■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年09月12日(金)22:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●列を成せ、汝善良のしもべ。善きことのため、善きことのためである。 場を、もしくはアークリベリスタたちを包んだのは主に驚駭であった。 状況が飲み込めない者、飲み込めた者、わけもわからず飛び出す者。 その中で『不滅の剣』楠神 風斗(BNE001434)の立ち位置は第三種。 わけもわからず飛び出した。 「お前ら、リリさんに何をしたぁァッ!」 獣のように吠え、大剣に真っ赤なラインを走らせ、ひときわ偉そうな男へと斬りかかった。 その剣が、男の鼻先七センチの位置で止められる。 間に青い銃が挟まったからだ。 『Matka Boska』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)の愛銃が挟まったからだ。 「な、リリさ――」 リリは素早く腕を交差。大きく開けた風斗の口内にもう一丁の銃を押し込みつつバースト射撃。思わず食いしばった彼の腹に膝を入れて撥ね飛ばすと、更に銃撃。両目を即座に潰され、風斗は白目もむけずに吹き飛んだ。 古い木製ベンチを墓石ながら倒れる。 そこへ更なる銃撃を加えようと構えたリリは、とてつもない殺気に身を伏せた。 自分のすぐ上で、輪っかになった気糸が高速で締まった。絞殺? いや違う、斬首をねらったものだ。 転がって視線を上に向ければ、『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が目の奥をこうこうと光らせ、天井へと張り付いていた。 彼女も彼女で第三種。意味もわけもわかっていない。わかっていないが、彼女にとってはこの時点で充分だった。 「強者を、求めるなら、同僚と戦うのが、一番早い」 『隣人を襲える』という事実だけで、彼女は歓喜した。歓喜して、狂喜した。 リリを中心に螺旋状の気糸が出現。急速に締まり、彼女の動きを押し込めた。 その様子を確認して、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は手袋の裾を引いた。落ち着いた所作である。 「全て潰して真っ平ら、いつも通りの仕事か。敵のスペックが不明瞭だと聞いていたが、一人ほど明確なやつがいるじゃないか。好都合だ。そうだな?」 「まァ、よくあるケースだわな。こんなもん」 『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)はグローブ状のファンを展開。両手に装着した。 「依存の強ぇやつとは思ったが、ココがリリの分水嶺らしいな」 「依存な。所詮意識など、脳の活動結果にすぎない。それが自己でそれが自我だ。その程度のもの」 リリたちを放置して、助祭の男が飛び込んでくる。 両手に紋章のはいった手袋をしているが、怪しい光が漏れ出ていた。 「ハッ、いい里帰りになりゃあイイなァ!」 助祭の拳が来る。 火車の拳が走る。 ぶつかり合い、光と炎が渦になって巻いた。 すぐ後ろで指を鳴らすユーヌ。途端、助祭の足下にある影が膨張、食虫植物のように彼を包み込んだ。 だがそこは狂信者の心理。助祭の危機を対岸の火事の如く無視し、銃器を構えた女たちが襲いかかってきた。 リリと似たようなストラをかけた、シスター風の女たちである。 だが目つきは洗脳訓練を受けた暗殺者のそれである。何かにすがらなくては死んでしまう。そういう者たちだった。リリと比較して『純正狂信者』とでもいうべきか。 「わっと」 味方の後ろに隠れて魔術教本を開く『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)。 「今日はずいぶんとご機嫌じゃない、リリ。いいことがあったのかしら、それとも悪いことがありすぎて壊れちゃった?」 盾にされた味方というのは『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)である。 アサルトライフルの集中連射を棍棒のスイングだけで次々に弾いていく。 だが覚悟はなかった。顔も引きつっている。 「な、なにしてんだよリリ。仲間に刃を向けるのがつらいことだって、そんなの分かってるはずなのに」 隙を見て衝撃波を放ち、狂信者の女たちをはねのけにかかる。 背後で回復術式を連続で組み立てながら、ソラはためいきをついた。 「でも夏栖斗? こうなっちゃうのって、もしかしたら彼女だけじゃないかもしれないわよ」 「ソラ、どういう――」 「『つらいこと』だから自分がやらなきゃ。そういう風に思ったこと、一度や二度じゃないんじゃない?」 「…………」 夏栖斗の背後から様子をうかがいながら、ソラは目を細めた。 「覚悟しておいたほうがいいかもね。私たちは組織に対して自由だけど、自由だからこそ対立することがありえるわよ」 「だが少なくとも、『これ』は想定にはない。突破口を見つけられるか?」 飛んできたグレネードをサッカーボールのように蹴飛ばし、『停滞者』桜庭 劫(BNE004636)は鋭く敵を見た。 ドッグイヤーだらけの本を乱暴にめくるソラ。 「二分ちょうだい。特定してみせる」 「やろう、何千年でも」 言ったそばから劫は加速していた。 「永遠がないなら、限りある時を縮め、刹那をいこう。日常よ止まれ」 唱えた彼の声は誰にも聞こえない。なぜなら狂信者たちの間を絶え間なく駆け抜け、銃声と銃声の間に挟まって紛れているからだ。 敵の銃を別の敵へ強制誤射させながら、劫はとっくりと呟いた。 「俺は誰よりも君を愛している」 ●己を信じよ。信じることを信じよ。疑った者は敵である。 リリにおこった不可思議な裏切りの正体について。 はじめ二分と言ったソラは、およそ三十秒でその正体を特定してみせた。 『自己矛盾性教唆』。多くの新興宗教で用いられる洗脳方法で、長期にわたって蓄積したフラストレーションを妄信的な善意として発揮させるというものである。 なまじ常識を超越し精神的に自由の多いE能力者には通じないことが多いが、リリには同格かそれ以上の強制力を持たせているのは明らかだ。でなければこの即効性はありえない。 「どう、ソラ! 回復はできそう!?」 「周囲の理解が治療への第一歩ね」 「そういうこと聞いてるんじゃなくて!」 「『そういうこと』を言ってるのよ。でしょうリリ、私にここで授業をさせる気?」 ソラの対応はさらっとしたものだった。 毒に効く薬はあれど、悩みをきく薬はない。 「任せるわ、みんなに。なんでも先生がやってあげてたら、人類が育たないでしょ」 そう言って、ソラはいつもの『ぐーたら信仰』に戻った。働いたら負けの精神から来る科学技術の徒であり、文明から人力車を奪った民である。 「……わかった」 夏栖斗は頷き、ガンナイフ持ちの狂信者の腹に棍を押し当てた。衝撃が波となって走り、何人かの狂信者を巻き込んで引き裂いていく。 「なあリリ、そっち側でほんとうにいいの!? 泣いて、傷ついてるくせに! 神様なんてものに縛られて辛いくせに! そんなにまで神様が大事!? 一緒に遊ぶって、約束しただろ! ハリセンボン呑ますぞ!」 「無駄です!」 途端、夏栖斗の顔を手袋が覆った。助祭の手である。夏栖斗はまるで暴風にあおられたようにベンチの上を飛び、後頭部から岸壁にめり込んだ。 「今の彼女は何にも縛られていません。自由なのです。自由意志のもと、あなたを殺すのです。どうやら元は仲間だったようですが、裏切りすら彼女にとっては自由! 自由! 自由なのです!」 連続で拳を打ち込んでくる。 「さあリリさん、とどめを」 気糸の呪縛を引きちぎり、銃口を夏栖斗に向けるリリ。そんなリリの頭にずきんとした痛みが走った。 腕が別の気糸に絡まり、天井へと銃弾が逃げる。 「こっちだよ。さあ、踊って、くれる?」 天乃だ。追撃気糸を、リリは横っ飛びになってかわした。全身から血しぶきが上がるが気にしない。飛びながらも連射。全弾着弾。 背後へ劫が瞬間移動のように現われた。首切り鉈を繰り出してくる。 脇腹へ食い込んだそれを無視し、劫の胸に銃口を押し当てた。全弾命中。 劫もまた、それを無視した。 「器が空っぽなら、いずれは満たされるんだ。けど、欲しいものばかりでは満たされない。自分で選んで、拾うべき時もあるんだ。だから間違えるな。なりたい自分を間違えるな。逃げるんじゃねえ」 剣を返し、彼の背中を狙った狂信者へと投擲。肩口に深々と刺さり、狂信者は倒れた。 「でなきゃ、姉さん扱いできないぜ」 リリにまたも頭痛がはしる。 振り払うように劫の襟首をつかみ、天乃へと投げ放った。 もつれた所にめいっぱいの銃撃を加える。 天乃は庇うように前へ出て、リリに手を伸ばした。 既に身体は鉛だらけである。 普通なら死んでいる身体で、天乃はリリの首に触れ、撫でて、指先だけで胸をトンと叩いた。 「大切だ、って……いってくれて、ありがとう」 手が離れ、死体にかえる。 「『大切だから殺す』なら、その人たちは、違うの?」 「あ――ガぁ!?」 激しい衝撃が、リリの脳内をかき混ぜた。 眼球がぶるぶると震える。 その隙に、大量の呪印がリリの周囲を覆った。それらが一斉に発動。目に見えないツタがリリの四肢を縛り上げ、強制的に跪かせる。 ごり、と音をたてて額にユーヌの銃口が押し当てられた。 「人形遊びのお人形か。不整合ばかりぶつぶつと、誤魔化し、整理し、それでいてちぐはぐだ。おもしろいな、リリ・シュヴァイヤー?」 一言ずつ刻むようにトリガーを引く。 「神も、他人も、信仰も、所詮は、自分の妄想か、他人の妄想か、どちらかに従うにすぎない。己が脳髄にしかないものを、勝手気ままに使うだけだ」 「やめなさい!」 助祭が横から掴みかかった。ユーヌを握りつぶさんばかりの腕力である。 が、それ自体が呪いだった。助祭の手が、触れたそばから黒く淀んでいく。 「ヌぐ――」 「口を閉じてろ糞野郎、お前の声は耳障りだ!」 立ち上がった風斗が、助祭の顔を思い切り殴りつける。 顎が外れ、岩壁に頭を叩き付けられた助祭はそのまま床に崩れ落ちた。 粗く息を整え、リリに向き直る風斗。 「よく考えてくれ、俺たちが本当に敵なのかどうか。何が正しいかじゃない、何をやりたいかを考えてくれ! あなたは……泣いて笑って食べて遊んで年上ぶる、そういう人だろう!」 「風斗、さま……」 ずきずきと痛む頭をゆすって立ち上がる。腕を風斗に伸ばした。 「そうだ、戻ってきてくれ。俺の隣人、リリ・シュヴァイヤー!」 「わたしは」 手の中に銃が収まる。 反転させ、ストック側をハンマーのように持ち、風斗の鼻っ面を思い切り殴った。 「ぐ――!?」 のけぞった風斗の襟首を掴み、膝蹴りを幾度となく叩き込み、放り捨て、そしてまた踏みつけた。 なんでそんなことをしているのか、自分でも分からないという顔をしながら、しかし必死に踏みつけた。下腹部やその周囲を中心にだ。 「おうおう、女としてサマになってきたじゃねぇか」 残りの狂信者を殴り倒し、火車がゆっくりと歩み寄ってくる。 グローブが燃え上がり、鬼爆の文字を浮かべていた。 「最初にオレぁ言ったよなあ」 殴りかかる。咄嗟に銃を向ける。顔面を殴られるのが先だった。 「『ヤりてぇことがあるならソレをしろよ』。そう言ったなぁ、ええおい!?」 絶え間ないラッシュでさらなる拳が叩き込まれる。 「テメェの手はなんのためにある!」 更に殴られる。 「神だかなんだかにお祈りするためか!?」 更に殴られる。 「武器をとるためか!?」 更に殴られる。 「誰かを守るためか!?」 更に殴られる。 「ダチの手を、とるためか!?」 更に殴られる。 気づけばリリは、壇をなぎ倒して地面に倒れていた。 「テメェは誰で、どうしてぇんだよ!」 最後に、思い切り殴られた。 脳を揺すられ、脳内物質が波のように、海のように、津波のようにリリの中をかきまぜた。 そして彼女は、一瞬にして永遠の白昼夢を見る。 ●承服せよ。人であることを罪と認め、形なき罰をうけよ。 教会だった。 たくさんのランプに彩られた、オレンジ色に輝く部屋のなか、オルガンの音が清らかにたゆたっている。 リリはたくさんの顔の無いシスターの中に混じり、ベンチに腰掛けている。 壇の上で司祭さまが言う。 『さあみなさん、ときがきました。ゆきましょう』 シスターたちがばらばらに立ち上がる。 立ち上がったそばから、光や霞のように散って、開いて、消え失せた。 自分もそうしなければならない。 反射的に思ったリリは立ち上がろうとしたが、その肩を助祭の男が掴んでとめた。 『あなたは、たちたいのですか?』 「私は」 声に出してから、自分がおかしな格好をしていることに気づいた。 シスター服ではない。淫猥な下着や、奔放な水着や、喪服めいたドレスや、涼やかな浴衣や、あれやこれやと切り替わっていく。 『おいのりを、しましたか?』 「はい、沢山」 『なんのために、ですか?』 「それは……」 神様のために祈りなさいと、たしかそう教えられていた筈だ。 『だれが、そのようにおしえたのですか?』 友人や仲間や好きな人。たくさんの人間関係が生まれ、自分が変わったのだ。 『だれが、そのようにいったのですか?』 もし彼らと戦わねばならないのなら、それを拒むみたいのだ。 『だれが、そのようにせよといったのですか?』 「助祭さま」 肩にかかったストラを握り、引きちぎった。 「私です。全部私でした」 助祭の姿が光に消えていく。 「私が祈り、私が変わり、私が思いました……全部、全部私が作ったのです。神様も、私も、この教えも、ぜんぶ」 『ようやく、気付きましたか』 助祭の声……だが、違う。もっと別の人間だ。もっと別の世界から、もっと別の存在が、遠い遠い場所から語りかけていた。 気づけば自分は壇に立っていた。 助祭の葬式用ストラを首にかけてである。 助祭。正確には『祓魔師』。カトリックの派生の派生の更に派生にあたるカルト宗教が、この教会である。リリは既に祓魔師の地位にあり、多くの子供たちに教えを説く立場にあった。 だがそれも長い時に埋もれ、教会はその存在意義を失った。 毒をはみ、壇の奥にある酸のプールに身を投げ、彼らはこの世界からたったのだった。 その時から。 リリの教会は生まれた。 『人間とは、うまくいかないものですね。期待をして、そうなるように取りはからっても、裏切られてしまう。良かれと思ったことが裏目に出て、善意が悪意に裏返るものです。私も最近、それを学びました。エゴイズムという概念です』 助祭のような何かが言う。 『折角です。誤解を恐れず言いましょう』 教会は朽ち、一人残ったリリを中心に、新しい助祭やシスターたちが組み上げられていく。 それもこれも、あの時の焼き回しだ。 『同じ男にフラれた者どうし。ここは仲良くしましょうか』 ●汝成すべきを成さず、思うことを成せ。 白昼夢は解け、現実である。 「リ、リリ……さん……彼ら、異教徒を、殺すのです」 外れた顎を強制的になおし、助祭がよろよろと身を起こす。 リリはいつのまにか立ち上がり、彼を横目に見ていた。 「はやく」 「それは【お祈り】ですか」 「そうです。【神の名の下に】――!」 「【リリ・シュヴァイヤーの名の下に】――!」 手を伸ばす助祭。 銃を向けるリリ。 目を大きく開いた助祭。額の真ん中に、銃弾の穴が空いた。 「Amen」 わずかばかり後日談を語ろう。 『3年前から』活動を続けていた反体制リベリスタ組織バウムガルテン教会は現地滞在中だったアークリベリスタの助力によって壊滅。事後調査に訪れた現地チームによれば、戦闘の跡のみを残し、死体はおろか血痕の一滴すら残っていなかった。 さらなる調査を重ねた結果、隠し通路を発見。その奥で死後3年ほど経ったと思われる複数の死体を発見。すべて一見して人体と分からぬほどに溶解しており、腐敗はなかった。 事件に巻き込まれたとみられるアークリベリスタ、リリ・シュヴァイヤーは無事救助され、現在はアークに戻って活動を続けているという。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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