●はじまりのおわり、おわりのはじまり ナイトメアダウン直前の日本をゲートの向こうに見つけたアーク。 斜堂影継らの調査によって自チャンネルと密接な連続性を確認した彼らはミラーミス対策のための組織としての本分にそって当チャンネルへの積極介入を開始した。 当チャンネルとの共闘にあたって封を切られた切り札、荷電粒子砲・神威。史実通りに現われるR-TYPE。 神威の発動までR-TYPEを釘付けにすべく、アークは当時のリベリスタと共に非影響R-TYPE変異体『赤の子』の破壊に乗り出したのだった。 ●国をみるひと 1999年8月某日、静岡で世界最大の神秘災害がおこる前の日。 遠く離れた東京のとある病院に、一人の男が入院していた。 ベッドの上で身体を起こし、テープレコーダーの停止ボタンを押す。するとカチンと録音ボタンが浮き上がった。 カセットテープを抜き、ベッドの横に立つ男に手渡した。 「このテープを記者会見で流しといてよ。業界からの引退を宣言だ。そんで、ボクのヘソクリは時村ってじいさんのとこに流しといて。なんかの裏金事件に紛れてコッソリね。ボク自身は……そうだなあ、来年ガンで死ぬことにしといて。筋書きは任せるから」 「本当によろしいんですか靖邦先生」 「世界が危ないんじゃあしょーがないわな。やっぱりボクが出ないと」 男はベッドからよろよろと立ち上がり、車いすにうつった。 八十近い老人である。介護の手なしに移動はできない。 「じゃ、日本は頼んだよ。大渕、大沢」 彼は付き人に車いすを押されながら病院を出て、黒塗りベンツの後部座席に乗り込んだ。 運転手がバックミラー越しに言う。 「先生」 「ん、なあに」 「もう『ステルススキル』、解いてもいいんじゃないですか?」 「……っあ、忘れてた!」 車は高速道路を突っ走り、やがて静岡某所のボロい自動車工場へと到着した。 「ありがと、それじゃ先に帰ってて。それと孫のことだけど……」 「翔護さんのことならご心配なく。こっそり援助をしておきます」 「そっかそっか。頼むね」 靖邦はぴんぴんした身体で車から降り、工場のガレージへと入った。 入ってすぐに見えたのは、めちゃくちゃ古い戦闘機である。 「おっ、飛燕かあ! 懐かしいなあ……」 「太平洋戦争を思い出すかい? ま、こいつは中身くりぬいたオブジェだ。飛べねえよ」 運転席から白いスーツの男が顔を出した。 「おっ、『ホワイトマン』か。ごくろうさん。例のやつは?」 「下だ」 そう言うと、白スーツこと『ホワイトマン』は運転席の計器類を複雑にいじり、巨大エレベーターを起動させた。 部屋ごと地下にスライドしていくタイプのものだ。 秘密基地っぽいなあと微笑む靖邦。 やがて到着したのは、ボロガレージとは比べものにならないほどしっかりした巨大な格納庫だった。 なんだか見慣れない機械が並び、その中央付近にやたらごっつい全身甲冑が置いてある。 靖邦はそれに向かって敬礼した。 「アルティメット君、久しぶり」 「……うむ」 相手に会わせて敬礼する全身甲冑。 否、鋼・或帝滅人(はがね・あるてぃめっと)である。 ちなみに彼の敬礼は海軍式だ。 「キミが来てるとは驚いたな」 「世界の危機だ。吾輩が出張らずして誰が出る」 「少なくとも私たちが出るさ」 声につられて振り向くと、木箱に腰掛けた二人の男女に気づいた。 「ニコラオスにデイアネイラ! いやあ、これまた精鋭が揃ったなあ」 「私たちだけじゃないわ。蓬莱の二人もいる」 「彼らは先行部隊の指揮に出ているがな」 木箱から下りてきて、握手を交わすニコラオスと靖邦。 信頼の笑顔が交わされる。 だがそんな団らんのひとときは一瞬にして崩れた。 「いや、その二人もう撤退してるっぽいぞ」 「……なんだと?」 『ホワイトマン』は無線機に耳を当て、一同の方を向いた。 「蓬莱が指揮してた先行部隊が全滅した。死人は最低限に抑えたらしいが、撤退やむなしだそうだ」 「ばかな。彼ら負けるような相手じゃ無かったはずだ」 「最初はな。でも状況が変わったそうだ」 『ホワイトマン』は難しい顔をして言った。 「自衛隊の兵器がR-TYPEにあてられたらしい。人乗っけたまま次々に変異しちまって、なんだかドラゴンチックなバケモンになって襲ってきたらしいぜ」 「……中の人間はどうなっている」 「そのまま生きてるさ。だからミサイルでドカンとできなかったんだろう」 「何と卑劣な……!」 アルティメットはその場で強く足踏みした。 「変異した兵器を、それも中の人間を殺さずに破壊するなど吾輩たちには不可能だ。折角新兵器を試せる機会だったというのに……!」 「おいおい本音が漏れ始めるわな」 「まあ心配すんな。こんなこともあろうかと不殺用のカスタムパーツに換装してある」 「おお、さすが『ホワイトマン』! 無駄な装備を勝手に作ることにかけては右に出る者がいないな!」 「うるせえバーカ!」 壁に備え付けた赤いボタンを押し込む『ホワイトマン』。 シャッターが開き、十台の機械が姿を見せる。 「よっしゃ、出番だぜ。俺の可愛いフルメタルフレーム零号『HIDA』。みんなのワガママ、叶えてくれよ!」 ●機竜対FFゼロ 静岡上空は地獄と化していた。 突如現われた巨大な怪物R-TYPE。それにあてられて変異した戦闘機たちが味方に牙を剥き、壮絶な空中戦を始めていたのだ。 変異体の主力はトカゲのように変異させた機竜スーパーファントムと機竜バイパーゼロである。 彼らは独自生成した神秘ミサイルとバルカン砲による射撃と、航空機ではまずありえない立体機動で現代兵器を圧倒。自衛隊戦力は瞬く間に壊滅し、既に撤退を始めていた。 そんなさなかにである。 『真下がおかしなことになってるぞ』 『なんだ? 自動車工場?』 『地面がめくれ上がって……いや違う、あれはカタパルトだ!』 秘密基地から突如露出したカタパルトによって二機のバイク型の物体が射出された。 それらは空中でエネルギーの翼を展開。機竜へと突撃した。 機竜たちもその異様な物体に驚異を察したのかミサイルを発射。 ミサイルは先頭の一機に着弾。爆発を起こした……が、その煙を彼は突き破ってきた。 「我が名はニコラオス。誇り高きギリシアの騎士である。空の騎士道というものを、貴様らに教えてやろう」 「こちらデイアネイラ。翼の加護にも限りがあるんだから、調子に乗って長引かせないでよね」 「分かっている。だが、噂に聞く『謎の新勢力』が来るまでは時間を稼ぐぞ」 ニコラオスはバイクのアクセルにあたる部分をひねると、闇の剣を大量に生成。機竜たちへと一斉に発射した。 一方こちらは地上。 突如あらわれたカタパルトが敵の勢力だと判断したのか、戦車から変異したロクイチ戦車機竜と多連装機竜、及び機竜バイクが基地へと集まっていた。 そんな連中を迎え撃つように、地面がスライドして開き、レールが垂直に飛び出した。 レールが出たと言うことは、何かが運ばれてくると言うこと。 高速で運ばれてきたのは、人型の大きな機械であった。人の二倍か三倍くらいのサイズだろうか。 そいつは悠然と腕組みをし、機竜たちを睥睨していた。 中央には、アルティメットが同じポーズでなおかつむき出し状態で収まっている。 「人型汎用決戦吾輩、リフトオフ」 レールとの連結部分をパージ。 機竜たちの前に堂々とその身をさらした。 待ってましたとばかりに戦車機竜の砲撃が飛び込んでくるが、アルティメットは腕組み姿勢を維持。 弾が顔面に直撃する……が、弾のほうが拉げて落ちた。 「敵艦の砲撃すらはじき返した吾輩の防御力には、戦車の砲撃など無駄無駄無駄ァ! いくらでも打ってくるがい――」 直後、大量のミサイルと砲撃が一度の浴びせられ、アルティメットはもんどりうって倒れた。 「訂正してやろう。ほどほどに撃ってこい。そ、そんなにされたら壊れる! 壊れるだろうが!」 状況は不利。 だが絶望はない。 なぜならば。 「ウェルカム、ジャパン!」 工場の窓やら壁やらをぶち破り、同様の人型機械が飛び出してきた。 そいつは馬鹿でかい機関銃を両腕に装備し、ゴッテゴテの重火器を背負ったバケモンである。 中央に収まっているのはもちろん、靖邦先生だった。 靖邦は機関銃とミサイルを一斉発射。群がってくる機竜バイクや戦車をことごとく穴あきチーズに変えた後、アルティメットを引っ張り起こしてやった。 「これがプレミア魂だわな」 「プレミア……和訳するとことろの……」 「よっし。それじゃあ例の人たちが来るまで球拾いに徹するかね!」 ●交差する世界と魂 説明を要約しよう。 ナイトメアダウンに介入することになった当チームは、部隊を二つに分け『ニコラオス空中戦力』と『靖邦地上戦力』それぞれに参戦。 R-TYPEにあてられて変異した機竜の群れを一定時間の間撃墜し続けるという任務である。 空中戦と地上戦はくっきりとエリアが分かれており、お互いの支援は届かない状況だ。 そのうえ機竜の中には人間がそのまま閉じ込められている。強制的に破壊するわけにはいかない。 だが当時の協力者である『ホワイトマン』が6機のフルメタルフレームゼロを提供してくれたおかげで全ての攻撃行動に不殺効果が付与され、安全に敵機を撃破できるようになっている。 「アークの切り札が発動するまでの時間、彼らを撃破し続けるんだ。それはつらい戦いになるだろうが……しかし我々なら、きっと乗り切れるはずだ。そう、信じている」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月26日(火)22:56 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●上空発射用カタパルト三番から五番にて 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は手元の端末で敵の情報を再度確認しつつ、ふとぼやいた。 「――って、実戦配備2000年のバイパーゼロがどこからとんできやがった!?」 『そりゃ空自からだろ。来年から配備ってこたあ、今年にゃもうガレージ入ってねえと整備屋も乗り手も仕事できねえべよ。つうか、超最新兵器が敵に回っちゃ世話ねえよな! な!』 そばにあった伝声管から『ホワイトマン』の声がした。ハイなテンションにちょっと引く。 「崩壊阻止こそ我が本懐。自分にはここがどこで、いつで、だれが相手であっても子細無し」 空戦フレームの三番機に跨がり、『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)はじっと腕組みをした。 『ナイトオブファンタズマ』蓬莱 惟(BNE003468)も同じように四番機に跨がり、自機のフォルムを関心深そうに眺めていた。 「しかし、お前に助けられることになろうとはな」 『ん?』 「いや……それより、このアーティファクトはロマンで強化できないのだろうか」 『できるようにすればできるんじゃねえ? 要はコストだろ』 「コストか。もっともな話だ」 『一機十三桁すっから、落とすなよ?』 「……」 十二桁って。金額がか? 国家予算でも所有してるのかこいつは。 コンコンと伝声管を叩く影継。 「それより、デイアネイラと連絡とってくれよ。このまま上がってまんま落ちたらたまんねえぜ」 『任せとけ。Fゼロのハンドル部分にマイクついてんだろ。それ使ってくれ』 言われた通りマイクを開く雷慈慟。 「こちら、『謎の新勢力』。今より加勢します。翼の加護を願います」 一秒ほどのラグを挟んで、デイアネイラの声が聞こえた。 『あら、遅いじゃない。こっちはもうパーティー始まってるわよ。ちゃんと受け止めてあげるから、思い切って飛んできなさいな』 「了解。感謝します」 「……」 神妙な顔でうつむく惟。 発射準備が整ったのか、後ろのシャッターが閉ざされる。 それぞれハンドルを握り込む。 惟のそばにあった伝声管から声がした。 『どうしたよ『B面の魔剣使い』』 「――なんだと?」 『発射させるぜ。つかまってな』 前方のシャッターが開き、背後でバチンと何かが作動した。 激しいGがかかる中、彼らは天空へと飛び出していった。 ●地上運送リフト三番から五番にて 地上へ続くレールの上を三台の機械が一列になって走っていた。 その最後尾、『オカルトハンター』清水 あかり(BNE005013)は革張りのシートに身を埋め、フルメタルフレーム・ゼロ陸戦フレーム五番機の感触を確かめていた。 「今体験してるこの状況、不思議現象のハイエンドですよ! いいですねー、ぞくぞくしちゃいます」 彼女が言っているのはメカに搭乗することではなく、タイムスリップ現象のことである。厳密にはタイムワープだが、ンなことはどうでもよろしい。SF分野の話だし、語るとめっちゃ長くなるからだ。 「お仕事ついでに観光くらいしたかったんですけどねえ」 『心配すんな、生きて帰ったら東京タワーに連れてってやるからさ』 「なんですかその死亡フラグ。私死ぬんです!?」 「そうわめくな。少なくともあんたは死なせねえよ。いや、むしろ……」 奥歯を強く噛む『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)。 今自分がつながっているものがフルメタルフレームの零号機で、それを作ったのが『ホワイトマン』だそうだ。因果な話である。 福松のヘッドホンから『ホワイトマン』の声がする。 『なあおい、今日は千葉半立ねえの?』 「持ってくるたびに砕けてんだ、今更……ん?」 『ん?』 「お、おい、おまえまさか――」 「フッくーん! ねえここヤバいんだけど! 前から風すっごい来る! なんなの? TMごっこさせる気なの!?」 会話を遮るように呼びかけてくる『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)。 「うるっさい! 先頭なんだから風くらい来るだろ!」 「そんなこと言ってー。こっち来たいって言ったのフッ君だからね! 今日のSHOGO引率だからね!?」 「なにが引率だ。じいさんに挨拶しとけ!」 長いトンネルの向こうから高速で近づいてくる光。 そして彼らは光に包まれる。 トンネルを抜ければそこは、戦場だった ●空がこんなに広いから、空がこんなに高いから、だから世界は滅ぶのだ。 カタパルトから打ち出された影継たちが最初に目撃したもの。 それは視界いっぱいを埋めるミサイル弾幕だった。 「ちょっ、バカ! いきなりかよ!」 「散開!」 雷慈慟と惟は同時にハンドルをきり、螺旋回転しながら回避行動に移行。一度彼らにかわされたミサイル群は三つに分かれてクイックターン。さらなる追尾を開始した。 「いやいやいや、この時代のミサイルにクイックターンなんてできてたまるか! つか『今』でもできねえよ!」 「常識で考えてたら神秘世界でやっていけないわよ。さ、はやくいらっしゃいな」 声が聞こえた途端、彼らのFゼロにエネルギーの翼が発生した。デイアネイラのものである。 「助かる! (今の)俺はシャドウブレイダー! フルメタルフレームゼロ、ガトリングモードだ!」 空間を歪める音と共に、エネルギー性のガトリングガンが発生。影継はムーンサルトでターンをかけると、ミサイル群へと弾幕をしかけた。 半数を撃破、残り半数が影継へと殺到する。 影継を中心に激しい爆発がおきた。 「かっ、柿ざ――影継ぅううううううう!」 「いや生きてる生きてる! そうそうすぐに死ぬか!」 爆煙の中から飛び出してくる影継。彼自身のタフさもあるが、デイアネイラがひっきりなしに使っている回復スキルの影響も勿論ある。 雷慈慟はさっきから敵の攻撃を必死にかわし続けているデイアネイラ機へと接近。エネルギーシールドを前面に展開し、横に並んだ。 「壁役は引き受けました。必要ない場合、プロジェクトシグマを無限に継続することが可能です」 「頼もしいわ、燃費不足で困ってたところなの。ところで、こいつらいつまで沸き続けるのかしら」 「いつまでも。だが自分なら、何年だろうと戦えましょう。それに……」 横目でデイアネイラを見やる。 「いっそ全滅させてしまっても、よろしいのでしょう?」 一方、惟はミサイル群をギリギリの所で引き離しながら機竜の群れへと突っ込んでいた。 前方に群がった機竜を確認。惟の頭上に巨大なエネルギー剣が発生し、高速で打ち出される。 剣は機竜の中心で爆発。瘴気を大量にまき散らし、彼らの動きを激しく鈍らせた。 が、そうしているうちに後方のミサイルが接近。 Fゼロのアラートが激しく響いた。 ダメージを覚悟して歯を食いしばる惟。 瞬間、真横を別の機体がすれ違っていく。 「蓬萊!? いや、違うか……!」 ニコラオスである。彼は機体から巨大なブレードを発生させると、惟の後方にあったミサイルを一息に薙ぎ払った。すぐにターンして惟の後ろにつく。 「すまないな。知人と見間違えた。貴様の名はなんという」 「……これだ。騎士をやっている」 「そうか! 騎士はいいな」 ニコラオスは笑い、惟は笑わなかった。 ●鉄と血はおなじもの。殺意と人為はおなじもの。銃と人はおなじもの。 劣勢状態にあったアルティメットと靖邦が味方の到来を知ったきっかけは、唐突な土砂崩れだった。 突然の環境変化に機竜たち立ち止まり、そのタイミングを利用してアルティメットたちは急いで後退。 その途中で靖邦はある機体を発見した。 「お、ありゃあ……?」 「イッツイリュージョン! さあみんな、ステージ前へ集合!」 高い位置で腕を交差するFゼロ翔護機の姿があった。 肩には巨大なグレネードランチャーがマウントしている。 「オレはマスクド堀之内! おあなたの孫じゃなくてマスクド竹ノ内だぜ!」 「堀之内か竹ノ内かどっちかにしなさい」 「風俗にちょっと詳しい方のやつ」 「川崎の出かあ」 「そうそう。あとあなたの孫じゃないぜ。よろしくだぜ?」 「無理にキャラ作らんでも分かるわな。深くは詮索しないから、そっちの状況を教えなさい」 「えっ、うん、えっとね……」 回復担当のあかりと射撃担当の福松がいることを大雑把にそして嘘の性癖を交えて軽快に説明すると、靖邦はうむと唸った。 一方こちらはアルティメット機。 両サイドに福松とあかりがくっついた。 「アルティメット殿とお見受けする。そこの婦女子はこの戦いで重要な回復役だ。あなた自慢の防御でぜひお守り頂きたい」 「それは命令か?」 「共に戦う戦士としてのお願いです」 「いいだろう、戦士という言葉が気に入った。あと貴様くらいの歳の子供は『おじさんおねがい、あの子を守って!』と言えば大抵のおじさんは動くぞ。おじさんはそういう風にできている」 絶対嫌だ、と福松は思った。 会話のバトンタッチを受けるあかり。 「アルティメットさん! いよっ、カッコイイ! おっとこまえー!」 「いいぞいいぞ! もっと吾輩を褒めるがいい! ひいては貴様のためになる。女の子に褒められればおじさんはやる気を出す、おじさんとはそういう風にできている!」 やたら『おじさん』を強調してくる人だった。あえて深くは触れまい。 なぜならすぐ近くまで機竜たちが追いかけてきたからである。 まずは足の速いバイク機竜たちからだ。 「迎撃開始だ。いくぞ」 福松は巨大な銃を発現、機竜たちへと射撃を開始。 同じくあかりも肩部から筒状の物体を露出。筒がマニ車理論で高速回転をはじめ、描かれた特殊術式が発動した。 「あ、なんかこういう装備アニメで見ました! なんで現代で流行んないんでしょう。みんなやったらいいのに」 値段が十二桁することを知らないあかりは、無邪気にフィアキィの力を振り回すのだった。 ●空の騎士道 「数打ちゃ当たるってな! 斜堂流七面鳥打ちを見せてやるぜ!」 激しい音を立てて連射していたガトリング砲が、からからと音を立てて空回った。 火を噴いて墜落していく機竜が眼下に見える。 何十機の機竜を撃墜しただろうか。 「しかし、一機二十○億か……こりゃ時村が退陣するわけだぜ」 影継はからからに乾いた喉をつばで無理矢理潤し、荒い呼吸をした。 そうしているうちに、所々装甲のハゲてきたFゼロが強制修復され、ガトリング砲にも弾が充填された。 本来ならもうとっくに弾切れを起こしているころだ。そうならないのは雷慈慟の同調増幅がたびたびかかっているおかげだ。ひいてはデイアネイラが大回復スキルを大盤振る舞いできるのも、そのおかげである。 「いやあホント、いてくれて助かったぜ。相手の通信系をジャミングしてるからガチな対策をかけてこないしな」 「これが続けばいいが」 雷慈慟はいわば『存在しているだけで味方が強くなる兵器』である。かつての対機竜大鳳戦からそのスタンスは通し続けてきたが、今の彼は指揮能力と補給、更に防御と電子戦というアクティブな支援能力を遺憾なく発揮していた。 「究極支援機かよ。スパロボにいたら絶対出撃機選択するわ」 「それほどでもない。次、来るぞ」 照りつけるような焦燥感に、雷慈慟は顔をしかめた。 「ぐ……」 遠くに見える機竜の群れが今までの倍以上の数になっていた。 『異常なまでに崩れない敵戦力』と『帰ってこない通信』にしびれを切らした機竜が、戦力の一局集中をはかったのである。 だが逆に言えば、ここをしのぎきれば勝ちが見えるということ。 「うおおおちっくしょおお!」 影継は無理矢理に突っ込んでくる大量の機竜をガトリング砲で迎撃。対する機竜もガトリング砲を乱射。大量の鉛弾を交差するが、数は圧倒的である。 たちまち影継の機体が大破。煙を吹いて墜落を始めた。 彼の後ろはデイアネイラと雷慈慟のエリアだ。 ハンドルを握りしめる雷慈慟。 「我が身は、崩壊阻止、ただそれだけのために……!」 エネルギーフィールド全開。デイアネイラを庇うように雷慈慟が全ての弾とミサイルを自身でうけた。 「雷慈慟、防御だけではもんぞ」 「承知している。早急に撃墜を」 「……!」 惟は機竜の群れへと瘴気の剣を乱射。 対する機竜はわっと散開し、惟を取り囲むように覆った。 「コレ!」 ニコラオスが全速力で駆けつけてくる。 惟には分かった。きっと彼は自分を庇うだろう。 騎士のつとめとして。 騎士のとして。 だが。 「これもまた、騎士だ。騎士と、なった!」 惟のFゼロから大量の剣が突き出た。何百本という剣が、むしろのようにだ。 かつて『惟だったもの』は恐怖から逃げたことがある。 暴力か逃げたことがある。 しかし彼は……いや彼女は、逃げた恐怖と暴力を、いつまでも捨てずにいた。 そうして彼は生まれたのだ。 剣として。 盾として。 騎士として。 大空、一本の剣が斬った。 巨大な、それはそれは巨大な剣である。 大量にいたはずの機竜をことごとくなぎ倒し、剣は消えた。 「蓬萊無事かああああああ!」 かろうじて残った機竜を広範囲弾幕で蹴散らしながら、影継が飛んでくる。 まだ無事なようだ。 そしてたぶん。 もう、大丈夫そうだ。 ●陸の武士道 大量の戦闘機型機竜が降り注ぐ中を、アルティメットとあかりはジグザグに走行していた。 「グリーン・ノア、これで最後ですよ!?」 「構わん、やれ!」 巨大な盾でミサイルの雨を受けながら、アルティメットが叫ぶ。 あかりは『こうなったら破れかぶれですよもう!』と言ってマニコロブースターを起動、巨大なオーロラを出現せさた。 体力を大幅に回復させたアルティメットがぐっと親指を立てた――その瞬間、鋼を貫くような音と共に彼の機体が大きくのけぞった。 機竜戦車が集中砲撃を仕掛けてきたのだ。 「ぐ、ぐぬぬ……!」 あかりは思った。これ以上守らせる意味は無い。ならば……。 「アルティメットさん、相手を近くまで引きつけられますか?」 「な、なんとか……」 ギリギリ残ったエネルギーをかき集め、Fゼロの腕部を激しく発光させた。 アルティメットの機体がべこべこに拉げていく。盾ももう限界だ。 「これで打ち止めですからね! エル――」 途端、あかりはアルティメットの横から飛び出した。 脚部のマニコロを展開。高速回転、加速。 機竜戦車の群れへと飛び込むあかり。 「フリーズ!」 機竜を大量に巻き込んだ魔力の爆流が起きた。 仰向けに倒れ、機能を停止するアルティメット機。 うつ伏せに倒れ、同じく機能停止するあかり機。 その一方。 「ミサイルばっか、しつこいんだよ!」 福松機はエネルギーブレードを装備した腕をジェット推進で発射。 いくつかのミサイルを巻き込んで多連装機竜とバイク機竜を次々に爆破させた。 すぐさま背部ジェットによって加速。機竜戦車に接近し、再装着した腕で砲身をぶん殴った。 砲撃をしかける寸前だったのか、目の前で機竜戦車の頭部が爆発した。 直後がしりと身体を掴まれる。 しまった、と思ったが遅い。 福松機の背後にかつんと砲身が当てられた。 零距離砲撃。 肩部フレームを丸ごと吹き飛ばされる。 「まだ、まだ――!」 組み付いていた機竜を引きはがし、巨大な銃を装備、回転しながら乱射した。 乱射。 乱射。 乱射。 乱射である。 そしてやがて。 銃がガチンと音をたてて停止した。 「弾切れかよ……自爆装置、ねえかな、ねえか。任務了解できねえか。死ぬほど痛いらしいしな」 福松は自嘲気味に笑い、銃を放り投げた。 「SHOGO、じいさん。後は頼んだ」 福松へ大量のミサイルが殺到した。 地上での味方戦力、残り二機。 おじーちゃんに顔見られるのヤーダーといって戦闘エリアを執拗に離していた翔護も、さすがに一塊になるしかない。 靖邦と背中合わせになって、『PUNITH』と掘られた頭悪そうなライフルを乱射している。 次々群がる敵を必死に弾き、リロードのタイミングを合わせ、お互いにぐるぐると場を入れ替え続ける。 残弾メーターがめりめり減っていくのを見て、翔護はごくりとつばを呑んだ。 「ね、ねえ。オレは孫じゃないんだけど、ちょっと聞いといていい?」 「ああ、いいよ?」 両腕をガトリング砲に変え、大量のミサイルをまき散らす靖邦。 「大切な人をさ、自分のヘマでなくしちゃった孫にさ、あんた何も言わなかったよね。もしあの時あの場にいたのがあんただったら、もっとうまく出来てたかな」 「さあ、知らん」 マガジンを交換、位置を入れ替え、乱射。 「弱かったり、失敗したり、負けたり、失ったり、壊したり、でもって泣いたり。そうやって人は学ぶもんだ。あのときちゃんと泣いたろう。だからそれで、いいんだよ。お前が強くなるためなら、死んでもいいと思える人だっているわな」 靖邦は翔護の背に簡易移動用ジェットをそっと据えると、彼を無理矢理空の彼方に発射した。 「え、ちょっ!」 高く飛んだ翔護が眼下に見たもの。 それは 靖邦機を中心におこる、巨大な爆発だった。 戦いはそして、R-TYPE決戦へ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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