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<クロスロード・パラドクス>路六剣八・白田剣山

●ナンバーズと路六剣八
 喉かな縁側である。
 小鳥がさえずり、ししおどしが鳴る。初夏の日差しさえ、風鈴とせせらぎの音で消えるようであった。
 そんな中に、小さな湯飲みを持った老人の姿がある。
 路六剣八。年齢不明。
 彼の横には、高校の学生服を着た少年が座っていた。
「どうだね、学校はうまくやっとるかい。善三」
 老人剣八が湯飲みを置く。
 その動作を、少年善三は横目で盗み見ていた。
 物を置く動作だけではない。老人の一挙手一投足をつぶさに観察しているのだ。
 これは後に善三という男が『殺さずの善三』と呼ばれる前の話であり、この老人から殺さずのすべを体得する前の話である。現に、この観察自体が修行の一環なのだ。
「はい。おやっさんのおかげで」
「ばかを言うな。お前さんのやったことは、お前さんのやったこと。自分の手で掴んだものには誇りを持てと言っとるじゃろうが」
「しかし……」
「お前さんが誰かにモノを教える時になったらどうする。弟子の成果を自分のものにしたくなるかい」
「……いえ」
「それでいい」
 満足げに頷く剣八。
「ワシの力は一個人には大きすぎる。お前たちが継いでくれんとなあ」
「……」
 深刻そうな顔でうつむく善三。
 剣八はこともなげに『自らの戦闘練度を分配する』と言っているのだ。そんな技術は聞いたことも無い。だが彼になら……彼にならできそうな気がする。
「おやっさん」
 善三が顔を上げた、その時。
「大変だ、善三!」
 彼と同い年くらいの高校生が庭へと飛び込んできた。
「どうした源太郎。そんなに慌てて」
「『ひまわり』が……『ひまわり』が燃えている!」

 ひまわり孤児院。
 主にエリューション被害によって親を亡くした子供たちの受け皿としてなかば非公式に設立された孤児院である。
 約十二人の子供たちを一人の老婆が育てている。そんな施設でありながら、定期的に謎の寄付金を置いていく老人のせいで何不自由なく運営できていたのだが……。
「ひまわりが……そんな……」
 駆けつけた善三の前で、孤児院が燃えていた。
 現場には何人かの子供たちがへたりこみ、燃えさかる個人を見上げている。
 善三はその顔ぶれを確認して、眉間に皺を寄せた。
「おい、ノエルはどうした!」
「……な、中に」
 少女のひとりが燃える孤児院を指さした。
 焦りを露わにして駆け出す善三。
 が、彼を遮る者たちが居た。
「おっと。邪魔して貰ってはこまりますねェ」
 色黒で唇の厚い男と、その取り巻きである。取り巻きは皆黒いスーツに身を包み、懐に手を入れている。中心の男は、煙草でかれた声で言った。
「どうも。黒岩といいます」
 身のこなしに自然な威圧感がある。
 それだけで、善三には彼らがカタギの人間で無いことが分かった。
「邪魔するなってのは、どういうことだ……」
「言葉通りの意味です。この施設があると困る人がいるんでね」
「知ったことか。そこをどけ!」
 殴りかかる善三。しかし彼は黒服の一人に取り押さえられ、地面に頭を叩き付けられてしまった。
「ぐっ、くそ……離せぇ!」
 暴れる善三を踏みつける黒岩。
 そこへ、一本の小太刀が飛来した。
 狙いは高橋の眉間。
 だが刺さる直前、何者かの剣によって払い落とされた。
 いや、それだけではない。小太刀がまっすぐ跳ね返り、投げた本人に向かって飛んだのである。
「調子に乗るな。相手には手練れがいる」
 どこからともなく現われ、黒岩を助けた男。
 まるで棒きれのようにやせ細った身体に袴をはいた男である。
 一方、跳ね返ってきた小太刀を掴み取る剣八。
 苦々しい顔で顎を撫でる。
「白田剣山か。白田無動流の宗家がなぁんでまた六道派に味方するかね」
「六道派だと……!?」
 地面に顔を押しつけられながらも叫ぶ善三。
「語りは無粋。押し通るのだろう――早う」
 独特の構えをとる剣山。
 剣八は困った顔をして小太刀を捨てた。
 彼らの向こう側には燃える孤児院。その中には幼い少女。
 さてどうしたものだろう。

●達人
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の説明は以上である。
 要約するに、孤児院を放火したフィクサード集団とリベリスタの戦いに乱入し、フィクサードたちを倒すのが目的だ。
 ただし。
「これは1999年7月の日本……と思われる場所で起きています」
 先日、『15年前の日本につながっている』という特殊なリンクチャンネルを発見した。
 この年の8月といえばナイトメアダウンが起きた月だ。
 このチャンネルがこちらのチャンネルに影響するかどうかすら分からないが、つながったからには放置はできぬ。
 まずはこのチャンネル内で実力を示し、実力の上で発言権と信用を得て、最終的にナイトメアダウンでの被害軽減に当てるというのが目下の作戦である。
 そのために、今回の事件に介入し、実力を見せる必要があるのだ。
「当時の事件は新聞にも残っていますし、なによりアークと交戦経験のある人間たちです。介入するにはいいでしょう」

 具体的な内容は黒岩、白田を中心としたフィクサードグループを殲滅しつつ、火災現場に取り残された3歳の少女ノエルを救出することにあります。
 やり方は自由。さばき方も自由。チーム分けも自由です。
「皆さんの判断を信じています。どうか、よろしくお願いします」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年08月11日(月)22:43
 八重紅友禅でございます。
 登場NPCのシナリオを列挙するとちと多いのですが、代表的な所で
 <六道>斬鉄・白田剣山、抜刀大活劇!
 <六道>斬鉄・路六剣八、抜刀大活劇!
 このあたりによく載ってるでしょう。
 ちなみに1999年当時はお互いかなりの強さを有しているので、例にあげたシナリオでの強さはまるで参考になりません。参考にできるのは性格だけです。
 ちなみに出てくるNPCは2015年現在で9割以上死んでいます。だいたいアークのせい。

●クロスロード・パラドクスのお約束
 正体を明かしてはいけません。
 自分たちが十五年後からやってきたアークだよと教えてはいけません。
 また、当時の人々に対して致命的もしくは影響の大きな未来の出来事をおしえてはいけません。
 理由はちょっと複雑になるのですが、結論から言うとナイトメアダウンの時期や場所がズレたりなんだりで取り返しの付かない事態に発展する恐れがあるからです。
 ご先祖様に会えても、その事実を伝えることは叶いません。

●成功条件
 ノエル救出、白田含むフィクサードの撤退。
 史実(?)でもこいつらはこの時点で死んでいないので、別に逃がしちゃっても平気です。
 皆さんが介入しなかった場合、剣八さんが瀕死の重傷を負いながらもフィクサードを押しのけてノエルを救出し、ぎりぎりなんとかなる……はずです。もっと言うとこの10年後くらいに剣八さんと剣山さんは富船士郎という共通の友人を経て仲良くなっちゃうので、確執もそのうち消えます。
 なので、介入して実力を示すにはいい事件っぽいのです。

●戦闘状況
 剣八は最初から味方ユニットとして配置されています。
 敵はボス格2名と雑魚10名。
 白田剣八、強力なソードミラージュ。
 石黒利夫、強力なクロスイージス。
 あとはクリミナルスタアの雑魚連中です。
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
アウトサイドデュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)

リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)
ハイジーニアスソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
ジーニアス覇界闘士
四辻 迷子(BNE003063)
ハイジーニアスクリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
ナイトバロンソードミラージュ
蜂須賀 朔(BNE004313)

●歴史の二重螺旋
 『バタフライエフェクトはデタラメだ』という説をご存じか。
 たとえ地球の裏側で人類が全滅していてもこちらの社会になんら変化は訪れないという、それはそれは乱暴な説なのだが、ある意味でそれは正しいのやもしれない。
 考えてもみるがいい。
 隣の家で取っ組み合いの喧嘩が起きたとしても、あなたはきっと平然としているだろうから。

●存在しないはずの達人
 史実はこうだ。
 路六剣八は黒岩と白田たちによるガードを無理矢理突破すべく、じりりと早駆けの構えをとる。
 黒岩たちの『並大抵の実力者』に剣八のような逸脱者を差し止めるようなすべはない。
 本来ならそのまま彼らを突破できようものだが、そこには白田剣山というもう一人の逸脱者が存在していた。
 彼の特技は行動の中間動作を省略すること。後手でありながら先手に回るという、反則じみた技術である。
 それはここでも当然活きた。
 黒岩、手下の黒服、それに押さえつけられている善三。その全てが認識できない速さで駆け出した剣八――の頸動脈に白田の刀が添えられた。
 大きく開かれる剣八の目。
 史実であれば首を大きく切断され。呼吸もままならぬ状態でありながらノエル救出に走るところである。
 が、ここに介入したものがあった。
 剣八の首と、白田の刀。その間に挟まる、『不可視の黒九尾』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)の刀という形でだ。
「――ッ!」
 火花散開。
 剣八、白田、リュミエールはお互いを同時に弾き合う形で膠着。それぞれの顔を見比べた。
「どうやら、間に合ったようだな」
 黒服の悲鳴と共に、『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)は刀の血を振り落としていた。
 善三を拘束していた男を切り捨てたのだ。
 切断され、出血し、それが致命傷になった段階でようやく痛みに気づくという速度で、だ。
 振り返るリュミエール。
「今日の私はモロに調子がワリー。後、頼メルカ?」
「私の速度を超えたことに免じて、貸しにしておこう。出来るだけ早く返せ」
 さて、と言って。朔は白田に向けて刀を構えた。
 一旦遅れて『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)が銃を手に駆けつけた。
「ノエルはわたしらが何とかする。その間、こいつらを頼める?」
「そりゃあ殊勝な話だが……信用していいもんかね」
「……」
 アイコンタクトを送る涼子。
 朔は片眉を上げ、剣八の方を見た。
「私たちは通りすがりの『セイギノミカタ』だ」
「なるほど、『セイギノミカタ』なら信用せん道理はないなあ」
 などと話している間に、剣八の意図を察した黒岩たちが防御陣形を整え始めていた。
「アイツら無理矢理押し通るつもりだ。お前ら、身を挺してでも押し止めろ!」
「「応!」」
 黒服たちは両腕を広げ、ブロックの姿勢をとった。
 彼らをスルーして進むのはいくら高速機動が可能な彼らとて難しいだろう。
 そこへ。
「あなた方にどんな狙いがあるかは知りませんが」
 『柳燕』リセリア・フォルン(BNE002511)が真正面から突撃した。
 剣を激しく突き込み、黒服を意識ごと切断。
 わけも分からず味方に銃を乱射する黒服をよそに。リセリアは黒岩へと剣をつきつけた。
「孤児院を焼くなど、流石に見過ごせません」
「ケッ……だったらどうします。この屋敷が焼け落ちる前に、私らを突破する手段があるんですか。オイ、野郎ども!」
 腹から声を張る黒岩。
 すると味方に銃を乱射していた部下がハッと我に返った。
「ラグナロク……」
「さてどうします。通りづらくなりましたよ?」
「子細ねえな」
 リセリアから大幅に遅れる形で『元・剣林』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)が参入。防御姿勢をとった黒服めがけて強引な斬撃を繰り出した。
 腕に鉄板を仕込んでいたらしく、防御はそれなりにできていたが、虎鐵の斬撃を耐えられるほどの強度ではない。
「助太刀する。大人数で二人を『よってたかって』たぁ、剣林じゃ考えられねえぜ」
 黒服の腕は装甲ごと切断され、本人は悲鳴を上げてのたうちまわっていた。
 脂汗を流す黒岩。
「剣林の……? あ、ありえない。こんな奴、聞いたことがないぞ」
 これだけの実力があり、尚且つ大組織に所属しているならば、顔や名前を知らないわけがない。業界の情報に敏感な黒岩なら尚のことだった。
 早くも作戦の続行に不安を覚えた黒岩だが、ここではいそうですかと帰るような愚かさは無い。
「く、くそ! こうなったら――」
「こうなったら、なんじゃ。次の手を見せてみろ、ほれ」
 黒岩が虎徹へと殴りかかったその途端、彼の拳に別の拳が押し当てられた。
 壁を殴ったような衝撃に、思わず後じさりする黒岩。
「な、なんだこの感覚は……」
 そこにはいつのまにか、小柄な少女が立っていた。
 実年齢からすれば少女とは言えぬが。
「路六剣八よ――」
 白髪を靡かせ、頬をほんのりと朱に染めて、『土俵合わせ』四辻 迷子(BNE003063)は振り返った。
「お前につく。理由はいるか?」
「試しに言ってみんかね」
「相変わらず、いじわるをする」
 迷子は頬に手を当て、キセルをくわえ。遠い遠いどこかを見て言った。
「恋心」

●炎の記憶
 焼け落ちる木造屋敷の中を、涼子はひた走っていた。
 あの時点で八人ほどの敵が残っていたが、リュミエールたちがブロック返しを仕掛けたことでギリギリ涼子一人が押し通れる隙間を作れたのだった。
「……」
 千里眼を発動。水平方向を見渡しても人の姿は見えない。が、視線を足下にやったところでようやく見つけた。
「地下、か」
 もし涼子が肉眼だけで探していたなら、もっと時間がかかっただろう。なぜならこの屋敷に『地下行きの階段』などどこにも見当たらなかったからだ。
 足下の畳を無理矢理に引っぺがし、隠し階段を見つける。
 まだここには炎が届いていない。防空壕のような作りになっているのだ。
 恐らくノエルはそれを見越して地下に逃げ込んだのだろう。
「今行く。けど……」
 ちらりと後ろを確認すると、黒服が二人ほど追いかけてきているのが分かった。
 いくら彼らが悪人だからといって、被災者の救出まで邪魔する意味は無い。
 先に屋内へ入られるとまずい理由があるということだ。
 おそらくその理由とは、この隠し地下室だろう。
 あえて畳の位置を元に戻しつつ、するりと地下に滑り込む涼子。
 階段を下りていくと、そこには青白い部屋があった。
 壁も天井も床も何もかもが青白い。
 その原因は、部屋中央にふわふわと浮かぶ正十二面体による照明効果だった。
 直径にして2メートル程度だろうか。
 後々の歴史を連想して、今ここでたたき割っておこうかと思った涼子だが、すぐにその考えは捨てた。こんなものに構っている暇はない。
 部屋の中を注意深く観察すると。小さな子供が部屋の隅で布にくるまっているのが分かった。
 身長に近づく。
 どうやら相手はおびえているようだ。
 無理からぬ。突如家に火が付き、知らぬ人間が隠し部屋にまで入ってきたのだ。
 涼子は彼女の前に腰を下ろし、かけるべき言葉を考えた。
 大丈夫。安心して。助けに来た。恐くない。
 どれも変だ。しっくりこない。
 そして結局。
「ノエル、アンタには借りがある」
「……え?」
「順番はめちゃくちゃで、返せる借りじゃなかったけど。今少しでも返せるわたしは、運がいいみたいだ」
 差し出した彼女の手を、ノエルはそっと握った。
「それでいい。地獄に落ちるには、まだ早い」
 ノエルを腕にかかえ、涼子は階段を駆け上がった。
 問題は、この先に待ち構えているであろう黒服たちだ。

●不動VS無敵
 達人同士の決着は一瞬である。
 が、時としてそれは逆にもなる。
「……」
「……」
 白田と剣八は、地べたに正座したまま微動だにしなかった。
 刀と木刀をそれぞれ脇に置き、背筋を伸ばして座っている。
 まるで戦っているようには見えないが、朔にはその意図が分かった。
 『先に動いた方が負け』なのだ。
 行動の中間を省略する白田剣山。
 相手の土俵で互角に戦う路六剣八。
 それぞれの特技がぶつかりあったことで、膠着状態を作っているのだ。
「な、何をやってるんです! こいつらをぶった切ってくださいよ。そのためにアンタを雇ったんでしょう、白田さん!」
 黒岩にはそんな機微はわからないようで、リセリアたちを必死に追い払いながら口角泡を飛ばしていた。
「道場がどうなってもいいのか! 蒔絵師への出資も差し止めるぞ、いいのか!」
「…………」
 それでもじっと動かない白田に、黒岩はわなわなと震えた。
 当然である。あれだけいた手下の黒服たちがことごとく潰され、道の端でガタガタと震えているのだ。
 虎徹の斬撃で腕や足を失った者、リセリアの剣術で蜂の巣にされた者、朔によって三枚おろしにされた者など様々だ。
 その一部になるだなんて、考えたくも無い。
「わ、わかった。わかりました……あなたちを買います。いくらです、雇い主の倍……いや五倍払う。だから」
「ガタガタうるせえや。吹っ飛べ!」
 風を切り裂き、虎徹の剣が唸る。
 腹に直撃をうけた黒岩はコンクリートブロックの塀を破って隣の民家へと突っ込んだ。
「ひ、ひい……! しし、白田さん。私が逃げる時間を稼げ、いいな!」
 黒岩は部下を置き去りにして逃走。
 虎徹は峰打ちにしていた刀をくるりと返し、吐き捨てるように降った。
「所詮小物かよ。で、そっちはどうだい」
 剣八と拮抗状態にあった白田に目をやる。
 今回虎徹がやろうとしていることは『観察』だ。
 既に虎徹たちは当時でいう達人級の実力を獲得している。やりようによっては自ら超級奥義を編み出すことすら不可能ではない。
 そのための観察である。
 一方で、リセリアと朔は直接挑む気でいた。
「噂の白田無動流、見せて貰おうか」
「今の私がどこまで届くものか」
 同時に構える。
 すると、剣八はすっと正座姿勢のまま後ろに下がった。
「……なにを?」
「この場合、ワシは邪魔になるからな。任せる」
「そうですか。ならば」
 剣八の戦法は常に一対多。味方ができた途端に弱くなるという、特殊な強さであるようだ。
 リセリアはとりあえずの納得をして、白田に意識を集中させた。
 朔とは別方向に、それぞれ扇形にすり足移動。通常両目の死角になるであろう位置で止まると、示し合わせたかのように同時にしかけ――ようとしたリセリアの手首が切断された。
「――!?」
 白田は一切動いていない。
 いや違う。
 刀をとり、立ち上がり、リセリアの手首を切断し、戻り、座り、刀を置いたのだ。
 元の状態そのままに。
 まるでチートだ。肉眼で確認する限りでは結果だけが存在している。
 が、対応できるのはせいぜい一人。リセリアに対応している隙を突く形で朔が襲いかかった。
 切りつけるなどとという生やさしい斬撃ではない。人体を致命的に切断するのだ。
 そも、朔の特技は『人が三手要る斬撃を二手で済ませる』ことである。単純ながらこれほど決定的な有利はない。
 リセリアの被害は、白田を切り伏せるに充分な隙であった。
「貰った」
 朔は白田の正面から首を切断。更に背後に回り心臓部を刀で突き刺――そうと考えた時点で自らの首が切断されていた。
 それに気づいたのは、ごとんと地面に首が転がってからである。
 咄嗟に首を拾い上げて無理矢理胴体に接続。フェイトを削って強制修復をかける。
 リセリアもまた、飛んでいった手首を空中でキャッチし、無理矢理フェイトでもって接続した。
「よもや、この技を見せる相手がこんなところにいようとは……」
 見れば、白田の目が真っ白になっていた。黒目ごと漂白されたようにだ。
 唸る虎徹。
「状況から未来を高度に計算し、自らが相手を封じ込める結果だけを先んじて用意する技、か」
「然様、『真・不動剣山』」
「おもしろい。ならばもう一太刀……」
「まてまて。わしの分が無くなるじゃろう」
 目を大きく開き、再び刀を構える朔……を、迷子が片手で制した。
 迷子はうっとりと微笑むと、手にしていたキセルを放り捨てた。
 両手の平を上にして、手前に翳す。
「『土俵合わせ』四辻迷子……満足させてくれよ?」
「……」
 ぴくりと剣八の耳が動いた。
 よそに、一歩踏み出す迷子。
 どこも斬られていない。
 更にもう一歩。
 無傷。
 茶運び人形のように、均一な歩幅で、ただ前に進むだけの動作を迷子は続けた。
 一歩。
 無傷。
 一歩。
 無傷。
 そして吐息がかかる程の距離に立って、迷子は呟いた。
「やはり年上じゃなあ」
「……」
「いやなに、色恋の話よ。女は恋をせんとすぐに老いるからなあ」
 迷子のやっていることが何なのか、リセリアには見当も付かなかった。
 なぜあそこまで接近できたのか。
 が、虎徹と朔には分かった。
 なまじごり押しが得意な彼らだから分かったことなのだが、迷子は『先んじて封じる手を先んじて封じている』だけなのだ。
 要するに、ただの接近。
 現状維持をしたがる白田に対し、現状維持で返したのだ。
 だがここまでだ。
 ここまでしかできない。
 そして、ここまでで充分なのだ。
「お見事。それぞ、『土俵合わせ』の神髄――」
 気づけば、剣八がすぐ隣にいた。
 同時に手を出し、同時に白田を掴み取り、同時に持ち上げ、同時に蹴り飛ばす。
「どこの誰かは知らないが、その技が証明になった。お前さん……『土俵合わせ』を自力で会得しようとしておるな」
「だとしたら?」
「それで正しい。表八も、それに気づいてくれればなあ」
 大人を見た子供がいずれ大人になるように。
 本当の技とは盗むものではない。
 見て、覚えて、試し、練り上げ、そして自らの一部として会得するものである。
 盗みなど、ほんの入り口。
 子供が大人をまねてシガレットチョコを口にくわえる瞬間でしかない。
 煙草を覚えるのは、大人になるのは、ずっと先だ。
「嗚呼、これだから……」
 迷子は極限の快楽に身震いした。

●あなたが助けてくれたから
 一方、こちらは火災に崩落するひまわり孤児院でのこと。
 涼子は走っていた。
 ノエルの口元にバンテージを巻いて煙を遮り、なんとか脱出可能なルートを探っていた。
 唯一のルートは、二人の黒服が押さえている。
「あいつだ! 取り押さえろ!」
「余計な仕事を増やしやがって!」
 拳銃を取り出す黒服たち。
 銃口がぴったりと涼子の額に向いた。
 すると。
「おいてって」
 腕の中から声がした。
 くぐもった声だ。
「おいてって。あんた、うざいよ」
「……」
 ノエルだ。
 涼子は彼女を見下ろした。
 こんな幼い頃から、拒絶のすべを覚えたのか。
 誰が。
 どんな事件が。
 こんな小さな子供に他者を拒絶する心を植え付けたのか。
 涼子の頭に、血が上るのが分かった。
「まだ早い」
 言うやいなや、涼子はノエルを抱えたまま書けだした。
 銃撃がくる。
 左目に直撃。
 後頭部へ貫通。
 もう一発がノエルに迫るが、身をひねって肩で受けた。
 筋肉を引き締めて弾丸を納めた。貫通させてはノエルに届く。
 だから納めたのだ。激痛が全身を駆け抜けるが、無視した。
 驚く黒服たちを突き飛ばす勢いで駆け抜け、そのまま庭へ転がり出る。
 黒服たちも追いかけてきたが、既に黒岩も白田も居ないことに気づいたのか、真っ青になって逃げ出した。
「……やった」
 涼子はそうとだけ呟き、意識を失った。

●初富初音邸
 まる焦げになった家を前に、善三は地面を殴り続けていた。
「俺たちの、俺たちの家が……! 守れなかった、家を……俺は……!」
「善三君」
 彼の横に立ち、朔は言った。
「強くなれ。望みを通したくば、誰にも負けるな」
「アンタ、なんなんだ……」
 涙に濡れた顔を上げる善三。
 朔は苦笑した。
「君たちの望む世界を、見たがった者がいたのだ」
 もう死んだがね。
 その笑顔に何も言えず。
 若き日の善三はただ泣いた。
 『誰も死ななかった日』の、出来事である。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 またの参加をお待ちしております。