●ルゴ・アムレスの黒塔 ボトム・チャンネル。 それは階層上になっている世界において、一番下であるという世界のこと。 故にボトムチャンネルは上位世界からの脅威に晒されてきた。時折Dホールを渡ってくるアザーバイドにより、大きな被害を受けることもある。それに対抗するためにリベリスタは徒党を組み、組織だって警戒に当たっているのだ。 さて、上位世界にもいろいろな世界がある。ボトムチャンネルよりも広大な世界も在れば、ただ樹木が一本生えているだけの世界も。時間が止まった世界もあれば、今まさに消え去ろうとする世界も在る。 そんな世界の一つ、ルゴ・アムレス。 半径五キロ程度の大地に、天を衝くほどの黒い塔が存在する世界。そこは多種多様の戦士達が集う修羅の世界。 その塔の上にこの世界のミラーミスがいるといわれ、今なお塔は天に向かって伸びていた。何を目指しているのか、誰にも分からない。狭い世界ゆえに、塔はどこからでも見ることができる。 そして塔の中は、階層ごとに異なっていた。町が丸ごと入っている階もあれば、迷路のような階もある。そしてこの階は……。 ●金網のリング 「来たか新たな挑戦者達!」 「我等がこの階の守護者。上の階に行きたければ戦いに勝つがいい!」 「臆病風に吹かれれば負けを見るでごわす。尻尾を巻いて帰るなら今のうちでごわすよ」 やたら大声でリベリスタを迎え入れたのは、一言で言えばカニ男の三兄弟だった。下半身は間違いなく人間のそれなのだが、上半身は硬い甲羅に覆われておりその両手も鋏そのもの。それ自体が凶悪な兵器であることを誇示するようにリベリスタを挑発する。 「私の名はキヨモリ。この鋏さばきについてこれるかな?」 甲羅の紋様が人に見える長男が、わざわざ背を向ける。 「俺はハナサキ。触れると怪我するぜ!」 トゲトゲだらけの甲羅を誇示するようにポーズを決める。 「あっしがマントウでごわす。毒霧で攻めるでごわす!」 毒々しい甲羅をしたカニ男が、見せ付けるように毒の霧を吐く。ぶはぁ、と紫色の霧が充満する。そして、 「そして戦いの舞台はこちらだ!」 「闘技場に逃げ場なし! 後ろに下がれば金網でダメージのデスマッチ!」 「勝利条件はただ一つ。どちらかが全滅するまででごわす!」 三兄弟に言われてみた先には、半径五メートルにも満たない小さなリングと、それを囲むように仕切られた鉄製の金網。飛ばされれば死にはしないが結構痛そうだ。 後衛、という概念はこの闘技場にはない。常に敵の攻撃にさらされるのだ。 そして相手はというと、 「あ、試合前に君らの世界のこと教えてくれん? 僕らそれ楽しみで」 「前に来た人がゲタルゴっていう武器使っててなぁ。アレは効いたわ」 「甲羅があるから柔軟とか大変でなー。聞いてこの前――」 パフォーマンスは終わった、とばかりに砕けた口調で語りだす。こちらのほうが素なのだろう。 だが、戦いが始まれば手加減はしない。それは彼らの瞳が語っている。仲良くなったからといって、手加減をするような相手ではない。むしろ仲良くなる手段として全力で戦う戦闘狂(タイプ)だ。 互いの準備が終わり、闘技場に入る。若干圧迫される気もするが、動けなくもない。 今高らかに戦いのゴングが鳴る。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月14日(木)22:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「折角観客居るんですし、戦闘前に因縁的なパフォーマンスをやりませんか?」 『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)は戦う前にカニ三兄弟に提案する。 「人数差的にそっちがベビーフェイスで……」 「いや、俺たちも派手なヒールで売ってるから、こちらが悪役を。……そうだな」 キヨモリは試合前に沢山食べ過ぎて寝ている五十川 夜桜(BNE004729)を見た。元々三高平中等部の制服を短くカットしてあることもあり、目のやり場にこまる寝姿である。 「お姫様だな」 「ですね。ではその路線で」 「今宵の挑戦者は異世界からの来訪者。誘拐された姫を攫うべく、悪魔の住むこの当に挑んできた猛者共だ!」 リングに上がったリベリスタは試合前のアナウンスに首をひねった――うさぎ以外は。 そしてこの場に夜桜がいないことを怪訝に思うが、その疑問はすぐに解決した。リングのうえに宙吊りになっている金網の檻。そこに縛られた夜桜が捕らわれているのだ。 「……え?」 「もがもがもがぁ!」 縛られて猿轡まで噛まされている。当人もびっくりのようだ。 「しかし悪魔は姫を人質に取り、異邦者たちをこの地獄の箱に誘い込んだ! 彼らは悪魔を倒し、囚われの姫を助けることができるのか!?」 「なんてことだー。夜桜さんを助けないとー」 ものすごく棒読みでうさぎが告げる。あー、うん。そういうことか。なんとなくリベリスタは察した。色々白かったんだろう。 「なんてことだっ! 仲間を人質に取るなんて許せないぞ!」 叫ぶのは『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)だ。彼もなんとなく趣向はわかったらしい。仲間を救いにきたものと、それを迎え撃つカニ三兄弟。そういうショーにして、客を沸かせようとしていることに。 「……好きにしろ」 ため息と共に言葉を吐き出す『ミザントロープ』キャル・ユミナ(BNE005000)。どうあれ無事が確認されているのなら言うことは何もない。今はただ、力を得るために戦うだけだ。吐いた息を吸い込むと同時に、闘気を高めていく。 「そうね。飛んで助けに行けそうな高さだし。後で助けてあげるわ」 悔しそうな顔をする夜桜に手を振る『黒き風車と断頭台の天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)。今は目の前の敵に集中するのみだ。戦いの前の高揚感。破界器を手に、心躍るフランシスカ。 「見世物、にされてるのは、ちょっと気になる、けど……ま、いいか」 周りからの歓声を気にしながら『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)は重心を落す。いつでも戦闘開始ができる体勢だ。例えるならそれは、得物を前にしなやかに構えるネコのよう。月のように曲がる刀の如く、しなやかな構え。 「いいだろう。俺たちの実力を見せ付けるいい機会だ」 逆に客の歓声を受けて『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)は小さく微笑み、メガネのブリッジを押し上げた。最下層の存在である自分達が上の階層の存在を魅入るほどの戦いをする。これこそ冥利に尽きるというものだ。 「任務をこなすのみだ」 そして歓声に流されることなく『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は静かにハンドグローブを装着する。この世界への係わり合いは深い。こうなれば最後まで付き合おう。この塔の上に何が待つのか。まずは彼らを打破するのみ。 「覚悟はいいか、異邦者よ!」 「俺たち三兄弟のコンビネーションを前にどれだけ持つかな?」 「あっしらは手加減しないでごわす!」 カニ三兄弟も準備を終えたとばかりにリングの上で腕……鋏を組む。そのリングにあがるリベリスタたち。 金網リングの入り口が閉まり、電流が流れる。試合開始の合図と共に、一斉に動き出した。 ● 「いくぞっ!」 真っ先に動いたのは鷲祐だ。誰よりも先に出て、戦術の楔を打つ。それはこの乱戦でも変わらない。ただそれだけを研鑽し、そしてそれを軸にするのが鷲祐の戦術。自らの神経を神秘強化し、マントウに迫る。 手にしたナイフを回転させて逆手に握る。イメージは鋭く、鍛えぬいた体はそのイメージを沿うように動いてくれる。圧倒的な速度を殺すことなく振るわれたナイフは、マントウの甲羅の隙間を縫うように動き、傷を入れる。 「追い切れるか? この動き」 「星川・天乃……参る、よ。さあ、踊って……くれる?」 鷲祐の動きが高速の刃なら、天乃の動きは静かな刃。気がつけば懐に入り込み、そして傷つける。淡々として途切れがちな口調だが、だからといって攻撃はけして途切れない。力尽きるまで全力で天乃は攻め続ける。 握った手の平を開き、黒い鋼糸を形成する。神秘の力で生み出した糸が甲羅に絡みつきその動きを封じる。体格の差を技術でカバーし、相手の動きを封じ込める。そしてそのまま力を篭めて、位置を相手の甲羅に食い込ませる。 「闘争の宴……楽しませてもらうよ」 「卑劣なカニたちめ! 正義の鉄槌、受けてみよ。変・身!」 疾風はポーズを取って跳躍し、幻想纏いを起動させて『強化外骨格肆式[天破]』を身にまとう。空中で一回転して着地し、再度ポーズを決めた。カニ三兄弟はそのためにスペースを空けて、手を出さずにいた。 「何ぃ!? 貴様はまさか!」 「Brave Hero! ここに参上!」 ポーズを決めると同時に疾風が走る。手にした剣を手に相手に迫り、大上段に構えて振り下ろす。手の平に甲羅の硬さが伝わってきた。疾風はそのまま力を篭めて剣を進め、甲羅を裂いていく。 「グワアアアアア! やるな異世界のヒーロー!」 「即興で相手にあわせるとは、さすがですね」 見た目はヒーローショー。だけど中身は結構ガチバトル。それでもあわせてくれるカニ三兄弟にうさぎが慄く。出会った場所が違えば、いい酒が飲めたかもしれない。それはそれとして攻撃の手を緩めるつもりはないのだが。 手にした半円状の破界器を手に、うさぎは相手の位置を確認する。即座に優先順位を定め、破界器を振るった。一、二、三……! 破界器に備え付けられた十二の刃。それが三兄弟の体を傷つける。赤い血がリングを染め、観客がその色に沸き立つ。 「袋叩きとか実にヒール!」 「ふん……集中砲火は戦術の基本だ」 合理的に言い放つキャル。数の多さも強さの一つだ。集団であることの利益は活用しなければならない。勝利とは積み重ねた努力と、勝つために戦略を絞ったもにのみ訪れるのだ。打てる手は全て打つ。 キャルはルーン文字を刻んだ長剣と短剣を構える。戦場を俯瞰した図をイメージし、マントウに迫る。仲間を巻き込まないように計算しながら二刀を振るう。短剣が生んだ風圧がマントウを吹き飛ばし、金網に押し当てる。金網に流れる電流が、マントウに更なるダメージを与えた。 (これも戦術の一つ。状況を利用し、最大効率で動く。力で劣る僕にできることだ) 「金網デスマッチ! 燃えるよね!」 六枚の黒羽根を広げ、フランシスカが宙を舞う。手にした大剣を振るい、ハナサキの近くを飛びまわる。この状態では相手をブロックする意味はないが、自在にさせておくのも厄介だ。一番攻撃力が高いのはハナサキなのだから。 自分の身長ほどの巨大な剣を両手で抱え、羽根を広げる。まずは戦士として鍛えぬいたフランシスカ自身の筋力。そして梃子の原理を利用した剣を振るう技術力。そして機を逃さぬ経験と知識。三位一体がそろった黒の風車。フランシスカの一閃がハナサキの甲羅を削る。飛び散ったハナサキの棘がフランシスカを傷つけた。 「いったいわねー! さすが、伊達じゃないわね」 「油断するな。形はああだが、油断ならない相手だ」 ウラジミールが仲間達に再生の付与を行いながら、注意を促す。回復を捨てた前のめりパーティ。この再生のみが彼らの癒しなのだ。ナイフを防御の構えにしながら、じわじわとマントウに迫るウラジミール。 相手の攻撃を誘うように、マントウの鋏にナイフを振るうウラジミール。その挑発に乗る形でマントウがウラジミールにナイフを振るった。その一撃をハンドグローブでそらしながら、カウンターでナイフを叩きつける。 「「『挨拶(プリヴィエート)』だ」 「やるな。さすがこの階まで上ってきただけはある」 「だが私達のコンビネーションに――」 「ついてこれるでやんすな?」 ハナサキ、キヨモリ、マントウの順に挑発する。事実、彼らのコンビネーションは厄介だ。毒を与えるマントウを先に行動させ、ハナサキの火力を最大限に生かすように動く。 「コンビネーション、という事なら……ま、この面子でも負けてはいない、ね」 天乃はカニ三兄弟の動きを認めながら、しかし負けないと告げる。事実、リベリスタは激戦を潜り抜けてきた。それは個人の能力だけではない。集団戦において、アークのリベリスタは簡単には負けてやるつもりはない。 戦いは激化する。それを示すように観客の声は大きくなっていく。 ● リベリスタは厄介な毒をもつマントウを集中放火する。カニ三兄弟の戦術のキモと察したか、単に厄介なバッドステータスを恐れたか。 「何あっても自分がフォローするから安心しろ」 マントウの毒やキヨモリの呪いをウラジミールが癒していく。ナイフでキヨモリの動きを制限しながら、穢れをはらう光を放つ。その働きは戦力的且つ精神的にそこにいるだけで安堵をもたらす歴戦のリベリスタ。 「まだだ」 「これで終わる、なんて……もったいない、ね」 しかし三兄弟も負けてはいない。ハナサキの鋏が猛威を振るいキャルと天乃を追い込んでいく。運命を燃やしてその攻撃に耐え、反撃とばかりに破界器を振るう。 「こっち、だよ」 敵や味方の背中を足場にしながら天乃が舞う。三次元的な動きに慣れる間もなく叩き込まれる手甲。時に上から、時に横から。相手の間合を外し、自らの間合に持ち込む。言葉こそ短いが、彼女は戦いの高揚感に心躍らせながら戦場で舞っている。 (そういえば金網に吹き飛ばしてこない所を見ると、挑戦者へのサービスかな) キャルは二刀をふるってマントウを金網に押し当てながら、相手の意図を考えていた。有利不利を考えれば、この金網を最大限利用したほうがいい。あえて不利を選び、その環境下でどこまで戦うか。それもまた強さなのだ。 「そもそも彼らの方に電流を利用する気がありませんものね。小気味の良い事ですよ全く……」 うさぎもまた、カニ三兄弟の戦術を見ながら息を吐く。彼らが待ち受け、用意する。罠の一つでも仕掛けることはできるだろうに、それをしない。その潔さに答えるように、全力で挑みそして勝つ。それが彼らに対する礼儀だ。……勿論、その方が楽しいということもあるが。 「カニー!」 うさぎの攻撃を受けて、わざわざ悲鳴を上げて倒れるマントウ。 「単独行動する獲物だ。背中から狙うといい。……その時の背中は、俺の仲間の獲物だ」 鷲祐はその速度と回避性能を生かして、単独でキヨモリを挑発する。その挑発に乗る形でキヨモリは鷲祐に集中する。キヨモリの攻撃を見切って避ける鷲祐の動きに、観客が魅入られたように湧き上がる。 「あんたのパワーとわたしのパワー……どっちが上か勝負よ!」 フランシスカとハナサキが火花を散らしていた。宙を舞い大剣を振るうフランシスカと鋏を振るうハナサキ。共にパワー型のファイターが防御を捨てて斬りあっていた。意識を失いそうになるところを運命を燃やして耐え、笑みを浮かべてフランシスカは吼える。 「まだまだ負けないわよ!」 「その通り! 鉄槌を受けるがいい!」 ハナサキとの戦いに加わる疾風。相手の懐に入り込み、突進力を殺すことなく刃を振るう。狙うは甲羅と甲羅の隙間。神経を研ぎ澄ます。時間の流れがコマ送りのようになり、ゆっくりとした動きで刃を沿わせる。そして集中をとき―― 「……やるな」 切られた場所を押さえながらハナサキが笑みを浮かべる。これはパフォーマンスかそれとも本気の言葉か。 マントウが倒れればハナサキを狙うリベリスタ。フランシスカの与えたダメージもあり、ハナサキの撃破に時間はかからなかった。 ――主ダメージ源のハナサキが倒れたことにキヨモリの逆転の目は潰えたといっても言い。 だが、それは彼らが試合を止める理由にはならなかった。 「矢折れ刀折れるとも、このキヨモリは降伏などせぬ!」 その心意気やよし、とばかりにリベリスタはキヨモリに迫る。 「俺達を見るがいい。最底辺<ボトムズ>からの来賓だッ!」 キヨモリの真正面から鷲祐が迫る。強引に上着を脱ぎ、真上に放り投げた。風の抵抗を受けてぶわっと舞う黒革吹雪。見入ったのは僅かな時間だが、神速にとってはその僅かでも十分な時間。 「さぁ、真正面から――撃たせてもらうッ!」 圧倒的な速度が生み出す斬劇空間。ナイフの軌跡が幾重にも重なり、キヨモリを切り刻む。 「……無念っ!」 相手を称えるように立ちつくし、天に吼える。そして背中からキヨモリは倒れ伏した。 ● その後、観客から鳴り止まぬ歓声を受けてながら花道を通って帰ったリベリスタ。あ、夜桜を閉じ込めていた檻は破壊しました。 「あー、今回はきつかった」 パフォーマンス要素があったとはいえ、戦い自体は本気でやりあったカニ三兄弟。傷口を押さえながら椅子に座り込んだ。みしぃ、と小さく椅子がきしむ音。 「でも『ボトムチャンネル』か。下チャンネルってのも大変だよなぁ」 試合前にリベリスタと色々話をしたキヨモリが、リベリスタを労う。アザーバイドからそんなことをいわれる経験があまりないこともあり、返答に困るリベリスタ。 「見た目は面白いけど中々侮れない相手だったわ……まあ、十分に楽しめたしとても満足よ」 フランシスカが傷口を治療しながら健闘を称える。実際、特殊なフィールドでの戦闘は十分に楽しめた。次の階はどのような戦いが待っているのだろうか? それを思うと休憩無しで上階を見に行きたくなる。 「俺にも弟がいてな。できることなら、お前達みたいな兄弟関係に憧れる。……ま、カニはカニらしく、仲良く横に連なっているんだな」 鷲祐がカニ三兄弟の仲のよさを思い出しながら、笑みを浮かべる。ボトムチャンネルにいる弟を思い出し、思いをはせた。共に背中を預けられる戦友にして兄弟。血縁はそれぞれだ。 (……まだまだだな、僕は) キャルはため息をつきながら、この戦いを振り返る。相手に勝利したが、それでも反省すべきところはある。この戦いで何ができたか。どうすれば今以上の結論が出たか。研鑽を怠らないことが、強さへの一歩だ。 「ぶーぶー」 虜の姫様役だった夜桜は、唇の先を尖らせて不満を露にする。暴れたくはあったが、寝過ごした自分が悪いのだから仕方ない。そんな表情だ。 「しかし……自分たちの世界にいる生物と近しいものがが多いようだな」 ウラジミールがこの異世界での戦いを思い出しながら、疑問に思ったことを口にする。アークの報告書によれば、この世界に襲来したアザーバイドも何らかの動物を示す事項があったという。神秘に常識は当てはまらないというが、ここまで重なると聞いてみたくもなる。 「そうなの?」 「ハナサキガニ、スベスベマンジュウガニ……キヨモリ、はヘイケガニ、かな?」 天乃も同じことを思ったのか、カニ三兄弟を指差しながらカニの系統を告げていく。その特製もボトムチャンネルのカニ由来だ。探せば他のカニの系統もいるのかもしれない。天乃としては、それと戦えるか否かが重要なのだが。 「まー、そりゃ。オレ達は生まれたときからこうだから、正直へーとしかいえないんだけど」 「でも似てるって言うなら――」 「ミラーミスの影響かもなぁ」 ミラーミス。それは世界そのものを指す生命体。このルゴ・アムレスに人為的な影響を与えることができる可能性があるとすれば、それはミラーミスぐらいだろう。その程度の発言だ。 「……ミラーミスか」 疾風は眉に皺を寄せて小さく呻いた。それは他のリベリスタたちも同じだ。アーク設立の経緯上、ミラーミスという単語には敏感になってしまう。昨今の恐怖神話事件もあり、異世界のミラーミスにはいい感情を持ちづらい。 沈黙が場を支配する。リベリスタ側は思案に意識を取られ、カニ三兄弟は自らの発言が産んだ状況に思わず戸惑い。 「あ、そうそう。お弁当作って来たんですが食べます? お茶もありますよ」 そんな沈黙を破ったのは、うさぎだった。幻想纏いから大きな魔法瓶と重箱を取り出し、テーブルに広げる。おかずの色彩が目を引き、お茶の香りが広がった。場の空気を払拭し、和やかな歓談に戻る。 「ところでゲタルゴってどんな武器だったんです? 形とかどう使うとか、気になります」 「オレ達はそこの兄さんが着ていた甲羅が気になるなぁ。ぴかって光って身にまとったアレ」 「この強化外装骨格は――」 Dホールの限界が近づき、ボトムチャンネルに戻るリベリスタ達。 改めて異世界のミラーミスを意識する。ボトムチャンネルに似た世界。ボトムチャンネルの生物を模した住人。もしかしたら他の異世界の文化もあるのかもしれない。 その秘密を知ると思われるミラーミス。それは黒塔の最上階に―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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