●存在意義 それらは、奔る、というただそれだけのために生まれてきた。 そう思い続けていた。 整ったアスファルトの上を、響く砂利の音を、長い坂道を、遥かな地平線を目指し、ただ奔る。 眠りから目覚め、その体を太陽の下に晒すと、大きく伸びをしたようにも感じる。 そうして一歩、さらに一歩、足取りは早くなり、風を切り、その巨体を前へ前へと進ませる。 彼らは、彼は、自らの名を「クルマ」だと識っていた。 「クルマ」は奔ることこそが存在意義なのだと。どこまでも走って行く、それが役目なのだと。 だが、ある日突然その役目に終焉が告げられる。 そう悟ったのは、いつのことだっただろう。彼らは首に縄をかけられた罪人のように引き立てられ、ある場所へと集結する。 機械の墓場である。 押し潰され、腕を、脚をもぎ取られ、首部を切り取られた無数の機械が無造作に積み上げられていた。 彼らの呼び名は、その瞬間「スクラップ」と変わり果てた。 役目を、存在意義を奪われ、重なり合いただ死を待つだけの虚しき存在。 嫌だ、と「クルマ」は思った。自らの存在意義を全うできないのは、嫌だ。そんなことが許されていいはずがない。こんな所で、ただの「ゴミ」として終わりたくない。 その意思が枯れたエンジンに火を灯す。錆び付こうとしていた脚を懸命に動かす。前へ、前へ。 瓦礫を踏み分け、廃品の谷と山の中から這いずり出す。 動く、という行為に、「クルマ」は既に懐かしさを感じていた。やはりこれが自分に与えられた役目であり、命であり、意義なのだと思った。 「――おい、なんで動いてんだ!?」 「なんだよ、あれ――!」 アクティブ。全ての機関に命令を送り、進む。 彼の脳裏にはもう、ただ生まれ持った役割を――奔ることを全うすることしか残ってはいなかった。 じゃりっ、と砂を噛む音と共に、それは走った。目の前にある障害物を全て弾き飛ばして。 偽りの生を手に入れたことを、彼はとうとう知らないままだった。 ●作戦会議 「……と、いうわけ。私が見たのは、ここまで」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が、リベリスタたちに向け口を開いた。 「つまり、廃棄処分になった車がエリューション化する、と?」 リベリスタの問いに、イヴは小さな頭を揺らして頷いた。 「そう。エリューション・ゴーレム。フェーズは2」 街外れにある廃品処理工場の集積所で起こるエリューション現象。 廃品となった自動車が、エリューションとして革醒したのだ。それはただ走るという欲求を満たすためだけに動く、剛速の凶器と成り果てていた。 イヴの見た『未来』では、少なくとも二名の民間人がエリューション化した自動車に撥ねられ犠牲になるという結果が出ていた。 それだけは避けたい、とイヴは呟く。 「犠牲者が出る前に、対処したい」 リベリスタたちにも異論はなかった。エリューションによる被害を食い止めるのもまた、彼らの役割である。 「増殖性革醒現象によって、エリューション化を起こした車両は二両に増えている」 メインモニターに、青い軽自動車と白いバンが映し出される。 「分かり易いよう、これらのここでの呼称はそれぞれブルーとホワイトとするわ」 ブルー、そしてホワイトの車体は、廃棄作業によって大きく捻くれ、歪な姿になっていた。 さらにエリューション現象によって、その車体は攻撃的なフォルムに変化している。 ブルーの車輪は大きく膨れ上がり、外れかけたドアはその切っ先が鋭利な刃物のように見える。ホワイトの車体は大きく拉げ、破れた外装がその身に無数の刺を纏ったようだった。まともにその体躯の突撃を受ければ、無傷では済まないことは明白だった。 「あまり小回りはきかないようだけれど、動いたときのスピードは楽観視できない。注意して」 イヴは淡々と言い加えた。 「作戦の決行は人目につかない夜。戦場になる集積所には大型のライトがあるから、視界にはあまり困らないと思う」 廃品を踏んで転ばないようにね、とイヴが呟く。冗談なのかそうではないのか、その白い面からは推察することはできなかった。 「どのみち廃棄物として処分されてしまうスクラップ。だから遠慮はいらない。完全に破壊して、エリューションを討伐して」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ニケ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年09月15日(月)22:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●戦闘発進 「チームA.S.A.T.プラス雪白華撃団・花組、with可憐な乙女!」 深夜、街外れの廃棄物集積場。コンクリートの地面に生えた巨大な屋外灯に照らされて、八人分の小柄な影があった。それはこの場所に似つかわしくない、少女とも呼べそうな女性たちの姿だった。 『ツンデレフュリエ』セレスティア・ナウシズ(BNE004651)の言葉に、誰からともなく笑いが溢れる。 「もう、なんですか。それ」 雪白 桐(BNE000185)が苦笑する。彼は――彼女は、と述べたほうが納得する者も多いかもしれない容姿だった――コーポ雪白華撃団・花組の代表だ。 「あのう……可憐な乙女、って……」 「私たちのことですか? ふふ、悪い気はしませんけどね」 カトレア・ブルーリー(BNE004990)の控えめな声に、院南 佳陽(BNE005036)が続いた。 「そうよ! 今からこのチーム可憐な乙女団が、暴走自動車をスクラップにしてやるんですから! ねっ、お姉様!」 『物理では殴らない』セリカ・アレイン(BNE004962)の明るい声に、彼女の義姉と言える『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレイン(BNE003170)もくすりと笑った。 「そうね。それにしても、これは酷い……主に面子が? ふふっ。間違ってるとは思いませんけどね! エリューションにとって運が悪かったんじゃないかなーって思うだけで」 「まあ、なかなかに濃いメンバーよね」 「そうですね。でも、心強いチームだと思います」 『狐のお姉さん』月草・文佳(BNE005014)とエリン・ファーレンハイト(BNE004918)も顔を見合わせ、頷き合う。 鈴の鳴るような彼女たちの笑い声が、やがて夜の静寂に消えていく。その顔には、闘いに臨むリベリスタとしての覚悟が残った。 彼女たちと対峙するように、その姿形を大きくひしゃげさせた二台の車が、ライトに照らされ集積場の中央に佇んでいた。――今回の任務で殲滅すべきエリューション、ブルーとホワイトである。 それはもしかすると、敵意だったのかもしれない。 ブルーとホワイトの車灯がぎらりと光る。 「さあ、いきましょう」 誰かの合図に、闇夜に浮かぶ影が一斉に動き出した。 ●疾走症候群 「とりあえず、と!」 セレアの長髪がひらめく。アシュレイの秘儀、空間を魔術師の陣地と変える技で、リベリスタたちとエリューション二体を瞬く間に取り込んだ。戦のために生み出された闘技場。そこがエリューションたちとの闘いの舞台となった。 「『人を乗せて走るために作られたのであって、ただ走るためだけに作られたわけではないです』って言ってしまったら私達のエゴなのかもしれませんが……少なくとも、人を傷つけることを望んで走る車、というのは見たことがありません」 皆に翼の加護の力を与えながら、カトレアは悲しげに呟いた。エリューションと化した車への憐憫が、カトレアの胸に小さな傷を残した。 「本当は人を傷つけない形で、自由に走れる場所に置いてあげたいのですが……あいにく、エリューションになってしまった以上は討たねばなりませんし、そういう場所もちょっと見つかりそうにないので……。身勝手なのは重々承知ですが。それでも、やはり倒さねばなりませんので、せめてその間、仲間が傷つかないよう最大限に努力させていただきます」 回復は任せてください、とカトレアが言う。『全ての救い』とも称される奇跡をもたらすカトレアの力は、リベリスタたちにとって大きな後ろ盾となる。 「そうですよ! だいたい! 自動車だって自覚を持つまでは構いませんけど、人間を平気で轢くのは自動車じゃなくて、むしろ兵器とか殺戮マシーンじゃないですか! 貴方たちが自動車だった頃の運転手は、そんな風に貴方たちを運転してたんですか!? 違うでしょ!」 果たしてセリカの言葉は、彼らに届いたのだろうか。あるいは、虚しく闇に響いただけだったかもしれない。 ホワイトの車輪がぎゅるりと音を立て、彼女たちへ向けて突進してくる。エリューションと化した、ヒトの手から解き放たれたモノだからこその猛スピードで、彼はセリカたちに襲いかかった。 セリカたちにその攻撃を躱され、瞬時スピードを緩めた刹那、桐の持つ剣がホワイトの前部を捕らえた。ギィン! という金属と金属がぶつかる音が甲高く鳴る。 ホワイトは任せてください、と仲間たちへ向けて桐が叫ぶ。 対峙したホワイトへ向けて、桐は冷酷に言い放った。 「貴方たちを止めます」 それは、奔るという本能に支配されたエリューションへの宣戦布告。 本来であれば、その体の一部をリサイクルされ、新しい生を得て再び『走る』ことも叶ったかもしれない、哀れな存在。エリューションと化した今となっては、それすらも許されないことだった。 今彼らに与えることのできる救い、それは即ち、破壊のみであった。 「さて、斬り合いましょうか」 愛刀を構え、桐は薄く笑んだ。 ホワイトが再度桐を目掛けて突進してくる。それを僅かな動きで直撃を躱し、桐はカウンターの重い一撃を振るった。 ホワイトの体躯の直撃を避けたとはいえ、桐の体にはホワイトの車体から飛び出した破片によって細かな切り傷が刻まれていた。 「雪白さん!」 カトレアの悲痛な声が響く。しかし血を滲ませるその傷には目もくれず、桐はホワイトへと肉薄し、強力な打撃を加えていく。フロントガラスが割れ飛び、ライトにきらきらと光を反射させた。 その桐の姿に、彼女の傷を癒しながらも、カトレアはある種の畏怖さえ感じた。 ヒトの力とエリューションの力のぶつかり合いが、そこにはあった。 「どこかの警備会社の人が言ってました、戦闘は火力、って」 夜風に髪を靡かせ、セレアはセリカと頷き合う。 「行くわよ、セリカ」 「はい! お姉様からの直伝、ひたすらマレウス!」 最大魔術『マレウス・ステルラ』。セレアとセリカの詠唱がひとつの唱和を作り上げ、戦場に不思議な旋律をもたらす。それに呼応するように、空に光が浮かんだ。 光はその輝きを増し、燃え盛る星の礫となって地に降り注いだ。星の雨がホワイトの車体を激しく打ち付ける。輝く礫はホワイトの天井を打ち砕き、歪に膨れ上がったドアの残骸を削ぎ落とした。 「レースゲームだと思った? 残念! 弾幕シューティングでした! ただし避けるのは貴方たちです!」 二人の猛攻は止まらない。二つの旋律が交互に重なり合い、途絶えることなく星の豪雨をホワイトへと降り注がせる。それは小さな隕石の雨だった。鉄槌の星に打たれ、ホワイトはその身を穴だらけの無残な姿へと変えていた。 「可憐な乙女団はまだ終わりじゃないわ。さぁ、蹂躙するわよ!」 セレスティアの攻撃が後に続いた。闇に紅い火が生まれる。ひとつの灯火は分裂を繰り返し、やがて焔の雨となってホワイトへと襲いかかった。 「『火力の無駄遣い』に近い感じもするけど、ほら、最近ストレスが溜まってたのもあるから。ねっ」 文字通り、それは煉獄の炎による蹂躙だった。炎の雨はホワイトの車体に触れると、その一粒一粒が大きく炸裂し、細かな断片を撒き散らさせた。 バンの姿をしていたはずのホワイトはその身をパーツ単位にまで分解され、最早原型を留めていることさえ困難だった。破片のひとつひとつがセレスティアの神秘なる炎に焼き尽くされていく。それでもなお、彼は奔ろうとした。 車輪に残った僅かな部品を動かし、燃え盛りながらもセレスティアへ向けてその全身で突進を仕掛けようとする。アスファルトの上に乱暴な軌跡を描き、ホワイトはなおも蠢く。 だがその接近を、セレスティアは赦さない。 「慈悲はない、ってやつね。とっとと終わらせて焼肉行くわよ。女装させた桐さんを弄り倒しながらの焼肉とビールを悦とすることに、何の矛盾があるというのだー!」 セレアとセリカが笑う。 「そうですね。お仕事終わったら打ち上げ行きませんか!」 「賛成! そういえばこの前、薄い本を作るときの資料に買ったんですけど、コスプレ衣装、用意しておきましょうか!」 雪白さんに色々、嬉し恥ずかしの服を着てもらえたら楽しそうですよねって! 無邪気な笑い声。闘いには不似合いとも言える声と共に降り注いだ隕石と炎の雨によって、ホワイトはその姿を完全に消し飛ばされることとなった。 「なんだかあっちは楽しそうね。こっちは落ち着きがあっていいと思うわ」 文佳が苦笑する。文佳と佳陽、そしてエリンは互いに顔を見合わせた。 不思議だった。言葉を交わさなくとも、それだけで通じ合うようだった。 それぞれの闘い方を確認し合い、エリューション・ブルーに向き直る。刺のような剥げた塗装を持つ巨体が、屋外灯の下に照らされている。 手と体に馴染んだ弓を携え、エリンはブルーを正面から見つめた。 弓は静の技だ。射る前の集中力、それに応えるように、的に吸い込まれるように放たれる矢、「自分を高めることで結果が出せる」静かなる武術。エリンはそれが好きだった。 だが、動く物を射る時というのは、得てしてアークの任務――言うなれば「敵」を狙う時だった。弓を引くという行為に生死が混ざるその感覚は、やはり気持ちの良いものではなかった。 奔る、という本能を持った彼らに弓引くことに対しても、それは同じだった。 「願わくば彼らに、苦痛や、あるいは自分が滅ぼされる、という恐怖といった感情がないことを……。そういう感情があったとしても、やるしかないのがリベリスタですから、覚悟はしていますが」 「私もそう思います。……恨んでくださって結構ですよ。世界が壊れるより、己が恨まれる方が楽だからこそ、リベリスタをやっておりますので」 エリンの言葉に、佳陽も頷いた。 彼女ら人間、ましてやリベリスタは、エリューションの意思を汲むことなどできないが故に。 迷いを断ち切り、エリンは弓を引き絞る。 弦が立てるその静かな音が、闘いの始まりとなった。 「では、参りましょう」 「昔のゲームで、ボーナスステージだっけ? 車をできるだけ速く壊せ、ってのがあったわよね」 「この状況にぴったりですね」 佳陽と文佳は、ある種のパートナーと呼んでも良い絆で結ばれていた。背を預け合い、ブルーに対峙する。 刹那、ブルーのヘッドライトが激しく光った。闇を一筋の光の帯が引き裂く。ハイビームだ。 二人は散開し、その直撃から身を躱す。ちくりとひりつくような痛みが、光の通った後に残るような気がした。熱を感じる攻撃だった。 けれど、当たらなければ意味はない。佳陽は艷やかな黒髪を靡かせ、集積場を駆けた。 「後ろは任せましたよ!」 叫ぶ佳陽の背後を、ハイビームが追う。 「鍛錬、とまでは言いませんが、いろいろと工夫してみる必要がありそうですわね」 牽制にグラスフォッグを放ちながらも、佳陽はブルーの『視線』を引き付ける。その目に向かい――ヘッドライトに向かい、佳陽は氷結の刃を放つ。パリン、と音を立て、ヘッドライトに大きなヒビが入った。その内部に組み込まれている電球にまで、凍てつく刃は深々と突き刺さっていた。これでブルーはハイビームを使えない。 攻撃の手を奪われ、彼は激昂したかのようだった。集積場を縦横無尽に走る佳陽に向かい、ブルーはタイヤ音を鳴らして突進する。 掛かった。 佳陽は身を翻し、集積場の隅にうずたかく積まれていた廃棄物の山の背後に身を隠す。 ガァン! という激しい音と共に、ブルーが廃棄物の塊に激突した。その振動を、佳陽は身を預けた廃棄物の壁越しに感じる。衝突によってブルーがその動きを止める、この一瞬を待っていた。 その一瞬の隙を見逃さず、文佳が放った魔力弾がブルーの車体を貫いた。文佳の周囲には、いつの間にか光輝く巨大な魔法陣が生まれていた。 何者をも貫き通す、魔なる銀の弾丸。 「掛かったわね! 逃がさないわよ!」 狐の尾を揺らし、文佳は手で空を薙ぎ払った。その動きに呼応して、魔法陣が一層強く光を放つ。いくつもの魔力の弾丸が生まれ、闇の虚空に光の尾を残して、ブルーの体を着実に抉っていく。フロントガラスを。バックドアを。ボンネットを。この世ならざる者の形へと歪んだエリューションを打ち砕く。 遮蔽物に敵をぶつけ、その動きが止まった隙に一撃を加える。味方と敵、集積物の壁一枚を隔てた射撃。一歩間違えれば、味方ごと討ちかねないその戦法。文佳と佳陽の信頼関係があるからこそ成し得た罠だった。 だがそもそも、文佳の手元が狂うことなど、あろうはずもない。その絆がエリューションを討ち果たす。しっかりと射線を見据え、文佳は全ての意思と力を魔法陣に集中させる。 巨大な魔力の一撃が放たれた。文佳の重い銀の一撃は、ブルーを上下に貫き、集積場のコンクリートの上を耳障りな音を立て、その車体を転げさせた。 二転三転し、その装甲を大きくもぎ取られながら、ブルーは文佳の視線の遥か先でようやく体勢を立て直した。 だが彼は既に手負いの獣だ。それも、致命傷を負った。 ひしゃげた青い車体に、エリンの攻撃が追い縋る。 「弾幕世界、行きます」 それは文字通り、弾幕で覆われた世界。エリンの体から浮き上がるように生まれた無数の魔弾が、ブルー目掛けて降り注ぐ。出鱈目にも見えるその軌跡は、けれどひとつの間違いもなく、過たずエリューションの体を捕えていく。 その攻撃の雨から逃れようというのだろうか。かろうじてタイヤの残ったブルーが軌道を変える。 けれど逃がさない。逃げることを許さない。 「私もリベリスタです。あなたを逃しはしません」 エリンは神秘なる魔の力を込めた弓を引き絞り、魔弾の矢を放つ。放たれた矢は幾重にも分裂し、複雑な螺旋を描きながらブルーの足を――タイヤを貫いた。惰性でなおも動こうとするその体躯の逃走を、弾幕世界の圧倒的な物量は、決して許さない。 全方位から撒き散らされたその弾丸が、ブルーを囲むように撃ち注ぎ、大地へと縫い止める。 「これで……とどめ!」 文佳が吼える。動きを止めたエリューションのその中心を、エリンと文佳、佳陽の全霊を込めた一撃が貫き、破片の一片となるまで破壊し尽くしていった。 ●状況終了 「皆さん、お疲れさまでした」 傷を負った仲間を癒し、カトレアが笑んだ。 その柔らかな笑顔に、皆にも同じ表情が広がっていく。闘いを終えた、安堵の笑みだった。 「ところで」 言って、桐が肩をひょいと竦める。その姿に全員の視線が集まった。 「……戦闘中に聞こえてきた話はなんですか? 空耳でなければ、コスプレだとかなんとか」 数拍の間を置いて、皆が一斉に声を上げて笑った。セリカがはーい、と手を挙げる。 「みんなで打ち上げするんですよね! あたし知ってます、こっちの世界で言う『女子会』っていうんですよね! 男性も混ざってる? 気のせいです!」 「桐さん酔いつぶして前後不覚にしたところで『貴方は実は昔から女の子だったのよー、フィクサードに記憶を書き換えられただけなのよー』って刷り込んだら覚えたりしないかしら。試してみたいわ」 はしゃぐアレイン姉妹に、桐がやれやれ、と言いたげに小さく息を漏らす。呆れたようにも見えるその仕草には、それでも十二分な親しみが溢れていた。 「抵抗するだけ無駄ですし。お腹も空いていますし楽しみましょう」 桐の言葉に、少女たちの可愛らしい諾の声が返されたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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