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どうか助けてください


●「ただいま」
 ――そう言って、娘は帰って来た。
 失踪して何日も経ってから、やっと帰って来たのだ。
 歪な、腐った姿で。
 死んだ状態で。

●「さよなら」
 ――父は娘に優しく告げた。
 廃ビルの屋上からは海が見える。
 曇った灰色の空に照らされた、鉛色の海が。
 娘は俯いたまま何も言わない。スカートから覗く腐った足をじっと見詰めている。
 彼女は飼っていた猫を食べてしまった。
 彼女はたった一人の母親も食べてしまった。
 彼女は食べたがる。生きた血肉を。
 父はそれが耐えられなかった。
 だから、今日で、それを――終わらせる。
 大丈夫、一人ぼっちには……寂しい思いは、絶対にさせない。
 父は娘の肩を抱いて、そろりと一歩、空へと、踏み出した――……。

●「救済」
 ――しないといけない。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は真剣な眼差しをリベリスタ達に向けた。
「フェーズ1のE・アンデッド……それが彼女、高村真衣(たかむら・まい)の今の姿。今回は、このE・アンデッドの討伐と一般人の救出が目標。
 彼女は、誤って自宅付近の川で溺死した後にE・アンデッドとして蘇って家族のもとに戻り……」
 そこでイヴの声が途切れた。俯きかけた顔をすぐに戻し、あくまでも淡々と説明を続ける。
「……実の母親を喰い殺した。……彼女にはもう自我も理性も無い、ただ血肉を喰らう事を求めているだけ。
 戦闘能力は低め。でも、その噛みつき攻撃には毒と出血が伴うわ。その他には、口から麻痺と毒の効果を持つ胃液を吐いてくる。油断しない事ね。
 それから一般人の方――彼女の父親、高村貞夫(たかむら・さだお)。彼はこれ以上娘が罪を犯さないように……でも、一人ぼっちにはさせないと、彼女諸共ビルの屋上から投身自殺を図ってる。
 放っておけば、二人は一緒にビルから落ちて死んでしまう。……でも、だからといってそのまま二人をその場で引きとめたままだと、高村貞夫はE・アンデッドに食い殺されてしまうでしょうね。
 高村貞夫は娘に迫る危機は何が何でも……それこそ、命を引き換えにしても彼女を護ろうとする。彼を救う為には出来るだけ慎重に、でもモタモタしすぎない事ね」
 異形として蘇ってしまった娘と、共に心中する事で娘を救おうとする父親。
 なんて酷い運命の悪戯だろうか――イヴの話を聞いていたリベリスタ達には、押し黙るしかなかった。
 ややあって、沈黙をイヴが破る。次に発したその声には、何処か悲痛な色が滲んでいた。
「……――、生きている人には……まだ、”明日”がある」
 イヴのオッドアイがリベリスタ達を真っ直ぐに見詰める。
「宜しく頼むわね、皆」




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ガンマ  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年08月20日(土)23:46
 ●目標
 E・アンデッドの討伐
 高村貞夫の救出

●登場
 高村貞夫(たかむら・さだお)
  四十代前半の一般的なサラリーマン。やつれているが精神はまとも
  娘に迫る危機はその身を呈してでも護る
  放っておけば真衣と共に投身自殺してしまう

 高村真衣(たかむら・まい)
  高村貞夫の一人娘で小学三年生。近所の川で溺死したがE・アンデッドとなってしまった。フェーズは1。
  かなり腐敗が進んでおり、常に飢えている。自我や理性は無く、会話は不可
  放っておけば貞夫を喰い殺してしまう
  主な戦法:
  強い顎力による噛み付き。毒と出血を伴う事あり
  口から腐った胃酸を吹く。麻痺と毒を伴う事あり

●場所
 町外れの廃ビルの屋上。六階建て、所々足場が陥落した個所や崩れそうな個所がある
 周囲は駐車場、その周りは森、彼方には海が見える
 時間帯は昼下がり
 一般人がやって来る事はまずありません

●その他
 二人が今にも飛び降りようとしているところから始まります

●STより
 こんにちは、ガンマです。今回はちょっぴり暗めです
 皆様の参加をお待ちしております。宜しくお願い致します!




参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
ゼロ・ブラッドレイ(BNE001647)
クロスイージス
ステイシィ・M・ステイシス(BNE001651)
ナイトクリーク
佐々木・悠子(BNE002677)
インヤンマスター
岩境 小烏(BNE002782)
★MVP
クリミナルスタア
幸村・真歩路(BNE002821)
デュランダル
結城・宗一(BNE002873)
マグメイガス
クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)
クロスイージス
陽瀬 広鳥(BNE002879)

●灰色の昼下がり
 が、漫然と横たわって居る。
 ――覚悟はしてた、リベリスタになるって決めたときから。
 覚悟してた、つもりだった。
 でも現実はもっと目を覆いたくなるほど残酷で。
(でも、それでも)
 静かな廃墟の階段をまた一段と上りながら、『熱血クールビューティー』佐々木・悠子(BNE002677)は顔を上げた。
「それでも守らなきゃ、だってこんなの……悲しすぎる」
 昼下がりの緩慢な陽光に真紅の目を細め、悠子は表情を引き締める。
「初依頼がこんな悲しい出来事になるたぁな……。辛いところだが、仕方ないんだろうな」
 仲間達と共に速いペースで朽ちかけた階段を上る結城・宗一(BNE002873)が浅く息を吐く。
 けれど、と宗一は思う。
(正直なところ、この父親の方も異常だよな)
 彼は最愛の妻まで喰われてもなお、娘のことを取ったのだから。耐えられずに共に自殺するつもりとはいえ、それまで何とか受け入れようとしてたのだから。
(受け入れていたからこそ、今まで生きてこれたのかもしれないがな)
 そこまで思った所で、宗一は陰鬱とした思考を取っ払う様に小さく呟いた。
「ともあれ、こんな狂った現実には終止符を打たないと……な」
 それがリベリスタの役割なのである。どんな悲劇でも見過ごしてはいけないのが彼らの宿命なのだ。
「自分も少し前に親父を看取ったからか、どうにもほっとけないねぇ……」
 覚醒の影響で未だに幼い外見を残した『錆色の赤烏』岩境 小烏(BNE002782)が吐息交じりに言う。その脳裏に、かつて家族と共に過ごした風景が過ぎった。
 家族を喪う――それはとても悲しい出来事だ。
「歩き回る屍に哀しみはありませんのです。あるのは、ただ悲劇のみ」
 『リピートキラー』ステイシィ・M・ステイシス(BNE001651)はキッパリと言い放った。悠子と同じヴァンパイアであるステイシィも彼女同様、淡いとはいえ苦手な部類に入る陽光に少し目を細めている。
「165の肉片にバラして、再び殺して差し上げます」
 REPEAT KILLER――再殺者。その称号通り、それはブレる事無き確固たる意志であった。
「真衣ちゃん、ご両親の事が本当に大好きだったのね……」 
 『現役受験生』幸村・真歩路(BNE002821)は俯き、階段を上って行く己の爪先に視線を落とす。
 死んでしまっても、腐り朽ちても、家に帰りたいと思うほどに……
(でも、そこから先は違う)
 どうあっても悲しい事実を覆す事は出来ない。しかし――真歩路はさっと顔を上げ、眼前にある屋上への入り口を見据えた。
「最後の悲劇は、止めてみせる!」

 悲劇? 絶望? 運命? 上等だ。

 止めてみせる。リベリスタの誇りに賭けて。

●目眩がしそうなほど
 高い。遥か眼下の地面。
 屋上の際、柵が朽ち果てぽっかりと空いたスペース。高村 貞夫は息を殺して、娘の肩を抱く手に力を込めた。やけに目が乾く――貞夫は瞼を深く閉ざし、ややあって、開けた。
 そして驚愕する。
「盛り上がってる所ごめんなさい。でも、そうはいかないの」
 貞夫の目の前――何にも無い虚空に翼をはためかせて現れたのは『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)の麗姿、あどけなさを残した丸い瞳。
「なっ……!?」
 貞夫は驚くままに項垂れた真衣の体を抱いて後ずさった。無理もない、寧ろ健全な反応と言えるだろう。人間に翼が生え、空を飛んでいる――見せ付ける様に広げられた翼に、俄かには信じ難い光景に、貞夫は目を見開きながらも無意識的に背後へと真衣を庇った。
 親の愛情、と言う奴かしら?貞夫を見据えるクリスティーナの相貌には無情な色が冷たく宿っていた。

 その時である。

「――ちょっと待って!」
 言葉と共に、仁義上等によって速度を上げた真歩路が跳び出してきた。クリスティーナの登場に貞夫が真衣を背後に遣った事が幸いしてか、真歩路は素早く真衣に抱き付くと一歩飛び退く。うぐ、と真衣が唸った瞬間と貞夫が振り返ったのは同時で、娘の名を呼びながら手を伸ばしかけるが、その肩に手が置かれ、掴まれ、行動を阻まれる。
「血まみれだって抱いて下さる。お父さんは父親の鑑ですよう! ですが、もはやこれまで」
 貞夫が見遣った視線の先にはステイシィが居た。その間にリベリスタ達は親子の間に入り、貞夫の安全を確保する。
「天使じゃなくてごめんなさいね、私は貴方達に余計なお節介を焼きに来た、人を狩る者を狩る者よ」
「狩る者、ッ……!? 何なんだ一体、真衣をどうするつもりだ!」
 クリスティーナが着陸しながら冷然と告げた言葉に反応して、貞夫はにステイシィを振り解いて娘の元へ向かおうとしたがツギハギの彼女が手を離す事は無かった。
「我々は『この道』の専門家です。残念ですがお父さん、娘さんはもう戻りません。
 彼女は確かに娘さんの形をして娘さんの声で話す。しかし、決定的に違うのです。既に一線を越えてしまわれたのでしょう? どうか、任せては頂けませんでしょうか」
 貞夫の混乱を落ち着かせる為に、ステイシィは真摯に語る。だが貞夫は納得と理解が出来ないと言った表情でリベリスタ達を見渡すなり険しい物言いで言葉を放った。
「そんな事、信じられる訳ないだろう! 君達には関係ない……真衣を離せ!」
「――ちょいと話を聞いちゃくれないか」
 親子の間に入った小烏が宥める様に、しかしキッパリと貞夫へ語りかける。
「酷な事を言うがね、娘御がこれで死にきれるとは限らんぞ、親父さんよ。娘御はきっととっくに冥土へ旅立ってる。全ては遺体使って悪さするモンの所為だ。だから娘は罪は犯していない、お前さんがそれを気に病む必要はない。
 遺されるのは辛いだろうが、嫁と娘の菩提を弔うのは父親以外誰がいる?あの世の事は母親に任せ、この世の事は自分に任せろと言ってやれ。
 自分達なら今度こそ眠らせてやれる。傷つける事にはなるが、許してくれるか?」
「――……」
 『晴天』陽瀬 広鳥(BNE002879)が発するマイナスイオンも影響してか、呼吸を少し落ち着けた貞夫は黙ったまま俯いた。彼の傍に居た『風牙』ゼロ・ブラッドレイ(BNE001647)が悲痛な表情を浮かべる。
「お願い、これ以上あの娘に罪を背負わせないで」
 自分の想いは伝わらないかもしれない。それでもゼロの優しい気性が己の沈黙を許さなかった。
「お願いです、話を聞いて下さい。真衣ちゃんがどういう存在になってしまったのかあなたは分かっていますね?だから、共に飛び降りようと……」
「……その通りです」
 どうして見ず知らずの彼らが自分達の事情を知っているのか、それはさっぱり分からないが今は重要な事ではない。絞り出す様な声で貞夫は答えた。
「あなたが死んでしまったら真衣ちゃんは父親の命まで奪ってしまった事になる。そんなのダメだよ。
 どうか、真衣ちゃんの魂を救ってあげて。あの娘の罪が許されるように……お母様と共に暖かい場所へ逝けるように……。それが出来るのはあなただけだよ。
 僕達が真衣ちゃんに安息を与えますから……どうか、弔いを」
「――ッ……」
 俯いた貞夫の肩が震えた。ひょっとしたら心の奥では分かっていたのかもしれない事、それでも分かりたくない事、受け入れたくない事。言葉が出ない。屋上を抜ける冷やかな潮風だけが余所余所しく吹き抜ける。
「……奥さんと娘さんを失ってたった一人、生きていくには辛すぎる、分かるなんて言いません、けれど、助けさせていただけませんか……?」
 最中、涙声の悠子が言葉を発する。
「私は、貴方のやろうとしてることは凄いと思います、本当にそれができる愛情を持つ人は、そういないと思います。
 だからこそ、死んで欲しくない、だって何もかも間違ってます、あの子があんな姿になってしまうのも、家族を殺してしまったのも、それであなたが自殺してしまうのも!
 ……お願いします、助けさせてください……あなた自身の、幸せを」
 話すにつれて止め処無い涙。次から次へと頬を伝う涙。拭っても拭っても冷たいコンクリートに落ちて行く涙。
 それは悠子の心からの想いであり、願いであった。言いきった後はわぁんと泣き出してしまい、そんな泣き上戸の彼女の肩を小烏が優しく叩いてやる。
 少女の悲痛な声に貞夫が静かに顔を上げた。そこには広鳥の真っ直ぐに見据える瞳があった。
「俺にも大事にしている妹が居るよ。俺も同じような状況になったら、守る為だったら例え間違っていても戦うかもしれない、一緒に死んであげるかもしれない、殺されてあげるかもしれない。
 誰に何を言われても、おっさんは真衣ちゃんの味方だ。どんな苦しい選択でもこれはおっさんの人生だ、自分でどうするかは決めるしかないんだよ」
 広鳥の脳裏に、入院している妹の笑顔が過ぎる。「だからこそ言う」真剣な表情で続けた。
「おっさん、まだ死んじゃ駄目だ。真衣ちゃんの為? 奥さんの為? 違うよ、おっさんの為だよ!
 『同じような状況になったら』ってさっき言ったけどさ、それでも俺はおっさんの事死なせたく無いって思った! おっさん、まだ死んじゃ駄目だよ」
「この子は真衣じゃないのか……? 真衣は、もう」
 貞夫はゆるゆると視線を愛娘の方へと向けた。しかし間に立つリベリスタ達の姿でその変わり果てた姿は僅かしか見えない。
「あなたの願いはお姉ちゃんが叶えてあげる。だからこっちに、ね?」
 真衣を強く抱き締める真歩路が彼女の耳元で囁く。貞夫に見えない位置にあるその腕は自らナイフで斬り付けた事で真っ赤な血が滴っており、それに興味をひかれているお陰か真衣が暴れ出す気配はない。ただ、その爪に引っ掻かれる真歩路の腕は時間が経つにつれて赤く染まりつつあった。
 それでも、離さない。絶対に離さない。
 大丈夫だからね。真衣に優しく囁いてから、真歩路は貞夫に視線を遣った。
「ここで一緒に終わる事も選択肢の一つかもしれないけど、それでも生きなきゃいけないわ。それが真衣ちゃんの願いだからよ。
 この子は声にならない声で、お父さんを助けてくれる誰かを呼んでいた……あたし達はその声に応えてここに居るの」
 言葉の最中にも真衣の爪が真歩路の皮膚を破く。それでも彼女は表情一つ変えずに言いきった。
 その様子を見たクリスティーナが、貞夫の決意を促す様に言葉を続ける。
「ねえ、高村貞夫さん。現実を御覧なさいな? それは、本当に貴方の娘? 貴方の娘なのかしら、その醜い生き物は。それが人間だと、まさか言うつもり?
 ……笑わせないで。それは、貴方の娘を冒涜する物よ。そんな物の為に捨てられるほど、貴方の娘との思い出は安い物なの?
 良く見なさい。逃げず、目を逸らさず。貴方の妻の――仇を。
 それは貴方の娘なんかじゃ、ない。悔しくはないの、娘の面影を穢されて、思い出を踏み躙られて、本当に?」
 反論を許さぬ厳しい物言いで、クリスティーナは赤色の瞳をただ差し向ける。
「……」
 貞夫は再び俯き、沈黙した。
「本当は」
 そして、重い口を開く。
「本当は、心の隅では分かっていたのかもしれない。真衣がもう真衣じゃない事も、真衣と共に死ぬのが、ただ逃げているだけだと……私の単なるエゴに過ぎない事も。
 ――私はなんて間違いを犯してしまったんだろうか」
 貞夫の声が震えている。
「君達は……その間違いを、絶つ事が出来るんだね? だとしたらお願いだ、心からのお願いだ」
 彼が顔を上げた。涙に濡れていた。

「どうか助けてください」
 
 後は嗚咽に消えた。
「ええ、それでこそお父さんよね」
 クリスティーナが嫣然と微笑んだ。彼にとってこの決断がどれほど辛いか、痛いほど分かる。だからこそそれを讃える様に彼女は優しく言葉をかけた。
 そうと決まれば。宗一が貞夫に問いかける。
「俺たちは今から娘を殺す。見届けるか、目を背けるか、選べ」
「親父さんはどうしたい?」
 漸く泣き止んだ悠子の横で小烏も問う。リベリスタ達の視線が集まる中、涙を拭った貞夫の答えはただ一つであった。
「私は真衣の父親だ」
 答えはたった一言だが、それが貞夫の、父親としての全てであった。
 ゼロはその言葉に頷くと、こちらへ、と貞夫が戦闘に巻き込まれぬよう屋上の隅へと彼を導いて行く。ステイシィも続き、貞夫の護衛に徹する。

 そしてリベリスタ達は貞夫が見守る中、真衣へと向いた。

●鉛色の海が見える
 それは重たく冷たい色。
 戦闘はすぐに終わった。
 悠子と真歩路は『損傷が少ない様に』と気を付けながら的確に攻撃を重ね、仲間が傷つけば小烏や広鳥が素早くそれを癒し、宗一とクリスティーナの大きな火力で圧倒する。
 ゼロとステイシィのお陰で貞夫の体には傷一つない。彼は片時も目を離す事無く、娘だったモノとそれを打倒してゆく者達を見守った。

 かくして、それは地面にくずおれる。動かなくなる

 真衣、真衣。今すぐ駆け寄り抱きしめたい、が、その気持ちを何とか堪えて貞夫はゼロ達に向いた。二人は頷き、しかし念の為にと娘の元へと歩み寄って行く父親に同行する。
 リベリスタ達の配慮のお陰か、真衣の体の損傷は最低限であった。その姿を間近で見た途端――ガクリと膝を突く。娘の冷たい骸を抱き締める。
「……ごめんなぁ……」
 幾ら謝罪しても、娘も妻も帰って来ない。分かっているけれど、貞夫にはその言葉しか言えなかった。
 真衣の髪を優しく撫でる。

 「いいよ」

 と。
 貞夫は確かにその瞬間、娘の声を聴いた気がした。
 それは満足気で、あるいは、申し訳なさそうな声だった。
 娘の声は妻に良く似ていた。
 涙が一筋だけ頬を伝った。
「高村さん」
 ややあって、ゼロが彼の傍にしゃがみ込み掌を差し出す。そこには六枚の金貨が輝いていた。
「これで……真衣ちゃんの魂を救ってあげて下さい。
 二枚は彼女の両の瞼に乗せて、もう二度とその瞼を開けないように。
 残りの四枚は猫さんとお母様の分。彼女の手に握らせて、皆と一緒に黄泉の川を渡り安らかな場所に行けるよう……彼女の罪が許されるよう……」
「ありがとうございます……」
 貞夫は泣き濡れた笑顔を浮かべて金貨を受け取った。その表情と目を閉ざした娘を見ながら、ゼロは心の中で真衣に謝る。
(君の心無き身体が、愛する者の命を奪ってしまう前に止めてあげられなくて……ごめんね……)
 だから、せめて安らかに。
「私どもを憎んで下さっても結構ですよう、お父さん。大事な娘さんを寄ってたかって惨殺した暴漢だと」
 ゼロの傍に佇むステイシィがツギハギに囲まれた目を向ける。しかし貞夫はとんでもございませんと首を振った。
「娘さんはそのまま、お前さんに引き渡せる」
 アークに連絡を済ませた小烏が歩み寄りつつ言う。
「……漸く『ただいま』だな」
 立ち止り言った言葉は長い眠りに就いた少女に向けて。ゼロと同じく貞夫の傍にしゃがみ込んだ真歩路は真衣の額を優しく撫でつつ微笑みかけた。
「もう大丈夫、お父さんとお家に帰ろうね」
 ありがとうございます。父親は何度も繰り返した。
 そんな彼の背へ、悠子が一つ質問を投げかける。
「一つ聞かせてください……怖くはなかったんですか?  ……娘さんの事」
 貞夫が振り返った。安らかに微笑んでいた。
「当たり前だろう、私は父親なんだから」


「……世界はこんなにも醜く変わり、それでも人は変わらず、か」
 剣を収めた宗一は、貞夫に一瞥くれた後に踵を返した。自分から声を掛けられることなどあるまい。階段を下りる音だけが聞こえる。
(いや、変わったのは俺か)
 廃墟の窓から外を見た。どこまでも広がる世界。それを見ながら宗一は思う。せめて、と。

(せめて、生きる意志だけは持ってもらいたいな)



『了』

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 皆様、お疲れ様でした!
 実は終わり方の一つに
『真衣も倒し貞夫も救出したが、貞夫が自殺を止められた理由に納得できていなかった為にフィクサードorノーフェイス化して次回に続く』
 みないなのもあったのです。
 ですがそういう事もなく、皆様のご尽力のお陰でハッピーエンドを迎える事が出来ました。
本当にお疲れ様です!
 
 ご参加ありがとうございました、これからの依頼も頑張って下さい!