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All that glitters――(光るもののすべてが――)

●All that glitters is not gold.(光るもののすべてが黄金とは限らない)
 ――英語のことわざ
 
●ザ・マン・イズ・ルックス・ニュー・リッチ
 
 2014 7月 某日 某時刻 都内某所
 
「絵一枚の為に随分とまあ、物々しい警備だな」
 とある資産家が住む豪邸の一室。
 そこで一人の男がそう口にする。
 
 余裕たっぷりな彼の笑い方はなんとも悪趣味だ。
 だが、それ以上に悪趣味なのは彼のいでたちだった。
 
 スーツから靴、果ては時計やアクセサリーに至るまで。
 どれもが絵に描いたような成金趣味だ。
 
 そんな彼を大勢の男達が取り囲む。
 そのいずれもが最新式の銃器と防具に身を固めた警備員だ。
 
 しかし、そんな状況でも成金趣味の男は余裕を崩さない。
 やおら彼は右手を軽く上げた。
 警備の男達の視線がその右手――正確には中指に嵌めた金色の指輪へと集中する。
 
 指輪は太くごつい意匠だ。
 派手な光り方と相まって、もはやけばけばしいを通り越して毒々しいまでの悪目立ちだ。
 これに比べれば、この男の衣服や靴の悪趣味さなどまだましと思えるだろう。
 
 すると男はもう一方の手を上着のポケットに入れる。
 取り出したのは高級そうな財布。
 彼は金色の指輪を嵌めた右手で財布に触れ、そこから何枚もの紙幣を取り出す。
 
「頼みましたよ。先生方」
 
 そう彼が呟いた途端、異変は起きた。
 彼が手にしていた紙幣は淡く光る粒子の群れとなる。
 次の瞬間、粒子は彼の前に集中し、人型の像を結ぶ。
 その数は三つ。
 現れたのは、淡く光る人影だ。
 
 日本古来の剣客。
 着崩したスーツとコートの殺し屋。
 中華風の上着にジーパンという格好の喧嘩師。
 
 三つの人影は圧倒的な強さで警備の男達を蹴散らす。
 そして、成金趣味の男は余裕の態度で部屋の奥へと進んだ。

「なるほど。富豪らしく保存状態は良好だな」
 
 彼は部屋の奥に安置されていた一枚の絵画を手に取ると、豪邸を後にする。
 警備員を蹴散らした三人の姿は、いつの間にか消えていたのだった。
 
●ア・リッチマン・ウィスパー・トゥ・プア・ボーイ
 
 翌日 某時刻 都内某所
 
 都内某所のリサイクルショップ。
 開店準備も終えて余裕のできた店員――富沢光は、カウンターから店前の道路を見る。
 道路を通るのは彼と同じ年頃と思しき、高校生達の姿。
 時間を考えるに、学校をサボってどこかに行く途中なのかもしれない。
 彼等の姿を見ながら、光はふと思う。
 
(あいつらと出会って……俺の生活は豊かになったのかもな)
 
 かつて彼の家庭は、両親の都合で財政が困窮し、一時的な離散を余儀なくされた。
 元通りに戻れる目途はあるものの、すぐにというわけにもいかない。
 
 その結果、彼はこの店に流れ着いた。
 本来ならば彼もまた、高校生としての生活を楽しんでいるはずの年頃なのだ。
 しかしそうもいかず、新たに学校へ転入はしたものの、あまり学校には行っていない。
 そんな状況を前に腐っていた彼にも転機が訪れた。
 学校で新たな友達ができたのだ。
 お調子者の男子と世話焼きの女子。
 時間が空く度、光は彼等と三人での時間を過ごした。
 
 ――彼等との出会いで、腐っていくだけの時間の中に光が見えた。
 光がそんな物思いにふけっていると、やおら客が現れた。
 朝も早くから来た客は、絵にかいたように悪趣味な成金風の男だった。
 
 客は商品を見ることもなく、一直線にカウンターへ歩み寄る。
 そして、見るからに高級そうな一枚の絵画をカウンターに置く。
 
 豪華な額縁に縁取られた絵はどこかの街並みを描いたようだ。
 描かれているのは夜景。
 だが、何もかもが黄金で作られたその街並みのおかげで、まるで昼同然に明るい。
 しかし、カンバスの一箇所に穴のようにできた塗り残しが、折角の名画をもったいないことにしている。
 
 この絵を見た瞬間、光はつい状況を忘れて見入ってしまっていた。
 慌てて我に返ると、光は絵と客を交互に観察する。
 
(……この人、売りにくる店間違ってねえか……?)
 
 そうは思っても、客である以上それなりの対応しなければならない。
 だが光が対応するよりも早く、客が口を開いた。
 
「君のことを聞いた時、実に適任だと思ってね。さて、この絵を完成させる為の手伝いをしてもらおうか」
 そう言って、客は光の腕を掴むと、強引に絵へと触れさせる。

「心配することはない。この絵の中に行けば、金ならいくらでも手に入る。君が欲しがってやまない金が、ね」

(な……この人、何言って……)

困惑する光。
それに構わず客はまくしたてる。
「だから君には、この絵の一部になってもらうよ」
 客がそう言うと、光の姿は消えていた。
 
●ア・ピクチュア・ハズ・ピープル・インサイド
 
 2014年 7月某日 アーク ブリーフィングルーム

「みんな、集まってくれてありがとう」
 アークのブリーフィングルームにて、真白イヴはリベリスタたちに告げた。
「今回はアーティファクト絡みの依頼だけど、それについてちょっと聞いてほしいの――」
 
 曰く、とあるアーティファクトが発見された。
 ――『“名画の泉”リオンドール』。
 そう呼ばれた画家が残した絵の一枚。
 リベリスタでもあった彼が、絵具のアーティファクトを用いて描いた絵だ。
 
「その絵には神秘の性質があるの。もっとも普段、それほど強力な効果は発揮しないけど。せいぜい、のどかな風景が描かれた絵なら見た人の気分が落ち着いて、熱気のある風景ならやる気が出たりする程度」
 リベリスタ達にそう語ると、イヴはあえて一拍の間を置いた。
「――でも、何らかの理由でその絵と波長が特別合った人が触れると、それ以上の力が解放されて、同時に絵の中へと人を取り込めるようになる。そして、波長の合う人を完全に取り込んだ時、絵はアーティファクトとして完成するの」

 驚くリベリスタたちに、イヴは更に告げる。
「予知と諜報部の情報によれば、先日、フィクサード――金城一成(きんじょう・いっせい)によって、とある富豪の家から一枚が強奪された」
 コンソールを操作するイヴ。
「一成は波長の合う人に目星をつけていたみたいで。ついさっき、絵にその人を取り込ませたこともわかったの。そして、これがその人――富沢光(とみさわひかる)」
 イヴの言葉に合わせ、モニターには少年の姿とプロフィールが映し出される。
 次いでモニターに映し出されたのは、黄金の都を描いた絵画だ。

「これがその絵――『彼方に光る黄金郷』。一成は絵を完成させてから奪うつもり。でもまだ間に合う」
 イヴは絵に取り込まれた少女とフィクサードの画像を順番に出し、手早く説明していく。
「光はまだ迷ってる。自分の欲しいものが大量にある『絵の中』にい続けるべきか、それとも『絵の外』に出るか」
リベリスタ達に向け、イヴは言う。

「一成も絵の中に入って光を説得するつもり。でもそれより前にみんなが光を説得できれば大丈夫。『絵の中にい続ける』と決めない完全に取り込まれてしまうことはないから」
 目線で問い返すリベリスタに頷くイヴ。
「完全に取り込まれる前に光が思い直せば無事に連れ戻すことができるし、絵も比較的安全な効果に戻る。その為にも、邪魔してくる一成を何とかしないとだけど」
 頷くリベリスタ達に向けてイヴは言う。
「一成はアーティファクトを収集しようとするフィクサードの組織――『キュレーターズギルドの一員。彼自身もアーティファクトを使った戦い方をしてくるから気をつけて」
 説明を終え、イヴはリベリスタ達を見据える。

「罪のない人を救う為にも、そして、フィクサードからアーティファクトを守る為にも――みんなの、力を貸して」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:常盤イツキ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年08月12日(火)23:31
 こんにちは。STの常盤イツキです。
 今回も皆様に楽しんでいただけますよう、力一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します。

●情報まとめ
 舞台は絵画の中の世界。
 今回は絵画の中に入った所からシナリオが開始となります。
 
 敵は金城一成と、彼がアーティファクトで召喚するE・フォースが7体。
 
 敵のスペックとスキルは以下の通り。

・スペック

『金城一成』
 そこそこの強さを持つフィクサードです。
 アーティファクト――『わがままな富豪』を所持しています。
 
『わがままな富豪』
 ごつい金色の指輪というデザインのアーティファクトです。
 金(現金や金品)を代償にE・フォースを召喚する機能を持ちます。
 召喚されるのは、生前に用心棒や殺し屋など『戦闘のプロ』だった者のE・フォース。
 彼等に複雑な命令を出すことも可能です。

・スキル

『プロ召喚』
 任意発動(A)自
 自分の金を代償にE・フォースを召喚します。
 召喚するE・フォースのタイプは三種類。
 同時に七体まで召喚可能。
 および、七体まで同時に使役可能です。
 たとえ倒されても、金がある限り追加召喚が可能です。
 ただし、金がなくなると……?

・スペック

『用心棒』
 刀で戦うE・フォースです。
 初期召喚数は三体です。

・スキル

『斬り払い』
 任意発動(A)自
 自分や近距離にいる味方への攻撃を斬り払い、一定確率で無効化します。
 物理攻撃に対して適用されます。

『斬り捨て』
 物近単(※)
 刀で斬る攻撃です。
(※)斬り払い成功後、相手が近距離にいる場合は一定確立で即座にこの技を使用可能です。
 
・スペック

『殺し屋』
 銃で戦うE・フォースです。
 初期召喚数は二体です。

・スキル

『撃ち落し』
 任意発動(A)自
 自分や近距離にいる味方への攻撃を撃ち落し、一定確率で無効化します。
 物理攻撃に対して適用されます。

『撃ち抜き』
 物遠単
 銃で撃つ攻撃です。
 
・スペック

『喧嘩師』
 拳で戦うE・フォースです。
 初期召喚数は二体です。

・スキル

『浸透勁』
 物近単
 拳を叩き込む攻撃です。
 標的の防御を一定量だけ無視してダメージを与えます。
(防御完全無効ではありません)
 
『激勁』
 物近単
 拳を叩き込む攻撃です。
 一定確立で標的を吹き飛ばします。
 
・スペック

『彼方に光る黄金郷』
 今回登場するリオンドールの作品です。
 絵の中の世界には、様々なものが黄金で作られた都市があり、光が取り込まれています。
 内部に入った者は金品への執着が増し、周囲に金品があることで快感を得ます。
 その心地良さに魅入られ、完全に取り込まれた者は、絵に吸収されて消えてしまいます。
 絵の中は約500メートル四方の空間で、絵に描かれている部分までしか存在しません。
 それより外に行こうとしても、見えない壁に阻まれます。
 絵の中の金品は『外』に出た途端に消えるので持ち出せません。
 
●シナリオ解説
 今回の任務は絵の中へと入り、光の説得と一成の撃退が目的です。
 一成はそこそこの強さを持つフィクサードですが、別に殺傷せずとも、ある程度までダメージを与えれば撤退していきますので、シナリオは成功となります。
 現在、光は絵画の中の世界に魅入られつつある為、『自分の意思で外に出てくるよう』説得する必要があります。
 
 なお、リサイクルショップの店番は光のみで、店の戸も開けっぱなしなので絵に近付くのに問題はありません。

 今回のシナリオも、クリア条件を満たす方法は一つではありません。
 リプレイを面白くしてくれるアイディアは大歓迎ですので、積極的に採用する方針ですから、ここで提示した方法以外にも何か良いアイディアがあれば、積極的に出してください。一緒にリプレイを面白くしましょう!
 今回も厄介な相手が出てくる依頼ですが、ガンバってみてください。
 皆様に楽しんでいただけるよう、私も力一杯頑張りますので、よろしくお願いします。

常盤イツキ
参加NPC
 


■メイン参加者 7人■
ハイジーニアスインヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
フライダークホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
ジーニアスソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
ジーニアスソードミラージュ
ルア・ホワイト(BNE001372)
ハイジーニアスホーリーメイガス
汐崎・沙希(BNE001579)
ハーフムーンホーリーメイガス
★MVP
綿谷 光介(BNE003658)
ジーニアスマグメイガス
柴崎 遥平(BNE005033)
   


「さて、富沢君。理解してくれたかね。ここには君の求めるものがすべてある」
 一成が光を連れてきたのは、『彼方に光る黄金郷』の中心に描かれた広場だ。
 都市の中心らしく周囲を建物に囲まれ、幾つものオブジェが立ち並び、中央には豪勢な噴水が鎮座する。
 そのどれもが曇り一つ無い純金製。
 ゆえに構造物それ自体が光源となり、黄金の輝きで周囲を照らしている。
 そのせいか、頭上に広がるのは夜空にも関わらず、広場は真昼のように明るい。
 
「さっきから君も感じているだろう? 大金を手にした時特有の高揚感を。ここにある金はすべて君のものだ。君がこの絵に選ばれた時点で、ここにある黄金は君の所有物なのだよ。さあ、好きなだけ所有したまえ。ただし、その為には君がこの世界に留まることを受け入れなくてはならない。さあ、この世界に――」
 
 だが、一成の言葉は中断された。
 最後まで言わせまいと、何者かが乱入したのだ。
 黄金の輝きに混じり、白銀の輝きが閃く。
「――そうはさせません」
 
 白刃を振るったのは『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)。
 疾風の如し速さで走り込んできた彼女は、一成へと刃を振るう。
 だが、その刃は直前で受け止められた。
 
 いつのまにか一成の傍にいた剣客によって、舞姫の一撃は斬り払われてしまったのだ。
「助かりましたよ、先生」
 舞姫に向けて勝ち誇ったような笑みを浮かべると、一成はおぼろげな姿の剣客に向き直る。
 そして、財布から紙幣を取り出す一成。
 彼が出した紙幣は光の粒子となって剣客の身体に吸い込まれた。
 
「光さん! そいつの言うことを聞いちゃダメです!!」
 舞姫は大声で呼びかける。
「お金が無いのは、本当にみじめで苦しい。金銭感覚が違えば、友達付き合いも難しい」
 打って変わって舞姫は静かな声で諭すように話し始めた。
「だから、「お金なんて」とは言わない。生きるためには、絶対に必要なものだから」
 
 割り込まれた当初は苦い顔をしていた一成も、舞姫の言葉を聞いてにやりと笑う。
 
「そうだ。その娘の言う――」
 ここぞとばかりに同調しようとする一成。
 舞姫はそれを一蹴するように言い放った。
「けど、それでも……」
 一度言葉を溜めた後、舞姫は光の目をまっすぐに見据えて言った。
「それでも、お金より大切なものはある。かけがえのない、何よりも大切な人はいる。あなたも、そうでしょう?」
 
 舞姫の問いを即座に否定できない光。
 彼へと更に訴えるように、舞姫は誰かを思うような目をしたまま告げる。
「……彼も、そうだった。だから、わたしは必ず、彼女を助けると約束したんです」
「彼……女……?」
 唐突に出た言葉を思わず問い返す光。
 だが、舞姫がそれに答えるより先に、黙していた剣客が彼女へと斬りかかった。
「……ッ!?」
 舞姫は愛刀黒曜で敵の刃を受け止めるが、防御がやっとだ。
 剣戟で舞姫が押されている。
 その事実だけで敵の技量の凄まじさが伺える。
 
 黒曜の刃を払われ、舞姫が斬られる瞬間。
 ――新たな白刃が閃いた。
 白刃の輝きは二条。
 その光条は花風を纏う。
 光条の一筋は凄まじい速度で剣客の刃を払って舞姫を救う。
 もう一筋はがら空きになった胴体を一閃し、剣客を斬り倒す。
 
「お金は生きていくために必要だと思うわ。それこそ何十億という人が貧困に喘いでる」
 光の粒子となって消えていく剣客を背に、『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)は光に告げる。
「たった一ヶ月の間だけど,私も弟に連れられて逃亡生活を送ったことがあるの」
 前置きし、ルアは続ける。
「お金もなくて食べるものも無くて。フリーのリベリスタに命を狙われ続ける恐怖。怖かった。自分が死んでしまうかもしれない事より。弟が窶れて殺されてしまう事が怖かった。それでも弟は私の手を離さなかったわ。絶対護るって言ってくれたの」
 非凡なほど可愛らしいルアの声。
 それが重々しく響くのに、彼女の過去の凄惨さを感じ取った光は息を呑む。
 彼に向け、ルアは泣き笑いのような儚い笑みを浮かべ、言う。

「と。いうのは嘘だよ。こんな私の話なんて信じなくていいの」
「え……? 嘘……?」
「でも。あなたにも、あなたの事を大切に思ってくれる人がいるでしょ? 腐ってたら怒られちゃうよ。本当に怒ってくれる人は、その人ときちんと向き合いたいから怒ってくれるの。好きじゃなきゃ、簡単に離れて行ってしまうわ。あなたの友達はあなたが居なくなったら心配すると思うの」
 
 ルアの言葉に耳を傾けながら、光は彼女と黄金の世界を見比べる。
「それでも、一生独りで居たいならここに残ってもいいよ。あ、もしかしたらあのおじさんが外からあなたの事を撫でまわしてくれるかも。良かったね!」
「俺は……」
「それが嫌なら私達と一緒に帰るよ!」
 
 光の手を取り、引っ張るルア。
 しかしながら、光の足は動かなかった。
 
 目ざとくそれに気付いた一成は、馬鹿にしたように笑った。
「健気だねえ。でも、その少年はどっちが得かわかってるみたいだけどな」
 笑う一成の左右に新たな二体の人影が現れる。
 現れた人影――殺し屋と喧嘩師はルアへと襲いかかった。
 
 殺し屋はまるで機械のような動きで拳銃を構え、発砲する。
 咄嗟にナイフを振るって銃弾を叩き落とすルア。
 その一瞬の隙をついて喧嘩師がルアの懐へと飛び込む。
 握った拳を放つ喧嘩師。
 拳がルアの腹部へと吸い込まれるまさにその瞬間、喧嘩師の身体が爆裂した。
 
『危ない所だったわね』
 妙齢の女性の声がルアに優しげな言葉をかける。
 もっとも、その声は肉声ではなく念話だが。
「沙希さん!」
 ルアが振り返った先には『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)がいる。
 喧嘩師を直撃した魔法攻撃を警戒してか、即座に殺し屋が銃口を沙希へと向け直す。
 発射された銃弾に咄嗟に反応した沙希は、光を庇うべくあえてそれを受ける判断を下した。
「お姉さんっ……!」
 沙希が目の前で被弾したのを見て、光は思わず声を上げた。
 すると沙希はゆっくりと振り返り、優しげな笑みを浮かべてみせる。
 そして、いつも念話で話す彼女にしては珍しく、口を開いて光へと語りかけた。
 
「Goldがそんなに綺麗にみえるわけ? くだらない……何気ない日常も友情もお金じゃ買えないでしょうに。おとぎ話でありがちなパターンでしょ?『目に見えるもの、光るもの全てが黄金とは限らないの』。さっさと目をさまして逃げるわよ?」
 光に言うと、沙希は一成に向き直る。
 くすくすと微笑む沙希。
 対する一成は渋い顔だ。
『どう? 嫌よね? 他人に心を読まれるのって』
 沙希は読心能力によって一成の心に揺さぶりをかけていたのだ。
 更に彼を揺さぶるように、沙希は念話で語りかける。
『あなたのような悪趣味フィクサードには黄鉄鉱――『愚者の黄金』がお似合いね。黄金ゆかりの絵画のアーティファクトは成程、珍品と言えるかもしれない。だけど其処に描かれた黄金郷は本当にgoldなのかしら?』
 
 沙希の挑発が効いたのだろう。
 一成は財布から紙幣をすべて取り出すと、両手で扇子のように持って叫んだ。
「黙って聞いりゃゴチャゴチャと……お前にはここにあるのが金以外の何に見えるんだ!」
 彼に怒りに呼応するかのように、紙幣が光の粒子へと変わっていく。
 
 召喚を阻止しようと舞姫やルアが動くが、超人的な銃捌きを見せた殺し屋に牽制され、あと少しの所で近付けない。
 更に殺し屋は手負いの沙希へととどめを刺すべく銃口を再び向けた。
 そして、トリガーが引かれる瞬間――。
 
「確かに金は金かもな。ただし、金は金でも絵に描いた金だが」
 どこかシニカルな含み笑いとともに現れた一人の男――『』柴崎 遥平(BNE005033)。
 背後から近付いてきた彼に、殺し屋は咄嗟に反応して振り返りつつ銃を向ける。
 一方、遥平も素早く銃を抜き放った。
 全くの同時、二人は互いに銃口を至近距離で突きつけ合う。
 
 互いの銃を持つ腕がクロスした状態で銃声が響く。
 重なり合う銃声はまったくの同時。
 だが、片や遥平は肩を打ち抜かれたもののなんとか生き残り。
 もう一方は眉間を撃ち抜かれ、光の粒子となって消滅した。
 
「よう、アンタが金城一成か。良いスーツだな。ミラノの最高級ブランドじゃねえか」
 遥平は煙草を一服すると、先程のシニカルな笑みを浮かべる。
「――服に着られる気分はどうだ?」
 対する一成も、小馬鹿にしたような顔で言葉を返す。
「ほう。わかってるじゃないか。この上着一着でそちらさんの着古したボロスーツが十着は買える。だが、肝心な所がわかってないな。俺が服に着られてるように見えるなら、あんたもまだまだだ」

 そして、余裕の表情で佇む一成の周囲に何人もの『プロ』が新たに召喚される。
 文字通り大枚をはたいて呼び出した『プロ』たちの存在感は圧倒的だ。
 
「さて、どうする?」
 余裕を見せつけるように言い放つ一成。
 その時、周囲の雰囲気が一変する。
「……!?」
 一成が異変に気付いた時には既に、『』四条・理央(BNE000319)の術式が完成していた。
「待たせたね。もう大丈夫。この一帯は、ボクの『陣地』だ。それと――」
 理央の背後には無数の人影が見える。
 それは文字通りの意味での『人影』――即ち、影人。
「単純な数の差ならそれほどでもないんじゃないかな。これだけ揃えるのに、少し時間がかかってしまったよ。みんなごめん」
 理央が引き連れた何体もの影人に、一成は余裕を忘れてたじろぐ。
 そんな彼に理央は言い放った。
「ああ、それと。もうここはボクの『陣地』。周りの金を召喚の触媒にはできないよ」
 歯噛みする一成。
 更に追い打ちをかけるように『ホリゾン・ブルーの光』綿谷 光介(BNE003658)と『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)も駆けつける。

「光様は黄金に惹かれるというよりは黄金がもたらすかもしれない幸福。もっと言えば過去をやり直す切欠に惹かているのではないのですか? 黄金も、世の金銭も、突然現れるモノではありません」
 優しげに語りかけながら、シエルは癒しの力を準備する。
「今手にある幸せを続けていくために本当に黄金は必要なのですか? 黄金や金銭が人に安心感をもたらすことは否定しません。されど『何故其れを求めるのか』……思いだして下さいまし」
 準備を終えたシエルは光介へと向き直った。
「光介様」
「シエルさん」
 一言と一瞬の目配せの後、二人は癒しの力を発動する。
 二人が力を合わせたおかげで、仲間たちの傷はみるみるうちに癒えていく。
「ありがとう、シエルさん。力を合わせてくれて助かりました」
「光介様となら……幾度も心通わせ戦闘中に術を重ねてきました……息を合わせるのはお手のもの……でございます」
 一気に危機を脱したリベリスタ達を前に一成が鼻白む。

「先生方、やっちまってください」
 一成の言葉を合図に、『プロ』全員が動き出す。
 対するリベリスタ達も果敢に応戦する。
 
 めまぐるしく動く状況に圧倒されている光に向け、遥平が語りかけた。
「よう、ここは眩しいな。人が生きるには金が必要だ。それを求める気持ちは誰にでもある。けどよ……こんな絵の中で大金持ちになったとして――その金、何処で何に使うんだ?」
 老成した口調はまるで諭すようだ。
「金しか無いこの絵の中じゃ、その金で何も買うことは出来ない。それに、心の繋がった友達ってのは、金で買えるものじゃないのさ。人の心は金で買えない。欲望を動かすことはできても、な。良い絵じゃないか、『彼方に光る黄金郷』が『絵』空事だっていう、リオンドール一流の皮肉が光る一枚だな」
 光の前に立ち、背中を見せながら遥平は語る。
「月並みな話だが……金じゃ買えない価値があるのさ」
 
 続いて影人を指揮する理央が光に語りかける。
「黄金に囲まれた世界。人によっては永住したい楽園には違い無さそうだね。ボクは真っ平ゴメンだけど」
 光を見つめ、理央は問う。
「富沢君、説得する為にも君の情報はある程度集めたよ。ここの金は外に持ち出せば消える幻。幻に浸って朽ちるのも一つの選択だけど、君が金を求めた理由は何かな?」
「お、俺は……金さえあれば……昔みたいな生活を取り戻せると……思って……。ここには……金ならたくさん……あるから」

 そう光が答えたのを聞き、光介が言葉をかけた。
「光さんの葛藤は、ボクのそれと幾分重なる気がします」
「重なる……?」
「天秤の一方には失われた家族。ボクは死に別れだけど、取り戻す『手段』を見せられたら抗い難いのは同じ。天秤の一方には今築かれつつある絆。光さんにとっては二人の友人。ボクにとっては恋人や戦友。それは喪失感の中に芽吹いた、別種の幸せの芽なんです。たぶん葛藤の本質はお金じゃない。だからこそボクらは……語り合えると思うんです」
 周囲の金品を見渡しながら光介は言う。
「遠回りせず家族を取り戻せる。その『可能性』はやっぱり魅惑的だと思うんです。いくら友人との今が大切でも、話は少し別というか。ボクもこの種の幻想世界で、吐くほど選択に苦心したことがあります。でも、無理にでも天秤を傾けるとしたら……未来を選びたい。ボクはその時そう思ったんです。幸せの芽はこれからも育つから。今の喪失感はきっと肥やしに変わるから。未来はあちら側に――外の世界にあるから」
 光介は光に向けて微笑む。
「綺麗事。でも同じ『光』を冠する者同士。一緒に信じてみませんか? 先に続く光を」
 
 言い終えた直後、剣客の一体が光介を斬りつける。
 深手を負いながらも、光介はすぐに傷を癒して再び立ち上がった。

「なんでだよ……! どうして、俺なんかの為にそこまで……!」
 見れば光介以外の面々も傷だらけだ。
 シエル、沙希、光介の三人が癒しているものの、相手は一体一体が強敵で数も多い。
 誰もが今にも倒れそうな状況だ。
 
「なんでか……ですか? それは――」
 慟哭するような光の声に答えたのは舞姫だ。
 敵の狙いを自分一人へと引き付け、囮役を担う彼女は満身創痍だ。
 敵は全員が戦闘の達人。
 もはや凌ぐだけで精一杯の中、舞姫は叫ぶ。
「――あなたに生きてほしいからです!」
 舞姫の言葉に思わず聞き入る光。
 その間にも舞姫は再び叫んでいた。
「みんな――今です!」
 
 その言葉で仲間達は一斉に動き出す。
 舞姫に群がった敵へと放たれる一斉攻撃。
 舞姫ごと狙った容赦のない総攻撃はさしもの強敵たちといえども、しのぎきれない。
 その中にあって舞姫は、とてつもない境地に達した速さでもって、紙一重の所でどうにか切り抜ける。
 とはいえ、無傷というわけにはいかず、立っているのが不思議なくらいだ。
 
 総攻撃の効果は凄まじく、あれだけの強敵が一人残らず殲滅されていた。
「う、嘘だ……」
 一成は狂乱しながら財布を開く。
 しかし、既に中には小銭の一枚もない。
 焦った彼は時計やアクセサリー、果ては上着やネクタイ、靴までも光の粒子に変えた。
 再び現れる何人もの『プロ』。
 それを見て、一成は余裕を取り戻す。
 
「リベリスタの馬鹿さにはほとほと呆れる。大金を貰うわけでもないのに、なぜこんな任務一つに命をかけられる?」
 多数の『プロ』を前に疲弊したリベリスタ達は押されていく。
 
「魔力よ……廻れ」
 シエルの癒しの力が仲間の傷を癒す。
 たとえ窮地に立たされても、シエルは仲間を癒すことをやめない。
 そのおかげで、リベリスタ達はまだ立ち続けられるのだ。
 
 激しい戦いの中、かろうじて持ちこたえながら遥平が言う。
「さっきも言ったろうが。月並みな話だが……金じゃ買えない価値があるのさ」
「だから馬鹿だと言っているんだ。さあ、先生方。とどめを――」
 一成が遥平の言葉を切って捨てた直後、異変が起きた。
「……? どうした先生方? 早くとどめを!」
 数人の『プロ』たちは全員、一斉に動きを止める。
 そして、剣客は刀を鞘に納め、殺し屋は拳銃を内ポケットに仕舞い、喧嘩師は両手をポケットに入れた。
 
 彼等がした『依頼料分の仕事』。
 それが終わるまで耐えきったリベリスタの勝ち――それを一成が理解した時、既に勝負は決していた。
 
 追加で金を出そうにも、既に一成にはもう金はない。
 察したのか、『プロ』たちは光の粒子となり、去るように消えていった。
 
「私達の勝ちです」
 たった一言告げた後、超高速の峰打ちを放つ舞姫。
 舞姫の峰打ちを受けて一成は気絶した後、捕縛。
 光も無事保護された。
『絵』の出口まで来て、ルアは最後に光へと問いかける。
「どうする? やっぱりこの世界がいい?」
「俺は元の世界に帰るよ。大切なものが、わかったから」
「さあ、強く願って。友達と一緒に居たいって。それがあなたの得た心の糧(ひかり)だよ。ずっと大切にしてね」
 大きく頷き、絵の外へと光は一歩を踏み出す。
 絵の外へと出た彼の晴れやかな表情は、まさに黄金のように輝いていたという。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者各位

 この度はご参加ありがとうございました。STの常盤イツキです。
 
 今回のMVPですが、『自分の体験と重ね合わせて親身に説得した』綿谷 光介さんに決定致します。
 そしてご参加頂きましたリベリスタの皆様、今回も本当にお疲れ様でした。
 どうぞごゆっくりお休みください。

 それでは、次の依頼でお会いしましょう。

常盤イツキ