●わすれものたちの挽歌 ナイトメアダウン直前の日本をゲートの向こうに見つけたアーク。 斜堂影継らの調査によって自チャンネルと密接な連続性を確認した彼らはミラーミス対策のための組織としての本分にそって当チャンネルへの積極介入を開始した。 当チャンネルとの共闘にあたって封を切られた切り札、荷電粒子砲・神威。史実通りに現われるR-TYPE。 神威の発動までR-TYPEを釘付けにすべく、アークは当時のリベリスタと共に非影響R-TYPE変異体『赤の子』の破壊に乗り出したのだった。 ●裏付喪神 静岡県には広大な廃車置き場が存在している。 山と木に囲まれた、東京ドーム何個分という広さの場所に大量の廃車が無造作にごろごろと置かれているのだ。 たまに子供が紛れ込んでいたり、廃材から資源を引っ張り出して売る業者の苗床になっていたりするのだが、今日はそんな日常風景からはとんと離れていた。 「いやあ……参ったねえ、こりゃ」 ヤードの中心で、頭をがりがりとかく一人の男。 長髪で、藍染めの着流し。首には金のネックレス、指には高級な指輪という格好でありながら、身の丈よりも長い刀を担いでいた。 名を、小野新之助。かつてバーナード家に居候していた男である。 足下が暗くなったのを見て、小野は頭上を見上げる。 「おっと」 頭上から、マイクロバスが降ってきた。 ただのバスではない。まるで虫のように鋼の六本足を生やしたバスの化け物である。 より具体的に述べるなら、長い間捨てられた車に蓄積した負の属性がR-TYPEと共鳴して生まれた変異体である。 バスは小野を押しつぶすように地面にボディプレスをしかけた。 常人であればミンチ確定である。 が、次の瞬間にはバスは左右真っ二つに割れ、その場にごろんと転がったのだった。 割れたバスが爆発し炎上。 その中央に突っ立ったまま、小野はぐるりと首を巡らせた。 周囲には無数の廃車変異体が群がり、今にも飛びかからんとしている。 刀を構える小野。 「次は誰が来るのかな……っと。あれ?」 だが、刀は中程でぽっきりと折れていた。 じりじりと包囲の半径を縮めていく廃車変異体。 「あー……降参するのは、ダメ? だよね」 小野は笑って両手を挙げた。 その時、頭上から声がした。 「考え無しに突っ込む癖は相変わらずでござるなあ」 空から大量の『シャープペンシル』が降り注ぎ、地面にざくざくと突き刺さる。 それだけではない。廃車変異体のボディを突き破って地面まで食い込むことで変異体の動きを強制的に封じたのだ。 一拍遅れて、小野の隣に着地する少年。 野球帽に学ラン。名札には『田中一郎』とある。 「えっとキミは確か……」 「今は田中一郎でござるよ。ニンニン」 「なにそれ、キャラ付け?」 「中学生忍者。カッコイイでござろ?」 田中は二等辺三角定規を手裏剣のようにつまんで見せた。 「そちらはお変わりないようで。イギリス滞在はどうだったでござるか」 「可愛い女の子と知り合いになりましたよ。シャメ見る?」 「結構でござる」 帽子を直す田中。 「現在このエリアでは変異した廃車たちが次々に暴れ出しているゆえ、一族総出で包囲した次第でござる。あとは変異の激しい中央部分の連中を倒すのみでござるな」 「でも駆けつけたの、キミだけだよね」 「……人手不足でござる」 指の上で三角定規を高速回転させる田中。 小野はあちゃあと言って目を覆った。 「でもご希望の品は持ってきたでござるよ。ほれ、上」 ぴたりと停止した三角定規で頭上を指さす。 その直後、マイクロバスと同じかそれ以上にデカい刀が降ってきた。 しかも小野の目の前に突き刺さる形で、である。 「今日はよくモノが降ってくる日だねえ」 「血の雨までふらなきゃいいんでござるが」 同時に構える小野と田中。 1999年8月13日。 これが、史実において彼らが死亡するおよそ十分前の出来事とされている。 ●素晴らしき交差世界 作戦を説明する。 当チームの任務は、ゲートの先に存在していたかつての日本。ナイトメアダウンのいち戦場に介入することである。 介入するエリアは静岡のとある廃車ヤード。 R-TYPE変異体となった廃車群と戦う小野新之助と田中一郎に加勢し、敵の中心とみられるボスクラスの変異体を撃破する。 天乃家(いわゆるご実家)からの情報提供で敵戦力に関するある程度の予測は立っている。 前半は小野たちを襲う強化変異体の迎撃。 後半は変異体が寄り集まって生まれる合体変異体の撃破になる。 それぞれ性質の異なる戦闘状況なので、適切な対応を考えられたし。 以上。健闘を祈る。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月26日(火)22:58 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●いざ災厄よ来たれ、私が食べてあげるから。 暴風。 上空何百メートルという場所からは静岡の町が一望できた。 見知ったよりもずっと低い町。ずっと広い空。 そんな空に、今まさに穴が空いていた。 世界の穴が、空いている。 「ナイトメアダウン……」 ヘリの扉を開き、ソリ部分に両足を乗せ、『六翼天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)は災厄の巨人をにらんだ。 「彼を死なせない。死なせはしない。こいつを叩きつぶして、退ける!」 首に装着した無線スピーカーから『降下準備よし』の声が伝わった。上空でぴったりと停止している補助員 サポ子 (nBNE000245)のものだ。 翼を畳み、フランシスカは静岡上空へと飛び出した。 頭を下にして自由落下の姿勢をとる。 風が轟音になって、髪の後ろへと通り過ぎていく。 やがて遠くに二つの人影が見えてくる。 小野新之助、そして田中一郎だ。 フランシスカは大きく翼を広げ、空気を押し流しにかかった。 黒色六枚。異形の翼。展開と同時にばらまかれた瘴気の風が、眼下の変異体たちをかき分けていった。 地面すれすれをカーブし、二人のすぐそばで踵でブレーキをかける。 「ハーイ、お兄さんたち。人手不足なんでしょ、手伝いに来たわよ!」 砂塵を散らして現われた彼女に、小野はあからさまに驚いて見せた。 「おお、これはこれは。とんだ美人が来てくれたじゃないの。でも……後ろ後ろ」 指をさされ、振り返るフランシスカ。 彼女の後ろには、大量の変異体が群がっていた。 バスに自動車にバイクに、視界に入りきるだけ全部である。 「あら」 バス変異体がギザギザの口を開け、彼女に襲いかかる。 だが『襲いかかる』までである。 変異体に大量の気糸が絡みつき、開いていた大口を強制的に閉じさせた。それどころか、顎から頭部にかけてを強制的に輪切りにしてしまった。 切断されたフレームが前方向に倒れて転がる。 次の瞬間には、瘴気の楔が大量に降り注ぎ、今まさにフライングアタックを仕掛けようとしていたバイク変異体たちに突き刺さり、空中で爆発。 一旦遅れて降下してきた『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)が、敵のど真ん中でホバリング。クロスした腕の先に二丁の拳銃を発現させると、薙ぎ払うように高速連射した。 それだけで一斉にはじき飛ばされ、爆発炎上する変異体の群れ。 「用事は彼女と同じだ。私たちは加勢に来た。よろしく」 杏樹がつま先から地面に着地した時には、『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)と『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)がスクラップに戻ったバス変異体の残骸へと着地していた。 「いや、はや。スクラップをスクラップにしなおすだなんて、微妙な話もあるものですね?」 「徒労以外の何物でも無いですねえ」 ふと見上げれば、『桃源郷』シィン・アーパーウィル(BNE004479)がゆったりとした斜め回転をしながらふわふわと浮かんでいた。よく観察してみると、彼女の周りにはシャボンのような膜が張られているのがわかる。 と、そんな彼女たちを見て、田中はぱしぱしと手を叩いた。 「やあやあ天乃殿! わざわざ十五年後の未来から助けに来てくれたのでござるなあ、ご苦労感謝、感激至極でござる!」 「…………」 沈黙。 沈黙の後、田中は瞬間移動のような速さで天乃の隣にやってきた。 小声で問いかける。 「もしかしてこれ、気づいたらイケない系でござるか?」 「……うん」 「うわあそれがしってば事態の大きさに混乱をしていたようでござる! 天乃ちゃんはまだこーんなちっちゃい子なのに、なんで間違えたのでござろー! それがし失言ー!」 自分の額をぺちぺち叩きながら大声でなんか言い出した。 とかなんとかやっていると、スクラップを撥ね飛ばして一台の自動車変異体が飛び出してきた。 口を開き、天乃たちへと食らいつ――こうとした所へ、上空からイーリス・イシュター(BNE002051)が降ってきた。 「みぎゃん!」 自動車変異体を貫通し、爆砕させつつ槍から地面に突き刺さるイーリス。 上下逆さになったままキリリとした顔で振り向いた。 「皆さん、加勢に来たのです!」 「それ、もう聞いたんだけど……」 「なんと!」 イーリスは気にしない。 姿勢も表情も維持して続けた。 どうでもいいが、地面に刺さった槍を握って倒立状態を保つとかすんごい握力である。 「でかい刀の人とニンニンはコンビを組んで、私たちと共闘するのです!」 「ニンニンって、それがしでござるか……」 「えー、女の子と一緒の方が楽しそうなんだけどなあ」 「文句を言っている場合ではないのです。もう戦いは始まってい――!」 喋っている途中だが、イーリスはビークルモードで突っ込んできた自動車変異体に撥ねられてすっ飛んでいった。 確かに戦いはもう始まっている。 彼女たちの周りは廃車から足を生やした変異体がいっぱいになっていたからだ。 逃げ場はない。 逃げ場はないが、それでよい。 小野は斬艦刀を見上げ、肩をすくめた。 「それじゃあいっちょう、やりますか」 ●あなたの作った道だから、私は歩くことができた。 天乃の手の中で、一本の糸が生まれた。 糸は螺旋状に分かれ、十三本の糸になった。 十三本の糸は螺旋状に分かれ、百六十九本となり、二千百十七本となり、二万八千五百六十一本となり、三十七万千二百九十三本となり、天乃の手から解き放たれた。 翼のごとく糸を広げ、天乃は駆ける。正面から来たるバイク変異体をムーンサルトジャンプで超え、絡み獲り、側面から来たる自動車変異体をドリルスピンでかわし、絡み獲り、真上から落ちてきたバス変異体へ上下逆さに着地し、反対側へ駆け上り、絡み獲り……そして、両手を一息に握った。 全ての糸を一本に戻せば、ばすんと音を立てて、変異体が一斉に細切れにされる。 天乃を狙うのは難しいと察した変異体の一部が、二丁拳銃の杏樹へ狙いをシフトし始める。 バイク変異体がライトを煌々と照らし、改造マフラーの咆哮をあげ、杏樹をぐるりと取り囲んだのだ。 結論から言うと愚さ極まる判断だが、普通であれば気づくまい。 「族の集会かなにかか、これは?」 銃を両方天に向ける杏樹。 ここぞとばかりに四方八方から同時に突撃を仕掛けてくる。 杏樹はそれを、すべて『一歩づつ』で回避した。 特別高速な動きではない。かといって跳ね回る様子もない。 社交場で踊るゆるやかなダンスのように、まるで気取った風もなく、二十三回の突撃をことごとくかわして見せたのだった。 「喧嘩を売る相手を間違えたな。あいにくだ」 十字を描くように、両腕をぴんと伸ばす。 バーニー、アンド、ラステッドホワイト。 ふたつの引き金を同時に絞れば、莫大な炎が柱となって発射された。 ぐるりと身体を一回転させたならば、彼女にむらがっていた変異体など残らずスクラップである。 と、そんな彼女の頭上をイーリスが飛び越していった。 飛んでいるわけではない。 飛ばされているのだ。 「小癪! 私を誰だと思っているですか! 血となり肉となり、はいぱー馬です号とひとつになったこのわたしを――!」 イーリスは空中でびしっときおつけ姿勢をとると、飛ばされた先にあるバス変異体へと着地の構えを取――。 バス変異体が口を開いた。 「あ」 ホールインワンだった。 口を閉じ、乱暴に噛みまくる変異体。 が、直後に痙攣。 背部から槍を構えたイーリスが飛び出し、廃材に着地した。 背後で爆発炎上するバス変異体。 「バス、がすばすはつ!」 「言えてない、言えてないわよそれ」 暗黒瘴気を周囲にばらまきながら振り返るフランシスカ。 こっちは特に心配ないようだ。 「新兄ぃたちは……」 見れば、小野と田中は二台分のバスが蛇腹でくっついたような変異体と戦っていた。 田中のコンパスが大量に突き刺さり、連結したセロハンテープによって動きが固定されているところだ。 字面の時点でもうおかしいが、一番おかしいのはここからである。 「今でござる!」 「はいはい、っと!」 小野は10メートル近い斬艦刀の柄へとジャンプ。地面に直立したかたちで突き刺さった斬艦刀である。その柄を両腕にがっちりと連結させると、空中で物理法則を無視した回転力を発動。遠心力でもってバス変異体を真っ二つにしていた。 「あっちも大丈夫ね」 小野の斬艦刀は見るからに味方を巻き込む兵器である。 そういうこともあって彼女たちはある程度離れて個別に戦っていた。 山田もとい那由他とシィンも同様である。 で、今彼女たちがどうなっているかというと。 「おやまあ、これは」 シィンを庇い立つ那由他。 彼女たちの両サイドからバイク変異体が突撃し、正面衝突した。 回避はしていない。直撃である。 更に自動車変異体が別の角度からサンドアタック。これも直撃。 更に更に、バス変異体が別の角度からサンドアタック、大直撃。 更に更に更に、大量の変異体が飛びかかり、山のように群がった。 が、そんな山を一斉に蹴散らすように暗黒瘴気が爆発した。 「うん、可愛い子を守るという構図は、やはり燃えます」 「照れますねえ、可愛いだなんて」 頬に手を当てるシィン。彼女にも、そして那由他にも傷らしい傷は一切ついていなかった。 彼女たちを覆うシャボンの膜のせいである。 シィンが指でくるりと環を描けば、周囲が次々に燃え上がり、変異体たちが炎に呑まれていく。 「さあて……そろそろですよ」 目を細めるシィン。 寝そべったような姿勢で宙に浮かび、大きな空を見上げた。 廃材が山のように積み上がり、盛り上がり、突き上がっていく。 鉄くずの塔と化した変異体の残骸はそして。 鋼の巨人へと変貌した。 「ここからが、長いんですよねえ」 辟易したような口調で、しかし嬉しそうな息づかいで、シィンは頭の後ろで手を組んだ。 ●過去とは今であり、未来とは過去である。つまり未来は今なのだ。 鋼の巨人が地面を殴った。 それだけで大量の廃材が吹き飛び、砂塵が吹き上がり、地面がめくれあがる。 爆風にあおられたフランシスカは地面から突き立ったバスの配剤へとぶつかった。 いや、その割には衝撃がない。 気づけば、小野に抱きかかえられていた。 「大丈夫? 女の子がさ、あんまり怪我とかしちゃいけないよ」 「平気よ新に……いえ、新之助」 慌てて腕を払い、宙に浮き上がるフランシスカ。 大ぶりな剣をひっさげ、巨人をにらんだ。 「あんなでかぶつ。この黒き風車が後れを取たっりしないわ」 「お先にやらせてもらいますよ。皆さんの格好いいところも見てみたいですしねー」 横を駆け抜ける那由他。無数の自動車が降り注ぐ中をジグザグに走行すると、巨人の足めがけて手槍を思い切り叩き込んだ。 高い呪力が巨人の前身を駆け巡り、ばきばきとフレーム体をひびわれさせる。 感情があるのか、それともただの条件反射か、巨人は執拗なまでに那由他を踏みつけはじめた。 手のひらに乗るような生き物に向けて靴を踏み下ろし続けたら何が起こるか、経験したことのある方ならおわかりだろう。 のっそりと巨人が足をあげたならば、前進をあらぬ方向へ歪ませた那由他が現われた。 「ああ、この、なんというか……ひどいで、すね……え」 声帯がおかしくなっているのか、濁った声が出てくる。那由他は逆向きになった足関節を苦労して動かしながら、無理矢理自分を立たせた。 ぐるぐると首を捻り、180度強回してから、アームガードに大量の呪力を集中させた。 再び振り下ろされる足。 繰り出される拳。 那由他は踏みつぶされた……が、同時に巨人の頭が半分ほど不自然に砕け散った。 よろめく巨人。 「今です、全力でいくのです!」 イーリスが走る。 ぼろぼろ落ちてくる車を神秘の力をチャージした槍で次々貫きながら走る。 積み上がった廃材の山を駆け上がり、頂点部分から一気にジャンプ。 「笑止! 高齢化なのです!」 巨人の腹めがけてまっすぐ突撃したイーリスはしかし、巨人の手に横からキャッチされてしまった。 凄まじい力で身体を圧迫される。それだけで体内のあらゆるものが外に吹き出しそうだった。 が、それで済ませる巨人ではない。 イーリスを握った拳を地面に叩き付け、めり込ませ、そのまま数十メートル一気にえぐったのだった。 地面から飛び出した時には、イーリスは完全に白目をむいていた。 トドメとばかりに高く振り上げる巨人。 が、その手首に銃弾が当たった。 本来ならはじき飛ばされる筈の弾は、あろうことか鋼のフレームを貫通、内部構造をずたずたに破壊し、反対側から通り抜けて行った。 しかもそれが何発も同時に浴びせられ、ついに巨人の手首は千切れ、落下した。 「ふう……これだけ巨大だと、狙う的が大きくていい」 すぐそばにがしゃんと落下してきたイーリスを横目に、杏樹は銃を翳して言った。 巨人が高く掲げた腕の関節など、距離としても部位の細かさとしても当たりにくいったらないが、杏樹にとってはどれも大体一緒である。 目の色を取り戻し、跳ね起きるイーリス。 「はっ! 助かったのです。それじゃあでかい刀のおっちゃん、一緒にイーリススマッシャーです!」 「ごーめん、刀重くてすぐには抜けないわ。先行って! あと俺お兄さんね!」 「なんと!」 「燃費は気にしないでいいですよ。ここからはグリーン・ノアかけっぱなしにしますから」 シィンがふわふわと浮かびながら緑色のオーラをわき上がらせていた。 燃費最悪のイーリスや那由他たちが遠慮無く大技を連発できている最大の理由である。 それはもちろん小野にも言えることなのだが。 小野は頭をかいて苦笑いした。 「えーっと……あと三回くらいいい? それであと一発打てるんだけど」 「燃費悪すぎるにも程があるでしょう」 「いいよ。私が時間、稼ぐ、ね」 バイクのハンドルを足場に立っていた天乃が走り出した。 素早く巨人の背後に回ると、すねから駆け上がるようにして背中へと到達。 気糸を振り回してフレームを次々に切り裂いていった。 だが巨人とてそれをいつまでも許してはおけない。手の届かない位置だからと背部の車をパージ。天乃は落下する車を駆け上がり、ジャンプして更に背中へ飛びついていった。 そのまま肩へと駆け上がり、大量の気糸を展開。肩を中心にぐるりと囲うと、盛大に腕一本を切断してしまった。 空中で分解し、凄まじい音をたてて降り注ぐ車の雨。 「――!?」 さすがのシィンも目を丸くしたが、彼女を抱きかかえるようにして杏樹が庇いにかかった。 雨を浴びたことがある人は少なくないだろうが、自動車を浴びたことのある人はそうそういないだろう。 その痛みや恐怖を知るひともだ。 「杏樹さん、ちょっと」 「構わん。回復を続けてくれ」 「……」 黙ってグリーン・ノアを連発するシィン。 雨が止んだ頃には、杏樹はどさりとその場に崩れ落ちていた。 後頭部がずたずたになり、背中など見ていられないくらいに損傷していた。 人間で言えば即死の域である。 一方の天乃は、巨人の肩を落とした直後にもう一本の腕で掴み取られていた。 イーリス同様圧迫される。自らを破壊した人間への怒りだろうか、その力はイーリスの時を更に上回るものだった。 腕や腰の骨がべきべきと砕けるのを自覚する。 高く振り上げられる。 空が近くなる。 そこへ。 「今です、イーリススマッシャー!」 巨人の顔面へイーリスの槍が直撃。 更に。 「脳天から真っ二つにしてやるわ!」 飛び散る車を足場に高く飛翔したフランシスカが、無骨な大剣を振りかざしていた。 その後ろでは、斬艦刀を強制的に振り上げた小野がいる。 「道を空けろ、黒き風車のお通りだ!」 二人、同時回転。 フランシスカの剣は巨人の頭を割り、小野の斬艦刀はその割れ目を広げるようにして身体を真っ二つに割った。 崩れ落ちる巨人。 砕け、降り注ぐ巨人だったもの。 鋼の雨音。 その音が、ジャンクヤードでの戦が終わる音であった。 更に巨大な、災厄の巨人との決戦を始めるベルも、あった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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