●岩戸隠れ 『オレサイコー! SU・SA・NO・O・サイコー! あ、馬落しちゃった』 『きゃー! ……ばた』 『ああ、天井を破って振ってきた馬に天女Aが!』 『あんな横暴な弟と一緒にいられるか! 私は岩戸に篭る!』 『アマテラス様ー! 貴方に隠れられるとマジ迷惑なんすけど!』 天岩戸。 スサノオの横暴に嫌気が差したアマテラスが岩戸に篭り、高天原を闇に落とした。そのため大量の禍が発生し、世は混乱に陥ったという。 何とかアマテラスを岩から出そうと八百万の神は相談し、最終的にはアマノウズメが踊り、それが気になって岩を少しあけた時に、アメノタヂカラオが岩を開けてアマテラスを引きずり出したという。 その後『やっぱりスサノオが悪い』『あいつはアカン』ということで、スサノオは髭を切られて高天原から追放されるわけである。 さて、この伝説自体は地上ではなく天の出来事ではあるが、こここそが天岩戸だという場所は日本にいくつもある。その中の一つ、宮崎県にある天岩戸神社。ここは天岩戸を御神体としていた。 それ自体はただの伝承だが、そこに神がいると信じれば力がたまる。誰もが知りうる伝承であるが故に、その力は膨大だ。 パワースポット。 アークは今、崩界回避のために日本各地のパワースポットを求めていた。 ●アーク 「なぁ、隣のブリーフィングルームで派手に騒ぐ女の声が聞こえるんだが……」 「気にするな。ウズメダンサーのアクターが決まっただけだ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)はリベリスタの質問を一蹴し、何のことか疑問に思うリベリスタに説明を開始する。 「お前達も知っての通り、アークは神社や寺などのパワースポットを利用し、崩界度を下げようとしている。こいつは結構リスキーで失敗すれば崩界度自体があがってしまう」 頷くリベリスタたちを確認し、伸暁は言葉を続けた。 「宮崎県天岩戸神社。儀式はここで行われる。まぁ、儀式自体はベリーイージーだ。派手に騒げばアマテラス様が顔を出す。アンダスタン? ところがこれを邪魔する輩が現れた。黄泉ヶ辻のフィクサードたちだ。世界を闇に包むという思想らしく、太陽の神様を岩戸に閉じ込めるつもりらしい」 黄泉ヶ辻。フィクサードの中でも『よくわからない思想』を持つ者たちが集う団体だ。崩界など誰もが望まないのだが、黄泉ヶ辻なら望んでもおかしくない。それぐらいに彼らは歪んでいた。 「連中は実際の儀式場ではなく、アマテラスを祭る東本宮を襲撃してくる。妨害を防がなければ、西本宮で行われている儀式が成功しても神様不在で結果として崩界度は下がってしまう。なので連中を追い払おうというわけだ」 成程、とリベリスタは納得する。 「黄泉ヶ辻はダークナイトを中心とした部隊だ。連中は味方を巻き込んで攻撃、なんてのは普通にやってくる。気をつけてくれ」 了解、とリベリスタたちは頷きブリーフィングルームを出た。 ●闇を撒くもの 「悲しいこと、辛いこと、全部全部目を閉じなさい。全て闇が覆い隠す。母の胎盤の安らぎで世界を包みましょう。 これは救済。死は全てに平等に訪れ、滅びは約定された事項。その現実から逃れられないなら、闇で全てを包み込む」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年09月06日(土)23:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 黄泉ヶ辻という組織は、有り体に言えば狂気の組織だ。 首魁の京介を初め、基本的に思考が世間一般からかけ離れている。真崎も然り。 「胎内回帰願望という奴か」 『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)は真崎の言葉を聞いて、ため息混じりに呟いた。理解できんと言外に語りながら、戦いの覚悟を決める。不撤退の覚悟を身に刻み、白の腕輪を腕に填めた。 「胎盤の闇の安らぎか。人は基本闇を恐れるものだと思っていたが」 戦場の暗闇を知る『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は真崎の口上を狂信と切って捨てた。恐れるべきは相手の実力のみ。思考を戦闘に移行して、仲間に再生の付与をかける。 「死を恐れ、暗愁し、安らぎを得たいと言う趣旨は判らんでもないが。でもなぁ母胎回帰願望とかあれだろ、君ら童貞だろ?」 煙草を吸いながら『足らずの』晦 烏(BNE002858)が静かに告げる。死を恐れる気持ちは誰もが持っている。死生観は人間という生命が持つ命題の一つなのだろう。いいながら隣にいるリベリスタをちらりと見た。 「リベリスタ的にただでさえ上がってる崩界度を……って、童貞?! なんでそこで僕をみるの?!」 上げるわけには行かないよね、と言いかけたところで烏に見られ、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が慌てたように口上をとめる。その後否定も肯定もない辺り、お察しください。 「祭りの邪魔をさせるわけにはいかないからね。ここじゃ破壊の神の加護は嫌がられそうだが」 自らに破壊の神を降しながら『縞パンマイスター竜』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)が両手に破界器を構える。日本刀と西洋剣。二振りの刃を携えながら、神を護る軍神となるべく神社の前に立つ。 「昼も夜もバランス良くあるのが一番だと思いますけどね」 そう口を開くのは白と赤を基調とした服を着た『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)。その服装は神様を模したもの。神話を護る意思表示として、小夜が着る決意の一つ。 (祭りには間に合いそうにないか……) 西本宮で行われている祭りを気にしながら『どっさいさん』翔 小雷(BNE004728)が拳にバンテージを巻く。ここで負けるわけには行かない。祭りそのものが無に帰す可能性があるからだ。 「……忘れろたぁ……面白ぇ事言うなてめえら?」 小さく、しかしはっきりと『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が呟く。破界器を握り締め、言葉に怒りを乗せる。忘れたいことはある。辛いこともある。でも忘れることが幸せではないことは確かだ。なのに。 「ふふ。ご理解していただけないのは残念ね」 否定されてむしろ笑みを浮かべる真崎。それが人としての当然の反応で、そういった人間が世間に絶望して心折れるのをみている。そして彼女はそんな人たちを『救う』つもりなのだ。そのために、世界を闇で包む。 太陽神の元、世界を護るものと世界を闇で包む者の戦いが開幕する。 ● 「どーもご機嫌麗しゅう、朱音ちゃん。いいおへそありがとうございます!」 真崎の格好に感謝しながら夏栖斗が躍り出る。視線を前衛のフィクサードたちに向け、トンファーを構えて、重心をわずかに下ろした。闘気を鋭く尖らせ、前に立つフィクサードたちに突き刺すように飛ばした。 それは無刃。されど殺気は本物。相手の恐怖心をあおり、こちらに攻撃を向けさせる夏栖斗の技。自らに攻撃を集中させることで仲間を守り、勝利を導く為の策だ。フィクサードからの攻撃をトンファーで受け止めながら、笑みを浮かべる夏栖斗。 「見るだけで満足なのかしら?」 「や、それ以上は!」 「押されると引くあたりがなぁ」 そんな軽口を叩きながら烏が真崎のほうを見る。破れた服から覗くへそ、では無く禍々しい文様を。あれが若いころの妄想を引きずっているからとかなら、楽な相手だろう。だが、そうでないのなら楽ではないということだ。 神秘の力を圧縮し、光を放つ。爆発するように閃光と轟音が響き渡り、夏栖斗に引き寄せられたフィクサードを巻き込んだ。閃光はフィクサードの加護をはがし、轟音がその動きを止める。 「悪いが付与は早々に剥がせて貰うよ」 「そうね。私でもそう動くわ」 (む……? 思ったより理知的なのか) 伊吹は僅かな会話で真崎の思考を読み取ろうとしていた。狂気に走る胎盤回帰のように見えて、前衛後衛をしっかり分ける戦術を持つ。狂った連中と侮れば、あっさりとひっくり返されるだろう。 真崎の視線を追う伊吹。視線は閃光を放った烏に。しかし軸足は小夜のほうに。決定打はククリナイフの僅かな角度の違い。真崎の狙いは回復を行う小夜だと察し、彼女を庇う為に足を動かす。 「手は出させんよ」 「面倒な相手が庇い役になったわね」 「苦手でしょうね。覚悟で毒をうち消す相手にダークナイトは」 真崎の言葉に答えるようにうさぎが言葉を返す。半円型の破界器を握り締め、ダークナイトの懐にもぐりこむ静かに歩み、意識の隙間に滑り込ませるように刃を振るう。気がつけば複数人のダークナイトが血塗れになっていた。 「そりゃあ現実はヤなもんです。 白黒はおっぱいに走りやがるし、前科は笑える位山積みだし、白黒は見るたびイチャついてやがるし、昔と今の折り合いは未だつかねえし、白黒はもう全身の骨砕ければ良いのに」 「あら大変ね。白黒君もあなたも」 「どうも。ですけど それらの全部が私の材料なんだ」 相槌を打つ真崎に手を振って、うさぎは破界器を構える。痛みも苦味も目を逸らさないことが自分を形成するものなのだとばかりに。 「肌を露出させる格好とかけしからん! へそちらとか!」 ちらどころかもろへその真崎を指差して、竜一が二刀を構える。全身の力を振り絞り、剣に力を篭める。大事なのは力で叩きつけることではない。斬撃の瞬間に力を篭めることだ。常に力を振り絞っていては、すぐに力尽きてしまう。 狙うは目の前のダークナイト。閃光で目がくらんでいる相手に近づき、足を踏み込んだ。踏み込んだインパクトを膝、腰、正中線を通して両肩、そして肘、手の平、そして剣に伝える。筋肉を振り絞り、伝達された力にブーストする。そのまま刃を振り下ろした。 「けども、きっと見せたがりなんだろう。なら仕方ない」 「福利厚生の水着も真崎女史相応と思うのだが」 「水着は水着。これはこれ!」 そうか、と短く答えてウラジミールがナイフを構える。ダークナイトの一人に近づき、その足を止めた。目線、手足の向き、相手の心理。全てを読みきり、ウラジミールは相手を背後の味方のほうに向かわせないようにする。 どうするか。相手の躊躇の間隙にナイフを取り出し、突きだす。時間に刷れば文字通り瞬き一つの躊躇。その隙すら逃さずにウラジミールは責める。突き出したナイフはまさに稲妻の如く。絡みついた稲妻が鎖となる。 「そう急くな。ゆっくりしていくといい」 「こう見えても忙しいのよ。貴方達を廃して、太陽神に色々しないといけないの」 「そんなことはさせません」 破界器を構え、小夜が真崎を見据える。相手が神話を壊すなら、こちらは神話を護るために。小夜に直接相手を退ける力はないが、仲間を支える力は十分に備わっていた。大きく息を吸い、大気を取り入れる。 体内を循環する静謐な空気。それは小夜の神気となって術を動かす力となる。心臓の鼓動にあわせるように呼吸を繰り返し、取り込んだ空気を歌に変えて奏でる小夜。清らかな声が響き渡り、リベリスタの傷を塞いでいく。 「天岩戸は守ります。貴方達に手はださせません」 「できるかしら? 狐のお嬢さん」 「やってみせるさ!」 挑発に答えるように小雷が叫ぶ。拳に巻いたバンテージに力を篭めて、足の向きをそろえる。筋肉を弓のように引き絞り、解放すると同時にフィクサードに踏み込んだ。真っ直ぐ拳を構えて、腹部に突き出す。 腕に伝わる確かな衝撃。小雷の攻撃は一撃に留まらない。水が流れるように力を流し、次の攻撃に移行する。突き出した拳を引くと同時に反対側の拳を振りかぶる。足の向きを変えて力を伝達させ、さらなる一撃を加えた。 「行ってみるか? 無明の世界に。片道切符なら出してやる」 「威勢がいい子は大好きよ」 リベリスタの攻勢を見ても、真崎の表情は変わらない。流石、と褒める気配すらあった。黄泉ヶ辻の闇が静かに牙を剝く。 だが、リベリスタはそれに臆しない。強い光をもって、闇を照らす。 ● (敵は再生に長けているとはいえ、回復役は居ませんから、そう長期戦にはならないでしょう) 小夜の読みは当たっていた。ただしそれは回復不在で尽き果てるという意味ではなく、黄泉ヶ辻の戦略的なものだった。 黄泉ヶ辻フィクサードの戦略は前のめりだった。味方を含めて広域攻撃を仕掛け、前衛をまとめて攻撃するものだ。防御に長けたノーフェイスを置くことで耐久精度を増し、自滅覚悟で短期決戦を行っていた。 「散って。貫通攻撃主体で攻めなさい」 「むぅ、散開したか」 烏は神秘の閃光を放つ相手を決めかねていた。前衛の乱戦に巻き込めば味方も巻き込み、後衛のフィクサードは烏の初手を見て散開している。多くを巻き込むのは難しい。仕方なく一人一人を狙っていく。 「……くっ!」 「まだ倒れるわけには行かないんですよ」 小雷とうさぎがダークナイトの攻撃に絶えきれずに膝を突く。運命を燃やして立ち上がり、戦意をぶつける。 「仮初の安らぎなどに留まりはしない」 後衛から飛んでくる闇の一撃を受けて、庇い役の伊吹も運命を削る。 「本当に前衛巻き込んでくんだな!」 夏栖斗がトンファーと足捌きで前衛のダークナイトを助成の盾にするように動きながら叫ぶ。一直線に跳ぶ闇の一撃は仲間フィクサードを巻き込んで夏栖斗にも叩き込まれる。最も夏栖斗も同じ軌道の攻撃でフィクサードを巻き込めるのだが。 リベリスタの前衛は夏栖斗、うさぎ、竜一、ウラジミール、小雷の五人。フィクサードもダークナイト三人とノーフェイス二人。数は全く同じだった。ここまでは。 「じゃあ、楽しませてもらうわ」 そこに真崎が入り込む。踊るように乱戦に入り込み、ククリナイフを振るう。動くたびに禍々しい紋様がリベリスタの視界に映る。複数人を巻き込む闇の演舞。そして―― 「闇の世界!」 前衛の数で勝ったフィクサード。その一人がリベリスタの前衛を突破して、後衛の小夜のほうに向かう。同時に別のフィクサードが神秘の闇を展開する。闇が視界を遮るが、真崎はそれを意に介せず攻め続ける。 「闇の中で見えるという事は暗視か……貴様たちもただの闇は怖いということか」 「いいえ。純粋な戦術――闇による射線封鎖よ」 ウラジミールの問いかけに真崎が答える。前衛が闇に包まれれば、後衛から視界は届かなくなる。回復などの援護が一時途切れれば、そこに隙を見出すことができる。 「……最も、対策はとられていたみたいだけど」 闇の中、変わらず動くリベリスタを見て、真崎は肩をすくめる。全員が闇を見る神秘を持ってこられては、どうしようもない。 後衛に突貫したフィクサードを伊吹が足止めしようとして、一歩遅れる。小夜を庇うことを一義としていた為、出遅れた。已む無く小夜を庇い続けり伊吹。 (教義自体を否定するつもりはない。俺とて何もかも捨てて目を背ければ楽になれるかもしれないと思ったこともあった) 伊吹はせめて来たダークナイトの攻撃を捌きながら、静かに思う。生きるということは苦難の連続だ。それから目を背けたいという気持ちは、誰にだってある。だが、今それを受け入れるわけには行かない。 「ノーフェイスの庇いが面倒だな……これでどうだ!」 ノーフェイスの守りでフィクサードにダメージが通らない状況を打破する為に、竜一が二刀を振るい衝撃波を放つ。耐え切れずに吹き飛ばされるノーフェイス。 「闇が安らぎ? 違うな! 人の根源とは、混沌だ! 故に、おねーさんたちが救われたくば……原初の混沌たる俺にむぎゅむぎゅ抱かれるのが一番だ!」 「女性限定?」 「男は知らん!」 清々しい竜一であった。もっとも、相手をしているのは男ばかりなのだが。 そしてリベリスタの攻撃がガードの空いたフィクサードに集中する。 「ぶっは! さすがにきついね!」 「おじさんはきったはったは得意じゃないんだけどね」 あえてターゲットとなって集中砲火を受けていた夏栖斗と、後ろから閃光を放つ烏がフィクサードの攻撃で運命を燃やす。 しかし趨勢はほぼ決まったといってもいい。短期決戦で決められなかった以上、継戦能力の差が大きく出る。事、小夜の回復はリベリスタをよく支えていた。 「祓え給え、清め給え、守り給え、幸え給え」 祝詞を唱え、神秘を解放する。神社を乱す者を祓い、清め。そして神社を護る仲間を守り、そして幸あらんことを。短く、略された言葉。されどそこに篭めた思いは強い。闇に傷ついたリベリスタの傷が、癒えていく。 「闇に安らぎを求めるだけで、死んじゃいたいとは思ってないんでしょ。引き際も大事だとおもうけど」 フィクサードとはいえできるなら殺したくない。そう思う夏栖斗がフィクサードに降伏を勧める。 「あら優しいのね。生憎とこの機会を逃すつもりはないの」 だが真崎はその勧告を拒む。自らの狂気(もくてき)の為に命をかける。たとえそれが望み薄くとも、諦めるつもりはなかった。 「生きるとは孤独な旅なんかじゃない。共に歩む仲間がいるんだ、逃避に走るのは惜しいもんだよ」 「負の感情を共感する仲間もいる。逃げることで安らぐ心もある。貴方の言っていることは正しいけど、正しさに押しつぶされる人もいるのよ」 烏の言葉にナイフを振るいながら真崎が答える。万人が前を見ることができるほど強くはない。そして強くないからこそ、歪み狂う。優しい言葉が届かぬほどに。 「まだやれるよ」 ウラジミールが放つ光が、リベリスタの毒を癒す。ダークナイトの与える毒と闇に対して、ウラジミールも十分な支えとなっていた。攻撃を受けて運命を燃やすが、それでも臆することなくリベリスタを支え続ける。 「再生持ちはしぶといからな」 倒れたフィクサードを睨み、完全に動かなくなるのを確認するウラジミール。死んだふり、などされてはたまらない。確実に倒していく。 「折角の色っぽい格好、闇で隠すにゃ勿体ないですよ? ……ガン見してる人達もいますしね」 うさぎが真崎に切りかかりながら、そんなことを問いかける。その肌も傷だらけだ。それでもなお、戦いを止めるつもりはないようだ。 「忘れないことが、覆すことのできない過去に対して唯一できることなんですよ」 いつもの無表情でうさぎが口を開く。それが辛くないとはいわない。だけどそれができることなのだ。そこから目をそらすことは、許されない。 「貴様の身に何があったかは知らないが都合の悪い事に目を瞑り、前を見ることをやめて幸せになれたのか?」 小雷がフィクサードに語りかける。話し合いで決着がつくとは思っていない。だが、問わずに入られなかった。 「ただ、辛いことから逃げ回っているだけじゃないのか?」 「そうね。辛いことから逃げているわ。 責めるなら責めなさい正義の味方(りべりすた)。貴方達は正しいの。だけどそうすることで幸せになれる人もいる。理解は到底できないでしょうけど、そういうことなのよ」 返ってきた答えは肯定だった。逃避を良くないと認め、その上でそれを行う。狂気の黄泉ヶ辻故の現実逃避か、あるいは狂ったからこそ黄泉ヶ辻に入ったのか。 一人、また一人と倒れていく黄泉ヶ辻フィクサード。彼らに撤退の文字はなく、ただ真っ直ぐに攻め続けて来る。 「女性は……へそちらさんは殺したくないのだが!」 竜一は真崎に刃を向ける。真崎のククリナイフを弾き、隙を見つける。身体をひねり、刃を真崎に脇腹に向けた。全身の筋肉を振り絞り、横一文字になぎ払った。文様が血で赤く染まる。 「ふふ……こんなに世界が赤いと、闇で染めるのは大変……ね……」 カラン、とナイフが落ちる。糸が切れた人形のように、真崎は地面に崩れ落ちた。 ● リーダーの真崎が倒れたあとも、黄泉ヶ辻は最後まで抵抗した。 だが、真崎は精神的な支柱となっていたのだろう。ただ自棄になって攻撃してくる者達に苦戦するリベリスタではない。掃討にそれほど時間はかからなかった。 「……だめですね。皆さんお亡くなりになってます」 うさぎが倒れているフィクサードの脈を取り、全員の死亡を告げる。 「全員死亡か……後味悪いな」 敵対してきた以上、夏栖斗も加減はできない。ましてや相手は狂気に捕らわれた黄泉ヶ辻なのだ。この結果は仕方ないといえよう。 「これでアマテラスは守られたということでしょう」 小夜が祈りを捧げ、幻想纏いに装備を直す。西本宮のほうを見て、そこで行われている祭りを思う。 「宴会に合流しよう。間に合うといいのだが」 伊吹が西本宮で行われている宴に参加しようと立ち上がる。時間的には難しいだろうが、顔出しぐらいはできそうだ。 痛む身体を押さえながら、リベリスタたちは立ち上がる。 人生は長い。辛いことに逃げることも闇に篭ることもあるだろう。 だが、闇と同じく光はある。それは闇と同じく自分の心の中に―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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