●夏本番 肌に容赦なく照りつける太陽。アスファルトは直射日光にじりじりと熱せられ、風が吹くと呼吸も苦しくなるような熱風に襲われる。 日本各地で本日は猛暑日、酷暑日と報じるニュースを聞くことも珍しくなくなったこの季節、風物詩ともいえるけたたましいセミの声が気温以上に体感温度を暑く感じさせていた。 何をするにも汗が出る、特に外回りのサラリーマンや外で部活動に励む学生には特に辛い季節ではないだろうか。 夏が好きだと思っている人数と同じ位苦手意識を持っている人もまた多いだろう。 ならは夏はただ辛いだけの季節なのだろうか? 否、夏だからこその楽しみがあるというのもまた事実である。 海水浴に花火大会、子供だったら夏休みは学校生活の中でも最大級のイベントだ。真っ黒になって遊びまわり宿題を思い出して泣きを見る、なんてのもよくある光景だろう。 また大人になれば仕事帰りにビアホール等で冷たいビールを一杯引っ掛けての仲間達との歓談も楽しみだ。ホラー、心霊現象特集などで心から涼を取る人もいるし、テレビなどでその手の特集が組まれるのもこの季節の風物詩といえる。 気分的に開放的になるこの季節、恋人の一人や二人作って思いで作りに洒落込むというのも若者の特権だ。 全ては気の持ちよう、辛い季節だからこそ楽しみを見つけて人生を謳歌することが夏を乗り切るコツなのかもしれない。 ここ都内から少し離れた所にある屋内プールもこの季節は絶好の稼ぎ時だった。 直射日光を避けることが出来る屋根があるのは強い日差しを避けたい女性には好評。体を鍛える為に気心の知れた仲間同士で競泳にいそしむ男性もいれば、甘い誘惑を求め水着姿の女性をゲットしようと下心を隠して声を掛け撃沈する男性、なんて光景を目にする場面もそう珍しいことではない。 設備は標準以上に完備、衛生管理も問題はない、立地条件だって良好。このプールはなかなかに人気を博していた、特に若い男女のデートスポットとしては特に有名な所として世間一般は認知されている。 プールは受け入れ続けた、男性も女性も出会いの楽しさも苦しさも、甘酸っぱい恋、表面を取り繕った性欲も数え切れないほど。 水着というのは概ね露出度が高い、普段は衣服で隠れているプロポーションもこの時ばかりは余すことなく晒される。 また鍛えられた男性の筋肉なども同性、異性関係なくついついそのつもりはなくても目で追ってしまうものだ。 有数のデートスポットであったがゆえに桃色の感情はゆっくりと、しかし確実に蓄積していった。 それが膨れ上がり許容量がついに限界を超えたとき、直接感情に触れていたプールの水に変化が現れた。E・エレメントとして目覚めてしまったのである。 溜まりに溜まった淡い恋心、黒い下心、桃色の欲望はそれを己の行動原理として人々に牙を向き始めてしまった。 ●ブリーフィング 「プールの水がエリューション化しちまった。幸いその施設はアークにツテがあってどうにかして欲しいって連絡があってな、対処してもらいたいんだ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)はプールの管理者から入手した資料をリベリスタ達に配りながら軽い状況説明を行っていた。 「現地は屋内の温水プール。幅20メートルに飛び込み台から向こうまでは25メートルの距離がある。水深1.5メートルのまぁ標準的なプールだな。プールにはいくつか種類があるんだがそのうちの一つ、そこに入っている水が今回の相手というわけだ。なんかちょっとぬるぬるしているらしいぞ」 うえ、それはちょっと嫌だなと話を聞いていた一人が思わず本音を漏らす。 「今回の相手は巨大なだけに攻撃すればまず当たる。だがプール一杯の水っていうのは莫大な容量があるからな、図体に見合ってとてつもなくタフな奴だ。さらに言えば多数の人間の感情を吸ってしまった影響で精神衛生上あまりよろしくない攻撃をしてくるようだ。先だって出発した駆け出しリベリスタが任務失敗した上に、女性リベリスタのみならず男性リベリスタまでがもうお嫁にいけないとかものすごく暗い表情で帰ってきたからな」 えっ、それってつまり、相手はそういう事をしてくるって事ですか? 「まぁな、だが引き下がってもいられないだろう? 神秘対応はリベリスタの仕事だ、今回の派遣も失敗したらちょっとばかりアークにとって不利益だ、それだけは避けたい。なに、君達なら大丈夫さ」 好きに言ってくれる、直接体を動かすのは我々だというのにと恨み節が聞こえてくるは気のせいではないだろう。 「あぁ、今回の仕事はプロテクターの代わりに水着で行ってもらうことになっているから、資料の中に水着カタログがあるだろう? そこから好きなものを選んでくれ」 ぱちくり、何人かのリベリスタが不思議なものを見るように伸暁に視線を送る。 「場所が場所だけに衛生上の配慮だ。それに相手は水だ、いつものプロテクターでは濡れた時に動きの邪魔になる可能性が高い。ならば最初から濡れても任務遂行に支障がないように手を打って置くのは必要だろう。なにアークの技術をふんだんに盛り込んでいる、懸念する材料は何もない」 抗議の声を上げるリベリスタに伸暁はニヤリと笑ってみせる。 「頼んだぞ、アークの誇るリベリスタとしての働きを期待しているからな」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ほし | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年09月10日(水)22:34 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 6人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 多くの人々を迎え入れるはずのプールは今、主をなくし閑散としていた。水面が波打つたびに涼しげな水の音が静かな空間に響き渡る。 今回の相手はこの大量の水だ、人間の根源ともいえる欲望を相手にしなくてはならない。 がんばれリベリスタ達、このプールの秩序は君達にかかっている! それでは、プールサイドを彩る6人の猛者達を紹介しよう。 まずは一番手の四条・理央(BNE000319)だ。思春期を過ぎ成長したその肢体はピッタリとしたワンピースの水着の上から魅惑のラインを形成している。肉感的なボディは女性としての魅力を最大限に発揮、その二つの豊かな膨らみは水着に押さえつけられた胸元を窮屈だといわんばかりに押し上げ、存在感を誇示している。羽織っているウィンドブレイカーは絶妙に露出と隠蔽の境界を支配し、見えそうで見えないもどかしさから想像力を掻き立ててしまう。 隠されると人はどうなっているのだろうと知りたくなってしまうものだ。腰に巻かれたパレオから伸びたむっちりとした脚はその奥を未知なる秘境に仕立て上げるという罪を犯していた。 白いビキニを身に纏った『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)はその白磁のような肌を惜しげもなく晒していた。白い肌、白い水着、銀髪とその容姿は一つの色で統一されており、細い体と相まってひっそりと儚く咲く一輪の花といった表現が相応しい。細身であれどカップに収まっている二つの膨らみは十分に女性としての魅力に溢れ、くびれた腰からヒップのラインへと続くまろやかさは見る者を魅了する。彼女は猫又だ、へにょりと垂れたその尻尾が扇情的に揺らめき、可愛らしさの中にどこか人を惑わす雰囲気を併せ持っていた。慈愛に満ちたその眼差しが向くのは愛しい人。魅力的な彼女を眺めるより先の権利を一人しか持っていないと知れば、世の男性は血の涙を流すことであろう。 さて、そんな櫻子を独り占めできるのは『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)その人である。細身ではあるが服の下に隠されていたのは無駄な肉の付いていない均整の取れた肉体。櫻子と揃って色白で髪の色も似ていることもあり、二人並ぶとそこだけ切り取って飾たいほど絵になるのである。飾り気のない海水水着を着用しているが、それが却って櫻霞の持つ中性的な美しさを際立たせていた。しかしそこはやはり男性、肩幅は広くしなやかな筋肉が付いており、二の腕から手首、指先へと続くラインは櫻子を優しく包み込むことの出来る包容力を十分に有している。その切れ長の瞳は何を映し出しているのか……それは彼にしか分からない。 理央、櫻子が時を経て美しき花を咲かせていると見るのなら『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)はまだまだ準備の段階と言えるだろう。若枝のような細い手足、柔らかそうな腹部にうっすらと引かれた線、抱きしめれば折れてしまいそうな危うさを秘めた肢体。しかしよくよく見れば子供から少女へと変化する兆候がいくつも見て取れる。フリルの付いた白いビキニに包まれた胸はつつしまやかではあったが、女性らしいラインを作るための脂肪が乗り始め、子供とは違う確かな曲線を作り出し始めていた。まさに今この時にしか発することの出来ない宝石のような輝きを、言葉にするのも難しい可憐さを存分に表現している。もう少し時を経れば鮮やかな花を咲かせることだろう。 プールサイドに咲き乱れる花達、その中で一人異色を放っているといえば『OME(おじさんマジ天使)』アーサー・レオンハート(BNE004077)。その体躯はまさに圧倒的、恵まれ過ぎるほどに恵まれたその体は別のベクトルで見るものの視線を釘付けにする。鍛え上げられたその体は肉体美と言う言葉が相応しい。 弾丸をも跳ね返してしまいそうな6つに割れた腹筋。隆々とした後背筋はその巨躯を支え、肉体というキャンパスの屋台骨を担っている。隠す場所を最小限に留めているビキニパンツはいささか窮屈そうであり、隠しきれない男の美を感じさせ、怪しげな雰囲気さえ醸し出す。まさに生きている彫刻、美しさというものは女性だけが持ち合わせているのではないということを思い出させてくれる。 トリを勤めるのはパープルのビキニにパレオを巻いた、はつらつとした元気少女思わせるシーヴ・ビルト(BNE004713)だ。シーヴはメンバーの中で一番背が低い。一つ一つの動作にどこか子供っぽさが残っているが、それがかえって彼女の魅力を引き立たせていた。しかし、その可愛らしい顔から視線を下に向ければもはや暴力的とさえいえる二つの果実がビキニの中に窮屈そうに納められていた。知らぬは本人ばかりなり、元気良く動き回る度にやや遅れて横に上下に弾む夢の詰まった膨らみはもはや凶器。自覚がないというのは罪である、かくも女性というのは思わぬ所に武器を隠し持っているものだ。言うなればアンバランスな魅力、その小さな体に不釣合いな肉体の造詣は時に人を惑わす危険なマーメイドである。 ● 通路から何かが近づくのを察知してか水面がざわつく。縁一杯にまで溜められた水は波打つたびにプールサイドの床を濡らし、まるでアメーバが獲物を求めるかのごとく蠢いた。 リベリスタ達がプールの全容を視認できる頃眼前に広がっていたのは、無数の透明な手がうねうねと水面から生えるという地獄絵図だった。 「これはまた、酷いエリューションが出現したものだな。どんな思念が元になっているのやら」 ゆらめく手を確認しながらアーサーはため息をついた。いや分かってはいるのだ、打ち合わせでどういう性質のエリューションなのかは。しかし……。 「あれだな、欲望って言うのはこうやって目に見えてしまうとおっかないもんだな」 守らねばならない、今回は若い女性の方が多い。そりゃあ自分だってあんなのに体をまさぐられるのは御免被るが、少女が餌食になるのはなんだかこう、いろいろとまずい気がする。 「おおっ、アーサーさんやる気十分ですっ」 悲痛な覚悟のアーサーを知ってか知らずか、イーヴは天真爛漫に笑っていた。今日は絶好のプール日和、こんな日に楽しめないなんてもったいない。そうだ、プールに入る前にはきちんと準備体操。 「んっ、しょっと。ふー、ちゃんと体はほぐしておかなくっちゃ!」 体を動かすたびにゆっさゆっさと音がしそうに揺れる胸、それを見たアーサーが決意を新たにする。 男性ならば目を釘付けにして思わず前かがみになりそうな光景なのだが、櫻霞の眼差しは櫻子へと注がれていた。櫻霞も男性だ、それ相応の欲は持っている。 しかし櫻霞を心にあるのは性欲はもちろんだが庇護欲、独占欲と言ったものも愛情から来る欲望が大きい。 「そう易々と櫻子に触れられると思うなよ? 貴様にくれてやるのは鉛弾だけだと知れ」 「櫻霞様、若者の欲望って何なのでしょうか? 水着に関係がありますか?」 「今は考えなくてもいい。知りたいならば後で教えてやろう……二人きりの時にでもな」 「ふぇ?」 ぐっと肩を抱かれて櫻子はきょとんと首を傾げてみせる、分かっているのかいないのか屈託のない顔。しかし心の奥底ではなんとな~く思いつくことがあるような? も、もしかして。 「わわ、わわわっ。ま、まさか違いますよねー!」 「やれやれ、今日は気温が高いなぁ、あつっ」 理央は影人を作り出しながらどこかとぼける様に呟いた。夏は恋の季節でもある、まぁそんな気分になるのも悪いことではない、分かってはいるけれど。 「これ、エリューションに力を与えちゃっているとか、ないよね」 理央の思いの答え合わせをするかのように、無数の手が一斉に襲い掛かってきた。 ● 「余程死にたいらしいな!」 水の手はあらゆる欲に敏感だ、ほんのわずかの桃色な感情も見逃さない。櫻霞の銃はためらうことなく烈火の炎を向かってくる手に浴びせた。一瞬で水が蒸発し弾けるような音と共にもうもうとした水蒸気が辺りに漂う。 「わぁぉ、やるぅ!」 襲い来る手を一瞬で蹴散らした櫻霞にシーヴは感嘆の声を上げた。シーヴも手にしているのは銃である。目の前で鮮やかな迎撃を見せ付けられ、同じような武器を持つ者として対抗心が沸き起こるのを抑え切れない。 「これは負けていられないですよねーっ!」 シーヴの本領は接近戦からの火力開放にある。いまだ視界不良な中その身を躍らせプールサイドへと身を躍らせた。 「おい! 不用意に近づくと色々と危ないぞ!」 自らの翼で浮かんでいたアーサーがイーヴに警告するがどこ吹く風。やけにぬるぬるする床も抜群のバランス感覚で近づくと、手にした2丁拳銃から猛烈な烈風を叩き付けた。 「うひゃ~、ちべたい!」 手を巻き込みながら水面に吸い込まれた烈風で派手に舞い上がった水飛沫は、シーヴはおろか飛行しているアーサーまでをびしょ濡れにしてしまった。シーヴの長い髪をしっとりと濡らした水が毛先からぽたぽたと雫となって流れ落ち、パレオが濡れて太ももにぴったりと纏わり付く。 「む、これは……いかん」 アーサーは指先で水の粘質を確認する。さらりとしているようこのぬるぬるはどこか人の奥底から良くない感覚を呼び起こさせる。先の烈風陣から逃れた水の手がシーヴに殺到するがアーサーのエアリアルフェザードがそれらをなぎ払った。 「そーれもう一発、いくよーっと!」 再び水飛沫が派手に舞い上がった。 「元気だねぇ」 影人を生み出していた理央は派手に飛び散る水飛沫を見て呟く。プールが生み出すのは水の手だけではない、その豊富な水量から繰り出される水鉄砲は辺りかまわずあちこちをびしょ濡れにしていた。 よくよく見れば理央の体からも水が滴り、前髪が額に張り付いている。ただの水なら良かったのだろうがその粘性におぞましさを覚えてしまうのは原因を知っているためだろうか。 「まぁ、触らなければどうって事ないんだよね」 影人は実に良い盾になってくれた。これがなければびしょ濡れでは済まなかっただろう。何体か犠牲になって引きずり込まれた影人の末路を見てみたが、なんというかこう……ちょっと口にするのは憚られる状態に成り果てた。 「ボクは絶対にあんな目には合わないよ」 ● 「ええい、いつになったら大人しくなるんだこいつは。タフという言葉に嘘はなかったということか」 銃をリロードしながら櫻霞は苦々しく呟いた。もはやあたり一面水浸し、終わりの見えない作業に泥仕合の様相を呈していた。 精神的な疲労はどうしても隙を生む、そして欲望は単純な分行動力は果てしない。ついに毒牙にかかるものが現れはじめる。 「ひうっ!?」 櫻子が上ずった声を上げた。足首にぬるりとした嫌な感覚。視線を下に落とすと透明な手が白い肌に絡まるようにねっとりと張り付き、静かに、しかし確実に足首からふくらはぎ、そして太ももへと登ってくる。 「ふにゃぁぁ?!わ、私は食べても美味しくありませんですぅぅぅっ!」 尻尾をぶわっと膨らませながらじたばたと櫻子がもがく。女の肌の感触や体温を最大限に感じようとするその動きとぬるぬるさに追い詰められ、思わず愛しい人の名前を呼んだ。 「櫻霞様あぁあ!」 「おのれ、何をやっている!」 櫻霞は櫻子の悲鳴とその滑らかな肌を這い上がっていく不埒な手に何かが切れるのを覚えた。 「人のものに手を出すとは良い度胸だな? 櫻子に触れていいのは俺だけだ、死ね。無様に弾け飛べ」 銃での攻撃は万が一の事態が起こりかねない。手を振り上げ存在すら許さないと言わんばかりにエナジースティールで乱暴に払いのけた。ぬめりを帯びた恋人の手に触れられ櫻子の体がびくっと跳ねる、櫻霞は腰砕けになりそうな彼女の脇に手を伸ばして抱えるように支えた。意外と逞しい胸板や直接肌が触れあい暖かな体温を感じ、櫻子の心臓は激しく脈を打つ。 「すみません櫻霞様、お手を煩わせてしまって……」 「気にするな、恋人を守るのは当然だろう? 気味が悪かっただろう、なに、すぐに忘れさせてやるさ」 櫻霞の指先が櫻子の肌をなぞっていく。しっとりと柔らかな肌はなぞられた部分から熱を帯び始め、櫻子は小さく声が出るのを堪えながら、それでも触れられるのを拒否することはなく。胸板に唇を近づけてインスタントチャージによる精神力の付与を行った。 「あー……ボクも恋人を作ろうかなぁ」 そんな二人の様子を見るのがいたたまれなくなった理央は護衛代わりに影人を従えてそっと二人から距離をとった。その際に釘を刺すのも忘れない。 「えー、こほん。あんまりエリューションの刺激になるような事は、後でやったほうがいいと思うな」 「うおおおぉっ!?」 「ああっ、アーサーさぁん!」 アーサーの巨躯が派手な水飛沫を上げてプールに墜落した。水鉄砲と手の波状攻撃は苛烈であった、いろんな意味で。なるべくイーヴに攻撃が行かないように半ば囮のように立ち回っていたが、ついに耐え切れなくなったのだ。 欲望というのは男性ばかりが持っているものではない、夏の思い出にと男性との甘い一夜を思い描く女性だっているのだ。逞しい男性の代表ともいえるアーサーはどうもお眼鏡に叶ったようだった。 「うおっ、どこを触って、ゴボゴボ。や、やめんかっ!」 アーサーは水中でもがく、無数の手がやたら体に纏わり付いてきて気持ちが悪い。まるでたくさんの手で全身の筋肉の品定めされているような感覚に陥った。まぁ、その通りなのだが。 そしてそれはだんだん下のほうへと……。 「ちょ、ちょっと待て、それは洒落にならん!」 ビキニパンツが引っ張られる、水の手のあくなき探究心はアーサーという男を暴こうと身体中をまさぐった。ぬるっとした手に全身を支配されるというのはなんだかこう、堕ちて行ってしまいそうな感覚だ。 「こらーっ、アーサーさんを放してよっ! うっひゃっ」 イーヴが水の上を走ってくる。足の裏をくすぐられ笑い出しそうになるのを我慢しつつ、ずぶ濡れになるのもかまわずに烈風陣を打ち込んだ。 激しく上がる水飛沫はこれまでで最大級、それはまるで水の壁のようにイーヴの前に立ちはだかるのだが。 「あれっ?」 ゆらりと揺らめくそれは空中でいくつもの手に分解され、目の前の哀れな子羊にを生贄にしようと雪崩れ込んできた。 「ちょ、ちょっと聞いてないよ!」 欲望に話が通じると思ったのが運の尽き、その魅惑的な肢体は押し倒されるように水中へと沈んだ。 ざわり、全身に怖気が走る。触るか触らないかの微妙なタッチがイーヴの肌を舐めて行く。それが鎖骨から胸元へと移動した時にごぼっと口から大量に気泡を吐き出した。 「い、いかん。それ以上はいかんっ!」 アーサーは水中で羽ばたいた、いろいろな意味で非常に危ない。水の中で不自然に踊るイーヴを目にしてアーサーの心に火が付き、まさにゼロ距離でエアリアルフェザードをぶち込んだ。魔力を帯びたそれはビキビキと内部から欲望を破壊し、隙を見てイーヴを抱え水中を脱する。 「痛みを癒し……その枷を外しましょう。……痛み?」 櫻子の癒しがアーサーとイーヴを包み込む。消耗した体力や脱力感に襲われる感じは無くなったが、気だるさはしつこく二人を苛んでいた。 ● いつ終わるとも分からないと思われた戦い、底なしの体力だと思われた水ではあったが次第に水の手の本数が少なくなり、形も曖昧なものになってきていた。ダメージが蓄積していたのか、それとも。 「まぁ、ずーっと欲情しっぱなしってわけにもいかないよねぇ」 要は満足してしまったのだろうと理央は思った。欲というのは燃え上がるのも早いが、満たされれば何もする気がなくなってしまう、特に性欲というものは。 当初はギラギラという表現が合っていたのだが、今は何と言うか……水面がまったりとしているように見えた。タイプの違う美少女に男の中の男、リベリスタという最上の獲物は数々の欲望を満たすには十分過ぎた。 「やれやれ、まったくひどいエリューションだったな」 櫻霞渾身のインドラの矢が水蒸気と共に煩悩を霧散させ、ひと夏の思い出と共に水面は静けさを取り戻していた。 「リンシードさん、大丈夫ですかー?」 いつの間にか水面下に引きずり込まれていたリンシードはイーヴに介抱されている。お腹を押すと鯨のように口から水を吐き出した。若い娘をこのような目にあわせてしまったとアーサーは沈痛な面持ちだ。 理央の大傷痍による治療の甲斐もあり命に別状は無さそうだったが、トラウマ担ったかどうかはリンシードのみが知っている。 何はともあれ脅威は去った、これで残り少ない夏の日の営業も出来るだろう。少なくとも今シーズンは同じような被害が出ないと理央は思う、のだが。 「櫻霞様、怖かったですぅ」 櫻子は櫻霞の胸に体を預け甘えていた。そんな櫻子を安心させるように櫻霞はタオルをかけて抱きしめている。二人は恋人同士、珍しい光景ではないのだけれど。 「うーん、もう一回くらい出動がありそうだなぁ、アレを見ると」 やれやれと、理央は大きくため息をつくのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|