● 問・おにぃさまがいちばんよろこんでくださる方法は――? 「五秒以内でお答え下さい」 唐突なるクエスチョン。その声音は砂糖菓子を思わす程に甘く、愛らしい響きを持っている。 へたり込んだ男が怯えた瞳で見上げた先には和服の少女がちょこん、としゃがみ込んでいた。ほっそりとした白い指先が、怯えた男の頭を撫で回す。まるで、愛しいものを愛しいと、言う様に。何処までも優しい触り方は男に幾分かの安堵を齎したのだろう。 「き、君……」 「五秒経ちました。タイム・オーバーです」 こてん、と首を傾げた少女がゆっくりと立ち上がる。その身の丈ほどはあるだろう大きな日本刀を振り翳し、今まで愛おしげに撫で回していた男の頭蓋を粉砕する。 呆気なく、死んでしまった、と。 ぼんやりとした瞳で広がった血の海で着物の裾を濡らしながら少女は囁く。 嗚呼、また呆気なく、死んでしまった。 「ちるは解りません。おねぇさまやおにぃさまが皆揃って遊びに行ってるのです。 ちるは解りません。どうして皆簡単に死んでしまうんでしょう。 ちるは、解りません。どうして、こんなに……美味しいんでしょうか……」 拾い上げた頭蓋の欠片。柔らかな唇に挟まれたそれは固い音を立てて少女の咽喉へと落ちて行く。 白い粉が彼女の唇に付着し、拭うその手の甲には紅い血がぽつぽつと落ちて居る。 丸い瞳で、少女は言う。 「ちるは、皆さんの脳が欲しい。賢くなれますから、だから、ください」 『黄泉ヶ辻のおにぃさま』が出した宿題の意図を少女は解らない。 ちるにとっては小さな石ころ。そんなもの欲しがって如何するのだろうと少女は細い指先を倒れた男の頭蓋へと差し込みながらぼんやりと考える。 そんなの、きっと、『ちるじゃ解らないから』、皆の頭を食べて、賢くなって考えよう。 ぽきん、と。 かじる音、一つ。満足そうに微笑んだ少女は一人、立ち上がる。 ● 食中りでも起こしたのかという程に、青白い顔をした『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は「ちょっと待って」とハンカチで口元を抑えてその場でぐるぐると回って居る。異様な動きをするのは今更だが、どうしたものだろうか。 「あ、お、お願い事があるんですけど、食中りなんです。うげってなるわ……」 あからさまにげんなりとした世恋の言う『食中り』は本来の意味では無く、予知を指している。 大方、気持ちの悪い事件と言った所なのだろうが―― 「最近、黄泉ヶ辻が奇妙な動きをしている事は……聞いてる、かしら。 前置きはざっくり行きましょうか。歪夜の使徒……ウィルモフ・ペリーシュが賢者の石を蒐集してるのはご存じ? ああ、ペリーシュは『最悪の』アーティファクトクリエイターよ。彼の作るアーティファクトは技巧が凝らされ一級品。だけど、使用者には必ずといっていいほど重い代償が課される事となる……今までも『重い代償』を手にした人間への対応が何度か行われてたけれど……。作品作りが佳境にでも入ったと言う事かしら? 最近動きが活発な様子だわ。 それで――それで、というと、間違いなのかもしれないけれど……その賢者の石集めを黄泉ヶ辻が手伝ってるみたいなの。最近の黄泉ヶ辻といえば首領・黄泉ヶ辻京介の指示を受けて『宿題』をこなしてるみたいなんだけど、その宿題にその賢者の石集めがプラスされた……のかしらね」 動きに変化が出たのは最近では無いと言う。黄泉ヶ辻の首領が表舞台で行動しているというのも聞いた話だが、『最悪』な作品ばかりを作るペリーシュの手伝いをしているとなると、あまり看過出来るものではない。 「つまりですね、『ペリーシュの手伝いをしている黄泉ヶ辻』という最悪に最悪を掛け合わせたみたいな状況をどうにかして欲しい訳なの。 賢者の石を黄泉ヶ辻に取られないようにが目下の目標よ。黄泉ヶ辻のフィクサードに『賢者の石』を奪われないようにだけ、気を付けて欲しいの。……集められると災難ばかりの予感がするわ」 肩を震わせた世恋がモニターに映しだしたのは何の変哲のない教会の様に思える。幾人かの信者を前に、場違いな着物の少女が祝詞をたどたどしく告げて居る様子が何とも不思議だ。 「彼女が黄泉ヶ辻のフィクサード、ちる。それから、彼女の背後に立っているのが『ネケシタス』。 どちらもこの教会に賢者の石を持ち寄って、現在はこの教会のイコンに宛がわれた賢者の石を奪う事を目的としている様だわ。 この場所にある石の数は7個。ちるが全て隠したのね。彼女の目的は『私達、アークと闘う事』。ちる以外のフィクサードはその隠し場所を知らないわ。イコンに宛がわれた石を含め、7個のうちの過半数を手に入れて来てほしいの」 はっきりと、言い切った世恋はよろしくね、と見取り図をリベリスタへと手渡した。 ● 宝探しは楽しいお遊戯だと思います。 『けんじゃのいし』というものを隠してみました。 岬おねぇさまはどうしてそんな事をするの、と怒ってたけど。 アークのリベリスタは美味しいとおねぇさまが笑ってたから、ちるは、食べてみたいのです。 ねえ、ねえ、リベリスタ――あなたの脳は、どんなお味でしょうか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年09月13日(土)22:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「イタダキマス」 淡々と、一言告げた『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)はステンドグラスから差し込む陽光へと視線を向ける事無く、前進する。華奢な身体に似合わぬ巨大な三日月斧を手に幸福そうに微笑んだこどもの頬へと落ちた影は、聖堂の最奥から伸びる少女のものだろうか。 「きて、くれたんだ……」 それは、少女にとって『初恋』にも似た事だったのかもしれない。切りそろえた黒髪の少女は日本刀を手に唇を歪める。ミサイルの様に飛び込んだ斧の衝撃に目を細めた『ネケシタス』御陵・岬は慌てて振り仰いだ。 「ねね、前回の傷、どう? ネケシタスちゃん、今日もご機嫌に恋してる?」 「不機嫌さならMAXよ。恋は何時だってしてるけど」 「やん、俺様ちゃんもネケシタスちゃんのこと愛してるっ!」 相も変わらずお茶目な殺人鬼ぷりを披露する『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)の瞳がゆっくりと揺れ動く。彼の瞳が追いかけるのは黄泉ヶ辻のフィクサード――それも、探査スキルを所有するであろう相手の目線だ。大まかな聖堂全体の地形は御世辞にも戦いやすいとは言えない。しかし、それは黄泉ヶ辻側も同じ話だろうか。 葬識を一瞥し、その血色の瞳に不機嫌さを浮かべた『骸』黄桜 魅零(BNE003845)は身の丈ほどの刃を手に、しかと目前の少女へと視線を送る。唇を三日月に歪めた少女は魅零のラブ・コールに幸福そうに身を竦めた。 「ちる君、だったか。頭が良くなりたいならDHAを取るべき、即ち煮干しを食え、煮干しを」 「ドコサヘキサエン酸?」 こてん、と首を傾げた少女のわざとらしい応答に『足らずの』晦 烏(BNE002858)は被った三角頭巾の向こう、やれやれと笑って見せる。手にした二五式・真改の感触は指先によく馴染む。引いた引き金の先――眩い光りに目を細めたちるの目前で彼女の連れたペリーシュ・ナイトの動きが鈍くなる。 「しかしまぁ、脳みそを食うとかどこぞの考古学教授の冒険活劇かっての」 「ちるもお話しになれるかしら」 口だけは達者なのか、それとも友好的な態度を示しているのかは定かではないが、烏の言葉一つ一つに興味を示したように少女はにこにこと笑っている。まるで戦場に居る事を幸運に思うかのように、『招かれざる客』であるはずのアークのリベリスタを考え居する黄泉ヶ辻の少女は柔らかに笑みを浮かべて見せる。 「つべこべ言わずに私に石の場所を教えなさい――ッ」 吼える様に言う岬の眼前、彼女の隣で動き出さんとした骨髄メントールの頭を貫いて、魔銃バーニーに添えた指先から力を抜いた『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)の鮮やかな瞳が爛々と輝く。首から下げた弾丸のペンダントが彼女の動きで大きく揺れた。 「左腕は完治してないのか。都合は良いが、少々惜しくもあるな」 「貴女の作った傷じゃない」 「だから、惜しいんだ」 葬識が例えた『砂糖菓子の魔弾』を撃ち出す射手の瞳は真摯な杏樹の橙色の瞳を覗きこみ、その感情を伺う様に一歩、後退する。 前進したちるが幸福そうに本当を振るい上げる。よく見れば唇は紅いルージュ――其れにしては一層鮮やかで、濡れている――が引かれている。視線で少女の唇をなぞり『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)は魔導書「羊幻ノ空」をぎゅ、と抱き締めた光介はその優しげな瞳をそっと、逸らす。 少女の中にあるのは『賢くなりたい』という何とも子供染みた衝動。脳を食べれば賢くなれる。それは善悪のないマイルール。ちるという少女が、失くしたピースを求める様に、他人をいとも容易く犠牲にする絶対的なルールがそこにはある。 「共感の模索は……不可能で無意味でしょうね」 「わたわた、共感するだけ無意味だろうな。お嬢さん、こんにちは! 混沌から来る王です!」 手にした刃は『縞パンマイスター竜』結城 竜一(BNE000210)の手によく馴染む。動きの呪い骨髄メントールの頭をかち割らんとする竜一へと、一般信者の女性の視線がゆっくりと向けられた。テンプテーションは彼へと良い印象を植え付ける為に非常に効果的だ。 「神が罰を与えるというのならば、救いの手も伸ばすのも、また神! さあ、逃げるんだ! 早く逃げるんだー! それがいやなら隅っこで静かに神に祈るんだー!」 まくしたてる様に告げる竜一の声に女性たちが顔を見合わせる。周辺を見回す『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)がさも『後衛を護る係だ!』とバックアップを担当しないと言った顔をして背後の光介を振り仰いだ。 「互いのルールで戦いましょう? ――交わらぬシュプール。ボクには、理解できませんから」 ● 聖堂の中でわらわらと集まる一般人達はひそひそと囁き合う。彼らの傍に立つフィクサードが一歩、踏み出し空から降らせた焔の雨を避ける様に錆び付いた白を翳し、息を吸い込む杏樹は挑発的な笑みを浮かべて見せる。 彼女の周りへと集まる骨髄メントール。全てへ視線を流しながらその身に纏った戦気を溢れさせる竜一の腕に巻かれた幾星霜ノ星辰ヲ越エシ輝キヲ以ッシテ原初ノ混沌ヲ内に封ジ留メシ骸布にさえも女性信者達は好感を覚えるか、彼へと目配せしながら囁き合う。 「隅っこにいくんだー! はやく!」 叫びながら、光介の傍に立つ竜一は彼のカヴァーへと入って居る。それを装うのはフツも同じだ。しかし、彼と葬識の反応は些か違った。まるで何かを探る様な――賢者の石の在り処を見回す様なその反応。 「石の在り処はおじさん達が幾つか把握してる。あの兄ちゃんのお仕置きとかおっかねぇ話しよな、同情できるわ」 「そう思うなら私に石を寄越しなさいよ。貴方、好きでしょ? 私のこと」 さあ、と肩を竦める烏の弾丸が幾重にも重なり合って貫く。弾丸を避ける様に身を捩った岬の前でフィクサードが一人、彼女を補佐すれば、彼女はその青年の背後から、引き金を引く。 「『私の弾丸は避けられない』」 「――かくあれかしと願わんばかりだよ。『ネケシタス』」 くつくつと笑った烏の声に合わせ、杏樹の瞳が追いかける。甘ったるい砂糖菓子の弾丸ににこりと笑った葬識。 彼の隣から飛び出し日本刀を手にした純朴そうな少女の前へと刃を振り下ろした魅零は痛みを内包した箱の中へとちるを閉じ込める。 「否定する事も肯定する事も黄桜にはできない。ちるちゃんが知りたい事は、語り尽くす事はできないんだろうなあって」 「聞くだけ野暮、って言うんだって」 「ふうん? それなら聞かないから――感じさせてよ、エクスタシー」 きゃるん、と。肩を竦めて微笑んで。骨と肉で出来た少女へと赤い瞳へと殺意をたぎらせ魅零は踏み込む。 一歩、踏み込んだその足元目掛けて飛んだ弾丸を避ける様に身を捩る。 二歩、彼女の傍を風の様に通り抜けた真咲が笑う。 「余所見しちゃって――隙だらけだよ?」 振り翳したその一発。重く頸椎に響いたその感覚に少女が口をくぱりと開く。 咄嗟に走り出したフィクサードの背を追いかけた葬識。手にした逸脱者ノススメが音を立てる。フツの目は、確かに葬識と同じものを捉えて居たのだ。その奥、聖堂でざわめきあう一般人の女の首から下げられた煌めく石に。 「『視』てるじゃねぇか!」 「そりゃあ」 けたけたと笑った葬識へとフィクサードが吼える。最後の最後まで動きを待っていた彼を止める者は無い。 一般人の中へと飛び込んだフィクサードの指先が賢者の石を掠め―― 「捕まえた」 ぱしり、と。指先は確かに殺人鬼に握りしめられる。 彼の横面目掛けて軋みをあげて動き出す骨髄メンソールの頭を撃ち抜く烏の弾丸。 弾丸を追いかけて、そのまま視線は前へ。大きく振るった日本刀を受けとめて魅零が漏らした小さな呻き。しかし、彼女は痛みを感じる事は無い、痛みすらも超越したかのように大きなリボンを揺らし踏み込み続ける。 杏樹は魔銃バーニーを構えたまま、戦線を押し上げ、リベリスタ陣営へと『探索という意志を全く持たずに』飛びこまんとする少女をしかと見据える。 「京介を喜ばせるなら、お前が隠した石を持ち帰るか、私たちの首を持ち帰るか。 ……その二択だな。尤も、お前はその様子だと、何処へ隠したか覚えてなさそうだが」 「お口で言わなくっても解ってくれるの、『理解者』ってやつ?」 嬉しい、と袖を大きく揺らし、和装の少女が地面を蹴る。杏樹のリーディングで読みとれたのは幸福だという深層意識。頭が弱いのか、それとも隠して居るだけなのか――それは定かではないが、嬉しそうな彼女の上に降り注ぐ炎の矢にうっとりと黄泉ヶ辻の少女は唇を釣り上げる。 「ちるちゃんは『興味』って言葉は無い? それは知識を満たすんじゃない、食欲を満たしてるんだ。 勘違いして、哀れなコ。多分、もう、治らない病気みたいなもんだよね?」 吐き捨てる様に告げて、呪いを帯びた刃を振り翳す魅零は器用にちるの刃を避ける。掠めても、全力で戦う事に異論は無い。 集まる骨達を軋ませて、彼女の唇が弧を描いて幸福そうに笑いだす。 「黄桜の骸は一味違うぞ? おいでおいで、ちるちゃん。リベリスタの骨は美味しいかもよ?」 「ほんと?」 「愛とか恋とか雑音とノイズに聞こえない位に! 私の骨に興味を以って、粉々に壊してみて!」 軋む音が、する。 受けとめて、再度、軋む。 「遊んでくれて、嬉しくって、『キザクラ』おねぇちゃんったら! あはは、まるで、幸福の雨だわ!」 イコンの前、微笑む少女へと真咲は嬉しそうに笑って、武器を振るう事で答えた。 ● 「荒れ果てた場所だけに……」 焦る敵達の見逃しそうな場所へと視線を向け、光介はペアで行動する竜一へと目配せする。 振り仰いだ光介の視線の前に、一つ、刃の軌跡が通る。 「退いて」 「御断り、します……!」 竜一が受けとめた刃の兆し。フィクサードが一手下がったその場所を通り過ぎた烏の弾丸にフィクサードは舌打ちを漏らす。 銃撃戦と共に展開されているシビアな戦いはちると彼女が連れるペリーシュ・ナイトの所為だ。探索するフィクサードの目の前で、微かな摩擦跡の残った台の傍に立った光介が腕へと力を込めた。 「わたわた!」 「はい! ――この瞬間にのみ生き場所を得る……譲れないボクのマイルールですから」 瞬時に与えられたのはこの戦線をしっかりと支える回復の術。 機械仕掛けの神の名を冠したソレは彼が、『綿谷光介』として認められる舞台を作り出す。 回復を受け、血に濡れながらも戦い続ける魅零に、幸福そうに笑ったちるはぱっくりと切れた着物の袖の隙間、細い腕をちらりと見せる。 柔らかな肉を切り裂いた刃の感触に魅零が額から流れた血を拭い、大きく刃を振り翳す。 「ちるちゃんは強いね。キヒヒッ、手加減て言葉も知らないと見た! んもー!」 頬を掠めた日本刀を跳ね返す様に魅零の腕に力が籠められる。ぐん、と伸びた尻尾の様な骨が地面を擦れていく。痛覚を厭わず、踏み込む魅零の腹を突き刺す刃の感触にちるが小さく首を傾げる。 「――固い」 「黄桜の骨、美味しくないだろうけど……機会だから」 唇がつり上がる。「真咲ちゃん」、と。一言呼んだ彼女の背後から髪を靡かせ顔を覗かせる小さな子供。 手にしたスキュラの感触が、やけに重たく感じたのは――嗚呼、相手も『捕食者』だからか。ぞくり、と背筋に走った快感は闘争本能を刺激する。 「賢くなりたいから食べるの? うーん、人を食べても賢くなれないけどなぁ」 雷光が如き勢いで、残像を残し叩きつける。一瞬の間に突き刺さるソレはもう一度、脆い少女の皮膚を破り肉を犯す。 「じゃあ、『マサキチャン』は賢いの?」 「みんなが色んな事を知ってるから、教えて貰うと賢くなれるのも知ってる。楽しいのも知ってる」 それだけ、と唇が手にした斧の形の様につり上がる。 靴の底が聖堂の床に擦れ出す。少女の刃を受けとめ、一閃――その場にある領域は真咲の広める殺陣の術。 子供の笑顔は、少女とも少年ともとれなかった。只、楽しくて堪らないと、友達を見つけたと微笑み続ける。 夢中になるかのように二人の子供の刃が重なり合った。隙を突く様に石の探索を続けるフツへと飛び込んだ骨髄メントール。掌で笑い続ける『少女』の力を借り、吹き飛ばしたその身体を撃ち抜いた杏樹の瞳がギラリと光る。 「神様が天罰を下すなら、こんな奴らに任せない。懺悔なら私が後で幾らでも聞いてやる」 銃が火を噴き続ける。宝石を貫かれた骨髄メントールの口がかたかたと揺れ動くその様子は余りにもホラー染みて居て――奇怪。 腕を庇う様に、地面を蹴り、にんまりと笑った岬の瞳が愛に濡れる。 「岬も、射手なら私に恋させてみろ。受けて立ってやる」 『ネケシタス』、ローマ神話の女神の名前を冠したその弾丸が杏樹目掛けて飛んでくる。 その弾丸の往く先に、目を見張り、烏が『砂糖菓子の弾丸』へ向け、弾丸を放った。 必然と言う女神に愛されているか否か――『愛』対し、心臓を撃つのは誰かと、射手達が追いかける弾丸の行方を岬は確信したかというように、唇を歪めて、微笑んだ。 「『私の弾丸は避けられない!』」 言葉と共に、「せっかちだなぁ」と唇を釣り上げた葬識がその刃を大きく開く。 ご機嫌に恋するフィクサードの首をちょん切らんとするその動きに岬が「ひ」と息を飲んだ。岬が戦闘の最中、拾い上げたのであろう賢者の石。 逸脱者ノススメの刃が岬の怪我を負った左腕を勢いの侭、撥ねる! 「―――――!」 耳を劈く声。その響きに目を見張ったのは誰か。 落ちた石を拾い上げたフツがふわ、っと浮かびあがり、槍でフィクサードを払い退ける。鈍く光るステンドグラスの輝きを受けながら、同時に、フツも輝いていた。 「後光……」 端に寄って居た一般人のポツリと零した言葉に思わず笑みを漏らした竜一は、被害を拡大する源たる脳を食う少女へと視線を向けた。 「ちるちゃん。『おにぃさま』ではなく、俺は、お兄ちゃん、だからな!」 「おにぃちゃん」 「OK!」 軽口を叩くのは優位に立ったリベリスタ達ならではだろう。高い位置――フツが手を伸ばした場所にある石で丁度4つ目になる。 攻勢に徹していた杏樹を、烏を、撃ちこみながら『恋の弾丸』は只、その想いを貫く為に真っ直ぐに飛び交った。 「そろそろ、引きますか? 4つ、手に入れられましたし……これ以上は」 「それ、置いて行きなさいよ!」 追いかける様に振った弾丸が魅零を貫き、光介を見据える。しかし、癒し手である光介を庇う様に立ち回る竜一は刃を振るい、彼を支える。 「ちるちゃん、また会おうね?」 「『ゴチソウサマ』! 素敵な『マサキチャン』!」 笑顔を浮かべ、刃を重ね合わせ、しかし――その切っ先を交わらす事が無い様にと互いにその刃を引く。 岬の背後で身を庇う様に立った黄泉ヶ辻のフィクサード達は死に物狂いで探し求めた石を三つ持ち、息を切らしている。 互いに存在する回復手のお陰か、戦線は確保されたままだが、手数の多い黄泉ヶ辻側でネックとなる『ちる』と彼女の連れるペリーシュ・ナイトで随分と消耗を強いられる事となって居た。 「もっと、教えてくれる? おにぃさま」 「脳みそを開き易いが食べさせてはやれないな」 掌で少女がケラケラと笑っている。引き込まれそうになる意識を正し、フツは彼女の誘い文句を振り払う様に槍を振った。 ちるは、笑う。怪我をしながら、血を流しながら、骨を軋ませて。黄泉ヶ辻の少女は、微笑む。 「幸せだなぁ、ちるは、皆さんの脳みそが欲しいの……けど、おにぃさまが喜んでくれる事をしなくっちゃ」 残念、と肩を竦め、不意を突いた様に少女が翳した刃を咄嗟の反応を見せた烏が弾く。 転がり落ちた刃の先を見下ろして唇を釣り上げた少女は幸せそうに首を傾げた。 「死んじゃうかと思った」 「殺したかったよ。ちるちゃん」 「ちるも、殺したかったよ」 真咲の言葉に微笑んで。 ちるは、一歩下がる。彼女は一応でも杏樹の言葉を聞いていたのだろう。 数少ない賢者の石でも持って帰ろうと、意識を払った様にも思える。少なくとも、『アークのリベリスタが美味しいと言う事は良く解った』のだから。 ゆっくりと歩いてイコンの前に立った彼女が飾られた石を手に、ステンドグラスを刃で破る。背を追いかける様に放たれた弾丸をちるの傍にいた『石を持ち帰らねばいけない』フィクサード達が庇う様に身を挺す。 「ちるが、これを持ってれば遊んでくれるでしょ? 美味しそうなリベリスタさん」 それは、逃走の意。新しいおもちゃを見つけたと微笑む少女の明確な意識。 踏み込んで、逃がさないと言う様に杏樹が蹴飛ばした肢体がぴくり、と跳ねる。 伺う様に、石を手にした光介の周囲を固めたリベリスタ達の消耗も激しい。 しかし、大きな収穫が在ったのだと言う様に葬識はゆっくりと、前へと歩み出た。 床に這い蹲った岬を見下ろして、葬識は引き金に指を掛けた少女を見下ろした。 ばちん、と。只、大きな音を立て、……。 「触らないでよ! 莫迦葬識!」 何よりも、自分の想いが、醜く感じて。 唇を噛んで、血を無理やり拭った魅零が見た先に転がったのは甘ったるい恋の果て。 「はい、よくできたね。血を拭ってあげなきゃね。汚いもの」 「知らなかったら、良かったのに」 愛や恋が分からないままでいれば、よかったのに。貫かれた弾丸の愛の意味は―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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