●――だから、あなた方はここから脱出せねばならない。 一人の男に率いられ、今日も仲間達の一部が部屋を後にした。 揺ぎ無い、信頼しきった表情で。 残された仲間達も、やがて次々と『そこ』へ送り込まれて行くことを彼は知っていた。 だが彼は止められなかった。 「そうは言うがな」 数日に一度、仲間を連れて行くあの男に対して否定的な仲間は少ない。 「ここに居れば風雨は凌げる。馳走だってたんまりとあるじゃないか」 取り付く島もない。 「あいつらは召使いみたいなもんさ、そう悪く言うもんじゃない」 緩みきった表情で食事を貪る仲間達に、彼は戦慄いた。 これは平和ボケというやつだと、彼は思う。 だからもう一度訴えた。 「違う。違うんだ。 僕等はあいつに、あいつらに騙されてる。それなのに君等は信じようとしない。どうして!?」 「だいたい『そこ』ってどこだよ?」 「ねえ、考えすぎじゃない? あの人が私達に、ただの一つでも悪いことをしたことがあった?」 彼の言葉は、仲間達に次々に否定される。 昨日も、一昨日も、同じことの繰り返しだった。そんな日々が続いていた。 「そこから誰一人、帰って来ないのに……」 それでも仲間達は男を信じろと言う。ならばなぜ消えた仲間は戻ってこないのだ。 とはいえ、熱弁を振るう彼にとっても具体的な確証はない。 上手い説明だって出来なかった。 ならば、これは説得でもなんでもなく――予言でしかない。 彼が仲間達に説くのは、自分達の前に顔を見せる男は邪悪な組織の一員であるということ。 日々、どこかに連れて行かれる仲間は、恐ろしい場所につれていかれるということ。 ただ強烈な直感が、自分達は利用されているだけだと語っていた。 そして待っているのは死なのだと。殺されるのだと。どうしても信じて欲しかった。 夜半杉の月明かりが眩しい。 「仕方ないさ、あいつらは去勢された豚共だ」 「それも飼いならされた、な」 結局、分かってくれたのは、ただの四名だった。 「俺達だけでやろう」 その言葉が頼もしかった。 「厳しい戦いになるだろうな」 「でも、やるしかないさ。な、救世主さんよ」 仲間の一人が片目を閉じてみせる。決行は今夜だと決めていた。 「行こう……」 救世主は顎を上げ、前足を伸ばす。 ――ぶうぶう。 大きな決意は五匹の豚達に、いつの間にか不思議な力を授けていた。 蹄の先から迸る閃光に、豚小屋の壁が吹き飛んだ。 豚達のけたたましい鳴き声が夜空に響き渡る。 ●要するに。 「どんな熱弁を振るっても世間に信じてもらえないってのは、よくある話だよな」 今日も今日とて『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は切々と語る。 その内容は、正直言うと伝わらない。 「大抵は妄想の類だが、この話がちょっと悲しいのは、それが事実だってことさ」 アークのブリーフィングルームで語る伸暁を、リベリスタ達はなんとも言えない表情で見返す。 だってそこは、たぶんあまり重要な情報じゃないから。 「彼等――救世軍は世直しを計画していてな。決行日時はこれさ」 伸暁はポケットの中でくしゃくしゃになった資料を、テーブルに放った。 そうそう、これが欲しいんだよ。くしゃくしゃだけど。 リベリスタ達が資料に目を落とす。 伸暁の歯切れは妙に悪いが、事情は最初の映像からある程度飲み込めている。それらしい字幕付きだったし。 「悪役、買って貰えるかい?」 「いやその。なんか、ぶたを殺ってこいってことでしょ、つまり」 なぜ伸暁は、こんなにもアンニュイなのか。シンプルな依頼じゃないかとリベリスタ達は思う。 彼の家の冷蔵庫には、昨日購入した大量のソーセージが、ビールと共に眠っていることなんてリベリスタ達が知る由はなかった。 「一つだけ注意したほうがいいよ」 何かあったっけ? 「壊れた豚小屋から、豚が沢山出てくるかもな」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:pipi | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月20日(土)23:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●一日の始まりはベーコンから ぶーであるとか、Oinkであるとか。豚の鳴き声は聞く者によって千差万別であろう。 彼等の知能程度を考えれば、親しい者ならば感情の変化を捉える事も難しくはない。 とはいえ一般的な価値観で推し量るならば、もしくは科学的な考え方を行うならば、彼等の声は言葉と呼べるものではない。 まして理性的な交渉等出来ようはずもないわけである。 だが『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)は、彼等の発する音を確かに人並みの知性ある声として聞き分けることが出来ていた。 「落ち着いて聞いて欲しい」 雷慈慟の一言を聞いて落ち着けるのか落ち着けないのかは、時と場合によるだろう。 今回その『時と場合』は十分に租借吟味されている。 彼が一匹の豚を連れ出して密かに伝えたのは、この対話に関して敵意がないこと。そして外へ出てほしいという事。 つまり必要最小限のものだった。 対する豚の答えは素朴なものだった。問うたのは雷慈慟の目的である。その問いに雷慈慟は答えた。彼らしく簡潔に。 (一理ありますね) 豚が頷く。雷慈慟の理解では、そう見えた。豚は確かにそう言ったように感じられる。 余人には到底会話をしているようには見えないだろうが、それは確かに会話として成立しているのだ。 奇跡の対話を実現しているのは、互いが持つ神秘の力である。 「後は表で話す」 (わかりました) 豚の言葉に雷慈慟が頷く。豚――救世主にとって雷慈慟が信頼出来るかと言えばそうではない。 状況が状況である。さらに言うならば表面上は兎も角として、彼等は内心互いを不倶戴天の敵であると認識していた。 そんな状況で交渉が成立したのは、純粋な利害の一致に他ならない。 力を持たぬ仲間を傷つけたくないと救世主は考えていた。 それを読み取り、彼が飲まざるを得ない材料を提示することが出来たのはリベリスタ達の確かな成果だったのである。 救世主が使徒達を引き連れ入り口に戻ってくる。その姿に雷慈慟はもう一度頷いた。 ぶうぶう。 轟音が響くと同時に雷慈慟は走り出す。ほぼ同時に聞こえた音の数は、正確には三つだ。 「ヒャハハハハ! こんなもんかよ!」 巨大な盾形(Form Bastion)となったDesperadoを振りかざし、『人間魚雷』神守 零六(BNE002500)が高笑いを上げた。 一つ。狙い済ました彼の一撃で救世主は吹き飛び、もんどりうって二回転半した。 鍛え上げた力の実感に高揚するのは致し方ないだろう。奇襲に近いとは言え、並のリベリスタではこうは行かない。 もう一つは、救世主とその使徒を自認する豚達を引き剥がした巨大なエネルギーの音だ。 「さて。お前等には、ポークカツカレーになってもらう!」 物理的圧力さえ伴う『テクノパティシエ』如月・達哉(BNE001662)の思念の奔流が炸裂した。的確極まる連携である。 達哉の叫びは、救世軍の豚達にとって聞いたことのない言葉であった。だがその禍々しさは本能的に理解出来る。 突然の急襲と、思わぬ言葉に使徒達は戦慄した。 達哉はと言えば傲然と顎を上げるのみだった。彼は料理人である。即ち数多の命を捌いてきているのだ。悪役は上等である。 これまでの策によって救世軍ならぬ普通の豚達の暴走は防がれている。とは言えども豚達は数が多い。 数が多ければ、中には恐慌状態に陥った豚達も居る。 リベリスタの前に姿を現した豚達の背後に、『下策士』門真 螢衣(BNE001036)は術手袋(アメノコヤネ)に覆われた細い指をまっすぐに伸ばしている。 微かに紫電走る指先が指し示すのは、いずことも無く出現した巨大な錘であった。これが最後の一つ。 「今日は貸切です」 小屋はこれで完全に封鎖されている。 その全てを合わせて、準備は万端だったのだろう。普通の豚達がヒステリックに泣き喚いたとしても、小屋を脱出するには至らなかった。 更には、なまじ突破されたとしても、電撃のトラップとスパイスの香りが待っているのである。 かくしてリベリスタ達は戦場にエリューションだけを誘い出し、戦場を分断することに成功した。 まずは一息といった所だろうか。 ●前菜には生ハムを添えて 「フン……」 小さく鼻を鳴らして『機鋼剣士』神嗚・九狼(BNE002667)が剣を構える。 その横を駆け抜けるのは『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)だった。 その動きと共に、他のリベリスタ達も散開する。 エリューション達を分断する為に、各々が眼前に立ちふさがる作戦だった。 使徒の一体が九狼に体当たりを仕掛ける。鼻先に剥き出された牙が狙うのは内腿である。 「そう狙うか」 まともに受ければ出血は免れない。それを九狼は微かに頬を歪めて素早く跳躍んだ。 コンマ一秒に満たぬ回避劇の後、片手半剣の切っ先が震える。否――太刀筋は狙い違わず唯一つ。霞んで見えたのは刃の幻影だ。 「中々の突進だが」 予測済み。白刃は使徒の脇腹を走りぬけ、血風が夜空に舞う。それと同時に九狼が負ったのは小さな掠り傷に過ぎない。 九狼が考慮する打ち手は二つ。この幻影の刃に真空の刃だ。両者を比較して、より有効な打撃を放つ算段である。 「納得なんて、出来るワケないんだろうけどな」 『突撃だぜ子ちゃん』ラヴィアン・リファール(BNE002787)が神秘の力を一気に解放した。 彼女に続いて九十九が、『ウィクトーリア』老神・綾香(BNE000022)が、次々に己が力を高める術を身に纏う。 突進する使徒が、鋭い牙を剥いた。 「おおっと」 潜り込むような一撃を九十九は間一髪で避ける。ターメリック色の外套がひらひらと舞った。 「危ないですな」 振り返る雷慈慟と螢衣にも、次々と牙が穿たれる。 重く鋭い一撃は出血を伴った。 「さぁ、救世主サマよォ! こっちはこっちで楽しもうじゃねぇかッ!」 零六の挑発に救世主が吼える。 「逃げたら殺すぜ? 使徒含めアンタの同族も全部な! ヒャハハハッ!」 大地への祈りである事が雷慈慟には分かった。突如隆起した石槍が次々に零六を襲う。 巨大な盾で数本を叩き折り、機敏なステップでかわして行くものの、内二本が足元と背を抉った。 「へぇ……面白ぇ」 傷は受けたものの直撃ではない。 救世主の攻撃はある程度の範囲をカバーするものであるが、これはりベリスタ達の散開によって防がれている。 更に、切り裂かれた使徒を貫くのは立て続けに撃ち込まれる四種の閃光。これは見事に直撃して完全な効果を表した。 「この世は弱肉強食。俺達を倒すしかないんだぜ」 強烈な四重の不幸を浴びせたのはラヴィアンである。 救世主からなにやら激が飛んでいる。しかしそれに対するリベリスタ達の行動は迅速だった。 「賢すぎるのも罪らしいな、イレギュラー」 しゃくりあげの一撃で間が空いてしまった使徒とリベリスタに割り込むように、綾香が立ちふさがる。 その手に握られた錫杖から放たれる気糸が、集合を狙う使徒の鼻先を打ち付けた。 リベリスタの反撃が始まった。 乱されたリベリスタ達の陣形は、この様にして即座に埋め合わされる。 豚達は果敢なしゃくりあげを駆使して応戦するものの、全体として見れば思うように立ち回ることができていない。 思えば豚達は良くも人間の正体を察したものである。それは誇っても良いと螢衣は思う。 だが懸命なればこそ、人の反応も理解出来るだろう。ならば。 「せめて、美味しくなってください」 彼女等はリベリスタの責務を果たすだけだ。しなやかな指先に握られた符が次々と宙を舞う。 放たれた呪符は虚空で漆黒の鴉へと変化し、使徒を力強く啄ばんだ。ただの鳥の啄ばみではない。 高度な演算に裏づけされたその一撃は、剣にさえ勝る威力を誇っている。 「貴方達は一つ間違いを犯しました。それは、素手で戦いを挑んだことです」 九十九が引き金を引く。素晴らしい精度で撃ち込まれるスラッグ弾が、狙い違わず使徒の瞳に突き刺さる。 「身体能力では負けていますが、私達には武器や道具とそれを操る手足があります」 悲鳴をあげる豚に、雷慈慟が、綾香が、次々に気糸を撃ち込んでいく。 「こちらのほうが、より有効らしい」 さながら猪のように突進を続ける豚に、九狼が音速の一撃を放つ。鋭い突きに、使徒の喉元から夥しい血飛沫が上がった。 返り血を浴びることすら許さない。九狼の刃は速度を緩めず、豚の頭蓋の内から胸元までもを深く切り裂いた。 一体目の使徒が沈んだが、当然交戦は続く。 豚達の一撃一撃は強力で、リベリスタ達は次々に傷を負っている。 だが鍛え上げた体力と螢衣の守護結界、そして傷癒の呪符によって大きな損害は出ていなかった。 さらにラヴィアンの魔術によって、度々動きを妨げられる事も被害の軽減に十分役立っていた。 「俺のターン!」 高らかに腕を上げるラヴィアンの指先に集う魔光が膨れ上がる。 「魔曲、ぶち込むぜッ!」 これで二体目。 リベリスタ達の消耗は時間を追う毎に少しづつ大きくなって行くが、倒した分だけ消耗の速度は落ちている。 全ての使徒へ足止めを行い、一体づつ集中攻撃していく作戦は、着実に進行している。 彼等はエリューション達を確かに押していた。 ――使徒達との戦いに限っては、ではあったのだが。 ●メインディッシュの生姜焼き 個としてリベリスタの戦闘能力を大きく上回る救世主を相手にしては、いかに主人公と言えども苦戦は免れない。 放たれた電撃がリベリスタ達を焼き、光の奔流に奪われた視界では、零六と達哉の攻撃もなかなか致命傷を与えるには至っていない。 細かな傷をつけることは出来たものの、既に二人の被害は大きく、こちらは苦戦していると言える。 さらに達哉は二度までも回復を余儀なくされていた。 だが十二分に健闘する彼等を責めることは出来ない。このリスクも含めての作戦である。 戦況の行方は、いかに素早く使徒達を片付けるかに懸かっていた。それまで零六と達哉は倒れるわけにはいかない。 数が減れば力の天秤は一気に傾いていくものだ。九十九の一撃が豚の横腹に穿たれ、九狼の刃が傷口を尚も抉じ開ける。 相手の見かけはただの動物だ。それも豚である。率直に言ってしまえば間抜け面であるが、つぶらに見えるその瞳の奥には、静かな怒りと知性が渦巻いていた。 「我々は何としても貴君等を自由にする訳にはいかん……」 針の視線を受けた雷慈慟が小さく呟く。 平素はどこかぶっきらぼうに見える彼とて、元来獣達を傷つけることなど本意ではない。 それどころか獣達は彼にとって例外的存在である。 第一に、食肉用ではないとしても牧場等を経営していれば、たとえ神秘の力に頼らずとも豚の心の動きは分かる。 人間とて、仮に食われるためだけに飼育されていたならば。あまつさえそれを知ったらどう思うだろうか。 だから不釣合いな知性も、不幸せな事だとは思えなった。 しかし相手は豚に見えても、今や世界の敵(エリューション)である。崩界は食い止めるしかない。ゆえに、まずは目の前の相手を。 使徒が雄たけびをあげる。彼の耳には自由への渇望が聞き取れた。 「欲するなら、勝ち取るしかなかろう!」 火器を仕込む杖から放たれる気糸が、三体目の使徒を強かに貫く。三つ目の命が刈り取られ、夏の夜風に赤いマフラーが翻った。 「例え救世主であろうと……神たる僕の前では無力であることを思い知れ!」 それでもリベリスタ達の執拗な攻撃は続いている。達哉の気糸が救世主の足元に細かな傷をつけている。 彼の技量が劣るのではない。そこはむしろ正確無比と言ってもいいだろう。ただ、救世主が速いのだ。 革醒して日も浅いであろうとは言え、運命に愛されぬ存在が、その代償に得る能力というものは固体差が余りに激しい。 救世主が再び鼻を鳴らし、激しい大地の槍が零六を襲う。 螢衣と達哉が零六に治癒の術を放った直後ではあるが、それでも槍は次々と零六を追い続け、直後の直撃だった。 弾き飛ばされた零六が土壁に背を打ち付ける。 彼女の守りと癒しが無ければ、何人のリベリスタが同じ目にあっていたか分からない。行動は極めて有効に働いていた。 しかしそれでも、ままならぬこともある。 最後の石槍が零六を貫き、その背にゆっくりと聳えたのは細く長い――赤い赤いオベリスク。 リベリスタ達は、それを横目で捉えた。誰の目にも致命傷だった。 時間にすれば一瞬の出来事だったかもしれない。だが、それはゆっくりと、ゆっくりと見えた。 余りに……。 「……に」 うなだれた腕の先、掌が石槍を力強く掴む。誰かが生唾を飲んだ。 「豚如きに主人公が」 握り締められた石槍が砕け散る。 「倒されるはずねぇだろッ!!」 戦場に高笑いが響き渡った。 運命を歪めたのではない。主人公を主人公たらしめる何かが、そこに作用したのだろう。 力強く大地を踏みしめる零六が、大地に突き刺さる大盾を抜き放つ。 ●後は野となれカツカレー リベリスタ達が胸を撫で下ろすのも束の間に、最後の使徒が突撃をかける。 もはや陣を乱すことすら、考慮に値しないのだろう。豚が選んだのは単純明快な噛み付きだった。 「元来豚は賢い生き物だと聞いていたが」 血走った瞳で肩に牙を突きたてる豚を振るい落とし、綾香は後退する。 「そのうえ人間らしい、か」 僅かに苦い表情で綾香は肩を押さえる。流れる血が止まらない。腕に押された豊満な胸が形を歪めた。 涼しげな彼女の表情程に軽い傷ではない。だが、それで最後だった。 今度は救世主へと踵を返す綾香が、苛烈な攻撃を受けながらも放っていた気糸は、刹那のみ遅れて使徒の息の根を完全に止めていた。 刃が、銃弾が、次々に救世主を襲う。そしてその攻撃を弾き返すように雷が降り注ぐ。 今亡き使徒達が、攻防一体の魔曲によって攻撃の手を封じられたのは一度や二度ではなかった。それを成し遂げてきたラヴィアンがここで倒れた。 救世主と向き合いながらも、パーティ全体を支え続けた達哉も同様に崩れる。誰しも無傷ではない。厳しい戦いである。 だが。責任はまっとうしたと言える。 「概ね予想通りだった」 「貴方達はもっと人を知るべきだった・・・」 九狼の剣が救世主をなぎ払い、九十九の弾丸が瞳を貫く。 深い傷ではない。だが――狂声を上げる救世主の声を掻き消すように高笑いが響く。 「ヒャハハハハッ!」 絶妙なアシストになっていた。 「もっと頭が悪けりゃ長生きできただろうにな!」 逆境が男を強くする。紫電を纏うDesperadoが大きく振りかぶられた。 「死に晒せ、豚風情がッ!」 結局、彼等は最後まで仲間達の運命を尋ねなかった。 それでよかったのかもしれないと、雷慈慟はキセルを抜き放つ。 厳密に言えば、戦いが終わったわけではない。 ゆっくりと起き上がる達哉には、既に戦う力も残されていないが、告げようと思っていた言葉は伝えなければならない。 そこでようやく、四度目の轟音が戦いに終を告げた。 「そういうわけで祭りを開催する」 立ち上がれる程の傷でもない筈だが、達哉が静かに背筋を伸ばす。 「殺すからには残す所なく美味しく頂く。それが僕の信条だ」 異存ない提案だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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