● 軋んだフローリングの床に時代遅れのブラウン管のテレビが砂嵐を映し続けている。埃被ったソファは最近人が使ったのだろうか、何処となく生活感を感じさせていた。 何処からか聞こえる湯が沸騰する音。あれは、キッチンからだろうか? 誰も居ない筈の洋館なのに、と『 』の肩が強張った。 昼だと言うのに鬱蒼と茂った木々の所為で射さぬ光りがこの洋館を『夜』に隔離した用に思えて不安を煽り続ける。手にした懐中電灯がチカチカと点滅し続けていた。 何処からか流れるラジオの音。何の歌だろうか。どこかで聞いた様な―― 緊張に懐中電灯を握る掌が汗で濡れる。慌てながら『 』は廊下を走った。割れた電球の破片を蹴散らせて、鼠の声を聞きながら豪奢なシャンデリアの下へと顔を出す。 半分だけ開いた扉は何処か傾いで、誘いをかける様にゆらゆらと揺れていた。 ――と、そこまでの映像をモニターへと映しだした『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は青白い顔でその映像をストップ。 「ホラー映画の一部なのよ。……続き? レンタルか映画館でどうぞ」 ホラーは苦手です、と肩を竦めて震えて見せた世恋に『夜行灯篭』リリス・フィーロ(BNE004323)は小さく欠伸を噛み殺し「見て無かったよぉ~」とのんびりとした声を漏らす。 「あ、本題はここからなの。ごめんね、今から起きててね、リリスさん」 「ほら、お姉ちゃん。大丈夫?」 眠たげに眼を擦ったリリスに『The Place』リリィ・ローズ(BNE004343)は優しげな笑みを浮かべて歩み寄る。ブリーフィングルームに置かれた椅子に深深と腰かけていたリリスは「大丈夫~」と間延びした声を漏らしてリリィを見た。 「ホラー映画を観賞するのかな? ん、でも違うのかな……」 「ホラー映画! 楽しそうですっ!」 頬に手を当てて幸せそうにはしゃいで見せるシーヴ・ビルト(BNE004713)。子供の様にぴょんぴょんと跳ねるシーヴに『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345)がこてんと首を傾げた。 「楽しそう! ……だけど、姉妹たちばっかり集めてどうしたのかな? ボク達、フュリエにしか出来ない事があるとか――かなあ。どう思う? キィ」 エフェメラの周りをふわりと跳んだフィアキィは判らないと言う様に首をふるふると振って見せる。 フュリエに囲まれた唯一のフライエンジェ――フォーチュナはどう話したものかなあと言葉を探す様に眼線をうろつかせた。 「ええと……そう、ホラー映画も関係あるんだけど、それ以上にフュリエである事が大事なの。 皆には一つ、出向いて貰いたい所があって。それが此方。さっき内部は見て貰ったと思うんだけど……」 「『内部』? じゃあ、あのホラー映画の場所が……」 「フィティさん、御名答。あの映画で撮影場所として使われた廃墟があるの。 そこで心霊現象が起こる――見たいで、アーティファクトとエリューションが影響してる事は解ったんだけど……アーティファクトの影響である種のジャミング的な作用が働いている様で今、中がどうなってるか分からないの。本当にホラーハウス状態になってる事は確かだわ」 だからこそ、皆さんが頼りです、と告げたフォーチュナに『龍の巫女』フィティ・フローリー(BNE004826)は難しい顔をする事しかできない。 「うんうん、お姉ちゃん達のフュリエ同士の共感能力ならそのジャミングを潜り抜けられるかもってことだね。 でも廃墟(ホラーハウス)かぁ……ディアナ、セレネ。どう思う? 私? ちょっと怖いかもしれないね?」 わくわくした雰囲気の『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)にシーヴは「楽しそうです」とはしゃいでいる。 『樹海の異邦人』シンシア・ノルン(BNE004349)は普段のマイペースさを崩さずに「廃墟探索だね」と小さく頷いた。 「なるほど、廃墟を探索してアーティファクトを確保してこればいいんですね? じゃあ、その廃墟に向かってみましょう。……確かに、アーティファクトとエリューション、なんですよね?」 姉妹たちの様子を眺めながら『桃源郷』シィン・アーパーウィル(BNE004479)は確かめるように告げる。 簡易飛行でふんわりと浮かびあがったシィンを見上げながら小柄なフォーチュナは青ざめた顔でぎこちなく笑った。 「――多分……お化けじゃないとは………」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:EASY | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月17日(日)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 鬱蒼とした森の中。一目で廃墟だと認識できる屋敷はそこにあった。 「へえ、ここがホラー映画の撮影場所に使われた場所かぁ。何だかちょっと怖いけど……ワクワクするね!」 ホラー映画の撮影場所として使われた立派な廃墟と化したお屋敷。屋敷に乗り込む面々の中で最年長――それでも外見は幼女っぽい――『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)は空色の瞳を輝かせて『妹達』を振り返る。 「やー、いかにもな感じですね。正にお化け屋敷。中々に楽しみですねぇ」 うんうんと頷きながらも微妙に口角を引き攣らせた感じのする『桃源郷』シィン・アーパーウィル(BNE004479)。 長く伸びた桃色の髪が毛先に向け銀色に変化しているのが中々に神秘的な少女だ。 フュリエ御一行の中での最年少であるシィンの隣で瞳を輝かせ、胸をときめかせの大騒ぎしているシーヴ・ビルト(BNE004713)の様子は生来のものだろうか。「お化け屋敷」だと感じても物怖じする気配は彼女には少しもない。 「ホラーな空間っ! 何が潜んでるんだろうっ、たのしみーっ!」 「お化け、がいるのかな? 怖いのは我慢できる気がするけど、恐いのはちょっと、ね」 「『こわい』?」 こてん、と首を傾げるルナに『龍の巫女』フィティ・フローリー(BNE004826)は唇に指先を当てて考えるそぶりを見せる。 漢字は違えど音は同じ。「afraidとscaryの違い、かな」と流暢な発音で言うフィティに『The Place』リリィ・ローズ(BNE004343)は「物知りだね」とにっこりと笑顔を浮かべた。 『scary』な恐怖が在るかもしれないこのホラーハウス。フュリエである彼女達が選ばれたのは理由がある。もともとがアザーバイドであるフュリエ達はもともと非常に強い交換能力を有していた。個体差がある物の、感情や気分を種族全体で共有する特性があったのだ。 「ボクたちの交換能力を、使ってホラーハウス探検……ちょっと、ワクワクするね」 ふんわりと笑ったリリィに力強く頷く『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345)。 微かに感じられる『楽しそう!』というポジティブ思考にリリィは小さく頷いた。『世界樹』の力及ばぬボトム・チャンネルでの限定的な能力で出来た個性。このリリィやエフェメラをとってだけでも少しずつ違う。それでも、姉妹の絆を確かめるように、彼女たちはホラーハウス探索を引き受けた……訳だが。 「ふぁぁ」 煙管を手に、紫煙を吐き出しながら眠たげに眼を擦った『夜行灯篭』リリス・フィーロ(BNE004323)はこてん、と小さく首をかしげて見せる。 「そういえば、前にもこんな依頼があったよねぇ~……あの時は、まだアークに来たばっかりだったかな」 リリィちゃんたちと一緒だった気がするなぁと思い出に浸るリリスに「ラ・ル・カーナにはないものだから楽しかったね」とリリィが相槌を返す。 何はともあれ、探検経験者ならば一安心だ。あまり怯えた雰囲気を出さない『樹海の異邦人』シンシア・ノルン(BNE004349)の「面白そう!」とはしゃぐ声も相俟って、フュリエ御一行、あまり怖がっている様子はないが……。 「ほ、保険ですよ。……念のためってやつです」 自分にエル・ユートピア。物理無効を身に付けたシィンの唇は少し引き攣っている様に見えた。 ● 重たい音と共に開く扉。豪奢な造りの屋敷は埃被っている所為か、折角の造形が台無しである。 「これが、廃墟! えへへー、ドキドキするねっ! 姉妹の皆が一緒だから大丈夫、だよね?」 ニッコリと笑みを浮かべたエフェメラ。怖いという気持ちが映ってくる事は無いよね、と姉妹たちを見回して。 一つ、安心、どうやらその心配は今のところはないみたい。 「それじゃあ一階から順番に探索なのですっ! フィティさん、行きましょー!」 カンテラで照らしながら大きな声で呼ぶシーヴ。彼女に従う様にゆっくりと歩くフィティの瞳がどこかうろうろ。大丈夫、彼女はハイフュリエ。エクスィス・パートナーがあれば、トラブルだってへっちゃら……だ。 「あれ? フィティさんどうかしましたか?」 「え? う、ううん。大丈夫。震えてないよ。気の所為だよ」 ……気の所為、かな? 「リリスちゃんとだね? うわーっ! 見て、ピアノだよ? リリスちゃん、廃墟だよ! こういうのってワクワクするよね! 凄いなぁ……あ、でも廃墟って色々危ないんだっけ?」 はしゃぐ最年長・ルナばあちゃん(82)。銀色の髪を揺らして、シーヴやフィティとは別の方向へと歩き出す。 広間に置かれた埃被ったピアノにも興味を持った彼女の背後で小さな欠伸を噛み殺したリリスが茫と明かりの灯らぬステンドグラスを見上げる。 「ん~……とりあえず、まずは一階を探索するんだよねぇ~? 暗くて、結構涼しくて、コレでふわふわのお布団があれば……うん、最高だよねぇ~」 お仕事中に寝ないでね、リリスおねえちゃん! 暗視を駆使して、周囲を見回すシンシアの色の違う瞳が細められる。ふる、と体を震わせたのは独特の空気の所為だろうか。 「なんか……やっぱりと言うべきか、雰囲気あるね?」 「そうですねぇ。あ、リビングとか行ってみませんか? 案外人が直ぐ来そうだったりする所にぽん、っと置いてある事も考えられる訳です」 オッドアイ二人組。成程、人の集まる場所から探してみる作戦なのだろうか。 こっちですねぇ、と頷いてシィンが指差す先をシンシアが見つめて首を傾げる。 「……ん? 今、何か居た様な……シィンさん、確認してみます?」 「え? 幽霊? ははは、まっさかぁ。誰も居ないですよ」 ほら、と笑いながら扉を開いて、シィンは静まり返ったテレビを見詰めた。電気も通ってないその部屋は静かその物だ。 「ね?」と振り仰ぐ、彼女の後ろで、シンシアは『砂嵐を映しだした』テレビを指差しやっぱり 「ええと、時計……なんだよね? 棚を先に調べちゃおうか?」 茫と光るリリィの近くを見回しながらエフェメラは小さく頷く。彼女達が今回探して居るのは『ねじ巻き時計』だ。 アーティファクトとして存在して居るならその異様さも気付ける筈だ、と一階の小部屋をきょろきょろとエフェメラは見回していく。 「うーん……これは、普通の時計かなぁ?」 「そうだね……。広いし、ちょっと怖い、かな?」 お姉ちゃん達とは繋がってるけど、と肩を竦めたリリィ。彼女達の周りをふわりと飛んだフィアキィは自分も居るよとアピールする様に目の前を行ったり来たり。 光源であるリリィから離れずにきょろきょろとするエフェメラの指先をリリィはきゅ、と握りしめる。 『お化け』が来ても、怖くないよ、と。離れないように、と。握りしめた指先をエフェメラは嬉しそうに握りしめて―― 「ひゃぁっ!?」 肩を大きく振るわせた。 手を掛けようとしたそこに何かが滑り込んでくる。白い顔の様な……しかし、一瞬すぎて何が何だか理解できない。 ガシャンッ、と大きな音を立てて落ちた皿。ゆっくりと振り返った二人の視線の先には―― ● 伽藍とした風呂場のタイルには黴がこびり付いている。ぴちょん、と落ちた水音に肩を跳ねあがらせるルナが安心したように溜め息をついた。 「わぁっ、吃驚した!」 「ん~……やっぱり、時計はないかなぁ……」 お風呂場だしねぇと頷くリリス。のんびり屋さんなのか、それとも眠いだけなのかは定かではないものの、ノーリアクションの彼女は誰よりも肝が据わっているのだろうか、それとも『お化け』という概念があまり理解できていないのか。 「あれ……? あそこにだれ――」 (・´ェ`・)<お化けだよ。 赤々とした焔と共に、凄まじい音が一つ。魔力増幅杖 No.57を掲げたルナが背景に炎と煙を背負いながら愛らしく微笑んだ。 「リリスちゃん。お化けなんて居ない。いいねっ?」 「……ふうん。あれが、おばけかぁ……」 敵襲かと思って、意識を叩き起こす様に掛けたファストブースト。 その前に撃退されたのか姿も形も見れなかったリリスは寝ぼけてただけなのかと眼をこしこしと擦る。 「『おばけ』って、あんな感じにでてくるんだねぇ~」 「え!? う、うん! そうだよ。でも、お化けなんて居ないからね!」 「凄いねぇ……」 リリスさん、『お化け=突然出てくるもの』認定が確定された様で。恐怖なんて全くゼロ。 そんなぼんやりリリスにルナお姉ちゃんは「リリスちゃんがいると安心だね!」と妙な気持ちを覚えて居たのでした。 「何の音!? え!? お化けかな!?」 大きく振り返るエフェメラ。伝わってくる感覚と「驚かせたね!」とルナから送られる言葉に肩を竦める。 どうやら『姉妹』は吃驚した模様。幸い、皿以外に何も変化のなかった部屋は静まり返っている。 「あの扉……」 「鍵が閉まってるね?」 ぎゅ、と握りしめた指先に力が籠められる。柔らかく微笑んだリリィが細工する様に手を掛けて、そっと扉を開いた。 ピッキングマンで発光で。廃墟に強い系女子はやる事が違いました。 「ほら、開いた。秘密を覗いてる様で、ちょっと悪いかな」 でも、探さなくっちゃねと唇に指を当てて、ゆったりと笑ったリリィ達の目の前に広がっていた中庭。 そして、 「……え?」 (・´ェ`・)<お化けです。 vinculumがわずかに魔力を漏れさせる。しかし、落ち着き払ったリリィとエフェメラは目の前のお化け(仮)をじっと見つめてから、顔を見合わせた。 「お化けは、じっと見てたら可愛く思えるかな」 「あ、でも可愛いよねぇ」 「うん、とっても可愛い。こんにちは、お化けさん」 ――お化け、敗北! 周囲から聞こえる音に驚き肩を震わせ、くるりと背中を向けたフィティ。彼女の背を見詰めながらシーヴが小さく首を傾げる。 幻想纏いから取り出した『アレ』。 「……うん、大丈夫。落ち着く……」 ぎゅ、っと抱き締めた『アレ』。何であるかは御想像にお任せします……。しいなはきっと装備品のアレだと思うんですが。可愛いな、フィティちゃん。 「どうかしましたかー? あ、他の皆は大丈夫かなぁ?」 「だ、大丈夫、じゃないかな?」 くる、っと。後ろ手に隠した『アレ』に気付かずに首を傾げるシーヴ。 「愉快そうな気配が伝わってくるから、安心だけど」 ぐっ。 ちなみに、愉快そうな気配の一例と言えば。 「シンシアさん、さっきから肩に触ってどうかしまし、」 「え? 何の事?」 「何か見つけたんじゃないですか? あ、それとも怖いんですか? 暗いですからねぇ~」 電気が通ってない筈なのについたテレビに戦慄しながらも余裕そうに笑ったシィン。 薄ぼんやりと照らされる中、『左肩に感じる感触』に若干煩わしさを感じるものの……シンシアは右側にいる。 「あれ? 左肩に触りましたよね?」 「ずっと、右側にいたよ?」 「え? ははは、まっさかぁ。冗談は……誰?」 ちょっとした心霊現象もシーヴにとっては愉快なヒトコマ。 『そろそろ上に行ってみないかな?』 聞こえる声に顔を見合わせ、シーヴとフィティは行きましょう、とゆっくりと階段へ向かったのでした。 ● これまた埃積もった階段を上がりながら姉妹揃って2階へ。 ウロウロとするのは大変だなぁと肩を竦めるルナの袖をぎゅ、っと握りながら眠たげに欠伸を噛み殺すリリスが一つ、瞬く。 「リリスちゃん、見間違えだよ」 またもや突然の炎の雨。突然出てくると吃驚するよね、と微笑むルナばあちゃんの背負った煙が怖いです……。 「それにしても、こうして私達の力を活かして……って言うのも、珍しいよね。 私達の故郷じゃこれが普通だったし、こっちに来たらそんなに私達の力を使う……何て事も少なかったしさ」 不思議な感じだね、と何処か懐かしげに眼を細めるルナにリリスは小さく頷く。 皆の感情は何となく伝わってくる。怖いだとか吃驚しただとか、何より楽しんでいる事がよく解るものの、会話を全部ルナに任せたリリスは「リリスも早く成長しないとぉ……」とひとりごちた。 二人組で行動していたルナとリリスに合流したシンシアとシィン。子供部屋と主人の部屋が隣り合っている為にその道中は一緒なのだろう。 「そういえば、シィンさんはお化けは苦手? 私達がお化けで騒ぐのも如何かな……って感じだけど」 「幽霊なんていわばエリューションですし、普通に居るでしょうけど。まぁ、面と向かって戦う分には……」 「あれ? ねえ、シィンちゃん、あそこに何か……」 「うん、リリスも見たよぉ~」 顔を見合わせたルナとリリス。瞬くシィンにシンシアが言ってみようかと子供部屋の扉を開き、 (・´ェ`・)<バァッ! 「あ、やっぱり出るんだね。うーん……古い……」 室内に足を踏み入れれば突然閉まる扉。ビクッと肩を跳ねさせたルナとシィンに「わぁ」と一人感嘆の息を漏らしたリリス。 シンシアは「古典的……昔の映画にもあったらしいね……」とボトムの文化を振り返る様に一人ごちる。 「な、何か、あったの!? お、おお、落ち着くの、落ち着くのよ私。大丈夫、命には関わらないっ」 仲間達から伝わった『恐怖』に肩を震わせたフィティ。どうやら突然のお化けに驚いた別働班に彼女もツラれた様子。 「そうですねー。あっ、きゃー! 見てください! 何か動いたーっ! なんだろうっ♪」 嬉しそうに走って行くシーヴに「走っちゃ駄目だよ」と優しく声をかけたのは合流したリリィ。 彼女の手をぎゅっと握りしめたエフェメラが「あっ!」と声を漏らすと同時、華麗に転んだシーヴが「きゃんっ><。」と悲鳴を上げる。 「だ、大丈夫?」 「大丈夫でーす! お姉さんだもんっ! あーっ、エリューション出てきたー! きゃー!」 嬉しそうにガバリと起きあがったシーヴの頭上を飛び交う本。危ないと声をかける前に大はしゃぎのシーヴがころころと埃だらけの床を転がる。 「わっ、もう! おアブナイなぁ! キィ、メァッ!」 お願いと声を張り上げるエフェメラに彼女の連れるフィアキィがくるくると本の周りを飛び、エリューションを打ち倒し―― 「ぴいっ!?」 勢い良く落下した本がシーヴの頭へとダイレクトアタック! 驚きに思わず鳥肌が立っていたリリィは「大丈夫……?」と心配そうに伺うものの、姉妹の中で一番元気なシーヴは嬉しそうにお化けを追いかけ回していたのでした。 「たのしーです! あ、あれ? これ、これなんでしょう!」 はしゃぐシーヴが指差した先、存在してたねじ巻き時計を手にした彼女にリリィが「それだ」と眼を輝かす。 見つけたよ、と送ったテレパシーに帰ってきた悲鳴。 そして近付く足音と、響くオルゴールの音。 「何で逃げるのぉ~? もぐら叩きっていうのをやればいいんじゃ~?」 「倒しても、出てくるんだもん! きゃあっ、また出た!?」 「ん~……いっぱいだねぇ~?」 「お、お化けじゃないですよ!? えっ、シンシアさん、今肩を触りましたか!?」 「ううん、触ってないよ?」 「う、嘘!?」 ――現場は混乱していた! ざわつく胸にそわそわとしながら眼に涙をためたフィティが「こういう時の共感能力って……」と肩を竦める。 シーヴが手にしたねじ巻き時計を見詰めたリリィは優しく笑顔を浮かべて見せる。 この時計は神秘の産物。アーティファクトならば、意思があるかもしれないと、そう感じて。 「みんなを呼んでたのは、キミ? 色んなおばけたちにびっくりしたけど……此処は広くって、寂しいね?」 答えが無いかもしれないとリリィは一人感じながらもゆっくりとねじを巻く。 「ねぇ、寂しいなら、ボク達と一緒に過ごしてみる?」 彼女の言葉にゆっくりとその盤上を煌めかせた時計はゆっくりと秒針を動かした。 一方でお化けに追われていた四人にも降りかかる災難がぴたりと止まる。それもこれも、アーティファクトを無事に保護したからだろう。 「あ、皆、ここにいたんだぁ~」 うん、と頷くリリスにほっと一息吐くエフェメラ。ゆっくりと動き出す時計にルナは瞬いて、その盤上を撫でる。 「持って帰ってあげたいね。ここに誰か来るのを待ってたんだよね?」 「ふふ、みっしょんこんぷりーとっ、いぇーい! お加減いかがですかー?」 にこにこと笑うシーヴに時計は答えずにカチコチと秒針を動かし続ける。 静まった洋館をゆっくりと歩くフュリエの姉妹たち。最後列を行きながらシィンとフィティは気疲れからくる溜め息を吐いた。 「中々楽しかったですねぇ。もう一度は遠慮しますけど」 「うん、そうだね……楽しかったけど……」 二人揃って曖昧な笑みを浮かべるものの、シィンが眉を寄せて振り返る。 「ん? フィティさん、今、髪を引っ張りましたか?」 「え? ううん、っと……シィンさんこそ……」 「ははは、いやいや、私は何もしてませんよ?」 「私も、何も……」 笑顔を張り付けたまま顔を見合わせた二人。ギギギと音が立ちそうな程ゆっくりと背後を見詰め―― 「「……え?」」 余談だが、アークに帰った後にシンシアがとった行動をここに記しておこう。 お仕事が終わったと報告に来たフュリエ達を迎えたフォーチュナに彼女は戦利品だとDVDを差し出した。後ろ手で閉じられた扉。鍵の掛けられたブリーフィングルームでフォーチュナを捕縛。『探索映像(ホラーver:上手に編集しました)』をセット。 「一緒に見ようね? ちゃんと見てないとエンドレスで映像流すよ?」 ……なんて、微笑んだのでした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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