●くるくる 世界は綺麗に朽ち果てる。 空はぐるぐると不安定に回り、鳥の囀りからして、まるで周りを凄まじい速度で回転しているように聞こえる。 いつからこんなにも目まぐるしくなったのだろう。 しかして疑問に答えは与えられず、回り続ける世界の中で、日常は一つも変わらない。 そのうち、やがて、いつか。 世界は落ちて、堕ちて、墜ちて――。 そして、ぼくらの世界は砕け散った。 ●硝子玉の世界 それはひょっとしたら、とても薄い硝子片の膜だけが生きた硝子玉のようなものかもしれない。 シャボン玉よりは強いけれど、似たり寄ったりのびいどろに似た世界。 いつの間にか誰かの手のひらから転がり落ちて、そのまま誰にも気付かれずに、終わってしまう小さな未来。 じゃれ付く爪先がぽんと弾いてしまうまで。 古びたテーブルの上から転がり落ちて、何も知らずに誰にも知られずに砕けてしまうまで。 小さな猫の前足の下で、何も知らない世界は今日も、今も、その時まで。 ――ごく幸せに、回り続ける。 そうして、やがて。 砕け散った小さな硝子玉を見て残念そうな、悲しげな猫の声。 ●おちる世界 それは小さな“世界そのもの”なのだと、白衣のフォーチュナはそう告げた。 「しかして“世界そのもの”が、一つのアザーバイドとして成立している」 その世界はきっと、“沢山の『小さな世界』を内包している”のだ。 世界の中に満ち溢れた『小さな世界』は、それぞれが一つ一つの存在として成り立っている。 それでいながら『小さな世界』は確かに一つの世界でもあって、その中には沢山の人々が生活している。 「何を言っているのか分からないかい? 安心してくれ、私にも何が何だかさっぱりだ」 嘆息交じりに声高らかに、そんな言葉を口にした『直情型好奇心』伊柄木・リオ・五月女(nBNE000273)は手にした資料をテーブルの上に置いた。 「少なくとも一つ言えるのは、その『世界』がディメンション・ホールを通り抜けてやってきた挙句、落ちるべき時ではない時に落ちてしまうこと」 そうして落下した『世界』は、大切に内包する人々ごと、呆気なく崩壊してしまうこと。 「ホールに押し込む必要はない。時間が来たらその『世界』は勝手に、戻るべき場所に戻っていく。だから諸君に頼みたいのは、『世界』が自然に、“落ちるべき時に落ちる”時まで守ってやってほしいということだ」 落ちるべきでない場所に落ちてしまった『世界』の在処は、猫の屯う彼らの『世界』。 そうしてその中の一匹が、『世界』を『世界』と知らないまま、ビー玉のような異界のちっぽけで巨大な全てを、しなやかな前足で弄んでいること。 弄ばれた『世界』が落ちるべきではない時に転がり落ちて、そのまま硝子玉のように砕けてしまうこと――。 「ああそうだ。意思の疎通を試みることは、今回はお勧めしない」 その場合、反応するのが『世界』の方なのか『世界の住人達』の方なのか、或いはその両方なのか分からないからねと五月女は肩を竦める。 曖昧な説明を終えたフォーチュナは、いつものように、集うリベリスタ達へよろしく頼むと頭を下げたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:猫弥七 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月14日(木)22:16 |
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■メイン参加者 5人■ | |||||
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● うなぁう、と、廃材の山となるごみ山の中、甘ったれた鳴き声が上がる。 「ほーらノミ取りの毛づくろいしてあげるー♪」 積み重なる雑多なごみの上で寛ぐ猫達の薄汚れた毛皮を猫用の櫛で梳くと、並ぶ歯の下で心地好さそうに身をくねらせた。その反応に気を良くして、ころんと引っ繰り返る野良猫の、柔らかな腹の部分にも手加減を加えてやんわりとした動きで歯を押し当てていく。 「さあ、お姉さんと一緒に遊ぼうねー」 櫛が興味深いのか、それとも気持良さそうな仲間が興味深いのか。 もとから随分人慣れしているらしい野良猫達が、わらわら『不幸のデパート』シヅキ・ユノ・ユーナ(BNE004342)の周りに集まってきた。 「あ、順番。順番だよ?」 丸めた前足でちょんちょんと櫛を突いてくる野良を一匹牽制しながら、膝の上に這い上ろうとする子猫の鼻先も突っついた。 「こんばんは、……ボクたちは君たちの邪魔をしに来たわけじゃないぞ」 破れたソファの上にでろんと腹を見せて横たわる猫に近付いて、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が一言添えておく。 急に現れた何人もの客達にどんな気分でいるものかは分からないが、少なくとも殆どの猫は警戒心を持っていないらしい。 彼女の背に生える一対の翼の動きをじいっと見詰める野良猫に、少女が指で小さな形を作ってみせる。 「こんな、小さなガラス玉をみなかったかな?」 うなぁ、と呑気な返事が返ってきた。 知らないと答えた野良猫に、そうか、と頷いた雷音だったが、猫の視線の先をちらりと見てから一歩下がった。 「ぼ、ボクは玩具でもごはんでもないのだぞ?」 不穏にゆーらゆらと揺れる尻尾を警戒してか、雷音の白い翼がはたりとはためく。 「そっちはどう――」 猫の視線から逃れて同じように探し物の最中の仲間達を振り返ったところで、少女は言葉の半ばで疑問符を消した。 野良猫達の前にしゃがみ込んだシーヴ・ビルト(BNE004713)が、何かを手元に隠しながら古タイヤの主に話しかけている。 「不思議なビー玉のこと、知らないですかにゃー?」 タイヤの上にどっしり寝転んだ貫禄のある、或いは身も蓋もない言い方をすれば随分幅も厚みもある黒猫が、低い声でごろごろと鳴く。尻尾をぱったんと揺らしてそっぽを向く様子に、シーヴが手の中に隠していた秘密兵器を取り出した。 「むむ、只でダメならこの猫缶をっ」 ぴくん、と黒猫が尻尾を跳ねさせる。 「美味しそうな匂いっ、私もちょっと食べちゃだめかなー」 プルタブを引いて缶を開け始めた途端、魚の香ばしい匂いがシーヴを中心に立ち上った。 タイヤの上の黒猫がのっそりと身体を起こすのにも気付かずに、食欲をそそる香りに少女が表情を蕩けさせる。猫缶に食欲をそそられるというのも、人として多少、如何なものか。 「って猫さんにあげる分だから我慢っ!」 誘惑に駆られそうになりながら全開にした缶を両手で持ち、黒猫の前に差し出した。 「今なら猫缶Premiumをつけちゃう……って、きゃー、とってかないでー!」 ひょいぱくっと缶の縁を噛んだ猫が、缶ごと咥えたまますたたた、とタイヤを下りて何処かに持って行こうとする。 慌てて声を掛けながらも、足場の悪いこの場所での軍配は、やはり猫達の方に上がってしまった。 「うーうー、猫まっしぐらで美味しいから仕方ないけどっ」 追い掛け損ねて可愛らしい唸り声を上げる彼女を後目に、猫缶に群がる猫達がにゃーにゃーと宴会模様を見せていた。 ● カリカリやウェットフードが美味しそうな匂いを立てる中、猫達の視線が一点に集中していた。 空気を含んで膨らませたビニール袋が、風を受けてクシャ、と大きさに反して騒々しい音を立てる。猫達の耳が一斉に傍だった。 がさっ。ぴくっ。――がさささっ、ぴくぴくっ! まるでそれがお決まりのように、ビニールが音を立てる度に周囲の猫達が同時に反応する。 そんな様子を満足げに見下ろして、『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)は不意に袋から手を離した。ゆらゆらと揺れ落ちていきながら、そよ風に煽られて不規則に浮かぶ上がるビニール袋に……猫達が一斉に群がっていく。 「猫といえばやっぱ、何か“入る”系のモノだよな」 ぎななう、みゃあみゃあ、これでもかと大騒ぎする猫達を満足げに見やってしゃがみ込んだプレインフェザーが、足元に置いていたキャットフードを手に取った。此方にも群がるかと思いきや、どうやら猫達にとっては袋の方が魅惑的だったらしい。 新たなビニールや紙袋を野良猫達にプレゼントして、これも用意しておいた段ボールの中、居心地良さそうに寛ぐ猫を上から覗き込む。 試しにカリカリのキャットフードを少し手の上に零して差し出してみると、箱から出ようとはしないものの、実に幸せそうに目を細めて齧り始めた。 「あたし、猫の言葉は分かんないけど……コレって、楽しい顔なのかな」 餌の匂いに気付いたのか、ねだるように擦り寄ってきた他の野良猫の前にも餌を出してやりながら手を伸ばす。 狭い額や柔らかな腹を撫でながら、彼女は静かに微笑んだ。手の中から聞こえるゴロゴロという音が、非常に満足げな響きである。 そんな少女達の間で一人、真剣に猫の機嫌を取る男が一人。 『チープクォート』ジェイド・I・キタムラ(BNE000838)自身その場違いな自覚に奇妙さを感じない訳ではないが、しかし。 「……まあ、たまにはこんな仕事があっても良いんじゃねえかな」 切った張ったといった乱暴な手段は得意でもなく、気楽さの方が幾らか好ましいというところだろう。 「しっかし……本当は、このゴミ山を作った輩を突き止めてやりてえが仕事の範疇じゃねえ」 そういうのは役所がやる事だ、と呟きを続けながら、見回す不法投棄のごみ山にジェイドは顔を顰める。好き勝手に捨てられたごみは今でこそ猫の遊び場になっているようだったが、それで事実が帳消しになる訳でもない。 探偵業を営む彼には及ばぬ範疇ではあるが、苛立ちを噛み締めるのもまた仕様のないことだ。 さりとても、それが全ての面で悪質かといえば、物は見方によるというところだろう。 「キャットタワーみたいな物なら作れるんじゃねえかな……」 古タイヤや廃材、鉄板やパイプに触れて丈夫さを確かめながら、不意にそんな言葉が漏れる。いそいそと取り出された工具箱が、廃棄品相手に役目を担うこととなったようだ。 そのすぐ傍では、煮干しの袋を抱えたユーナが一匹の野良猫と睨みあっていた。 なまじっか動物会話が間を取り持った所為で、互いの間に要らぬ負けん気を起こしてしまったようだ。 「そ、そんなに睨んでも怖くないわ……!」 ユーナが手にした煮干しの袋を握り締めると、がさがさと袋が音を立てた。それがまた猫達を興奮させるのか、数匹がぴんと尻尾を伸ばして少女の手元に狙いを定めている。 タイマンなら取っ組み合う根性くらいは持っている彼女だが、流石に目の前の猫が複数になると怯んでしまう。 加えて解せないのは、餌の匂いに惹かれたのか何処からともなくどんどん猫が集まってきていることだ。餌を与えているのはユーナだけではないのだが、少女の反応自体が猫達の興味をそそっているのかもしれない。 「で、でもここで引くわけにはいかないのよ、くるならきなさい!」 そう宣言したまでは良かったが、何しろユーナは小柄だった。勢いの付いた猫達を押し留めるには、些か不向きな体格だった。 数匹の猫が一斉に煮干しの袋に飛び付いて、バランスを崩した身体がたたらを踏んだ、その瞬間。 「きゃーっ!?」 積み重なったごみの一角を踏み抜いて、小柄な身体がころころと転がり落ちていく。のみならず、転がった身体がそのまま別のごみ山にぶつかって、上からぼろい網の塊がずざーっと滑り落ちてきた。 「ユーナさんを助けなきゃって、きゃー、私も襲わないでー!」 少女の元に駆け寄ろうとしたシーヴの髪を玩具とでも思ったのか、艶やかに揺れる髪の束を目掛けて数匹の野良猫が飛び跳ね、彼女の身体に飛び付いた。 「だ、大丈夫か……!?」 地面に引っ繰り返った二人に気付いて、雷音が抱えていた猫を下ろして慌てて二人に駆け寄る。 「こいつは酷いな。あぁ、あまり暴れると髪に絡まるぞ」 「プレインフェザーさん……」 騒ぎに気付いてひょこりと顔を覗かせたプレインフェザーが手を伸ばし、ユーナのリボンに絡まった網を外してやる。そんな救いの手を受けながら、ユーナは無念そうに「やられました」と敗北を宣言した。 手足に絡まる網と格闘したり、飛びかかってくる猫に慌てる少女達を後目に。最初にユーナと睨みあっていた猫達の方は煮干しの袋に顔を突っ込み、のんびり小魚を噛み締めながら少女達を眺めていた。 一方廃材のキャットタワー作りに精を出すジェイドの周りには、何やら面白そうなものを作っている予感でもしたのだろうか。 数匹の猫達が興味津々で、出来上がっていくタワーに彼の手元を覗き込んでいたのだった。 ● 「――あ……」 猫達をじゃらしながら話し掛けていた雷音が、他の猫から話を聞いて一匹の猫に行き当たった。 ドラム缶の上に寝そべり、柔らかな肉球の下で硝子玉が擦れ、がらがらと奇妙な音を立てている。 「えっと、そのビー玉とこの玩具と御飯と交換はしてくれないかな? そのビー玉は大切なものなんだ」 前足の下で硝子玉を転がす猫の前に身を屈め、視線を合わせながら雷音がビー玉を取り出した。 「不躾な願いだとは重々承知だが、よければ、お願いしたい」 万象通ず言葉で話しかけながら差し出されたビー玉と、前足の下の硝子玉とを見比べた猫が、ほんの少し首を捻った。 やがてそうっと前足が浮かべられ、“世界”がドラム缶の縁目掛けてころころと転がり出す。慌ててそれを抑えて止めた雷音が、“世界”とは違う煌びやかな様子のビー玉を差し出した。それをすぐに前足の下に閉じ込めて、ぺろりと舐める猫を撫でる。 「有難う」 雷音の言葉に答えるように、うなぁう、と猫は鳴いた。 「わー、これが小さな世界さんっ。こんにちはーっ」 硝子玉にしか見えない“世界”を覗き込んだシーヴが声を弾ませた。 少女の挨拶は聞こえていないのか、それとも気にすべきものではないというのか、ちっぽけで見辛い世界には何の反応もない。 「ふにゃ? うー、上手く会話できないっ! あうあう、お話ししてみたかったのに」 硝子玉を取り落とさないようにとジェイドの提供した黒い布の中、指で摘まめるほどちっぽけな“世界”が日差しを返して僅かに光を揺らめかせる。 「……この中には、どんな景色があって、どんな歴史があって、どんな人たちが暮らしてるのかな」 硝子玉を覗き込みながら、プレインフェザーが穏やかに呟く。 「名前も知らない言葉も通じないような、知らない国の知らない街を旅するのは、大好き」 いつかこの世界に行ってみたいな、と、旅を好む娘は穏やかに微笑んだ。 強化された彼女の視線にも、そこに暮らす人々の動きは分からない。けれど遥か遠くに見える不可思議な建物や、細かに動いているように見える何かを、緑色の眼差しが追い掛ける。 彼女らが覗き込んでいるのか興味を抱いたのだろう、一匹の猫がごみ山の上に這い上がって、覗き込もうと鼻先を突き出してきた。 「こら、それは玩具じゃないのよ」 猫が硝子玉を取ろうと手を伸ばす前に、ユーナが猫じゃらしを揺らして小さな悪戯者の気を惹き付ける。目の前をちらつく猫じゃらしにあっさり心を奪われたようで、硝子玉から引き離す動きにも気付かず、猫じゃらしの房を前足で叩こうとし始めた。 「君は……?」 硝子玉の世界に魅入ったり猫達の気を惹き付けたり、それぞれ思い思いのことをする中で少し離れたところに立つジェイドへと、雷音が首を巡らせた。 「……例えば、空を見上げた時に、途方も無く大きな目がこちらを覗いていたらどう感じる?」 出来上がったキャットタワーには、既に数匹の猫が飛び付いていた。 廃材で出来た大きな玩具は見栄えが良いとは言い難いが、この地の住人達には魅惑に満ちているらしい。 「そいつが皆に聞こえる声で話しかけてきたらどう思う? ああ、考えたくねえな。神秘ってのはそういうもんだ」 だから俺は、この世界をそっとしておくよ。 そう穏やかに告げながら、ジェイドは段の一つの上で気持良さそうに丸まる猫に手を伸ばす。大きな手に額を擦り付けて、野良猫はぱたんと尻尾をはためかせた。 「あっ、なんだか中で動いてるっ、……気がするっ! うー、よくみえないー」 硝子玉に顔を近付けて覗き込もうとするシーヴに、プレインフェザーが微笑を浮かべる。 「ところで、落ちるべき時に落ちる……ってのは、どんな風になんのかな?」 硝子玉の“世界”を覗き込むシーヴやプレインフェザー、猫達をじゃらすユーナを順番に眺めて、雷音が微笑で口元を綻ばせた。 ジェイドの傍を離れてシーヴ達に近付くと、黒布の上のちっぽけな世界を見下ろし、目元を和ませる。 「幸せな世界になりますように」 小さな声で、そんなささやかにして穏やかな祈りを口にして。少女達の前で硝子玉の世界はきらりと光る。 ● 黒い布地の上に収まる硝子玉のような“世界”が不意に、ころりとその上を転がった。 「あ……!」 咄嗟に手を伸ばしたプレインフェザーの指の間を擦り抜けて、地を目掛けて緩やかに回転し―――― ――地面に叩き付けられる寸前に、霧と化すように霞みがかって、ふわりと消えた。 驚くほど呆気ない消え方に軽く目を瞠っていたプレインフェザーが、微かな苦笑と共に伸ばした手を引っ込める。 「……こういうことだったのか」 落ちる“世界”を見詰めていたのは、リベリスタ達ばかりとは限らない。 きらきらと降ってきた硝子玉を見上げていた猫が数匹、解せない顔をして“世界”の消えた辺りの地面に鼻を寄せて匂いを嗅ぐ。 ふみゃぁう、と疑問ありげな鳴き声を上げた猫を抱き上げて、雷音は表情を綻ばせた。目を細めて猫の顎を擽ってやる。 「行ってしまったのだ」 万象に通ずる言葉を聞いて、益々猫が不思議そうに鳴いた。 その鳴き声には答えずに柔らかな毛が生えそろう喉首を撫で、少女は消えた“世界”の収まっていた黒い布をじっと見る。 「何だか不思議。あたしたちの生きてるこの世界も、同じようにどこかの世界の誰かが覗いていたりして……」 最後まで言葉にせず青い空を見上げながら、帰ったんだよ、とプレインフェザーは言った。その言葉を、響きを理解出来ない猫は、うみゃう、と首を斜めに傾げる。 「……さあて、リベンジだよ!」 煮干しの入っていた袋を改めて取り上げて、ユーナが声を上げた。 がさがさという音と煮干しの匂いで気付いたのか、小柄な少女に猫達がぴくっと耳を立てる。 「ボクも写真を撮ってメールするのだ」 予定を思い出した雷音が、猫達を抱き締めて携帯を取り出した。野良猫に囲まれた写真付きのメールは、いいだろうと自慢げな言葉と共に、彼女が父と呼ぶ男へと送られるのだ。 キャットタワーの一番上に陣取って。 恰幅の良い黒猫は、眼下にそんな賑わいを見回しながら、うなぁう、と低く鳴いたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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