●現実壊し 「いたぞ!」 裏路地を走る小さな足。まだいたいけな少女を追いかけるのは四人の武装した集団。 少女は別段、何か危害を加えたわけでは無かった。凶悪な能力を持っているわけではなく……むしろ、その力はただの人間に等しい。 彼女の追われてる理由。それは、別チャンネルから来たアザーバイドと言うだけであった。 普通の人間と変わらない彼女の足では、訓練された集団……リベリスタを振りきれるわけがない。やがて、捕まり、その腕を捩じり上げられてしまう。 「……!」 何か言葉を叫んでいるようだが、言葉が通じなくても何を言っているか大まかには判る。だが、彼らも仕事なのだ。 「悪く思うなよ」 一人のリベリスタが刀を抜いた時。 「まてよ」 路地の奥から声がする。 「こんな小さい子を追いかけまして、そんな物を使って殺そうとするだなんて……アンタら自分達が何をやろうとしているか判ってるのか?」 奥から現れたのはパッと見ただの高校生だった。だが、その気配で判る。彼がエリューションの力を取りこんでいる事に。 「やむえん」 リベリスタの一人が手をかざせば、生まれる気で練られた糸。それが少年を拘束しようとして……少年が左手で払うと、その糸はただの糸くずのように簡単に払われてしまう。 「な!」 これに驚愕したナイトクリークの男は、思わず棒立ちになってしまう。そして、その隙に少年が近くまで踏み込んでいた。 「いいぜ。どんな理由があろうとも、アンタらがその子をどうこうするって言うのなら……」 そして、その左手を振りかぶる。 「まずは……そんな現実、ぶち壊してやる!」 ●ヒーロー 「可憐なお姫様を守る騎士物語。少し使い古された感があるが、中々王道的だとは思わないか? ただ、そのお姫様と騎士には運命は微笑まなかったわけだが」 いつもながら唐突な『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の言葉だったが、それに反応する者はいない。先に語ったこの少女の事を思ってか、また、少年もか。 「ノーフェイス、フェーズ2の少年と、アザーバイドの少女。チャンネルは閉じてしまっているので、どっちも討伐対象だ」 此処で一息ついて全体を見る。質問が上がらないのを見て、伸暁は続ける。 「正直、アザーバイドの方は怖くない。此方の普通の人間とまったく同じだと思っていいだろう。向こうでのただの一般人だ」 「……方は、か」 「ああ、ノーフェイスの方はやっかいだ。彼の最大の能力は現実味の無い力を無力化することだ」 「……は?」 伸暁の言葉の意味を理解しかねるリベリスタ達。 「彼は、その左手でどんな異常な力でも打ち消してしまう。その手で殴られればアーティファクトの防御力も無視してダメージを与えるだろうな」 今までの相手には無い、特殊すぎる力。さらに。と、伸暁はリベリスタ達を見る。 「彼の力の源は正義だ」 「……え?」 「正確には、自分の信じる正義だな。これが揺らげば弱体化するし、逆に強固になれば能力が跳ね上がる……其処を上手くつけば倒し易くなるかもしれない」 色々と思う事があるのか、静まり返った空気の中、伸暁は続ける。 「どんなに正義感が強くても……彼はノーフェイスだ。それは忘れないでくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:タカノ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月18日(木)22:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ヒーロー 街中の喧騒さえ届かないような裏路地。そこでは小さな女の子を庇う青年と、それに対峙する八人の武装集団がいた。 もし、この現場を見る者がいれば一般人を殺そうとする、危険な集団にも見えるだろう。 だが、この世界での正義は彼ら……リベリスタにあった。 「この前のヤツラの仲間か……」 高校の学生服を着た青年が小さな女の子を庇う為に前に出る。ただ、何か武装をしているわけでもなく、何処にでもいる高校生そのものだ。 彼がノーフェイスである事を除けば。 「ご機嫌麗しゅう、お姫様を助ける騎士様。残念ながら、この世界にそのお姫様は愛されていない。騎士君、君もだ」 いつものような軽薄な感じを微塵も感じさせず、『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)は、彼らに語りかける。 その瞳に宿るの覚悟。 彼の気持ちや行動は痛いほど判る。判るからこそ……自分の信念も曲げるわけにはいかない。 「……何が言いたいんだ? この世界に愛されてないってどういう意味だ」 青年はいつでも対応できるように身構えたまま、夏栖斗に言葉を返す。そう、彼は覚醒したてのエリューション。この世界の裏の真実など欠片も知らないのだ。 「少年よ、ユーの行動は勇気があり、褒められることだ。だが悲しくも、君達の存在が褒められないのだよ」 宇宙服を着こんだ、見た目はメンバー最年長者の『地球・ビューティフル』キャプテン・ガガーリン(BNE002315)が、あくまで新人クルーに諭すような言葉で其処に割り込む。 「ユーが少女を救い、生き延びることで世界は更に破滅へと進む。それは正義なのか? 地球が泣くことが正義なのか?」 「……つまり、貴方達はイレギュラーな存在なのですよ。そして、貴方達は此処に存在してるだけでこの世界を滅ぼしてしまう……おわかりいただけましたか?」 ふわりと羽をはばたかせ、『疾風少女』風歌院・文音(BNE000683)は、二人に告げる。その時、青年の視線が怪訝そうに自分の羽に向けられているのに気付き。 「おや、羽が生えてる人ははじめて見ましたか? まぁ、貴方の知ってる現実は思っている以上に狭いんですよ」 と、だけ言い切り、ふわりと三メートルほど浮かび上がる。 油断はできない。そう、戦いはすでに始まっているのだから。 文音が浮かび上がると同時に、他のメンバーもそれぞれ武器を構える。青年はそれを見て、ゆっくりと腰を落して。 「アンタ達にも理由はあるみたいだ……だけど、俺だって此処で引くわけには行かない! どんな理由でもこんな子供の人生を大人が勝手に決めていいはずがないじゃないか!」 その青年の言葉が、戦いの合図の変わりとなった。 ●正義対正義 青年の能力を警戒し、雪白 桐(BNE000185)が青年の右側に愛用のまんぼう君を構えて回り込む。彼は武器を構えたまま、青年を見。 「自分で守りたい対象を守る人の味方、守りたい人を守る正義気持ちいいでしょうね? それに比べ私達はそんな事はしたくてもできません。世界が世界を守る為に自動的に選ばれた人選にすぎませんしね。私達が守るのは基本的には世界です、また幾つかの不幸と幸福が明日もやってくるそんな普通に回る日常の世界ですええ、残念ながら不幸も内包していますね、それが日常でしょう? だから貴方も不幸を見つけてそういう事ができるのですしねその正義に満足ですか?」 「なん……だと」 桐の大きく振りかぶった一撃は、彼の居た場所を粉砕するかのように振り下ろされる。だが、その攻撃は辛うじて青年は回避していた。その隙を見計らい、夏栖斗は青年の左側に回り込む。振るわれる夏栖斗の攻撃に合わせ、逆から『消失者』阿野 弐升(BNE001158)の一撃が迫る。 「正義なんてのは、都合のいい幻想です。そんな事も解らないなら、その幻想を抱いて沈んでしまえ」 夏栖斗の攻撃は避けきったが、弐升の攻撃までは避けきれない。胸元を大きく切り裂かれるが、それでも青年は其処に踏み止まる。 「--!!」 後ろから少女の声が聞こえる。何を言っているか判らないが、青年を心配しての言葉だろう。それに、青年は軽く笑みで返す。その隙にさらに追い打ちをしかけようとするが……。 「待って欲しいのじゃ!」 後方からの……『有翼の暗殺者』アルカナ・ネーティア(BNE001393)の言葉だった。彼女はそのまま武器を下げ、二人に近づく。 「おぬし等は悲しい存在なのじゃな……二人とも、あらゆる意味で運命から愛される事が出来なかった。わらわ達に抗う事も出来る、それが当然の選択じゃろう。じゃが、そのまま無念が残るままになってよいのか? わらわ達には殺すという選択しか出来ぬが、結果をぎりぎりまで引き伸ばす事は出来る。どうか、この無意味な戦いを止めて欲しいのじゃ」 それはアルカナの本心だった。短くてもいい。少しでもこの子達を生きながらえさせる事はできないか。だが、それは思わぬ所からの反撃を受けるだけであった。 「彼らを殺すのは此処に来る前の相談で決まった事だよ。そんな選択肢は見逃せないね」 アルカナの後ろから戒めるような声。『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)のものだった。確かにアルカナの言う事も理には適っている。だが、それはどういった形であれ、ノーフェイスとアザーバイドを見逃すのと同義語でもある。後で退治する……と言っても、そもそも先延ばしをしていい事柄では無い。都斗の言葉でその事実を再認識し、肩を落とすアルカナの横に、青年の後ろにいるのと変わらない年頃の少女が涙を目に浮かべながら青年に向き直る。 「ルメだって、みんな、みんな助けたいの!あの女の子も、もちろん、貴方だって! 殺したくなんか、ないの……女の子も、同じ歳……一緒に笑ってすごしたい……殺さない道だって簡単に諦めてなんかいない、苦しんで、苦しみ抜いた結果なの。でもそれはただの我儘、ただのお子様の考えなの… 貴方が、我儘を通せば、もっと大勢の人達が悲しむの! だからお願い、言うことを聞いてほしいの……」 青年を見ながら本音の気持ちをぶつける『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)それは、彼女の偽りの無い本心だった。泣きじゃくる少女と、自分の後ろに立つ少女を見やり、青年は改めてリベリスタ達を見つめる。 「自分の正義の為に彼女を利用してるだけでしょ」 淡々とした都斗の弁。 そして、彼は拳を握る。 「……ふざけんなよ……」 歯から洩れるような声。青年の言葉に思わず皆が止まる。 「俺らが此処にいるとこの世界が滅ぶ。だから死んでくれだと……俺は別にいい、だが、そんなのをこんな小さな子に押しつけて……我儘言って、自己満足に浸ってるのはアンタらじゃないか!」 青年はしっかりとリベリスタを見、その視線を逸らさずに続ける。 「それこそ、アンタらが正義を振りかざして罪も無い人を殺して行く……なんでそこに疑問を抱かないんだよ!」 「そんなのはただの自己満足の正義感、ただの欲望ですよ」 侮蔑の表情を浮かべ、青年に返す弐升。だが、青年の視線……意思はぶれない。 「じゃあ、アンタらは俺らみたいな存在を殺さないでも良くなる方法は考えなかったのかよ!」 「!」 その言葉にハッとするリベリスタ達。そう、この世界の理を知らない以上、その考えはまず出て来るだろう。 「で、でも。アザーバイドは放っておいたら崩界が進んじゃうから……!」 ルーメリアが慌てて青年に食いつくが、青年はそれをしっかりと聞きながら自分の言葉を紡ぐ。 「なら、アンタらはそれをどうにかする努力をしたのか? 別の方法が無いかと探す事はしたのか? それすらせずに、ただ、こうするしかないと自分達で勝手に決め付けて、自分達が楽なレールに乗っかってただけじゃないのか!」 皆、青年の言葉を聞いていた。正直、彼の言ってる言葉に間違いは無いと思う人間もいるだろう。そうでないとしても……それに対する反論は誰も持ち合わせていない。 重い沈黙の中、そっとキャプテンは前に出て、青年に語る。 「ワタシ達は間違いなく正義ではない。だが、地球が悲しまない。その正義だけは必ず守られなくてはならないのだ。ユーが、ワタシが、人類が、どうなってでも」 それには夏栖斗も頷き。 「君が理解できないならそれで構わない。僕の正義は僕が決める、だからお前の正義はソレでいい。だから正義は対立する。お前はお前の正義を穿け……僕も同じだ」 夏栖斗も青年の主張は判る。判るが……それでも止まる訳にはいかない。 「君の正義は私は嫌いじゃないですが、それがこの不条理な世界じゃ……むしろ正義何て一人につき一個あるんですよ」 それは空に浮かぶ文音の弁だ。 「力のない正義も力のある正義もこの世界は振り向いてはくれないのですよ」 三人の言葉に青年は頷き、少女を離れさせる。 「いいぜ、アンタらの考えは……覚悟は判った。なら……其処で陳腐な正義を建前にしようとしてるヤツらの……」 そして青年は先ほどとは比べモノにならない速度で踏み込み、拳を振り上げる。 「その、現実をぶち壊す!」 ●現実壊し 青年の振り上げた左拳が都斗の頬に突き刺さる。 ただの、踏み込んだ大振りのパンチ。だが、その一撃は速く……重い。 「くっ」 飛びそうになる意識を辛うじて繋ぎ止め、口からこぼれる血を無造作に袖で拭き取る。 「戦闘時くらいは自分の信念を貫き通さないと……正しいとか間違ってる云々関係なしにね」 お返しとばかりにデスサイズを振るうが、それは簡単に回避されてしまう。先ほどまでの戦闘に比べ……明らかに動きが違う。そして、青年はどんどん前に出、一人でリベリスタ達を追いこんで行く。 先ほどと同じ軌道からフェイントをかけ、桐の攻撃が迫る。だが、無理な体勢変化からの攻撃は大きな隙を生み、簡単に避けられてしまう。 「さっき、そんな正義で満足か? って、言ってたよな」 逆の袈裟に斬り上げた姿勢。どんなに戻そうとしてもワンテンポ遅れてしまう。 「正義とかそんなの関係ねぇ。散々口上垂れてたけど、所詮ただの何もできねぇと思い込んだ僻みじゃねぇか。少し……頭を冷やしやがれ!」 勢いよく振り下ろされた青年の拳が桐を捉え、殴り飛ばす。 「がっ!」 強力な一撃だったが、一撃で倒れるほどではない。慌ててルーメリアが回復をしようとするが……青年が桐とルーメリアの間に左手を軽く振るう。 何か、割れる音が響いたかと思うと、桐の怪我はいつまでたっても治っていかない。そう、能力で回復を打ち消したのだ。 その青年の前にキャプテンが前に立ちはだかる。回りのメンバーと違い、側面に回らず、あえて正面に立つ。 そう、子供達に対して真正面から語り、立ちふさがる。それができなくて何が大人だというべきか。そして、彼は泣いていた。 「納得できなくても考えてほしい。この偉大な母なる地球(テラ)の悲しみの事を」 振り下ろされたキャプテンの強力な一撃は青年の肩を強く打ちつけるが、今の青年はその程度では止まらない。其処に畳みかけるようにアルカナの影から伸びた攻撃が青年を襲うが、これは左腕の一振りで消されてしまう。 元々は左右から攻め立てる算段であったが、今の青年のスピードだとそれも難しい。それほど、今の青年の能力は上がっていた。 続く弐升の攻撃も踏み込みがやや浅かったか、当たりはしたが、ダメージは軽い。上空から気の糸を張る文音だが、これも左手の一振りで打ち消されてしまう。だが、其処に生まれた隙。それを夏栖斗は逃さず、懐に潜り込む。 「お前の想いは僕が背負って生きてやる……世界のためにお前を倒す!」 青年の腹部に気を込めた掌打が叩き込まれる。それを受け、片膝をついたところに都斗の一撃が青年の肩口を斬り裂く。 「!」 青年の後ろにいた少女が思わず駆け寄ろうとするが、青年がそれを遮り、代りに。 「逃げろ! 何処でもいいから早く!」 と、青年に物凄い剣幕で言われ、暫く驚愕していたが、やがて、勢いよく外に向かって走って行く。 「わわ、女の子が!」 戦闘中の女の子の行動に気を配っていたルーメリアが思わず叫び、それに反応したメンバーが彼女を押さえに行こうとするが……そこに青年が立ち塞がる。 「通さねぇ。此処は絶対に、な」 ならば、何人かが足止をし、その隙に空を飛べる人間で追いかければ……そこで、はたと気がつく。誰が押さえて、誰が救出に向かう? 事前に聞いていた青年の性格上、自分が囮になって少女を逃がす可能性は十分にあっただろう。だが、実際そうなった場合の事を誰も想定していなかった。其処に生まれた僅かな時間。それは、少女が大通りに逃げ込むには十分な時間だった。 「しまった!」 それは、同時にこの作戦の失敗を意味していた。 ●正義の果て 「……なあ、ヒーロー」 八人に囲まれ、息も絶え絶えな青年。もはや、放っておいても死ぬことは間違いないだろう。その青年が倒れたまま、自分を見降ろす夏栖斗に声をかける。 「なんだ」 「あの子……できるだけ、元の世界に帰す方法を探してやってくれ……俺は別にいいが……このままじゃ不憫過ぎる……」 おそらく最後に振りしぼった言葉。それは自分の事でも何でもなく、名も知らない少女への配慮だった。それを夏栖斗に託したのは、自分に近いモノがあると青年が思ったからだろうか。 それに対し、夏栖斗は何も答えられない。ただ、小さく。 「努力する」 と、言ってやる事しか。 その問いで十分に満足したのか、青年の力が完全に抜け、目を瞑る。 満足そうな表情と共に。 「……こんな、力さえ、なければ……」 青年の前で泣き崩れるルーメリア。 「くそう!」 ガンッ! と、誰かが壁を殴り唇を噛みしめる。それは、彼の自己満足な正義への苛立ちか、それとも、彼の考えを認めてしまったからか。 「……わらわ達は本当に正義なんじゃろうか?」 ボソリと漏らすアルカナ。その肩にキャプテンがそっと手を乗せ。 「ワタシ達は正義なんかではないよ……だが、間違ってはいない。それは、この地球が証明してくれている」 「……今から少女を追うのは難しい。一度アーク本部へ戻ろう」 都斗の言葉に皆頷き、そっとこの場を後にする。 そう、彼らの世界を守る戦いはまだ終わっていないのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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