●月の導かれる夜に 悠久に夜空に輝く銀輪――白い月が鈍色の光を強めている。誰もいない林道は暗黒の静けさに満ちていた。あれ程煩かった虫や獣の遠吠えが一切聞こえてこない。 周りの木々たちが一斉に風に煽られてざわめき始めた。 ただならぬ何か良くない禍が起こりそうな気配。 「今宵はいつもより月が昏い。何か良くないことが起きなければいいが」 風宮家当主――風宮怜は微かにその予兆を感じ取っていた。 艶のある長い黒髪に細面の顔をしたまだ若い男。日本人離れした柔和な女性的な顔つきに厚い漆黒のマントを被っていた。怜は只ならぬ胸騒ぎを覚えて灰色の眼を光らせる。 「早く急ぎましょう貴方。家で子供たちが待っていますわ」 傍らで心配そうに深月が夫である怜を見つめた。厳かな巫女服を纒った彼女は清廉とした佇まいを醸し出している。古くから神事を司る古社の出である深月もまた夫と同じように大きな神秘の力を備えていた。いつもは冷静な夫の異変に気がついて彼女は心配になる。 風宮怜達はあるエリューション事件を解決するために遠征した帰りだった。欧州の有力な魔術家の血を引く風宮怜もまた優秀な魔術師だった。この頃増えてきているエリューションを伴った事件を解決するために要請を受けて遠征に出かけることが多くなっていた。 深月はこの頃留守がちな家のことが気になっていた。家政婦がいるため、食事などの心配はないがそれでも残してきたまだ小さい娘二人のことは心配だった。 とくにまだ下の娘の方はかなり幼かった。まだ両親にべったりして甘えている年頃なので、どうしているか気になっていた。深月は早く家に帰るよう夫の袖をとって促す。 「きゃああああっ、誰か、誰か、助けてお願い!!」 その時だった。林の奥の道から誰か幼い女の子の叫び声がした。 怜と深月は互いに顔を見合わせるとすぐに悲鳴のあったところへ向かう。そこには竹刀を持って震えている女の子が横たわっていた。二人はすぐに女の子を優しく介抱する。 女の子の名前は――神谷菫。すぐ側にある剣術神谷道場の一人娘だ。夜中に怪しい男達が斬り込んできて住み込んでいる弟子や父親の神谷重蔵に襲いかかってきたという。 「早くしないと、お父さんがお父さんが殺されちゃうの……!!」 菫は泣き出してしまった。深月は菫の小さな身体を抱き寄せると優しく頭を撫でる。怜はすぐ林の脇にある神谷道場を厳しい眼で睨み付けた。 「貴方……」 「分かっている、深月は菫をよろしく頼む」 怜と深月は短く言葉を交わした。早く家に帰って子供たちに会いたかった。けれども、目の前で襲われている女の子の家族をこのまま見殺しにすることはどうしても出来ない。 それに何処と無く菫の姿が自分たちの娘と似ている所があった。年頃も同じでおまけに大きくて真っ直ぐな意志の強い澄んだ瞳がそっくりだった。 「貴方、気をつけて!!」 深月が叫んだんと同時に、何処からか現れた野犬の群れに囲まれた。獰猛な牙を持つ群れを従えた剣士の登場に怜たちは行手を阻まれて動けなくなった。 ●過去の扉 「皆も三高平市内に発生したリンクチャンネルのことは知っているわよね。今回は1999年の7月に接続された穴の先の世界へ行って、事件を解決して来てほしいの」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)がブリーフィングルームに集まったリベリスタたちを前にして厳しい表情を向けた。すぐに資料を元に状況を述べていく。 三高平に発生したリンクチャンネルの向こう側に広がる世界。 それは1999年7月の時を刻んだ日本だった。 厳密に言えばこの『1999年の日本』が正しくこのボトムチャンネルの過去なのかどうかはいまだ定かではなかった。けれども、これを放置する事はアークの成り立ちも、時村家の矜持も許されないと判断した。 アークは、状況を見守る形で当面リンクチャンネルは維持することを決定した。したがって穴の向こうの世界が果たしてこの現在に繋がる世界なのかどうかを調査する必要が生じた。さらに、ナイトメアダウンを目前に控えているかも知れない『その世界』でリベリスタ達の消耗を抑え、総力を静岡県東部に結集させる事についても意義がある。 もちろん、自分たちアークが十数年後からやって来た、などの核心的・致命的情報を当時の人物に伝えるのは厳禁だった。 現在のアークが実行せんとしているのは或る意味で歴史の改竄に当たるが、影響範囲を大きくする事は不測の事態を生みかねないという判断だった。 「今回は当時のフィクサー度組織である『奇兵隊』が絡む事件をその場に居合わせたリベリスタとともに解決してきてほしい。当時のリベリスタと知己を結び、彼等にやがて訪れる破滅的危機を伝えることで、やがてその地で訪れようとしているナイトメアダウンへの戦力として期待できるかもしれない。それでは気をつけて行って来てね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月11日(月)22:32 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●不吉な予兆 夜空に昏い月が嗤う――何か不吉な事が起きる予兆。 厚く垂れこめた雲の隙間から赤い月が顔を出す。冷たい夜風が強くなってきて辺りを覆う林の木々が一斉にざわめき始めた。まるで何かを恐れるように。 砂利道を急ぎながら『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)はその丸くて愛らしい赤い瞳をそっと閉じる。 死地に送り込むことに矛盾を感じないわけではない。それでも自分の役目を果たさなければならない。どうかボクの心よ、強くあれ――。 長い祈りを込めながらアンジェリカは決意の思いを胸にする。 「リベリスタは誰も変わらないわね。傷ついた人間を放っておける人なんてそういないわ。ではいきましょうか。子を思う親の気持ちも、親に願う子の気持ちも、向き合ってこそよ」 紫のローブと包帯で身を包んだ『いつか迎える夢の後先』骨牌・亜婆羅(BNE004996)が薄く笑みを浮かべる。行く先には親と子供を巡る闘いが待っている。亜婆羅もいつか母親になりたいという気持ちを秘めていた。絶対に誰も死なせはしない。 先程から無言を貫いているのは『現の月』風宮 悠月(BNE001450)だった。いつもよりずっと真剣な表情で何かを考えている。側に付き添う『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)も思わず声をかけるのを躊躇うほどだ。 姉が何を考えているのかは大体想像がついていた。 一刻も早く巻き込まれた一般人を救出して敵を倒す。聡い優秀な魔術師の血を引き継ぐ姉のことだ。きっと集中して作戦の完璧な手順を推敲しているに違いない。 優秀な姉は昔から紫月にとって何よりも憧れで目標だった。 だが、果たしてそれだけだろうか? 悠月の表情がいつになく瞳が研ぎ澄まされている。 きっと両親がすぐそこに居るからに違いない。 幼い頃に生き別れた実の血の繋がった両親にもうすぐ会える―― 「新城、蜂須賀に並び称される日本神秘界の名門、風宮家があんな雑兵に遅れを取るとは思えないが……リベリスタ側の被害は、最小限に抑えるぞ」 過去の世界に降り立った『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は、時代の空気というものを肌で感じ取っていた。これが、ナイトメアダウン直前の雰囲気。 あの伝説の誠の双剣や名だたる強者達がまさに凌ぎを削っていた時代。 弱肉強食の生きるか食うかの刹那を行きた兵の達の夢。 その舞台に足を踏み入れて快は武者震いを起こす。『ノットサポーター』テテロ ミスト(BNE004973)も頭の上の耳を立たせて緊張感を味わっていた。 いつもとは違う過去に起きた事件への関与。一体それがどの程度、今の現代に影響しているかわからないがそれでもやるべきことは同じはず。 仲間たちの援護を信じてミストは神谷道場へと一気に加速した。 ●秘技の鉄槌 「助けに来たよ! こいつらはボク達が抑えるから早く逃げて!」 アンジェリカは道場から逃げてきた子供たちを庇いながら前線に立つ。 集中して昏い月を創りだして放つ。斜め前に隠れていた野犬が不意をついて襲ってきたが事前に五感を働かせて居場所を突き止めていた。 大きな牙で向かってきたところを、アンジェリカは大鎌で受け止めて渾身の力で薙ぎ払う。 首を掻き切られた野犬は血を撒き散らしながら地面に崩れる。 アンジェリカの言葉に野犬に囲まれていた風宮夫妻が気がついて後ろを振り返った。深月の豊かな胸には幼い道場の娘が大事に守られている。 すでに深月の背中には血が滲んでいた。 野犬の群れを操っていた蘭童も新たな敵の登場に一瞬手を止めて振り返る。 「何時の時代でも、似た様な手合いは居るものですね。あなた達の好きにはさせませんよ」 両親を囲んでいる敵を鋭く睨みつけて紫月は両手を前に翳した。 一気に腰と腕を引いて前に出すと夥しい火炎弾が放出される。目の前を囲んでいた野犬達を次々に巻き込んで一気に敵の陣形が崩れた。 上空から敵の死角を着いて迫りながら亜婆羅が弓を振り絞る。強烈な弾丸のような矢が飛び出して逃げ遅れた野犬の群れに一気に突き刺さっていく。 物陰に隠れていた他の野犬たちが炎に照らしだされて明るみの元になった。そこへ紫月が再び圧倒的な魔力の力を集中させて敵を葬り去っていく。 紫月と亜婆羅のコンビネーションによって瞬く間に野犬たちが掃討されていった。その隙に風宮夫妻が菫を抱えながら後ろへ避難していこうとする。 「そうはさせるか……!」 蘭童は遠距離から吠えて閃光弾を叩きつけようとした。その瞬間に、亜婆羅がわざと蘭童の前に躍り出て攻撃をこちらに向けさせようと飛び上がる。 「あら、あたしなんかに構ってて良かったの? では旦那さん、よろしくぅ」 亜婆羅が全身に閃光弾を浴びてそのまま墜落しそうになった。だが、その隙に、アンジェリカが蘭童の間合いに飛び込んで首もとを狙う。 一瞬、何とか気がついて蘭童は腕でガードして大鎌を食い止めた。だが、腕ごとアンジェリカは力をいっぱいに込めてそのまま振り切る。 近くの木に激突した蘭童は大量の血を吐いて息を切らした。ようやく動けるようになった風宮怜も魔導書を取り出して意識を集中させた。 そして紫月が見ている前で巨大な魔力を放出させる。 残っていてリベリスタに襲いかかろうとしていた野犬が一気に吹き飛ばされた。 「最後のトドメです! ミステランの技をとくと味わいなさい!!」 紫月は両親が見ている前で両手を上に掲げて振り下ろすように強烈な閃光を放つ。 その瞬間に、眩い光の一撃が蘭童の身体に直撃した。後ろの木ごと倒されて蘭童は絶叫する間もなくその場に崩れ堕ちて果てた。 ●本物の極み 神谷道場の前では子供たちが一斉に悲鳴を上げていた。剣を振りかぶって怖ろしい形相で迫ってくる奇兵隊のフィクサード達。邪と東は互いに眼をやって頷きあった。 道場を蹴破って皆殺しにするつもりだった。特に子供たちの目の前で必死に、守ろうと弱いくせに立ちはだかろうとしてくる師範の神谷重蔵が気に食わない。 「子供たちだけは、絶対に子供たちだけは――私の命と引き換えに守ってみせる」 重蔵が竹刀を持って邪達に恐れもせずに振りかぶってくる。 「弱いくせに、守ろうとするなんてバカが。お望み通りなぶり殺してやる」 邪は不敵な嗤いを浮かべた。弱いやつを無抵抗に殺すのが愉快でたまらない。問答無用で剣を鞘から抜いて後ろの子供たちごと一斉に切り裂こうとしたその瞬間だった。 背中から猛烈な何かが迫っていた。気がついて後ろを振り返ろうとした時、後ろから黒い長い髪を浮かせた背の高い女が両手をこちらに向けて何かを放っていた。 黒い畝る血の鎖の束が真っ直ぐにこちらに向かってくる。 不意を突かれた邪と東は逃れようと身体を逸らしたが、右肩に命中して顔を顰めた。 邪はやって来た悠月に向かって圧倒的な魔力を集中させて放つ。それでも悠月は両手を前に広げてやりすごし、逆に白鷺の羽根と見紛う無数の氷刃を繰りだす。 「言いたいことはそれだけですか?」 悠月は冷たく言い放つと一気に攻撃を畳み掛ける。 身体を無数に切り刻まれた邪は雄叫びを上げながら苦しみもがく。 東はすぐに振り返って新たに侵入してきた悠月達を睨み付けた。 「誰だ、後ろから狙うなんて卑怯だぞ! ぜってえ、生かして帰さねえ」 東は吠えて刃の零れた殺人刀を持ち出す。邪を援護するために、悠月に向かって襲いかかってきたが、その前に颯爽と割り込んだのは、快。 「卑怯者には容赦なく一撃叩きこむのが俺の礼儀でな……来いよ、名前負け。相手になってやる」 挑発を仕向けた快は自信に満ち溢れた顔で言い放つ。 喧嘩を撃ってくる命知らずに東も頭に血管を浮き上がらせて睨み付けた。ミストはにらみ合っているリベリスタとフィクサード達の先陣を斬って一気に剣で切り込む。 いつ攻撃を仕掛けようかと間合いを探っていた邪と東は意表を突かれる。ミストが剣で東に切り込んだ隙に快は、すぐ側にいる重蔵師範と子供たちの元へ向かった。 邪たちが放つ圧倒的な魔力の渦に巻き込ませないように両手を広げてカバーする。 風圧に押されながらも快は自らの身体を盾に変えてその場に立ち続けていた。 危うく後ろに吹き飛ばされそうになったが、両足をしっかりと地面に抑えて耐え忍んだ。 重蔵たちがその間に道場の出口へ逃げようとする。ようやくミストの剣戟をやり過ごした東は今度は快に向かって突っ込んで突破を図ってきた。 「いいのかい? あんたらのボスは、『現の月』との相性最悪だぜ?」 「なんだと、貴様」 「そして、お前もな。クロスイージス同士の勝負なら、お前は俺に勝てない」 つづいて快は『新選組』の近藤の方がお前よりも強いとさらに挑発する。 「おもしれえ、俺の劣化コピーの癖に、叩き潰してやる!」 東は吠えながら快に向かって剣を放つ。縦と横に続けざまに放たれた軌道を浴びせる。 十字に切り裂かれた快は衝撃で後ろに倒れそうになった。 口元に着いた血を拭うとにやりと笑みを浮かべる。 快は懐から愛刀のナイフを取り出した。 柄を強く握り締めると真っ直ぐに立ち向かう。 だが、東もただ負けているわけではなかった。素早い動きで身体を地面を透過させ一気に快の後ろに回りこんで日本刀で切り裂こうとしてきた。 「そんな小細工で、俺の目から逃れられると思うな!」 快は敵の動きを瞬時に見限って腕を差し出すとそのまま挟み込んだ。 力を込めると、鈍い音がこだました。 ガッ、ツン――日本刀が折れて砕ける。 「本当のラストクルセイドを教えてやる。二重の雷陣、その身に刻め!」 縦横を切り裂く雷光の二撃の極みが東を襲う。 信じられないといった表情で東は言葉も発せずに地に沈んだ。 「おい、東、しっかりしろ!」 邪がやられて動かない東をみて叱咤する。 その隙にミストが顔面に向かって切り込んで視界を塞いだ。 敵の意識が惹きつけられた所を狙って悠月が前に踊り出る。 容赦をするつもりは全くなかった。 渾身の力を持って敵を封じ込めに掛かる。 月の光を集めたような魔弓―― 悠月は敵の腹を狙って一気に狙いを定めて撃ちぬく。 「アア――」 邪は雄叫びを上げて地面に成すすべなく沈んでいった。 ●悠久の銀の輪 逃げ遅れた一般人を庇いながらアンジェリカ達が道場に向かうとすでに悠月達が跡形もなく敵の邪達を葬り去っていた。 お互いに無事を確認しあうと安堵の息を漏らす。 「神谷……重蔵師範でいらっしゃる?」 悠月は事が終わって師範に呼びかけた。 「左様で……この度は有難うざいます。お陰で子供たちは無事に救えました」 師範は丁寧に助けてくれたリベリスタにお礼を述べる。怪我をしていたが、何とか紫月達の治療で事なきを得ていた。菫はいつまでもアンジェリカにべったりしている。 「お姉ちゃん、また遊びに来てね」 別れが名残惜しい神谷菫は最後まで助けてくれたアンジェリカに抱きついて離れようとはしなかった。 「怖くてもお父さん達を助ける為に頑張ったんだね。君は決して弱くない。本当に大切な強さを持ってるよ。その強さ、忘れないで」 頭をなでて送り出す。いつまでもこちらに手を振っている菫を見て、アンジェリカは願いを込める。 かつて未来のこの子が起こした事件を起こさないでくれたら、そう願いながら――。 菫と師範達に別れて残った風宮夫妻も助けてくれたリベリスタたちに礼を述べた。 「所で君たちは一体何者だ? 見たこともない技を使っていたように見えたが」 実力者の風宮怜でさえ見たこともない技を使っていた紫月達に驚きを隠せなかった。聡明な怜にどんな偽りを言っても見透かされると思った悠月は敢えてその質問に答えない。 「8月に災厄が起きるとの未来視の噂……御存知かもしれませんが」 事務的に悠月はそれだけを口にした。怜もそれ以上事情は何も詮索しない。ただ、やはりあの噂は本当だったのか――と何かを考えこむ仕種を見せた。 「どうかご家族との時間を大事になさって下さい」 去り際に紫月は風宮夫妻に声を掛けた。 「ありがとう。うちにも実は二人の娘がいるのですけど、貴女たちのように将来は立派に育ってくれたらと願ってますわ。どうかお身体を大切に頑張って下さいね」 深月はそれだけを言い残すと夫ともに足早に去っていった。やりとりの一部始終を見ていた亜婆羅はもどかしい気持ちで二人を見送った。こちら側に居残った風宮姉妹の複雑な気持ちを思い遣って言葉が出てこない。 「紫月。あれが……御父様と御母様、です」 悠月が見えなくなる二人の背中を見て傍らの妹に呟いた。 「はい、ですが……良かったのですか?」 妹の言葉に姉は何も言わなかった。 ただ、2人の姿を見れただけで満足。そう言うかのように、悠月は最後まで見届けることもなく背を向けて道場の方へ歩いて行った。 紫月は姉の心の中を思い遣ってそっとしておくつもりだった。 誰にも今の自分の顔を見せたくないのだ。 ひょっとしたら姉は熱い想いを零してるのかもしれない。 いつもは気丈で冷静沈着な姉。まさかとは思うけれども―― 「やっぱり紫月さんがあそこまで大きくなったのも遺伝のお陰なんだなあ。実物で見たけど、お母様のはすごかったなあ」 快がふと、感嘆するように漏らす。紫月はつい頷いたが、どこか快の様子がおかしい。てっきり魔力のことだと思ったが、快の視線が別の所を見ている。 「……どういう意味ですか、新田さん?」 「いや、まだまだ成長するかも――将来が楽しみだ」 快はすっとぼけた。そしてお姉さんを探してくると、言い残して逃げるように足早に去っていった。 空にはすっかり晴れて丸い銀色の輪が明るく照らし出していた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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