●あの日をやり直せ ナイトメアダウン直前の日本をゲートの向こうに見つけたアーク。 斜堂影継らの調査によって自チャンネルと密接な連続性を確認した彼らはミラーミス対策のための組織としての本分にそって当チャンネルへの積極介入を開始した。 当チャンネルとの共闘にあたって封を切られた切り札、荷電粒子砲・神威。史実通りに現われるR-TYPE。 神威の発動までR-TYPEを釘付けにすべく、アークは当時のリベリスタと共に非影響R-TYPE変異体『赤の子』の破壊に乗り出したのだった。 ●仁義なきもの、ありしもの。 巨大な腕が舗装された道路に叩き付けられた。 アスファルトが砕け散り、振動で近隣のガラスが一斉にひび割れる。 が、拳は地面についてはいなかった。 地面と拳の中間に一人の老人があったからだ。 白髭白髪の老人だが、身の丈3メートルはあろうというバケモノの拳を片手で受け止め、空いた手でキセルをふかしている。 老人は滑るような歩法で相手に詰め寄ると、腹にスッと手を当てた。 「可哀想にな。もとはただの人間だったろうに。生きて残せへんかったら、すまんなあ」 次の瞬間、バケモノは内側から爆発し、腕や足をまき散らす形で沈黙した。 グレーのスーツを着たパンチパーマの男が駆け寄ってくる。 「十二代目! ご無事ですかい!」 「おう、心配あらへん。先にタワーのほうに向かっとれ」 顎で示すと、男は後ろの連中へ合図をして走り始めた。 彼を追って走り出す男たち。 その数は、ざっと100を超えている。 手に小刀(ドス)や拳銃(チャカ)を構え、路上をうろつく『人間だったもの』へと次々に挑みかかっていった。 その中をゆうゆうと歩いていると、上の方から声をかけられた。 「おう、紅椿じゃねーの。孫との別れは済んだのかい」 「その声は……谷崎か」 見上げてみれば、電柱の上に一人の老人を見つけることができよう。 谷崎新造。特定の派閥に属さず、様々な組織の間を渡り歩いているヤクザ者である。 顎を撫でる紅椿。 「あんた、昨日は北海道にいたんじゃあなかったかい」 「いたさ。一昨日は熊本にいた。でもって今日は静岡さ。情報屋の話がどーも気になってなあ」 電柱から飛び、音も無く自動車のボンネットへ着地。 安全なところに移ったのか? そうではない。むしろ自ら敵地のど真ん中に飛び込んだのだ。 現に、周囲には腕から銃やら刀を生やした人間の変異体が集まり、老人へ一斉に飛びかかってきたでは無いか。 谷崎は腰のホルダーから銀色の銃を二丁抜いた。 リボルバータイプの拳銃だが、重心の下部がナイフになっている特殊な銃だ。 「どいつもこいつもバケモンにあてられやがって。なっさけねえ!」 前後左右、360×360あらゆる角度へ銃撃を斬撃を繰り出し、飛びかかる変異体の全てを迎撃。死屍累々の中、谷崎は空薬莢をその場にばらばらと捨てた。 「こいつら、元は静岡タワーの建設作業員だったって話じゃねえか。なんでまた土建屋が変異すんだい」 「それは、連中がヤクザだからでしょう」 声がしたと思ったら、近くの店から変異体が飛び出してきた。 地面を水平に飛び、反対側にある自販機に頭から突っ込んで動かなくなる。 紅椿と谷崎が自販機から店へ視線を戻すと、男が手をぱたぱたと払って現われた。 黒いスーツにブランドのネクタイ。高級な靴にレイバンのサングラスというガチガチな格好ではあるが、その全てに全くと言っていいほど汚れが無い。 唯一おかしな点があるとすれば、彼が方に電柱を担いでいることだろうか。 「テメェは確か……」 「坂本浩史、か」 すぐに分かった。そんなものを担ぐ人間がそうそういてはたまらない。 「九美上のセガレがこの辺の土建屋と組んで静岡タワーの建設に従事していたんだそうです。どうも親父の方針から脱却したがったみたいでしてね、全員一般人で固めた組織だったようですが……それがこんな形でアダになるとは、皮肉な話です」 片手でサングラスのブリッジを押す坂本。 そして彼らは、一様にある建物を見上げた。 建設途中の総合施設。静岡タワー(仮称)を、である。 その向こうには、R-TYPEが顔を出していた。 1999年8月13日。 ナイトメアダウン当日のことである。 ● さて、こちらは2015年8月13日。アーク・ブリーフィングルーム。 説明を受けたリベリスタたちはそれぞれ思惑のある顔をした。 ナイトメアダウンに直接介入できるという事実に、それぞれの想いが交差しているのだ。 「で? アタシらの役目はその紅椿連合に合流して静岡タワーとやらを攻略することだってのかい」 「そうなりますね」 眼鏡の男性フォーチュナは、一連の内容を事細かに説明した。 「現存するリベリスタ組織『任侠組』からの情報提供で、敵戦力はハッキリしています。イニシアチブもとりやすいですし、何より押さえるべきところを押さえやすい。皆さんが大怪我をする程度で済むかも知れませんよ」 「『大怪我で済む』、か……死ななければ安いと?」 素知らぬ顔で説明を続けるフォーチュナ。 「建設予定の施設静岡タワーには元一般人ヤクザによる変異体が大量に詰まっています。有力者が手を組んで生まれた紅椿連合はこれを全勢力をかけて鎮圧する作戦に出ました。この結果、中心人物であった十二代目紅椿、谷崎新造、坂本浩史は死亡。その他幹部連中も軒並み全滅し、連合は解体されることになりますが……」 「そこにウチらが突っ込んで、おじいちゃんらに手ぇ貸したろうゆうことやな?」 具体的な内容はこうだ。 タワーの大部分に関しては紅椿連合の戦力だけで対応できるが、彼らだけではどうしても対応しきれないボスクラスの敵を対処する。 対処が必要なエリアは三つ。 地下の最大フロア。中央メインフロア。展望フロアだ。 それぞれのフロアには紅椿、谷崎、坂本の三名がそれぞれ対応している。そこへ乱入、共闘する流れになるだろう。 「突然乱入しても大丈夫なんでしょうね。私たち、一応部外者なんだけど」 「まあ、平気でしょう。彼らの人を見る目は確かだ。自己紹介すら必要ないかも知れない」 かくして、未曾有の大事件への介入作戦は実行に移されることになる。 その鍵を握るのは他の誰でも無く、あなたなのだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月26日(火)22:57 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 6人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●展望フロア・A 変異体と組員の死体が転がる中を、一人の老人が歩いていた。 腕を組むように、羽織袴の老人が歩いていた。 「どぉもどぉも、お久しぶりやなあ」 「……」 細身の男が、展望台の強化ガラスごしに町を見下ろしている。 壊れ行く町を見下ろしている。 男はゆっくりと振り返り、奇妙な構えをとった。 「会話も通じんようになったか。九美上のセガレさんよ」 それでも老人は掌を上に向けて差し出した。 構え、である。 腹は血まみれ、満身創痍。 しかし、挑まねば救出した一般作業員たちを逃がす時間が稼げない。 挑めば死ぬ。 挑まねば死なせる。 故に、ここが命の使いどこ。 「紅椿組、十二代目紅椿。真っ赤に染まった椿の如く、自分の命運摘み落したる!」 踏み込む。 九美上もまた踏み込んだ。 二人が斬り合い殴り合いの距離に入る、その一秒前。 「ちょおおおっと、待ったああああああああ!」 展望台の強化ガラスが突如ひびだらけになったかと思うと、外から『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)が飛び込んできた。 激しく吹き込み、吹き流れていく暴風。 椿は二人の間へ転がるように割り込むと、九美上へ銃口を向けた。安全装置を解――除する直前に九美上の小太刀が刃を覗かせた。 そこからはスローモーションの世界である。 全てがスローに流れる中で、九美上は突如として九つの影人形を形成。更にもう一度九つ作り、合計十八。 影人形たちはわっと広がり、椿たちを取り囲もうと影小太刀を閃かせ――た所でスローモーションの世界は終わった。 窓の外から大量のレーザービームが照射され、影人形の身体を次々に貫いていった。 一瞬のことに体勢を崩す影人形。 誰による者か? 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)その人によるものである。 電子妖精でハックしていたヘリの操縦系統を手放し、展望エリアへと飛び移ってくる。 背後で墜落するヘリをよそに椿はここぞとばかりに八岐大蛇を発動。 群がる影人形の群れを滅茶苦茶に蹴りつけ殴りつけ撃ち殺してやった。 ヘリが外で爆発。 影人形たちが弾けて散る。 ヴェイルと椿は同時に先代紅椿の顔を見た。 「おまたせ」 「お久しぶりやね」 「ほいほい」 紅椿はなんともない顔で言った。 「来ると思っとったよ」 ●地下フロア・A 「まさか地下にこんなバケモノが隠れているとは、驚きましたよ……まったく」 サングラスのブリッジを中指で押し、坂本浩史は笑った。 サーカスのひとつでもできそうなくらい広大な地下フロアに、人間は彼一人である。 他は、彼の何倍もの高さにそびえる巨大変異体と、大量の死骸である。すべてこの巨大変異体が生み出したものだ。そして今も生み出し続けている。 腹から1メートル大の赤子がいっぺんに十匹近く飛び出してくると思って貰えれば良い。 その赤子が獣のような四足走法で、坂本めがけて一斉に飛びかかる。 「何度かしのげばタネがつきると思っていましたが。少々見誤りましたか、ね」 彼は肩に担いでいた『電柱』の持ち手部分を握り込むと、トンファーのようにぶん回した。 自動車のフロントガラスをワイパーが通り過ぎるそれと同じように、大量の赤子を薙ぎ払いにかかる。 しのぐことは出来る。 だが本体に近づく隙がない。 「ここはひとつ、差し違える必要がありますか」 身を屈め、必殺必死の構えをとった――まさにその時。 搬入用の大型シャッターがべこんとこちら側にへこんだ。 トラック一台分のへこみである。 怪訝な顔でそちらを見ると、一度バックする音が響いた後、再び何かがシャッターにぶつかった。 ぶつかって、突き破った。 サイケデリックなパープルカラーをしたダンプカーである。 そいつがシャッターを突き破り、広大なフィールドを『ブレーキをかけずに』巨大変異体へと突っ込んでいった。 反射的に拳を繰り出す巨大変異体。 拳が運転席に突っ込まれ、無免許上等で運転していた『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)の上半身を無理矢理引きちぎり、後方の貨物エリアにまで拳を貫通させた。 が、それでいい。 「手伝ってやるよ、オッサン」 運転席の『真上』で仁王立ちしていた『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)が衝突の直前に跳躍。巨大変異体の胸へ上下逆さに着地し、がら空きになった膝めがけてムーンサルトキックを繰り出した。 バランスを崩し、慌ててダンプカーから腕を引き抜く巨大変異体。 トラックの中に残っているのは上半身を失った火車のみ……の筈だったが、彼は空いた穴から五体満足の状態で飛び出してきた。失っているものといえば上着だけである。 「バカはいい、バカはいいよなあ。なんつっても分かりやすくてよ」 両目を大きく、大きく開く。 腕に炎を纏わせ、瀬恋の反対側にあたるすねを殴りつけた。 顔から転倒する巨大変異体。 なにぶん大量の人間を無理矢理継ぎ合わせたバケモノである。バランスが致命的に悪いのだ。 一旦距離をとる火車と瀬恋。 坂本はといえば、その様子を首を鳴らしながら眺めていた。 「あなた方は、確か……そう、『謎の勢力』。頭の悪い名前です」 「テメェに言われたくねえよ電柱バカ。細かい話いらねえよなあ?」 「誰が電柱バカですか。言われなくても分かってますよ」 「頼りにさせら貰うわ。まずは膝からだ、いいよな?」 瀬恋の顔を見て、坂本はサングラスの奥にある目をスッと細めた。 心中は分からない。 分からないが。 「いいでしょう。付き合いますよ?」 坂本は、片眉を上げて笑った。 ●中央フロア・A 谷崎新造は無数の強化変異体に囲まれていた。 追い詰められたのではない。自ら望んでこうしたのだ。 両腕をぶらんと下げ、歯の内側を舐める仕草をする。 「救助班はうまく逃げてくれたかねー。こいつらミョーにしつこくていやがるからよ」 刀変異体が両サイドから同時に飛びかかる。 谷崎は腕だけを素早く動かし、二丁の拳銃を左右それぞれに素早くターゲッティング。発砲。 空中でのけぞるカタナ変異体。 その隙に正面からハンマー変異体が突撃。フルスイング。 腹めがけて繰り出されたハンマーをジャンプでかわし、頭上で宙返りをかける。 チャカ変異体がばらばらに射撃を仕掛けてくる。空中でぴんと身体を伸ばした谷崎の全身ギリギリを大量の弾丸が通り抜けていった。 ハンマー変異体の背後に着地。と同時に首筋をシザーカットした。 血を吹き上げて崩れ落ちるハンマー変異体。 そこへ大量の銃撃が浴びせられた。 敵によるものではない。 更に、銃撃に崩れた変異体の群れを切り裂くものがあった。 『悪漢無頼』城山 銀次(BNE004850)そのひとである。 「楽しそうなことしてんじゃねえか、谷崎よォ。俺も混ぜて貰おうかい」 変異体を乱暴に切りつけ、横から飛びかかった別の変異体の顔面に鞘を叩きつける。 その後ろから、『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)が隙間の無い牽制射撃をしながらついてくる。 「……」 彼女は特に何も言わなかった。 言う必要を感じなかったのか、それとも言葉を選べなかったのか、知るは本人ばかりである。 対する谷崎は苦いんだか酸っぱいんだか微妙な表情をして言った。 「テメェらがアレかい。どっからともなく出てくるっつーお助け屋さんかい」 「まーそんなとこだァな」 三人はそれぞれ背中合わせになると、おのおのの武器を構えた。 「ここは暫くキツくなるぜ。死ぬ覚悟はしてきたかい?」 「フン……」 結唯は鼻で笑い、銀次はニヤリと笑った。 「あんなモンにあてられるような連中に、俺のタマがとれるかよ」 かくして。 静岡タワーをめぐる戦いの歴史に新たな登場人物が生まれた。 紅椿連合VS九美上建設変異体。死亡者多数。 主要人物の十二代目紅椿、坂本浩史、谷崎新造の死亡によるリベリスタ系極道組織の大量壊滅。 その歴史が。 変わるや。 変わらぬや。 ●地下フロア・B 巨大変異体との戦いは熾烈を極めた。 無限に飛び出してくる赤子型変異体と一発一発が重い巨大変異体の組み合わせが思いの外キツいのだ。 赤子変異体は自爆覚悟で火車たちに張り付き、動きを鈍くした所で巨大な拳や足が叩き込まれる仕組みだからだ。 おかげで火車は七回くらい死にかけた。 七回くらい死にかけて、八回くらい生き足掻いた。 七転び八起きなんてものではない。 七死に八生きである。 が、それもそろそろ終わりそうだ。 「どうしたデカバカ。動きが鈍いぜ」 それまで巨体からは想像も付かない乱暴な動きで走るは飛ぶわの大暴れだった巨大変異体だが、徐々にその動きがにぶり、今では鈍重な大型機械のようにのそのそを歩き回り、ついにはその場に片膝をつくに至った。膝へのダメージが深刻化してきたのだ。 「そんじゃそろそろ、遊ぼうかぁ?」 両拳を地面につける火車。何かが来ると察して腕を振り回す巨大変異体。 変異体が腕を振ったその時には、火車は彼の懐に潜り込んでいた。 「オラァ!」 腹に拳を叩き込む。クリーンヒットなどというものではない。人間で言えば内臓破裂。通り越して脊髄骨折である。 変異体は口から形容しがたい物体をはき出し、腹を押さえてうずくまった。 「ゲロゲロ吐いて吐ききれねぇくらい、丁寧に丁寧に叩いてやっからなあ」 立て続けに腹への攻撃を続ける火車。 ついに耐えきれなくなった彼は火車を両手に抱え込み、明後日の方向にぶん投げた。 空中を激しく回転し、高い天井に叩き付けられる火車。 が、それが巨大変異体の隙になった。 「ぶち死にやがれクソがぁ!」 膝を駆け上がり、瀬恋が顔面へと飛びかかった。 拳を思い切り叩き付ける。 顔を押さえてのけぞる変異体。 無理に押さえられたせいで、瀬恋は顔部分に押しつぶされる形になった。 手のひらサイズの饅頭を思い切りたたきつぶした経験がおありなら、このとき瀬恋がどうなったか想像できようか。 「ぐ……ぎ……っ!」 「それ以上は危険です、下がっ……下がれ、女!」 坂本が呼びかけるが、瀬恋の耳には聞こえなかった。鼓膜が破れているのだ。 だが充分だった。振り向き、笑い、口だけ動かす。 声はろくに出ない。口の動きから察するにそれは。 『遠慮すんな』 『ぶっ潰せ』 そして坂本は、電柱を最大限短く持った。 ちらりと火車のほうを見る。 火車は足と腕がありえないほうこうにひしゃげていた。 「時に、気になりませんか」 「アァ?」 「こいつら、こんなになって、どんな気持ちなんでしょうね」 「……ああ、それな」 火車は目を瞑り、笑い。 「『デカくなって暴れんのが楽しい』とさ」 「ははっ」 坂本もまた笑い。 「オレもだ、クッソ楽しいぜ兄弟ィ!」 電柱を打ち出した。 パイルバンカーというものがある。 杭を打ち込む機械だ。 坂本がやったのは、電柱を貫通可能な速度で打ち出すというただそれだけの技である。 貫通したのは。 巨大変異体の手と。 死にかけの瀬恋と。 巨大変異体の頭部すべて、である。 決着は、それでついた。 頭が無くなれば生きていけないほど、彼らはバケモノになりきれなかったということか。 ●中央フロア・B 熾烈を極めたのは地下フロアだけではない。 中央フロアで強化変異体を相手にしていた結唯たちも相当の苦戦を強いられていた。 まず敵が地味に硬い。微妙に体力の残った奴が出るのだ。あいにく結唯たちは回避や防御が得意では無い。それはもう引っかき回されるはめになった。 「続々とわいてくるな。発生源でもあるのか? 何も無ければジリ貧だぞ……」 結唯は壁を背にして銃を構えた。 左腕はもう動かない。 それでも変異体は一斉に襲いかかってくる。 右腕だけで『すべて』に狙いをつける。 高速連射。カタナ変異体たちの頭で同時に花が咲いた。 が、その後ろから突っ込んできたハンマー変異体が残っている。それも三体もだ。 「……ちっ」 舌打ち。 直後ハンマーが叩き込まれ、結唯は壁を破り、向こう側へと放り出された。 地面を確認する。無い。吹き抜けだ。 「後は頼んだ。せいぜい生き延びろ」 階下へと落ちていく結唯。 「おいっ、遠野ォ!」 反射的に振り返る銀次。 が、よそ見の暇はあまりない。今もまさに四方八方から銃弾が飛来しているのだ。 肩を貫通。脇を貫通、ついでにこめかみも貫通した。 意識がブラックアウトする。 が、気合いで耐えた。無理矢理脳みそを元通りにすると、銀次は歯を食いしばった。 「持久戦だの耐久レースだの知ったことじゃあねえ。全部ぶった切れば仕舞いだろォが!」 踏み込み。 駆け出し。 ぶん回し。 銀次が引きつけていた半数ほどの変異体たちが彼に群がるが、それを無理矢理たたき伏せ、切り落としていく。 だが数がなんといっても多い。 谷崎もそろそろ限界だ。 「おい、次だ。蹴散らしちまえ」 「おォイ、死ぬぞアンタ」 「死なねえ。俺は死なねえ……問題も、ねえ……」 ギラギラと笑うが、既に意識がはっきりとしていなかった。片目はつぶれ、よろめいている。 谷崎は深く息を吐き、頷いた。 「とっておきがある。恐らくこの変異体も今ので打ち止めだ。だから……一回だけ引きつけてくれや。確実に当ててェんだ」 「……」 銀次は朦朧とした意識の中で、戦場全体の感覚意識に干渉。自分への優先順位を無理矢理引き上げた。 注目が集まる。 殺気がふくれあがる。 大きな隙が生まれる。 そして谷崎は。 「あの女が繋いだ命の弾だ。たぁんとくらいな」 自らの血と魂を全て銃弾に変換し、四方八方へばらまいた。 戦場が恐ろしい色に染まり、輝き、そして。 「……んっ」 目を覚ます結唯。 戦場に残っていたのは、結唯と、銀次……だけだった。 それだけだった。 他には誰も、生きていなかった。 ●展望フロアB 「うぅりゃ!」 木箱を横っ飛びに超え、椿は銃を連射した。特殊な呪力を帯びた弾が九美上へ迫る……が、間に割り込んだ影人形が代わりにうけた。直後に九美上が高速で回転しながら部屋中を飛び回る。椿やヴェイル、紅椿が全身から血を吹いた。 それだけではない、椿と紅椿の目が虹色に染まり、拳が勝手にお互いの顔面に叩き込まれていた。 「が、ふ……」 ワンパンで大型変異体をダウンさせる紅椿である。椿は顔をあらゆる血だらけにしてよろめき、そのへんの建材を巻き込んでぶっ倒れた。 「あ、あかん……時間がたてばたつほど不利や。これ以上引き延ばしたら……」 「そう、みたいね」 一人だけ混乱から逃れていたヴェイルは、彼女たちから距離をとってグローブを構えていた。 椿と紅椿がたびたび混乱して互いを殴り合うのはキツいが、一番厄介なのは影人である。あれが一度に大量に出てくるせいで、思ったように攻撃が通らないのだ。言ってみれば複数の影人を召喚して三人ほどに自分を庇わせればほぼ九美上は無傷でいられる。 チマチマとしていやらしいが、恐ろしく有効な手である。 「なら私がなんとかする。後は……そうね、『なんとか』して頂戴、十三代目」 「ん、なんやて?」 非常時にもかかわらずヴェイルを二度見する紅椿。 ヴェイルは小さく笑って、グローブを広く突きだした。 思い出すのは昔のこと。 地の底から引っ張り上げてくれた人たちのこと。 返しても貸し切れない恩のこと。 「いくわよ」 ヴェイルは自らのエネルギーを全て込め、大量の気糸を発射。 幾重もの螺旋を描いて影人形たちを貫通、消滅させていく。 そうやってできた一本の道を、紅椿は駆けた。 「往生せえや!」 九美上の顔面を無理矢理掴み、割れた窓から飛び出す。 驚きに身を乗り出す椿。 「おじ――っ!」 気付いたのだ。 捨て身の特攻であると。 宙へと飛び出す直前、紅椿は振り返った。 「最初から気付いとったよ。こんなに素直で可愛らしい子が、あの子以外におるわけない。理屈を超えて、分かっとった」 「――!」 手を伸ばす椿。 だが届かない。 紅椿は九美上を道連れに、遙かな高さより落下を開始した。 風を抜け、空気を抜け、頭を下に落ちていく。 これでよい。 紅椿はそう思った。 歴史がいかなるものであろうとも。 孫を犠牲にするジジイがこの世のどこにいようか。 ここが命の使いどこ。 と思わせて。 「待てやオラアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」 空を無理矢理泳ぎ、自由落下の倍以上の速度でついてくる女がいた。 誰かって、十三代目紅椿、依代椿である。 他にいてたまるか。 椿は九美上を足で引きはがすと、紅椿の足を掴んでタワー側へと投擲。彼は窓を突き破ってどこかのフロアに転がり込んだことだろう。 そして、顔もなく人の形だけを残した九美上神九を見下ろした。 「一緒に死のうや、九美上ぇ!」 下から飛び上がってくるヘリ。 「んな!?」 咄嗟にヘリ足につかまる椿。 落下していく九美上。 さすがにこの高さである。助かるまい。 タワーの上から見下ろし、ヴェイルは深くため息をついた。 ヘリは彼女がよこしたものである。割と無理矢理にだが。 「とにかくこれで……」 死ぬはずだった者が生きた。 後の歴史がどうなるか。 それはまだ、誰も知らない。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|