●とある暑い夏の1日 商店街を歩く、赤い髪赤い目をした中年の男。彼はたくさんの荷物を運びながらも、少々いらいらとしていた。 「おい、まだ買うのか……?」 嬉々としてショッピングに勤しむ女性は、男の妻だ。荷物持ちを任された男、飛鳥・一はその妻のように呆れ返ってしまう。 一緒に付き添うのは、彼らの娘2人だ。最初は嬉しそうにだんごの歌を歌っていた彼女達だが、母があちらこちらと自分の買い物を行うものだから、すっかり退屈してしまっていたようだ。 「ママ、お腹すいた~」 「もう足が痛いよ」 小学生と幼稚園の娘達は母親にすがりついて訴える。ただ、母親の買い物は今しばらく続きそうだ。 「ん……?」 一のAFが音を鳴らす。どうやら仲間からの連絡らしい。 「近場でエリューションが現れただと!? 分かった。すぐ行く!」 一は服を手に取っていた妻に荷物を押し付けて店外へと走り始める。 「ちょっと、あなた!」 妻は夫へと叫びかけるがもう遅い。一はもう見えないところにまで駆け出していた。 「パパ、行っちゃった」 小学生の娘が茫然と呟く。妹がきょとんと母親を見上げる。 「いいのよ。あの人はああなったらもう止められないわ」 母親は夢中になっていた買い物すらも忘れ、人々を守りに出向いた夫を思い、微笑む。 それは、猛暑となった暑い夏の一日の出来事だった。 ●特別なリンクチャンネル 三高平市『内部』に突然現れたリンクチャンネル。 アーク側の調査によると、このリンクチャンネルは特殊な性質を持っているようだ。この先にあるのは、『現在の世界の過去である可能性』。そして、そこは1999年7月の日本なのだという。 この頃の日本は世紀末を迎え、ノストラダムスの大予言が今か今かと騒がれていた。何事もなく、7月を乗り切ることになるのだが、翌月13日に起こったのは……ナイトメアダウン。『あの』R-typeが日本に破滅的な結末を及ぼす。この世界においても、それは『未来』として観測されている。 この世界が本当に我々の歩む世界の過去はどうかは分からない。ただ、壊滅的な被害に合うと予測されるこの世界を、放置できるはずもない。 「皆には、この世界が私達の世界の現在に繋がる世界なのかを、見定めてきてほしい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がリベリスタ達へと懇願する。そして、ナイトメアダウンを目前に控えているかも知れない『その世界』でリベリスタ達の消耗を抑え、総力を静岡県東部に結集させておきたいと語る。 「ただ、その世界の人達には、自分達の正体は明かさないで」 リベリスタ達は10数年後の世界からやってきたと話すことで、不測の事態を生み出しかねない。リベリスタ達としてはあくまで、この世界のリベリスタを助けることに尽力してほしいのだ。 「無事の帰還を願っているよ」 リベリスタ達は今、自分達ができることに力を尽くす。今度こそ、日本の黄昏を回避する為に。 ●夏のはじめに戻って さて、1999年7月の世界。 商店街で少年の散歩していた柴犬が突如、E・ビーストへと変貌してしまう。この場に駆けつけた一は真っ先に強結界を張る。 「ふん、フェイズ1が1体ごとき、俺だけで十分だ!」 一は己の拳をE・ビーストへと叩き込む。犬はこれでもかと口を開いて一にかぶりつくが、それほどのダメージではない。これなら。 しかい、一は気づいていなかった。この犬をエリューション化たらしめた、元凶がいたことに。 「ガルルルルル……」 そして、すぐに現れる新手の敵。人間よりも大きな犬が、街を闊歩して歩いてきた。それこそが、少年がリードで引いていた柴犬をエリューションと化した元凶だ。少年は強結界の中でなお、自分の柴犬を守ろうと立ち振る舞う。 「危ない、早く離れろ!」 一は少年の危険を察して、身を挺して守ろうとする。先の柴犬だけならば個人でもどうにかなったかもしれないが、フェーズ2の敵がまじっているとなると……。AFで連絡をとった仲間が駆けつけるまでは持たせなければと一は考える。 「ねえ、どうしたんだよ!」 柴犬へと必死に呼びかけを続ける少年。しかし、E・ビーストとなった柴犬は、少年を主と見るどころか、倒すべき敵として認知してしまう。大きな口を広げる柴犬から、一は少年を守ろうとして……。 「くっ……」 肩を食われ、血を流す一。さらに、新手のE・ビースト達がゆっくりと近づいてくる。 「ただでは倒れんぞ。さあ、かかってこい!」 一は1人、E・ビーストの群れに立ち向かっていく……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:なちゅい | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月06日(水)22:29 |
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■メイン参加者 5人■ | |||||
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●1999年、夏 照り付ける太陽、ジメッとするような熱気を伴う空気。ドイツ人である『「Sir」の称号を持つ美声紳士』セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276)にはこの暑さは応えるようである。 「過去の世界への扉、か」 その扉を開いた『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)は、とある商店街へと降り立つ。 過去への扉を開いたリベリスタ達は20世紀末の日本にいた。夏の暑い一日。戦いもしないのに、リベリスタ達からは汗がにじみ出す。 『いつか迎える夢の後先』骨牌・亜婆羅(BNE004996)は自身の世界とさほど変わらない気分すら感じてしまう。 「あたし達の世界から見て、この世界の位置づけはよくわからないけれど……。崩界を阻止し命を護る。何も変わらないわよ、あたしには」 この世界がどんな場所であったとしても。彼女は自身の信念を貫こうと考える。 「つっても、死地に追いやる為に助ける、っつーのはどうもスッキリしないが……」 そこまで独りごちたエルヴィンは、言葉を止めた。 (あんまり入れ込みすぎると、欲張っちまいそうだからな) 今回守るべき相手は、死ぬ運命が定められてしまった者だという。エルヴィンは内心、その運命までも捻じ曲げてしまいたかったのかもしれない。 「過去も未来も関係ない。俺も何時も通り、ただ癒して護るだけだ」 「目の前の一般人、リベリスタが傷つくことを防ぐ、舞台がちょっと違うだけでやることはいつも通りね」 この時代の自分は、日本に足を運んですらいない。それだけに、いつも通り依頼に当たろうと、『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)も考えていたようだ。 さて、一行の前方に見えてきたのは。 「強結界……この先ね」 亜婆羅が目にする強結界の中にはE・ビーストがいて、この時代のリベリスタが1人、孤軍奮闘しようとしている。 「深化のない時代のリベリスタの目に、骨の翼ってどう映るのかしら?」 亜婆羅はふと考える。彼女は幻視で翼を隠し、フォームアルテミスを使用した。 「ま、見た目怪しくても行動でわかって貰えばいいわよね。さあ、救出・護衛・狩りってね」 結界内に突入する一行。1人の男がE・ビーストへと叫びかけている。赤い髪赤い目。体育会系で暑苦しい印象の男だ。 「ふん、フェイズ1が1体ごとき、俺だけで十分だ!」 その男の姿に、『フリーギダカエルム』明神 涼乃(BNE003347)は思わず表情を和ませた。 (こういう形で再び目にするとはな……) 彼女の師、飛鳥・一。ナイトメア・ダウンで亡くなって久しいが、別のこの世界でも、生前の師と変わらぬ姿を見て安堵してしまう。 (……同時に、猪突猛進だと叱りたくもなるが) 涼乃は緩みかけた表情を引き締め、事態の収拾に当たる。 ●説得と、敵の増援と 結界から逃げる通行人。E・ビーストと化した柴犬はすでに周囲の人々を敵と認識して襲おうとしていたのだ。それは、主である少年も例外ではない。 「ペロ!?」 ペロとは、柴犬の名か。少年が必死に呼びかけるも、唸り声を上げる犬はどうみても正気とは思えない。瞳を真っ赤にし、少年へと食いつこうとするのを、一が庇う。 「どうやら、お痛が過ぎたようだな!」 一気に柴犬との間合いを詰めた一は、その体をつかみ取り、強引に投げ落として地面に叩きつける! しかしながら、それで倒れるエリューションではない。すぐに起き上がり、敵と認識した一を食らわんとする。 「ちょっと大人しくしててね。目立って標的になりたくないでしょ?」 話に夢中だった女子高生達は、ようやく周囲の異様さに気づいたところだった。真っ先に駆けつけたソラに避難を促された2人だったが、異様な大きさの犬を目にして腰が引けてしまったようだ。 涼乃は式神『影人』を召喚する。必要に応じて一般人を庇えという主の命に応じた影人は、女子高生の元へと移動していった。 また、E・ビーストとなった柴犬のそばには、今もなお飼い主である少年がすがりつく。 「ペロ、ペロ!?」 飼い主の言葉を全く耳に入れず、柴犬は一に鋭い爪を振り下ろす。 「通りすがりのリベリスタだ、助太刀するぜ!」 そこにエルヴィンが一を護るように現れた。背中を向けつつ一の回復を図るのは、彼なりに敵対心の無いことを示すアピールだ。ただ、彼は行うべきマイナスイオンの活性化をし損ねていたようである。一はすぐには警戒心を緩めたりはしない。 「何だ、お前達は?」 「貴方と同じ目的のリベリスタだ」 「Mr.飛鳥を護るべく、この場へと駆けつけたのだ」 ソラ、セッツァーも説得に当たろうとするが、その見た目の違いや異様さ、2人の話す内容にズレもあり、一とのコンタクトがうまくいかない。 そこに、涼乃が駆け寄ってくる。 「仕事帰りに騒ぎが耳に入った。動かないでください、癒します」 「おう、こいつらはお前の仲間か」 涼乃は頷き、傷癒術で傷つく師を癒す。あくまで、この世界の自分として。 そのやりとりの間、わずか20秒。 結界に新たな敵が忍び入る。あからさまに通常の個体よりも大きいダルメシアン。それに、ドーベルマンを3体率いている。新たな配下を群れに取り込むべく、この場へとやってきたのだろう。 新手の存在に亜婆羅も気づき、一に声をかける。 「あたし達もリベリスタとして、援護させてもらうわ」 獣の吐息と唸り声が静かに鳴り響く。戦いはこれからが本番だ。 ●応戦と、説得と メンバ―達はできる限り、ダルメシアンから距離を取ろうと試みる。 (混乱してこの子達を襲うわけにもいかないじゃない) 亜婆羅の思うことはもっともだ。ボスであるダルメシアンの魔眼には混乱を引き起こすと資料にはあった。混乱して守りべき一般人に攻撃を仕掛けては元も子もない。 鼻息荒く現れるE・ビースト。ダルメシアンは現れるやいなや、大声で吠える。一は耳を塞ぎ、それをやり過ごして新手を睨み付ける。 「増援……フェーズ2か?」 現れたのは戦士級。それがリベリスタ1人では相手にするのが難しいことも承知。それでも、一は人ほどの大きさの敵へ立ち向かわんとする。 「その子供とあの女の子達、頼めるか?」 エルヴィンは拳を構える一を抑え、この場に残っていた一般人の護衛を促す。亜婆羅も一般人の避難を考えていたのだが、女子高生は自力での退避ができず、少年は飼い犬を心配して離れようとしない。 対するE・ビースト達は牙を剥き出し、爪を光らせて周囲にいる人全ての生を奪おうとする。 セッツァーはそれらを受け止めた。絶対者の力で毒を無効化し、バリアシステムで生み出したエネルギーの力場でダメージを軽減させているとはいえ、立て続けに繰り出されるE・ビーストの攻撃は脅威だ。 「さぁワタシの声を聴きたまえっ」 自らの血液を黒鎖と化したセッツァーはすっと息を吸い、歌い始める。ビブラートのかかった歌声は、さすがはオペラ歌手。彼の歌に導かれるように、黒鎖が伸びドーベルマンを捕らえる。 涼乃も同じくドーベルマンを狙う。彼女の後ろには、少年を護ろうとする師の姿があった。 「俺のことは構うな。行け」 背中からかけられる師の言葉はこれ以上ない激励の一言。それを耳にした涼乃が符術で作り上げた鴉を飛ばすと、射抜かれたドーベルマンの体を毒へと侵す。彼女はさらに、ダルメシアンから配下を引き離そうとゆっくり移動していく。 「俺が相手になってやるよ、他のところにはいかせねぇ」 不敵に笑うエルヴィンがダルメシアンの前に立ち塞がる。ダルメシアンはふんと鼻を鳴らして彼を威嚇した。 柴犬からの攻撃を防ぎながら、亜婆羅は少年へと呼びかける。一も柴犬の攻撃から盾となり、少年を庇おうとしていたようだ。 「その犬が皆に怪我を負わせているわ。あなたも、皆も、これ以上怪我をしないように必要なの。分かって」 ここからなんとか避難してほしい。亜婆羅が少年の説得に当たるが、彼は頑なだ。 皆がE・ビーストの攻撃に耐えている間を見計らい、ソラも少年の説得にあたる。 「貴方のワンちゃんは苦しんでるの。本当なら飼い主である貴方を襲いたくなんてないでしょうけど、悪い病気に掛かっちゃって凶暴性が抑えられなくなってるの」 「……本当?」 爪を振り回す柴犬。少年は変わり果てた愛犬を見やる。 「本当にあの子の事を思うなら、私達の言う事を聞いてここから離れてちょうだい」 それでも、少年はすぐに動かない。 「少年。あの犬は今とても苦しんでいる。このままにしていても苦しみが続くだけなんだ。どうかわかってはくれないだろうか。あの子の天国への道案内は、私がしよう」 さらに涼乃が言葉を続けると、少年は小さく頷く。結界の外に向けて歩き出した少年を、ダルメシアンが不意に見つけた。エルヴィンは舌打ちしてボスを抑えようとするが、間に合わない。 ただ、セッツァーがいち早く、敵の動きに気づいていた。 「ははは、君達の相手はワタシだ。余所見をしている暇などあるのかい?」 彼は再度声を響かせて、魔法陣を展開していく。そして、そこから魔力の弾丸を撃ち放った。その一撃は手前で弱っていたドーベルマンの体を吹き飛ばし、さらにダルメシアンの体をも貫く。 「ガルルルル……」 爛々と目を光らせるボス。配下を1体失おうとも戦意を衰えることなく、リベリスタを敵視するのである。 ●増援に避難誘導、全力で応戦を! 開始からわずか1分。一の仲間がこの場へと駆けつけてきた。 「飛鳥、無事か?」 現れたリベリスタの男女ができる限り戦況の確認に努める。別の集団が仲間である一と共、E・ビーストに立ち向かっているのは理解したようだ。 ドーベルマンを抑えるソラは一度、ドーベルマンへと怪しく指先を向け、その精神力を奪い去った後、援軍2人へと呼びかけた。 「ちょっと手が離せないの、まずはあの子達の避難お願いできないかしら?」 三面六臂の働きを見せている。ソラの言葉だからこそ、援軍2人は彼女に従おうと決めた。2人は店の前で腰を抜かしている女子高生に駆け寄ってその体を抱える。 それを確認した涼乃は、師である一へと懇願した。 「師匠もこの子と共に避難してほしい。……こちらには仲間が居る。心配いりません」 一は思いもしない弟子の言葉に、豪快に笑って見せた。 「ならば、この戦い、お前の力で乗り切って見せろ」 一は少年を軽々抱え、あっという間に結界の外に出ていった。 さて、この場には未来から訪れたリベリスタ5人と、E・ビーストのみが残される。メンバー達の幾人かは、単体攻撃から複数攻撃へと攻撃手段を変える。それは、E・ビーストと化した柴犬も、攻撃対象とする為だ。 敵を直線で狙い、セッツァーの放つ魔力団がドーベルマンの体を穿つ。ただ、相手はエリューション。簡単には倒れてくれない。彼は己の体力を回復させつつ、配下の抑えを続ける。 女子高生を護っていた涼乃の影人も仲間の援護に向かっていた。配下のドーベルマンへと突撃を繰り出すが、配下の爪であっさりと薙ぎ倒されてしまう。 ただ、亜婆羅が業火の矢を悉く敵へと落とす。炎に焼かれて身もだえる獣達。影人を屠った配下がそれに耐えきれず、黒焦げになって地へと伏した。 自身に付いた火をあっさりと消し去ったダルメシアンはペロリと舌なめずりし、大きな口でエルヴィンにかぶりつく。 敵の一噛みに、血塗れになって耐えるエルヴィン。ホーリーメイガスである彼だが、その防御は仲間内では随一であった。 さらに、エルヴィンは詠唱を行い、その傷を呼び起こした癒しの微風で回復させることができる。 「俺が落とされるのが先か、仲間が他を倒して援護に来るのが先か。我慢比べは得意でね!」 ペロリとダルメシアンは舌を動かす。敵に張り合いを求めていたのか、目の前の崩れぬ壁にもそいつは臆すことなく、鋭く研ぎ澄ませた爪を振るうのである。 ボスは今だに健在。しかしながら、配下はというと度重なるリベリスタの攻撃に足元をふらつかせていた。 「さすがに飼い主の目の前で飼い犬を殺すのはちょっとね」 ソラは素早い動きで雷を撃ち放つ。時に、それは二度放たれ、配下の体を立て続けに焼く。ソラの拡散した雷は、ドーベルマンの体を黒焦げにし、ついに配下は地面へと崩れ去ってしまった。 そして、柴犬も。もはや雷に打たれて虫の息だ。 (あの子の道案内は私がすると決めた) 涼乃は柴犬の不運を占う。そもそも、E・ビーストとならなければ、少年とずっと生きられただろうに。彼女がその不運を嘆く間にも、柴犬の周囲に不吉な影が立ち込める。それらが一挙に柴犬に襲い掛かり、儚く命を散らせたのだった。 ●魔眼の力に逆らって 最後に残るダルメシアン。配下の亡骸を踏みにじりながらも、リベリスタへと向かい来る。弱者はいらぬと体で語っているかのようにも見えた。 傷つくリベリスタ達。しかしながら、相手は1体にまで数を減らしていた。 「後は楽よ、あたし達は討伐のプロなんだから」 亜婆羅は再度、魔力で構成した業火を敵へと撃ち落とす。 「全ての敵を燃やし尽くす! 骨禍珂珂禍!」 それがどんな敵であろうとも、彼女の眼前に立ち塞がる者全て。燃え上がる炎の矢を落とされた敵は苦しそうに身もだえる。 しかしながら、そう簡単に落ちてはくれないのが戦士級たるエリューション。体を炎に包まれながらも、ダルメシアンは怪しく目を光らせた。 エルヴィンは、刹那、その魔眼に魅入られた。強力な力に気圧され、エルヴィンの視界がぐらりと揺らぐ。 その時、彼の運命が燃え上がる。意識を完全に持ち直した彼は、ダルメシアンへと笑いかける。 「残念だったな!」 笑うエルヴィンだが、仲間は皆疲弊していた。とりわけ、序盤から前線で盾となるセッツァー、それに柴犬の攻撃を防いでいた亜婆羅の傷は深い。 ならばと、エルヴィンは『全ての救い』と呼ばれる魔術を組み上げる。それは、ボトムに起こりえないはずの奇跡。それが彼らの体を大きく回復させた。 繰り返されるリベリスタ達の攻撃。ダルメシアンとの激しい応酬は佳境を迎える。 鋭い爪に射抜かれたセッツァーは、魂を砕く虚無の手でその体を掴みとった。 「その魂が救われんことを……今解放して差し上げようっ」 巨体のダルメシアンではあるが、神秘の力で守られていたそいつにとっては痛い一撃。苦悶の声を上げて嘶く。 さらに涼乃が鴉と成した式符を飛ばす。狙い違ず飛んだ符は、ダルメシアンの怒りに触れる。これ以上やらせるかとそいつは大きく吠えた。 ソラは刹那大声に驚いてしまうが、ダルメシアンがこちらを見下ろしたのを見計らって指先を向ける。そして、そいつの残り少ない精神力を奪い去ってしまう。目から光を失って崩れ落ちる巨体。リベリスタ達はようやく息を掃き出し、戦いの終了を実感したのだった。 ●別れの前に E・ビーストは倒れ、ようやく街は落ちつきを取り戻す。 徐々に商店街に人の流れが戻り始める。E・ビーストの遺体は、リベリスタ達が回収してくれた。なお、柴犬の飼い主には、一が事情を説明し、うまく落ち着かせてくれたようだ。 訪れる別れの時。涼乃は一と改めて会話を交わすが、あくまで自身は別の世界の存在。 (この師の運命に悲しむべきはこの世界の私だ。私は既に満足いくまで嘆いた) だから、師へと最後にかける言葉は。 「いつか美味い味噌汁を作る。ですから、その日まで元気でいてください」 「おう!」 一は豪快な返事を行い、2人の仲間と去っていく。 (これくらいの欲張りは、許されていいよな……?) エルヴィンは束の間の再開を止めずことなく、最後まで見守っていた。 「8月13日に未曾有の危機が静岡東部を襲うわ。力を付けて、護って見せなさい」 亜婆羅がこの時代のリベリスタ達の後ろ姿を見つつ、意味深な言葉を残す。ふと、一達はこちらを振り返るが、メンバー達もまたその場から去ろうとしていた。 「ふん、なんであろうと、ぶっ潰すだけだ」 一は豪快に笑い、今度こそその場から去っていったのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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