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冥府の番人。或いは、ここは地獄。

●地獄の釜
 深い深い谷の底。草木も生えず、岸壁が剥き出しになっている。太陽の光も遠く、辺りはどんよりと薄暗い。ここまで降りて来るだけでも、かなり危険な道を通らねばならぬとあって、地元の者でさえ滅多なことでは近寄らない危険地帯となっている。
 そんな中佇む女性が1人。歳の頃は40近いだろうか。黒い着物に赤い羽織を着た、どこか鬱々とした印象の黒髪の女性だ。その手には笏を持っている。
『悲しい……』
 唇をほとんど動かさないまま、囁くようにそう呟いて、溜め息を零す。
 とぼとぼと谷底を歩き、そしてまた立ち止まる。憂鬱そうに頭上を見上げ『面倒だなぁ』と呟いた。
 そんな彼女の後ろから、黒い肌の巨漢が歩いてくる。その数は全部で4体。手に手に、金棒や斧を持って、地面を揺らしながら黒衣の女性に従っているようだ。
 よくよく見れば、その額や頭頂部には角のような突起が見受けられる。
『さぼりたいなぁ……。でも、仕事だしなぁ』
 面倒だなぁ……と、何度も呟き、背後の黒鬼に目を向けた。黒鬼の現れた岩影には、Dホールが開いている。
『悲しい……。崩壊の危機にあるこの世界で、生き続けるなんて……悲しい』
 面倒だけど……と、盛大な溜め息を吐きだす女性。
『だから、連れて行ってあげる』
 ぶん、と笏を一振り。
 それを合図に、女性の目の前に巨大な鉄の釜と釜を包む業火が現れた。
 まるで始めからそこにあったかのように、自然とその場に現れ、そしてぐつぐつとした熱湯を吹き零していた。
 『ここに地獄を作りましょう』
 女性のその一言が合図だった。
 背後に控えた鬼たちが、一斉に雄叫びをあげた。

●恐ろしの谷
「彼女の名前はアザーバイド(地獄姫)。配下の(黒鬼)を従え、この世界に出てきた目的は、この世界に地獄を作り出すこと。彼女たちからしてみれば、崩壊の危機にある世界での生は絶望。死こそ救済、って感じなんでしょうね」
 その為に、地獄を呼び出すなど妙な話だが、異世界から来たアザ―バイド相手にこの世界の常識は通用しない傾向にある。世界が変われば、常識も変わる。そんなものだ。
 だから、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は溜め息混じりにモニターを指さす。
「この女を、元の世界に送還して欲しい。任務自体はいたって簡単。だけど、少しだけ場所が厄介」
 横幅3メートルに満たない狭い谷の底には、熱湯と業火を撒き散らす釜や、剣の山、ぐつぐつと煮える真っ赤な池に、蛇や毒蟲の大群など、人を痛めつけるための設備がぎっしりと並んでいる。おまけに、岩壁からは、鋭い刃や棘が突き出しているので、高度を上げて飛行で接近することもできそうにない。
 次々に、姫が呼び出す地獄の拷問器具は、まだまだ数を増していく。
 それらの器具の間には、黒鬼が配置され監視の目を光らせていた。
「道はまっすぐ一直線。間には無数の敵や罠の数々。まるで昔のテレビゲームみたいね」
 違うのは、コンティニューが存在しないことと、残機が無くなればそこで即ゲームオーバー。再トライは不可能、という点だろうか。
「地獄の沙汰もなんとやら……というけど。実力で突破するしかない。罠とBS、黒鬼を突破して姫の所まで辿り着く事が第一の目標ね」
 その間に並ぶ無数の地獄と、屈強な鬼たち。地獄姫の居る正確な場所は今一判然としないが100メートル~200メートルほど谷底を進めば、辿り着くだろうか?
 慎重に進めば、比較的安全に進行できるだろう。その分、地獄姫が遠ざかるかもしれない。
 急げばその分、危険度は増すが地獄姫の元に短い距離で辿り着ける。
 もちろん、何事もなくまっすぐ進めれば、の話しだ。
 それじゃあ、行ってらっしゃい。
 そう言ってイヴは、仲間達を送り出すのだった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:病み月  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年09月05日(金)22:11
お疲れ様です。
今回は、異世界から来たアザ―バイド(地獄姫)の対応にまわってもらいます。
道はまっすぐ。姫の元に辿り着くまでの間には無数のトラップ。
皆さんのご参加、お待ちしています。

●場所
薄暗い谷底。降りた場所から姫の元まで、召喚された地獄を辿って行けば100~200メートルほどで辿り着くことができます。
岩壁から剣や針が突き出しているので、飛行で罠を回避しながら進むことは困難。低空飛行なら問題はないが、地獄の罠を回避して通ることはできない。
罠はだいたい10メートルに1つ存在している。罠の合間に、4体の(黒鬼)が潜んでいる。
黒鬼の攻撃には(致命)や(ノックバック)、(ブレイク)の状態異常がつく。

●ターゲット
アザ―バイド(地獄姫)
陰鬱な表情と、やる気のない態度が目立つ黒衣の女性。歳の頃は40近いだろうか。整った顔立ちながら、その表情から窺えるのは滲みでるような殺意である。
片手に笏を持っていて、その笏を使って地獄を召喚する。
救済、と称してこの世界に地獄を召喚することが目的。
【地獄召喚】→神遠2範(獄炎)or(氷結)or(雷陣)or(失血)or(猛毒) or(不運)
各種地獄を召喚する。地獄のある場所は、地獄姫が一度は通った場所である。
【黒縄】→神近単(麻痺)(弱体)
地獄から呼び出した黒い縄で対象を縛りあげる。

皆さんのご参加、お待ちしています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ハイジーニアスソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
ジーニアススターサジタリー
ウィリアム・ヘンリー・ボニー(BNE000556)
ノワールオルールナイトクリーク
アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)
サイバーアダムインヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
アークエンジェインヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
フライエンジェクリミナルスタア
イスタルテ・セイジ(BNE002937)
アウトサイドマグメイガス
月草・文佳(BNE005014)

●地獄谷
 深い深い谷底。薄暗く、そしてじめじめとしている。
 本来なら誰も立ち入らない、危険な渓谷だ。しかし、今は違う。
 黒衣の女性が、ぼんやりと陰鬱な目をして谷底を歩いている。彼女の放つ禍々しい気配に呼応するように、彼女の周囲には地獄が現れる。
苔蒸した岸壁には、鋭い棘が突き出してくる。
 地面からは熱湯を蓄えた大窯や、剣の山が現れる。危険な蛇や毒蟲も無数に蠢き、所により業火や猛吹雪の猛る区画も存在している。
 そんな異様な光景の中、黒衣の女性の姿は不思議とその場に溶け込んで見えた。
『あぁ……。疲れた』
 やる気のない態度で、彼女は地獄を呼び出し続け、何処かへ向かって歩いていった。

●ようこそ地獄へ
「…………。嫌な予感しかしない」
 頬を伝う冷や汗をぬぐい『縞パンマイスター竜』結城”Dragon” 竜一(BNE000210)はそう呟いた。彼のもつ超直感が告げている。これ以上進めば、無傷ではいられない、と。
 目の前に広がる光景は、おおよそこの世界では見慣れないものだった。
 業火が猛るその後ろでは、視界を白く染める吹雪が吹き荒れ、さらに地面には無数の剣が立ち並ぶ。そんな地獄のイメージをそのまま具現化したような、異様な光景である。
「それでは楽しい地獄めぐりといきますか」
 剣を片手に提げて、『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)が先陣を切って歩き始めた。敵の姿は見当たらないが、かといって不用意に走りだしては、アザ―バイド(地獄姫)の仕掛けた罠に、不用意に飛び込む結果となる。
「地形の把握は大事だ。谷だって無限につづいている訳じゃあ無ぇ。デッドラインを知っておく事は大事だと思うんでな」
 拳銃を片手に、もう片方の手に地図を持って『ザ・レフトハンド』ウィリアム・ヘンリー・ボニ―(BNE000556)は眼前に広がる地獄を見据える。
「ここは地獄の釜の中~」
 覗こう覗こう、と歌を歌いながら『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は千里眼を使って、進路を探る。
 探る、と言っても道はほとんど一直線。地獄が並んでいるせいで視界は悪いが、道に迷うことはないだろう。
「まぁ、影人を先行させようじゃないか。罠があるなら、影人に罠にかかってもらおうって寸法さ」
「これが地獄か。生ぬるい物を作るものだ。不要極まるゴミの庭園だな」
 式符から呼び出した影人に、先へ進むよう命令を下す『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)と、カンテラ片手に周囲を警戒する『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が並ぶ。
 その少し後ろでは、頬を引きつらせた『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)が翼を広げて空を飛んでいる。
「あまりトゲトゲしい所は歩きたくないですし、基本的には低空飛行ですね」
 カンテラに照らされた一行の足元には、地面から突き出した剣の切っ先が立ち並んでいる。イスタルテの付与した翼の加護によって、仲間達もほんの数十センチほど空へと浮き上がった。
「これって誰かが置いていかれない程度に全力で姫のところを目指した方がいいんじゃない?」
 先行する影人を観察しながら『狐のお姉さん』月草・文佳(BNE005014)がそう呟いた。
 業炎の壁に影人が近づいたその瞬間、炎が猛り影人を飲み込んだのだ。警戒して進んだとしても、ある程度近づけば、地獄は罠としての役割を発動させることだろう。
 この先、何十メートルも地獄は続く。
 地獄姫は、今もなお、地獄を広げながら先へと進んでいる。
 それを思うと、このままここで無為に時間を消費している余裕などないのではないか。
 多少のリスクを冒してでも、先を急ぐべきだと、文佳は考える。
「それじゃあ、仲間を信じて先を急ぐとしようか………勿論、オレの勘も、だ」
 ウィリアムが、両の手に銃を握って前へ出た。
 まず突破するべきは、眼前を阻む炎の壁と、その先に見える猛吹雪だ。

 影人が炎に飲み込まれた瞬間、竜一は左右の手に持った刀を振り抜いた。蓄積されていたオーラを、弾丸の如く撃ち出すその様は、さながら飛ぶ斬撃とでも表現しようか。
「罠の処理が必要だろう?」
 影人を飲み込んだ瞬間に、炎の壁のごく一部が薄くなった。竜一のオーラはその部分を正確に撃ち抜いてみせた。
 竜一がオーラを放つと同時に駆け出していた義衛郎が、刀を一閃。炎の壁に空いた穴を駆け抜け、ついでとばかりに近くにあった壁や地面から飛び出した棘を切り裂き、後続の仲間の障害を少しだけでも軽減するよう試みた。
「この先、少しだけ道が曲がってる。何か、嫌な予感がするな」
 炎の壁を抜け、そのまま吹雪の中へと駆け込みながらウィリアムは仲間へと注意を促す。彼の勘が告げているのだ。吹雪を抜けた先に、何かが待ち構えていると。
 両手に構えた銃の引き金に指をかけたが、吹雪のせいで前が見えない。不用意に射撃を行うべきではないと判断し、ウィリアムは小さく舌打ちを零した。
「あうう、地獄が現出するとか、そういうのって出来ればノーサンキューで」
 イスタルテの千里眼は、吹雪の先に何を捉えたのだろう。
 低空飛行で進んでいた彼女は、咄嗟に地面に滑り込み何かを回避してみせた。イスタルテの背を掠め、背後へと飛んで行ったのは岩の塊だったように思う。
「ノックバックされた時は受け止めるよ……って、岩!?」
 危ないっ! と、アンジェリカは寸での所で岩塊を回避。飛んでくる岩塊を、ノックバックされた仲間だと見間違えたらしい。アンジェリカは素早く大鎌を構え、追撃に備えた。
 しかし、それっきり新たな攻撃は飛んで来ない。
 イスタルテを強襲した何者かは、吹雪を抜けた先に居るようだ。
「注意しろ。先行させてた影人が消えた」
 槍を手にしたフツが、仲間達へと声をかける。新たな式符を取り出し、影人を召喚して、それを吹雪の先へと進ませた。しかし、またすぐに影人は何かに倒され消滅してしまう。
 視界の悪さが、進行を躊躇させる。しかし、このまま吹雪の中にいては、ダメージが蓄積していき、そのうち倒れる者も出て来るだろう。
「回復は……できれば本番まで消耗は控えたいわ」
 回復役の文佳も、長い道中を思えばここで無駄なダメージを負い、そしてそれを治療することで時間とEPを消費することは本意ではない。
 仕方ない、と溜め息を零し、竜一と義衛郎が武器を構えて、吹雪の中へと駆け出した。

「仕事熱心なのは結構だがね。わざわざ作らずとも、此の浮世も地獄も大差無かろうよ」
 義衛郎の刀が閃く。高速での移動からの斬撃は、しかし巨大な金属の塊に弾かれ、届かない。
 吹雪の中に火花が散った。しかし、その一瞬の隙を突いて、竜一が何者かの真横へと回った。吹雪の外からこちらを攻撃してきていたのは、黒鬼だ。
 竜一の剣が、黒鬼の身体を袈裟がけに切り裂く。飛び散る鮮血で顔を汚しながら、しかし黒鬼はその動きを止めない。片手に持った金棒で義衛郎の剣を受け止め、もう片方の拳を竜一の胸へと叩きこんだ。
 口の端から血を零し、竜一は大きく後ろへと弾き飛ばされる。
「しゃがめ!」
 そう叫んだのはフツだった。鬼への攻撃を止め、義衛郎はその場に倒れ込む。次の瞬間、義衛郎の頭上を、1体の影人が飛び超えて行った。
「注意一秒怪我一生。劣悪な職場だな?」
 飛び込んで行った影人は、金棒に打ち抜かれて消滅。だが、次いでユーヌの放った銃弾が黒鬼の身体に無数の穴を穿つ。
「前衛は、2人だけじゃないぜ。オレだって前で戦える」
 更に、影人の背後に隠れていたフツが大きく1歩踏み込むと同時に、朱色の槍を突きだした。
 ざぐん、と肉を抉る音。黒鬼の喉元に、鈍色に光る槍の穂先が突き刺さった。
 動かなくなった黒鬼を、吹雪の中に放置して、一同は更に先を目指す。

 剣の山を、低空飛行で飛び超える。溶岩の大地も同様に、それでいて敵からの強襲に警戒しながら先へと進む。黒鬼のもつノックバック能力で、地獄の罠に叩きこまれるという事態だけは避けたいところだ。
 罠の大半は、地面に設置されている。しかし、全てがそうとは限らない。
「うげっ……」
 思わず、眉間に皺を寄せ、一同は立ち止まった。
 目の前を覆うのは、黒い霞。ブブブ、と腹の底に響くような音が鳴り響く。視界一杯を埋め尽くすそれは、霞ではない。虫だ。羽虫から芋虫、毒蟲に、毒蛇なども地面をのたうちまわっている。
 地獄から呼び出された蟲である。その毒は、この世界に存在している蟲のものよりも強力だろう。
「ボクが道を開くよ」
「纏めて潰して、安全を確保する」
 前に出たのは、アンジェリカとユーヌの2名だ。アンジェリカが鎌を宙に泳がせると、地面に大きな赤い月の影が現れる。不吉なオーラを撒き散らす月が、地面をのたうつ蟲や蛇を飲み込んで行く。
 一方、ユーヌの放った式符は空中に陣を描き、大量の水の塊を呼び出した。
 月が弾け、水塊が降り注ぐ。谷の一角を埋め尽くし、岩壁から突き出した剣や棘なども巻き込んで、2人の技は猛威を振るう。
 まるで爆発。谷を揺らし、毒蟲の地獄を押し潰し、無理矢理道を確保した。
「回復をかけるから、ちょっと待ってて」
 文佳はそっと両手で小刀を握り、目を閉じた。文佳の身体から蛍に似た淡い光が拡散され、仲間達の身体へと吸い込まれて行く。インスタントチャージ。失われたEPを回復するスキルだ。
 時と場合により、攻撃、回復の両方をこなす。それが文佳の役割だ。
「さぁ、もうすぐです」
 イスタルテの千里眼は、この先に待ち構える地獄姫の存在を既に捉えているようだ。

●地獄からの使者
『悲しい……。この世界に生きる貴方達には、酷く悲しい未来が待っている。そんな予感がするの……。だから、救ってあげる。ここに地獄を、作ってあげる。最悪の結末よりは、マシな終わりを迎えるように』
 陰鬱な表情でそう呟いて、黒衣の女性(地獄姫)は、残る3体の鬼を従え一同を迎えた。
 足元に並ぶ剣の山と、時折噴き出す炎と吹雪の柱以外は見当たらない。道幅は狭く、2人も並べば身動きがとれなくなるだろうか。
「喚いてんじゃねえよ、良い歳した阿婆が。お前さんの地獄じゃぁ、オレ達は救えねぇよ。解ったらとっとと帰れ!」」
 大声を張り上げ、ウィリアムは駆ける。両手に握った拳銃が火を吹き、弾丸を放つ。針の穴を通すような精密な射撃が、地獄姫を襲う。
 しかし、正確過ぎる狙いが仇となった。地獄姫の前に突き出された黒鬼の腕が、弾丸を防ぐ。
 舌打ちを零すウィリアムの目の前に、いつの間にか1体の黒鬼が迫っていた。黒鬼の拳が、ウィリアムの胴を打つ。内臓と骨が軋むほどの衝撃がウィリアムを襲う。
 黒鬼が、追撃を放つべく逆の拳を振り上げた。
「やーん。仲間を倒させはしませんよ!」
 黒鬼の腕に、イスタルテがしがみ付いた。イスタルテの力では、黒鬼の動きを止められるのはほんの一瞬程度だろう。だが、それで十分だ。
 至近距離から放たれたウィリアムの弾丸が、黒鬼の眉間を撃ち抜いた。

 黒鬼が倒れると同時、イスタルテは仲間達へと回復術を使用する。
 イスタルテのすぐ隣では、文佳が眼前に小刀を構えた。刀の先端に魔方陣が展開された。陣の中央に、銀色の弾丸が形成される。
「救済とか何とかご託はいいから、とっとと倒れて欲しいんだけど? 救済より平穏のほうが大切なの、こっちの世界では」
 文佳の放った銀弾は、仲間達の進路を塞いでいた黒鬼の胸を撃ち抜いた。
「鬱々と陰気なものだな? 三途の川代わりだ。綺麗さっぱり洗い流してしまえ」
 ユーヌによって召喚された水塊が、倒れゆく黒鬼ごと、足元の剣山や業火の柱を飲み込んだ。
 仕掛けられていた地獄の罠の大半が、これで無効化された。
 義衛郎を先頭に、文佳とユーヌの切り開いた道をフツ、竜一、アンジェリカの順番で飛び超える。
 ごう、と足元から噴き出した業火の柱が義衛郎を飲み込んだ。義衛郎は、全身に大火傷を負いながらも、炎の柱を突破する。
「オレ程度で耐えられるんだ。貴女の作る地獄も、存外に生温いんだな」
 義衛郎の刀を、黒鬼の金棒が受け止めた。しゅるり、と義衛郎の足元から伸びた黒縄が、彼の身体を縛りあげる。黒鬼の拳が義衛郎の胴を捉え、その身を地面に叩きつけた。
「あんたのそれは、善行のつもりなのかもしれない。が! 悪いね、俺は救済なんて必要ない。押し付けがましい救いなんていらない。俺は! 俺の手で! 道を切り開く! 生きるってのは、そういうことだろう!」
 大上段から振り下ろされた竜一の刀が、黒鬼の首を切り落とす。
 開いた空間に、大鎌を構えたアンジェリカが身を滑り込ませた。
「君とボク、どちらが地獄の姫に相応しいか勝負だよ」
『どうでもいいわ……。それより、邪魔をしないでよ』
 頬を引きつらせ、地獄姫が後ろへ下がる。近距離での戦闘は不得手なのだ。する、と片手をあげて地獄の黒縄を呼び出した。黒縄は、まるで蛇のようにのたうって、アンジェリカに襲いかかる。
「おっと。そうはさせないぜ」
 槍を手放し、フツが飛んだ。アンジェリカを突き飛ばすようにして、代わりに自身が黒縄を受ける。
 バランスを崩した地獄姫が、その場に倒れ込んだ。陰鬱な瞳に、僅かだが怯えの色が浮かぶ。
「この世界が例え地獄のような所だったとしても、生きるのが辛いか否かを決めるのは君じゃない。ボク達自身だよ!」
 アンジェリカが鎌を振り下ろす。閃光が瞬き、アンジェリカの姿が5重にぶれて見える。
 地獄姫を囲うように、彼女の周囲に巨大な刃が突き刺さった。
「わかったら、さっさと帰ってよね」
 そう告げるアンジェリカに向かって、地獄姫は無言でこくりと、頷いたのだ……。

『きっと……。これからもこの世界は崩壊へと向かって行く。そうなったら、ここで地獄に飲まれて死んでいた方が幾分マシだったと、そう思う時がくる』
 Dホールに沈みながら、地獄姫は最後にもう一度そう告げ、この世界から去って行った。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
数々の地獄を突破し、無事に地獄姫を元の世界へ送還することに成功しました。
依頼は成功です。
現世に現れた地獄を突破する今回の物語、いかがでしたでしょうか?
お楽しみいただけたなら幸いです。
縁がありましたら、また別の依頼でお会いしましょう。
それではそろそろ失礼します。
今回はご参加、ありがとうございました。