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<不可逆性方程式>破壊の魂 -Red Alert-

●ナイトメアダウン -1999.8.13-
『ジィィィィ! シィィィ! ハァァァァァ!』
 異様な熱気と気魄の中で、リベリスタの男が異形と交戦していた。
「こんなのが居たんじゃ、もう生存者なんていないだろうな」
 リベリスタは精悍な男である。生業はクロスイージスであった。
 正確には、交戦というには少し憚る。全力で防御を固め、異形の攻撃を最小限の被害に抑え、交戦から『30秒』も耐えていた。
『――ハRuラッ!』
 敵は、鬼といえた。
 血玉の様な赤一色の目を大きく見開いて、歯茎を剥き出しにした口には、大きな犬歯が垣間見える。耳の長い、一見人間の女性とも言えた容姿であったが、形相は恐ろしい。
 他の特徴として、右腕の筋肉が大きく肥大化していた。そこだけ皮膚が破れ、赤々としている。
「っ!」
 その赤々とした腕がミヂリと、一回り大きくなり、無造作に下される。
 咄嗟に左腕の盾で滑らせようとすると、先ずバキリと盾が砕ける。次にボキりと腕が折られる。折れた腕ごと男の鎖骨に敵の腕が接触する。
「っ!」
 たちまち男は、針鼠の如くに折れていない側の腕で異形の腹部へ拳をめり込ませる。鬼が距離をとる。
「ハハッ……意外に優しいんだな。それとも臆病なのか」
 男は血反吐を大きく吐いた。鎖骨だけではない。胸骨と肋骨もいった。
 眼前の異形は、クロスイージスとして、長い経験を積んでいた自らの防御技術を、純粋な力で捻じ伏せてくるのである。
「そりゃ、死ぬわな」
 男は手をだらりと下げながら、視線を横に目を向ける。視線の先は最初の10秒で引き千切られた部下の亡骸である。
「全く斥候失格だな」
 男は、不味い選択をしたと胸裏で反芻する。
 顛末として、男は3人の精鋭を引き連れて、特に被害が大きい地域の偵察を買って出たのであったが、奇跡的にも2人の姉妹――生存者を発見したのである。
(いたいよ。いたい。目が、みえないよ)
(お、おねえちゃん、が、なん、とかする。おねえちゃ、だもん。だからなかないで)
 生存者の姉妹は、目が消失していた。『巨人』を直視した事で眼球が爆ぜたか。
 黒い眼孔から涙と血が混じった液体を流していた。一目で革醒していると判別できた。この姉妹の悲鳴を聞きつけてきた『この鬼』が迫っていた。
「ま、アイツんところのガキと仲良くしてくれりゃ良いか」
 姉妹を部下の一人に託して時間を稼ぐ選択をした。
 偵察であるのだから、見捨てれば良かったのかもしれないが、結果的に男は助けずにいられなかった。男の脳裏に選択の連続のであった人生が流れていく。
 今日『アイツ』は連れてきていない。その選択だけは正解だった。
 危うく、自分の好いていた女を未亡人にする所だった。アイツの娘を母子家庭にする所だった。何より、気に入っていたアイツを死なせる所だった。
 異形が咆哮を上げて飛び込んでくる。右腕を振り上げる。
「舐めるな!」
 カウンターのように殴り返したと同時に、敵の腕は下される。
 男の名は、熾竜という。


●熾鬼と熾竜 -The Rage-
 アークは元々、あの『R-type』に対抗する為に作られた組織である。
 リベリスタ十年の空白を、或いは多数の犠牲を食い止める事が出来るかもしれないならば……
 1999年、暑い8月13日。そこには確かな希望があった。
「特変異個体、識別名『熾鬼レッドエル』を撃破する」
 『参考人』粋狂堂 デス子が真っ先に目的を告げた。
 アークは三高平市内に生じた次元の穴から『1999年の日本と見られる世界』に干渉を続けていたが、斜堂・影継(ID:BNE000955)提案の調査の進行により、アークはこの二つの世界は極めて密接な連続性を持つ可能性が高いという結論を得るに到ったのである。
 そして、その日が来たのである。
 『ナイトメアダウン』。
 アーク設立の根底にして、神秘史に残る大きな災厄の日である。
 多くの犠牲、多くの爪跡を残したその災害が、リンク・チャンネルの向こう側で起こるのである。
「アークとしての結論は、『1999年のリベリスタ』と共に『R-type』を撃退するというものだ。
 アーク側の『切り札』は三高平市地下に密かに格納されている『荷電粒子砲のアーティファクト・神威』だが、発動には時間が掛かる」
 そんなものがあったのかと驚愕と沈黙が入り混じる空間の中で、デス子はさらに続ける。
「切り札を使う為には、R-Typeを特定座標に固定せねばならんのだが、R-Typeの力によって変異した『赤の子(R-type変異体)』を撃破しなければならない」
 フュリエ達の故郷『ラ・ル・カーナ』における、バイデンと呼ばれた種族の出現もこれに因む。
 時を経てアークが『ラ・ル・カーナ』に降り立った際にも再出現したが、限定的にも関わらず、かの完全世界の神が大いに狂ったのである。
 一般人などがあてられてはひとたまりもないだろう。
「敵は『赤の子(R-type変異体)』の中でも特異な個体だ。周辺のチャンネルすら巻き込むR-Typeのすさまじい力に巻き込まれたらしきアザーバイドだな」
 その影響力をモロに受けた何かがプラズマスクリーンに映る。
「先の映像を見てもらったとおりに、リベリスタ組織【RD】の全員が、今日ここで、こいつに殺される予定だ。姉妹二人に関しては分からんが、少なくとも斥候の3人の帰りを待っている者も含めてな」
 憤怒の形相を浮かべた異形と、対峙する男は、過去のリベリスタである。
 2014年現在では、やはり全滅という事であるから、正史から外れる事である。
 だが、方針は決した。
「敵は基本的にパワータイプなのだが、決して偏っている訳ではない。神秘的な打撃も放ってくる。その威力は凄まじい」
 当時から大きく強化された現代のリベリスタが8人がかりで、勝てるかどうかという塩梅である。
 他にも強敵はいる。少数ながらも召し取らねばならない。……
「では行くぞ」
 デス子は、オートマチックをスライドさせる。 

 


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:Celloskii  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年08月29日(金)22:54
●勝利条件
特変異個体『熾鬼レッドエル』の撃破


●エネミーデータ
特変異個体『熾鬼レッドエル』
 周囲のチャンネルすら巻き込むR-Typeによって、どこかの別チャンネルから堕ちてきたアザーバイドの変異体です。一見人間の女性に見えますが、耳が長い事と、右腕が異様に肥大化しています。
 特定の種族か、タワーオブバベルで何言ってるかは分かります。
 攻撃力がかなり高いです。
A:
 ・超怒号
 ・エル・バーストレイジ
 ・エル・レイジイントルード
 ・バイデンハート(EX)
P:
 ・超反撃           [反][反][反][反]
 ・怒りの化身        毎ターン手番時に、謎の発光体を3体召喚します。行動不能系のバッドステータスにかかった場合、5体に増えます。
 ・憤怒の侵食        場に居る全てのフュリエの物攻/神攻が強化されますが、常に怒り状態になります


謎の発光体
 人型の小さな赤い発光体です。HP低め。召喚されたターンの速度0のタイミングで行動します
A:
 自爆攻撃          神近単        反動付き攻撃です。全力移動後に使用可能です。
P:
 誘爆             [反][反]
 高起動飛行         飛行を持たなければブロックできません。


●フレンドデータ
 リベリスタ組織【RD】です。
 特に被害が大きい地域へ、少数を率いて斥候をしている状況です。

・熾竜
 ジーニアスのクロスイージス
 リベリスタ組織【RD】(Red Dragon)のリーダーです。
 RANK3までのスキルを使える、精強なクロスイージスです。最速で乱入しても生存は危ういです。



●その他
熾竜の部下(女性)
 生き残りの姉妹を抱えて逃げています。
 練達したホーリーメイガスですが、もしレッドエルの攻撃を受けた場合、二発で死亡します。二人抱えている事と、瓦礫によって10mずつでしか動けません。

少女二人
 姉妹です。
 視力を失いましたが、革醒したことで何とか生きています。失神しています。
 二人共、熾竜の部下に抱えられています。

●重要な備考
 このシナリオは、その結果により『達成値』を加算減算されます。
 この達成値は<不可逆性方程式>の冠を持つイベントシナリオ(決戦シナリオ)の判定への補正値となります。
『達成値』の判定は各シナリオ、各STの申告によって行われます。
参加NPC
粋狂堂 デス子 (nBNE000240)
 


■メイン参加者 8人■
ハーフムーンホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ハイジーニアスクロスイージス
祭 義弘(BNE000763)
サイバーアダムインヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
フライダークホーリーメイガス
宇賀神・遥紀(BNE003750)
ハイジーニアスナイトクリーク
鳳 黎子(BNE003921)
ナイトバロンクリミナルスタア
熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)
ハイフュリエミステラン
ファウナ・エイフェル(BNE004332)

●原像交錯 -Spiral the 0rigin-
 終末の完全世界のような景といえた。
 青天は灰色に燻って。アスファルトは煎餅の様に捲れている。粉砕された町並みが広がって、煮え立つ様な風に息苦しさを覚える。その中で。
「させない!」
 『祈鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)が、熾竜とレッドエルの間に割り込んだ。
『ShiiiiiiiIIIIAAAA!』
 下された憤怒の右腕は、遥紀が身を挺したことで止まる。
「っ……ぐっ!」
 遥紀の得物である金属塊を用いて張った障壁に、魔力を秘めた盾を用いても、全身をシェイクされる様な衝撃が走り抜ける。全身あらゆる所から血が吹き出す。
 遥紀は一撃で膝を尽きかけた。運命を煮え滾る周囲の風にくべて膝を正す。
「……お前は?」
 『RDリーダー』が遥紀の背中に問う。
「誰かを護れた、巻き添えにしなかった……確かに其れは尊い。 けれど――」
 遥紀も朦朧とした意識を手放すまいと言葉を絞りだす。
「遺された者にその尊さは残酷だ。だからこそ生きなくては……守りたい者達の全てを護る為に」
「まるで心を読んだみたいな口ぶりだな」
 『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)が苺の杖から癒しの光を放ち、遥紀と『RDリーダー』へ施す。
「RDの皆さん! あたしも皆さんと同じリベリスタなのです! 癒し手として加勢させてもらうですよ」
 朗らかな声ながらも、そあらの胸中は穏やかではない。
 迸る気魄。煮え滾る風。
 常時癒して丁度いい。もっとかけ続けたい。それでも足りない。
『Shiii! シィイイイ! ハアアア! AAAAAAAAAhhhhhhhh!』
 最早焦りといえる。敵の威圧感は絶大である。回復手として見続けてきた経験が警鐘を鳴らし続けている。
 一手でも誤れば崩れると。
 『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)が瓦礫を乗り越えてくる。
「バイデンとフュリエを合わせたような……想像以上だな」
 並走する『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)の方へと顔を向ける。
「どの位稼げる」
「30いや――40秒。仲間の為に体を張っている男が居るからこそ、俺で食い止めなければな」
 伊吹が小さく頷き、姉妹を担いだ『RD隊員』を目指す。義弘はレッドエルの方へと。二手に別れる。
 義弘が瞬息の間に、レッドエルへと肉薄する。得物のメイスを敵の首に引っ掛けるようにして殴り飛ばす。
「こいつの攻撃は俺が引き受ける。侠気の盾を名乗るだけの働きをさせてもらおう」
 続き『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)が、息苦しき空気の中で踏み込んでいく。
「憤怒の念が――私にだけ伝わってくるのは、そういう事なのですね」
 ファウナは世界樹の子ハイフュリエである。煮え滾る様な風にあてられて、ボトムに来て鈍っていた共感能力が覚醒する。
「『彼女』は『あの時』に居なくなった私達の姉妹の誰か」
 レッドエル。
 血玉の様な目が、ファウナへと移る。
『AAAAAAAAhhhhhhh! ジェル゛ンザマァァァ!』
 レッドエルの赤い腕に瘤の如きものが生じた。肉を破って発光体が飛び出した。
「私をシェルン様と間違える――」
 確定だ。
 対してフィアキィを放つ。フィアキィの通り道と、敵の赤い発光体の通り道に次々と爆発が生じて交じり合う。
 ファウナは眦を決して、眼前に飛び出した赤い発光体を迎え撃つ。
「その発光体には気をつけろ、自爆するぞ!」
 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が、『RDリーダー』を一旦後方に退避させながら声を立てた。
 撃ち漏らしがあっては、後方がピンチになる。
「オレはフツ、リベリスタだ。この事態やこの敵がヤバイのは、オレ達のところのフォーチュナに聞いて知っている。お前さん達に加勢するぜ!」
 印を結び、符を切る。槍の石突で地を鳴らす。
「朱雀」
 発光体を焼き払うと、焼かれたままフツの眼前で炸裂する。
「痛ちち。ま、共闘と行こうじゃねえか」
 赤い液を拭うフツに対して『RDリーダー』は朦朧を振り払う様に頭を振る。
「礼を言う」
 『RDリーダー』はそあらの回復を受け、拳を確かめる。そこへ飄然とした声が差し込んでくる。
「もう少し休んでていいですよぅ」
 『カインドオブマジック』鳳 黎子(BNE003921)がヒラリと降り立つ。
 超幻影による壁を拵えて、レッドエルへと視線を移す。
「ああ、そうでしたね。R-typeがラ・ル・カーナに影響を与えていったのもこの時代」
 前衛の様子からして、程なく自らの運を賭ける時が来る事を確信し。
「……嫌な事を思い出させますねえ」
 得物をくるりと踊らせる。さて、行こう。バイデンには1回殴られただけでおねむになった雪辱を晴らしに。

 『縞パンマイスター竜』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は、デス子、伊吹と避難対応をする。
「デス子は、姉妹の片方を受け取って守りながら安全圏まで避難を」
 デス子は姉妹を引き受ける。事前にフツの要請により、翼の加護は施されている。
「……伊吹? 何で此処に!」
「話は後だ」
 伊吹が発光体を撃ちぬく。
 このやり取りに、竜一の口角が緩む。次に姉妹の方を見る。
 姉は小学生位だ。妹は2、3歳。痛みで嘔吐したのか、酷い有様である。
「二人とも失神していて聞こえてないだろうが、安心しろ。俺が、守る」
 竜一は緩んだ口を引き締めて、一体の発光体を叩き落とす。


●煮え滾る風 -RED EL-
 鎧袖一触を全力で抑える。
 義弘は、真っ向からレッドエルの攻撃を受けながら、未だ運命を燃やさず30秒を稼いでいた。
「……燃やして40秒か」
 避難が終わるまで耐える心算だったが、その前に限界が来るだろうと奥歯を強く噛む。
 一撃目も二撃目も辛うじて衝撃を逃した事で、回復が間に合った。ここで既に目や耳から血が噴き出している。
「過去だなんだってのは今はどうでもいい……今は戦う事だけに集中だ」
 三で運命を燃やす事になる。四で完全戦闘不能――
「うぉぉおおお!」
『ジャマズルナアアアア!!』
 聞き取れている者はファウナのみだが、ファウナを狙っているのは明らかだった。
 憤怒が溢れだした様に発光体が宙を舞う。バーストブレイクが下る。
 同時に敵からの誘爆や瓦礫のつぶてを受け、その反撃だけで体力の1/3近くが磨り減る。
「言葉を話せるのなら、僅かなりとも自我があるのだろうか?」
『ダズゲデ、グルジイ、ジェルンザマ……AaaaaguuuUUUUU!』
「私はシェルン様ではありません。貴方は――『誰』ですか」
 ファウナは、ギギギギギと憤怒の眼を真っ向から受け止める。正気を維持するだけでもつらいものがあった。
 フツが朱雀を放つ。発光体を撃墜する。
 また、ファウナの攻撃一回では落とせない発光体を、朱雀によって処理する際にフツも反撃を受けている。
「回復を頼む。それから義弘がもう持たんぜ。黎子!」
 尚、一匹撃ち漏らすが、後方には竜一がいるから大丈夫だ、と。一種の信頼がある。
「わかってますよう」
 付かず離れず、背面などから切り刺しを繰り返していた黎子は、一転して正面、ブロックへと回る。
 血玉の様な目、剥き出しの歯茎、口角から泡を吹きながら、押し通ろうとする威圧感。
「……ええ。言葉はわかりませんが、あなたのほうが辛いでしょう」
 今の戦況の維持はブロックする者――義弘がいるからこそ成立するものである。
 崩れるとどうなるかは想像に難くない。一人ずつ順番に殴られて戦闘不能にされる単純明快な『最悪』が発生するのである。
「せめて華麗に!可及的速やかに終わらせてあげます!」
 鎧袖一触を抑える中で、遥紀が熾竜の治療を続ける。
「命を捧げる事は親たる俺には出来ない。けれど張る事は出来る」
「……諦めるという選択には少し早かったか。俺はいい。あいつにかけてやってくれ」
 熾竜が指し示す方向には、義弘である。
 遥紀は単体回復を中心にしている。頷いて、ご都合主義な神の息吹を注ぐ。
「運命の寵愛すら引き寄せ、幾ばくか零れようと、熾竜の頭の盾になる決意がある。俺含めね」
「どうしてそこまでしてくれる」
「さっき言った通り、守りたい者達の全てを護る為に。だよ」
 そしてレッドエルを見る。自分の身体で感じたあの威力を受けるには、一度二度の回復では足りない。
「もう一度!」
 再動、都合主義な神の息吹を義弘に。
「悠木さん」
「はい! 全力で皆さんを癒せるのも遥紀さんのフォローがあるからです。ありがとなのです」
 遥紀に対して、そあらは全体回復である。
 反撃で減った体力は、これにより帳消しである。
 黎子と義弘、ブロックの交代から程なくして避難対応を行っていた伊吹が駆けつける。
 サングラスを整え拳を構える。
「相変わらず無茶をする。全くお前らしい」
 たちまち熾竜は、何かおかしなものを見たような顔で伊吹を見る。
 開口一番に。
「お前、阿呆過ぎる。くたばりに来たのかボンクラが!」
「噂に聞いただろう。頼れる味方を連れてきたぞ」
 悪態をつくだけで十分な間柄と言えようか、しかし口角は浮いている。
「……。そうらしいな」
「何を言われても俺はもうお前と離れるつもりはない」
 乾坤圏がレッドエルの腹部へめり込むと、『アッッッ!』と大音量の衝撃を受ける。
 ただただその一念が確固として伊吹にあった。
 竜一は姉妹とRDメンバーを安全圏まで移動させる。
「熾竜の事は、可能な限り俺の仲間が動いているはずだ」
 言葉を終えた後、踵を返す。伊吹より少し遅れたが合流せねばならない。
 その刹那に、ふと耳に拾った言葉が竜一の心を揺さぶった。
「そういうことか……」
 剣を強く握り、皆の下へと全力で駆ける。
 確かに聞いた。
 失神していた姉がうわ言で『つづら』と言ったのである。
 その名は竜一が交戦した事があるフィクサードの一人。あの姉妹は将来フィクサードになる。
「立ち止まる事は……できない」
 かつて竜一は『倒すべき敵は倒し、救えるべきものは救いたい』と言った。対して『救えないなら殺すんだろう?』と返してきた者である。
 この場も、まさにその通りじゃないか。

 黎子が敵の攻撃を掻い潜り、時間を稼いでいる。
 返す刀で大鎌を振るわんとした所で、眼前に敵の赤い拳が垣間見える。
「っ!」
 それでもって黎子の悪運が悪い方に発揮される。一撃で腹部をぶち抜かれんとして、運命を憤怒の風にくべて立ち上がる。
「……ワンパンKOはもうこりごりです、ね」
 すり抜けるように、切り刻むと反撃のラリアットでぶっ叩かれる。
 応酬が激化する中で。
「今戻った」
「……? どうした竜一?」
「なんでもない」
 フツが見るに、竜一は追い詰められた様な顔をしていた。
「皆でがんばってあの赤くて野蛮な『熾鬼レッドエル』を殲滅させるです」
 そあらが全力で回復の光を放った。
 たった今、黎子が受けた反撃の帳消し。これは生命線といえた。
 そあらがいなければ、とっくに崩れていただろう。
「ここからだよ」
 遥紀の回復が義弘を癒やす。ようやく一撃耐えられるまでになる。
 運命を燃やしながらも、まだ脱落者無く、ここに全員が揃ったのである。


●破壊の魂 -Biden Heart-

 この怒りを――『巨人』の存在を、私は許さない
 それが、私達の戦いの原点でもあるのだから

                   ――――『風詠み』ファウナ・エイフェル


 いつだって後悔しない選択をしてきたつもりだった
 だがそれで何を守れただろう?
 何故手離したのか
 何故救えなかったのか
 失ったものばかりが心を過る

 そうか、失ったなら……取り戻せば、良いのか


                   ――――『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹


 レッドエルが大きく息を吸う。
『アッッッッ!』
 たちまちリベリスタ達は飛ばされる。防御姿勢も大きく崩れる。
「ふっ飛ばし、やってきたか」
 フツが押し戻された竜一を受け止める。やってくるだろうとは考えて身構えていたのであったが。
「ハハハハ」
 相棒は笑っている。
「竜一、何があったんだ?」
 良いんだよ、と言わんばかりにフツの腕を退ける。
「守る、か。自分で言った事だが自分に対しヘドが出るぜ! ”守る事”なんて俺にゃ出来ねえんだよ。出来る事は”壊す事”さ!」
 そうして竜一は駆け出す。
 ならば援護する。先程までは出てきた発光体で手一杯だったが、BoZが揃った。発光体処理は伊吹が出来る。
「鴉!」
 赤い鳥、転じて黒い鳥となって滑空する。それがレッドエルの目へと刺さる。
『GAAAHHHHHHAAAAAA!!』
「良し!」
 発光体に手を取られて中々使えなかったフツの一計である。
 怒りはフツへ向く。義弘と黎子が敵を押さえつけている限り、あの腕の振り下ろしは無く、自分に届く――別の攻撃手段を使うだろう。
 つかの間に、火力と回復のパワーバランスが崩壊する。
 レッドエルがフツを狙う間、後者が上回っていく。
 直接的な攻撃の破壊力を垣間見ている。その間に。
「色々考えたですが、少なくとも『R-type』をどうにかしなければさおりんのいるあたし達の「いま」が混沌とする気がするのです」
 そあらが全力で回復を落とす。
 いちごの甘い匂いまで漂わせる本気の回復は、既に直接攻撃を受けた者の体力を大きく引き上げる。
「そうかもしれないね」
 遥紀が頷く。
 回復手、二人から追い風を貰ったかの様に、伊吹が発光体の撃墜に働く。
「バイデンは誇り高い戦士だった。敵同士ではあったが『記憶』はあるバイデンを戦友と呼ぶ」
 全く違う。
「フュリエは強さを備えた心優しい種族だ。フィアキィを友とし捨て駒になど使わない」
 全く違う。
「次から抑えに入る。熾竜は誰かを庇ってくれないか」
「一丁前なクチ利きやがる」
 ならば借りがある。と熾竜は後方へと下がった。

 ファウナに撃ち漏らしの発光体が飛来して炸裂する。
「私は、ファウナです」
 彼女が彼女であった頃の名前――、せめてそれだけは聞いておきたい。
「貴女は、なんというのですか?」
 胸中、やり場の無い怒りの中で言葉を絞り出す。
『タヅ、ゲ、』
 他の者には咆哮にしか聞こえない。獣が唸っている様にしか聞こえない。
 嗚呼、彼女はやり場の無い怒りにただただ苦しんでいるだけなのだ。ファウナが抱いている激情の何倍の苦しいのだろう。
「シェルン様ではありませんが、貴女を救うことは」
 できる。
 一念を込めて放ったバーストブレイクは、たった今出てきたばかりの発光体を一撃で砕き落とす。

 重なる応酬に次ぐ応酬。
 フツの二度三度の策。黎子の致命的な一打。竜一の120%の力が大きくダメージを与える。
 伊吹の掃射、ファウナのバーストブレイクが発光体を落とす。
 義弘の守りと、そあらと遥紀の回復が場を支える。前衛の運命はとうに燃えている。
 フツの策の効力が切れた途端、敵の攻撃の重さが戻ってくる。のしかかる。
「ただ突き進め。奴の眼前へ!」
 義弘が、怒号から我に返ると、肥大化した腕の握り拳が飛来している。この一撃で自分は倒れると覚悟を決める。
 咄嗟に構えた左腕を犠牲にして直撃を避けるも、腕が消し飛んだ。
「とっくに……義手だ!」
 左義手を代償にもう10秒。運命を燃やして20秒。
「1秒でも長く抑える。圧倒的な理不尽を防いでこそ、侠気の盾だ」
 神の雷が如くにラストクルセイドを放たんとした所で、敵の再動、敵の身体に雷陣を残し腕に弾き飛ばれて義弘が戦闘不能になる。
 立ち上がる。ラストクルセイドを成就した所で、反撃と発光体によって倒る。
 即座に黎子が抑えに入る。
「反射は痛いですが……我慢する!」
 血反吐を拭っている暇すら惜しい。
 運良く避ける。殴る、殴られる。何度目のやりとりか。
 二度目の膝をつきかけた所で、竜一が割り込む様に一刀を振り下ろす。
「あの妹、つづらたんだった」
「……終わったら泣かしませんかねぇ?」
 竜一が鍔迫り合いの如く敵の腕を押し込む。赤い眼光を睨みつけ。
「お前もなりたくて、そんな怒りの鬼になったわけじゃないだろうに。俺はやっぱり、お前も”救えない”」
 一気に下す。赤い腕がごろりと転がる。
 転がるも、ぶしゅぶしゅと傷口から汁を飛ぶ。ずるりと腕が生えてくる。
 再生。だが、それ以上の重い一撃を繰り出し続ける。

『AAAAAAhhhhhhh!!!』
 そしてある時を境に。
 空気が変わった。場の熱気が一層濃厚になる。
 レッドエルを中心。獣の咆哮にしか聞こえないが、ファウナにはただただ『タスケテ』と繰り返し繰り返し聞こえてた。
 ファウナが唇を強く噛む。
「……来ます」
 巨大な爆弾が投下された様な衝撃と炎が視界を白くした。
 一帯が消し飛び、光が晴れる。
 レッドエルは自らの熱気で黒焦げとなっている。
「……熾竜の頭は」
 視線の先は伊吹である。自らを庇った熾竜は倒れている。
 瓦礫の山から伊吹が出て、敵に拳を向ける。
「生きてるか?」
「……何とかな」
「……全く本当に、無茶な事をする」
 竜一も剣を杖のようにして、既に応酬の中で運命を煮え滾る風にくべたのにも立ち上がる。
「立ち止まったり、休んだりしてる暇は、ねえんだ」
 一斉攻撃が加わり、黒焦げのレッドエルの四肢は砕けていく。
 それでも再生しようと蠢き、まだ咆哮を上げる。
 ここで義弘が残した雷陣に包まれて、蠢いていた再生が止まった。
 最後に咆哮を上げて、特変異個体は沈黙した。


『ファウナ……私は……エル』
「……エル」
 ただ、最後の咆哮は、ファウナにとっては言葉として聞こえていた。
 ありがとう、と締めくくるように、消えていく。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 Celloskiiです。
 お疲れ様でした。ギリギリです。
 一人ずつ殴られて殺される。全体攻撃キラーというコンセプトの敵でした。
 厚い回復に、避けブロッカー、受けブロッカー、式符による近接攻撃の妨害等かなり効いていたと思います。

 なお、フュリエとRDともう一個、隠れてた要素がありました。
 センスフラグ(必死)を持っていた方がいたので、判定の上で踏みました。
 お疲れ様でした。

  姉:<黄泉ヶ辻>デスプロフェット
  妹:剣風忍法帖、<究極望まば>賢者の石カレー

 この辺りに出ています。