●三尋木連合総会 二つの巨大なシャンデリアに照らされた、巨大な黒曜石テーブル。 卓を囲んでいるのは数にして数十名程度だが、人間の価値だけで言うならば数百倍……いや、数千倍の人数が並んでいると考えても、差し支えなかろう。 居並んでいる人間はそれぞれ警察官僚、有力政治家、有力医師会教授、一流財閥会長。それも表向きにはライバル関係にあるような組織の有力者同士が真向かいに並んでいるという異常な有様である。 それだけではない。テーブルの下座側には日本各国に点在する有力な極道組織の組長たちがごっそりと並んでいる。 雰囲気はさながら首脳会談のそれである。 が、その場を取り仕切っていたのはただ一人。 最上座にて、巨大な『三尋木紋』を背に座る若い女がいた。 彼女はカツンと水晶の灰皿をきせるで叩くと、 「今より、平成十一年度三尋木総会を開催する……とまあ、堅苦しいのはナシにしようかい。言いたいことをお言いよ、ぼうやたち」 室内全てを掌握するような声色で、そう述べた。 彼女こそ現代における主流七派が一派、三尋木連合会長。三尋木凛子である。 年齢は、この時点をもってしても不明である。 三尋木連合総会とは。 日本経済社会を裏から動かす様々な人間たちによる利益共同体が年に一度秘密裏に行なう会合である。 彼らは百年以上も前から違いの利益と立場を守るべく、利益と損失をお互いの間でコントロールし続けてきたのだ。 つまり、『永劫の現状維持』。 それこそが三尋木という組織の本質であり、1999年から現在2014年に至るまで変わっていないが……このときとの違いはひとつある。 「それじゃあまずは、アンタらの意見を聞いておこうじゃないか。声のデカい未来の総理候補に邪魔されたらたまらないだろう?」 テーブルの中央からやや下座側にて、向かい合って座る二人の老人に目をやった。 「九美上興和会会長、九美上久兵衛。紅椿連合会長、紅椿」 二人の老人はそれぞれ薄めを開くと、互いの顔を、特に目の奥を見やった。 この二人はそれぞれ、巨大フィクサード組織と巨大リベリスタ組織のトップである。 そう。 この三尋木連合とは、フィクサード、リベリスタ、一般人、そして僅かなアザーバイドが一体となった複合組織なのだ。 九美上と紅椿。彼らはこの時点で現在関東の闇を実質的に支配し、完全な競合関係にある。 先に口を開いたのは九美上の方だった。 「嫌みなマネをしやがる。まずは俺らでナシつけろってかい三尋木のおじょーさんよ」 「口が悪いぞ、九美上の。それにワシらとあの人じゃあ大して歳も違わんじゃろうが」 「俺があのくらい若作りしてた頃はなあ……ガハハ! 思い出すぜ、俺らが編隊組んで糞猫戦車をしらみつぶしにしたあの――」 「昔話をせいという意味じゃないわい。凛子ちゃんが言いたいのは天元の売買ルートのことじろうて……」 視線だけをやると、凛子は瞬きでそれに肯定した。 この場で軽挙妄動は許されない。彼らの発言ひとつが組織の行く末に深く関わってくるのだ。九美上はそれを盛大に無視しているようだが。 「そうさなあ、まずは……」 行儀悪く肘を突き、九美上が話を進めようとしたその瞬間、上座のほうから手が上がった。 「すみませぇん。その前にひとつよろしいでしょうか」 間の抜けた声色で、視線があつまる。 彼は警察官僚。それも日本という国家の中でかなり重要なポジションにいる人間である。 彼は手を上げたまま話を続けた。 「実はですねぇ。『ウチ』もそろそろ21世紀だってんで、新しい組織でも作ろうかってことになったんですわぁ」 「なんじゃい、話を遮ったと思ったら宣伝かい」 「まぁそう言わずにぃ」 警察官僚の男はニコリと笑って立ち上がった。 笑顔のまま、言う。 「公安零課、神秘対策係」 「「……」」 その場全体に、いや空気にびしりと亀裂が走った。 「今後はねぇ、フィクサードだろうがリベリスタだろうが、日本で法を犯した犯罪者は豚箱ぶち込もうって方針になったんですわぁ」 下座の一人が立ちがある。 「テメェ! そりゃ俺らに対する宣戦布告ってことになるぞコラァ!」 「知らねえよクズが」 警察官僚の男は左右非対称に顔を歪めると、懐から拳銃を抜き出した。 抜いた時には既に下座の男へ発砲している。 額から血を吹いて倒れる男。 「お前らの出来レースにはもううんざりだ。金と権力で好き放題犯罪行為を積み重ねやがって。まずはここにいる全員をしょっぴく。麻薬密売とその幇助を入り口にして洗いざらいぶちまけて貰う。でもってテメェらは沖縄あたりに新設する専用刑務所にぎゅうぎゅう詰めにしてやるよ。異論のあるやつ手ぇ上げろ」 一部の政治家が手を上げようとした瞬間、会議室の扉と窓が一斉に蹴破られた。 特殊急襲部隊に似た装備のE能力者たちである。 「手ぇ上げた奴から撃ち殺す。上げなかった奴は生かして逮捕だ」 つばを履き捨て、彼は唱えた。 「かかれ」 ●未来の守護者 時も場所も変わって、アーク・ブリーフィングルーム。 リベリスタたちをあつめ、フォーチュナの説明は続いていた。 「――このように、三高平市に特殊なリンクチャンネルが発生したのは知っての通りです」 特殊なチャンネル。 これは今までのような異世界めいたどこかへのチャンネルではなく、現在から数えて15年前の日本に通じているという。 正確には1999年7月の日本。つまりナイトメアダウンのおこる一ヶ月前である。 リンクチャンネルでタイムスリップなど聞いたことも無いし、こちらのチャンネルに影響があるかどうかすら定かでは無い。が、何もしないというわけにもいかなかった。 我々アークはこのゲートを通じて当チャンネルへ赴き、当時の組織と知己を結び、ゆくゆくにはナイトメアダウンでの被害を軽減することを目標とする。 「まあ、さすがに物知り顔で『ぼくは15年後のリベリスタですよ』と言ったところで信じないでしょう。私なら黄色い救急車を呼ぶ。が、相手の実力が当時存在しないはずの巨大な戦力を有していたとなれば話は別です。まずはその実力を証明すべく、当時のフィクサード事件を解決していきましょう」 事件の概要はこうである。 1999年7月、三尋木の主催する会合にて出席者のひとりがクーデターを起こし権力者三名を殺害。 しかし現場にいあわせた実力者たちによって取り押さえられ、その場で殺害されたというものである。 本来なら警察沙汰だが、クーデターを起こした本人が警察官僚だったことと、取り押さえた周囲の人間たちが政治的に強い力をもっていたため事件は明るみになること無く闇へ消えた。 「我々の目標はここで殺害される人間を『最初の一名』にまでおさえることです。突入の手はずは整えてあります。戦闘は、皆さんお得意でしょう。あとはよろしくおねがいします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月07日(木)22:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●1999年、7月 東京上空 一台のヘリが東京の空を飛んでいた。 ぼんやりとライトアップされた東京タワーが、眼下にそびえ立っている。 そんな光景を見もせずに、『ウワサの刑事』柴崎 遥平(BNE005033)はガリガリと頭をかきむしった。 「かぁーッ、ンだよケチくせえ。派閥が何だってんだチクショウ……!」 「ちょっとやめてよ! なにかヘンなもの飛んできたじゃない!」 藤代 レイカ(BNE004942)は遥平から心なしか距離をとって肩や腕を払った。 「根回しがうまくいかなかったの?」 「うまくいかないどころじゃねえや。零課なんて知らないし、公安にそんな動きはないとよ。警察お抱えの秘密組織ってわけだ」 「それなら話は早い。自称お巡りさんの犯罪行為をチクって確保してもらえばいい」 壁にもたれてキャンディをくわえる『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)。 「バカ抜かせ。表向きに対立関係にある政治家が仲良く会合してる場所に警察なんて踏み込んでみろ。所長の首がすげ変わっちまう。できたとして長官か警視総監くらいだ。いくら俺が当時若くてハンサムな捜査一課のエースだったとしても、そこまでのコネはねえやな」 喫煙の合図を出してから煙草をくわえる遥平。 かなり迂遠な説明になってしまうので割愛するが、仮にこれが部署間による管轄侵害であっても、証拠なしに権力を行使することはできない。コネクションと権力の代行は別のものと……今は認識しておいたもらいたい。 『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)も自分の煙草に火をつけると、ため息のように煙を漏らした。 余談だが、ヘリは通常禁煙である。運転している補助員 サポ子 (nBNE000245)が黙認しているだけだ。 「ま、仮に警察にコネがあったとしても『フィクサード集団捕まえてください』は無理があるんちゃう? というか……警察に会いたくない人ぎょおさんおるしな。先代とか」 「まさか九美上とタメはってたとは驚いたわよね。で、結局どうするの? よそ様アテに出来ない以上、私たちが自力で確保するしかないんだけど……って、はじめからそのつもりだったわね」 腕組みをして眼下の都市を見やる『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)。 同じく都市を見下ろして、カトレア・ブルーリー(BNE004990)はため息をついた。 「できれば、これ以上誰も死なせずに事件を終えたいものですが……」 間もなくして、目的地に到着した旨の報告と共にヘリのドアが開いた。 パラシュートもつけずに身を乗り出す『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)。 「ごたくは並べ終わったか? 所詮は人間の法律だ。神秘事件を縛れはしない。正直言って腹が立つ」 言うだけ言って、結唯はそのままヘリから飛び降りた。 「先に行くぞ」 「あいつ今回はよく喋るねえ。よっぽどトサカにきたらしい。っと、アタシらも行くよ。ビッグネームの会合にお邪魔しようや」 『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)もまたヘリから飛び出し、身体を丸めて急速落下していく。 強い風を切り分けながら、瀬恋はふと呟いた。 「しかし、あのアホはなんだってあの人外魔境に10人ぽっちで乗り込もうとしたんだ?」 ●東京某所ビル最上階 自由落下。 レイカは左右のヴェイルと瀬恋に合図を送ると、一足先に魔力羽を展開。落下スピードを和らげにかかる。 一方でヴェイルは羽を鋭角に開いて急速にカーブ。まるで砲弾のような勢いでビルの屋内、つまり三尋木連合総会が行なわれている会議室へと突っ込んだ。 一瞬三尋木凛子とすれ違う。 巨大なテーブルの表面を両足を拳で削りながら弧を描き、室内を今まさに『飛んでいた』銃弾に体当たりを仕掛けた。 「――っう!」 数にして十発。意識が軽く飛びかけ、よろめいたひょうしにその場にいた白いマントの男に衝突。もつれあって壁際まで転がった。 「だ、大丈夫かい君! 外から飛んできたようだが、怪我は!?」 「あなたこそ大丈……ん?」 ヴェイルが文字通り身体を張って庇ったのは、今回の事件で死亡するはずだったうちの一人『太宰府・雷蔵』である。 白いマントに覆面とサングラス。更にベルトにはシャネルの財布が装着されていた。なんだこの人。 「無辜の少女を傷付けるその所行、たとえ国家安寧の遂行者といえどもはや許せん!」 雷蔵はヴェイルを優しくその場に寝かせると、おもむろに銃を抜いて立ち上がった。 「伏せてろ馬鹿!」 そこへスッ飛んでくる機関銃射撃。そして瀬恋。 ラリアットをくらった雷蔵はもんどりうって倒れ、庇う形になった瀬恋の身体を大量の銃弾が通過した。 「痛……痛ってえ……!」 あやうく腕が吹き飛ぶところだった。指は数本無くなっている。 瀬恋は無事な手で銃を構え、今し方自分たちを撃った『零課』の突入部隊を見やった。 機関銃やロケットランチャーを普通に構えた、屈強なソルジャーの集まりであった。 「あんたそりゃ、強襲部隊の有様じゃねえだろ」 「そういうあなた方は何者です。見たところ一般人ではなさそうですが?」 お互い銃を向け合う形で、マジルは瀬恋たちを観察していた。 窓から静かに入ってくる椿。 「ほいほい、どぉもどぉも。うちらは箱――」 「見て分からぬか! 正義のために立ち上がる民のひとり……心ある市民であるぞ!」 そんな椿を庇うように立ち塞がり、勢いよく刀を構えた男が居た。 男というか、初老の鎧武者である。刀は構えているが、鞘に収まったままだった。 「あんた……」 「皆まで言うな。わかっておる」 今回の保護対象、『新習志野・虚数』その人である。 「いいえ、そういうわけには行かないんですよ」 一足遅れる形で部屋に入ってきたレイカが、虚数を更に庇う形で立ち塞がった。当然だが、こちらはちゃんと刀を抜いている。 「あなたたちを死なせないために来ました。『謎の武装勢力』とでも思って置いてください。信じてくださいとまでは言いませんが、あたしの近くに寄っていただけませんか? 太宰府・雷蔵さん。新習志野・虚数さん」 「ふむ……」 雷蔵はレイカの目を一秒ほど見つめたあと、こっくりと頷いて彼女の後ろに立った。 「君の目は真実を語る目だ。ここは信じようじゃないか、新習志野さん」 「太宰府殿が言うならば……」 やたら物わかりのいい大人たちにレイカは若干引いた。え、なにこの人紳士なの? と思った。 一方で。 「なんだいなんだい、坊やたちばっかりで楽しそうに。アタシは話に加えてくれないのかい?」 それまで黙って様子をうかがっていた三尋木凛子が優雅に顎肘をついたままで口を挟んできた。 何気ない口調であるにも関わらず、場が急に静まりかえる。 なぜなら、凛子の声のトーンがほんの僅かに下がったからだ。 「アタシの開いたイベントでここまでやんちゃしてくれたんだ。そのオトシマエを、どうやってつけてやろうかねえ……」 「お待ちください!」 ほとんど転がるような勢いで部屋に飛び込んできたカトレアが、両手を翳して凛子のそばに立った。 同じくして遥平、結唯、福松がそれぞれ別の窓から飛び込み、マジルや零課の隊員たちに銃を向ける。 無数の射線が交差する中で、福松はせわしなく首を巡らせた。 「武器をおさめろポリ共。オレ達はそこのお偉方に死なれちゃ困るんだ。三尋木、あんただけじゃない。九美上、紅椿、それにここにいる全員。ここはオレらに預けろ」 「言うじゃねえか小僧……」 立ち上がる九美上久兵衛。 それだけで福松の前身から脂汗が吹き出た。 「九美上興和会がこの場を預かってやる。ただし『この場』限りだぜ? 後からそこにいる連中が社会的に抹殺されんのはしょーがねー。そこまで面倒見れねえぞ」 「久兵衛……アンタ、そんなこと言っていいのかい? 修理代だけじゃ済まさないよ」 などと言いつつ、凛子は既に自分の椅子にどっかりと身を預けていた。側近の兵隊たちも控えさせている。 久兵衛の向かいで、紅椿が立ち上がった。 「ならワシが立ち会い人じゃ」 「なんだって?」 「どうもこいつらは他人の気がせんでの。ま、マジルの部隊に負けるようじゃったらワシらで始末をつけたらええ。ナンならワシがお縄を頂戴してもええわ」 「……ほう。それならいいでしょう。呑みますよぉ」 マジルも頷き、部下たちにアイコンタクトをとった。 ゆるゆると首を振る九美上。 「ケッ、大阪から出てきた奴はコレだからよ」 こうして、三尋木・九美上・紅椿の三人によって暗黙の舞台が整えられた。 手を出した者は社会的にも肉体的にも死ぬ。 そういう舞台である。 「では、はじめい」 ●公安零課 壁際に並んだ高価な壺が端から順番に砕け散った。 中身の水がはじけ、散った花が落ちる。 そのさなかを駆け抜けながら、結唯は銃を乱射した。 零課の隊員が突っ込んでくる。女性のようだ。 厄介なことに、隊員たちは相手の武装がバウンティショット系列だと分かった途端に個別に距離をあけ、敵味方入り乱れるように動き始めた。これでは自由に戦えない。 「……」 結唯はサングラスの内側で顔をわずかにしかめ、女の突撃を受け止めた。さすがにきつい。 「結唯さんふせとって!」 横から飛び込んでくる椿。 女の頭部を殴りつけると、そのまま首をごきりとへし折った。 崩れ落ちる女。 椿はすぐに前後反転。背後から機関銃で狙っていた男に銃弾を叩き込んだ。 一発、ではない。結唯の放った弾も同時にめり込み、男は右腕を失って倒れた。 「あ、礼はいらんよ」 結唯へ振り返って眉を上げて見せた、その途端。椿の首から上がはじけ飛んだ。 零距離でショットガンをぶっ放されたせいである。 「ン――がっ!」 フェイトを刻んで頭部を修復。回復した視界に見えたのはドアップになったスティンガーミサイルだった。 「むちゃくちゃや!」 椿を中心に爆発。 爆発の煙とほこりに紛れてヴェイルが飛び出した。 ショットガンの男に拳を叩き付ける。 「『頭』を最初に潰すなんて、よく訓練されてるじゃない」 が、殴るためではない。 零距離から大量の気糸を発射するためである。 身体を穴あきチーズに帰られた男はヴェイルに組み付くかたちで踏みとどまる。が、ヴェイルは構わず蹴りを叩き込んだ。真っ二つに折れて転がる男。 「カトレア。相手が各個撃破を狙い始めてる。燃費度外視でいいから回復弾幕を張って!」 「分かりました……けど、あと三分ももちませんよ!」 「分かってる、早く!」 チャージ補助によって高性能な回復を張り続けられるカトレアではあるが、さすがにデウスエクスマキナを連発するとなると難しい。 杖を握りしめて、カトレアは強く念じた。 「……誰も死ぬこと無く」 相手の練度を観察するに、零課の隊員たちはフェイト復活をしていないだけで生きてはいるはずだ。こちらがトドメをささない限り死にはすまい。 だが相手は、こちらが倒れたところへ容赦なくトドメをさしに来るだろう。だから、ここは無理をしなくてはならない。 「ンッ……」 回復の間は無防備だ。というより、回復に重きを置く人間は無防備だ。速度や無効化スキルで回復つぶしの対策をとっているカトレアといえど、その例外にはなれない。 早くもそれに気づいた隊員がカトレアめがけて機関銃射撃を集中させてきた。 「ブルーリー、伏せろ!」 間に割り込み、射撃を身体で受け止める福松。 「禍原さん……!」 「心配するな、オレは多少なりともタフにできてる」 とは言うものの、彼の身体は既に穴あきチーズ同然になっていた。 「機関銃だろ……? なんて命中精度で当てて来やがる……」 だがよかった。カトレアを庇っていなければ、彼女は今頃血煙と化していただろう。 さらなる機関銃射撃が浴びせられる。 福松は思いつく限りの罵倒を吐こうとして……やっぱり飲み込んだ。 さて、零課の隊員たちと福松たちがお互いの命を削り合っているちょうどその頃。 「お嬢さァん、そろそろ休憩したらどうです。下にオシャレなレストランがあるんですよ。よかったらそこへ行ってですねェ……」 マジルが虚数や雷蔵たちめがけて精密な射撃を繰り返していた。 しかも『精密でありながらアトランダム』という非常に読みづらい撃ち方である。 戦闘力の弱い虚数たちなどひとたまりもないが……。 「お気遣いなく。マジルさんこそ諦めたらどう?」 レイカはそうやって飛んでくる弾の全てを刀でもって弾いていた。 腕に響いてくるダメージが尋常では無いので、普通なら一分ももたない所だが、カトレアが入念に回復してくれるおかげでここまで持ちこたえていた。 が、つらいのはそこだけではない。 「なあアンタ。若いのにいい腕してるじゃないのさ。見込みがあるよ。うちで働かないかい?」 「ほっほっほ。まあ待ちいや凛子ちゃんや。ここはワシんとこで預かってじゃな……」 「紅椿テメェ! このオンナは俺が目ぇつけたんだからな? 強さだけじゃねえ、この腰から尻へのセクシーなライン。たまんねえなあオイ」 戦闘に参加しないからってレイカの後ろで茶を飲み始めた三尋木や九美上たちがいちいち絡んでくるのだった。 「コホン……君、秘書の仕事に興味は?」 「拙者の息子に嫁をと思ってるんだが……いかがか?」 さらには雷蔵や虚数まで絡んできてひたすら面倒なことになっていた。 「早く……早く終わって……!」 レイカは、心の底からそう思った。 戦いがもつれにもつれ、削れに削れた頃。 「面倒くせえ! まとめてしびれてな!」 遥平が銃を天に向かって発射。魔力の塊になって飛び出した弾頭がはじけ、部屋中をはねる雷に変わった。 隊員たちがひるんだ隙に瀬恋が突撃。 「なああんた、ありゃホントなんだろうな! どうなっても知らねえぞ!」 瀬恋は八岐大蛇を発動。オーラの塊を思い切り振り回した。 なぎ倒され、その場に転がる隊員たち。 と、一旦遅れてすとんと地面に着地する九美上久兵衛。 「ガハハ! 悪くねえ腕前だ、いい縄跳び遊びになったぜ!」 なんか見てるだけだと暇だと言い出して普通に戦場に飛び込んできた。攻撃してはいけないので避けるだけだが。何がしたいのか瀬恋にはさっぱりわからない。 が、これで零課の隊員はすべて片付けたことになる。 マジルを覗いて。 遥平は銃を突きつけたままマジルを追い詰めた。 「観念しろマジル。本庁のK党派にワタリをつけた。テメェの作戦にも圧力がかかるのも時間の問題だぜ」 手のひらを翳して別方向から翳すヴェイル。 「まさかここの大物軍団をひとりでしょっぴけるとは思ってないでしょ。撤収の手伝いくらいはしてあげるわよ?」 同じくガントレットを銃の握りにかえて突きつける瀬恋。 「つーか大体なんでこの戦力なんだよ。本気でやりてぇなら今の十倍、いや五百倍は用意しろ」 同じく銃を突きつける福松。 「まあなんだ。ご自慢の部隊も訓練が足りなかったようだな。大人しく引け、一時のプライドのために死ぬ人間じゃないだろ?」 全方向から銃口を向けられた男のやることは、当然両手をあげることだけと決まっている。 が、マジルは胸ポケットから取り出した煙草をくわえ、悠々とそれに火をつけた。 「なんか、勘違いしてませんかァ」 「なんだと?」 「ボクがやったのはですねェ、宣戦布告なんですよ。ボクぁ犯罪の証拠を山ほど持ってる。そいつを使っていつでもガサ入れができる。そしてその命令を下すのは、ボクじゃあない」 「……」 煙草をその場に投げ捨て、ようやくマジルは両手を挙げた。 「大体、もう目的はすべて果たしましたしね」 「笑わせるな」 突然結唯がマジルの顔面を殴った。 「法などで我々人外の存在が縛れるか」 「縛れますよォ? ここは日本で法治国家だ。人間の服着て人間のメシ食って人間の家に住んでるなら社会から逃げられない。崩界を阻止したいのは人間社会に依存してるからだ。違うか、アァ?」 「……」 マジルの襟首を掴み上げる。 「法律を舐めるな。テメェらもいつか傷害と殺人未遂で捕まえてやる。何十年かけてもだ。覚えてろよ」 「……遠野さん」 カトレアに手を添えられ、結唯は渋々マジルから手を離した。 部屋から撤収するために窓辺に立つ。 「そうそう紅椿とやら。次の組長をしっかりしておけよ」 「なんじゃ、急に?」 「まあまあこっちの話やから、気にせんといて」 椿も窓辺に立ち、ほんの僅かに振り向いた。 「あんた、うちのおじいちゃんに似とるわ」 「そうかい」 それだけである。 椿たちは迎えに来たヘリへと飛び移った。 遠くなる声のなかでかすかに、こんな言葉が聞こえた気がした。 『また遊びにおいで、椿』 気のせいだったのかも、しれない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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