあいますか!?」 座長の喉元に、麗香が剣を突きつける。 血塗れの義弘が、疲労困憊のイスタルテとソニアが麗香の後ろに並ぶ。 ぐぐ、と僅かに呻き声をあげ、座長はその場に膝をついた。 『サーカスは、閉幕だ。仲間達の手当てをさせて欲しい』 座長が降参してすぐに、テントは消えた。支配されていた一般人達も、ふらふらと元の場所へと帰って行った。仲間達の傷を手当し、サーカス団員たちはそのまま元の世界へと帰って行く。 それを見送り、リベリスタたちはさっきまでテントのあった広場を後にする。 高度な技術と、純粋な殺意を持ったサーカス団員達を相手に、犠牲者を出す事なく任務を成功させた4人の表情は、どことなく誇らしげだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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