●簒奪の角 とある森の中。 生命力の溢れる夏のある日に、それは現れた。 白の体に銀のたてがみ、そして額には碧緑に薄く輝く一本の角。 それは一角獣の馬の姿をしていた。 優しげな青い瞳に魅入られるように、その者の傍へと多くの動物達が集まっていく。 その嘶きを聞き、足音を聞き、纏う気配に誘われて、彼らは引き寄せられていく。 角が、より強く輝いた。 そして。 集められた動物達は、その命を奪われた。 倒れ伏す彼らを見下ろして、一角獣はもう一度嘶いた。 ●アザーバイド“デュニコーン” 集まったリベリスタ達を前にして『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は気を張った。 「小規模なD・ホールの発生を確認後、そこよりアザーバイドの出現を確認しました。数は2体。同種と思われます」 彼女の提出した資料には、ファンタジーの物語等に登場する一角獣、ユニコーンと非常に類似した生物が描かれていた。 「彼らの角は周囲に存在する特定の生命体からその生命力を奪う能力を保有しています。これは周囲の動物や人間から無作為に実行する事が可能なようです。生命力を奪われた存在は、軽度であれば疲労を、重度であれば死に至ります」 物語におけるユニコーンの角は万病に効く特効薬であったりするが、これはその真逆、死に至らしめる凶器であると言えた。 「既にD・ホールは消失を確認しておりこれ以上の出現はないものと思われますが、2体だけと言ってもその被害は大きな物となり得ます。早急に対処を必要とする案件と言えるでしょう」 今はまだ人気のない森の潜伏しているというが、これが人の多い場所に出ようモノなら甚大な被害が発生する事は想像に難くない。 緊張感を持った彼女の言葉にも、その意味を推し量るのは充分であった。 「彼らの特殊な能力の最たる物はあの角に起因しています。どうにかそこを破壊できれば活路は見いだせるのではないかと、私は思っています」 真っ向から挑むのも手ではあるが、その場合壮絶なダメージレースになるだろう。どう戦うか、チーム内での意思疎通、連携が大切と言えた。 「アークに属するリベリスタとして、皆さんの尽力を期待します」 短く言葉を切った和泉は、これから戦地へと赴くリベリスタ達を前に深く頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:みちびきいなり | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月29日(金)22:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●おとなしの森 未だ夏の日差しを感じる森の中、『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は戦慄を得ていた。 (見つけました、見つけましたけど……!) 彼女の視線の先、数多の障害物を透過し見据える先に、今回の目的であるアザーバイドの姿があった。 頭数二。有角の馬の姿を持つそれらは、付かず離れずで拓けた場所で休んでいる。ともすれば自然の一部として違和感ない程に溶け込んで。 だが。 (他の生き物の命を奪うとか酷いですよう、やーん) イスタルテはそれら以外に、動く物の姿を何一つとしてその目に捉えられていなかった。 「植物を枯らしていない辺り、角の力は生きている動物相手に適用されている様ね」 報告を受け、『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)は表情を引き締めた。彼らを元の世界に還せるならばと思いもしたが、それも叶わぬ現状では撃破以外の道はない。その思いを強める。 「ん。何カ所か候補、ありそうだ」 「お疲れさん」 イスタルテと同じ様に千里眼を駆使していた『てるてる坊主』焦燥院”Buddha”フツ(BNE001054)が、自らが有利に立ち回れそうな場所を森の中に探り当てた。彼からの報告を受けて、フツの相棒でもある『縞パンマイスター竜』結城”Dragon”竜一(BNE000210)は気合を入れた。 「この森の木々も、俺の足に掛かれば舞台のステージと同じだぜ」 類まれなるバランス感覚と角度を選ばぬ足場取りの技術を有する竜一にとって、この戦場は何ら惑いを得る物ではない。自信と信頼を以て彼は相棒に笑い返す。 「で、どうやってそこまで誘導する?」 「えっ」 「えっ」 沈黙した。 BoZの視線が仲間達へと向く。眼鏡ガールは首を大きく激しく左右に振り、世話好き美人も苦笑を浮かべながら首を左右に振った。 「ぶっつけ本番でも出来なくもないですが、不足によって何が起こるか分からない以上無理はするべきではないかと」 「………」 『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)の冷静な突っ込みと、竜一の彼女でもある『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の無感情に見える視線がBoZの二人を貫く。 「「………」」 可能なら引っ張ってみる。そこに落ち付いた。 「あ、それはそうと君達処……」 「「言わせねぇよ!?」」 今がチャンスとばかりに個人的に大事な事実を確かめようとした『トーレトス』螺子巻 言裏(BNE004974)の言葉はBoZによって阻止された。 が、阻止された当人はBoZを見て何をどう好意的に解釈したか、 「二人とも、恥ずかしがらなくてもいいんだよ?」 なんて嬉しそうに続けていた。 『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)も戦う姿勢を取った辺りで、軽いおふざけの時間は終わりを告げた。 「デュニコーン、動き出しますよ……!」 アザーバイドに与えられた名を口にして、イスタルテが小声とハンドサインで警戒を促す。合わせて、小夜香が飛翔の加護を全員に行き渡らせていく。 リベリスタ達は意識的に低空飛行を行いながら、各々が戦うに利する位置へと移動する。 「「!?!?」」 デュニコーンが敵対するそれらに気が付いたのは、その直後の事だった。 誰よりも早く相対したユーヌが言う。 「穀潰しの大食らいめ。餓鬼道ならば同類溢れてお楽しみだろう? 飢えて乾いて苦しみ果てろ」 殲滅の意志を口にした彼女の言から、戦いは始まった。 ●角砕き リベリスタ達がまず取った行動は、敵の連携を封じるべく距離を開かせる事だった。 最速でデュニコーンの一体に肉薄したユーヌは、眼前の敵を足止めし、手にしていた拳銃の引き金を引きもう一体のデュニコーンへと撃ち込んだ。が、ノックバックの威力を持った銃弾は、命中するもその役目を果たせずに終わる。 一角獣の瞳が敵を捉え、その巨躯を動かし始める。 膝を折り、地に伏す様に体を屈めつつ力を溜めて、次の瞬間。 「!!」 爆発的な速度でユーヌへとその体をぶつけに行く。僅かに反応が遅れたがユーヌも咄嗟に身を逸らし敵の力に逆らわず舞う様に体を踊らせ、滑らせ、直撃を避ける。 決して生命力に秀でているとは言えない彼女にとって、それだけでも消耗を強いる展開となった。が、状況はそれだけで終わらない。 (燐光? 角か!) 即座に空を蹴り位置を変える。直後、彼女のいた場所を光を纏った角が掬った。こちらも最小限までダメージを抑え込んだが、体に満ちる疲労感に生命力が奪われた事を自覚する。 (だが、避けられない訳じゃない) 自らの役目を果たせる事に確信を得て、彼女の瞳に再び闘志の火が灯った。 瞬撃のやり取りを見たもう一体のデュニコーンは、しかし周囲に複数の敵対する気配がある事を見逃さなかった。 「……ヒヒィィィィン!」 声を上げる。聞く者を震わせ、竦ませる畏怖の嘶きが戦場に響き渡った。 だが、竜一はそれを意に介さず真っ直ぐに嘶いた一角獣へと突っ込んで行く。後に続く相棒が二体の間に割り込む様な位置に駆けていくのを尻目に、自らを強化し纏った戦気のままに相対する。 彼もまた二体がこれ以上接近しない様、牽制の一撃を眼前の敵ではないもう一方へと撃ち込んだ。 たたらを踏んだデュニコーンに、急速に接近する影がある。 「ねぇ、ボクの槍と突き合ってみるかい?」 言裏がユーヌの脇を抜け、彼女と相対するデュニコーンに側面から攻撃を仕掛ける。ダメージを与える事以上に、自らの存在をアピールする目的の強い一撃だ。 目論見通り敵は言裏を認識し、ユーヌと二人を相手取る構えを見せる。これならば攻撃が彼女一人に集中する事は減るだろう。 視線を送る彼女は自分よりも実力が上のリベリスタ。その補助は必要としていないかもしれない。しかしそれでも、言裏は言裏の信念に基づいて肩を並べた。 「ブルルッ!」 首を振り、気を入れ直した竜一と相対するデュニコーンが、その角を一際輝かせる。戦場に居る全ての命を簒奪する角の力が発揮されたのだ。 どうやら直接的な連携を取れないと見たのか全体に影響を与える手段を選択をした様である。 その威力はリベリスタ達全員を対象に含み、更には自らの傷を癒す。ユーヌの弾丸が残した痕も、跡形もなく消え去った。 だが、その簒奪に対抗しうる力をリベリスタ達は、中でも彼女達は持っている。 「癒しよ、あれ」 小夜香の祈りが生命力を奪われた仲間達を癒し、先程の嘶きで動けなくなっていたり、角の力で戦う力を奪われていた者を解放する。 「た、助かりました~。力が入らなくて……」 「私の方こそありがとうございます、セイジさん」 互いに礼を言い合うイスタルテと小夜香。嘶きから小夜香を庇ったイスタルテと、傷を負ったリベリスタ達を癒した彼女は共に後方から仲間を援護する。 誰かを守る事を第一義とする小夜香にとって守られたという事実に思う所はない訳ではないが、それ以上に多くを守り支える為に必要な事だと彼女は理解している。 (仲間が私の為に傷を負うというのなら、それにも増して癒し、守り、支えましょう) 彼女の意志は鋼よりも硬い。 行動を終えたデュニコーンの角がその輝きを収めた瞬間に、新たな動きが生まれる。 あばたによるB-SS。神速の連射がデュニコーン達の本体、そして誇りの如く天を衝く一角を捉え、撃ち抜いた。 連続で撃ち込まれた高威力の弾丸は対象の肉を穿ち、角を削ぐ。 「………」 あばたの目は、発生したダメージ、敵の反応、目視の傷の出来具合等、得られる全ての情報を見て、判断していく。 「やはり、角の力で治癒されるのは本体へのダメージだけの様ね」 直観を働かせた小夜香の言も参考に、あばたはこちらの戦力であの角を破壊するまでに掛かる労を考えて―― 「……壊せない訳ではない、か」 判断の難しさに、心の中で舌打ちをした。 ●退かぬという事、退けぬという事 それからしばらくは、互いに決定的な変化を生み出さないまま膠着した戦いを展開していた。 とはいえ、敵の攻勢は激しく気を抜けば一撃で流れを持って行かれかねないこの状況は、リベリスタ達へと大きなプレッシャーを与えていた。 「オオオオオオォォッ!!」 最大最高の威力を込めた竜一の二刀の一撃は、しかし角の芯を捉え切れずに十全な結果を生み出さない。 「ぐぅっ」 足で大地を踏み反動を堪える。食い縛った歯から血が滲んだ。反撃を仕掛けようと身を屈めるデュニコーンを、あばたの弾丸が妨害する。 体当たりを無理と見るや否や、撃ち抜かれた反動を利用して前脚を持ち上げ、デュニコーンは傍に立つフツを巻き込み踏み付けんと振り下ろす。 「こなくそ!」 相棒のフォローをするべく真っ向から受け止めて、フツが叫ぶ。一撃を受け止めた瞬間メタルフレームの体が軋み、加護が消え、節々に痛みが奔るのを感じた。 展開していた力場が眼前の敵に対して傷を返したのと同時に、手にしていた符を弾く。符は数多の鳥となり眼前の一角獣の角目掛けて殺到した。 夥しい数の嘴に晒され、デュニコーンの口から苦痛の叫びがあがる。 角の崩壊まで後僅か。 そんな時、もう一体のデュニコーンと相対する者達の中に新たな動きが生まれる。 リベリスタ達にとって好ましくない展開。 「……カハッ!?」 言裏の体が望まぬ形で宙を舞った。攪乱するべく移動を行っていた最中に、真正面から体当たりで狙い撃ちされてしまったのだ。 弾かれた小柄な体は森の木に当たり、威力を殺しきれずにその一本を薙ぎ倒し大地に転がされる。意志を奮い立たせて立ち上がろうとするも、続く角の簒奪をまともに受けてしまっては再び地に膝を折り動けなくなった。 元より作戦に参加したリベリスタの中では遊撃向きで囮に適した体力や防御、回避手段を持つタイプでは無かった以上、むしろここまで持たせた言裏の意志を褒めるべきだろう。 ユーヌが呼び出せた影人の数は今を以て三体。既に二体は同じ様に相手の猛攻で消滅しており彼女がこの場を離れる訳にはいかなかった。 何より彼女も、比較的回避出来る状態であるとはいえ安全とはとても言えない状況にあるのだから。 状況は刻一刻と変わっていく。 震えあがる体を無理矢理動かし、あばたが戦術を切り替えた。 二体を巻き込んだ弾丸のばら撒きを止め、一撃により研ぎ澄ました殺意を込めて二挺の拳銃の引き金を引く。狙うは砕け掛けの角。 (持久戦になど、持ち込ませない) 高い命中精度を誇るあばたの放った弾丸は、その狙い通りにデュニコーンの角を撃ち抜いた。 根元から、折れる。 「――――――――――――――ッッ!!」 角を折られたデュニコーンから声にならない叫びがあがった。 首を振り、傍に居た竜一とフツとを巻き込んで暴れまわる。だがそうして自らに傷を負っても、それはもう治癒しなかった。 戦局は一進一退。どちらも傷つき、どちらも疲弊している。 「本体!」 その叫びは前衛の誰の声だったか。号令の様に響いたその言葉にリベリスタ達の攻撃が角の折れたデュニコーンへと集中する。 角を持つデュニコーンが隙を突いて攻撃に転じる。だが、それを受けたのはユーニの作った影人だ。影人はその身を爆散させながらも主の、主の仲間達の盾となった。 攻撃を妨害された一角獣はそのまま角の力を振るう。自らの存在感を誇示する様に、戦場に在る者達からその命を簒奪する力を。 「……! いけない!」 それに気付いたのは、直観して戦局を見つめていた小夜香だ。 「小夜香さん?」 簒奪に対してイスタルテと共に身構えていた小夜香は、我が身も顧みずに駆け出す。命を奪われる強烈な疲労感を感じるが、それ所ではなかった。 「ぁぁぁぁっ……!!」 戦う力を無くし倒れ伏していた言裏から苦痛を訴える呻き声があがった。間に合わなかった。 駆け寄った小夜香は言裏にまだ息があるのを確かめてホッとため息を吐く。 そう、簒奪は周囲に居る生者から死ぬまでその生命力を奪う能力だ。それは戦闘不能となった者からも容赦なく奪い去る恐ろしい攻撃なのだと、彼女は訴える。 小夜香の叫びにイスタルテは考える。戦闘継続の危険性、こちらが受ける被害の量。そこから導き出される戦いの境界線を。 そして彼女は気付いた。 (退き時の相談を、してきてなかった!?) 今、前線は死力を以て傷を負った一体目を仕留めるべく戦っている。だが、二体目はあばたの攻撃で削られてこそいたがその角は未だ健在。 対して此方は散発的な全範囲への簒奪に対しては広域治癒で賄っているが、庇い切れないダメージを前衛は負い、倒れる者まで出ている。 これからは後衛として戦闘不能者を庇うべく自分か小夜香かが動かねばならない事も加えれば、状況は最悪に近かった。 敵は還る場所を失い、生き残る為に絶対に退く事は無い。不退転、決死の覚悟で挑んでくる。 対して自分達は、撤退の用意をしておらず、退くに退けないという差し迫った状態に追い込まれるまま立っている。 被害が増える程に、自分達は不利になる。 角持ちが嘶く。瞬間、足止めを受けたフツに暴走する角無しの巨躯がぶつかる。吹き飛ぶ彼にもはや戦う力は残っていない様に見えた。 「……!?」 角が輝く。イスタルテは迷わず自らの体で言裏を庇い疲労を負った。 食いしばり立ち上がったフツも、起き上がりを狙った簒奪を受けてもまだ折れず、どうにか立っている様だ。 「皆、持ちこたえて!」 神格とも言える力を降ろして、小夜香の祈りが癒しの奇跡を呼ぶ。それでもフツや負荷を受け続けている竜一は完治しない。 退かぬ者、退けぬ者。どちらがどちらか分からぬまま、戦いは泥沼へと沈んで行く。 ●死力戦 角無しが倒された時、リベリスタ達は二人目の戦闘不能者を出していた。 前線に立つ者が減って、更に彼らの消耗が激しくなる。 「だが、後一体だ!」 「おう!」 血みどろになりながらもフツが吼える。応える様に竜一が疾駆し、残ったデュニコーンの角目掛けてこの戦場に立って幾度目かの全力を放つ。 火力を集中出来る様になり、敵の攻撃の向きも一面を見ているだけで済む様になったのは幸いだっただろう。 後は迅速に、斃されるより先に斃す。 幾度となく感じさせられる脱力感の中、それでもあばたの弾丸に狂いは生じない。 だが、先に体力に限界が来た。 度重なる全範囲への簒奪と、時折集中する攻撃の治療で癒し手が手一杯になる場面が重なって消耗がピークに達していたのだ。 前衛も後衛も、等しくその力を尽くし苦しんでいる。 「まだ、まだぁ……!」 一度折れた足を無理やり起こして、イスタルテは尚も倒れ伏した仲間の前に立つ。 「すぐに復帰してみせる。だから耐えて!」 気力を使い切った小夜香が悲痛な叫びを上げながら自らのマナを回復する。その微かな間が、リベリスタ達に更なる消耗を強いてくる。 「行けぇ!」 再びフツが吼えた。 火力に勝る相棒を届ける為、三度敵の矢面に立ちその攻撃を受け止める。 気力を奮い、裂帛の気合と共に敵の体当たりに立ち向かう。 強烈な衝撃を受けて、しかし。 (獲った!!) 軽快な笑みを浮かべ、フツは吹き飛び、糸が切れた様に意識を手放す。 それと竜一が遂に角の真芯を捉え、圧倒的な火力を伴う斬撃と共にそれを叩き折ったのは同時だった。 このデュニコーンもまた角を失った瞬間声にならない声を上げた。だが今度は、直後にその身を影が覆い隠した。 「鳴くだけしか能がないなど、体はオマケか?」 芸無く技無く怖く無く、ならばそんな物―― 「要らないな」 ボロボロのユーヌが展開した影は、デュニコーンに不吉不運の烙印を打ち込んだ。 あばたが朦朧としていた意識を取り戻す。癒しの加護を得たらしい。 角は折られ、勝敗が決したらしい事を理解する。敵は未だ健在なれど、もはや倒れた者に割く人員も必要ないのだから、手数に於いて負けは無い。 だから彼女は。 「……駆除」 迷いなく引き金を引き、デュニコーンへと痛打を与えトドメを刺した。 ●さなきの森 「自分達の角が、どんだけ厄介な物なのか、その身で味わってみろや……ってな?」 動かなくなり、その存在を消していったデュニコーンの骸のあった場所に、竜一は角を突き立てる。その角もまた、静かに消えて行った。 「……終わりましたね」 「終わった、の?」 「……あ」 戦いの熱冷めやらぬ中、イスタルテは森の声を聴く。 鳥の鳴き声、四足の獣達が大地を蹴る音。木々のざわめきに乗り空を舞う虫の声。 集まってくる生命の声に気づいて、遂に彼女はお尻から大地にへたり込んだ。 否、彼女だけではない。小夜香も、あばたも、その場に座り込んでいる。 「……へへ」 「……ん」 互いに支え合う様に立っている竜一とユーヌも、その支えが無ければもう立っているのも難しい位に消耗していた。 リベリスタ達は勝利した。 だが誰も彼もが疲労困憊で、倒れされた者も多い。彼らが運命すら捻じ曲げる意志の強さを持てていなければ、被害はそれに輪を掛けていただろう。 今回彼らが勝ったのは、決して作戦が優れていたからではない。退かぬまま挑み続けたその結果、拾った勝利である。 故に、勝つ為に払った代償も大きかった。 辛勝。 その言葉が相応しい勝利であった。 夏の終わりを感じさせる生命の声を聴きながら、彼らは今しばらく、動く事も出来ずにその場に留まる事となった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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