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<不可逆性方程式>終焉は空から降り注ぐ

●赤い空
 誰かが空を指差した。
 赤黒く渦巻くそれを誰もが確認することが出来た。
 誰もが、絶望と恐怖を感じた。
 それが何かはわからなくても。
 強い怒りを。破壊欲求を。それが世界を滅ぼさんとするものであることを。
 ――誰もが一目で理解したのだ。


●命を護るもの
「事が起こる前から街を丸ごと避難させる事は出来ん。わかっていても、な……」
 口惜しげな声を上げた警察官が空を見上げる。神秘事件に対応すべく革醒者ばかりを集めた警察署の特別チーム、その中でも中心となっている捜査一課に所属する面々だ。
 捜査一課を率いる刑事課長の言葉にどよめきが重なる。見上げた空に、異変が起こった。

「全く、こんな規模だなんて想像もしてなかったぜ」
 捜査一課の狙撃手、大山がため息をつく。ある神秘事件の折に突如現れた謎のリベリスタ達。強力な力と信頼できる人間性を持つ彼らが残した『迫る大規模事件の情報』を捜査一課は全力で上層部に嘆願した。その結果全国他地域の特別チームの動員に成功。元々いち警察署ではほとんど確保出来ていなかった革醒者を十分集められたと言えよう。
 ――十分、と言うには規模が違いすぎるがな。
 空が引き裂かれていく。その隙間から無数の何かが地に降り注がれていった。最早猶予はない。

「作戦通りにいく! 鷹司は前衛向きの革醒者を引き連れて突入! 大山はそのサポートについて狙撃手に指示を出せ!」
 集められた警察官は全て捜査一課の指揮下へと割り当てられた。特に実働経験の多い鷹司がもっとも危険の高い任務につくが……本人は葉巻を咥えたまま街を眺める。崩壊の始まった街を。
「……今日の戦いは恐らく最大規模となるだろう。救助活動は専門のチームに任せ、俺たちは転戦を続ける」
 前線で戦い続けるだけ、後方の救出活動が有利になる。全員の表情が決意に色を染め。
「村田! お前が救出班だ。悪いが革醒者を割り振る余裕はない。一般の警官を引き連れ活動に当たってくれ」
「了解!」
 最年少の若い刑事が叫んで班を促す。ずいぶん気負っているがリラックスさせる時間も惜しい。
「この場を仮の本部とし、わしは予備戦力とここに待機して指揮を執る。行動開始!」

 3班が去ると同時に無線が入る。捜査一課の最後の1人からの連絡に刑事課長が目元を緩ませた。
「避難ルート、一時避難所、移動手段、人員の手配、あらかた準備出来たようだな。では避難状況や封鎖状況が入り次第まとめて全班に連絡せよ。応援部隊の突入タイミングは追って指示する」
 無線の先では不満げな言葉が聞こえる、が。
「ふん、わしの楽しみを奪うつもりか大馬鹿者。わしは生涯現場の人間よ」
 悔しかったら我が侭を通せるくらい偉くなるんだな――そう笑って無線を切る。
 爆発音。あちこちで破壊音が、重なるように人々の悲鳴が響き始めた。
「始まったか」
 1999年8月13日。『あの日』が始まろうとしている。


●15年越しの介入
 三高平市内に生じた次元の穴。『1999年の日本』であることが証明された今、今日この日起こる事件を知らない者はいない。
 ナイトメア・ダウン。
 多くの命を奪った歴史上の出来事。怒りと破壊を振りまいたミラーミス『R-type』の襲来。
 人智の及ぶ相手ではないだろう。それでも、今やアークは複数のミラーミスとの戦いを超えてきたのだ。
 運命が悲劇を繰り返す事を求めたとしても、リベリスタ達は確かに運命を味方につけてきたのだ。
 運命を変えるパラドクス。出来うるとしたらそれは、『アーク』だけ。

「アークはナイトメアダウンで払った犠牲に敬意を払い、その惨劇を繰り返させないために設立された組織」
 だからと『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言葉を紡いだ。その日からの長い戦いの歴史を、原点の日に帰すために。
「ナイトメアダウンに介入して『R-type』を撃退する。それがアークの結論」
 アークと共に『過去に進む』意思のあるリベリスタはお願いと頭を下げた。

「まず皆に頼みたいのは『R-type』の顕現が引き起こす具象の排除。異世界のミラーミスを狂わせる程のその影響力が革醒現象――変異をもたらす」
『R-type』によって変異した存在は『赤の子』と呼ばれる。その力は通常の革醒現象の比ではない。圧倒的な数が圧倒的な力を伴って変異してしまうのだ。
 その被害は想像を絶するものになる。見過ごすわけにはいかないのだ。
「とても辛い戦いになると思う……負けないで」
 イヴには珍しく、振り絞るような声を吐いて。


●命を奪うもの
 最大規模の危機。
 嗚呼――嗚呼! なんて甘い考えだったのだろうか。
 恐らく敵の――災厄の本体はまだ現れてもいない。
 にも関わらず、すでにこの地は地獄と呼んで差し支えない状態に陥ってしまっていた。
 一人ひとりが圧倒的力を持つ化け物を、数の優位さえない状態で相手にするのだ。
 嗚呼この光景――空を埋め尽くす変異体を前に、絶叫を上げて銃を乱射した。

「被害状況!」
「各班生き残りはそれぞれ20名をきっています!」
 刑事課長の問いに部下が叫ぶ。その身もすでに血に塗れ。
「避難状況は!」
「最終予定の避難所に到着したそうです! 現在避難誘導中!」
 大きく息を吐く。なんとか市民の避難は済みそうだ。刑事課長は最後に命令を出す。
「では各班に最終通達。本部には戻るな。市民の避難を助けそのまま誘導した以降は各班長の指示に従え」
 言い切るや無線を取り外した。部下を、本部を包囲した変異体を見渡して、血濡れの身体は恐れを知らずに死地へと踏み込んだ。

「くそっ、本部の救援に行くぞ」
「駄目だ。命令は避難所の援護だ」
 無数の変異体が本部に襲撃をかけているのを確認して叫ぶ大山に、鷹司は首を振った。
「市民の安全を優先せよ、との命令だ」
「まだ戦いは続くんだ。今本部が落ちれば避難先だってすぐ安全じゃなくなるんだぞ」
 2人は戦闘行動を続けながら睨み合う。
 そこに襲い掛かる変異体。その体長は約4m程で、全身真っ白の羽毛で包まれたような存在。その背に生やした大きな翼も白く、巨体でありながら自在に空を切り裂いて襲来する。どこか鳥を思わせる顔はぎょろぎょろと獲物を求め襲い掛かった。
 2人の連撃が変異体を打ち抜く。だが数が多い。2班はそれぞれを補い支援するよう組まれているので、単独ではすぐに壊滅してしまうだろう。
 襲撃に対応しながら、まだ2班は行き先を揉めていた。

「皆さん乗りましたね? よし、行ってください!」
 警察官たちの先導で市民が避難していく。応援部隊と合流出来ればとりあえずは安心だ。
 後は怪我人の捜索を……そこまで考えて異変に気付いた。集団は他班が抑えていてもはぐれで飛行する異変体も存在する。幸い今までこちらに降りてくるものはいなかったが……大勢の市民に気付いたのだろう、一体がこちらへと向かってくる。
 村田は、自分の番が来たことを悟った。他の警官に指示して1人残る。前に刑事課長が行った役目、それが自分になっただけだ。
「大丈夫、やれる……」
 深呼吸して降り立つ敵を睨む。
 だがその体格に――8mを越える体長と、明らかに他の個体とは違う甲冑の様な肉体、そして手にした巨大な大剣を見て呆けてしまった。
 目が合った。その風貌。これがこの辺りの変異体のリーダーなのは間違いないだろう。
 貧乏くじを引いた? いや違う……
「こいつをここに引き付けていられるだけ、皆が楽になるんだ」
 怖くない……自分の番が、来ただけだ。

 1999年8月13日。『あの日』が、始まる。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:BRN-D  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年08月28日(木)22:44
●成功条件
『赤の子』の全滅(この依頼において、全ての被害は成否に影響いたしません)


●場所
 静岡県東部の街。戦闘箇所はかなり広範囲に出ている被害の、一部地域となります。

 現在戦闘が行われているのは(1.避難所 2.本部 3.中間地点)の3箇所になります。

 赤の子の数
  避難所 :リーダー
  本 部 :赤の子x20
  中間地点:赤の子x20


●人物
 『捜査一課』
  静岡の警察署に存在する革醒者ばかりを集めたチームのひとつ。曲者揃いとしてその実力とともに知られています。
  各地域から集められた革醒者を伴っていますが、赤の子との戦力差はだいたい警官隊2人掛かりで赤の子1人と互角です。


・避難所

 村田:フライエンジェのクリミナルスタア。真面目な新米刑事。バランスタイプ。腕が上がり、Rank2のスキルを使用します。メンバーの中で一番能力が低めです。
   避難所に1人残り、変異体のリーダーと戦っています。実力差は明確で、1人では1分も持たないでしょう。村田がすぐに倒された場合、まだ市民は安全な場所まで避難できていません。


・本部

 刑事課長:ジーニアスのクリミナルスタア。「大馬鹿者!」が口癖のベテラン。ドラマ底力タイプ。Rank2のスキルを使用します。ドラマ復活直後のHPしかありません。
   本部で戦闘中。

 警官隊(予備):15人。クロスイージス、マグメイガス、ホーリーメイガスが存在します。Rank1のスキルを使用します。通常の警官隊よりやや能力が低めです。


・中間地点

 鷹司:メタルフレームのクリミナルスタア。ダンディを気取る偉丈夫。格闘特化。Rank2までの格闘スキルを使用します。
   中間地点で戦闘中。避難所に向かおうとし、揉めています。

 大山:ビーストハーフのクリミナルスタア。飄々とした気取り屋。射撃特化。Rank2までの射撃スキルを使用します。
   中間地点で戦闘中。本部に向かおうとし、揉めています。

 警官隊:30人。デュランダル、プロアデプト、スターサジタリーが存在します。Rank1のスキルを使用します。


●赤の子
 R-typeの影響を受けて変異した存在。この地にいるのは鳥の変異のようです。
 体長約4m。全身真っ白の羽毛で包まれ、その背に生やした大きな翼で飛行することが可能です。
 個々の力が強く、NPCでまともに1対1がこなせるのは捜査一課メンバーくらいでしょう。
 高い物理威力を持ち、威力が低めながら遠距離範囲への魔術攻撃も可能です。物理防御と速度もやや高く、数と飛行を生かした強襲戦を得意とします。

 鳥の変異体
 ・強襲:近単物、[圧倒][鈍化]、全力移動後に使用可能
 ・斬撃:近単物、高威力、[流血]
 ・火球:遠範神、低威力、高命中、[業炎][ショック]


 リーダー
  8mを越える体長。甲冑の様な肉体を持ち巨大な大剣を持っています。通常の変異体に比べて圧倒的に高い物理攻撃力とHPを持ちますが、甲冑は見た目に反して防御は高くなく、代わりに二重の[反射]の効果を持ちます。

 ・平和の剣:近単物、超威力、[無力][致命]
 ・鳩音波:遠貫神、高命中、[雷陣]
 ・甲冑(P):二重の反射の効果を持ちます。


●補足
 PCはそれぞれの場所まで同距離程度の場所から始まります。
 どの箇所もPCの援護がなければ全滅は免れないでしょう。

 赤の子は強力です。PCだけで倒すにはかなりの被害が予想されます。
 どう振り分けるか、どう動かすか。最大規模の危機に集まった戦力が必要です。

 それではどうぞよろしくお願い致します。


●重要な備考
 このシナリオは、その結果により『達成値』を加算減算されます。
 この達成値は<不可逆性方程式>の冠を持つイベントシナリオ(決戦シナリオ)の判定への補正値となります。
『達成値』の判定は各シナリオ、各STの申告によって行われます。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ノワールオルールホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
★MVP
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
フライダークホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
ナイトバロン覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
ハイジーニアスクリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
フライダークホーリーメイガス
宇賀神・遥紀(BNE003750)
ジーニアスマグメイガス
柴崎 遥平(BNE005033)


●Cross Fade
 本部という体裁はすでになく、後に残るのは息も絶え絶えな予備隊のみ。
 現状まともにやりあうことは不可能。彼らを指揮する刑事課長1人ではとても支えられはしない。
 ちょうど、刑事課長の頭上を飛び越えた今のように。
 叫ぶもすでに強襲の構えがとられ。警官が絶叫を上げて眼前の――鳥の顔にバイクの前輪がめり込むのを目撃した。
 大型バイクが敵を潰して本部へ躍りこむと、同乗者と2人飛び降りて周囲の赤の子を蹴散らし回る。唖然とする警官に、追従していたバイクを降りてチッスチッスと声がした。
「おーまた課長サンッスか。奇遇やんなあ」
 わざとらしい声で『真夜中の太陽』霧島 俊介(BNE000082)が笑いかけた。そうして紡ぎ放った癒しの力に、舞台演出のように傷が掻き消えて周囲の動揺を誘う。刑事課長が苦笑を見せた。
「ほら俺ら正義の味方だからさ、こういうのは見逃せないんよ」

「ちーっす課長。加勢にきたよ!」
 通りすがりの正義の味方はトンファーを構え気を吐いて。『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)に寄せられ群がる赤の子に予備隊から絶望の声が上がるが――それらを一気呵成に貫いて。
「絶望するのはまだまだ早いぜ。最後の命令だとか甘えたこと言わないでよ。僕らはもっとたくさんの人を救えるはずだ!」
 その瞳はまっすぐに刑事課長を刺す。
 言外の言葉に己を恥じて頷くしかない。そんな男に夏栖斗が笑いかけた。
「また気合いれてよ、大馬鹿野郎ってさ」
「……はは! この大馬鹿者め!」
 笑い声が戦場に響く。絶望のムードを吹き消して。

「さあ来るよ!」
 篭手を打ち鳴らして咆哮を上げる。機先を制して周囲の赤の子を掃討していた『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が、防衛に置いてもその矢面に立って。
 敵の斬撃を受け流しながら指示を出す。強力な敵に圧倒されていた予備隊にとって、今やるべきことの明確な指示は勇気を奮い立たせることにも繋がっていた。
「忘れないで。守るべき人の中には君達自身も入ってるんだからね」
 満足げに頷いた悠里がその戦意を背に再び敵陣に飛び出した。


 大山と鷹司の仲違いは班の分離を意味し。生み出すものは効率の著しい低下。
 補うよう組まれた2組の分断は想像以上の意味を持つ。戦力は磨耗し壊滅の文字がちらついた……
 否、ちらついたのは白き羽根。その消耗を突如消し去る、神々の演出の如き癒しに警官隊がざわつく。
「皆大丈夫? 痛いのは全部治すから、頑張ろうね」
 翼を翻して降り立った『尽きせぬ祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)の幼い笑顔に上がる戸惑いの声。周囲をくるりと見渡したアリステアが鷹司に手を振った。
「この前会ったの、覚えてる? 一緒にがんばろうね」
 知り合いを強調して動揺を抑える。心得た鷹司がすぐに協力者であることを告げ、もう1人を見やった。
「それぞれ仲間が救援に向かっている。俺たちと連携してもらうぞ」
 包囲を突破してアリステアを安全に送り届け、手にした二刀が複数の鳥の化身を地に叩きつける。腕利きであることをすぐに証明した『縞パンマイスター竜』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は気安く笑って声をかけた。
「その少女を中心に陣形を組めば、そうそうやられることはないはずだ」
 互いにフォローをってのは言うまでもないか。ニヤと笑って口にすれば、罰が悪そうに大山と鷹司が顔を歪ませる。その様子にひとしきり笑うと竜一は背中を向けた。
「んじゃ、その子は任せたぜ!」
 そして竜一は戦場に躍り出る。赤の子の勢いがもっとも盛んな地点へと。

 そこからの陣形構築は早い。強力な癒しの力を持ち、かつ護るべき少女の周りを固め警官隊が外の脅威へと対峙した。
「わ、おじさまがいっぱい」
 どこか声を弾ませて、アリステアが笑みと一緒に癒しを紡ぐ。外周の警官が癒された身体で敵の強襲を食い止めれば、内周からの集中砲火が鳥を地に落とす。一連の流れを生み出して、アリステアが周囲に声をかけ。
「無茶は禁物だよ! 傷ついたら一旦下がって。全部治してみせるから!」
 だれも目の前で死なせたくない。少女のそんな想いを受けて奮起せぬ者はこの場にいない。
 安定を生み出す陣形の外。赤の子の巨体が集まる一画。折り重なって畳み掛けるも、振り上げた爪は仲間の背によって阻害され。
「図体ばかりでかくってもな」
 4mを越す体躯は連携には不適合。身を低くし敵そのものを壁にして、竜一が一歩踏み込んだ。周囲に烈風を巻き起こし――
 楽しげな咆哮が螺旋を描いて天に昇る。


 喧騒がどこか遠くに聞こえる。
 かすれた意識を奮い立たせ村田は状況を思い起こす。斬殺される瞬間、誰かに庇われたのだ。
 村田が顔を上げてそれに気付く。その背中に。
「柴崎、さん?」
「……柴田だ。間に合ってよかった」
 そう訂正した男に見覚えがあった。今回の事態を事前に察知し忠告した県警本部の人物ときく。
 ……年齢もずいぶん違うのに、何故同じ捜査一課に所属する先輩と間違えたのか村田自身不思議だった。
「……気がついた?」
 奥から声が響いた。肩越しに視線を向けて『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)が口にする言葉。かつて戦場を共にし心惹かれた人の背中、その奥に見える巨体の化け物に、自分が少女に護られていたことに気付いて。
「き、君は……」
「じっとして。まだ癒し終わっていないんだ」
 今更ながら傍に立つ者に気付く。暖かな光が傷を目に見えて減らし『祈鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)の紡ぐ高位の癒しが村田の意識をはっきりとさせていった。
「俺たちが今回の破滅を予言したリベリスタの一団だよ」
 そう語りかける。街の防衛を。共闘の意思を。
 この間も破壊衝動に駆られる赤の子との交戦は続いている。話を聞き頷く村田の、その視線は熱心に少女の戦う背中へと注がれて。
 ――なんかヘンな感じだけど。
 視線を感じながら涼子が力を振るう。8mを越す巨躯の鳩の化身。人々を虐殺せんとするそれを、1人で抑えていた村田。
 ……悪くない。それで、いっしょに力のないひとを守るのも、悪くない仕事だ。
 少しだけ口元に笑みを浮かべて、敵を呑み喰らう無数の黒いオーラを放出して。

「村田、市民の避難に同行しろ」
 柴田の言葉に自分も戦えると否定する、前に遥紀が割り込んで。
「俺達はリベリスタ、警官ではない。いざという時の優先順位は覆らない……だからこそ貴方に託したいんだ」
 納得せざるを得ない言葉。事実市民の避難も立派な仕事だ。頭でわかっていても割り切れない想いごと肩を揺らされて。
「惚れた女の前なんだろ。シャンとしろ」
 柴田のニヤリと笑う仕草に大慌てで了承の返事をした。
 涼子の背中を一瞥して避難中の市民へと足を向け……
「皆さんは、撤退しないのですか」
 そう告げると眼前の男……『ウワサの刑事』柴崎 遥平(BNE005033)がふっと小さく笑みを零した。
「お巡りさんがさ、市民見捨てて逃げるわけには、いかないだろ?」
 促されて市民の元へ駆け出す。その言葉を反芻して。
 捜査一課で耳にタコが出来るほど聞かされた言葉。課長や、そして……先輩の言葉。
 村田が離れていくのをその背中で感じて、涼子が小さく呟いた。
「……生きてれば、また会うこともあるだろうさ」


●Cross Wish
 ――願いが交差する。


「遂に来やがったか、ナイトメアダウン」
 この地のどこかにいる過去の自分。眼前の死に絶望して。
 ――知っている。
 並んでいた肩も、差し伸べられた手も、今はもうないけれど。
 ――知っているんだ。
 支えられたことを。救われたことを。生きることを。その人たちに誓ったことを!
 俊介の悲痛なまでの願いが世界に溶ける。こんな絶望、塗り替えてやると。

「例えそれが狂った世界自身だとしても」
 絶望に色濃く染まった世界。その因子を生み出したのが、自分たちの住むこの世界だったとしても。
 護ると誓った命がある。全てなど選べなくとも、だからと初めから抗うことを諦めるつもりもないのだ。
「もう誰かが死ぬのなんて沢山だ」
 遥紀の覚悟。呟く願いが意思を支える。


「過去の改変が良いのか悪いのかなんて難しい議論は俺には判らねえ」
 煙を燻らせて遥平が呟く。それは小さく、反して強い。
 答えなどないだろう。言葉を重ねたところで結果は見えないのだから。
 けれど。これだけは言えるのだ。
「死なせられねぇよな。かけがえのない戦友共をさ」
 都市の壊滅が最低限に抑えられたなら。救われる命の中に、あの日亡くした最愛もあるかもしれない。
 それは言葉にしない言葉だった。

 失われていく命に手を差し出したなら。その命は未来へと繋がっていくのだろうか。それとも……
 答えはわからない。それでも。
「僕はそれに賭けたい」
 固めたガントレットは真っ白に輝く。その曇らぬ心を表して。伸ばし、掴んで、意思を貫ぬく悠里の手だ。
 例え意味がない行為だったとしても……
「損得勘定で助ける人を選ぶなんて事はしたくない」
 その手は、目の前の命を救うために。


 過去改変が正しくなかったとしても。
「彼らが生き残る可能性だって出てきたんだ」
 だから助ける。散々迷ったってわからないなら、夏栖斗にとって一番を真っ直ぐに願うだけ。『助けたいから助ける』だけなんだ。
 ずっと走ってきた少年は、今この時も止まらない。
「俺は、誰も犠牲にする気はない」
 竜一が口にしたのはたった一言。それ以外はなく、それ以上はない。願いを表す、これ以上の言葉など。
 後は動くだけ。熱に身を任せ、心のままに力を振るう。
 ――血の一滴でも残って。
 例え力が届かなくても。
 ――指の一本でも動くかぎり。
 涼子は決して諦めない。
「誓ってここは通さない」
 その身が、意思が、彼女を象る限り。


「過去があるから、未来があるんだよね」
 目を閉じれば浮かぶいくつもの風景。その記憶の一つひとつが今のアリステアを形作っている。
 例え辛い事でも、それがなかったら今の私ではないかもしれない。
 それが、ちょっとだけ、怖い。
 この先に何があるんだろう。私はどうなるんだろう。
 でも。未来が変わったとしても……
「大切な人の記憶は絶対、残るよね?」
 自分が自分である、もっとも大切な願いを抱きしめて。


 情報が交錯する都市で最善の糸を掴み取る。
 遥平は持ちうる全てのコネクションを用いて状況把握に努め、各チームの最短ルートを叩き出した。各チームに一つの言葉を伝達して。

「此処から先の結末は、俺にも判らねえ。だが、あの日より少しでもマシな結末に辿り着けるってなら、やってみる価値はあるぜ」

 ――想いが一つになる。


●Cross Road
 そして今、この戦場に集まった彼らはその想いに衝き動かされて――


 飛び交う火球が竜一を襲う。その攻撃を引きつけて周囲の赤の子ごと巻き込ませたなら、効率的だろと笑って巻き起こした烈風がその止めを刺す。
 縦横無尽に立ち回る竜一の無茶な作戦もアリステアの献身があってこそ。敵を食い止める警官隊も、潰して回る竜一も、まとめてその安全を約束する癒し手の矜持。
「片付いたみたいだね」
 最後の1人が撃ち落されるのを確認して、アリステアが死傷者がいないことに安堵の息を吐く。
「避難所へは俺たちが向かう。あんたら警官隊は本部を頼む。敵との相性の問題だ。協力してくれ」
 集まった警官隊に竜一が指示を飛ばす。2班体制で組んだ意味を実感した今となっては拒否などしようはずもない。
「鷹司さん、大山さん、避難所の皆はちゃんと守るから」
 アリステアの笑顔に2人が「頼むぜ」と頭に手を置いて、警官隊は本部へと急行する。
「竜一お兄さん、私たちも頑張らなきゃ」
「おう、さあ俺に乗ってアリステアたん!」
 ここぞと笑みを浮かべながら、バイクを飛ばして一路避難所へ。


「いいか、応援は必ず来る。それまで持ちこたえるぞ!」
 振り下ろされた巨大な剣は障壁に阻まれて派手な火花を散らせた。遥平がその障壁で涼子への攻撃を防げば、涼子は法則を無視した自身のルールを纏って攻撃に専念する。
 障壁を無視する音波の攻撃は威力としては高くなく、遥紀が癒しを吹きかけてその消耗を掻き消して。
 痺れを切らせて市民の元へ飛ぼうとすれば、涼子がそれを阻止して立ち回り攻撃を引き付ける。
 バランスの取れた3人の動きは、この場で敵を釘付けにするのに成功していた。
「まあさすがに、消耗の方が早いだろうけどね」
 敵を観察し動きを分析しながら遥紀が注意を喚起する。飛行し視界を遮る巨躯に孤立は命取り。少人数での最善と限界を感じて癒しを紡ぎ続ける。翼を持つ敵である以上、いざとなれば身を張る覚悟を見せて……
 涼子が地を蹴って大蛇を纏う。音波が後衛を巻き込まないよう立ち回り、より深く傷を残すべく集中を重ねて。
「結局のところ、みんなが来るまで立ってるのが今日の仕事だ」
 ――アンタから見れば、取るに足りない小さな女で、軽い拳だろうけど。
 呟きは決意に色を染め、呑み喰らう大蛇の意思。
「このちっぽけな命と魂を殺しきれるか、試してみればいい」


 拳を叩き付けた場所から凍気が広がる。瞬く間にそれは鎖の如く周囲を縛り複数の氷結を誘った。敵を食い止めるその中心、悠里の存在こそこの戦場の境界線と思わせて。
「皆もおんねんな。大丈夫、1人で戦おうとしないで全員でやるんよ」
 ――俺がお前等1人も欠けさせないから。
 俊介が癒しと共に届ける言葉が、悠里の姿と共に予備隊の士気を大いに高める。そんな彼らに、仲間からの通信が伝わればより勢いを増して活力を生み出した。
「援軍がこちらに向かってる。もう少しだ!」
 悠里の言葉に歓声が沸く。無数に思えた敵が減り、無限に思えた時が終わる。その気持ちがわかるから、悠里はもう一度予備隊を振り返った。
「誰も死なずにこの危機を乗り越えるんだ! 皆でこの街を守るんだ!」

「美味しいところ取られてんじゃん課長」
「ふん、若い者が盛り上げればいいのさ」
 夏栖斗と課長が笑って掛け合い、同時に拳を振り上げた。天より引きずり降ろし地に穴を穿つ。その連携で確実に赤の子の数を減らし。
 戦力の差を補う高い士気。身を粉にして奮迅する彼らを俊介が癒し送り出す。
「怖くない、怖くない、俺らはリベリスタ、正義の味方! 何時でも正義が勝つんよ!」
 その頭上から急降下する鳥を蹴り落とし、夏栖斗が咆哮をあげて一直線に敵を一蹴する。
 それらが纏めて撃ち落されたなら、駆け寄る増援の姿に場が沸いた。数の不利を覆し、希望は最早消えはしない。
「僕らは避難所へ行く! あんたの部下は絶対に死なせはしない!」
 夏栖斗と俊介が赤の子のリーダーが待つ避難所へ向かうことを告げると、課長と共に悠里が送り出した。
「僕はここの敵を片付けてから行くよ」
 頷きあいバイクを見送ると、警官隊の陣頭に立って赤の子と向かい合う。今こそ攻勢に出る時!
「僕達が境界線だ!」
 その合図が掃討戦の開始を意味して。


●Cross Future
 避難の列は視界を離れ、最早追撃は容易ではない。
 決死の覚悟で鳩の化身を抑えきった3人の疲労は少なくない。が、それぞれの役割を演じきった彼らはなお戦意を保ち戦い続ける。
「さすがに枯渇が近づいてきたな」
「回復の手を緩めれないからね」
 リボルバーから魔弾を放つ遥平に苦笑交じりの遥紀の声。通じないと割り切ってからは音波を吐き散らす敵に、魔力の充填を行う暇を与えられていないのだ。
 そんな彼らの気力が突如充填される。「これでどう」と笑う少女の声。
「お待たせ皆」
 アリステアが微笑んで力を紡ぐ。次々と気力が漲れば、感謝と共に気を吐いて。
「まずは応援が間に合ったな。さあ反撃開始だ」
 遥平の言葉に呼応して雄叫び一つ。
「あいつらを待つのもいいが、倒してしまっても構わんのだろう、なんてなァ!」
 竜一の渾身を込めた一撃が鳩の体毛を大いに散らせた。

 味方が増えたことは火力の増幅を意味し。同時に被害の分散も表す。体力と気力を同時に癒せるようになり安定はしているが、平和の剣はいよいよ真価を発揮して。
「消耗したら無理せず下がってくれ」
「ああ、いったん任せるよ」
 竜一の言葉に頷いて涼子が油断なく後ろに下がる。その視線は敵から離さず、一挙一動を見極めて。動きを読み取りながら体力の回復を待つ。
 攻撃を重ねれば反射も重なる。障壁による消耗も早い遥平はじめ、癒し手たちの尽力も未だ手が足りたわけではなく……
「猫の手も借りたいってやつかな」
「んじゃーお届け!」
 疲労の混じる遥紀の言葉に重なって。俊介の言葉と癒しが空間を満たす。
「さあ一気に畳み掛けよう!」
 飛び出した夏栖斗の蹴撃が巨体を揺らす。心得たと攻撃が集中し、怒り巨剣を振るうその身が崩壊が近いことを思わせる。
 竜一の合わせた二刀が翼を断ち切る。手痛い反撃もアリステアの献身が抑えたなら、何を恐れることがあろうか。
 巨躯を震わせて赤の子が絶叫を上げる。その鳩を思わせる間延びした音は――
「これで――終わり」
 重ねた集中、動きを完全に見極めた涼子の大蛇の闘気がその存在ごと呑み喰らい。


 世界を滅ぼす因子。それを滅ぼすことが未来にどう影響するのか。
 どうであっても、心にある最愛を間違えなければ決して悪くはならない。
 遥紀が遥か遠くのそれを見上げる。
 R-Type。戦いはまだ終わらない。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
このような顛末と相成りました。

優秀な癒し手、絶対者、強装甲、物理障壁と。
どんだけ護り固めてくるのかと問いたい。
ぎりぎりまで頑張ったが無理だったよ。

結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)さんにMVPを。
互いを補うよう組まれた2班の分離はかなり危険な状況を生み出すところでした。
癒し手と警官隊の双方を護るアイディアを含め、かなりの作戦貢献であると判断いたしました。

被害はかなり抑えられました。
あとはナイトメアダウンの決戦次第。

それではご参加ありがとうございました。