●過去と今との交差点 「リンクチャンネルの先は、『過去の』この国……に似たどこか。詳しい事情は分かっていないけど、過去のこの国に非常に酷似しているの」 タイムトラベルという言葉は知っている? と、表情を変えないまま『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は首を傾げてそう訪ねた。 「酷似している……。まるで違いは見られないけど、当然この世界とは別の世界」 だが、恐らく今の世界と同じ歴史を歩んでいるはずだ。 だとすれば、今から一ヶ月もすればナイトメアダウンが起きることが予想される。多くの人と、この世界に深い傷跡を残したあの悲劇は、もう一度体験したいものではない。避けることができるのなら、避けたい出来事。 「私達は、これから起こる悲劇を知っている。だけど、それを直接伝えることは出来ない。未来から来た、とも言ってはいけない。歴史の改竄なんて、何が起こるか分からないもの」 だけど、どうにかして危機を伝えたい。 思案した結果、あちらの世界で起きる事件に関わって、あちらの世界のリベリスタへ『予言』を託す方法をとることにした。 もっとも、素直にそれを信じてくれるとは思えない。 そこで、こちらが打つ手は1つだけ。ひどく単純で、そして恐らく、暴力的なまでに直球な手段。 「アークのリベリスタがその実力を見せつければ信憑性だって産まれる。向こうの世界で起こった事件に介入して、解決してきて欲しい」 場所が違うだけで、やることはいつもと同じだ。 世界の崩壊を食い止めるために、世界の敵を倒すだけ。 こちらの正体を隠すのだって、いつもと同じ。ただ、世界が違うだけ。 「それじゃあ、行ってらっしゃい」 そう言ってイヴは、過去の世界へと、仲間達を送り出す。 ● 真夏の昼の悪夢 リベリスタ、要・順一は戸惑っていた。 敵の姿はそこにあるのに、こちらの攻撃が当たらないのだ。スターサジタリーである彼の、正確無比な射撃を持ってしても、まるで幽霊を相手にしているみたいに、攻撃の手応えがない。 『どうなってんだ……』 一緒に来ていた仲間達とも、分断されてしまっている。 田舎道で、霧の中に突っ込んだ所で、仲間と連絡が取れなくなったのである。霧に入った瞬間、身体を引っ掴まれたような不気味な感覚を味わったのを覚えている。 そして、気付いたらここにいた。 山の中だ。立ち並ぶ木々が、視界を遮って鬱陶しい。件の霧の中に、白い着物を纏った女性の姿が見える。1人ではない。正確な数は分からないが、恐らく6体前後はいるだろうか。 何度銃弾を浴びせても、スキルを使っての攻撃も、命中しない。手応えを感じない。 霧全体が震えるように、順一の頭の中に女性の笑い声が響く。 吐き気を催し、順一はその場に膝をついた。EPもそろそろ底をつく。任務の失敗という言葉が脳裏を過った。 順一の目の前に、女性の笑い顔が迫る。 苦し紛れに、順一は銃の引き金を引いた。乾いた破裂音。火薬の臭い。女性の顔が、霞の様に霧散して消える。 現状に認識が追いつかない。 自分が【混乱】状態にあることに、順一は気付いていなかった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月12日(火)23:33 |
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■メイン参加者 4人■ | |||||
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●霧中の怪人 濃い霧の漂う森の中。数メートル先の木々すら把握できないほどに視界が悪い。 白い着物を着た女性が、霧の中に見えた気がする……。 くすくす、と木々の擦れるような笑い声が響く。 霧の中に、背後に、どこか見えない位置に、そいつらは居る。気配はする。 リベリスタ(要・順一)は、視線を左右に彷徨わせ、霧から抜ける道を探す。けれど、自分の立ち位置すら把握できないまま順一の意識は、霧のように薄弱に、混濁しはじめているのが、そのことに自分でも気付けない。 目の前に居るのが何なのか。 自分は森で何をしているのか。 それすらも分からなくなってきた頃になって、順一の目は久方ぶりに人の姿を捉える。 「ここはほんとうにむかしのせかいなのでしょうか……? よく分からないけど……せいいっぱいがんばりますです」 順一の目の前に現れ、そんなことを言ったのは獅子の被り物を被った少女だった。彼女の名前は『さぽーたーみならい』テテロ ミミミルノ(BNE004222)。未来から来た、リベリスタだということを順一は知らない。 ●霧中交差点 『誰……だ。お前、ら』 途切れ途切れに順一は問う。それに応えたのは『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)である。 「へ?私の名ですか?メ・ガネといいます」 咄嗟に偽名を名乗るイスタルテだが、そもそも現状の順一にこちらの言葉が届いているのか怪しいものだ。なにしろ、順一はアザ―バイド(煙羅煙羅)の攻撃を受けて混乱状態にあるのだから。 イスタルテは、混乱上体の順一を治療しようとその手に淡い燐光を宿す。ブレイクフィアー。状態異常を癒すスキルである。 それを見て、何を思ったのか順一は踵を返し逃げ出した。追いかけようとするイスタルテに向け、銃弾を放つおまけつきで、だ。素早く背後に跳んで、イスタルテはそれを回避する。 霧の中に、順一の姿が消えた。 「所詮は空事他人事……」 そうは言っても、任務である。逃げ出した順一を追いかけないわけにはいかない。『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は霧の中へ逃げた順一を追いかけようと足を踏み出す。 その手には、式符が一枚握られていた。 式符を放とうかとしたその時だ……。 す、っと音もなく突然気配がユーヌの背後に現れる。その姿は白い着物を着た女性だ。 ユーヌの首筋に伸ばされた煙羅煙羅の腕に、真っ赤な業火が灯る。じゅ、と肉の焦げる音。ユーヌの肌が焼ける、嫌な臭い。 首を押さえ、ユーヌが退避するのと入れ替わるように水無瀬・佳恋(BNE003740)が長剣を手に飛び出した。地面を這うようにして、一気に煙羅煙羅へと距離を詰める。 「私はリベリスタとして戦うだけ、です」 佳恋が剣を振りかぶった瞬間、煙羅煙羅の姿が二重にぶれた。霧が分散するように、煙羅煙羅が2体に増えたのだ。 煙羅煙羅の姿が霧の中に紛れて消える。 佳恋が小さく舌打ちをした、その瞬間……。 どしゃ、とバケツをひっくり返したような大量の水塊が辺り一帯に降り注いだ。水圧と風圧に押され、霧が吹き飛ぶ。霧だけではない。近くの木々をへし折って、森の一角に空き地を作った。 「霧が晴れれば怖さ半減だな? 醜い体もよく見える」 酷薄な笑みを口元に浮かべ、ユーヌはそう呟いた。彼女の手から放たれた式符が、大量の水を召喚したのだ。 霧が晴れたその中に、2体の煙羅煙羅の姿がある。手前の1体は、水流に押されてその姿がぶれていた。 「偽物ね……」 するり、と地面を統べるように手前の分身体を回避して、本体に肉薄。煙羅煙羅の放った炎が佳恋の身体を包むと同時に、佳恋の剣が煙羅煙羅を切り飛ばす。 白い着物が霧と化して吹き飛んだ。その中から、真っ二つに切断された干からびた死体が現れ、地面に転がる。 まるでミイラだ。誰の遺体かは知らないが干からびた死体が煙羅煙羅の核となっているらしい。 煙羅煙羅が消えると同時に、佳恋の身体を包んでいた火炎も掻き消えた。火傷を負ってはいるものの、まだ動ける。 剣を鞘へと納めたその時、鳴り響く銃声。佳恋の腹部を銃弾が撃ち抜いた。 「かいふくはミミミルノのやくめなのですっ」 テテロの放つ淡い燐光が、佳恋の身体を包み込んだ。火傷の銃創を癒し、溢れていた血を止める。 佳恋に向け銃を撃ったのは、霧の中のどこかに居る順一だろう。煙羅煙羅の攻撃によって、混乱しているのだ。煙羅煙羅だけでなく、本来は味方であるはずのリベリスタからの攻撃にも警戒せねばならない。 「す、すぐによろいをふよしますですっ」 せめてもの対策として、テテロは仲間達に光の鎧を付与していく。 しかし、浄化の鎧を付与し終わる頃には先ほど吹き飛ばした霧もじわりじわりと元に戻り始めていた。霧の中から、くすくすという煙羅煙羅の笑い声が聞こえて来る。 困ったような顔をして、テテロは霧と仲間達を交互に見やった。その視線に応えて、イスタルテが宙へと舞い上がる。 「いきますよ、必殺メ・ガネ=ビーム!」 自棄っぱち気味にそう叫び、イスタルテは腕を振るう。解き放たれた眩い閃光が、迫りくる霧を掻き消して、更に数メートルほど霧のないエリアを拡大した。 どうやら、煙羅煙羅の霧はリベリスタのスキルである程度消し飛ばすことができるようだった。 一瞬、霧の中に順一の姿が見える。虚ろな目で銃を構え、引き金を引いた。射線の先にいるのはテテロだ。自身に対してスキルを使用していたテテロは、回避行動に移れない。 「手間の掛かることだ」 救出対象にまで攻撃を受けるなんて、笑えない話だ。テテロの肩を引いて弾丸を回避させると、ユーヌはやれやれと溜め息を零した。 見失う前に、と順一の元へと飛んで行くイスタルテ。 けれど、その瞬間、イスタルテの身体を煙と業火が包み込んだ。 「きゃっ!?」 背後からの強襲。霧の中から、煙羅煙羅が攻撃してきたのだろう。 「今は目の前の敵を討つのみですね」 順一の救出に気をとられていては、勝てる戦いも勝てなくなる。霧の中の煙羅煙羅を斬り捨て、佳恋は唇を噛みしめた。手応えはない。どうやら今し方斬り捨てた煙羅煙羅は分身体の方だったらしい。 くすくすと、頭に直接響くような笑い声。まともな神経をしていたのなら、精神に異常さえきたしかねない。パーティ編成の回復層が厚いおかげでなんとかなっているが、姿が見えないのは厄介だった。 「せめて姿が見えればな……」 そう呟いたのは、ユーヌであった。 「かなりのしかいとあしばのわるさですっ……きをつけないとっ」 視線を左右に動かし、敵の居場所を探すテテロ。 視覚外からの攻撃ほど回避しづらいものはない。 「でしたら、私が」 空中から、イスタルテが霧中を覗きこむ。千里眼のスキルを用いて、煙羅煙羅の居場所を探しているのだ。いつの間にか、順一も何処かへ消えている。 数秒間。 じっと霧中を観察していたイスタルテが「いました!」と叫ぶ。 視界に捉えた煙羅煙羅の数は5体。生憎と、分身か本体かは判断できないが、居場所さえ分かれば問題ない。煙羅煙羅の位置情報を、ユーヌへと伝達する。 その瞬間、イスタルテの身体に火炎が命中。空から地面へと落下してくるイスタルテを、テテロが慌てて受け止める。 「かさかさに荒れた肌に潤い如何かな?」 ユーヌは空へと式符を投げた。式符がぼんやりと輝きを放ち、空中に陣を描く。 直後、大量の水塊が霧の中へと降り注いだ。圧倒的な水量、水圧。木々を纏めてなぎ倒し、煙羅煙羅を押しつぶす。地面にクレーターさえ穿って、水は消えた。 霧の晴れたその中に、白い着物の女性が2人。5体のうち、煙羅煙羅の本体は2体だったらしい。すでに相当のダメージを受けていることが見受けられる。 「複数を相手にするのは苦手です。1体ずつ確実に対処していきましょう」 一気に敵へと距離を詰め、佳恋は長剣を振り抜いた。擦れ違い様に1体を斬り捨て、更に返す刀で残る1体へと斬撃を加える。 斬撃が浅かったのか、切られながらも霧の中へと逃げて行こうとする煙羅煙羅の背後から、数発の弾丸が放たれた。火傷を負い、地面に膝を突きながら、しかしイスタルテの千里眼は敵の逃亡を許さない。 弾丸に射抜かれ、煙羅煙羅の身体が消えた。 残ったのは、干からびた死体が2つ。 全部で5体、煙羅煙羅は居る筈だ。残るは2体。今だ姿を見せないが、こちらを狙っているのだろう。順一の救助もせねばならない。 敵の数は少ないが、まだまだ油断は禁物だ。 イスタルテの神気閃光で霧を払いながら、捜索を続ける。何度か不意打ち気味の攻撃を受けたが、その都度テテロがそれを治療し、事無きを得ている。 とはいえ、こう何度も治療ばかりを繰り返していてはいつかこちらのリソースが不足することになるだろう。ただでさえ、人手が足りていないのだ。 前衛で戦うイスタルテと佳恋の表情には、疲労の色が見え始めていた。 「見つけましたよぅ」 疲れた声音で、イスタルテは言う。 腕を振るい、閃光を放ち、霧を払い退けた。霧の中に居たのは、順一だ。近くに、1体煙羅煙羅の姿も見える。式符を放とうとしていたユーヌが動きを止めた。煙羅煙羅だけならともかく、順一を攻撃に巻き込んでしまうわけにはいかない。 煙羅煙羅の火炎と、順一の銃弾が放たれる。 「あひゃう!」 テテロは咄嗟に地面に伏せて、それを回避。炎と弾丸の隙間を縫うようにして佳恋は跳びだす。 攻撃の対象は煙羅煙羅だ。けれど、煙羅煙羅と佳恋の間に順一が割り込む。急ブレーキをかけ、佳恋は停止。順一の銃弾を、首の動きだけで回避し、困ったような表情を浮かべた。 「鬼さん此方手の鳴る方へ……」 銃声が1発。放ったのはユーヌだ。順一の背後の煙羅煙羅に弾丸が命中した。 直後、煙羅煙羅の表情が変わる。 するり、と煙羅煙羅の身体が順一を追い越し前に出た。その目には怒りの感情が浮かんでいる。視線の先にはユーヌの姿。ユーヌに襲いかかるつもりなのだろうが、届かない。 「目の前の敵を討つだけです」 一閃。目にも止まらぬ鋭い斬撃が、煙羅煙羅を切り裂いた。 煙羅煙羅の身体が、雲散霧消する。消え去りながらも手を伸ばし、煙羅煙羅はユーヌぬ向けて火炎を放つ。火炎はユーヌに命中し、彼女の全身を炎で包んだ。 「かいふくしますですっ!」 テテロが叫ぶ。飛び散った淡い燐光が、ユーヌを包む炎を消した。 それと同時、ごとり、と鈍い音をたて干からびた死体が地面に転がる。 ●過去と未来の邂逅 逃げたと思ったその直後、足を止めては弾丸を放つ。ヒット&アウェイの戦法に近いだろうか。恐らく、それが順一の戦い方。本来は、順一が敵を誘き寄せ、それを他の仲間が叩く、という戦法をとるのだろう。 銃弾を回避しながら、空からイスタルテが、地面からは佳恋がそれを追いかける。順一の逃げ場を塞ぐように、霧を払い、牽制射撃で進路を妨害するのはユーヌだった。仲間がダメージや状態異常を受ける度に、テテロがそれを治療している。 それに加え、霧の中からは煙羅煙羅による遠距離攻撃も。 「さっさと干物を処理してしまいたいんだ」 式符を投げ、大量の水を呼び出すユーヌ。 水流が、順一の進路を阻み、霧を消し去った。晴れた霧の中に、煙羅煙羅の姿も見える。 銃を構える順一と並んで、煙羅煙羅もその白い腕を掲げた。 銃弾と火炎が放たれる。 煙羅煙羅の放った火炎が、イスタルテを包み込んだ。しかしイスタルテは止まらない。まっすぐに、順一に向かって飛んで行く。 一方、佳恋は腹部に銃弾を受けながらも煙羅煙羅へと駆けて行く。 「リベリスタの仲間を失うわけにはいきませんから」 腰の高さに剣を構えて、煙羅煙羅の眼前に移動。煙羅煙羅が逃げるよりも速く、振り抜かれた佳恋の剣が、その身体を切り裂いた。霧と化して、煙羅煙羅が消える。その場に残った干からびた死体を一瞥し、佳恋は背後へと視線を向ける。 「やーん、暴れないでくださいぃ」 暴れる順一を押さえつけるイスタルテの姿が、そこにあった。 「かいふくですっ!」 テテロの放った淡い燐光が、順一の身体を包み込む。光は、染み込むように順一の身体に吸い込まれていく。ぼんやりとしていた彼の焦点が、次第に定まって行く。まだまだ意識ははっきりとしていないようだが、どうやら混乱は回復したらしい。 『あ、あんたら……は?』 ぐったりとした表情で、順一は問うた。 「1999年8月13日静岡県東部に大災害が起こる……。予言なんて柄じゃないが」 話を切り出したのはユーヌだ。 順一に対して、ナイトメア・ダウンの予言を伝えていく。 半信半疑と言った表情ながら、リベリスタとしての実力を見た順一はその話を聞かざるを得ない。 話を終えたリベリスタ達は、元の世界へと帰るために森を後にする。それを見送って、順一の意識はぷつりと途切れた……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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