●1999年8月13日 例えるならそれは、炎の巨人。 身の丈で言えば十メートルを越し、八本の腕を生やしている。体中からあふれ出る熱気が近寄るものを燃やし、紅蓮の腕が建物を易々と瓦礫と化す。 足止めなどできようはずがない。それは破壊の権化。ただ突き進むだけで損害を撒き散らし、怒りに触れれば焼却される。戦えない人間はその姿に怯え、賢明な人間は勝てぬと察して身を引く。 それは大自然のエリューション化――それは間違いではない。アレを何かと定義するなら炎のエリューション・エレメントだ。だがそれは根本のところで異なっていた。 あまりにも急速なエリューション化。それがこのとき発生したミラーミス『R-TYPE』の影響を受け『変異』したものだと知る者はいない。その知識を持つものは最前線で戦いに赴き、そして歴史上は命を失っている。 人の身で燎原の炎を止めることはできない。戦えない人間は怯え、賢明な人間は身を引く。 ならはそれに挑むものは―― 空が白に染まる。 巨大な翼を広げた鱗持つ獣。その顎は鋼鉄すら砕き、鉤爪は大地を裂く。口から放たれる吐息は、暴虐の名を冠するこの存在を示すかのように、生命を奪い去る。 ドラゴン。 『我が名はホワイトドラゴン<マーニ>。友の世界を守るため、義によって馳せ参じた!』 異世界の言葉で名乗りを上げ、ドラゴンは口から氷の吐息を吐く。真夏の大地にブリザードが荒れ狂い、巨人の足を凍結させて動きを止める。 しかし十分な足止めはできない。巨人の力と熱気が、氷を壊し進撃を再会することは誰の目にも明らかだ。それはドラゴンも理解している。 巨人と龍が交戦する。それを見て、勇気を振り絞り戦いに挑むリベリスタも増えてくる。少しずつだが巨人の傷が増え、希望の光が輝いてくる。 しかし戦況は、けして芳しいものではなかった。 ●2014年8月13日 「ヒトマルサンマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「『過去の道』より『1999年8月13日』に移動し、干渉します」 和泉の言葉にリベリスタたちは色めき立つ。『過去の道』が1999年の日本に通じていることは調査済みだ。それが自分達の時間軸にどう関わるかは不透明だが、その時間に干渉するということはアークにとって深い意味がある。 ナイトメアダウン。 この地にミラーミス『R-TYPE』が降臨し、リベリスタのほとんどがその戦いで命を奪われた神秘事件。アークは二度と悲劇を生まぬために結成された箱舟なのだ。 「今までの干渉と斜堂・影継(BNE000955)提案の調査の進行により、アークはこの二つの世界は極めて密接な連続性を持つ可能性が高いという結論を得ました。 ……『あそこ』に出没するミラーミスに影響を与えれば、おそらく『こちら』の歴史にも何らかの影響があると推測されます」 その後どのような『過程』を生み、そしてどのような『結果』になるかは分からない。なかったことになるのか、矛盾(パラドクス)を抱えたまま存在するのか。 だが、ここでミラーミスに挑まない選択肢はない。アークは、R-TYPEに対抗する為に結成されたのだから。 「皆さんにはミラーミス出没により発生した『炎の巨人』を相手してもらいます。巨人の蹂躙を許せば『切り札』の命中精度が下がり、十分な効果を発揮できないでしょう」 切り札こと『神威』の話は皆も聞いていた。アークの地下深く眠っていた切り札。発動に時間がかかる上に次元時空を超えて放つのだ。不安要素は可能な限り取り除くに越したことはない。 「『巨人』の足止めをするドラゴン。そして足止めした巨人に挑むリベリスタ。ですが『万華鏡』は戦力不足で攻めきれないことを予知しています」 「つまり、そこに加勢して巨人を討てばいいわけか」 リベリスタの言葉に首肯する和泉。 「巨人は様々な炎を放つと同時に、豪腕で敵をなぎ払ってきます。紛れもなく強敵ですので、現地の……現時代のリベリスタと連携をとって戦ってください」 モニターに写る多くの『先輩』達を見た。未来からきたというヨタ話を信じてはくれないだろう。だが共通の敵を前に、連携をとるのは難しくない。 十五年前の過去、その悲劇を止める為にリベリスタは武器を持つ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月26日(火)22:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ナイトメアダウン。 あるものは経験し、あるものは伝聞し。この日本をリベリスタ不在にした事件。 眼下に広がる業火は、その一端。それでも秒単位で人の命が消えていく。 「凄い光景ですね……まるでファンタジーです」 広がる炎を見ながら『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)が呟く。湧き上がる熱風に長髪を揺らし、白竜の背中に乗り移る。目の前には炎の巨人。虚ろな瞳でそれを見上げながら、リンシードは揺ぎない戦意を胸に携えていた。 「マーニ、助太刀するぞ」 ドラゴンの背中に舞い降りる『どっさいさん』翔 小雷(BNE004728)。膝を曲げ、落下の衝撃を和らげながら周囲を見る。このどこかにナイトメアダウンで戦ったという『先生』がいるのだろうか? ふとそんなことを思う。 「オレはフツ、今はフリーのリベリスタだ! 同じリベリスタ同士、こいつを倒すのに協力させてくれ!」 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)は周りのリベリスタに声をかけ、炎の巨人を見上げた。赤く燃える炎の巨人。『万華鏡』で情報を得なければ尻込みしていたかもしれない。――情報を知った今でも、楽な相手ではないと思っているが。 「我々次第で……今から地獄の多寡が決まる」 ナイトメアダウン。これから始まる惨劇を意識しながら『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)は破界器を握り締める。ここが時代の分水嶺。この惨劇により生まれた『未来』を知るものとして、『現在』の地獄を止めると決めた。 「未来を変えてしまうとしても、惨劇を見過ごす事は出来ない! 変・身!」 幻想纏いのアークフォン3Rを起動して『強化外骨格肆式[天破]』を身にまとう『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)。ここで勝てばもしかしたらアークは設立されないかもしれない。それでもなお、正義を貫けと叫ぶ自分がいた。 (もしかしたら今ここにいる仲間達と出会いも、紡いできた思いも無かった事になるのかもしれない) もしここでR-TYPEを倒したらどうなるか? 『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)はそれを想像し、その可能性に思い至る。だがそれでも、目の前に広がる悲劇を見過ごすわけには行かない。 「過去にしろ平行世界にしろ、任務ならばそれを遂行するまでだ」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は皆と時計を合わせながら、静かに告げる。巨人がマーニの氷を砕き、進軍を始めるまでにヤツを倒す。それを為す為には一瞬たりときて気は抜けない。 (護れるか、変えられるか、あの時の惨劇を……俺の『罪』を……っ) 剣を握り締めたまま『不滅の剣』楠神 風斗(BNE001434)は燃え盛る町を見る。見覚えがある場所だ。かつて自分が住んでいた場所。それが眼下の惨劇。その時の経験が頭を支配し、剣を強く握り締める。 『協力感謝する。我は足止めで手一杯故、攻撃は任せた』 「あんちゃんら、死ぬなよ!」 マーニやこの時代のリベリスタから、激が飛ぶ。その声に応える様にリベリスタたちは破界器を構える。 巨人が吼える。その咆哮を合図にリベリスタたちは攻撃を開始した。 ● 「日常を……守るために、行きます」 透明な刀身を持つ剣を手にリンシードが白い鱗の足場を蹴る。ガルナトスの腕を押さえ込み、高速で剣を振るう。剣の奇跡が低温に包まれ、氷霧を生む。炎の巨人の熱を剣圧で吹き飛ばし、冷気がその動きを封じる。 『あの人』との日常を護る。リンシードの戦う理由はそれだ。だがこの戦いはその日常を塗り替える可能性がある。その不安は拭えない。だが、無かったことになっても今まで歩んできた『過去』までは変えられない。だから、戦える。 「地上を歩くのは……無理か」 アンジェリカは巨人に歩いて近づこうとして、地面の惨状を見て諦めた。熱だけなら神秘の力で耐えられたかもしれないが、巨人によって崩された建物の瓦礫が多い。壁を歩く技法を使っても、歩くのは難解だ。 大鎌を回転させ、赤い月を召喚する。不吉を告げる赤い光は、巨人全てを煌々と照らして不吉を届ける。狙う腕の二本をしっかり視野に納め、確かな意志で巨人を睨む。人間を侮るな。炎を制御するのもまた、人の知恵なのだ。 「『挨拶(プリヴィエート)』だ」 ナイフを構えてウラジミールが走る。仲間に再生の付与を与え、巨人の腕に切りかかる。振りかぶる巨人の一撃の軌跡を予測し、インパクトの瞬間にナイフとグローブを交差する。真正面から受けるのではなく、力をそらすようにして受け流す。そのまま滑るように巨人の懐に進んだ。 体長十メートルを越す巨人からすれば、ウラジミールのナイフは蜂の一刺し程度。だがそれも積み重なればいずれ命を奪う一撃になるだろう。足をしっかり踏みしめ、足から伝わる力を肩からナイフを持つ手に伝達させる。稲妻のような一撃が、巨人の腕を裂く。 「今この瞬間こそ……我々の意志を! 意義を! 意地を! 意力を! 発揮する時だ! 往ぃくぞッ!」 雷慈慟が手を突き上げてリベリスタを鼓舞する。それは2014年のリベリスタだけに留まらない。この場にいる1999年のリベリスタも含んでいた。時代を超えて、過去と未来の意志が交差する。その行き着く先は、炎の巨人。 崩界を止める。この一戦はまさにそのための戦い。遠くにいるであろうR-TYPEを意識しながら雷慈慟は巨人の腕に糸を放つ。鋭く、そして強く練られた糸は狙い外さず赤い拳に突き刺さる。拳の矛先が自分のほうに向くのを感じる。 「成程、精神的なものは効果があるようだな」 フツは位置取りを考えながら、印を切る。仲間と適度に距離を離した建物の上に立ち、指を立てて一定の規則に従い動かす。南の聖獣、赤の鳳。炎の巨人を上回る炎を持ち、いまこの地に顕現せよ。 その羽ばたきは炎の翼。美しき咆哮をあげ、フツの手から放たれる朱き鳥。巨人の身体を旋回するように飛び、熱風と炎が巨人の体力を奪っていく。確かな手ごたえに笑みを浮かべるフツ。自分の手で捕らえられない相手ではない。それが判ったのは大きな収穫だ。 「人々を護る為、悲劇を一つでも減らす為、運命に抗う!」 『強化外骨格肆式[天破]』を身にまとい疾風が飛ぶ。文字通り、空を駆けて。マーニの背中を足場に跳躍し、重力に逆らい何もない足場を蹴る。そのまま破界器を振りかぶる。柄の両端に同じ長さの両刃を備えた直剣。それを回転させながら。 一閃が巨人の腕を裂く。反撃とばかりに飛んでくる腕に割り込む一つの影。疾風はその者の名を知っていた。祭雅・三郎太。見間違えようもないその顔その姿。三郎太は相手の力を自分を中心に円を描くようにして流し、疾風に迫る腕を弾き飛ばす。 「こちらとてここで立ち止ってるつもりはない。敵はR-TYPE。奴だけだ」 小雷が巨人の腕に向けて拳を向ける。立ちふさがるものあればこれを討つ。そのために拳を鍛えてきたのだ。呼吸により肉体を硬化し、両足をしっかり踏みしめ、構えを取る。円を意識したしなやかな構えは、どこか虎を思わせる。 巨人が異形であっても、物理的に存在するならどこかに『隙』がある。心穏やかにそれを見出し、刹那を見極め気を高める。巨人の拳からすればその一撃は毛一本程度の一撃。だがそれは巨人の厚い皮膚を浸透し、直接骨に打撃を響かせる。 (住宅地! 俺が、俺の家族が住んでいた場所! よりによって!) 町で燃え上がる炎に怒りを覚えながら、剣を握り締める風斗。怒りは胸に、矛先は敵に。激情で我を見失わず、されど刃を向ける理由は忘れず。幾度と無く繰り返した剣の構えは、それだけで心を静める効果がある。 軍神を身に降ろし、マーニの背中を蹴る。踏み込み、剣を振るう。大事なのは間合とタイミング。そして一撃に全てを賭ける事。オーラを受けて赤く輝く剣の色は、巨人の炎よりもなお赤い。繰り出された一撃が巨人の腕に深手を負わせる。 「まず一本!」 「このペースならいけるか!」 アークのリベリスタは予想以上の討伐ペースにいきり立つ。このまま攻めつづければ、勝てる―― だが炎はまだ消えない。燃え盛る炎の如く、巨人は荒れ狂う。 ● 『赤の子』ガルナトスは大きく分けて五種類の武装がある。 物理的な打撃を行う二本の腕。 魔法的な術式を放つ二本の腕。 硬化し防御する護の二本の腕。 寄る者を討つ迎撃の二本の腕。 そして巨人本体。戦場を焼き尽くす炎そのもの。 リベリスタは先ず防御と回復を削ぐ為に護の腕を破壊する。そして迎撃の腕を次に狙った。厄介な腕を撃破し、攻撃に専念する作戦だ。 だが逆に言えば、それは巨人の攻撃力を削がない選択肢だ。 守りの腕を二本落すが、巨人の腕や魔力、そして本体から来る熱線により膝を突くリベリスタたち。 「……まだだよっ」 「この低度で……!」 「負けはしない!」 アンジェリカ、風斗、小雷の三人が運命を削り、意識を保つ。1999年代のリベリスタ達も回復を行うが、それ以上の火力で押し切られていた。 「ここが歴史の分水嶺。今までの経験を信じるんだ」 ウラジミールが仲間の炎を消して回る。勇気を持って仲間を鼓舞し、気力を与える。巨人の与える炎により、ウラジミールは始終支援に回ることになる。彼が支援をしなければ炎により戦線が崩壊していたかもしれない。 「崩界を食い止める……自分はその誓いの為に!」 リベリスタの攻撃は前のめりだ。雷慈慟は自分の攻撃の狭間に仲間の活力を回復させ、戦線の維持に力を割いていた。仲間に指示を出し、巨人の挙動を観察し、仲間の体力を見ながら次の一手を思考している。 「すまねぇな! そんじゃ、行くぜ!」 回復した活力を元にフツが鳳を顕現させる。炎の巨人と炎の鳥。交差する赤と赤。だがその炎は真逆。巨人の炎が破壊の炎なら、フツの炎は再生の炎。エリューションを滅し、希望を照らす篝火。 「人間の力を舐めるな!」 アンジェリカが鎌を振るい、巨人の腕に切りかかる。一瞬で五つに分裂し、同時に切りかかる。巨人の腕はその全てをなぎ払ったかに見えたが、それも虚。分身を囮にして巨人の死角で鎌を一閃し、深手を負わせるアンジェリカ。 「鬼さん……こちら、です」 リンシードは巨人を挑発し、自らに矛先を向けさせる。四本の腕がリンシードを集中的に狙い、回避しながら仲間から離れていく。だが全てを避けきれるものではない。真上から叩きつけられる一撃がリンシードを打ち据えた。何とか運命を燃やし、立ち上がる。 だが、リンシードの生んだ隙は大きい。 「この温もりは、先生の……」 小雷は自らを包み込む癒しに懐かしさを感じていた。神秘により身寄りをなくしたものを引き取る施設。小雷もそこに拾われ『先生』に世話になった。忘れようのない思い出。その温もりに元気を貰い、拳を突き出す。衝撃を浸透させる一撃が、迎撃の腕を一本不具にする。 「残り一本、くらえ……!」 剣を杖にして立ち上がり、風斗が剣を構える。散々酷使して打ち続けた一撃。それを今放てば倒れてしまう。呼吸を整え、筋肉に力を篭める。倒れるわけには行かない。今コイツを倒せば、これから起こすだろう『自分』の革醒と罪がなくなるのかもしれない。 「一・撃・必・殺! 行けえええ!」 炎の中、疾風が突き進む。刃を振るって自らを包む炎を切り裂き、腕の一本に向かい突撃する。防具そのものを熱して直接熱を伝えてくる迎撃の腕。その熱に運命を削られながら、さらに相手の懐に突撃する。絶妙の間合で振るわれる疾風の剣。それが二本目の迎撃の腕を切り飛ばした。 「時間だ。手はず通りいくぞ」 時計を見ながらウラジミールが本体を攻撃する指示を出す。時間的な余裕はある。だが時間よりも仲間のダメージ面で追い込まれていた。軍帽の位置を直しながら呼吸を整えるウラジミール。 「疲弊が激しい……一人二人の犠牲は已む無しか」 指示を出しながら雷慈慟が戦況を見極める。過去のリベリスタの回復を受けて、どうにか戦線を維持している。本体攻撃に移行する前にダメージを受けすぎていた。 「まだまだ、これからだ!」 傷つき潰えそうな意識の元で小雷が拳を握る。追い詰められて高まる闘気。力の抜けた動きが無駄なく身体を動かしていく。 「……うぁ……っ!」 四本の腕をひきつけていたリンシードが、集中砲火を受けて力尽きる。カラン、と剣が落ちて火傷だらけの体が崩れ落ちる。 そして、巨人の頭部から燎原の炎が放たれ―― 「式符、百の苦行、千の災い、万の地獄! 災をもって禍を砕く!」 フツの符がばら撒かれ、ガルナトスに纏わりつく。氷で足をとられ動けない巨人は、これを避けきれない。符により運気を乱され、乱れた運気により炎は発生することなく霧散する。 「女神に見放されたようだね」 「フツさん、ありがとうございます」 「老公、共に攻めましょう!」 アンジェリカ、風斗、疾風が巨人に猛攻を仕掛ける。アンジェリカの鎌が袈裟懸けに。風斗の剣が逆袈裟に。疾風の刃が唐竹に。そして疾風と共に闘う彼の祖父が横一文字に。 「まだ倒れないのか!」 その衝撃を受けて巨人は大きく揺らぐも、倒すには至らない。四本の腕が乱舞し、炎の腕をたたきつけ、炎の魔術が飛び交う。既に運命を燃やしていたアンジェリカ、風斗、疾風、小雷が力尽きる。フツ、雷慈慟は運命を燃やして耐え、なんとか立ち上がる。その顔は――僅かに微笑んでいた。烈火の中立ち尽くす、兵の背中を見て。 「問題ない」 ウラジミールが口を開く。纏わりつく炎をグローブで払い、無に帰した。堅牢な防御力と鍛えられた体力。そして何よりも敵を討つという強い意思。それらが重なり、この灼熱地獄の中で倒れることなく立ち尽くことができた。 ナイフを振るう。相手の急所に的確且つ迅速に。効率を重視した軍隊格闘術。ウラジミールのナイフに神秘の稲妻が纏わりつく。その稲妻と格闘術をもって巨人に迫る。派手な音も、光も、叫びもない。ただナイフは、巨人の心臓に吸い込まれるように突き刺さる。 「任務完了だ」 絶命の絶叫は無かった。蝋燭の炎が消えるように炎の巨人は揺らめき、そして消えていった。 ● マーニがリベリスタたちを安全な場所まで運び、着地する。痛む体を抑えながら、リベリスタたちは身を起こす。 「大丈夫か!」 過去のリベリスタたちがアークリベリスタに駆け寄り、傷と活力を癒してくれる。それにより次の戦場に向かう力が沸いて来た。 「先生……!」 小雷は自分を癒してくれた『先生』を探そうとして、足を止める。過去と未来の過度な接触は禁物だ。それに今は、R-TYPEが迫っている。 『――去らば』 同じく風のように消えていった祖父を疾風は追おうとはしなかった。共に背負うべき正義があり、今はこれ以上交わるべきではない。背中越しに別れを告げる。 (過去を変えて……たとえ『2014年』が変わっても……きっと、引き合える) 憂いを含んだ表情で巨人が消えた跡を見るリンシード。過去を変え、大事な日常はこれでなくなるのかもしれない。それでも、お姉さまとは引き合える。そう、信じよう。 (俺はナイトメアダウンの混乱の中で革醒し、暴走して殺戮に走った。親も、友達も、先生も全て) 風斗は遥か遠くの『現場』を見ながら拳を握る。巨人を倒しても何も変わらないかもしれない。そもそも、『自分』の行為が消えてなくなるわけではない。それでも―― 「ミラーミスの振り撒く災厄を防げたことは、崩界防止に繋がった。先ずは一歩だ」 腕を組み、頷く雷慈慟。これだけの犠牲を強いてようやく一歩。その一歩が大きいか。あるいは焼け石に水になるか。それはまだ分からない。 「力を貸してくれてありがとう」 「手助け、感謝だ」 アンジェリカがマーニに抱きつき、ウラジミールが敬礼をもって感謝を示す。異世界の白龍は問題ない、とばかりに咆哮をあげた。声は高く、勝鬨の声となって空に響く。抱擁したアンジェリカの手の平に伝わる、確かな生命の温もり。 「諸行無常……か」 この世のすべては移ろう者。一瞬たりとも同じ存在はありえない。過去の干渉により『2014年』が変わっても、それもまた移ろいなのだ。それすら受け止めようと、フツは静かに祈った。 アークリベリスタの視線は、自然とある地点を見ていた。 ミラーミス『R-TYPE』の出現場所。ナイトメアダウンの中心点。その場所を。 街の救助活動を過去のリベリスタたちに任せ、アークリベリスタは歩き出す。 ナイトメアダウンを止める為に。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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