●白華会、チェン・イーツァン 掃きだめの街、上海スラム。 ホームレスが見本市ように地面に並ぶこの街は、ユイアンのきらびやかさで観光地化した上海の影とも言うべき場所である。 行政や有力マフィアたちによって強制的に観光地化したために家や仕事を追われた者、そんな抗争の果てに身寄りを無くした子供。その他諸々。 そんな人間たちとて生きている。生きるため、生き残るため、彼らは独自のコミュニティを形成した。 それが上海マフィア白華会である。 彼らの活動目的はスラムに吐き捨てられた貧民たちの仕事確保とそのための教育だ。 そんな中で彼らが大きな収入源としているのが……。 きらびやかなVIPルーム。 「よう、愛しの商品たち!」 白いスーツとミラーサングラスの男が扉を豪快にあけた。 露出度の多すぎる服(というより下着そのものである)を着た女たちが顔をパッと華やかにして彼を出迎えた。 「やだチェンさん! もうここ一週間は来てくれなかったじゃない。寂しかったんだから!」 「イイねえそのしな垂れ方。ちゃんと客にも言ってやれよ?」 「当然じゃない。アタシらを誰だと思ってるの」 ここは上海裏売春街。 白華会が仕切る街である。 ここには生きるすべを失った女たちが転がり込み、適切な医療や生活保護のもと生活している。当然国による保護ではなく、白華会による保護だ。 今女たちに囲まれているのがその白華会のトップ、チェン・イーツァンである。 女の一人がツェンの胸にゆるやかに寄りかかった。 「それでぇ? アタシのことはいつになったら抱いてくれるの?」 「だぁから俺にその機能はついてねっての。物理的にオミットされてるっつの。お前知っててやってんだもんなあ……」 「知ってるわ。でもキモチは本当なのよ? きっと皆そう。アナタになら全部あげてもいいの」 うるんだ瞳で言う女を優しく押しのけ、チェンは笑った。 「そんならキモチだけ抱いとくよ。カラダのほうは客に使え。自分のために使え」 「言われなくても。ねえ店長、チェンさんが来たんだからあのお酒あけましょうよ!」 女が店の裏へと入っていく。 その姿を見送ってから、チェンは店の中を見回した。 「なあおい、リンユーはどうした」 「あの子ならお仕事に出たままだけど……そういえば遅いわねえ」 店の裏からレインポーカラーのパーマをかけた男がシャンパン片手に出てきた。 口調からしてまともな男ではない。こいつが店長である。 店長は携帯電話を耳に当てて、怪訝な顔をした。 「あらやだ。送迎係にも繋がんない」 「……」 ちらりとチェンの方を見る。 チェンは黙って携帯を取り出し、自らの耳に当てた。 「ニィエ、ジンに繋げ。それとリンユーの居場所を探れるか」 『今確認を……見つけました。十七番倉庫です。千里眼対策を施したのが裏目に出ましたね。送迎の車が止まっていますが、送迎係が運転席で死んでいます』 「……クソ。つーことは」 『はい。ロン家です。丁寧に車のボンネットに手紙を貼り付けている。内容は……』 電話越しに内容を聞き終えたチェンは、形式的な指示を出した後に電話機を握りつぶした。 「どうした。トラブルか?」 後ろから声をかけられる。 チェンは振り向き、あからさまに舌打ちをした。 「店の娘が捕らえられた。『お仲間と同じショーをやりたいから見に来い』だとよ」 「……なるほどな」 ある事件を境に、ロン家と白華会は決定的な抗争状態にある。 九人のフィクサード暗殺者『九頭竜』を中心としたロン家は上海でも大きな権力を持っていた。 彼らによってシノギを大幅に奪われていた白華会は『日本のある巨大組織』の力を借りて彼らを襲撃。結果として大きなダメージを与えることに成功したが、白華会事態にも少なくない被害をもたらした。 彼らが家族同然にしていた貧民街のひとつが焼け野原と化し、襲撃にあたった構成員が全員さらし首にされるという被害である。 シノギにしていた観光地のど真ん中にクリスマスツリーの装飾よろしく吊るされた彼らの首を見て、ツェンが抱いた怒りと憎しみは想像を絶する。 が、そこには白華会以外の顔も含まれていた。 日本主流七派がひとつ、三尋木直系フィクサード。弥碌・少名とその一派である。 「弥碌ちゃんはいいコだったよ。美人だったし……あんな目にあっていいコじゃあなかった。あんたもそう思うだろ、拾咲」 「俺からは、なんともな。だが、義理は守る奴だった」 竜崎組四代目。前組長、拾咲・憐蔵。 彼もまた、三尋木に連なるフィクサードの一人である。 「リンユーの救出には俺があたる。ツェン、お前はアジトに帰っていろ。どう考えてもお前を誘い出すための罠だ」 「だな。ンじゃあ……俺もリンユーを助けに行きますかね」 「……話を聞いてなかったのか」 「聞いてるよ馬鹿畜生。俺の商品がパクられてんだ。俺が行かなくてどうするんだよ」 「フン。好きにしろ」 ツェンと憐蔵は店を出た途端、目的の十七番倉庫へと走った。 ●匿名の救難メッセージ ……と、ここまでの説明を受けたリベリスタたちは自然と首をかしげた。 ここはアーク、ブリーフィングルーム。 説明をしたのはもちろんアークのフォーチュナである。 リベリスタの一人が質問のために挙手をした。 「それって、フィクサードどうしの抗争ですよね? なぜその話を我々に?」 「ええ、まあ、そうなんですが……アークに当てて匿名の救難メッセージが届いていまして」 場所は中国の上海。 アークご自慢カレイドシステムの範囲外である。 そんな場所からわざわざSOSを送ってくるのだからよほどのことかと思って、こうして伝えているのだ。 「外聞はともかく、内容としては一般人がフィクサード組織に誘拐され、今にも虐殺されようとしているという事件です。知ってしまった以上、我々が動かないわけにはいかないでしょう」 「たしかにそうだが……」 「ご丁寧なことに、現地の情報や敵に関する詳細な情報まで届いています。信頼するかどうかは皆さんに任せますが」 データ一式をリベリスタにわたし、フォーチュナは話を区切った。 「我々の目的は一般人の救出です。その手段や後始末については、皆さんに任せます。どうか、お気をつけて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 7人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月13日(水)00:00 |
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■メイン参加者 7人■ | |||||
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● 十七番倉庫。 ダンプカーが余裕で数台止められそうな大きなガワとヤードだが、そこでは現在壮絶な殴り合いが行なわれていた。 誰と誰かって。 『どっさいさん』翔 小雷(BNE004728)とチェン・イーツァンである。 「おらおら、どうした正義ちゃん。俺にもう一発あてたら風俗のおねーちゃんサービスしてやんぜ? ゴム無し三時間無料コースだぜぇ?」 「貴様……ッ!」 小雷の腕からスパークが走り、チェンへと叩き込まれる。 対するチェンは素早いバックスウェーで回避。小雷の放った壱式迅雷はあわよくば両方潰そうと襲いかかったロン家の兵隊たちを殴り飛ばすことになった。 パチンと指を鳴らし、玄武を招来させるチェン。既に何度もくらっていた小雷は根性で回避。巻き添えをくった兵隊たちが押し流されていった。 そんな様子を横目に、憐蔵はこめかみに手を当てた。 「何をやってるんだ、あいつは……」 なぜこんな騒動になったのか。 ことの発端はもう少し前。 倉庫へ突入をかけようとしていたチェンに小雷たちが乱入した時のことである。 『俺たちがどんなに貧困にあえいでも国はなにもしなかった。だから貧民の世話には感謝する。しかし貴様らの行ないを容認する道理にはならん!』 と堂々とタンカをきったその直後。 チェンは両手の中指を立ててこう言った。 『お前アレだろ、ツイッターのアイコンとか自分の顔写真だろ』 いきなり何を言い出すのかと面食らった小雷に、こう続ける。 『正義正義言い出すやつには三つのクセがある。なんでも二元論で考える。敵にはどんな攻撃も許される。自分の考えを認めない奴を非常識扱いする。お前全部揃ってんぜ。貧困にあえいだら誰かが百万円くれるのかよ、チョーウケルー』 と、ここまで挑発されてうむうむと頷けるほど小雷は愚かではない。 だというのにチェンは更に煽った。 『テメェが貧乏なのはテメェの家に覚悟がねーからだ。他人の臓物食らってでも生き延びる覚悟がねーからだ。違うか、アァ?』 『貴様……俺とて一般人を救いたい気持ちは同じだ、今は、争ってる場合ではないだろうが』 『何言っちゃってんだ、テメェは最初から敵だよ正義マン。一生テレビゲームやってろや馬鹿畜生』 ……と、このようにして。 チェンの放った朱雀や玄武といった強烈な符術になぶられ、今は起死回生のパワーでギリギリよけている段階である。 「で、テメェらいつになったら飽きて帰るんだよ、オラ」 「さあ。楽しそうだから、もっといる、ね」 兵隊の首を気糸で絞めながら、『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)はぼうっとした顔で言った。 兵隊を蹴り飛ばしながら、チェンと背中合わせに語る。 「つーか何の用だよ。お前ら出てくると必ず被害が拡大するからイヤなんだよ」 「だからって、翔を煽っていじめること、ないよ」 「しょーがねーじゃん。俺、貧困を理由に甘える奴ってすげえムカつくんだ。で、用は」 「『いっぱんじんのきゅうしゅつ』」 「またかよぉ……お前らのキチガイ宗教みたいな主張、ぶっちゃけ迷惑なんだけど」 「私はべつに、どうでもいいけど、ね」 「まあお前はそうだろうな」 小声で背中越しにチェンは笑った。 星川天乃という女は、『しなくてもいい戦闘』を『愉快だから』という理由で行なう癖がある。 以前白華会のアジトを襲撃した際も、仲間を逃がすためというより単純にチェンと戦ったら愉快そうだという理由で現場に残っていた。チェンはその性質を理解していた。 「さっきから何話してんだ?」 兵隊の顔面を鷲づかみにして引きずるという格好で、『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)が振り向いた。 「おいチェン。アタシらはあのじょーちゃんを助けに来たんだ。邪魔すんならぶっ殺す」 「うるせえ馬鹿畜生。俺も自分ちの商品取り返しに来てんだ。邪魔しなくてもぶっ殺す」 「あンだと?」 「やンのかオラ?」 額を全力で叩き付け合う瀬恋とチェン。 「おら来いよ。なんならベッドで面倒みてやろうか? 泥みたいになるまで犯してやんぜ」 「チョーシこいてんじゃねえよEDが。ホモビデオでアヘってろ」 「ンだとコラァ!」 「殺すぞオラァ!」 鷲づかみにしていた兵隊を繰り回す瀬恋。 チェンの背中に短剣を突き刺そうとしていた兵隊もろとも直撃し、ごろごろと地面を転がっていく。 起き上がりに指を鳴らすチェン。すると巨大な朱雀のホログラムが生成され、戦場が丸ごと爆発炎上した。 倉庫から飛び出してきた兵隊も、外で見張りについていた兵隊も、全員まとめて消し炭になるだけの熱量である。 外にいた約20人の兵隊を全滅させたことになる。 「テメェあとでツラ貸せや」 「上等だテメェコラ」 チェンと瀬恋はお互いにガン飛ばし合いながら、倉庫へ進む。 ● 時間をちょっぴり遡る。 チェンたちが外で大立ち回りを演じていたのにもかかわらず、倉庫の中から兵隊がほとんど出てこなかったことには理由があるのだ。 その理由というのが。 「アークのリベリスタだ! ロン家の犬ども、地獄に送ってやるから念仏唱えろ!」 窓を突き破り、『陰月に哭く』ツァイン・ウォーレス(BNE001520)が飛び込んできたからである。 窓破りの何がいいかって――。 「まいどー、アークが遊びに来ましたよ」 「これはこれは多勢に無勢。困ったものですなー」 複数ある窓から一斉に突入できることである。 穴をあけたら一人ずつ通るハメになるしね。 というわけで、『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)と『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)は同時にアッパーユアハートを発動。超次元的に兵隊たちの意識を自分たちに集中させた。 ここで特に賢かったのは、『二人がかりで』挑発を行なったことである。一人で引き受けていたなら、三十人という数をいっぺんに相手することになって瞬殺もありえたが、これを二つに分裂させたことでダメージを軽減できた。 一足遅れて窓からよじよじ入ってくる『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)。 「ロン家! 今度はしっかりやってみせるわ。前の二の舞にはなら――むぎゃ!?」 リンシードたちの挑発にかからなかった兵隊がいっぺんにミリーへ殺到。瞬く間に押し倒された。 「ミリー!? どうしたんだ、今日のあんた押しに弱すぎじゃないのか!?」 「な、なんだか今日は調子が悪いのよ……うぎぎ……! こいつらは頑張って引きつけるから、あとはお願い!」 ロン家の兵隊たちとぽかぽか殴り合いをするミリー。 ツァインは『人間、そういうこともあるよな……』と言って手を合わせた。 そして倉庫内の状況を確認。 兵隊の多くはリンシードと九十九、あとミリーが引き受けてくれている。 天井からは睡眠薬か何かで眠らされたリンユーが吊るされている。落ちれば足くらいは骨折しそうな高さだ。 そして倉庫の中心には、両手で印を結んでじっと直立する男がいた。 彼こそがイーシュ。ロン家の暗殺者である。 「お前がイーシュか……」 彼の周りには四人ほどの男女が身を固め、彼を庇うように立っていた。 顔写真があったのでわかる。クロスイージスとプロアデプトの組み合わせだ。つまり、彼らは盾でありエネルギータンクでもあるということか。 で、その狙いとは……。 「白華会を釣るつもりが、まさかアークが釣れるとはナ。だがいい機会だ、いつかの屈辱……晴らさせてモラウ!」 イーシュが複雑な文言を唱えると、布人形がぶくりと膨らんだ。両手にはサイを握っている。 人形はツァインへと飛びかかり、急所をねらってサイを繰り出してくる。 盾を翳して防御。 「影人か!」 「ソウダ。時が経つにつれて俺の分身が増えていく。お前は俺に手を出すことはできない。これで詰みだ!」 一方、リンシード。 「あらら、これは大変そうですね。人がこんなに沢山いて、何人役に立つか」 首狙いで繰り出された青竜刀をのけぞってかわし、腹へ突き出されたトンファーをくるくるとターンして回避。 10人近い敵の中を踊るように泳いでいた。 彼らとて馬鹿ではない。かけられたBSは既に取り払っている。それでも彼女への攻撃をやめないのは、単純にムカつくからだろうと思う。 透き通った剣をくるりと降ったならば、彼女の周囲が空間ごと切り裂かれ、瞬間冷却された兵隊たちが凍り付くのだ。 その間リンシードがどうしているかと言えば、死んだ目をしてゆーらゆーらとしているばかりである。 プライドの高いロン家からすればこれ以上効果的な挑発も無い。 それは九十九のほうも同じようで、敵の中でドラップラー効果をおこしながらひゅんひゅん移動するおばけを大の大人が本気になって追いかけ回すという図が展開されていた。 が、それが続いたのもほんの数十秒である。 「お――っとお?」 大きな布人形が、壁を三角飛びして襲ってきた。 雑魚の身こなしではない。 大抵の攻撃は紙一重でかわせる九十九が、腕を深々と斬られたのだ。 いわずもがな、イーシュの影人である。 コストを度外視することで高スペックの影人を量産し、数の暴力で押しつぶすスタイルだろう。 およそ三年前にアークに酷く敗北して以来、それでも己のスタイルに固執し続けた結果生まれた最強の戦術というわけである。 「これは、放っておけないですなー」 手袋に呪力を込め、殴りつける。 ぐにゃりとのけぞる影人。が、直撃ではない。すぐに飛び退こうとしたが、背後に現われた別の影人が九十九の背中にサイを突き刺した。 逃げ場を奪われた形である。 「――ッ!」 目がくわりと開く。 直後、全力の突きが九十九の腹に刺さった。 「百舌鳥! 引くんだ、これ以上身体をはる必要は無い!」 離れた場所から叫ぶツァイン。 彼も彼で、二体の影人に周囲をぐるぐる回られ、動くに動けないでいた。 全力で切りつければ倒せない相手ではないが、一体倒す間に二体以上増えるのだ。まったくもってキリがない。 「ま、もう少しの辛抱ですからのう……」 吐血しながらゆらゆら立ち上がる九十九。 そうしている間に彼を囲む影人は四人に増えていた。 絶体絶命か。 本来なら、入ってきた窓からぴょんと飛んで逃げるべきだ。 だが九十九は。 背筋を伸ばして立ち。 片手を悠然と翳し。 「さあ、かかってらっしゃいな」 渾身のアッパーユアハートを放った。 自殺行為。 そうとることもできるだろう。 だが今こそ。 今こそ必要だったのだ。 ● 九十九に大量のサイが突き刺さる。 まるで下手な昆虫標本のように壁に押しつけられた九十九は、全身から大量の血を吹き流し、そして笑った。 「作戦成功、ですな」 「なんだと? ――まさか!」 ハッとして天井を見上げるイーシュ。 そこには、リンユーを縛って吊るすためのロープを重力など感じないかのようにスタスタ伝い歩く天乃の姿があった。 リンシードや九十九たちがあまりに派手に暴れるものだから、てっきり敵は彼らだけだと思い込んでいたのだ。 あの娘、リンユーには人質の価値がある。もし有用でなかったとしても、チェンの前でくびり殺せばそれなりのダメージを与えられる。だからこそまだ殺さなかったのだ。 だというのに。 「さ、させるかあッ!」 サイを高速で投擲。 リンユーを吊っていたロープが切断され、自由落下する。 「あ」 せめて足でも折ればいい。頭を打って死ねばもっといい。そう思って薄笑いするイーシュ。 だが、どちらにもならなかった。 真下で瀬恋がキャッチしたからである。 薄目を開けるリンユー。 「チェン、さん……?」 「ワリィが違うよ」 そう答えて、本人の方を見た。 なんとも言えない顔のチェンと目が合った。 「オマエ、それ……」 「ほれ」 言い終わる前にリンユーを投げて渡した。 ついでにAFを場に翳し、改造装甲車を出現させた。 「運転ぐれーできるだろ。さっさと連れて逃げな」 「……下らねえ。テメェが勝手にやったことだ、借りにはしねえ。車も売っぱらってやるからな」 ツェンはリンユーを抱えて車に乗り込んだ。憐蔵はちらりと瀬恋のほうを見た後、黙って運転席に乗り込んだ。 アクセルを踏み込み、寝転んだ兵隊たちを挽きつぶしながら走り去っていく車。 遠くなっていくエンジン音。 イーシュはわなわなと手を震わせた。 「オマエ、オマエら……俺をコケにシヤガッテェ……!」 「因果応報だ、ロン家」 小雷が身構えつつゆっくりと距離を詰める。 「どうして貧民街を焼いた。何の罪も無い人々を報復に巻き込んでなんになる。今もまた関係の無い少女を殺そうとした。どうしてそんなことをする」 「どうしてだ? おまえこそどうして『関係ない』と思った。白華会に靡きそうな無価値な豚どもを焼却して何がおかしい。今の女だって白華会に飼われた雌豚だ。関係ないというなら、むしろお前たちが一番無関係だろうが!」 飛び込んでくる影人。 小雷は繰り出されたサイを紙一重でかわし、相手の腹に土砕掌を叩き込んだ。 影人は元の布人形に戻って転がる。 「言っていろ。俺はリベリスタとして立ち向かうまでだ。……みんな、役目は果たした。引き上げるぞ!」 きびすを返して撤退する小雷。 「はいはい。それじゃあ帰りますよーっと」 リンシードとミリーも、力尽きた九十九を窓からポイっとやってから撤退した。 自分も続こうと窓に手をかけたところで、ツァインは違和感に気づいた。 天乃と瀬恋に、まったく撤退する様子がないのだ。 「星川、坂本? なにやってるんだ、俺たちの役目はもう――」 「おうとも、アークのお仕事は終わり、解散、ご苦労さんだ。でもって、今のアタシはプライベートなんだよ」 瀬恋は中指を立ててイーシュにつきつけた。 「教えてやるよ糞野郎ども。坂本さんちの瀬恋ちゃんはナメられるのとカタギに手ぇ出す奴が死ぬほど嫌いなんだよ!」 目をカッと開き、イーシュ本体へと突撃する。 当然間に割り込む影人たち。 「邪魔だオラアァ!」 飛び込み式ダブルラリアットで二体同時に黙らせる。 その背中を狙おうと兵隊たちが一斉に押し寄せようとしたが、そこへ天乃がスライドインした。 「さあ、踊って、くれる?」 大量の気糸を展開。飛び込んできた兵隊たちを八つ裂きにすると、飛び散った血液と肉片を全身に浴びた。 が、いくらなんでも多勢に無勢。一撃離脱作戦ならいざしらず、この人数と強力な影人使いを相手に持ちこたえられる筈がなかった。 たちまち大男にマウントをとられ、顔面を幾度となく殴られる天乃。 瀬恋もイーシュの眼前まで迫ることができたが、後ろから髪を掴んで引っ張り戻される。 「テメェらだけで抗争してんなら文句はねえ。けどカタギに手ぇ出し過ぎた。だからテメェは、アタシの敵だ!」 「知るか日本の豚ども!」 腹に、顔面に、幾度となく致命的な打撃が加えられる。 「クハハ、お前らもさらし首にしてや――」 イーシュが指を突きつけ、あざ笑った。 その瞬間に。 装甲車に吹っ飛ばされた。 「はグ!?」 高速回転して宙を舞い、べたんと地に落ちるイーシュ。 「な、なん……」 「悪ぃ。忘れモンしたわ」 運転席を開き、白いスーツの男が下りてくる。 誰あろう、チェン・イーツァンだ。 瀬恋を押さえつけていた男を蹴り飛ばすと、仰向けの瀬恋へとかがみ込んだ。 「後でツラ貸せつったよな。車とかいらねえからテメェが来いよオラ」 「そういや……テメェも日本人の小娘売りに出そうとしたんだっけな……」 「そうだよー。うわーごめんなちゃいねー。あばばばばー」 「死ねやオラァ!」 落ちていた鉄パイプを力任せにぶん回す瀬恋。 ツェンはそれをひとっ飛びに回避。巻き添えを食らったロン家の兵隊たちがなぎ倒されていった。 空中で両腕を広げると、自らに朱雀のホログラムを憑依させた。 「俺も一つ言っておく」 ツェンは朱雀そのものとなり、機械のような声で言った。 「白華会をナメんな、ロン家の犬ども」 その後、十四番倉庫からは炭化したロン家の兵隊たちらしき物体が大量に発見された。 イーシュは瀕死の重傷を負って逃走。 チェンたちは……。 「テメェ死にかけてんじゃねーか。マジうける!」 「ンだと、ぶっ殺すぞコラ!」 「やれよオラ!」 「車内で喧嘩すんなよー! あーもー!」 「ツァイン、おなかすいた。コンビニ寄って」 「ねえよ!」 ツァインの運転する車の中で死にかけていた。 瀬恋と天乃。それにチェンもである。 「ていうか、なんでもお前も死にかけてるんだ、チェン」 「あの技は命がけなんだよ。反動スゲェんだぞ」 「ならなんで使ったし」 車が止まり、チェンが下りる。 「じゃ、気をつけて日本に帰れよ。そして二度と来んな」 「また来るね」 「そンときゃ殺す」 「またな、リンユーちゃんによろしく」 去って行く車。 見送るチェン……の背後に、レインボーパーマの男(もといオカマ)が立っていた。 「行ったわね」 「あいつ呼んだのお前だろ、鴇(バオ)」 「あら、しーらない!」 男は腰をくねくねさせながら店の中へ戻っていった。 額に手を当てるツェン。 「あいつら、また来るんだろうなあ……」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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