●ブリーフィングルーム 「奇想天外奇奇怪怪、奇妙奇天烈摩訶不思議なアザーバイドのお出ましだ」 果たして何回『奇』という漢字が含まれていたのかは一聴した限りではよく分からなかったが、ともあれ『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は滞ることなくまくしたてた。韻を踏んでいるせいか、妙にリズム感がいい。 「見た目はこの世界のクラゲとかなり近似している。違いはサイズ。二メートルほどはありそうだ。そんでこいつがどうも三高平市内の酒屋を荒らし回っているらしい」 資料のページをめくる伸暁の口から被害の程度が発表される。 「朝になると倉庫に置いたビールが綺麗さっぱり無くなってるそうだ」 「ビールだけ?」 「ビールだけ」 集められたリベリスタ同士で顔を見合わせる。 「オーケー、口頭だけじゃ理解不能なのは分かってる。まずはこの映像を見てくれ」 スイッチがポチっとなってスクリーンがバチっとなった。 ●観測地 薄暗い空間を、微かに可視範囲にある半透明の円盤が浮遊していた。 どうやら現場はどこぞの酒屋の倉庫らしく、敷地内の至る所に段ボール箱やコンテナが積まれている。 その段ボールの山に向けて、円盤下部から十数本もの管が一斉に伸ばされた。 円盤だと思われていたものは軟体質の生命体である。管はあたかも手足であるかのように自由自在に動き、封切られた段ボールの中から缶ビールを五、六本纏めて拾い上げた。 缶に巻きつけた強靭な管群とは異なる細い管が伸び、その先から溶解液が射出され、アルミ素材は見る見るうちに侵食され缶側面に大穴が穿たれる。 更にまたまた別の短い管が幾つか垂れていき、開いた穴から中身を吸い上げ始める。 どうやら管には三種類あり、それぞれ機能が違っているらしい。ずば抜けて太くしなやかに動く管は手足、細い注射針に似た管は毒腺、最小限の長さしかない管は口及び消化器官といったところか。 吸収したビールの影響か、無色透明だったクラゲ型生物の体が仄かに黄金色に染まる。恐らくは、肉体の大部分が水分で構成されているのだろう。 そして不規則に左右に揺れる。 まあなんというか。 噛み砕いて述べると。 酔って気分が良くなっているような感じだった。 缶ビールを全て空にすると、今度は瓶の容器が入ったコンテナへと向かう。ガラス瓶も同様に溶かされていき、一気に異形の養分となってしまった。 で、酔いが深まったのか今度はくるくる回りだした。管がメリーゴーランドのように揺らめく。不気味な外見の割には動きがどことなくユーモラスである。 気付けば全身を占める黄金色の割合が濃くなっていた。 そして――驚くべき現象が起きた。 軟体生物は小刻みに震え、ぷちん、ぷちんと弾けるような音と共に。 別個の生命体が数匹産出されたのである。 容貌は分裂元とほぼ同じだが、随分と小さい。このサイズだと可愛らしくすら思える。 彼らはまるで衛星のように親玉の周囲をふよふよと飛び回り、秘密の酒宴に彩を添えていた。 酒泥棒の悪事は、倉庫内にある全てのビールケースが空くまで続いた。 至福の舞を踊りながら。 ●再びブリーフィングルーム 「見ての通りだ。中々ファンキーな敵だろう?」 口頭説明が再開された。 「生命活動の維持に大量の水分が必要なようだが、この世界にやってきて、どうやらビールの味を気に入ってしまったらしくてな。それだけを取り込んでるみたいだ」 なんとも贅沢な――もとい奇妙な習性である。 「それで、敵さんの戦闘力に関してだが、耐久面は相当のもんだな。骨が折れそうだぜ。攻撃の面では感知映像から何となく察しがつくとは思うが、例のチューブの数々を使ってくると予測されてる」 おまけにだ、と青年フォーチュナは続ける。 「ビールを吸収して余った水分は、別個体となって切り離される。さっきの映像の中にもあったろ? あれあれ。小さい奴。こいつらも一緒になって掛かってくるだろうよ」 もっとも、吸収用の管が無い分裂個体は夜明けまでに乾いて消滅してしまうらしく、それらによる二次被害が起きる危険性は現状想定されていないそうだが。 「要は大物だけ叩けばオールグリーンだ。とはいえ、正攻法で倒せるかは精々五分の賭けになる」 言いながら、伸暁はゴソゴソとテーブル下のビニール袋を漁る。 取り出したのは、缶ビールだった。表面にぽつぽつと水滴が付着している。まだ冷えている。うまそう。 「当然、勤務中に飲酒だとかそういう不真面目なアレじゃないぜ。確かにビールを摂取すると小さい連中がどんどん出てくるが、その代わり本体は酔っ払って弱くなるようなんでな。弱体化させたければ、こいつを持っていって、あえて飲ませればいい。ま、逆転の発想ってやつだ」 缶を手の中で弄いながら語る伸暁。 「つっても、その分小型アザーバイドの対処がしんどくなるのも事実だ。雑魚を増やしてボスを弱くするか、雑魚を避けて万全のボスに集中するか、或いは間を取るか、よく状況を見極めて判断してくれ」 伝達事項は以上らしい。 早速行動に移り、役目を終えたブリーフィングルームから退室していくリベリスタ達。その頼もしい背中を見送りながら、伸暁は不吉な笑みを浮かべてポツリと漏らす。 「しかしまあ、ビールを嗜好してくれてて良かったぜ。下手したら、七割が水分で出来てる人間を吸い殺して回ってた可能性だってあるんだからな――」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:深鷹 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月11日(月)22:29 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●乾杯 酒缶、酒瓶、酒樽がずらりと並ぶ倉庫内。 リベリスタ達が到着した時間帯は、陽が落ちて大分気温が下がったはずの夜ではあるが、密閉されたその空間は何とも蒸し暑い。じっとりと汗が浮いてくるのがよく分かる。 「暑い……こんな日はビールだな。無料酒万歳!」 事前に支給された缶ビールをごそごそと幻想纏いから取り出し、景気付けに駆けつけの一杯を空ける剣城 豊洋(BNE004985)。幻想纏いに収納していた分冷えを維持しており、キレ、喉越し、共に申し分ない。 「いやー、やる気ってやつが出ますね」 「いいねぇ、存分に飲もーじゃねーか」 にかっと歯を見せて笑う緋塚・陽子(BNE003359)も同様に一本飲み干す。ホップの苦味の裏に、麦芽の芳醇な甘味が仄かに感じられる。この癖になる味わいが堪らない。 「いやまあ、うん。作戦中に飲むのは程々にな?」 頭を掻く『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)が見据える先にいるのは、だらんと数十本の管を垂れ下がらせた、クラゲに酷似したアザーバイド『酔いドレイン』。構成物質の大半が水なだけあって、半透明で涼しげな容貌をしている。中空辺りをふわふわ漂い、今のところはこちらに敵意を向ける様子はない。 「んじゃ、酒飲みによる酔っ払い退治と行きますか」 空になった缶を床に置き、眼差しを強めた陽子が漆黒の『直死の大鎌』に持ち替える。 「あ、皆さん空き缶はリサイクル致しますよー」 すかさず『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)が黒猫の尻尾を振りながらの回収作業。用意しておいたビニール袋にアルミ缶を放り込み、倉庫内部を清潔に保つ。 「それにしても、お酒を飲むアザーバイドなんているんですね」 不思議そうに此度の討伐対象を観察する櫻子。相手もまた、こちらの動向を窺っている――というよりも、見方によっては、缶ビールを飲むリベリスタ達を羨ましがっているようにも思えた。 声や表情などは無いのだが、仕草がどことなくコミカルだ。 「害がなければそのままでも良かったんだろうが。このまま長居されれば、世の酒屋にも世界そのものにもよろしくない」 奇怪な部分と面白みのある部分が同居したアザーバイド。しかし、上位階層に当たる別次元から現れている以上、ボトム・チャンネルに悪影響を及ぼす危険性を内在していることは、紛れもなく事実である。ゆえに、『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は警戒を緩めない。 「うむ。ビール好きとはいい趣味をしているが、人間が飲む分が無くなっても困るからな」 義弘は幻想的な光を封じた英霊のオーラを纏い、缶ビール片手に前に出て。 「せめてもの手向けだ。奢ってやろう」 勢いよく投げつけた。 ●夜会 缶が命中したアザーバイドは暫し呆気に取られていたが、すぐに投じられたそれを拾い上げると、一心不乱にアルミ素材を溶かして中身を吸引し始めた。 「皆様のお背中に小さき翼を……」 後衛に布陣した櫻子が神秘の翼を自軍全員に授け、臨戦態勢を整える。 「本当は全部飲みたいところなんだけど、な!」 僅かに色づき、ほろ酔い気分で不規則に揺れるアザーバイドに向けて、サポート担当の『Steam dynamo Ⅸ』シルキィ・スチーマー(BNE001706)を筆頭に、どんどんビールのロング缶を投げていく。 酔えば酔うほど強くなる、といった流派は稀に聞くこともあるが、このアザーバイドに関してはその逆、酔いが進むと弱くなる特性を備えている。対峙するリベリスタからすれば、その特徴を活かさない手はない。 「こんなに暑い時は、冷たいヤツをドレインしたいよな! 分かる分かる、よーく分かるぜ」 うんうん頷く。発電機構を持つメタルフレームであるシルキィはまた、光源としての役割も果たしていた。十分に明るい視野が確保されたおかげで、他の面々も缶の狙いを定めやすい。 義弘が手持ちの缶ビールを立て続けに放り投げれば。 射手の神から加護を受けた櫻霞は五本纏めて投擲し、酔いと水分過剰の進行を進めにいく。 「乾杯と行こうぜ! オラッ! まさか私の酒が飲めないってわけないっすよね?」 絡みづらい上司のような台詞を述べつつ、アークリベリオンらしく果敢に前衛に立つ豊洋は、両手に抱えたプルタブ開封済みの缶の片方を差し出す。お互いに酔いが回っているためか、無言の了解が通じる不可思議な関係性が生まれていて、アザーバイドも危ぶむことなくそれを伸ばした管で受け取る。 「私もお酒大好きだし、勿体ない気持ちはあるけど……一本だけキープ!」 名残惜しそうに小島 ヒロ子(BNE004871)は缶ビールを三本投げつけた。自分も戦闘中に飲んでリフレッシュしたいという気持ちはあったが、これから葬り去らなければならない相手と意思が通じてしまうのは、どことなく嫌で――怖かった。ただでさえ、夜中にこっそり酒を飲むアザーバイドの姿が、一人晩酌に耽る自分と重なって、感情移入してしまいかねないというのに。 宙に浮かんだアザーバイドはすっかり大麦色に染まり、上機嫌である。 「やー酒は良いよね、オレとしてはお前と仲良くなりたいんだけどなー」 自らも缶ビールを飲みながら、『ティンダロス』ルヴィア・マグノリア・リーリフローラ(BNE002446)は暗視ゴーグル越しにその光景を眺めていた。本音を言うと、いくら別次元出身の異形相手とはいえ、大酒飲みの彼女からしてみれば、親近感じみた想いも湧いている。 「同じ酒飲みとしては無事に帰してやりてぇんだが。それが望めないなら仕方ない、討伐するっきゃないわな」 徐々に、余った水分から小型の個体が生産され始める。 一体、二体、三体――その数は最終的に、二桁にも上った。 「頃合いか」 直感し、缶を投げる手を止める義弘。増殖した『ちびドレイン』の処理は味方に任せ―― 限界まで接近。 上段から、神気の流れる鉄鎚を盛大に振り下ろした。十字に穿たれた打痕が、その威力を物語る。 「頑丈な奴だ。弱らせてこれとはな」 だが、一撃だけでは打ちのめすには足りない。攻撃を受けたアザーバイドも、ようやく自身に敵愾心が向けられていることを悟ったのか、だらしなく垂らしていただけだった各種管を、あたかも独立した生物であるかのように縦横無尽に動かし出す。 沸々と湧き出た小型アザーバイドも、親玉の怒気に乗じて攻勢を開始。 「やれやれ、一体どういう構造をしてるんだ? 中々に愉快なアザーバイドだが、悪く思うな」 呆れとも畏怖とも付かない妙な感覚を抱きながらも、櫻霞は二丁の拳銃を構える。コンテナが置かれた狭い足場を、櫻子から授けられた翼で低空を飛ぶことでリスク回避、満足な銃撃姿勢を取ると、『ハニーコムガトリング』による鉛弾の吹雪を舞わせる。 間断なく撃ち込まれる銃弾は、本体同様ほとんどが水分で形作られた雑魚を次々に爆ぜさせていった。 「うひひひひ、いい具合にアルコールが回ったところで仕事といこーかねぇ」 冷えた缶ビールを一本掴み、餞別代わりにアザーバイドに与えるルヴィア。その合間に、狼の動体視力が少しずつ高められていく。 「んんー? ちょっと多いな。まあいいや、まとめて燃やしちまえ」 右手に掲げた狙撃特化ライフル『ルルハリル』の銃口から、炎の秘術を籠めた弾丸が放たれた。 更に、連発。着弾と同時に顕現した焼尽の火が、数体の小型アザーバイドを蒸発させ、消し飛ばす。 無論、『酔いドレイン』本体ごと巻き込んだはずなのだが――やはりまだ致死量には不足している。 一転して攻撃の構えを取るアザーバイドの群れ。未だ過剰分を出し切っていないのか、減らしたはずの個体数が元の水準にまで戻っていた。どうやら倉庫内のビール瓶を何本か飲み干していたらしい。 小さなクラゲが鞭のように管をしならせ、肩口や脚部に叩きつける。然程大きな痛みではないが、看過して良いレベルでもない。 その交戦に紛れるように忍び寄ってきた別の小型アザーバイドは、徐にリベリスタ達に貼りつくと、細い管を刺して溶解液を注入。脆弱化を招く毒を喰らわせる。 「痛みを癒し……その枷を外しましょう……」 即座に櫻子が治癒の術式を唱える。暖かみを帯びた光が一帯を包む。 完璧に制御された魔力がもたらす回復量は莫大である。 「しゃんとしな! まだまだこれからだぜ!」 治し切れなかった悪性の毒は、シルキィが快活な掛け声を添えて邪気払いの『ブレイクイービル』で解除。 増えたアザーバイドへの対応は。 「わ、ちびだらけ」 壁際に積まれたダンボールの山を物ともせず、面接着で側壁に張り付いて活動していたヒロ子が発見した電源スイッチを入れると、照らされた倉庫中に、小型生命体があちこち浮遊しているのが良く見えた。 シルキィの発光が届かない位置にまで潜り込んでいることを確認すると。 「行っくよー!」 連射に次ぐ連射、敵を蜂の巣に変える『ハニーコムガトリング』で一掃。 加えて、流れ弾を本体にも命中させ地道にダメージを稼ぐ。 かろうじて戦線を立て直した――のも束の間、今度はボス格のアザーバイドから、太く長大な管が直線軌道で伸ばされる! しかしながらその矛先は後衛で行動を行ったルヴィア達ではなく、前衛の陽子へと向けられた。酩酊しているためか、長物を扱う際の照準が出鱈目になっているようだ。 「おお痛ぇ。追加で一本飲んで回復しないとやってられないな、こりゃ」 陽子当人はといえば気にするふうもなく、むしろ好都合とばかりにビールの缶を新しく開けていた。 「何とか俺に惹きつけられれば良いのだが」 今回のメンバー中最大の防御性能を誇る義弘が、盾になるべく、試行錯誤しながら位置取りする。 ただ、雑魚が出す毒には耐えられたが、大物相手ではそうもいかないだろう。前もって伝えられた情報によれば――管のサイズを比べただけで一目瞭然だが――大型アザーバイドの毒腺は、恐らくは『聖骸闘衣』を突き破ってくる。その点が懸念といえば懸念だ。 「大丈夫。あたいが支えるから、安心して殴って来いな!」 シルキィが激励する。仲間が全力で戦えるようにすることこそが、戦場における彼女の美意識。最前線に立っての防護とは形こそ違えど、根差しているものは同じ、自己犠牲の精神といえる。 「本体を潰さないときついな……もう少し弱らせたほうがいいですかね?」 缶ビールを何本か用意しながら豊洋が訊く。 「んー、そだね。出方を見ながら……慎重に……いや、別にあたしが飲む分が減るからじゃなくてな?」 視線を逸らす。 「まあ、同感しますよ。私もこっそり、自分用に一本は確保してますからね」 何かの弾みで接触時に飲まれてしまわないよう、遠くの物陰に隠していることを思い返す豊洋。 「あれを飲むまで倒れる訳にはいかないってもんです」 ●ラストオーダー リベリスタ達の怪奇駆除は持久戦となった。 弱体化して尚、軟体アザーバイドの衝撃を受け止める能力は高く、消化管を用いた吸収技まで備えているため、ひたすらに硬い。更には際限無く湧く雑魚の始末にも追われ、中々決定機が訪れない。 「ふむ、流石にタフという予見は伊達ではないか……」 小物を殲滅し続ける櫻霞がうんざりした口ぶりで呟く。 もっとも、リベリスタ側もこれといった被害は受けていない。傷ついた肉体を癒すことに長けた櫻子と、精神力の疲弊をカバーするシルキィの貢献は非常に大きく、憂慮無く戦えていた。 一方の敵サイドはといえば、技を繰り出す都度余力が失われ、消耗が拭えないでいた。攻め手は次第に生み出した小型アザーバイド任せになり始める。 つまり、膠着しているように見えて、確実に状況は有利に傾いていっている。 「これ以上増やさせるか!」 水分を補給すべく角付近のビールケースへと降り立ったアザーバイド目掛けて、全速力で豊洋が突進。激しい衝撃で体勢を崩す。 瞬間的な加速が可能にした強烈な一撃は、そのまま標的を倉庫中央まで弾き飛ばした。 チャンスとばかりに櫻霞、ルヴィア、ヒロ子が各々の得物を構えて照準を絞る。 櫻霞は天体の神秘を宿した煌くような実弾狙撃を―― ルヴィアは素早くステップを踏みながらの光弾を―― そしてヒロ子は、神経を研ぎ澄ませた必殺の精密射撃を。 「酔って幸せな夢を見たまま、あの世に送ったげる」 一斉に、三人のスターサジタリーは思い思いの銃弾を放った。穿ち、貫き、破壊する。傷口は自然治癒作用により塞がれたが、負わせたダメージは、これまで蓄積させていた分も含め、相当な量に至っている。 「へへ、ヒットマンにゃ最高の肴だぜ」 自分でも満足のいくショットに、ぐびりとルヴィアが一杯煽る。 「おいおい、情けない格好じゃねぇか。一緒に飲もうぜブラザー」 よろめくアザーバイドに対して、悪い大人の挑発的な目線を送り、ビールを一缶だけ飲ませる陽子。彼女自身かなり飲酒しており、足元がふらついている。 「別に増えようが関係ないんだよなー。今だって、あんたが二体にも三体にも見えてるんだしさ」 だからこそ。 「滅茶苦茶にやらせてもらうぜ」 鎌を担ぎ上げ、殺戮の舞踏『ダンシングリッパー』を踊る。 命中の低下は関係ない。大当たりさえ引けば、少々の問題はチャラに出来る。 そして彼女は、いつだってそうして苦難を潜り抜けてきた。それが博打師の生き方だから。 一刀両断。 陽子が力任せに大きく薙ぎ払った刃は、二メートルにも及ぶアザーバイドの体を真っ二つに切り裂いた。 その返り血は。 蕩けるような匂いがした。 生温かい血潮の代わりに、アルコールの香りが沁みた水が噴き上がっている。 死に際には惜しい程の、華やかな芳香。こんな最期を看取るのも、不思議な気分だが、悪くはない。 「あばよ、酔いどれ」 異生物の死骸は、数分も経たないうちに跡形も無く消えてしまった。ほぼ全身が水分で構成されていたがゆえに、形を保てなくなった瞬間に、少しずつ蒸発していったらしい。 「酒屋の倉庫を今も漂ってるのかしらね」 だとしたら、せめてもの救いだろう。今後は品質・状態を管理する倉庫内の空気となって、永遠に大好きなビールに携われるのだから、きっと成仏してくれるに違いない。 献杯の缶ビールを開けて冥福を祈るヒロ子の胸に、ふとそんな考えが去来した。 「ふー、いい汗かいた! ビールが美味いぜ!」 ごくごくと喉を鳴らして嚥下する音。 「ふいー! ハッハァ! いい気分になってきたぜ。服でも脱ぎ散らかしたいところだな。あっ、最初から着てなかったぜ! ハハハ!」 半裸どころか四分の三裸のシルキィが嘯く。感情の度合いを示すメーターの針は、その土台となっている胸の膨らみ共々、完全に最高値を振り切っていた。 「まさか本当に仕事終わりにビールを消費することになるとは」 櫻子から缶ビールを受け取った櫻霞が、渇いた喉を潤わせながらぽつりと漏らす。櫻子はそんな彼のくたびれた様子を、飲む気のない自らの分のビールを皆に配りつつ、くすくす笑って見つめていた。 「お疲れ様でした、お仕事後のお酒はきっと美味しいですね♪ あ、空き缶は此方にどうぞ♪」 回収用のゴミ袋の準備も忘れない。 「隠してたビール、すっかりぬるくなってましたよ」 一口付けた豊洋が苦笑する。前線で適宜ビールを供給していたので、これが最後の一本だった。 「いやあ、飲んだ飲んだ。やっぱり酒はいいもんだねぇ」 改めて酒の素晴らしさを噛み締めるルヴィアは、とっくに渡されていた缶の全部を空にしていた。 「缶ビールくらいじゃ飲み足りない奴も多いだろ。どこかでのんびりやるとしようぜ」 「いいねぇ、飲み直しだ。オレも行くぜ。他にも参加したい奴は来なよ、二次会のノリで飲もうぜ」 義弘の提案にルヴィアが喜んで賛同する。ちょうど彼女もそんな気分だった。 「その後は、行きつけのバーで一人飲みと洒落込もっかなぁ」 戦闘後に一缶飲んだだけで、全然酔いの加減が物足りないヒロ子は、更に先の予定まで立てる。 受理した仕事は片付いた。 けれど大人の時間は、まだまだ終わらない。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|