●路地裏の抗争 月の出ない昏い夜に咆哮が木霊する。 何者かの抗争が勃発して一気に辺りが戦場と化した。 すぐ側にいた人々が悲鳴を上げながら逃げ惑う。 冷たい夜風が吹き荒れる繁華街の路地裏だった。 薄暗い路には物やゴミが散乱していた。 血生ぐさい汗の臭いがそこら中に染み渡っている。充血した眼を細めた強者達が今にも襲いかかろうとして互いに牽制し合っている。 「俺達の縄張りに入ったら生かしちゃおけねえ、ぶっ殺してやる」 狐のような細い目をした部下の男が嗤いながら前に出てくる。すでに周囲は屈強な剣林フィクサードに囲まれていた。逃げ場は全くない。 「真の極道は目で殺す、ぜってえ負けねえよ」 立浪京司は絶体絶命の危機に陥っていた。この前の抗争で仲間を殺られてしまい、その仕返しに敵地に乗り込んだが、返り討ちにあって最後に残るのは数名。 すでに拳は血が付いていたが、鋭い眼光はまだ光を失っていない。最後の力を振り絞ってまっすぐに行って玉砕覚悟で殴りこみを駆けるつもりでいた。 「貴様ら何をしている! 喧嘩をやめるんだ!!」 その時だった。京司たちの後ろから黒装束の和服を纒った男が現れた。 男は黒いベールを脱ぎ捨てて厳しい顔を現して名乗る。 「俺は、斜堂一族当主――斜堂・影正だ。貴様らの愚行は一般人に迷惑をかける。速やかにこの場から立ち去れ、さもなくば直ちに貴様らを斬る」 騒ぎを聞きつけたリベリスタの影正は影潜みを使って気付かれないように回りこんでいた。何も罪もない一般人に害を成すような抗争は許さないと単身で乗り込んできたのだった。 「お前、一人で正気か? いいだろう、俺が喧嘩のやり方ってえやつを教えてやる」 剣林側から不意に一人の男が奥から出てきた。 名前は――黒金剛三。 血まみれの日本刀を持った大男。黒のタンクトップから厳つい筋肉が盛り上がって見えている。短髪に黒髪で身体にはあちこちに大きな切り傷がある。 面白くなってきたとばかりに剛三は日本刀――長曽根虎徹を力一杯握りしめる。 ●過去への扉 「皆も三高平市内に発生したリンクチャンネルのことは知ってると思う。今回は1999年の7月に接続された穴の先の世界へ行って、フィクサード事件を解決して来てほしいの」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)がブリーフィングルームに集まったリベリスタたちを前にして厳しい表情を向けた。すぐに資料を捲って状況を語っていく。 三高平に発生したリンクチャンネルの向こう側に広がる世界。 それは1999年7月の時を刻んだ日本だった。 厳密に言えばこの『1999年の日本』が正しくこのボトムチャンネルの過去なのかどうかはいまだ定かではなかった。けれども、これを放置する事はアークの成り立ちも、時村家の矜持も許されないと判断した。 アークは、状況を見守る形で当面リンクチャンネルは維持することを決定した。したがって穴の向こうの世界が果たしてこの現在に繋がる世界なのかどうかを調査する必要が生じた。さらに、ナイトメアダウンを目前に控えているかも知れない『その世界』でリベリスタ達の消耗を抑え、総力を静岡県東部に結集させる事についても意義がある。 もちろん、自分たちアークが十数年後からやって来た、などの核心的・致命的情報を当時の人物に伝えるのは厳禁だった。 現在のアークが実行せんとしているのは或る意味で歴史の改竄に当たるが、影響範囲を大きくする事は不測の事態を生みかねないという判断だった。 「今回は当時の剣林が絡む事件をその場に居合わせたリベリスタとともに解決してきてほしい。当時のリベリスタと知己を結び、彼等にやがて訪れる破滅的危機を伝えることで、やがてその地で訪れようとしているナイトメアダウンへの戦力として期待できるかもしれない。それでは気をつけて行って来てね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月16日(土)22:03 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●正義のヒーローショー 月の出ない昏い夜に咆哮が鳴り響く。 突然の爆発音によって火蓋が切って落とされる。何が起こっているのか分らずひたすら逃げ惑う人々たちで現場は混乱の渦に巻き込まれていた。 繁華街の路地裏は血と汗に彩られた抗争が勃発した。城山組と剣林が真っ向からぶつかって互いに総力を挙げて拳と剣を繰り出す。 周囲の人々たちには目もくれず己の敵を倒すためだけに拳を振るう。 だが、両者とも己の敵しか見えておらず、逆に他の一般人が目に入っていない。 このままでは抗争に巻き込まれて一般人に多くの犠牲者が出てしまう。 騒ぎの声を聞きつけやってきたリベリスタの斜堂影正はすでに剣林を指揮している黒金剛三達の部下に囲まれて動けなくなっていた。勇んでやってきたものの、やはり一人では厳しすぎた。誰でもいいから早く来てくれないかと顔を上げた時――。 「俺の名は! 死神の名を背負いし闇の剣士、シャドーブレイダー・ザ・デス!!」 全身を漆黒に包み、ヘルメットを被った『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)が両手を突き出して壁の上に立っていた。Sのイニシャルが辺りに鮮やかに輝きを照らす。 「闇を切り裂く鋼の閃光! メタルブレイダー! 見っ参ッ!!」 後ろから銀色の鎧を着た『陰月に哭く』ツァイン・ウォーレス(BNE001520)が雄たけびを上げて現れた。白く長いマフラーに額にMと描かれたバイザー付きのヘルムを被っている。二人は揃うと、敵に向かってそれぞれ両手でSとMの文字を作ってポーズを決める。 息の合った掛け声が辺りに響き渡って抗争中のフィクサード達は度肝を抜かれた。 「こんばんはでござる虎の人。そしてはじめましてさようならでござる!」 だが、それだけではなかった。二人が跳躍して地面に降り立ったかと思うと、さらに後ろから虎のマスクを被った『元・剣林』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)が現れた。やや咳ごみながら変な声を出している。見た目はどこかのプロレス会場からやってきたとしか思えないあまりにも怪しすぎる男。これには流石の剛三も開いた口が塞がらない。 「お前ら……なんだ? というか、何しに来たんだ? ここはちびっ子たちの正義のヒーローショーじゃないんだぞ」 強面の剛三があまりのひどい恰好の敵の登場に困惑気味に声を漏らす。対する城山組の立浪京司たちも言葉を失って後ろを振り返るしかない。味方であるはずの斜堂影正でさえ、あまりに弱そうな援軍のリベリスタ達を見て思わずため息を吐く。 「誰でもいいから来てくれと願った俺が馬鹿だった……頼むから邪魔だけはしないでくれ」 影正のそういう願いも虚しく、さらに背中に悪一文字の刺繍をした特注羽織を纏った『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)が顔を出し、あまりにも普通で特徴がなく一体どうやって喧嘩をするのか予想のつかない『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が登場して地面に着地した。 「立浪京司ィ! 城山の代紋背負っといて無様な姿ァ見せてんじゃあねェ! 援軍の到着だァ! この銀次の目の前で倒れやがったらタダじゃ済まさねェぞ!」 その時だった。怒鳴り声を喚き散らしながら最後に現れたのは『悪漢無頼』城山 銀次(BNE004850)だった。城山組の頭領のまさかの登場に、その場にいた城山組の立浪京司たちが吃驚したように振り返る。 「銀次、どうしてここに……? 今日は事務所で寝てたはすじゃ?」 困惑しながら京司は呟いたが、そんな細かいことはどうでもいいといわんばかりに、銀次が壁を飛び降りてまっすぐにこちらに向かって突っ込んでくる。それに続いて一斉に他のリベリスタ達も喧嘩を止めるべく斜堂影正の元へ駆け込んだ。 ●不運な輩 「面倒なのは早々に退場してもらおうか? もっと暴れたいならご愁傷様。あの世で愉快に踊り狂え」 一番先に動いたのはユーヌだった。他の奇抜すぎるメンバーに気を取られて全く気にしていなかった普通の少女がいきなり呪符を取り出して巨大な魔力を打ち放つ。影正を囲んでいた剣林のフィクサード達は一気に不吉な陰陽の符を食らって後退する。 「不運だな? 生まれと頭の悪さが致命的に」 ユーヌの不敵な笑みにようやく剛三達も我に返った。見た目に騙されてはいけないと飯島達が反撃の烽火を上げて一気に前に突っ込んで攻撃を放ってくる。だが、不運に見舞われてしまった敵達は互いに誤爆を誘発させてしまった。真っすぐに向かいたいのに、どうしても前に出ていくことができない。ようやく飯島が前を向いた頃には、麗香を始めとするデュランダル三人衆が武器を鞘から抜き放って迫っていた。 「キミたちの私闘を推奨しません。この日ノ本の秩序を乱す輩は成敗する! 喧嘩売ってくるならば斬り捨てるまでである!」 長い髪を鮮やかに渾身の一撃がまず飯島の腕を切り裂く。思わず飯島が声をあげて後退したところをすかさず影継が足をなぎ払った。 両足を切られて動きが鈍った処に迫ったのは虎のマスクの男だった。異様な雰囲気を纏ったそのプロレスラー風の男が兼久を鞘から抜き出し、そのままの勢いで薙ぎ払う。 圧倒的な剣圧が巻き起こって鳩尾に叩き込まれた。あまりの強力な刀の力に耐えきれず、飯島は腹を真っ二つに引き裂かれて壁に激突して果てた。 辺りに砂埃と血が舞い注ぎ、一瞬のうちに剣林の包囲網が突破されていた。 「おもしれぇ、見た目に騙される所だったぜ。お前ら心してこいつらにかかれ!」 剛三が充血した眼を部下に向けて命令した。今までやってきた相手の中でもトップレベルに属する敵だった。とくに虎鐵の凄まじい刀の威力はあまり見たこともない。破壊力だけならあの百虎でさえも数発食らったらただでは済まないだろう。 一方で、何がどうなっているのか分らないリベリスタの影正は困惑していた。そこへシャドウブレイダーと名乗る男が現れて避難誘導をしてくれと頼まれる。影正は頼まれたら断れない性格のため、二つ返事でOKして影人をすぐに作り出した。瞬く間にその場から影に潜んで未だ逃げ惑う一般人の元へと移動していく。メタルブレイダーを名乗る男が「影正さん、こっちは俺がやりますから向こうお願いします!」と言われ、さらに影正は快速を生かして混乱している一般人の元へ救助に向かう。 ユーヌが呪符を放って敵を引き付けたところを、麗香が引き受けて剣を辺り構わずに振り回してめった切りにする。巻き込まれた敵はうめき声を上げながら突っ伏していく。 「目指すは黒金ただ一人。他はおそれるに足らず!」 麗香の狙っているのは黒金剛三だけだった。その行く手を阻むものは誰であろうと容赦はしない。その麗香を横から狙っていた敵に虎鐵が暗黒をばら撒いた。 敵の弱った所を猛烈な虎鐵の一撃が襲って一体ずつ着実に沈めていく。まさに息の合ったコンビネーションで瞬く間に黒金配下を地獄の底へ叩き落としていった。 ●世話になった礼 「折角味方連れてきたってェのにもうへばってんのか?」 仲間よりも一足先に銀次は前線で奮戦する京司たちの元へ駆けつけた。京司もその相棒の正も拳が血まみれで使い物に成らなくなっていた。足もやられてしまって、すでに満足に逃げることもできない状況だった。 「こんなの屁でもねえ、お前がこなくったって一人でやれたぜ」 京司も正も全く目は死んでいなかった。それを見て銀次は安心した。それでこそ城山組というものだ。とくに宿敵の剣林相手には絶対に相手よりも先に死ぬなと厳命してある。 「アレのタマとるの手伝え、どうだ? 京司、正よォ」 「もちろんだ、俺が奴の首をとってやるよ!」 京司と正は吠えた。そして最後の力を振り絞って殴り込みを掛けようとする。だが、それよりも先に動いたのは城山の組長だった。部下を先に死なすまいと単刀直入に拳を振り上げてまっすぐに剛三の首元を狙って叩きつける。 「ウチのが世話になったなァ、礼だ、受け取ってもらうぜェ?」 剛三はすんでの処で長曽根虎鉄を抜くと首元をガードした。そしてそのままの勢いで強烈な斬撃が逆に銀次の鳩尾に当てて吹き飛ばした。 「剣林の黒金、首領の友人ってのはフカシじゃないみたいだな」 ヘルメットを被り直した影継があまりの威力ある剛三の剣筋を見て言った。あたり一面には凄まじい威力でひび割れた地面の跡が残っている。 「待たせたなシャドウブレイダー! ここから押し返していくぞ!」 ようやく避難誘導を終えたツァインが相方を見つけて飛び込んできた。影継はツァインに向けてじっと眼を合わせた。すでに準備は万端だ。二人は代わる代わる攻撃を繰り出す。雨嵐のような連続攻撃を受けて流石に剛三は息を荒くした。 だが、剛三は倒されまいと究極の奥義を繰り出す。稲妻の雷光のような五連撃を立て続けに食らってシャドウブレイダーとメタルブレイダーが跳ね返される。 「覚悟するでござるよ! 悪党共!!」 虎のマスクを被った虎鐵が牙を向いた。すぐさま倒れた二人を飛び越えて刀を振り被ると剛三と壮絶な鍔迫り合いを始める。互いに一歩も引かぬ互角の様相を見せた。 「てめえ、言うだけのことはある。だが、貴様はあの百虎の足元も及んでねえぞ!」 不意に力が抜けたかと思うと、刀を引いた剛三が虎鐵のバランスを崩して、一気に上から渾身の虎鉄雷光斬を放っていた。強烈な一撃を首裏に受けた虎鐵は地面に叩き落とされる。口ほどにもないとトドメを刺そうとしたが、その時、麗香がまるで餌を見つけた犬のように走りこんできて邪魔をした。思わぬ助太刀に剛三も態勢を乱される。 「悪である我らの力、思い知るがいい」 全力で叩きこんでくる麗香に剛三は連戦を強いられた。あまり敵対したことのない女剣士の異様なまでの執着に剛三もさすがに疲れを隠せない。 すでに城山組の時から長い時間にわたって戦闘を強いられていた。まだ体力は残っているが肝心の攻撃の余力がわずかしか残っていなかった。 麗香の鮮やかで美しいまでの攻撃を振り払っても振り払っても纏わりついてきて決め手を与えない。次第に剛三の手の感覚がなくなってきていた。 「絆創膏程度だが、バカとの喧嘩には十分だろう?」 ユーヌが仕方なくといった表情で転げていた仲間を介抱して回復させる。 すぐさま二人は二人三脚のように足並みを揃えて剛三の元へ突っ込んでいく。白と黒の戦士が左右に別れて突っ込んでくるのをどちらが先か予測がつかないと剛三は困惑する。 「右か……それとも左……?」 剛三が迷ったその時―― 「決めるぞシャドウ! アザーサイドダウン……ストライカァァーーッ!!!」 右から飛び込んできたツァインの一撃が剛三の肩を襲った。一瞬判断に迷って遅れた剛三は慌てて刀を取り出すが間に合わない。ざっくりと切られと所をすかさず第二撃目が剛三を容赦なく襲った。シャドウブレイダーが横から飛び込んで渾身の一撃を放つ。 「俺達はその程度で崩されやしない! 喰らえ! 斜堂流……もといシャドウブレイダーの一撃を!」 背中を思いっきり斬られて剛三は絶叫した。 その声にようやく目を覚ました虎鐵の眼光が異様な光を帯びる。目の前には、起き上った銀次がまさに渾身の拳で殴りかかっている所だった。 「俺に関しちゃあ必殺の一撃は必殺足りえねェ。俺を殺すにはまだまだ殺意が足らねぇぜェ?」 さっきのお返しとばかりに銀次は一気に敵の懐に飛び込む。 「死ねよやァ剣林ぃぃいいいい!!」 銀次の拳が剛三の鼻を押しつぶしてそのまま後ろに押し倒す。 虎鐵は目の前の喧嘩を目にして昔を思い出していた。 自分に刀の使い方や喧嘩の楽しみを教えてくれた。もう二度と会うことはないと思っていたが、数奇の運命を経て敵として戦うことになった。 後にも先にもこの機会は今度だけだろう。 ならば全力を持って黒金剛三を倒さなければならない。 百虎を倒すには絶対に越えなければならない相手―― 虎鐵は吠えながら剛三に突進した。麗香の相手をしている隙を狙って後ろに回り込むと、鞘から一気に刀を抜いて斜め上から斬り付けた。 「その虎徹をへし折ってやるでござるよ!」 腕に血をめぐらし、全力を込めて刀を振るう。 刀が音を立てて咆哮した。腕に体重を乗せてそのまま押し切る。 凄まじい衝撃音。刀が砕け、散る。 剛三の刀が軋み音を立てて吹き飛ばされた。 ●楽しかった喧嘩 剛三は折れた刀を見てすぐに脇差に持ち替えた。威力は半減するが、間合いに入った虎鐵に渾身の雷光斬をお見舞いすればまだ勝機はあった。 だが、撃とうとして剛三はついに最後の攻撃を断念した。 すでに能力の限界を超えて奥義を撃てるだけに余力が残されていなかった。 「馬鹿は俺のほうか……最後までてめえらに振り回されっぱなしだったな」 剛三は虎のマスクを正面から見て呟いた。変な恰好の敵に惑わされて下手な要力をつかったあげくについ最後は本気を出しすぎてガス欠を引き起こしてしまった。 それでも剛三は間合いに入った虎鐵のマスクに手をかけていた。面だけはぜったい晒してやると執念で剝したがその瞬間に虎鐵はバレたら不味いとそのまま背を後ろして逃げ出した。一瞬、剛三はちらっと横顔をみたが、だれかに似ているような気がした。 まさかとは思ったがそんなはずはないだろうと剛三は気を取り直す。 それにしてもトドメを刺さずに逃げるなんて余程正体をばらしたくなかったに違いないと剛三は苦笑せずにはいられなかった。あんなに強くて変な奴は初めてだったが、できることならばもう一度対戦してみたいと思いつつ剛三は去った。 「――強い敵が出てくるぞ。ああ、雑魚なら瞬殺、関わらないのが1番かもしれないが」 生き残っていた腰抜けの部下にユーヌは吐き捨てる。NDの情報を彼らに与えていた。もしかしたら剛三達はこれを果たし状と思って、もう一度対戦するためにやってくるに違いない。敵がいなくなって影継とツァインもようやく一息ついた。 「そういえば……影継の親父さん……」 そう呟いてツァインが振り返ると、影継の親父である影正は壁の上に立っていた。 「ありがとう。シャドウブレイダーにメタルブレイダー。ようやく私も地球に帰ることができる。実は私もシャドウ星から地球を守るために派遣されたシャドウマンなのだ。だから早く帰らなければならない。手柄は全部君たちにくれてやろう。早く帰らないと妻に怒られるからな……それではさらば!」 派手にド派手なポーズを決めて壁から飛び降りた。まだお礼とか話をしていなかったツァインは何とか引きとどめようとすぐにその場に向かったがすでに忽然と消えていた。 「どこにもいない……? まったく最後まで謎な人だった……」 影継は、やれやれといった表情でため息をついた。傍らにいたツァインは残念に思ったが、それでもあれが影継の親父であると思った。 やはり、血は争えないものがあると何だか笑いがこみあげてくる。 一方で、城山組の京司と正は重傷を負っていた。目にも堪えない傷をおっていて、どうして立っていられたのかと思うほどの深手だ。それでも言葉だけは全くけがをしていないような口ぶりで軽口を叩く。銀次は二人に対して傷が癒えたら、この後すぐに静岡県東部に行くように言い含めた。早く事務所に帰らないと身バレしているため、事態がややこしいことになりかねない。こっちの世界の銀次に気づかれないうちに帰る必要がある。 銀次がそう思って腰をあげた時だ。 「よお、銀次、久しぶりにおめえとの喧嘩たのしかったぜぇ。またやろうや」 包帯をぐるぐる巻きにした京司が楽しそうに笑った。またすぐに一緒に喧嘩ができると信じて疑わない眼を受けて銀次はついに背を向けて立ち去る。 「……じゃあな、楽しかったぜ、京司」 最後に一番の相棒に別れを告げて二度ともう振り返らなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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