●海原に旗を立てるもの 音が聞こえる。潮風に乗って海原に響く音は集い重なり合唱となる。 それは骨を叩くようにカラカラと。リズムに合わせた協奏。調子外れの狂騒。静かな海原を囃し立てて、遠く響く行軍歌。 そう、それは歌なのだ。 「俺たちゃ海賊!(俺たちゃ海賊)グレートな海賊!(グレートな海賊)泣く子も黙る俺たちゃーグランドアウトローと呼ばれるぜー」 小島や礁が無数に浮かぶ海域に、ぽつんとたゆたう古い船。マストは折れてぼろぼろの帆には黒いどくろが描かれて。時代遅れの旧時代の船の甲板で、カラカラと音を立てて多数の人型の骨が歌い笑うそれは『幽霊船』と呼ばれるのだろう。 歌は続く。海原にどこまでも響く歌声が島々に届き―― 「お前ら五月蝿いタコ! いい加減にするタコ!」 ざっぱーんと波飛沫をあげて新手が登場する。 「あ、これは失礼しやしたタコの兄貴」 骨たちが頭を下げた先、タコのエリューションビーストは顔を真っ赤にして多数の腕を組んで見せた。 「騒いで強力な革醒者たちが討伐にきたらどうするタコ! 怖いタコ! 危険がヤバイタコ!」 プンスコと音をたてて説教し、腕の一本で方角を指し示す。 「向こうから強力な革醒者が近づいてるタコ。すぐにこの海域を離れるタコ」 このタコのエリューション、強い者の気配を察する特異な存在である。その力を全て保身に注ぐ臆病な存在でもあるのだが。 「うっす。じゃあ向こうで船襲ってくるっす」 速やかに船が旋回されれば、掛け声と共に別の海域へと進んでいく。骨の海賊たちを見送りタコは―― 「……俺たちゃ海賊!(俺たちゃ海賊)グレートな海賊!(グレートな海賊)……」 「……まるで成長していないタコ」 そのままざぷんと沈んでいった。 ●ちょっと旗折ってくる 「明るい未来のために、エリューションアンデッドたちの討伐依頼デースよMiss.Mr.リベリスタ」 海域地図を広げながら『廃テンション↑↑Girl』ロイヤー・東谷山(nBNE000227)が鼻歌交じりにそんなことを言い出した。言葉の内容と反比例する声の軽さである。 「見ての通りエリューションは弱く、対した力はありまセーン。デースが、被害が出る海域に討伐隊を送ると姿が見えず、別の海域で被害が出るのデス」 被害は偶然の遭遇から出ているようなので、探索能力ではなくエリューションを感知する力に特化している可能性が高い。神秘は神秘を知るというところだ。 神秘に深く精通しすぎていると近づけない。逆にそれらは被害も受けないということだが、それでは一般人の被害を防げない。 「アークにだって革醒していないスタッフは沢山いマース。放置してちゃあバカンスにもいけないネ」 襲われなくても、船に落書きされたり下着盗まれたらイヤでしょとしたり顔のロイヤーに海賊ってなんだっけと思いつつ。 比較的察知されにくいメンバーで、高速で近づいて一気に幽霊船に乗り込み大乱闘。これがアークの作戦であるという。 「2人乗りの水上バイク用意したから、レッツD-LIVEね」 そうウィンクで締めくくり。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月17日(日)23:13 |
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■メイン参加者 4人■ | |||||
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●海洋アクセル踏み込んで 大海原に黒いどくろが笑ってる。海賊の旗を立てる大型船は今日も陽気にカラカラと骨と歌を響かせて。 「俺たちゃ海賊! グレートな海賊!」 大海原に響く歌声、波の音、エンジン音。 ……エンジン音が急速に近づいていた。 陽気に歌を披露していた見張りが慌てて示す、その先に―― 派手なエンジン音は隠密行動には向かない。故に強襲、突入・制圧は迅速に。 「船尾から近づき、船からの砲撃を避けるように接近してください」 ドギマギと暴れる心臓を必死に抑え、恐怖を払って突入に備える『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)が手際よく指示を飛ばす。 戦場で敵味方の動きを読みその手助けをする。応援を得意とする壱和の本領はこんな場でも示されるのだ。 そんな壱和を後ろに同乗させ、水上バイクを巧みに操る『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)の口元でタバコが揺れた。 「任せておけ、相棒。オレの運転するコイツは世界一安全で早いタクシーだ」 咥えたタバコを押し潰して笑うクリスに、くすぐったそうに笑みを返す。相棒、という響きは慣れなくて、気恥ずかしくもどこか心地よい。 不意に顔を上げた壱和が鋭い声を上げる。続く轟音が砲撃の開始を示して――クリスの不敵な笑みが派手な水飛沫を上げる海上を駆け抜ける。 「そんなノロマな砲撃じゃ当たらないさ」 水上を自在に進む熟練の操舵。甲板に出て銃を構える多数の骨の海賊を見てもその笑みは掻き消えない。どんな乗り物の操縦もこなす、運転を極めたクリスにとってこの程度の銃撃はそよ風レベルの妨害でしかない。 「向こうから回りましょう」 「ああ、無傷で船まで行ってやるさ」 壱和の指示を受け、自身の観察眼を駆使し、その操船技術で突き進む。砲撃が上げる波飛沫、甲板上の敵の動き、その銃撃のタイミングすら捉えたなら、最早クリスの操る水上バイクを傷つけることは不可能だろう。 「では、明るい未来の為に頑張ろうか。あんなのがうろついていたらバカンスを楽しめない」 そう笑って。 前方に響く派手な砲撃・銃撃音。巧みな動きでそれらを全て回避して、波を上げて横に抜けていった水上バイクの後方で。 真っ直ぐにもう1台の水上バイクが駆け抜ける。それはただ一本の活路を切り開くような力強さ。操舵する少年の心根を現したような真っ直ぐさだ。 「運転はシンプルだし案外簡単だねっ。これなら大丈夫っ、いくよっ!」 更に速度を上げた水上バイク。幽霊船目掛けて『ノットサポーター』テテロ ミスト(BNE004973)が咆哮を上げた。 先の水上バイクにつられて銃撃が来ない事を利用しての直進。それは船の大砲が向けられても同乗者の指示で変わる事はなく――真正面から砲撃を浴びる! 爆音と同時に一際派手な水飛沫。甲板の海賊たちがやんやと喝采を上げて―― 水飛沫から無傷で抜け出てきた水上バイクに驚愕する。 「でかい図体の割には、豆鉄砲だな……突っ込むぞ」 ミストと操る水上バイクを庇い、神秘を具現させたのはその同乗者。『ウワサの刑事』柴崎 遥平(BNE005033)が生み出した神秘は障壁となって暴力をはねのける。その力が物理的なものである限り、対船だろうと対城だろうと問答無用でだ。 その助けは心強く、勇気の後押しとなって水上バイクを前進させる。ミストはアークリベリオン。戦場を全力で駆け抜ける勇士なのだ。 「一気に近づくよっ。少々の攻撃なら揺るがないし、万が一水上に放り出されても大丈夫だからっ」 水上を生身で駆け抜ける特性を持つミストが安心してと口にすれば、笑い声が返事となった。 「落ちやしねえよ。俺がサポートするさ」 そう言って遥平は続く砲撃を防ぐとすぐに指を指し示した。 「銃撃が来る。そっちは防げないから回り込むぞ」 心得たように神秘の銃弾の射程外を滑る水上バイク。クリスの類なき操船技術とは比べられないが、ミストの勇気に遥平の判断が合わさればこれくらいの突破は難しくない。 「最悪無理は承知之助、だ」 それは強行突破の合図でもある。投げ込むロープを手に遥平が接舷ポイントを指定した。 「ま、海保の連中にも迷惑かけられんしな。ちゃっちゃと片付けちまおうぜ」 「はいっ! リベリオンらしく一気に行きますっ!」 掠める銃弾を恐れず、ミストがアクセルを踏み込んだ。 ●海洋ベアリング繋げて渡せ 投げ込まれたロープが水上バイクと海賊船とを強く繋ぐ。 慌てて縄を断ち切らんと剣を振り上げた海賊が、その頭蓋骨に銃弾を受けて海へと転落した。 リボルバーに込めた魔力の弾は、その威力は骨のエリューションを容易に蹴散らして…… 「よし支援する、船に登るんだ」 甲板から銃を向ける海賊たちを牽制して、遥平が仲間を促した。 甲板を走る音。剣を引き抜き構える音。荒々しい海の男の怒声。それら全てが巨大な圧力に呑み込まれて。 ばらばらと散らばる骨の叩きつけられる音が船上に激しく響く。大海原を味方に付けて、操った水流を抑えて仲間を振り返る。 「今のうちに一気に登りましょう」 壱和がロープを伝い甲板へと駆け登った。すぐに迫ってくる骨の第2陣に悲鳴を飲み込むが、同時に隣で駆け登ったミストが威勢よく剣を引き抜く。 「ボクが道を切り開くっ! こんなシチュエーション、リベリオンのボクにぴったりじゃん!」 味方の安全をその身を張って作り出す。真っ先に前へと飛び出したミストが骨の海賊と剣を切り合わせた。50を越える敵影もなんのその。1人また1人と斬り捨て、奥へ奥へと斬り込んで。 その様子を眺め、一度大きく深呼吸。 「幽霊は怖いですが、お化け屋敷と思って頑張りましょう」 壱和が再び水流を招く。その動きを察してミストが飛びのいた。その機動力がミストの強み、傷ついた身体を自らの生命力を増幅させて呼吸を整える。壱和の祈願を見届けながら。 「玄武招来!」 二重に重なる荒波。領域を支配するその力が周囲を瞬く間に制圧していった。 「その調子だ、相棒」 機会を見極めて二重に符術を発現させた壱和。迅速な制圧を尊び力を行使した判断を、クリスが笑顔で肯定する。 未だ慣れないその呼び方に身じろぎしながら壱和が周囲を見渡した。海へと押し流された一部を除いて、甲板にばら撒かれた骨はかたかたと音を立ててゆっくりと引き寄せられていく。 時間の経過は敵の力にしかならない。打ち倒した敵も再生を繰り返し、対するこちらは戦えば戦うほど枯渇していく。連続する力の行使に息を乱していた壱和が、急がなきゃと必死に呼吸を整える。 その肩が軽く叩かれた。銃撃戦の合間を縫ってクリスが「大丈夫だ」と口にして。 「慌てなくてもいい。これはチーム戦だ、任せてくれ」 これでも仕事をこなしてきた自負があると、二丁の銃を撃ち鳴らす。焦りは禁物、実力をしっかり発揮すれば負けはしない。そう目で示して促した。 「……はい、お願いします」 信頼を示して壱和がゆっくり呼吸を整える。落ち着いて冷静に。慌てるよりこの方がずっと良い結果を生み出すだろう。 それを横目に満足げに頷いて。手すり際に敵を追い込んで、クリスは神秘の力を練り上げ始める。 手すりのそばで一斉に銃が音を鳴らす。その中間に突然球体が投げ込まれたなら、それが生み出す衝撃波に銃を抱えた海賊たちが悲鳴を上げて海へと投げ出された。 「短期決戦だ。さっさと乗り込もう」 神秘の球体を飛ばして突入の安全を確保すれば、クリスが仲間を促す。骨の海賊たちは未だ大量な数の暴力で押し潰さんと迫るが――全てを縛り呑み喰らう電撃の奔流が骨を砕いて暴れまわる。 「おう、一気に蹴散らすぞ」 短期決戦に同意して遥平が神秘の術式を紡ぎ編み上げる。数の差は絶大、けれど個々の実力差も絶大。その数の力を生かされぬよう孤立を避けて、肩を並べて力を紡ぐ。 遥平が編み上げた神秘の電撃で動きを鈍らせたところを、クリスが放った衝撃の波動が粉々に吹き飛ばす。派手な力の活用は、その再生能力で復活を始めた骨のエリューションの相手など一々していられるかという意思表示でもある。 幽霊船を打ち倒す方法はただ一つ、コアを探して打ち砕くこと。その探索を勿論アンデッドたちは阻害するだろうが…… 「じゃあいこうか相棒。目星はついてるんだ、さっさと終らせよう」 余裕の笑みを浮かべてクリスが崩れた骨の守りを踏み越えて。 身体は躍動を繰り返す。 その身に詰まった勇気と熱が先へ先へとミストの身体を押し進める。 「ボクが先頭を行きますっ」 仲間の前に立ち、その身を壁として、敵を打ち倒して道を切り開く。それがミストの役目、その本懐。 危険の先を駆け抜ける。それが仲間の安全となる。船内への階段を真っ先に降りていく。 ミストはアークリベリオン。戦場を全力で躍り駆け抜ける者。 ●海洋ブレーキぶっ壊せ 「タコの兄貴に救援要請は出したか!」 「『怖いから無理タコ』って4秒で返信きました!」 「速いよ!? 察知してすぐ見捨てやがったな!」 そんな声が船内の奥から聞こえてくる。振り返れば甲板にはばらばらの骨が散らばって。 それもゆっくり再生を始めているならば躊躇する暇はない。 コアを破壊するまで、引き返すことは不可能だ。 大型の盾を船内に立ち並べ、通路を塞ぐ骨の精鋭たち。迂闊に近づけば動きを止められ、手痛い反撃を受けるだろう。 内部へと踏み込んだリベリスタたちに向けられる海賊の洗礼は、圧倒的な奔流によって流される。 新たに学んだ式符の力で四神玄武を招き、その力を借り受ける。壱和が息を吐いて力の奔流を納めた。 一見して危険は押し流されて安全を確保したように見える。一つ頷いて一行の先陣をミストが務め階段を駆け下りた。 途端通路の左右からミストを押し潰さんと大盾が迫る! それをステップで避けてミストが笑った。その獣の本能が危険を察知する限り、ミストの不意などつけるはずもない。 「つっこむよっ!」 大剣を振るって大盾を打ち鳴らす。練り上げた闘気が、身体を衝き動かす熱情が、その魂を支える矜持が激しい力を生み出して。大盾ごと薙ぎ飛ばして壁に叩き付けたなら、ずんずんとミストは歩みを止めない。ただただ猛攻で押し切るのみだ。 一方で分かれ道のたびに通路の奥から現れる海賊たち。その様子を眺めてリベリスタたちが苦笑を見せる。 「死守している分、逆に分かりやすいですね」 守るべきコアへの道のりを封鎖する海賊の行動。それではわざわざ道筋を教えてくれるようなものだ。壱和が言葉に符術を重ねて。 「すみません。守りを堅めても、多分、ボクらは貴方達の天敵です」 迫る海賊たちの機先を制し、濁流が呑みこみ押し流す。 なんとか踏ん張った大盾に、すでに眼前に迫ったミストの姿、その躍動。 咆哮を重ねて振り切った大剣が、その大盾ごと敵を切り裂き薙ぎ飛ばした。 「どんどん船尾の方に進んでるな」 倒しても復活する敵など一々構っていられない。内部を駆け抜けるクリスたちが徐々に奥へと突き進み。 「コアは船長室辺りか。ここまで来れば間違いないだろうな」 守りの厚い方角へと切り開いて進んでいた遥平が、銃に魔力を込めて前方を見据える。そこにある重厚な扉を、その前で決死の防御陣を敷く海賊たちを。 「どうやら着いたようだ」 残る兵力を集結させて扉を守る海賊たち。その様子に遥平が一旦後ろを振り返った。 「準備はいいか?」 「いつでもいける」 クリスと目で合図を交わして、踏み込みは同時に。遥平のリボルバーが貫き穿つ魔弾となって海賊たちの眉間を撃ち抜く。弾丸のその勢いは衰えることを知らず……背後の扉へと撃ち込まれた。 繰り出す衝撃。広がる亀裂。びしりと音を立てた扉の前で、骨の海賊たちはなんとか堪え大盾を構え直し。 その中央に球体が浮かぶ。海賊たちはあっけに取られた表情のままに、溢れた光に跳ね飛ばされた。 「結構、ビリヤードは得意なほうなんだ」 ふっと笑うクリスが放った純エネルギーの放つ衝撃。後に残ったのは粉々になった骨と跡形もない扉。そしてその奥の―― 「見つけたぞ」 部屋を埋め尽くす骨の群れ、長い通路のその奥で妖しく蠢く船の心臓。コアの放つ光は敵意を現して輝く。 「これ以上は行かせないぜぇ!」 前方を埋め尽くす骨、後方から迫る骨。その数は圧倒的であり、一度に攻めかかられればひとたまりもない勢いだ。 ならばこそここを塞ぐ。入り口を死守しコアを破壊する時間を稼ぐ、そのために。 「玄武招来! 圧せよ!」 壱和の叫びと共に怒涛の力の波が後方の海賊を押し潰す。だが、浅い。 「――っつ、倒しきれない……柴崎さん!」 力を振り絞って敵の突進を食い止め、お願いしますと口の中で呟く。その直後に通路を広がり地を駆ける雷撃の奔流が押し流れて! 敵の第一陣を一掃したのも束の間、第二陣は手早く迫り、度重なる力の行使に壱和の疲労は激しい。それでも無理をして紡がんとする壱和を手で制し、1人遥平が前に出る。 一斉に向けられた剣。怒涛の連撃が遥平に迫り――その全てに甲高い金属音で応える。 海賊たちは自身の剣を見て驚愕した。へし折れた剣、無傷の男、誰の攻撃もその身を切り裂くことは叶わない。遥平が刻み高めた魔力の障壁は、その場を断ち切り封鎖する絶対の意味を成し。 「食い止めるだけなら何とかする――長くは保たないぞ、急いでくれよ」 銃を撃っては押し寄せる敵を撃ち払う。攻撃が通らない以上、数の力で押し通らんとする海賊たちを1人で抑え。振り返らぬその背中が仲間に告げる、信頼の言葉。 「任せたぜ」 頷きで返した壱和が、その最後の魔力を振り絞って符術に込める。招来せよ、敵を呑み喰らう力の奔流。 「一気呵成に押し潰します」 コアまで続く長い道のり。その間に立ち並ぶ海賊たちを、爆撃の如く濁流が一呑みした。 怒声を上げて押し寄せる海賊たち。コアまでの道のりは遠く、決死の防壁を一つ崩す間にその前に打ち倒した海賊が起き上がる。 大盾を構える骨の精鋭を、単独で倒せる火力を持つのはこの場に置いては遥平くらいのものだろう。連携して攻撃を重ねてここまで突破してきたリベリスタも、ここに来て数の差と力の消耗、分断によって進撃を防がれていた。 「どけ!」 クリスの放つ衝撃波が道をこじ開ける。だがその隙間は即座に別の個体に埋められて、じりじりとしか進ませない。背後を守る仲間の消耗、自分たちの力の枯渇。減らず、増えていく敵の数に焦りだけが募っていき…… その瞬間、地を蹴って駆け抜けた若き肢体。咆哮は勇気をもたらし海賊たちの目を、その心を引き付ける。敵のど真ん中をただ1人、その身一つでミストが躍りこんだ。 「ボクが囮になるからみんなはコアの撃破よろしくねっ!」 若き武者の晴れ舞台。恐るべき勢いで駆け抜けた単騎駆け。その突進につられ切り開かれた道筋を単身で走りこむ。 二丁の銃を抜き放ち、顔を上げて睨む先でコアが悲鳴を上げるかのように明滅した。 押し寄せた海賊たちにクリスの身体が埋もれる。その全てを、生み出された球体が弾き飛ばして――その隙間から差し込まれた銃。 銃弾は精密に確かな軌跡を描いて。放たれた銃弾は偉いを違えることなく吸い込まれていった。 ●海洋バカンス夕焼け染めて 沈んでいく海賊船を少し離れたところで見つめる。夕陽を重ねたシルエットは、波に沈んでいるのか夕陽に呑まれているのか見ている者をわずかに迷わせた。 「終わりましたね……」 感慨深く壱和が隣のクリスを見上げる。迎えの船の甲板で、咥えタバコを揺らして手すりにもたれていたクリスが小さく頷く。 「そうだな相棒」 「えっと、いつまで相棒なんでしょうか」 困ったような笑みを浮かべ頬を掻く壱和の問いには答えず、クリスが海を振り返る。 ちょうど良い風と波。夕陽はまだ大きく十分な明かりとなって海を照らしていた。 「折角ここまで来たんだ、少しくらい遊んでから帰っても罰は当たらないだろう?」 甲板を蹴って海へ飛ぶ。波飛沫は立たず、代わりに水上バイクのエンジン音が海原に響いた。 「遊んでいっていいの? やったぁ、ボクもっ!」 ぼーっと海を眺めていたミストがその後を追いかけた。初めての水上バイクの経験はどうも彼に乗り物を操る楽しさを教えたらしい。 操舵技術で敵わず横転しては、水上歩行を駆使してバイクを戻す。そんな2人のやり取りを、柔らかく微笑んで壱和が眺めていた。 少し離れた船尾で、遥平は懐から取り出したタバコを口に咥える。 「ちっ、タバコ湿気ってやがる。これだから、海は苦手なんだ……」 手で風を遮って、幾度目かの挑戦で湿気ったよれよれのタバコに火が付いた。 ゆっくりと一服して煙を燻らせた。 タバコの煙が夕焼けに溶けていく。海賊船のシルエットはもうどこにもない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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