● 震撼結界 『どうしたものか…………』 ぽつりと零れたその声は、まるで枯れ木のように干涸びていた。 大雨と洪水で、住民の避難した街中で、ぽつんと1人傘を差して立っている僧侶風の男だった。身に着けているのは黒い墨染めの衣と錫杖のみ。手足や顔など、肌の露出箇所には全て薄汚れた包帯を巻き付けている。 よくよく見れば。 或いは、神秘に理解のあるものが見れば、男の周囲を薄い光の膜が覆っているのに気がついたかもしれない。傘などなくとも、光の膜が雨水を弾いてしまうので、男が雨に濡れることなどなかっただろう。 『参ったな……。私の力では、結界を破壊できないではないか』 空を見上げ、喉の奥から唸るような声を漏らす。それから視線を、道路の上にまで溢れ出した濁流の中へと向ける。 そこにあったのは、小さな地蔵であった。 だが、どうにも普通の地蔵ではないようだ。地蔵の頭部に、小さな黒い虫が張り付いている。その虫を中心に、地蔵から禍々しい気配が溢れ出していた。 『結界虫……。私には、物を壊すような技はないが、かといってこのまま放置しておくわけにもいかない』 どうしたものか、と唸りながら僧侶は濁流の中へと歩を進める。 僧侶の下半身は、一瞬で濁流に飲み込まれた。それでも僧侶が立って前へと歩けているのは、自身の周囲に結界のようなものを展開して、濁流を阻んでいるからだろう。 僧侶が、地蔵から10メートルほどの距離にまで近づいた時、異変が起きた。 地蔵を覆っていた禍々しいオーラが昆虫の蛹のような形状に凝り固まって、質量を得たのだ。 『やはり……番を置いていたか。残りの4箇所も同様であろうな』 蛹が割れて、中から黒い虫が姿を現す。2メートル近いサイズの、奇妙な虫だ。体は百足に似ている。蜘蛛のような足が、無数に生えている。トンボのような羽で空を飛び、その顔はバッタのようだった。 そしてそいつは、カッチカッチ、と時計の針が動くような不気味な声で鳴くのである。 『参った……。強化するのは得意なのだが。せめて、自分の世界から連れて来た問題くらいは自力で解決したかったが、かくなる上は我が身を犠牲に送り返すしかないだろうか?』 枯れ果てた声でそう言って、淀んだ目で虫を見て、そして僧侶は懐から1本の短刀を取り出す。 刀身に文字の刻まれた、祭具のような短刀であった。 『残りは数十分程度と言った所か。早々に送り返さねば、結界が完成して災いがこの世界に溢れ出すことになる』 時間がないな、とそう呟いて、僧侶は再度虫へと向き直るのだった。 ● 死番虫 「アザーバイド(僧正)と、彼の居た世界からこっちの世界に迷い出て来たアザーバイド(死番虫)が5体。街の数カ所に分散して結界を張っている。結界が完成したら、異世界から災いがこの世界に溢れ出すことになる」 結界を完成させないことが最優先、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言った。 僧正とは、事情を話せば強力することができるだろうと予想される。 「あまり時間の猶予はない。僧正に頼めば(死番虫の捜索)(パラメーター強化術の付与)を行ってもらうことが可能。もちろん、自分達のスキルで探すこともできるけどね。だけど僧正には戦闘能力はないから、気をつけて」 戦闘に巻き込まれてしまうと、僧正はそう長く持ちこたえることは出来ないだろう。 恐らく、街のどこかにDホールが開いているのだろうが、Dホールから死番虫を送り返すことは諦めた方が良いかもしれない。 「死番虫の結界を破壊するのに、数分〜十数分の時間を要するわ。僧侶の術や、スキルで攻撃力が上昇していれば破壊もいくらか容易になるはず」 出来ることなら、迅速に破壊してしまいたい。ましてや、嵐の最中のミッションだ。足場や視界もあまりよくはない。濁流に飲まれて、そのまま流されて行くという事態も十分有り得る話だろう。 「死番虫の作り出した(奇怪虫)が、各結界を守っている。一箇所につき1〜3体ほど。割と頑丈で、動きも早いから注意して」 先ほどモニターに映っていた、複数の虫を合成したような外見のあいつだ。制限時間内に結界を破壊するには、奇怪虫を早目に討伐するか、誰かが引き付けるなりする必要があるだろう。 「一般人に見られる心配はないから。Dホールがあったら破壊もお願い。それじゃあ、行ってらっしゃい」 そう言ってイヴは、仲間達を送り出すのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月29日(金)22:10 |
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■メイン参加者 5人■ | |||||
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●異世界からの災厄 どんよりと、分厚い暗雲が立ち込め、弾丸のような雨粒が降り注いでいる。水はけの悪い街だ。道路はすっかり、川から溢れ返った泥水の底に沈んでしまっている。 街の5方に展開された不気味な結界の存在を知るのは、現在現場に向かってきているリベリスタ達と、結界を展開する死番蟲を追ってきた(僧正)と呼ばれるアザ―バイトのみ。 死番蟲の結界が完成すれば、この世界に災厄が訪れる。 それを防ぐために、命を賭けて僧正はこの世界にやって来た。 僧正と、リベリスタの目的は一致している。死番蟲の討伐だ。 死番蟲の居場所を感知しながらも、その結界を破壊する術を持たない僧正は、包帯に覆われた顔を歪め、ギリ、と奥歯を噛みしめ、唸る。 そんな彼の眼前に、5人の男女が姿を現した。真っ先に声をあげたのは『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)だ。 「初めまして。私達は結界を破壊に来ました」 「協力します。まずは敵を片づけましょう」 次いでアリーサ・ヨハンナ・アハティサーリ(BNE005058)も、僧正に力を貸すことを伝え、強い意思の籠った瞳を包帯の奥の僧正の目と合わせる。 突然の来訪者。おまけに、自身の目的を知っているようだ。言葉を失う僧正を一瞥し、『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)は、ふん、と鼻を鳴らし酷薄な笑みを浮かべて見せるのだった。 ●目的の一致と、全力疾走 「なにをどうすれば……かような蟲をボトムにもたらすことができるのか。監督不行き届きですわ」 麗香の言葉を受け、僧正は視線を伏せる。 しかしすぐに顔をあげ、包帯の奥の瞳を麗香へと向けた。 『申しわけの言葉もない……。しかし、このまま捨て置く訳にもいかないのです。手を貸してくれると言うのなら、是非お願いしたい。協力できることならなんでも協力しよう』 「殊勝な心がけだな。自力で問題解決、騒ぐだけ騒ぐ馬鹿には爪の垢を吞ませたいものだ」 吐き捨てるように『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)はそう言った。 懐から拳銃を抜き出し、すでに戦闘の用意はできているようだ。 時間の猶予はさほどない。僧正は、即座に死番虫の居場所を捜索し、リベリスタ達を現場へと案内する。 地面は川から溢れた水で覆われていて、移動するのには不向きであった。万が一、水流に足をとらえ流されるような目にあっては、ただでさえ足りない時間の余裕が、更に短くなることになる。 そのような事態は避けねばならない。 リベリスタ達は、屋根の上や、半ば水に沈んだ車の上などを足場として最短ルートで最も近い死番虫の居場所へと急行した。 『いました。あれです』 僧正の指さした先には、禍々しい黒いオーラの塊があった。地蔵の頭部に取り付き、結界を展開している死番虫。そして、その死番虫を守るように近くの木に巻きついている翅の生えた百足のような形状の(奇怪虫)の姿が窺える。 「さて、今日のオーディエンスはあの虫たち。それではコンサートを始めようっ」 銀のタクトを振りかざし『「Sir」の称号を持つ美声紳士』セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276)は、歌を奏でる。 セッツァーの歌に反応し、奇怪虫が空へと飛び上がった。 一方、死番虫は動かない。あくまで、死番虫の役割は結界の展開なのだから。 奇怪虫と死番虫の周囲にはいつの間にか、黒みがかった霧が充満していた。セッツァーのタクトに操られるようにして、霧は左右へゆらゆらと揺れるように広がって行く。 霧の中で、奇怪虫がその身をぐぐ、と丸めてもがいているのが見える。 『あれは……?』 と、問うたのは僧正だ。 「毒の霧ですよ」 と、セッツァーは笑って、そう答えた。 「敵に狙われないように少し離れて貰えるか。死なれても面倒だ」 僧正を後ろに下がらせ、ユーヌは前へと歩み出た。護符の刻まれた手袋をはめなおし、その手をまっすぐ奇怪虫へと向けた。手袋から滲みだすように、漆黒の影がじわじわと奇怪虫へと襲いかかって行く。 「メガネビーム……ではないですよ」 翼を広げ、イスタルテが飛んだ。 彼女の放った眩い閃光が、霧の中の奇怪虫と死番虫を覆い、焼く。奇怪虫が閃光を浴びて怯んだその一瞬をついて、麗香は霧中へと飛び込んだ。 大上段に構えた剣に、持てる力の全てを乗せる。剣を覆う、激しいオーラを叩きつけるように一閃。擦れ違い様に、奇怪虫の胴を真っ二つに切り裂いた。 体液を撒き散らし、悲鳴を上げる奇怪虫を尻目に、そのまま麗香は死番虫の結界へと接近。奇怪虫の次は、結界を壊して死番虫を討伐するつもりらしい。 「パラメータをとっととあげてもらおう」 麗香は、僧正に向かってそう声をかけた。その言葉を合図に、僧正は包帯に包まれた腕を上げる。腕の周りに、魔方陣が展開され溢れた光の粒子が麗香の身体へと収束していく。 これで、麗香の身体能力は強化された筈だ。 麗香はよしと頷いて剣を掲げる。 しかし、その直後、彼女は自分の油断を悟った。 「っ!? まだっ!」 先ほど斬り捨てたばかりの奇怪虫が、川に落ちる寸前で再び動き出したのだ。下半身を失い、体液を撒き散らしながら、しかし必死に翅を動かし僧正の元へと襲いかかる。 その命尽きるのも時間の問題だろうが、しかしまだ生きている。僧正には、自身の身を守るような技術はない。 ぼんやりと不気味に発光しながら、奇怪虫は飛んだ。 その牙が、僧正の元に届くその直前、彼の前に1人の女性が飛び出してくる。 「こっちは任せてください。僧正さんにも無事に元の世界に戻っていただきたいので」 大きく振り抜いた鉄扇が、奇怪虫の頭部を打ちのめした。青い髪を靡かせ、僧正の護衛に回ったのはアリーサであった。 「よしっ!」 僧正の無事を確認し、麗香は剣を握り直した。 大上段に剣を振りあげ、麗香はまっすぐ死番虫へと視線を向ける。邪魔するモノがいなくなってしまえば、死番虫の結界など、少し固いだけで破壊するのはそうそう難しいことではないのだ。 2箇所目の結界は、ビルの屋上にあった。場所は狭いが、川に流される心配はない。 しかし、問題が1つ。死番虫の結界を護衛する奇怪虫が、ここには2匹いるではないか。 狭い屋上の上下左右から、不気味に発光する死番虫がリベリスタ達を襲う。 僧正を庇いながら一同は、死番虫の結界付近まで移動した。 「攻撃を集中してできるだけ早く結界をこわす!」 仲間と、ユーヌの召喚した影人に背中を任せ麗香は死番虫の結界へと剣を叩きつける。襲い来る奇怪虫は、前衛に飛び出したイスタルテとユーヌが、その身を挺してブロックし続けていた。 「このっ!」 「煩い羽虫だ」 イスタルテの閃光で身動きの鈍った奇怪虫に、ユーヌの召喚した影人が群がる。 翅を毟り、足をへし折り、床に奇怪虫を押さえつける。 「回復と僧正さんの盾は任せてください」 翼を広げ、アリーサは言う。飛び散った淡い燐光が、傷ついた仲間達の傷を癒していった。 アリーサと同時に、僧正もまた仲間達のパラメータを強化する術を使用したようで、勢いを取り戻した麗香のラッシュが、結界を打ち砕く。結界が砕け散ると同時に、死番虫はその場を離脱すべく飛び立つが、途中で力尽きて遥か眼下の川へと落ちていった。 「我が霧よ、敵を包み、その行動を妨げ給えっ」 いつの間にか、周囲にはセッツァーの毒霧が充満している。その毒に侵され、死番虫も奇怪虫も息絶えたのだ。 『あと三か所です』 疲労の滲む声でそう呟いたのは、息絶えた奇怪虫に向け、軽く祝詞を唱え弔いを済ませる僧正であった。 次の結界には、1体の奇怪虫が護衛に付いていた。しかし、何かしら気になる対象を見つけたのか結界から幾分離れた位置をうろついていた。 しかしもう1つ、結界の傍には大きな卵状の繭がある。恐らく、死番虫の呼びだした奇怪虫の繭だろう。 『これなら……』 そう呟いたのは僧正だった。その言葉をきっかけに、皆が一斉に動きだす。 ユーヌの呼びだした影人が、奇怪虫の前に飛び出した。不気味に発光しながら、奇怪虫は影人に襲いかかる。影人はあっさりとその牙に捉えられ、雲散霧消し消滅するが、すぐにまた別の影人が現れ、奇怪虫の注意を引く。 その隙に、イスタルテと麗香は死番虫の元へ。まず2人で繭を破壊し、次に結界へと総攻撃を開始する。影人に気を引かれた奇怪虫は、2人の存在に気付いていない。 僧正とアリーサは、後衛で待機している。僧正はすでに次の繭の位置を捜査し始めていた。 影人が奇怪虫の気を引いている間に、セッツァーはタクトを振るい眼前に魔方陣を展開。その中心から、禍々しいオーラを放つ銀色の弾丸が召喚された。 奇怪虫がこちらに背を向けたその瞬間、セッツァーは銀弾を放つ。 音もなく、銀の弾丸は空を疾駆し奇怪虫の頭部を撃ち抜いた。 体液と、外皮が弾け、奇怪虫はその場に崩れ落ちる。 それとほぼ時を同じくして、麗香とイスタルテが死番虫を撃破したのだった……。 一同は、最後の結界のある駅のホームへと辿り着いた。 改札機の傍に1つ。更に、線路の中央に1つ。すぐ近くの距離に2つの結界が存在している。 奇怪虫も、すでに3体が周囲を徘徊していて、更には2つ、繭も見受けられる。 「そろそろ効果が切れる頃合いですかね」 イスタルテによって翼の加護を付与される。さらに僧正の強化術も。EPの不足している者には、アリーサがインスタントチャージを施し、戦闘体勢を整えた。 敵の場所を、事前に発見できるという利点。戦闘に入る前に、体勢を整え策を練ることができる。 超直感や千里眼、集音装置などのスキルも有効だった。 「さぁ、それでは歌うとしよう。歌は安らぎ、歌は力、歌は希望なのだから」 銀のタクトをゆったりと振り上げ、セッツァーが美声を奏で始める。周囲に無数の魔方陣が展開し、霧と化しては消えていく。あっという間に、魔力を多分に含んだ霧が駅のホームを覆い尽くした。 身体に毒を浴び、奇怪虫達が明らかに混乱した動きを見せ始める。霧が原因だと判断する程度の知能も持ち合わせてはいないのだろう。 霧に紛れ、リベリスタ達が動き出す。 ●死番虫の結界 霧の中を影人が駆ける。それを指揮するユーヌは、無表情のまま呆れたように鼻で笑った。 愚かだ、とその目が告げている。 攻撃を受ければ、なんの抵抗もなく消滅していく影人達を、奇怪虫は襲い続けているからだ。 なんの疑問も抱かないまま。 「図体だけは立派な羽虫だな。どっしり構えた置物か? 落ちて流され消えるがお似合いだ」 奇怪虫が、影人の頭部を噛み砕く。その瞬間、奇怪虫の身体に不吉な影が纏わり付いた。ユーヌが指先を動かす度に、影がずるずると奇怪虫の身体を覆い尽くすように蠢いている。 毒を受け、影に捉えられ、奇怪虫の動きは次第に遅くなっていく。その命が尽きるのも、時間の問題だろう。 不気味に発光する奇怪虫が、セッツァーへと襲いかかる。翅を広げ、高速での突進をセッツァーは正面から受け止めた。セッツァーの身体に衝撃が走る。しかし、絶対者の効果により状態異常を受ける心配はない。ただ、ダメージを受けただけだ。口の端から、血が溢れる。 「レディ達が戦う中でワタシが先に倒れるなどあってはならないではないか」 ゴボリ、と血を吐きながら、しかしセッツァーはタクトを振りあげ歌を歌った。 セッツァーの眼前に魔方陣が展開され、そこから銀弾が解き放たれた。至近距離から放たれた弾丸は、奇怪虫の頭部に命中。奇怪虫の頭部は無残に弾け飛んだ。 最後の瞬間、セッツァーの腹部に鋭い牙が突き刺さり、その肉を噛みちぎる。血が溢れ、セッツァーは苦悶の表情を浮かべ、その場にがくりと膝をついた。 暗視ゴーグルと千里眼を駆使するイスタルテは、濃い霧の中でも進路を見失わずに飛んでいける。 奇怪虫を無視し、向かう先には死番虫の結界と孵化する前の繭が2つ。 ドン、とイスタルテの背に衝撃が走った。軌道が乱れ、イスタルテの身体は地面に叩きつけられる。頬や肩をすり向きながら、イスタルテは自分を襲った何かを見上げた。 それは、最後に残った奇怪虫だ。 「この距離なら……奇怪虫だけでなく死番虫や結界も纏めて攻撃できるでしょうか?」 血と泥に塗れたまま、顔をあげ魔方陣を展開するイスタルテ。神気閃光を発動させるその寸前、イスタルテの背に乗った奇怪虫に飛びかかる、小さな影が1つ。 「こっちは任せて……。ホリメの一般的な戦闘法としてはイレギュラーかもしれませんが、ある程度は相手の攻撃を避けれると思いますし……」 奇怪虫の攻撃を引きつけるのは、セッツァーの治療を終えて飛びだしたアリーサだった。 アリーサが奇怪虫を引き付けている間に、イスタルテは更に前へと歩を進める。孵化を始めた繭目がけ、神気閃光を放つ。 ピタリ、と揺れていた繭が一旦止まった、その瞬間。 「はぁっ!」 一気に敵の眼前にまで駆け込んだ麗香が、横薙ぎの斬撃を放つ。繭を一刀両断し、返す刀でもう片方の繭も斬り捨てた。翅すら満足に広がっていない奇怪虫を葬ることなど彼女にとっては造作もないことであるようだ。 『それで最後です。一気にいきましょう』 麗香とイスタルテの全身に、力が溢れた。僧正による身体強化だ。 チラと背後を振り返ると、セッツァーの銀弾とユーヌの影が最後の奇怪虫を飲み込んで行くところだった。 「帰還まえに包帯をといて素顔を見せてよ。素顔が気になるからな」 大上段に構えた麗香の剣にオーラが漲る。剣に全力を込めているその間に、イスタルテの弾丸が結界を削る。 護衛のいなくなった結界を破壊してしまうのに、そう時間はかからないだろう。 『皆さん……。お世話になりました。無事に元の世界に帰ることができます』 深く頭を下げ、僧正は元の世界へと帰って行く。 バケツをひっくり返したように降り続けていた雨も、いつの間にか小ぶりになっていた。雨があがるのも時間の問題だ。心なしか、川の水も幾分と減っているように思う。上流の方は、既に雨が上がった後なのかもしれない。 『申しわけないですが、素顔は晒せません。皆さんのことは忘れませんよ。縁がありましたら、また』 どこかでお会いしましょう。 そう告げて、僧正はDホールへと飛び込んだ。 できればもう会いたくない……と、一同は声に出さずにそう思った。 アザ―バイドがこの世界にやってくる時、それはつまり、トラブルが起きた時なのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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